説明

害虫防除装置

【課題】農作物栽培圃場における防虫技術を提供する。
【解決手段】圃場80の超音波防虫システム10は、複数の超音波発生装置20と、それらを制御するシステム制御部30とを備える。システム制御部30は、システム通信部32を有し、そのシステム通信部32を介して超音波発生装置20の動作を制御する。超音波発生装置20は、振動素子22と、出力制御部24と、通信部26とを備える。出力制御部24は、パルス出力部28と変調制御部29を備える。変調制御部29は、パルス出力部28のパルス出力に対して、周波数をスイープさせたパルス変調を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除装置に係り、特に超音波を用いて害虫の防除を行う害虫防除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農業生産現場においては、自然環境に調和し、持続的な生産を可能とする農業技術の確立が課題とされ、特に、農作物の病害虫防除に対しては、農薬に過度に依存しない、環境保全的な防除技術の開発が要望されている。さらに、消費者からは、食品の安全及び安心の確保について強い要望がある。言い換えると、農作物の生産現場に対して、可能な限り農薬使用を抑えて安全で安心な農作物が提供するよう要望されている。
【0003】
ところで、近辺の雑木林や雑草地が飛来性害虫の生息地となっている果樹園や野菜畑等へは、生息地からそれらの害虫が飛来し、果実や作物体に大きな被害を与えている。特に、ヤガ類が生息する雑木林に近いモモ、ナシ、リンゴ等の果樹園では、ヤガ類が園内に夜間に飛来し、収穫前の果実を吸汁することにより、大きな被害が発生している。一般に、このようなヤガ類の果実被害を防ぐためには、防虫網が用いられている。これは次の理由による。つまり、ヤガ類が近隣の雑木林で繁殖し、成虫が夜間にのみ果樹園へ飛来して加害する。このため、農薬散布による防除が現実的な作業として困難であるという背景のためである。また、野菜畑等でも、夜間に飛来し、野菜上に産卵するタイプの害虫については、幼虫には農薬による防除が有効である。しかし、夜間に飛来する成虫については農薬散布による防除が困難であり、作業現場における防除負荷が大きくなる要因となっている。
【0004】
ここで、果樹を加害するヤガ類への一般的な防除技術について簡単に述べる。上述のように、果樹園の周囲に防虫網を設置する方法が広く用いられている。しかし、防虫網は、支柱を含めた設置のコストが高いこと、管理作業等で作業性が損なわれること、さらに、気象災害(台風等の強風害や雹や積雪による過重での倒壊など)に弱いこと等の課題がある。
【0005】
また、夜間に飛来し、花卉や果実から吸汁により加害するヤガ類は、黄色光が一定照度以上である空間に進入しない特性(忌避特性)を有する。そこで、施設園芸(主に花卉)や果樹園(主にナシ)において、黄色光を発光する蛍光灯や高圧ナトリウムランプ等を用いたヤガ類の加害回避技術が導入されている。
【0006】
さらに、害虫の雄と雌の誘因に介在する性フェロモンを用いた交信かく乱技術あるいは害虫の個体を誘引して捕殺するフェロモントラップ等も普及している。しかし、誘引源となる性フェロモンはそれぞれの害虫の種類で個別のものであり、利用可能な害虫の種類は限られている。
【0007】
そこで、上述の課題を解消すべく超音波を用いた害虫忌避技術が提案されている。例えば、ガ類が超音波を感知した場合にとる忌避行動に関する研究(Roederら、1975、Hoyら、1989、Millerら、2001)が知られている。この研究では、ガ類は超音波を感知した際に忌避行動をとることが明らかにされ、超音波の強度や方向等によって忌避行動が変化することも確認されている。また、ガ類以外の甲虫やハエ等も超音波に対して忌避行動を示すことが明らかにされている。
【0008】
また、超音波を用いた害虫忌避技術として、害虫の天敵であるコウモリの発生する超音波を擬似的に発生させることによって、野菜畑に害虫が寄り付くのを防止する技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術によって残留農薬や農薬散布の害の軽減を図るっている。さらに、効果持続のために超音波発生をランダムに行うことによって虫の慣れを抑制している。
【0009】
さらに、コウモリの音声の特徴を利用した防虫装置として、周波数が減少する期間又は増加する期間を含む超音波信号を出力する技術が開示されている(特許文献2参照)。この技術によって、人体への悪影響を軽減しつつ、建物内での作業性を損なうことなく、効果的に防虫するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−48717号公報
【特許文献2】特開2003−304797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述の害虫忌避技術は一定の効果を実現にしているものの、いくつかの課題が残っており別の技術が求められていた。つまり、防虫網を用いる技術では、支柱を含めた設置のコストが高いこと、管理作業等で作業性が損なわれること、気象災害(台風等の強風害や雹や積雪による過重での倒壊など)に弱い事等の課題があった。
【0012】
また、黄色光に対する忌避作用を利用して、黄色蛍光灯や黄色高圧ナトリウムランプ等を圃場あるいは園芸施設の周辺や内部に設置する方法は、黄色光に対する忌避特性をもつ昆虫の防除としては有効である。しかし、黄色光に誘引特性をもつ害虫(一部のカメムシ類等)も存在するのでそれらに対しては別途対応が必要となり別の技術が求められていた。また、一つの光源で防除できる圃場面積は限られるため、圃場の規模に比例して設置コストが増加するという課題があった。
【0013】
交信かく乱技術やフェロモントラップを用いた技術では、誘引源となるフェロモンが実用化(市販化)されている害虫に限られるという課題があった。
【0014】
コウモリの発する超音波に類似した音波を発信して害虫忌避する技術については、基本的な研究は提案されているものの、実際の果樹園や野菜畑等の農作物栽培圃場への侵入を阻害するために必要な超音波発信源の設置や利用の方法については何らの技術も開示されていない。つまり、特許文献2に開示の技術は、主に建築現場における防除技術であり、比較的短期間の使用を目的とする。一方で、農業分野においては、数年以上の圃場等への導入が想定されており、ヤガ類の超音波に対する慣れ(麻痺)の発生が課題となっていた。そして、本発明者は、建築物の建設期間においては、慣れに対して十分が効果が発揮できても、圃場における継続使用では、上記効果が低減することがあるという知見を得るに至った。そのような観点から、果樹園や野菜畑等の農作物栽培圃場関係者からは、実際に導入するに際して必要とされる技術に対する要望が強くあがっていた。
【0015】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、農作物栽培圃場における防虫技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る装置は、コウモリが発する超音波の波長領域を有する出力パターンを、第1のパルス継続時間の超音波出力を1パルスとする第1の超音波パルスを第1の周波数領域で出力するパターンと、第2のパルス継続時間の超音波出力を1パルスとする第2の超音波パルスを第2の周波数領域で出力するパターンとを含んだ出力パターンとして繰り返し出力するパルス出力手段、を備える。
また、前記第1又は第2の超音波パルスの超音波出力の一方に、前記第1及び第2の周波数領域より高い周波数によるパルス変調を施す変調手段を備えてもよい。
また、前記変調手段は、前記第1又は第2の超音波パルスの超音波出力の両方に、前記第1及び第2の周波数領域より高い周波数によるパルス変調を施してもよい。
また、前記変調は、前記パルス変調の前記周波数をスイープさせてもよい。
また、前記第1の周波数領域は、2.0〜6.6Hzであってもよい。
また、前記第2の周波数領域は、20.0〜33.3Hzであってもよい。
また、前記パルス出力手段は、前記出力パターンに含まれる前記第1の超音波パルスと前記第2の超音波パルスの各パルス周波数を変更可能であってもよい。
また、前記パルス出力手段は、前記超音波の出力の大きさを変調させてもよい。
また、防除対象を検知する検知手段と、超音波発信手段を動かす可動手段と、前記検知手段の検知結果に応じて、前記超音波発信手段及び前記可動手段の動作を制御する制御手段と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、農作物栽培圃場における防虫技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る、超音波パルスの出力パターンを示した図である。
【図2】実施形態に係る、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルス持続時間と反応閾値との関係を示したグラフである。
【図3】実施形態に係る、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルスパターンと反応閾値との関係を示したグラフである。
【図4】実施形態に係る、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルスパターンと反応閾値との関係を示したグラフである。
【図5】実施形態に係る、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルスパターンの組み合わせと反応閾値との関係を示したグラフである。
【図6】第1の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図7】第2の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図8】第3の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図9】第4の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図10】第5の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図11】第6の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態(以下、単に実施形態という)を、図面を参照して説明する。
本実施形態では、害虫、特にヤガ類に忌避効果のある超音波を発生する振動素子を、農作物栽培圃場または施設の周辺ないしは内部に複数個設置するシステムについて説明する。さらに、出力する超音波は、防除効果の高い出力パターンとする。具体的には、コウモリの発する超音波に類似した音波を用いるとともに、異なる周波数領域の超音波パルスで構成される出力パターンを繰り返すことで慣れ防止を施すものである。なお、以降の実施形態では、主に夜間における害虫の防除を想定しているが、昼間の害虫の防除にも適用可能である。
【0020】
<基本技術>
まず、基本技術として、本実施形態で用いる超音波パルスの出力パターンについて説明する。図1は、本実施形態において用いる超音波パルスの出力パターンの典型例を示す。コウモリの発する超音波パルスは、エコーロケーション時の持続時間の長いパルス(数Hz)と、採餌行動時の持続時間の短いパルス(数十Hz)とから構成されている。ここで、エコーロケーション時の持続時間の長いパルスの周波数を、便宜的に第1の波長とよび、第1の周波数領域によるパルスを第1の超音波パルスと呼ぶ。同様に、採餌行動時の持続時間の短いパルス(数十Hz)の周波数を第2の周波数領域とよび、そのパルスを第2の超音波パルスと呼ぶ。
【0021】
図示のように、第1の周波数領域の期間では、数Hzのパルスを出力する。より具体的には、2.0〜6.6Hzの範囲が好ましい。また、第2の周波数領域の期間では、数十Hzのパルスを出力する。具体的には、20.0〜33.3Hzの範囲が好ましい。また、第1及び第2の周波数領域の出力継続時間として、4秒未満がよく、さらに1〜3秒がより好ましい。第1及び第2の周波数領域の出力継続時間は、それぞれ異なってもよい。
【0022】
さらに、各パルスは、50〜20kHzの範囲でスイープさせたパルス波形による変調が施されていてもよい。図1では、43kHzから39kHzに向けて、徐々に周波数を低くするスイープがなされている。なお、スイープの周波数の範囲は、上記例に限らず、例えば、上記より高い範囲の50kHzから40kHzといった範囲でもよく、また、30kHz〜20kHzといった範囲でもよい。この範囲は、防除対象となるヤガ類の種類や地域に応じて効果的なものが選択される。
【0023】
図2〜図5に、上述のヤガ類忌避に適した超音波パルスパターンを導出するに際して行った実験結果を示す。ここでは、ヤガ類として、ヒメエグリバ及びアカエグリバについて実験を行った。実験方法は、ヤガ類の胸部を、アルミ棒(直径3mm長さ50mm)の先端に、粘着剤と固定した4本の銅線(直径0.4mm)を巻きつけることで固定した。そのアルミ棒は、アクリル製のホルダーに止めて、蛾の肢が中に浮くよう、スタンドに固定した。胸部と腹部に記録電極を刺入し、導出した筋電図は入力箱を経て、生体電気用アンプ(日本光電社製 AVB-10)に接続し、さらにオシロスコープ(日本光電社製VC-10)を経て、ペンレコーダー(日本光電社製WI-641G)で記録した。
【0024】
図2は、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルス持続時間と反応閾値との関係を示したグラフである。飛翔行動中のヤガ類に、種々の持続時間の超音波パルス(周波数は40kHz)を、音量を徐々に大きくしながら聞かせて、反応閾値を測定した結果である。具体的には、図2(a)はヒメエグリバについて、図2(b)はアカエグリに関して、40kHz超音波パルスの持続時間と反応閾値を示している。パルス持続時間は、1,3,5,8,10,20,40,80,120,150,200(msec)であり、それぞれに対する反応閾値(dB)を示している。パルス頻度は、2Hzであり、N数は5である。例えば、パルス持続時間10msecとは、40kHzのパルスを10msec間だけ出力する。そして、1秒あたり2回出力する。反応閾値が低いほど、小さな出力の超音波パルスに反応を示していることを意味している。つまり、反応閾値が低い条件を用いることで、ヤガ類の忌避が高いことを意味する。
【0025】
本実験から、ヒメエグリバではパルス継続時間8〜20msecの条件において、反応閾値は低いことが確認できた(図2(a))。また、アカエグリバでは、40msec以上のパルスの反応閾値も5〜20msecの値と同レベルに低い値となっている(図2(b))。これらことから、複数種のヤガを対象とする場合、持続時間8〜20msec、より好ましくは10〜20msec、さらにより好ましくは10msecのパルス出力が効果的であると判断できる。
【0026】
図3は、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルスパターンと反応閾値との関係を示したグラフである。上述のように、ヤガ類は超音波に反応するが、刺激を繰り返すと反応をしなくなる、いわゆる「慣れ」の現象が生じる。同じ40kHzの超音波であっても、連続音よりもパルス状に与えたときの方が、慣れは起こりにくく、さらに、繰り返し刺激の時間間隔が長ければ慣れは起こりにくいという知見がある。そこで、10秒間のパルス刺激(パルス持続時間20msec、パルス頻度20Hz)を1分間隔で作用させた場合(図3(a))、及び5分間隔で作用させた場合(図3(b))の反応閾値を計測した。図示のように、刺激間隔を5分とした場合、回数が増えた場合でも反応閾値の上昇は見られず慣れがほとんど発生していないこと、また、刺激間隔を1分間とした場合に慣れが発生していることが確認できた。
【0027】
図4は、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルスパターンと反応閾値との関係を示したグラフである。ここでは、ヒメエグリバに関して、種々のパルスパターンについて、1分間隔で10回繰り返し刺激を与えた場合の反応閾値の推移を調べた。図4(a)の条件1では、パルス持続時間8msec、パルス頻度50Hzである。図4(b)の条件2では、パルス持続時間20msec、パルス頻度20Hzである。図4(c)の条件3では、パルス持続時間40msec、パルス頻度10Hzである。図4(d)の条件4では、パルス持続時間150msec、パルス頻度3Hzである。図示のように、慣れを起こしにくい順は、条件1、条件4、条件2、条件3の順である。これは、図2で示したパルス持続時間と反応閾値の関係において、反応閾値が低かった順と一致する。
【0028】
図5は、ヤガ類忌避に適した超音波パルスに関してパルスパターンの組み合わせと反応閾値との関係を示したグラフである。上述の実験で、反応閾値が低かったパルス持続時間20msec、パルス頻度20Hz(パターン1)と、パルス持続時間150msec、パルス頻度3Hz(パターン2)のパルスパターンを3つのパターンで繋いで、それを繰り返すように設定し、10秒間ずつ10回反応閾値を調べた。図5(a)では、パターン1を1秒、パターン2を1秒とした組み合わせパターンを10秒間1サイクル(回)とし、1分間隔で行った。図5(b)では、パターン1を1秒、パターン2を4秒とした組み合わせパターンを10秒間1サイクル(回)とし、1分間隔で行った。図5(c)パターン1を4秒、パターン2を1秒とした組み合わせパターンを10秒間1サイクル(回)とし、1分間隔で行った。慣れを起こしにくい150msecを4秒続けても慣れは起きにくかったが(図5(b))、慣れを起こしやすい20msecが4秒続くと、繰り返すうちに慣れが起きる傾向が見られた(図5(c))。また、この実験を行った後は、慣れが起きにくくなっていた。
【0029】
従来では、第1の周波数領域によるパルスを第1の超音波パルス及び第2の周波数領域によるパルスを第2の超音波パルスを適宜選択し、必要に応じてランダム変更するだけであった。しかし、異なる周波数領域を繰り返すことで慣れ防止を施す事ができる。慣れを起こしやすい周波数との組み合わせの場合には、出力継続時間を4秒未満とすることで一層の効果が期待できる。
【0030】
<第1の実施形態>
図6は、本実施形態に係る超音波防虫システム10の概要を示している。図6(a)は、圃場80への超音波発生装置20の設置態様を示している。超音波発生装置20は、支柱の所定の高さ部分に取り付けられている。また、図6(b)は超音波防虫システム10の機能ブロック図を主に制御系に着目して示し、動力源等については一般的な構成で実現できるので省略している。
【0031】
図6(b)に示すように、超音波防虫システム10は、複数の超音波発生装置20と、それらを制御するシステム制御部30とを備える。システム制御部30は、システム通信部32を有し、そのシステム通信部32を介して超音波発生装置20の動作を制御する。
【0032】
超音波発生装置20は、振動素子22と、出力制御部24と、通信部26とを備える。振動素子22は、磁歪フェライト型振動子であるが、超音波発生装置20の設置数や設置場所によっては、磁歪フェライト型振動子より低出力のランジュバン型振動子であってもいし、また、セラミック型振動素子であってもよい。なお、特に図示はしないが、振動素子22の出力は、拡声装置(ホーン)により増幅されて所望の方向に送出される。
【0033】
出力制御部24は、振動素子22によるパルス出力を制御する。そのために、出力制御部24は、パルス出力部28と、変調制御部29とを備える。パルス出力部28は、図1に示したように、コウモリがエコーロケーション時に使用する第1の周波数領域のパルス(第1の超音波パルス)と、採餌時に使用する第2の周波数領域のパルス(第2の超音波パルス)を、所定のパターンで生成する。本実施形態では、第1の周波数領域の出力周波数として6.6Hzを、第2の周波数領域の出力周波数として33.3Hzを採用する。また、パルス数として、第1の超音波パルス(第1の波長のパルス)は11回(約1.75秒)、第2の超音波パルス(第2の波長のパルス)は21回(約0.63秒)としている。
【0034】
変調制御部29は、第1の超音波パルスまたは第2の超音波パルスの少なくとも一方に対して、変調を施す。具体的には、図1で示したように、変調制御部29は、出力制御部24が生成した超音波パルス(第1及び第2の超音波パルス)に対して、43kHzから39kHzに向けて徐々に周波数を小さくするスイープしたパルス波形による変調を施す。変調が施された超音波パルスは、停止処理がなされるまで繰り返し出力される。
【0035】
通信部26は、システム制御部30のシステム通信部32と通信する。システム制御部30のシステム通信部32と超音波発生装置20の通信部26との通信は、有線または無線のどちらの形態であってもよい。
【0036】
そして、超音波発生装置20は、図6(a)に示すように、圃場80の周囲及び内部に複数個設置する。ここでは、圃場80の四隅に4基と内部に2基設置されている。設置間隔は一定であってもよいし、果樹85の間隔や生育状態にあわせて適宜調整してもよい。
【0037】
そして、システム制御部30は、超音波発生装置20を制御して、所定のタイミング、例えば、夜間に振動素子22から害虫90に忌避効果のある超音波を出力する。なお、出力タイミングや発振出力の大きさ、周波数、パルス周期やパルス変動を、ユーザがシステム制御部30を設定変更することで、所望の制御条件に変更することができる。つまり、システム制御部30は、超音波発生装置20の出力制御部24に対して指令を送信することで、超音波発生装置20が出力する超音波パルスの出力パターンを変更することができる。
【0038】
また、システム制御部30は、超音波発生装置20のそれぞれに対して、異なる動作をするように制御することもできる。例えば、害虫90が飛来してくる傾向が強い方向に対して超音波を出力する振動素子22については、強力な発振出力に制御してもよい。さらに、例えば、ある超音波発生装置20のスイープパターンと別の超音波発生装置20のスイープパターンが異なるものに制御されてもよい。また、ヤガ類の慣れ回避の観点から、一定期間所定のパターンによって出力された場合、別の出力パターンに変更されてもよい。変調制御部29は、毎日変調パターンを変更するように制御してもよい。さらに、パルス出力部28は、第1の波長や第2の波長を変更するように制御してもよい。パルス出力部28及び変調制御部29による異なる出力パターンの組み合わせの変更によって、ヤガ類の慣れを効果的に回避することができる。
【0039】
このような超音波防虫システム10によると、圃場80等への害虫90の侵入あるいは農作物個体への接触や食害を阻止あるいは抑制することができる。なお、超音波発生装置20は、高さ及び向きを変更可能な機能を有してもよい。システム制御部30は、果樹85の生育状況や害虫90の飛来経路に対応して、振動素子22を適切な位置及び向きに制御することができる。
【0040】
<第2の実施形態>
図7に本実施形態の超音波防虫システム10の概要を示す。本実施形態では、図7(a)に示すように、超音波発生装置20を果樹85の個体の周辺及び果樹85直接に複数個設置する。なお、図7(b)に超音波防虫システム10の機能ブロック図を示す。この超音波防虫システム10の各構成要素の制御及び動作は第1の実施形態と同様であり、説明は省略する。また、出力する超音波のパルス及び変調についても第1の実施形態と同様である。
【0041】
本実施形態によると、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、果樹85個々の防虫がより効果的にできる。なお、第1の実施形態において、圃場80の内部に設置される超音波発生装置20に関して、本実施形態のような設置態様とされてもよい。そのような設置態様とすることで、より精密な防虫制御が可能となる。また、ヤガ類の慣れを効果的に回避できる。
【0042】
<第3の実施形態>
図8に本実施形態の超音波防虫システム110の概要を示す。出力する超音波のパルス及び変調についても第1の実施形態と同様である。図8(a)に示すように、圃場80にはレール42が設けられており、超音波発生装置120がそのレール42を移動する。その移動はシステム制御部30によってシステム通信部32を介して制御される。なお、レール42は、地面から所定高さに配置されているが、その設置位置(主に高さ)が果樹85の生育状況に応じて変更可能に構成されていてもよい。
【0043】
図8(b)は本実施形態の超音波発生装置20の機能ブロック図を示している。超音波発生装置120は、本実施形態特有な構成として、上述の移動装置40を備えている。この移動装置40によって、超音波発生装置20はレール42を移動する。なお、システム制御部30は、超音波発生装置20の位置に関して、所定の発信装置やレール42に設けられた所定のセンサ等を用いた公知の技術によって特定可能になっている。
【0044】
なお、超音波発生装置20の移動は、それぞれ独立に制御されてもよいし、複数の超音波発生装置20が連動するように制御されてもよい。例えば、圃場80内や圃場80から所定距離離れた領域において、常に所定の音圧が得られるように制御することが挙げられる。さらに、ある期間において所定の音圧が観測される割合が所定以上になるように制御がなされてもよい。このような設定は、一般的なシミュレーション技術を利用することで実現できる。さらに、そのような設定の際に、熟した果実が多い果樹85の周囲を重点的に超音波が出力されるように、超音波発生装置20の移動が制御されてもよい。さらに、モータ等によって振動素子22の向きを変えることができる機構が備わっていれば、超音波発生装置20の移動にあわせて振動素子22の向きを変更するように制御がなされてもよい。
【0045】
<第4の実施形態>
図9に本実施形態の超音波防虫システム210の概要を示す。ここでも、出力する超音波のパルス及び変調についても第1の実施形態と同様である。図9(a)に示すように、超音波発生装置220を搭載した自走車両50が1台または複数で圃場80に植わる果樹85の間を縫うように移動し、超音波を発信出力する。
【0046】
図9(b)は、超音波防虫システム210の概要構成を示す機能ブロック図である。自走車両50は、走行手段52と、車両制御部54と、システム制御部30と無線通信する通信部56と、超音波発生装置220とを備える。車両制御部54は、自走車両50を統括的に制御すると共に、超音波発生装置220を制御する。
【0047】
この自走車両50は、システム制御部30の制御に基づいて決まった経路を走行してもよいし、自律的にランダムに走行してもよい。圃場における自走車両50の自律走行は既に実現されているので、その公知の技術を利用することで超音波発生装置220による超音波出力を行いながら自律走行を行うことができる。さらに、複数の自走車両50にて超音波防虫システム10が運用される場合には、自走車両50同士が互いの位置を所定距離に一時しつつ移動するように制御されてもよい。
【0048】
本実施形態によると、上述の実施形態と同様の効果が得られる。また、自走車両50を用いることで、超音波発生装置20による超音波発振がより柔軟に行うことができる。つまり、第3の実施形態では、超音波発生装置120の位置は移動するものの、レール42を設置した位置に限定されてしまい、果樹85の生育状況や果実の位置等に応じた対応が難しかった。しかし、本実施形態では、果樹85の生育状況や果実の位置等に応じて、適切な位置に超音波を出力することができる。なお、第3の実施形態と本実施形態とをあわせて、圃場80の外周部分や急斜面等にはレール42を用いた移動を行い、比較的整地となっている部分を自走車両50により移動するシステムとしてもよい。
【0049】
<第5の実施形態>
図10に本実施形態の超音波防虫システム310の概要を示す。本実施形態において、出力する超音波のパルス及び変調についても第1の実施形態と同様である。図10(a)は、圃場80における超音波防虫システム310の設置態様を示し、図10(b)に超音波防虫システム310の概略構成を示す機能ブロック図を示している。図示のように、超音波発生装置320では、高周波振動を発生する振動発生部322からの振動を支柱や支柱間に張られた鋼線あるいは網等の振動部324に伝導させる。そして、それらの振動部324の表面から、害虫90に対して忌避効果のある超音波が発生する。
【0050】
なお、超音波発生装置20が複数で構成される場合、同時に同じ特性や出力パターンが採用されてもよいし、異なる特性やパターンの超音波が出力されてもよい。
【0051】
本実施形態でも上述の実施形態と同様の効果が得られる。また、振動部324に網を用いた場合、防風機能を併せ持たせることができるため、最終的な収穫に大きく貢献することができる。
【0052】
<第6の実施形態>
本実施形態は、上述した第1〜第5の実施形態に防虫灯(ナトリウム灯)と各種センサを導入し、それらセンサの検出結果を利用することで、超音波による防虫効果を向上させるものである。ここでは、代表例として第3の実施形態に防虫灯と各種センサを導入したシステムについて例示する。
【0053】
図11に本実施形態の超音波防虫システム410の概要を示す。図11(a)に示すように、圃場80にはレール42が設けられており、超音波発生装置420がそのレール42を移動する。さらに、防虫灯490が図示左上の支柱部分に設けられている。防虫灯490は、害虫90の忌避作用として黄色光が有効であることを利用するものであり、黄色蛍光灯や黄色高圧ナトリウムランプ等を用いることができる。
【0054】
図11(b)は、超音波防虫システム410の概略構成を示す機能ブロック図である。超音波防虫システム410は、レール42を移動可能な複数の超音波発生装置420と、防虫灯490と、システム制御部30と、圃場センサ部480とを有する。
【0055】
超音波発生装置420は、第3の実施形態と同様の構成として、振動素子22と、出力制御部24と、通信部26と、移動装置40とを有する。さらに、超音波発生装置420は、センサ群460を有する。センサ群460は、超音波検知センサ462と、光センサ464と、環境センサ466と、対物センサ468と、CCDセンサ470とを備える。なお、圃場80には、センサ群460と同様の機能を有する圃場センサ部480が設置されている。つまり、圃場センサ部480は、超音波検知センサ482と、光センサ484と、環境センサ486と、対物センサ488と、CCDセンサ489とを備える。なお、センサ群460と圃場センサ部480は、それぞれ全てのセンサを有する必要はなく、制御内容や設置場所等に応じて必要なセンサが備わればよい。
【0056】
超音波検知センサ462は、他の超音波発生装置420が出力する超音波を検知する。出力制御部24は、その検知結果より、他の超音波発生装置420の距離や、超音波の強さの分布を算出する。なお、超音波発生装置420ごとに、出力する超音波に固有の識別信号を重畳させることで、どの超音波発生装置420からの信号であるかを容易に判別することもできる。また、システム制御部30は、センサ群460に備わる超音波検知センサ462の検出結果と圃場センサ部480の超音波検知センサ482の検出結果とを両方取得して利用することで、圃場80における超音波の音圧分布を適切に把握することが可能である。そして、システム制御部30は、超音波の音圧分布に応じて最適な位置に超音波発生装置420を移動させたり、振動素子22の向きを変えたりする制御を実行することができる。
【0057】
センサ群460の光センサ464及び圃場センサ部480の光センサ484は、防虫灯490の光を検出する。光センサ464、484の検出結果を利用することで、防虫灯490の光が照射されていない又は弱い領域を重点的に、移動能力を有する超音波発生装置420を配置させることができる。
【0058】
環境センサ466、486は、温度センサ、湿度センサ、風力センサを備えて構成されている。温度や湿度、風力、風向き等によって害虫90の飛来経路や飛来数などが変わることがある。例えば、湿度が高い場合には、比較的低い位置を経路として飛来する可能性が高い。それらの傾向にあわせて、超音波発生装置420や防虫灯490の出力を制御することで、より効果的な防虫が行える。また、風力や風向きによって超音波の出力は大きく影響を受けることがある。そこで、振動素子22の向きや出力を調整することで、圃場80内外の超音波の音圧分布を適切に調整することができる。また、圃場80では、果樹85の蒸散等の影響により、局所的に温度が異なる空気層が生じることがある。そのような異なる空気層の境界では、超音波は屈折をしたりするため、なんら対策をしないと所望の音圧分布とならないこともある。そこで、システム制御部30が、予め異なる空気層の境界での超音波の動きをシミュレートしておくことで、その影響を低減するように制御することができる。また、ヤガ類は、風が強い場合に、風速の弱い場所に向かう傾向がつよい。したがって、果樹等が繁茂している位置に集まる可能性が高い。そこで、風の強さが一定以上の場合に、果樹等が繁茂している領域近傍の超音波発生装置20の出力を強くする制御を行うことで、ヤガ類が圃場内に滞留している時間を低減させることができる。
【0059】
対物センサ468、488やCCDセンサ470、489は、物体を検知するセンサである。特に、CCDセンサ470、489は映像による物体の検知を行い、害虫90の飛来を検出することができる。例えば、CCDセンサ470、489で撮影した映像を解析するときに、防虫対象の害虫90の形態と共にその特有の動きにもとづいて、害虫90の飛来を精度よく判定することができる。また、CCDセンサ470、489によって果樹85における果実の位置を昼間に予め撮影し、システム制御部30で所定のマップを生成することができる。そのマップが夜間における超音波防虫システム10の防虫制御に反映されてもよい。また、果樹85の成長状態を撮影した画像で推定し、その成長状態に応じて、例えば、枝の高さや、葉の量、果実の位置や数等に応じ、重点的に防虫すべき果樹85を特定することができる。なお、対物センサ468、488の出力波として振動素子22の出力波を利用することができる。つまり、振動素子22を通常は対物センサ468の一部として機能させ、害虫90を検知したときに、防虫のための超音波発振手段として機能させてもよい。
【0060】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。例えば、上記の実施形態では、スイープするパルス変調を施したが、さらに、振幅方向に対して変調を施してもよい。その結果、ヤガ類の慣れ回避を一層効果的に実現できる。
【符号の説明】
【0061】
10、110、210、310、410 超音波防虫システム
20、120、220、320、420 超音波発生装置
22 振動素子
24 出力制御部
26、56 通信部
28 パルス出力部
29 変調制御部
30 システム制御部
32 システム通信部
40 移動装置
42 レール
50 自走車両
52 走行手段
54 車両制御部
322 振動発生部
324 振動部
460 センサ群
462、482 超音波検知センサ
464、484 光センサ
466、486 環境センサ
468、488 対物センサ
470、489 CCDセンサ
480 圃場センサ部
490 防虫灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コウモリが発する超音波の波長領域を有する出力パターンを、第1のパルス継続時間の超音波出力を1パルスとする第1の超音波パルスを第1の周波数領域で出力するパターンと、第2のパルス継続時間の超音波出力を1パルスとする第2の超音波パルスを第2の周波数領域で出力するパターンとを含んだ出力パターンとして繰り返し出力するパルス出力手段、
を備えることを特徴とする害虫防除装置。
【請求項2】
前記第1又は第2の超音波パルスの超音波出力の一方に、前記第1及び第2の周波数領域より高い周波数によるパルス変調を施す変調手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除装置。
【請求項3】
前記変調手段は、前記第1又は第2の超音波パルスの超音波出力の両方に、前記第1及び第2の周波数領域より高い周波数によるパルス変調を施すことを特徴とする請求項1に記載の害虫防除装置。
【請求項4】
前記変調は、前記パルス変調の前記周波数をスイープさせることを特徴とする請求項2または3に記載の害虫防除装置。
【請求項5】
前記第1の周波数領域は、2.0〜6.6Hzであることと特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の害虫防除装置。
【請求項6】
前記第2の周波数領域は、20.0〜33.3Hzであることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の害虫防除装置。
【請求項7】
前記パルス出力手段は、前記出力パターンに含まれる前記第1の超音波パルスと前記第2の超音波パルスの各パルス周波数を変更可能であることを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の害虫防除装置。
【請求項8】
前記パルス出力手段は、前記超音波の出力の大きさを変調させることを特徴とする請求項1から7までのいずれかに記載の害虫防除装置。
【請求項9】
防除対象を検知する検知手段と、
超音波発信手段を動かす可動手段と、
前記検知手段の検知結果に応じて、前記超音波発信手段及び前記可動手段の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の害虫防除装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−51925(P2013−51925A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192588(P2011−192588)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(390029621)ニューデルタ工業株式会社 (55)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】