説明

害虫駆除材

【課題】殺虫剤の圃場外への飛散を防止し、農作物に殺虫剤が付着せず、害虫の到来の観測を不要とする、樹木や作物に寄生する害虫の駆除材を提供すること。
【解決手段】殺虫剤を、可塑性の基材に含有させたものを、樹木や作物に寄生する害虫の駆除材として適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺虫剤を基材に含有させた樹木に寄生する害虫の駆除材及びそれを使用する駆虫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木や作物に寄生する害虫を防除するために、液状、粉状及び粒状などの各種形状の殺虫剤又は忌避剤が用いられている。従来、液状若しくは粉状の殺虫剤を用いる際には、化学殺虫剤を動力噴霧器などの散布装置に入れ散布する方法が行われ、一方、粒状の殺虫剤を用いる際には、殺虫剤を作物の株元に置いたり、株上からばら撒く方法が行われていた。
【0003】
ところで、液状若しくは粉状の殺虫剤を噴霧器などで散布する方法は、風のある時に散布すると目的外のエリアに飛散し、畑の近くを通過する人や隣接して栽培される作物に付着するという問題があった。例えば、樹木害虫であるカイガラムシ類に対して現在実用化されている殺虫剤は液状のものであり、これを噴霧器などで噴霧してこの害虫を駆除していたことから(特許文献1・特許文献2)、この殺虫剤の飛散による問題を生じていた。近年、化学農薬の圃場外へ飛散は、社会的な問題となっており、殺虫剤や忌避剤を飛散しない害虫防除技術の開発が求められている。
【0004】
一方、粒状の殺虫剤を使用する場合には、このような殺虫剤の飛散による問題は生じない。しかし、粒状の殺虫剤は、通常、植物の根から殺虫剤を吸収させてその植物の体液を吸収する害虫を駆除することから、すべての作物に対して使用できるわけではなく、例えば、樹木又は果樹などの大型の植物に寄生する害虫に対しては、大量の殺虫剤を用いなければ殺虫効果が認められない。
【0005】
また、何れの形態の殺虫剤であっても、目的とする害虫に有効な殺虫剤の散布時期が通常短期間であり、これを逸すると有効な害虫防除ができないという実用的な問題が存在する。すなわち、害虫の発生時期は必ずしも一定ではない。また、害虫は、突然飛来したり、地面を這い人間が気付かないうちに到来して樹木や作物に被害をもたらすことが多い。さらに、害虫の中には、その生育過程の一時期をロウ物質の殻の中で過ごすものも多い。
【0006】
例えば、カイガラムシ類では、発生場所から幼虫が地面を這い樹木に達し、樹木の幹に寄生して幹の樹液を吸汁して成長し、成虫が産卵して増殖を繰り返して、樹木を衰弱させ、ついには枯死させる。このカイガラムシ類の幼虫は樹上を徘徊するが、成虫になるとロウ物質を出してその殻の中で生息するためこの時期に農薬を散布しても効果がない。このため、殻で覆われていない幼虫期間に殺虫剤を散布して防除を行う必要がある。
しかし、カイガラムシ類の幼虫の到来を把握することが必ずしも容易ではなく、殺虫剤の散布が有効な期間が短期間なこともあって、この有効時期を逸し効果的な防除ができないことが多い。
【0007】
また、キクイムシ類は、他の発生場所から樹木に飛来して樹皮に産卵し、幼虫となって木部に潜り樹木に被害を及ぼすが、やはり、この害虫の飛来を正確に把握して農薬を適切な時期に散布することは困難であった。
【0008】
さらに、化学殺虫剤の利用に関して、農作物への化学物質の付着という問題がある。安全な食品に対する要求が非常に強いことは言うまでも無く、農作物への化学物質の付着を伴わない害虫の防除方法が強く望まれている。
【特許文献1】特開2005−15366号明細書
【特許文献2】特開平10−25203号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、殺虫剤の圃場外への飛散を防止し、殺虫剤の使用量を激減することができる、樹木に寄生する害虫用の駆除材及び駆除方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、農作物に殺虫剤が付着することなく害虫を防除できる、樹木に寄生する害虫用の駆除材及び駆除方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに本発明は、害虫の到来を観測せずに樹木に寄生する害虫を効果的に駆除することができる駆除材及び駆除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、殺虫剤を、可塑性の基材に含有させた、樹木に寄生する害虫の駆除材、並びにこの駆除材を、予め樹木の一部に取り付けておく、樹木に寄生する害虫を駆除する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、殺虫剤を基材に保持させた駆虫材を、樹木や作物に取り付けることで害虫を駆除できるため、果実等に殺虫剤が付着せず、殺虫剤の付着のない安全な収穫物を生産できる。また、このような駆虫材では、圃場外へ殺虫剤が飛散することはなく、周辺区域の作物や人が殺虫剤に被爆することはない。従って、安全性に優れる駆虫手段を提供できる。
【0014】
また、本発明では、基材に殺虫剤を保持させておくため殺虫効果の持続期間が長いという利点も有する。
【0015】
さらに、本発明によれば、樹木に寄生する害虫を選択的に駆除することができるため、殺虫剤を無選択に散布する方法と異なり、天敵昆虫等をも殺虫することによる害虫、特にダニ類などの誘導多発生等の問題がなく、自然界への影響が小さな駆虫手段を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.駆虫材
本発明の駆虫材は、樹木や作物に寄生する害虫を駆除する用途に用いられるものであり、殺虫剤を可塑性の基材に含有させた構成を有するものである。
【0017】
以下、本発明を構成毎に図面を参照しながら具体的に説明する。図1乃至6は、ぞれぞれ、本発明の駆虫材の一例を示す断面図であり、図1は、単層構造の基材に殺虫剤を含浸させた本発明の駆除材の一例を概略的に示す断面図であり、図2及び6は、殺虫剤を多層構造の基材に保持させた本発明の駆除材の他の一例を概略的に示す一部断面図である。また、図7は、本発明の駆除材を樹木に取り付けた状態の一例を示す模式図である。
【0018】
1−1.基材
図7に示すように、本発明の駆除材1は樹木や作物に取り付けて用いるため、それを構成する図1乃至6に示すような基材1は、樹木や作物に取り付け可能な程度に可塑性を有し、且つ用いる殺虫剤を保持できるものであればよい。このような基材1としては、例えば、線状パルプ等のパルプ又は紙からなるシート;ポリエステル及びポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリエチレンなどの合成樹脂からなる不織布又は織布;羊毛又は木綿などからなる(ニードル)フェルト;或いはポリアクリル酸塩系化合物の高分子吸水性ポリマー素材を主要層とするもの(例えば紙おむつ等)を挙げることができる。
【0019】
中でも、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩を代表例として挙げることができる高分子吸水性ポリマーからなる基材は、後述する保持増進剤の存在により、極めて大量の殺虫剤を保持でき、その保持力も大きなことから特に好ましい。
【0020】
不織布を用いる場合には、十分な量の殺虫剤を保持する点で分厚い(0.5〜3.0、好ましくは1.0〜1.5cm)素材がよいが、次に述べる多層構造とする場合には、薄い(0.5〜1.5、好ましくは0.5〜0.8cm)素材が望ましい。
【0021】
また、本発明で用いられる基材1は、単一の素材からなるものでも、複数の素材からなるものでもよい。
【0022】
基材1の形状は、対象樹木や作物の幹の大きさ、形状等に合わせて、種々の形状、大きさに成形すればよい。もっとも、本発明の駆虫材は通常樹木や作物の一部に巻き付けて使用されるため帯状のものが好ましい。
【0023】
また、基材1は、図1に示すように単層構造のものでもよいが、図2乃至6に示すように多層構造のものが好ましい。カイガラムシ類等の樹木を徘徊する害虫は、樹皮下などの狭空間を好む習性があるため、基材を多層構造としておくと、害虫が基材中に侵入して殺虫剤と接触する可能性が高くなり、より確実に害虫を駆除することができる。
【0024】
図3に示すように、このような多層構造の基材1では、その端部の一部18が、基材の各層間に害虫3が侵入可能なように外部に開放され、その他の端部19が閉鎖されている袋状構造を有するものがより好ましい。このような袋状の基材1とすることで、多層構造の各層間に侵入した害虫3が、そのまま駆除材内に捕捉され易くなるため駆虫率が向上する。また、害虫3が、駆虫材10中で死滅するため、害虫3に付着した殺虫剤2の外部への持ち出しがない点で、より安全性に優れる駆虫手段を提供することができる。
【0025】
また、図4に示すように、このような多層構造の基材1では、多層構造の少なくとも1つの層に、内部に進行した前記害虫3が逆戻り不能とする返し構造(害虫の侵入方向に傾斜した複数の突起構造物)17を有するものも好ましい。このような構造17を付設すると、害虫3が一旦駆除材10内に侵入すると、そのまま駆除材10内に捕捉され駆虫率が向上する。
【0026】
さらに、図5及び6に示すように、このような多層構造の基材1では、害虫3が一の層とそれに隣接する層の間21又は樹木と基材との間22から、他の層間23に移動可能な連絡経路30を有することが好ましい。このような連絡経路30を設けることで、害虫3が殺虫剤を保持する層13を通過する確率が高くなるので、駆虫率を高めることができる。このような連絡経路30としては、図5及び6に示すように、各層に害虫が通過可能な大きさの孔31を設ける構造や、図3に示すように、基材1を前記袋状の構造としておき、中間層の端部と表層内面との間に、害虫が一の層間から他の層間に移動可能な空間32を有する構造を挙げることができる。
【0027】
図2に示すように、多層構造の基材1とする場合、当該多層構造中の少なくとも1層を、殺虫剤を保持するための層13とする必要がある。この殺虫剤保持層13は、前記したように、線状パルプ等のパルプ又は紙からなるシート;ポリエステル及びポリプロピレン等のポリオレフィン、又は、ポリエチレン等の合成樹脂からなる不織布又は織布;石綿、合成繊維、羊毛又は木綿などからなる(ニードル)フェルト;或いはポリアクリル酸塩系化合物等の高分子吸水性ポリマー素材からなるシート等で構成することが好ましく、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩を代表例として挙げることができる高分子吸水性ポリマー素材からなるシートで構成することが特に好ましい。
【0028】
また、図2に示すように、多層構造の基材1の場合には、最下層として、例えば、パトロン紙、油紙、及び酸性紙から選択される紙からなるシート、ポリエステル及びポリプロピレン等のポリオレフィン、又は、ポリエチレン等合成樹脂からなる不織布、或いは羊毛又は木綿からなるニードルフェルトシートで構成される樹木保護層15を設けることが好ましい。このような樹木保護層の存在は、巻き付け部位の樹木の呼吸を確保しながら、駆除材を樹木に密着させることができる。
【0029】
この樹木保護層15は、図6に示すように、害虫が通過可能な孔31を有する有孔シートとすることも、樹皮と最下層間22に侵入した害虫を駆除材10中に取り込んで駆除効率を上げる点で好ましい。
【0030】
図2に示すように、多層構造の基材1では、さらに、最上層として、不透水性材料からなる防水層11を設けることが好ましい。この防水層11により、降雨や農薬散布の際に生じる水による殺虫剤の流亡を防ぎ、殺虫効果を長期間持続することができる。
【0031】
なお、防水層11としてポリエチレン製のフィルムからなる最外層を設けた基材に殺虫剤を保持させた駆虫材を、10月下旬にカキ樹の主枝と亜主枝に巻き付けた後、翌年4月末にフジコナカイガラムシ及びコカクモンハマキムシ及びマイマイガの発生を調べたところ、依然として殺虫効果が持続し、防水層を設けない駆虫材に比べ殺虫効果の持続期間が飛躍的に延びることが分かっている。
【0032】
本発明の駆虫材で付設される防水層11は、実質的に基材を降雨から防護し得るものであればよく、隣に位置する層と密着している必要はない。また、害虫が通過可能な孔を有する有孔シート(図示せず)とすることも、降雨から殺虫剤を実質的に防護できる範囲であれば可能である。この防水層を構成する不透水性の材料としては、例えば、ポリエチレン、塩化ビニールなど一般的な不透水性の素材を挙げることができる。また、防水層を構成する不透水性の材料を、紫外線吸収性を有する材料で構成させることも、紫外線による殺虫剤の分解を抑制する点及び紫外線に感受性の害虫を駆除材に誘導する点で好ましい。
【0033】
図2に示すように、多層構造の基材1の場合には、殺虫剤を含有しない害虫誘導層12を設けることも好ましい。害虫によっては、殺虫剤の存在を認識して回避するものも存在するが、この害虫誘導層を設けることで、基材の中へ害虫を誘導することができ、前記連絡経路30や返し構造17と相まって、最終的には、殺虫剤を含有する層13へ誘導することが可能となる。この害虫誘導層12の材質については特に制限はなく、例えば、殺虫剤含有層13で述べたような、不織布、織布、(ニードル)フェルト又は高分子吸水性材料などで構成することができる。
【0034】
本発明の駆除材は、樹木や作物に取り付けるための部材を有するものも好ましい。このような部材としては、例えば、紐、ゴムバンド、マジックテープ(登録商標)または粘着テープなどを挙げることができる。
【0035】
1−2.殺虫剤
本発明の駆虫材においては、基材に含有させる殺虫剤について特に制限は無く、広く様々な殺虫剤を用いることができる。本発明で用いることができる殺虫剤としては、例えば、有機リン剤、カーバメート剤、ネオニコチノイド剤、IGR剤を挙げることができるが、これに限るものではない。
【0036】
また、有機リン剤としては、例えば、プロチオホス乳剤(トクチオン乳剤)、DMTP(スプラサイド乳剤)、CYAP(サイアノックス水和剤)、PAP(乳剤)、アセフェート(オルトラン水和剤)、MEP(スミチオン乳剤)、クロルピリホス(ダーズバン乳剤)、イソキサチオン(カルホス乳剤)、又はダイアジノン(ダイアジノン水和剤)を挙げることができる。
【0037】
またカーバメート剤としては、アラニカルブ(オリオン水和剤)、又はNAC(ミクロデナポン水和剤)を挙げることができ,ネオニコチノイド剤としては、アセタミプリド(モスピラン水溶剤)、ジノテフラン(スタークル顆粒水溶剤)、クロチアニジン(ベニカ水溶剤)、又はチアクロプリド(バリアード顆粒水和剤)を挙げることができる。
【0038】
またIGR剤としては、ブプロフェジン(アプロードエースフロアブル)、合成ピレスロイド剤としてシペルメトリン(アグロスリン乳剤)、ペルメトリン(アディオン乳剤)、又はその他トルフェンピラド(ハチハチ乳剤)を挙げることができる。
【0039】
本発明においては、適用対象である害虫に応じて殺虫剤を選択すればよく、例えば、プロチオホス乳剤、DMTP、CYAP、アセフェート、MEP、クロルピリホス、イソキサチオン、及びダイアジノンからなる群から選択される有機リン剤;アラニカルブ及びNACからなる群から選択されるカーバメート剤;アセタミプリド、ジノテフラン、クロチアニジン及びチアクロプリドからなる群から選択されるネオニコチノイド剤;ブプロフェジンなどのIGR剤;またはトルフェンピラド等をカイガラムシに対する駆虫材で用いることが好ましく、
プロチオホス乳剤、DMTP、アセフェート、クロルピリホス、イソキサチオン、及びダイアジノンからなる群から選択される有機リン剤;アラニカルブ及びNACからなる群から選択されるカーバメート剤;プロフェジン;またはトルフェンピラド等をカイガラムシに対する駆虫材で用いることがより好ましい。
【0040】
また、キクイムシ類に対に対する駆虫材では、例えば、プロチオホス乳剤、DMTP、CYAP、アセフェート、MEP、クロルピリホス、イソキサチオン、及びダイアジノンからなる群から選択される有機リン剤;アラニカルブ及びNACからなる群から選択されるカーバメート剤;またはトルフェンピラド等を用いることが好ましく、
プロチオホス乳剤、DMTP、アセフェート、クロルピリホス、及びイソキサチオンからなる群から選択される有機リン剤;アラニカルブ及びNACからなる群から選択されるカーバメート剤;シペルメトリン及びペルメトリンからなる群から選択される合成ピレスロイド剤;またはトルフェンピラドを用いることがより好ましい。
【0041】
本発明の駆除材では、上記殺虫剤の1種を単独で基材に含有させてもよく、上記殺虫剤の2種以上を基材に含有させてもよい。
【0042】
例えば、殺虫剤に対する抵抗性を獲得することが知られている害虫には、基材に作用機序の異なる2種以上の殺虫剤を含ませておくことが好ましい。抵抗性を獲得することが知られているカイガラムシ類等の害虫では、複数の殺虫剤の組み合わせにより、より確実な駆除が可能となる。
【0043】
また、本発明の駆除材では、殺虫剤と組み合わせて、忌避剤を基材に含有させることもできる。例えば、多層構造の基材において最外層から数層内側に位置する層の少なくとも1の層で忌避剤を含有させ、多層構造の中央付近から最内層に位置する層の少なくとも1の層で殺虫剤を含有させた駆虫材は、忌避剤の揮散による忌避効果により害虫を対象樹木から追い払い、忌避剤により追い払うことができなかった害虫を殺虫剤で駆除することができる。
【0044】
1−3.添加剤
本発明において、水溶液の殺虫剤又は忌避剤を用いる場合には、機械油、パラフィン、ワックス、グリース及びグリセリンからなる群から選択される油剤と乳化剤とを含有する保持増進剤を基材に含有させることが好ましく、機械油がより好ましい。保持増進剤の存在により殺虫剤又は忌避剤が基材に長期間保持されるため、殺虫材又は忌避材の有効期間を大幅に延長することができる。なお、機械油(マシン油)とは、危険物第4類・第4石油類に属する各種機械の潤滑油として用いるギヤー油、シリンダー油などを指し、代表的な例は鉱油である。これには水及び沈殿物を含まない。また、マシン油の種類はJISK2001に規定する粘度分類によって分けられ、本発明では粘度が高いものが好ましい。
【0045】
本発明で用いられる乳化剤としては、機械油等の保持増進剤のベースとなる化合物と基材との親和性を向上させるものが好ましく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリアルキレングリコールアルキルエーテル等の比イオン性界面活性剤が好ましく、中でも殺虫剤に対する懸濁効果が高い点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが特に好ましい。
【0046】
本発明において、乳化剤は、保持増進剤中、2から5%程度含有させることが殺虫剤に対する懸濁効果が高い点で好ましい。従って、機械油等の保持増進剤のベースとなる化合物は、通常(他の成分を含まない場合)、保持増進剤中98%から95%含有させることが好ましい。
【0047】
この保持増進剤は、殺虫剤及び/又は忌避剤と混合して、或いは、殺虫剤又は忌避剤から独立した状態で基材中に存在させることができるが、基材中に殺虫剤及び/又は忌避剤を均一に分散させることが可能な点、害虫に対する殺虫剤の付着性が向上する点、及び虫剤及び/又は忌避剤の流亡防止効果がより向上する点で、殺虫剤又は忌避剤との混合物を基材に含有させることが好ましい。また、保持増進剤は、予め、殺虫剤及び/又は忌避剤と混合して、その混合物を基材に含有させてもよく、殺虫剤及び/又は忌避剤と同時に、或いは殺虫剤及び/又は忌避剤を基材に含有させた前後に、同一基材に含有させてもよいが、前者がより好ましい。
【0048】
保持増進剤の濃度は、用いる保持増進剤並びに殺虫剤又は忌避剤によって変動するが、殺虫剤又は忌避剤との混合物とする場合、保持増進剤の濃度は、殺虫剤又は忌避剤の水溶液との混合物中50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上が特に好ましい。
機械油又は水溶性パラフィンの濃度が50重量%未満だと、十分な耐雨性が得られないことがある。なお、保持増進剤の濃度は、特に上限はないが、通常、殺虫剤及び/又は忌避剤の水溶液との混合物中99重量%以下とする。
【0049】
市販されている使用可能な機械油ベースの保持増進剤としては、ハーベストオイル(バイエルクロップサイエンス(株)社製)、クミアイ機械油乳剤95(クミアイ化学工業(株)社製)、ヤシマスピンドロン乳剤(協友アグリ(株)社製、日農スプレーオイル(日本農薬(株)社製)、アタックオイル(クミアイ化学工業(株)社製)及び特製ハイマシン95(住友化学(株)社製)が挙げられる。機械油機械油ベースの保持増進剤としては、ハーベストオイルが好ましく、水溶性パラフィンとしては、ペタンVが好ましく、ワックスとしては、蜜蝋ワックスが好ましく、グリースとしてはニグエースWR−Sが好ましく、グリセリンとしては、植物性グリセリンが好ましい。中でも本発明においては、ハーベストオイル(バイエルクロップサイエンス(株)社製)が好ましい。
【0050】
また、市販されている使用可能な水溶性パラフィンベースの保持増進剤としては、ペンタンV(アグロ カネショウ(株)社製が挙げられる。
【0051】
2.樹木や作物への取り付け
上記本発明の駆虫材は、図7に示すように、予め、樹木50や作物(図示せず)の一部に取り付けておくことで、樹木や作物に寄生する害虫を駆除するものである。通常、本発明の駆虫材1は、樹木50や作物の一部に巻き付けて設置されるが、対象とする害虫の寄生経路に応じて、他の取り付け方をしてもよい。
【0052】
また、取り付け箇所に関しては、本発明の駆虫材は、図7に示すように、少なく主樹木や作物の幹51及び主枝52に取り付けることが好ましい。このような取り付けは、害虫の主要経路に本発明の駆虫材が必ず存在することになるため、高密度の抑制効果を発揮させることができる。同様の点から、さらに害虫の多い枝の周辺の幹若しくは枝或いは害虫の多い樹の周辺の樹に集中して取り付けることはより好ましい。
【0053】
また、発明の駆虫材は、紐、マジックテープ(登録商標)またはゴムバンドなどで樹木の幹や枝に固定することができる。
【0054】
この際、駆虫材は、樹木の表面に密着させて取り付けることが好ましい。
【0055】
また、多層構造の基材を用いる駆虫材では、当該基材の外部に開口している端部を、地面に向けて、樹木に取り付けることが好ましい。樹木に寄生する害虫は、地面から樹木の上部に徘徊する習性が強く、駆虫材への入り口となる当該開口端部を地面に向けては配設しておくことで、害虫を駆虫材へ取り込む確率を高めることができる。
【0056】
3.害虫
本発明の駆除材の適用対象は、樹木や作物に寄生する害虫、好ましくは樹幹に寄生する害虫である。
【0057】
このような害虫としては、例えば、アザミウマ類、ゾウムシ類、ハダニ類、クモ類、ナメクジ、セミ、ムカデ、メイガ類、コブガ類、カイガラムシ類又はキクイムシ類を挙げることができる。
【0058】
また、カイガラムシ類には、多種が存在し、その中でもクワシロカイガラムシ、クワコナカイガラムシ、フジコナカイガラムシ、マツモトコナカイガラムシ、およびナシマルカイガラムシなどが主要な種として知られているが、本発明の適用対象はこれに限るものではない。
【0059】
またカイガラムシ類が寄生する樹種としては、ナシ、カキ、うめ、杏、イチジク、クルミ、ブドウ、カナメモチ、ケヤキ、ボケ、リンゴ、サクラ、及び柑橘類等の多数の樹種が知られている。
【0060】
カイガラムシ類は、2齢幼虫が、発生場所から地面を経由して目的の樹木に達した後、その樹木の枝や幹を徘徊して、幼虫又は成虫の状態で樹皮下に寄生する。
このため、このカイガラムシ類の幼虫に有効殺虫剤を基材に含有させた本発明の駆虫材を、目的とする樹木に予め取り付けておくことで、その樹木の枝や幹を徘徊した幼虫が本発明の駆虫材を通過した際に殺虫剤が付着し、当該害虫の駆除が達成される。また、上記習性から、前記の多層構造の基材を用いた駆虫材では、この幼虫がこの駆虫材の層間を好んで入り込み、駆虫効率が高くなる。さらに、この多層構造の基材を用いた駆虫材では、外部に開口している端部を地面の方に向けて設置することで、この幼虫が駆虫材中に入り込む確率が高くなる。
【0061】
また、カイガラムシ類の発生の多少は、天敵昆虫の有無によって左右されるといわれるほど、天敵昆虫の存在が大きい。一般的な殺虫剤の散布は、これらの天敵も同時に殺してしまうため、自然の密度抑制が期待できず、反対に、増加してしまうという現象が知られている。殺虫剤を基材に含有させた本発明の駆虫材を目的とする樹木の幹や枝に取り付ける方法は、殺虫剤の散布を要しないため天敵に対する影響は殆どない。このため本発明の駆虫材と、フジコナカイガラクロバチ、クワコナヤドリコバチなどの天敵昆虫とを併用すると、大きな駆虫効果を達成することができる。
【0062】
キクイムシ類としては、ハンノキキクイムシ、クワノコキクイムシ、キイロコキクイムシ、クリノミキクイムシ、ミカドキクイムシ、タイコンキクイムシ、ウメノキキクイムシ、マツノコキクイムシ、シイノコキクイムシ等、75種が知られている。
【0063】
茶に寄生するハンノキキクイムシ、及びシイノコキクムシ等は、春から秋にかけて野外を飛翔し茶樹の茎に産卵するが、有機リン剤の散布回数が少なくなると被害が多くなることが知られている。ハンノキキクイムシ、及びシイノコキクムシ等は地際の根の近い茎部に産卵するため農薬がかかりにくく、防除効果も十分ではない。茶樹の幼木時期にこれらの害虫の寄生を受けると茶の生産寿命が短くなることが知られている。このような性質を持つ害虫には、産卵が集中する地際の茎部に本発明の駆虫材を設置することにより寄生を効果的に防ぐことが可能となる。
このような性質を有する害虫は、ハンノキキクイムシ及びシイノコキクムシのみではなく、上記他のキクイムシ類を含め多数存在する。このため、散布による方法では殺虫剤がかかりにくい箇所に本発明の駆除材を取り付けることで、このような性質を有する害虫を効果的に駆除することができる。
【実施例】
【0064】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)基材の選択
化学殺虫剤であるプロチオホス乳剤(アリスタライフサイエンス(株)社製、商品名:トクチオン乳剤、プロチオホス45.0重量%)、及びアセフェート水和剤(オルトラン水和剤)を、それぞれ10ml、20ml、及び30ml調製し、それぞれ1mのポリプロピレン製不織布、ポリプロピレン製織布、およびニードルフェルト(羊毛及び木綿)に注液して駆除材を作成した。殺虫剤を注液してから15、10、20及び30日経過後に、クワシロカイガラムシ及びコカクモンハマキの幼虫約100匹を、各駆虫材の上に2時間放飼した。その後、害虫を採取してカボチャと人工餌を与えて飼育し死虫率を調べた。結果を以下の表1にまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
上記の通り、いずれの基材を用いた殺虫材においても、殺虫剤を注液してから30日経過後でも総てのクワシロカイガラムシとコカクモンハマキの幼虫が死亡し、乾燥しても殺虫効果は持続していることが解った。この結果、ポリプロピレン製不織布、ポリプロピレン製織布、及びニードルフェルト(羊毛製及び木綿製)のいずれも基材として使用できると考えられた。
【0067】
(実施例2)殺虫剤の選択
表2に示す殺虫剤を、ポリプロピレン製不織布に含浸させて半乾燥し、この不織布を2つ折りしてフジコナカイガラムシ幼虫20匹とハンノキキクイムシ幼虫10匹を放飼して60分間静置した。その後、フジコナカイガラムシはカキ果実を与え、キクイムシは茶樹の茎を与えて飼育瓶内で管理して10後死虫率を調べた。結果をまとめて以下の表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
上記の通り、有機リン剤であるプロチオホス(トクチオン乳剤)、DMTP(スプラサイド乳剤40)、CYAP(サイアノックス水和剤)、PAP(エルサン乳剤)、アセフェート(オルトラン水和剤)、MEP(スミチオン乳剤)、クロルピリホス(ダーズバン乳剤)、イソキサチオン(カルホス乳剤)、及びダイアジノン(ダイアジノン水和剤34)等はカイガラムシに対して高い殺虫効果を示した。
【0070】
また、カーバメート剤であるアラニカルブ(オリオン水和剤)、及びNAC (ミクロデナポン水和剤)もカイガラムシに対して高い効果を示した。
【0071】
ネオニコチノイド剤であるアセタミプリド(モスピラン水溶剤)、ジノテフラン(スタークル顆粒水溶剤)、クロチアニジン(ベニカ水溶剤)、及びチアクロプリド(バリアード顆粒水和剤)は、有機リン剤やカーバメート剤よりも効果が低かった。
【0072】
IGR剤であるブプロフェジン(アプロードエースフロアブル)は効果が認められた。
合成ピレスロイド剤であるシペルメトリン(アグロスリン乳剤)、及びペルメトリン(アディオン乳剤)は効果がなかった。
【0073】
トルフェンピラド(ハチハチ乳剤)は効果が認められた。
【0074】
このことから有機リン剤、カーバメート剤、IGR剤、又はトルフェンピラド剤を使用する駆除材が最も有効と考えられた。
【0075】
同様に、キクイムシ類に対しては有機リン剤、カーバメート剤、合成ピレスロイド剤がいずれも高い効果を示した。
【0076】
(実施例3)保持増進剤の混合による耐雨性の増進
殺虫剤であるプロチオホス乳剤(アリスタライフサイエンス(株)社製、商品名:トクチオン乳剤、プロチオホス45.0重量%)2mlに、ハーベストオイル(機械油97.0重量%及びマシン油乳剤(ポリアルキレングリコールアルキルエーテル)3.0重量%)を、それぞれ98、95、90、80、70、及び50ml加えた後、水を加えて100mlとした。これらの溶液50mlをそれぞれ40×25cm角の不織布に注液し駆除材を作成した。
同様に、殺虫剤であるプロチオホス乳剤2mlに、水溶性パラフィン(アグロ カネショウ(株)社製、商品名:ペタンV、組成:パラフィン42.0%、水、有機溶剤、界面活性剤等58.0%)を98、95、90、80、70、50ml加えた後、水を加えて100mlとした。これらの溶液50mlをそれぞれ40×25cm角の不織布に注液し駆除材を作成した。また、水溶性パラフィンを添加せずに、プロチオホス乳剤のみに水を加えて100mlとした溶液を不織布に注液したものを対照試料とした。
【0077】
作成した駆除材及び対照試料を5時間放置した後に、各駆除材及び対照試料を1mの同じ大きさにし、水平に置いて、その上から30、60、90及び120ml/mの水を散水処理した。その後、5時間放置して半乾燥した状態で、フジコナカイガラムシの2齢幼虫を各駆除材及び対照試料の上に10匹ずつ放飼し死虫率を調べた。
【0078】
以下に各駆除材及び対照試料の評価結果を示す。
【表3−1】


【表3−2】

【0079】
表3−1及び3−2に示すように、プロチオホス乳剤のみを不織布に含浸させた後、散水処理するとフジコナカイガラムシに対する殺虫効果が著しく低下した。一方、機械油またはパラフィン剤を添加すると、散水処理による影響が減少した。また、80重量%以上の機械油又は90重量%以上のパラフィン剤の添加により、ほぼ十分な耐雨性が得られることが推測された。
【0080】
(実施例4)不透水膜による耐雨性の増進
殺虫剤であるプロチオホス乳剤(原液)2mlに、ハーベストオイル(機械油97.0重量%マシン油乳剤3.0重量%)98mlを添加して得られた混合液を、不織布(ポリプロピレン製、商品名スプリトップ、日本不織布(株)社製)に100mlを注液し、駆除材を作成した。
【0081】
この駆除材を野外のカキの樹の幹に巻き付け、その上から不透水性で紫外線吸収性の農ポリフィルム(カットエース、三菱化学(株)社製)を被覆し、さらに樹木表面を滴り落ちる雨水が駆虫材に入り込まないように、不透水性フィルムで被覆された駆除材の上方端部を紐で樹木に縛り付けてカキの樹に取り付けた。また、駆虫材及び農ポリフィルムの下端部は、この下端部から害虫が進入可能な程度に軽く紐で樹木に巻付けた。
【0082】
次いで、この農ポリフィルムで被覆した駆虫材に、噴霧器にて1000及び5000mlの水を散水した。
【0083】
また、対照として、同様の駆虫材を農ポリフィルムで被覆せずにカキの樹の幹に巻きつけたものに対して同様の散水処理を行った。
【0084】
散水処理後、駆虫材及び対照試料を回収して、その上にクワシロカイガラムシの幼虫を10匹放飼し、2時間後に回収して再度飼育し、2日後死虫率を求めた。
【0085】
同時に、処理樹と周辺樹(周囲20mに存在する樹木)の果実へのプロチオホス乳剤の飛散状況を調べた。調査はカキ幼果を回収して、分析することにより行った。
【0086】
この結果、対照試料では効果は著しく低下したが、不透水性フィルムで被覆した駆除材では、5000mlの散水でも、殺虫効果は低下しなかった。
【0087】
また、飛散を調べるために行った幼果調査では、処理樹及び周辺樹からはプロチオホス乳剤は検出されなかった。このことは本発明が、殺虫剤の飛散防止に役立っていることを示す。
【表4】

【0088】
(実施例5)高分子吸水材からなる殺虫剤保持層による殺虫剤の保持量及び保持期間の亢進
まず、化学殺虫剤であるプロチオホス乳剤1重量部をハーベストオイル(機械油とポリアルキレングリコールアルキルエーテルとの混合物)99重量部とを混合した。次いで、基材として大人用オムツ「ライフフリー」Lサイズ90cm×20cm×1.5cm(ユニ・チャーム(株)社製、表面材:ポリオレフィン不織布、吸水材:パルプ、吸水紙:高分子吸水材、防水材:ポリオレフィンフィルム、その他:ポリウレタン及びスチレン系エストラーマ合成樹脂)を用い、これに、得られた混合物を含浸させた。
混合物の含浸は、基材に可能な最大量の混合物を含浸させた後、実際の使用におけるこも巻き状態を想定して、混合物を含浸させた基材を、その上端を、直立の20LSUSドラムに縛り付けることにより該ドラムに巻き付け、液垂れが生じなくなった状態で、基材に保持されている混合物の質量を計測した。
また、混合物を含浸させた基材を、直立の20LSUSドラムに巻き付け、液垂れが生じなくなった状態をInitialとして、そのままの状態で、プロチオホス乳剤とハーベストオイルの混合物の保持量を計測して揮散量と残存率を算出した。
以上の結果を以下に示す。
【表5】

【0089】
上記の通り、基材として大人用オムツ(ユニ・チャーム(株)社製、表面材:ポリオレフィン不織布、吸水材:パルプ、吸水紙:高分子吸水材、防水材:ポリオレフィンフィルム、その他:ポリウレタン及びスチレン系エストラーマ合成樹脂)を用い、殺虫剤を、ハーベストオイルに混合した試料を含浸させると、最大約560gの量を基材に保持できた。また、その後4週間放置しても、529gの量が保持されたままであり、残存率は、91.4%であった。
【0090】
(実施例6)クワコナカイガラムに対する駆除効果の実証
ナシ樹の幹1カ所、主枝(6箇所)と亜主枝(12箇所又は11箇所)に上記のようにして作成した殺虫剤プロチオホス乳剤またはDMTP剤を含有した駆虫材を巻き付けてクワコナカイガラムシの防除を行った。試験は幹と主枝のみに駆虫材を巻き付けた区、亜主枝にも巻き付けた区を設定して行った。なお、幹に巻き付けた駆虫材は40cm×100cmの大きさ、主枝及び亜主枝は10cmx20cmの大きさとした。プロチオホス乳剤の処理量は下記表5に示す通りであり不透水膜処理して雨の影響を小さくした。処理期間は収穫後の10月から翌年8月末までとし、果実収穫期8月上旬に被害を調べた。以下にその結果を示す。
【表6】

【0091】
上記の通り、幹と主枝及び亜主枝にプロチオホス剤を含有した駆虫材を巻き付けた区ではクワコナカイガラムシの被害率は低かった。また、幹と主枝に巻き付けた区でも無処理に比較すると少なかった。一方、無処理区の果実被害は収穫できる果実は20%以下と著しく少なかった。DMTP剤はプロチオホス剤よりも効果が低かったが無処理区と比較すると効果が認められた。
被害率は、果実は100果、枝は細い枝を100枝、幹は10本を調べ寄生の有無によって求めた。巻き付けた駆虫材の数は樹1本当たり7〜19枚であった。
上記の結果は、当該駆虫材の効果によると考えられ、駆虫材を幹及び枝に巻き付けることにより、効率的な駆虫を達成することができる。
【0092】
(実施例7)茶ハンノキキクイムシに対する駆除効果の実証
プロチオホス乳剤(アリスタライフサイエンス(株)社製、商品名:トクチオン乳剤、プロチオホス45.0重量%)2ml/mと保持増進剤としてハーベストオイル98ml/mを混合して不織布に含有させて駆除材を作成した。この駆除材を、実施例4と同様にして不透水性フィルムで被覆し、茶樹の地際の根に近い茎部に紐で巻き付けてハンノキキクイムシの駆除を行った。試験は幹のみに不織布を巻き付けた区と無処理区を各々10株設定して行った。処理期間は収穫後の4月から11月末までとし、翌年の冬季に侵入孔の数を調べた。以下にその結果を示す。
【表7】

【0093】
上記の通り、無処理区のハンノキキクイムシの穿孔数は1〜15個であったが、駆虫材を巻き付けた区では幼虫穿孔数0〜5個の株が9で6〜10個の株が1であった。一方、1000倍液(プロチオホス乳剤を水で希釈)を300リットル/10a散布した区では、株元処理よりも劣った。
【0094】
(実施例8)多層構造による駆除効果の実証
カキ樹の幹と主枝3本に不織布のみを1,2,3,4,5層にして巻き付けてこの中に侵入する害虫及びその他の虫の捕獲数を調べた。不織布の大きさは100×50cmとし、幹に巻き付けた上部は紐でしっかりと結び、下位は緩く結んで、下から這い上がった虫が入りやすくした。10月25日に巻き付け、翌年3月15日にはずして、その中に生息している虫の数を数えた。以下にその結果を示す。
【表8】

【0095】
上記の通り、1枚では著しく捕獲される数がすくなかったが、枚数が増加するほど、捕獲されるカイガラムシ幼虫、モモノゴマダラノメイガ、ヨシノコブガ幼虫は多かった。害虫以外の虫類も多く、5枚とすると100頭以上が捕獲された。これは多層構造により虫が入りやすくなることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の駆虫材の一例を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の駆虫材の他の一例を概略的に示す断面図である。
【図3】本発明の駆虫材のさらに他の一例を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の駆虫材のさらに他の一例を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の駆虫材のさらに他の一例を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の駆虫材のさらに他の一例を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の駆除材を樹木に取り付けた状態の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0097】
1 基材
2 殺虫剤
3 害虫
4 樹木
10 駆除材
11 不透水層
12 害虫誘導層
13 殺虫剤保持層
15 樹木保護層
17 返し構造
18、19 端部
21、23 層間
22 基材と樹木の間
30 連絡経路
31 孔
32 移動可能空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺虫剤を、可塑性の基材に含有する、樹木や作物に寄生する害虫の駆除材。
【請求項2】
前記基材が、多層構造を有する、請求項1に記載の駆除材。
【請求項3】
前記基材は、高分子吸収性ポリマー素材、不織布、織布及びフェルトから選ばれる少なくとも1種からなる薬剤保持層を含む、請求項2に記載の駆除材。
【請求項4】
前記基材が、さらに、最下層として、紙又はパルプからなるシート、合成樹脂からなる不織布又は織布シート、或いは羊毛又は木綿からなるニードルフェルトシートで構成される、樹木保護層を有する、請求項2又は3に記載の防除材。
【請求項5】
前記基材が、さらに、最上層として、不透水性の材料からなる防水層を有する、請求項2から4のいずれか1項に記載の駆除材。
【請求項6】
前記基材は、その端部の一部が該基材の各層間に前記害虫が侵入可能なように外部に開口し、その他の端部が外部に対して閉鎖している、袋状構造を有する、請求項2から5のいずれか1項に記載の駆除材。
【請求項7】
前記多層構造の少なくとも1つの層に、内部に進行した前記害虫が逆戻り不能とする返し構造を有する、請求項2から6のいずれか1項に記載の駆除材。
【請求項8】
前記基材が、殺虫物質を含有しない害虫誘導層を有する、請求項2から7のいずれか1項に記載の駆除材。
【請求項9】
前記多層構造の基材が、一の層とそれに隣接する層との間又は樹木と基材との間から、異なる層間に前記害虫が移動可能となる、連絡経路を有する、請求項2から8のいずれか1項に記載の駆除材
【請求項10】
前記連絡経路が、前記多層構造を構成する各層の少なくとも1層に設けられた、前記害虫が通過可能な孔である、請求項9に記載の駆虫材。
【請求項11】
前記殺虫剤が、有機リン剤、カーバメート剤、ネオニコチノイド剤、IGR剤、及び合成ピレスロイド剤から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
さらに、機械油、パラフィン、ワックス、グリース及びグリセリンからなる群から選択される油剤と乳化剤とを含有する保持増進剤を、前記基材に含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の駆虫材。
【請求項13】
前記駆除する害虫が、カイガラムシ類またはキクイムシ類である、請求項1から12に記載の駆除材。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の駆除材を、予め、樹木又は作物の一部に取り付けておく、樹木に寄生する害虫を駆除する方法。
【請求項15】
請求項6から13に記載の駆除材を、前記外部に開口している端部を、地面に向けて、予め、樹木若しくは作物の一部に取り付けておく、樹木に寄生する害虫を駆除する方法。
【請求項16】
前記駆虫材(防水層を有するものを除く)を、不透水性のシートで被覆して、予め、樹木又は作物の一部に取り付けておく、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記駆除材を樹木又は作物の一部に取り付けるとともに、対象とする害虫の天敵昆虫を放飼する、請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記害虫が、キクイムシ類であり、前記駆除材を、茶樹の地際の茎部に取り付ける、請求項14から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記害虫が、カイガラムシ類であり、前記駆除材を、幹及び主枝に樹木に取り付ける、請求項14から17のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−100920(P2008−100920A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282164(P2006−282164)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(501307826)アリスタ ライフサイエンス株式会社 (17)
【Fターム(参考)】