家具及び家具の製造方法
【課題】筐体の面板部の一層の薄肉化が可能であり、生産効率も損なわないようにした、新たな構造からなる家具を提供する。
【解決手段】複数の金属製の面板部11、21、31、41から家具の筐体Aを構成するにあたり、各面板部11、21、31、41に対して面強度を補う補強部材25、26、36、46を、当該面板部11、21、31、41と補強部材25、26、36、46との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介在させて取り付けることとした。
【解決手段】複数の金属製の面板部11、21、31、41から家具の筐体Aを構成するにあたり、各面板部11、21、31、41に対して面強度を補う補強部材25、26、36、46を、当該面板部11、21、31、41と補強部材25、26、36、46との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介在させて取り付けることとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストの削減に資するようにした家具及び家具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属板で特許文献1に示すような家具の筐体を作る場合、背板、左右の側板、天板及び底板を構成する面板部のうち、補強を要する所要箇所に補強部材をスポット溶接によって取り付け、その上から塗装を施すようにしているのが通例である。
【特許文献1】特開2005−124725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、スポット溶接のみに頼るためには、溶接箇所をある程度増やさなければならないため、スポット溶接痕が製品の外観品質を低下させるという問題がある。これはその上から塗装を施したとしても回避できず、むしろより目立つ傾向にある。また、スポット溶接は接触面間を部分的に点接着するのみで、面板部全体を連続的に補強するものではない。このため、所要の強度を得る上で面板部の薄肉化に限界があり、強度向上や、大量生産する場合の材料コストの削減にも限界がある。また、基本的にスポット溶接に頼る場合には溶接箇所をある程度増やさなければならないが、スポット溶接を手作業で行う場合には工数や熟練を要するため、溶接箇所が多くなると生産効率の大幅な低下を招く。
【0004】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、筐体の面板部の一層の薄肉化が可能であり、生産効率も損なわないようにした、新たな構造及び工程からなる家具及び家具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0006】
すなわち、本発明に係る家具は、複数の金属製の面板部からなる筐体を具備し、その筐体の所要の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介在させて取り付けたことを特徴とする。
【0007】
このように、面板部と補強部材との接触面において、所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介して補強部材を面接着するようにすれば、接着自体が製品表面に影響を与えることがないので、ポイント接着に比して製品の外観品質を有効に向上させることができる。また、部材間をほぼ全面接着できるので、面板部全体の強度を有効に高め、あるいは強度を損なわずに筐体の面板部自体の更なる薄肉化を有効に実現すること等が可能となる。
【0008】
補強部材の導入による更なる効果を得るためには、側板同士を接続する天板及び底板が面板部の前縁側に幅方向に延びる補強部材を有し、これら天板及び底板の補強部材と左右の側板の前縁側に設けた補強部材とを連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部を構成していることが効果的である。
【0009】
補強部材による面板部の補強効果を更に高めるためには、面板部の縁部に折り曲げ部を形成し、補強部材の対応する縁部にも前記折り曲げ部の内側に嵌り合う折り曲げ部を形成して、両折り曲げ部を嵌め合わせた状態で補強部材を面板部に取り付けていることが好ましい。
【0010】
接着剤による補強を筐体の構造と組み合わせて一層の効果を得るためには、両折り曲げ部同士の接触面の少なくとも一部にも、折り曲げ方向と直交する方向に沿ってそのほぼ全域に亘り接着剤を介在させていることが望ましい。
【0011】
特に、筐体に作用する圧縮強度に対して高い補強効果を得るためには、金属板を折り曲げることにより面板部を主体とする背板及び側板を形成して、側板の前後2箇所に上下に延びる補強部材を接着剤を介在させて取り付け、そのうち前側の補強部材の一部に形成した折り曲げ部を側板の前縁部に形成した折り曲げ部に嵌め合わせていることが望ましい。
【0012】
僅かな構成の追加によって面板部の強度を更に向上させるためには、所定方向に沿った間欠位置に、接着剤による接着層に加えて溶接等によるポイント接着部を備えていることが好適である。
【0013】
そして、複数種類の家具に亘って製造コストの削減を有効に図るためには、補強部材を棚取付部として棚を取り付ける態様、補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付ける態様、または補強部材を引出取付部として利用して引出を取り付ける態様をとり得るようにしていることが好ましい。
【0014】
補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付ける場合に、簡単な構成によって扉の面強度も有効に補うためには、当該扉を構成する金属製の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り介在させた接着剤のみによって或いは当該接着剤を主体として取り付けていることが簡便である。
【0015】
一方、本発明は、熱硬化性の接着剤とポイント接着との組み合わせの態様によって、外観や強度、コストを総合的に勘案した効果的な家具を構成することができる。
【0016】
すなわち、本発明の家具は、少なくとも外観表面を構成する面材の裏面に対する補強材を、熱硬化性の接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けることを特徴とする。外観品質を可能な限り向上させることができるからである。ここで、家具の外観表面とは、設置状態で家具の外部に露出する面をいう。
【0017】
この場合、家具の外観表面を構成しない面材の裏面に対する補強材は、ポイント接着によって取り付けられていることが望ましい。外観に影響が現われなければ、接着剤の使用量を節約してコスト削減が図れるからである。
【0018】
同様の趣旨で、面材と面材との組み付け部分であって外嵌表面を構成しない部位同士の間も、ポイント接着によって接合されていることが望ましい。
【0019】
そして、面材の裏面に補強材を、接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けて家具構成部材を予め構成すると、取り扱いが簡素で、外観品質の良好な家具に組み立てることができる。
【0020】
一方、本発明に係る家具の製造方法は、家具の筐体を構成する面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り熱硬化性の接着剤を塗布した上で添設し、当該補強部材を溶接等によるポイント接着によって面板に仮固定した後、熱により接着剤を硬化させて面板部と補強部材とを面接着するようにしていることを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、接着剤を単純に塗布し、必要最小限の箇所に溶接等を施した後に熱処理を施すだけで、面板部に対して補強部材を高い強度の下に取り付けることができる。このため、工数を増やすことなく、薄肉な面板部からなる家具の筐体に必要な強度を有効に付与することが可能となる。
【0022】
熱硬化に必要な別段のプロセスを不要とするためには、化成処理に伴う洗浄後の乾燥工程の熱を利用して行うようにしていることが望ましい。
【0023】
同じ趣旨で、熱による接着剤の硬化を、塗料を塗布した後に焼き固める工程時の熱を利用して行うことも望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上説明した構成であるから、溶接痕を極力少なくして製品の外観品質を確実に向上させるとともに、強度を損なわずに筐体の面板部の薄肉化が可能、若しくは筐体自体の強度を向上させることも可能であり、生産効率も有効に向上させることができるようにした、新規有用な構造及び工程からなる家具及び家具の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
この実施形態に係る家具の筐体Aは、図1及び図2に示すように、金属板である一枚の板金を折り曲げることによって背板1及び左右の側板2からなる背側板を形成し、その上下に、同じく板金製の天板3及び底板4を取り付けて、前方を開口部としている。
【0027】
側板2は、面板部21の上下に略水平な上折り曲げ片22および下折り曲げ片23を形成し、前縁側に前折り曲げ部24を形成している。前折り曲げ部24は、図2及び図3に示すように、側板の前面(見付け面)となる前片24aと、嵌め合わせに必要な見込みを与える内側片24bと、その内縁に更に続く後片24cとを有し、面板部21を含めて一部開放された部分角筒状をなすもので、これら後片24c、内側片24b、前片24a及び面板部21でほぼ包囲される部位の内側に嵌め合わせ部が設定されている。図2に示す背板1にも、面板部11の上下に略水平な上折り曲げ片12および下折り曲げ片13が形成されている。
【0028】
そして、前記側板2の前後2箇所に、面板部21を補強すべく上下方向に延びる前補強部材25及び後補助部材26を取り付けている。前補強部材25は、側板2の面板部21の内面に面接触する前後の取付片25a、25bと、これらの取付片25a、25bの間に内向き凸状に設けた突出部25cからなり、この突出部25cの前縁側に、階段状に屈曲した折り曲げ部25dが形成されている。この折り曲げ部25dは、内側の前向片25d1の外側に見込み方向の縦片25d2、外側の前向片25d3及び前記取付片25aが順次屈曲させて連設されたコ字形をなすものである。そして、この折り曲げ部25dは、前述した側板21の折り曲げ部24に嵌り合っている。すなわち、前補強部材25と側板2との関係は、前者の内側の前向片25d1と後者の後片24c、前者の外側の前向片25d3と後者の前片24a、前者の前取付片25aと後者の面板部21がそれぞれ面接触し、前者の折り曲げ部25のうちの縦片25d2、外側の前向片25d3及び前取付片25aの3面が後者の折り曲げ部24の後片24c、前片24a及び面板部21によって三方から規制された状態となるようにしている。このとき、内側の前向片25d1と後片24c、後取付片25bと面板部21も面接触状態となる。また、後補強部材26は、側板2の面板部21の内面に面接触する取付片26a及び線接触する前片26bと、これら取付片26a及び前片26bの間に内向き凸状に設けた突出部26cとからなる。
【0029】
天板3は、図2及び図4に示すように、面板部31の前縁に前折り曲げ部35を形成している。前折り曲げ部35は、天板3の前面(見付け面)となる前片35aと、嵌め合わせに必要な見込みを与える水平片35bとからなる概略L字形のもので、面板部31、前片35a及び水平片35bにかけての内側のチャネル部分に嵌め合わせ部が設定されている。
【0030】
そして、天板3の前縁側の下面に、面板部31を補強すべく幅方向に延びる補強部材36を取り付けている。この補強部材36は、天板3の面板部31の下面に面接触する前後の取付片36a、36bと、これらの取付片36a、36bの間に下向き凸状に設けた突出部36cとからなり、この突出部36cを構成する前片36c1及び下片36c2が前取付片36aとともに折り曲げ部36dとして設定されている。そして、この折り曲げ部36dは、前述した天板3の折り曲げ部35に嵌り合っている。すなわち、補強部材36と天板3との関係は、前者の取付片36aと後者の面板部31、前者の前片36c1と後者の前片35a、前者の下片36c2と後者の水平片35bがそれぞれ面接触し、前者の三面は後者によって三方から規制された状態となるようにしている。
【0031】
底板3は、図2及び図5に示すように、面板部41の左右及び後部に下向の立片42、43を有し、さらに前縁部に前折り曲げ部45を形成している。前折り曲げ部45は、底板4の前面(見付け面)となる前片45aと、嵌め合わせに必要な見込みを与える水平片45bとからなる概略L字形のもので、面板部41、前片45a及び水平片45bにかけての内側のチャネル部分に嵌め合わせ部が設定されている。
【0032】
そして、底板4の前縁側の下面に、面板部41を補強すべく幅方向に延びる補強部材46を取り付けている。この補強部材46は、底板4の面板部41の下面に面接触する前後の取付片46a、46bと、これらの取付片46a、46bの間に下向き凸状に設けた突出部46cとからなり、この突出部46cを構成する前片46c1及び下片46c2が前取付片46aとともに折り曲げ部46dとして設定されている。そして、この折り曲げ部46dは、前述した底板4の折り曲げ部45に嵌り合っている。すなわち、補強部材46と底板4との関係は、前者の取付片46aと後者の面板部41、前者の前片46c1と後者の前片45a、前者の下片46c2と後者の水平片45bがそれぞれ面接触し、前者の三面は後者によって三方から規制された状態となるようにしている。
【0033】
なお、底板4の幅方向に離間した2箇所にも、図2に示すように、面板部41を補強すべく前後方向に延びる補強部材47を取り付けている。この補強部材47は、上向きに開口するチャネル状のもので、上水平片47aを底板4の面板部41の下面に面接触させ、底部にアジャスタが取り付けられるようにしている。
【0034】
そして、これら左右の側板2、背板1、天板3及び底板4は、次のプロセスによって図1に示す箱状に組み付けてられている。
【0035】
先ず、側板2及び背板1からなる背側板を構成するにあたり、好ましくは図6(a)→(b)に示すように事前に側板2の面板部21に補強部材25、26を取り付けた上で、図2に示すように側板2及び背板1の面板部21、11に水平片22、23、12、13を形成し、また、図3に示すように補強部材25の折り曲げ部25dに側板2の折り曲げ部24を成形しながら嵌め合わせる。そして、背板1と側板2との境界部分を図2に示す折り曲げ状態にする。一方、図4及び図5に示す天板3及び底板4も、好ましくは面板部31、41に補強部材36、46を取り付けた上で立片45aや水平片45bを立片46c1や46c2を抱くように形成する。補強部材25、26を対応する面板部21に取り付ける際は、図3及び図6(a)に示すように接触面となる取付片25b、26aの裏面に長手方向ほぼ全域に沿って樹脂硬化性の接着剤S(網掛け部分)を塗布し、その接着剤Sを介して補強部材25、26を面板部31に添設する。また、図示例のように前補強部材25の前向片25d3の表面にも接着剤Sを塗布しておき、前補強部材25及び面板部21の両折り曲げ部25d、24同士が嵌まり合った際に、前向片25d3と前片24aとの間に接着剤Sが介在するようにしておくことが望ましい。但し、この部位を接着剤Sで接着せずとも強度的には十分に耐用するものである。図2及び図4に示す補強部材36と天板3の面板部31も同様で、前者の取付片36bと後者の面板部31との間、前者の前片36c1と後者の前片35aとの間にも接着剤Sを介在させておく。図示例では、図2及び図5に示す補強部材46と底板4の面板部41との関係においても、前者の取付片46bと後者の面板部41との間、前者の前片46c1と後者の前片45aとの間に接着剤Sを介在させているが、この部位は天板3や側板2などとは違って外観品質に影響が少ないため、接着剤に掛ける費用を削減するためにポイント接着のみに頼ってもよい。これは補強部材47と底板4の面板部41との関係にも同様である。
【0036】
この場合、熱硬化性の接着剤Sは、熱を加えない限り接着機能を発揮しないので、例えば図6(b)に示す補強部材25、26では、長手方向の所要箇所に溶接等のポイント接着部Pを設けておく。この溶接等には、いわゆるスポット溶接と称される抵抗溶接を始めとして、ガス溶接やアーク溶接、或いはレーザ溶接その他のポイント接着手段が含まれる。他の補強部材36、46、47においても同様である。
【0037】
通常の筐体の大きさの場合、上記のポイント接着は8箇所あるいはそれ以上に施さなければならないところ、この実施形態のポイント接着はあくまで補強部材が脱落しないように、或いは面材との間に隙間が生じないように仮止めするだけであるため、3箇所程度で十分である。勿論、大型の筐体になればポイント接着部は若干増やすことが好ましい。
【0038】
接着剤としては、この種の筐体の板材には通常、亜鉛めっき鋼板などが用いらることが多い点を考慮して、油面接着性があるもの、すなわち脱脂をせずに接着できるものを選定する。アクリル系やエポキシ系の接着剤では固まってしまうので、硫黄系硬化剤であるポリブタジエンゴム等を用いることが好ましい。この種の接着剤が機能する温度は概ね155℃〜160℃であり、通常の雰囲気下においては勿論のこと、例えば100℃程度であっても殆ど作用することはない。このため、長時間大気に晒しても殆ど機能が損なわれることがなく、二液反応剤のように塗布しただけで硬化することもないなど、接着剤に対してメンテナンスフリーである。
【0039】
そして、図2→図1のように、側板2及び背板1に天板3及び底板4を取り付ける。天板3は側縁を側板2及び背板1の上片22、12の下面に潜り込んだ位置で重合させ、底板4は立片42、43を側板2及び背板1の内面に重合させる。その際、図7に示すように、左右の側板2の前補強部材25と天板3及び底板4の補強部材36、46とをこの実施形態ではL字形の連結金具5で連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部Bを構成している。側板2や背板1に対する天板3及び底板4の連結や、補強部材25、36、46に対する連結金具5の連結などには、適宜の手法を採用することができる。
【0040】
そして、以上のように組み立てた筐体Aに対して、化成処理を施す。化成処理は、後に行う塗装の付き回りを良くし、防錆性能等をも高めるためのもので、表面に所要の薬品を塗布し、洗浄して、水切り乾燥させる工程からなる(図示省略する)。この化成処理の際の熱によって、先に塗布した熱硬化性の接着剤Sが反応し、例えば図8に示す補強部材25と側板2との関係では、接触面である前者の前向片25d3と後者の前片24a、前者の取付片25bと後者の面板部21が、長手方向に沿ったほぼ全域において同図(a)→(b)に示すように接着材Sの硬化とともに接着する。接着剤Sを設けた他の部分における接触面同士の関係においても同様である。
【0041】
そして、上記の熱処理後に塗装工程を施す。この塗装工程において、粉体塗料を塗布した後に焼き固める際の熱によっても接着剤Sの硬化が進む。そして、両熱処理工程時の温度は熱硬化性の接着剤Sが機能する温度条件を満たすため、これらによって接着剤Sはほぼ完全に硬化して、面材同士を強固に接着させるという作用を発現する。しかして、以上の工程を経ることによって、最終的に図1に示す家具の筐体Aが完成される。
【0042】
図9は上記の筐体Aを使用したオープン収納家具6であり、図10は上記の筐体Aを使用した扉式の収納家具7であり、図11は上記の筐体Aを使用した引出式の収納家具8である。図9に示すオープン収納家具6では、前補強部材25及び後補強部材26を棚取付部として利用し、前補強部材25の後向面及び後補強部材26の内面に所定ピッチで設けたフック孔25x、26xに棚爪61を介して棚62を掛止できるようにしている。また、図10に示す扉式の収納家具7では、前補強部材25を扉取付部として利用し、これに兆番71を取り付けてその兆番71に扉72を両開き可能に支持させている。この扉72は面板部73を主体とする金属製のものであり、その面板部73を補強するために上下方向に延びる補強部材74が当該面板部73の幅方向中央部における裏面に接着のみによって取り付けてある。補強部材74はチャネル状の突出部74aの両側に鍔部74bを設けたものであり、その鍔部74bが面板部5との接触面となって、長手方向(上下方向)のほぼ全域に亘り接着剤を介して接着している。接着のみによる場合は、接着剤には熱硬化性でないものを使用できるのは勿論であるが、熱硬化性の接着剤を用いる場合には必要に応じて熱を加えるまでの間を簡単な手段によって仮保持しておけばよい。勿論、上記と同様、熱硬化性の接着剤Sとポイント接着からなる取付構造、取付方法を利用してもよく、本発明の趣旨に基づけばむしろ好ましい。さらに、図11に示す引出式の収納家具8では、前補強部材25及び後補強部材26を引出取付部として利用し、これにレール81を介して引出82を取り付けている。
【0043】
以上のように、この実施形態に係る家具は、複数の金属製の面板部11、21、31、41からなる筐体Aを具備し、その筐体Aの各面板部11、21、31、41に対して面強度を補う補強部材25、26、36、46を、当該面板部11、21、31、41と補強部材25、26、36、46との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤Sを介在させて取り付けたものである。
【0044】
このように構成すれば、接着自体が製品表面に影響を与えることがないので、単にポイント接着のみに頼る場合に比して製品の外観品質を有効に向上させることができる。また、部材間をほぼ全面接着できるので、面板部25、26、36、46の強度を全体として有効に高めることができる。逆に言えば、これらの面板部25、26、36、46自体の更なる薄肉化にも資することができ、大量生産の場合に材料コストを確実に削減できるとともに、家具の軽量化も有効に実現することができる。
【0045】
この場合、本実施形態では、側板2、2同士を接続する天板3及び底板4が面板部31、41の前縁側に幅方向に延びる補強部材36、46を有し、これら天板3及び底板4の補強部材36、46と左右の側板2の前縁側に設けた前補強部材25とを連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部Bを構成している。このため、天板3、底板4及び側板2自体も補強部材36、46、25によってそれらの面板部31、41、21が補強されるとともに、天板3、底板4及び左右の側板2を組み付けた際に構成される枠体状の構造部Bによって開口部の周囲、ひいては筐体A全体の強度を相乗的に高めることができる。
【0046】
特に、面板部21、31、41の縁部に折り曲げ部24、35、45を形成し、補強部材25、36、46の対応する縁部にも前記折り曲げ部24、35、45の内側に嵌り合う折り曲げ部を25d、36d、46d形成して、両折り曲げ部24、25d同士、35、36d同士、45、46d同士を嵌め合わせた状態で補強部材24、35、45を面板部21、31、41に取り付けているので、折り曲げ部24、35、45によって面板部21、31、41の面強度が増すだけでなく、これに補強部材25、36、46の折り曲げ部25d、36d、46dを嵌め合わせるので、面板部21、31、41の折り曲げ部24、35、45が補強されると同時に、面板部21、31、41と補強部材25、36、46との接合強度も高まり、全体として補強部材25、36、46による面板部21、31、41の補強効果が有効に向上することになる。
【0047】
より具体的には、両折り曲げ部24、25d同士、35、36d同士、45、46d同士の各接触面の少なくとも一部にも、折り曲げ方向と直交する方向に沿ってそのほぼ全域に亘り接着剤Sを介在させているので、折り曲げ部24、35、46の強度、ひいてはそれを設けた面板部21、31、41の強度を更に向上させることができる。
【0048】
特に、本実施形態では、金属板を折り曲げることにより面板部11、21を主体とする背板1及び側板2を形成して、側板2の前後2箇所に上下に延びる補強部材25、36を接着剤Sを介在させて取り付け、そのうち前側の補強部材25の一部に形成した折り曲げ部25dを側板2の前縁部に形成した折り曲げ部24に嵌め合わせている。このように、鉛直荷重を受ける立面となる背板1及び側板2を一枚の金属板から構成し、とりわけ棚荷重や扉荷重、引出荷重などが作用して圧縮荷重が掛かり易い立面である左右の側板2を上記のように補強しているため、筐体Aの強度を効果的に高めることができる。勿論、大型の筐体を構成する場合等には、背板と側板を別々に構成して接合することを妨げない。この場合にも、各面材に高い剛性を付与できるので、筐体全体に必要な強度向上は十二分に見込めるものである。
【0049】
加えて、本実施形態は、所定方向に沿った間欠位置に、接着剤Sによる接着層に加えて溶接等によるポイント接着部Pを備えているので、接着剤Sのみによる場合に比して、僅かなポイント接着部Pの導入だけであっても面板部21、31、41の強度を更に向上させることができる。
【0050】
そして、本実施形態では、補強部材25を棚取付部として利用して棚62を取り付ける態様、補強部材25を扉取付部として利用して扉72を取り付ける態様、または補強部材25を引出取付部として利用して引出82を取り付ける態様を、選択的にとり得るようにしている。このように、補強部材25に付与する機能次第で、共通の筐体Aからオープン収納家具6、扉式収納家具7、引出式収納家具8などに容易かつ多様に展開することができ、これにより複数種類の家具に亘って製造コストの大幅な削減を図ることが可能となる。
【0051】
また、補強部材25を扉取付部として利用して扉72を取り付ける場合に、当該扉72を構成する金属製の面板部73に対して面強度を補う補強部材74を、当該面板部73と補強部材74との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り介在させた接着剤のみによって取り付けてあるので、簡単な構造で扉72の面強度も有効に確保することができる。
【0052】
一方、本実施形態は、熱硬化性の接着剤Sとポイント接着との組み合わせの態様によって、外観や強度、コストを総合的に勘案した効果的な家具を実現しているものである。
【0053】
先ず、少なくとも外観表面を構成する面材、例えば天板3や側板2の裏面に対する補強材36,25,26を、熱硬化性の接着剤Sと最小限のポイント接着部Pとによって取り付けているため、溶接痕を可能な限り減らして、外観品質を向上させているものである。
【0054】
ここに言う家具の外観表面とは、設置状態で家具の外部に露出する面、すなわち外向き面であり、底板の底面などは内向き面であるため含まれない。接眼し難く、溶接痕がわかり難いからである。
【0055】
そして、上記実施形態では、家具の外観表面を構成しない面材、例えば底板4の裏面に対する補強材46,47などにも接着剤Sを適用した例を示したが、これらは上記の趣旨からポイント接着のみによって取り付けることも有効であり、接着剤の使用量を節約してコストを有効に削減することができる。
【0056】
同様の趣旨で、面材と面材との組み付け部分であって外嵌表面を構成しない部位、例えば連結金具5に対する接着などは、ポイント接着によって接合されていることが望ましい。
【0057】
そして、予め各面材の裏面にこれらの補強材を、接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けて背側板等の家具構成部材を構成することで、取り扱いが容易になり、外観品質の良好な家具に組み立てることができる。
【0058】
一方、本実施形態における家具の製造方法は、家具の筐体Aを構成する面板部21、31、41に対して面強度を補う補強部材25、26、36、46を、当該面板部21、31、41と補強部材25、26、36、46との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り熱硬化性の接着剤Sを塗布した上で添設し、当該補強部材25、26、36、46を溶接等によるポイント接着によって面板21、31、41に仮固定した後、熱により接着剤Sを硬化させて面板部21、31、41と補強部材25、26、36、46とを本接着するようにしているので、接着剤Sを単純に塗布し、必要最小限の箇所に溶接等を施した後に熱処理を施すだけで、面板部21、31、41に対して補強部材25、26、36、46を高い強度の下に取り付けることができる。このため、工数を増やすことなく、薄肉な面板部21、31、41を含む筐体Aに必要な強度を有効に付与することが可能となる。特に、熱硬化性の接着剤Sは、接着する意思をもって所要の熱を加えない限り硬化が始まらないので、塗布した後に暫く放置したとしても、或いは面材が捩れた状態にあったとしても、その捻れた状態のままで部材が固まってしまうことがない。このため、煩わしい管理等を要求されずに精度の高い製品製造が可能になる。
【0059】
特に、熱による接着剤Sの硬化を、化成処理時の水切り乾燥時の熱を利用して行うようにしているので、熱硬化に必要なプロセスを敢えて設けなくてよく、製造効率を有効に担保することができる。
【0060】
加えて、熱による接着剤Sの硬化を、塗装工程において粉体塗装を焼き固める際の熱をも利用して行うようにしているので、工程を増やさずにより確実な接着作用を担保することができる。そして、最後に熱処理後に塗装工程を施すようにしているので、接着面からの接着剤の漏出などがあっても、これらを隠蔽して筐体Aの外観、ひいては家具の外観を有効に向上させることが可能となる。
【0061】
また、上記で採用している接着剤の効果としては、叙述したゲル状の状態にあるため、所要箇所に塗布した後に仮に面材を立て掛けることによって塗布面が傾いても、流れ落ちるようなことがないし、柔らかくて塗り易いなど取り扱いに極めて好都合である。そして、この種の接着剤には部材を引っ張る作用はないため、面材と補強材とを接着剤を介して突合せ、ポイント接着した状態で面材に応力が残っていて若干の捩れ等が存するときにも、化成処理や塗装の工程時までに応力がとれれば、面材に捩れのない状態に戻ることを許容し、その状態を待って接着剤が硬化して補強材を接着することを可能にする。また、部材間に僅かな隙間が残ったとしても、塗布したときに接着剤にはある程度の厚みがあるため、隙間を埋める充填剤としての効果も期待することができる。
【0062】
上記の工程を極力オートメーションで行うとするならば、その概要は、板金に対して接着剤を塗布する工程、補強を載せ置いてポイント接着する工程、曲げ加工を施す工程、背側板に頂板や底板を周辺の折り曲げ部分における合わせを利用して組み付ける工程、所要箇所を溶接する工程、化成処理の工程、塗装処理の工程となる。
【0063】
接着剤の塗布工程では、接着剤をポンプで送って数値制御で所要箇所に所要長さで塗布する。上記の種類の接着剤Sであれば通常温度では変化せず、言うなれば歯磨き粉のような柔らかいゲル状の状態がほぼ一定に保たれるので、ポンプで送ってノズルからインジェクトし易く、制御に適する。その後に塗布した状態が適切に維持されるのは叙述したとおりである。
【0064】
補強材に対する溶接は、溶接ガンを用いNCによって所定箇所に施す。インバータ溶接機などを用いれば、電流をコントロールでき、溶接痕を極力目立ちにくくすることができる。
【0065】
化成処理や塗装処理は、筐体を吊るした状態にて順次搬送しながら処理することが好ましい。筐体全体に均一に熱を作用させることができ、捩れの原因となるような応力も作用し難いため面精度が上がることが期待できる。
【0066】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0067】
例えば、図12に側板2の面板部21と前補強部材25との関係を例にとって示すように、補強部材25と面板部21の間に空洞xを設け、接触面からの接着剤Sの漏出があった場合にこれを空洞xに逃がす構造にすれば、接着剤Sの食み出しを回避することができ、簡単な構造で仕上がり状態を良好に保つことができる。特に開けた状態で視認され易い扉などは有効である。
【0068】
また、上記実施形態では側板、天板及び底板に対して本発明を適用しているが、特に補強を要する部位、例えば側板のみに本発明を適用してもよいのは勿論である。
【0069】
さらに、筐体を共用して複数の家具を構成するに際して、補強部材の形態が多少異なることは本発明の本質的要件ではないし、或いは、筐体の寸法を多少変えたとしても、本発明の基本的な作用効果は十分に奏することができる。
【0070】
さらにまた、例えば兆番取付用の金具を側板に取り付ける場合等には、二液硬化型の接着剤、アクリルのハネムーンタイプ接着剤などを用いて、完全な溶接レスを実現することも有効である。この種の接着剤は、塗布した瞬間に固化が始まるため、大きな補強材などは面材が捻った状態で接着する不都合が生じ易いが、比較的小さな領域で面材に取り付けられる上記の類の部品などについては、捩れもさして問題にならず、体積収縮の少ないものを選択すれば外観品質にも影響を与えないため、このような接着剤のみによってスポット等の溶接を全く行わずに取り付けを完了することも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る家具の筐体を示す斜視図。
【図2】図1の分解斜視図。
【図3】側板の面板部と補強部材との関係を示す図。
【図4】天板の面板部と補強部材との関係を示す図。
【図5】底板の面板部と補強部材との関係を示す図。
【図6】側板の面板部に対する補強部材の取付工程を示す斜視図。
【図7】筐体の開口部周縁に形成される構造部を示す図。
【図8】同実施形態で用いた接着剤の作用を示す図3に対応した図。
【図9】同実施形態の筐体を使用したオープン収納家具の斜視図。
【図10】同実施形態の筐体を使用した扉式収納家具の斜視図。
【図11】同実施形態の筐体を使用した引出式収納家具の斜視図。
【図12】接着剤周辺の構造の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0072】
1…背板
2…側板
3…天板
4…底板
6…オープン収納家具
7…扉式収納家具
8…引出式収納家具
21,31,41…面板部
24、35、45…面板部の折り曲げ部
25,26,36,46…補強部材
25d、36d、46d…補強部材の折り曲げ部
36、46…補強部材
62…棚
72…扉
82…引出
A…筐体
B…構造部
P…ポイント接着部
S…接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストの削減に資するようにした家具及び家具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属板で特許文献1に示すような家具の筐体を作る場合、背板、左右の側板、天板及び底板を構成する面板部のうち、補強を要する所要箇所に補強部材をスポット溶接によって取り付け、その上から塗装を施すようにしているのが通例である。
【特許文献1】特開2005−124725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、スポット溶接のみに頼るためには、溶接箇所をある程度増やさなければならないため、スポット溶接痕が製品の外観品質を低下させるという問題がある。これはその上から塗装を施したとしても回避できず、むしろより目立つ傾向にある。また、スポット溶接は接触面間を部分的に点接着するのみで、面板部全体を連続的に補強するものではない。このため、所要の強度を得る上で面板部の薄肉化に限界があり、強度向上や、大量生産する場合の材料コストの削減にも限界がある。また、基本的にスポット溶接に頼る場合には溶接箇所をある程度増やさなければならないが、スポット溶接を手作業で行う場合には工数や熟練を要するため、溶接箇所が多くなると生産効率の大幅な低下を招く。
【0004】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、筐体の面板部の一層の薄肉化が可能であり、生産効率も損なわないようにした、新たな構造及び工程からなる家具及び家具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0006】
すなわち、本発明に係る家具は、複数の金属製の面板部からなる筐体を具備し、その筐体の所要の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介在させて取り付けたことを特徴とする。
【0007】
このように、面板部と補強部材との接触面において、所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介して補強部材を面接着するようにすれば、接着自体が製品表面に影響を与えることがないので、ポイント接着に比して製品の外観品質を有効に向上させることができる。また、部材間をほぼ全面接着できるので、面板部全体の強度を有効に高め、あるいは強度を損なわずに筐体の面板部自体の更なる薄肉化を有効に実現すること等が可能となる。
【0008】
補強部材の導入による更なる効果を得るためには、側板同士を接続する天板及び底板が面板部の前縁側に幅方向に延びる補強部材を有し、これら天板及び底板の補強部材と左右の側板の前縁側に設けた補強部材とを連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部を構成していることが効果的である。
【0009】
補強部材による面板部の補強効果を更に高めるためには、面板部の縁部に折り曲げ部を形成し、補強部材の対応する縁部にも前記折り曲げ部の内側に嵌り合う折り曲げ部を形成して、両折り曲げ部を嵌め合わせた状態で補強部材を面板部に取り付けていることが好ましい。
【0010】
接着剤による補強を筐体の構造と組み合わせて一層の効果を得るためには、両折り曲げ部同士の接触面の少なくとも一部にも、折り曲げ方向と直交する方向に沿ってそのほぼ全域に亘り接着剤を介在させていることが望ましい。
【0011】
特に、筐体に作用する圧縮強度に対して高い補強効果を得るためには、金属板を折り曲げることにより面板部を主体とする背板及び側板を形成して、側板の前後2箇所に上下に延びる補強部材を接着剤を介在させて取り付け、そのうち前側の補強部材の一部に形成した折り曲げ部を側板の前縁部に形成した折り曲げ部に嵌め合わせていることが望ましい。
【0012】
僅かな構成の追加によって面板部の強度を更に向上させるためには、所定方向に沿った間欠位置に、接着剤による接着層に加えて溶接等によるポイント接着部を備えていることが好適である。
【0013】
そして、複数種類の家具に亘って製造コストの削減を有効に図るためには、補強部材を棚取付部として棚を取り付ける態様、補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付ける態様、または補強部材を引出取付部として利用して引出を取り付ける態様をとり得るようにしていることが好ましい。
【0014】
補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付ける場合に、簡単な構成によって扉の面強度も有効に補うためには、当該扉を構成する金属製の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り介在させた接着剤のみによって或いは当該接着剤を主体として取り付けていることが簡便である。
【0015】
一方、本発明は、熱硬化性の接着剤とポイント接着との組み合わせの態様によって、外観や強度、コストを総合的に勘案した効果的な家具を構成することができる。
【0016】
すなわち、本発明の家具は、少なくとも外観表面を構成する面材の裏面に対する補強材を、熱硬化性の接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けることを特徴とする。外観品質を可能な限り向上させることができるからである。ここで、家具の外観表面とは、設置状態で家具の外部に露出する面をいう。
【0017】
この場合、家具の外観表面を構成しない面材の裏面に対する補強材は、ポイント接着によって取り付けられていることが望ましい。外観に影響が現われなければ、接着剤の使用量を節約してコスト削減が図れるからである。
【0018】
同様の趣旨で、面材と面材との組み付け部分であって外嵌表面を構成しない部位同士の間も、ポイント接着によって接合されていることが望ましい。
【0019】
そして、面材の裏面に補強材を、接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けて家具構成部材を予め構成すると、取り扱いが簡素で、外観品質の良好な家具に組み立てることができる。
【0020】
一方、本発明に係る家具の製造方法は、家具の筐体を構成する面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り熱硬化性の接着剤を塗布した上で添設し、当該補強部材を溶接等によるポイント接着によって面板に仮固定した後、熱により接着剤を硬化させて面板部と補強部材とを面接着するようにしていることを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、接着剤を単純に塗布し、必要最小限の箇所に溶接等を施した後に熱処理を施すだけで、面板部に対して補強部材を高い強度の下に取り付けることができる。このため、工数を増やすことなく、薄肉な面板部からなる家具の筐体に必要な強度を有効に付与することが可能となる。
【0022】
熱硬化に必要な別段のプロセスを不要とするためには、化成処理に伴う洗浄後の乾燥工程の熱を利用して行うようにしていることが望ましい。
【0023】
同じ趣旨で、熱による接着剤の硬化を、塗料を塗布した後に焼き固める工程時の熱を利用して行うことも望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上説明した構成であるから、溶接痕を極力少なくして製品の外観品質を確実に向上させるとともに、強度を損なわずに筐体の面板部の薄肉化が可能、若しくは筐体自体の強度を向上させることも可能であり、生産効率も有効に向上させることができるようにした、新規有用な構造及び工程からなる家具及び家具の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
この実施形態に係る家具の筐体Aは、図1及び図2に示すように、金属板である一枚の板金を折り曲げることによって背板1及び左右の側板2からなる背側板を形成し、その上下に、同じく板金製の天板3及び底板4を取り付けて、前方を開口部としている。
【0027】
側板2は、面板部21の上下に略水平な上折り曲げ片22および下折り曲げ片23を形成し、前縁側に前折り曲げ部24を形成している。前折り曲げ部24は、図2及び図3に示すように、側板の前面(見付け面)となる前片24aと、嵌め合わせに必要な見込みを与える内側片24bと、その内縁に更に続く後片24cとを有し、面板部21を含めて一部開放された部分角筒状をなすもので、これら後片24c、内側片24b、前片24a及び面板部21でほぼ包囲される部位の内側に嵌め合わせ部が設定されている。図2に示す背板1にも、面板部11の上下に略水平な上折り曲げ片12および下折り曲げ片13が形成されている。
【0028】
そして、前記側板2の前後2箇所に、面板部21を補強すべく上下方向に延びる前補強部材25及び後補助部材26を取り付けている。前補強部材25は、側板2の面板部21の内面に面接触する前後の取付片25a、25bと、これらの取付片25a、25bの間に内向き凸状に設けた突出部25cからなり、この突出部25cの前縁側に、階段状に屈曲した折り曲げ部25dが形成されている。この折り曲げ部25dは、内側の前向片25d1の外側に見込み方向の縦片25d2、外側の前向片25d3及び前記取付片25aが順次屈曲させて連設されたコ字形をなすものである。そして、この折り曲げ部25dは、前述した側板21の折り曲げ部24に嵌り合っている。すなわち、前補強部材25と側板2との関係は、前者の内側の前向片25d1と後者の後片24c、前者の外側の前向片25d3と後者の前片24a、前者の前取付片25aと後者の面板部21がそれぞれ面接触し、前者の折り曲げ部25のうちの縦片25d2、外側の前向片25d3及び前取付片25aの3面が後者の折り曲げ部24の後片24c、前片24a及び面板部21によって三方から規制された状態となるようにしている。このとき、内側の前向片25d1と後片24c、後取付片25bと面板部21も面接触状態となる。また、後補強部材26は、側板2の面板部21の内面に面接触する取付片26a及び線接触する前片26bと、これら取付片26a及び前片26bの間に内向き凸状に設けた突出部26cとからなる。
【0029】
天板3は、図2及び図4に示すように、面板部31の前縁に前折り曲げ部35を形成している。前折り曲げ部35は、天板3の前面(見付け面)となる前片35aと、嵌め合わせに必要な見込みを与える水平片35bとからなる概略L字形のもので、面板部31、前片35a及び水平片35bにかけての内側のチャネル部分に嵌め合わせ部が設定されている。
【0030】
そして、天板3の前縁側の下面に、面板部31を補強すべく幅方向に延びる補強部材36を取り付けている。この補強部材36は、天板3の面板部31の下面に面接触する前後の取付片36a、36bと、これらの取付片36a、36bの間に下向き凸状に設けた突出部36cとからなり、この突出部36cを構成する前片36c1及び下片36c2が前取付片36aとともに折り曲げ部36dとして設定されている。そして、この折り曲げ部36dは、前述した天板3の折り曲げ部35に嵌り合っている。すなわち、補強部材36と天板3との関係は、前者の取付片36aと後者の面板部31、前者の前片36c1と後者の前片35a、前者の下片36c2と後者の水平片35bがそれぞれ面接触し、前者の三面は後者によって三方から規制された状態となるようにしている。
【0031】
底板3は、図2及び図5に示すように、面板部41の左右及び後部に下向の立片42、43を有し、さらに前縁部に前折り曲げ部45を形成している。前折り曲げ部45は、底板4の前面(見付け面)となる前片45aと、嵌め合わせに必要な見込みを与える水平片45bとからなる概略L字形のもので、面板部41、前片45a及び水平片45bにかけての内側のチャネル部分に嵌め合わせ部が設定されている。
【0032】
そして、底板4の前縁側の下面に、面板部41を補強すべく幅方向に延びる補強部材46を取り付けている。この補強部材46は、底板4の面板部41の下面に面接触する前後の取付片46a、46bと、これらの取付片46a、46bの間に下向き凸状に設けた突出部46cとからなり、この突出部46cを構成する前片46c1及び下片46c2が前取付片46aとともに折り曲げ部46dとして設定されている。そして、この折り曲げ部46dは、前述した底板4の折り曲げ部45に嵌り合っている。すなわち、補強部材46と底板4との関係は、前者の取付片46aと後者の面板部41、前者の前片46c1と後者の前片45a、前者の下片46c2と後者の水平片45bがそれぞれ面接触し、前者の三面は後者によって三方から規制された状態となるようにしている。
【0033】
なお、底板4の幅方向に離間した2箇所にも、図2に示すように、面板部41を補強すべく前後方向に延びる補強部材47を取り付けている。この補強部材47は、上向きに開口するチャネル状のもので、上水平片47aを底板4の面板部41の下面に面接触させ、底部にアジャスタが取り付けられるようにしている。
【0034】
そして、これら左右の側板2、背板1、天板3及び底板4は、次のプロセスによって図1に示す箱状に組み付けてられている。
【0035】
先ず、側板2及び背板1からなる背側板を構成するにあたり、好ましくは図6(a)→(b)に示すように事前に側板2の面板部21に補強部材25、26を取り付けた上で、図2に示すように側板2及び背板1の面板部21、11に水平片22、23、12、13を形成し、また、図3に示すように補強部材25の折り曲げ部25dに側板2の折り曲げ部24を成形しながら嵌め合わせる。そして、背板1と側板2との境界部分を図2に示す折り曲げ状態にする。一方、図4及び図5に示す天板3及び底板4も、好ましくは面板部31、41に補強部材36、46を取り付けた上で立片45aや水平片45bを立片46c1や46c2を抱くように形成する。補強部材25、26を対応する面板部21に取り付ける際は、図3及び図6(a)に示すように接触面となる取付片25b、26aの裏面に長手方向ほぼ全域に沿って樹脂硬化性の接着剤S(網掛け部分)を塗布し、その接着剤Sを介して補強部材25、26を面板部31に添設する。また、図示例のように前補強部材25の前向片25d3の表面にも接着剤Sを塗布しておき、前補強部材25及び面板部21の両折り曲げ部25d、24同士が嵌まり合った際に、前向片25d3と前片24aとの間に接着剤Sが介在するようにしておくことが望ましい。但し、この部位を接着剤Sで接着せずとも強度的には十分に耐用するものである。図2及び図4に示す補強部材36と天板3の面板部31も同様で、前者の取付片36bと後者の面板部31との間、前者の前片36c1と後者の前片35aとの間にも接着剤Sを介在させておく。図示例では、図2及び図5に示す補強部材46と底板4の面板部41との関係においても、前者の取付片46bと後者の面板部41との間、前者の前片46c1と後者の前片45aとの間に接着剤Sを介在させているが、この部位は天板3や側板2などとは違って外観品質に影響が少ないため、接着剤に掛ける費用を削減するためにポイント接着のみに頼ってもよい。これは補強部材47と底板4の面板部41との関係にも同様である。
【0036】
この場合、熱硬化性の接着剤Sは、熱を加えない限り接着機能を発揮しないので、例えば図6(b)に示す補強部材25、26では、長手方向の所要箇所に溶接等のポイント接着部Pを設けておく。この溶接等には、いわゆるスポット溶接と称される抵抗溶接を始めとして、ガス溶接やアーク溶接、或いはレーザ溶接その他のポイント接着手段が含まれる。他の補強部材36、46、47においても同様である。
【0037】
通常の筐体の大きさの場合、上記のポイント接着は8箇所あるいはそれ以上に施さなければならないところ、この実施形態のポイント接着はあくまで補強部材が脱落しないように、或いは面材との間に隙間が生じないように仮止めするだけであるため、3箇所程度で十分である。勿論、大型の筐体になればポイント接着部は若干増やすことが好ましい。
【0038】
接着剤としては、この種の筐体の板材には通常、亜鉛めっき鋼板などが用いらることが多い点を考慮して、油面接着性があるもの、すなわち脱脂をせずに接着できるものを選定する。アクリル系やエポキシ系の接着剤では固まってしまうので、硫黄系硬化剤であるポリブタジエンゴム等を用いることが好ましい。この種の接着剤が機能する温度は概ね155℃〜160℃であり、通常の雰囲気下においては勿論のこと、例えば100℃程度であっても殆ど作用することはない。このため、長時間大気に晒しても殆ど機能が損なわれることがなく、二液反応剤のように塗布しただけで硬化することもないなど、接着剤に対してメンテナンスフリーである。
【0039】
そして、図2→図1のように、側板2及び背板1に天板3及び底板4を取り付ける。天板3は側縁を側板2及び背板1の上片22、12の下面に潜り込んだ位置で重合させ、底板4は立片42、43を側板2及び背板1の内面に重合させる。その際、図7に示すように、左右の側板2の前補強部材25と天板3及び底板4の補強部材36、46とをこの実施形態ではL字形の連結金具5で連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部Bを構成している。側板2や背板1に対する天板3及び底板4の連結や、補強部材25、36、46に対する連結金具5の連結などには、適宜の手法を採用することができる。
【0040】
そして、以上のように組み立てた筐体Aに対して、化成処理を施す。化成処理は、後に行う塗装の付き回りを良くし、防錆性能等をも高めるためのもので、表面に所要の薬品を塗布し、洗浄して、水切り乾燥させる工程からなる(図示省略する)。この化成処理の際の熱によって、先に塗布した熱硬化性の接着剤Sが反応し、例えば図8に示す補強部材25と側板2との関係では、接触面である前者の前向片25d3と後者の前片24a、前者の取付片25bと後者の面板部21が、長手方向に沿ったほぼ全域において同図(a)→(b)に示すように接着材Sの硬化とともに接着する。接着剤Sを設けた他の部分における接触面同士の関係においても同様である。
【0041】
そして、上記の熱処理後に塗装工程を施す。この塗装工程において、粉体塗料を塗布した後に焼き固める際の熱によっても接着剤Sの硬化が進む。そして、両熱処理工程時の温度は熱硬化性の接着剤Sが機能する温度条件を満たすため、これらによって接着剤Sはほぼ完全に硬化して、面材同士を強固に接着させるという作用を発現する。しかして、以上の工程を経ることによって、最終的に図1に示す家具の筐体Aが完成される。
【0042】
図9は上記の筐体Aを使用したオープン収納家具6であり、図10は上記の筐体Aを使用した扉式の収納家具7であり、図11は上記の筐体Aを使用した引出式の収納家具8である。図9に示すオープン収納家具6では、前補強部材25及び後補強部材26を棚取付部として利用し、前補強部材25の後向面及び後補強部材26の内面に所定ピッチで設けたフック孔25x、26xに棚爪61を介して棚62を掛止できるようにしている。また、図10に示す扉式の収納家具7では、前補強部材25を扉取付部として利用し、これに兆番71を取り付けてその兆番71に扉72を両開き可能に支持させている。この扉72は面板部73を主体とする金属製のものであり、その面板部73を補強するために上下方向に延びる補強部材74が当該面板部73の幅方向中央部における裏面に接着のみによって取り付けてある。補強部材74はチャネル状の突出部74aの両側に鍔部74bを設けたものであり、その鍔部74bが面板部5との接触面となって、長手方向(上下方向)のほぼ全域に亘り接着剤を介して接着している。接着のみによる場合は、接着剤には熱硬化性でないものを使用できるのは勿論であるが、熱硬化性の接着剤を用いる場合には必要に応じて熱を加えるまでの間を簡単な手段によって仮保持しておけばよい。勿論、上記と同様、熱硬化性の接着剤Sとポイント接着からなる取付構造、取付方法を利用してもよく、本発明の趣旨に基づけばむしろ好ましい。さらに、図11に示す引出式の収納家具8では、前補強部材25及び後補強部材26を引出取付部として利用し、これにレール81を介して引出82を取り付けている。
【0043】
以上のように、この実施形態に係る家具は、複数の金属製の面板部11、21、31、41からなる筐体Aを具備し、その筐体Aの各面板部11、21、31、41に対して面強度を補う補強部材25、26、36、46を、当該面板部11、21、31、41と補強部材25、26、36、46との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤Sを介在させて取り付けたものである。
【0044】
このように構成すれば、接着自体が製品表面に影響を与えることがないので、単にポイント接着のみに頼る場合に比して製品の外観品質を有効に向上させることができる。また、部材間をほぼ全面接着できるので、面板部25、26、36、46の強度を全体として有効に高めることができる。逆に言えば、これらの面板部25、26、36、46自体の更なる薄肉化にも資することができ、大量生産の場合に材料コストを確実に削減できるとともに、家具の軽量化も有効に実現することができる。
【0045】
この場合、本実施形態では、側板2、2同士を接続する天板3及び底板4が面板部31、41の前縁側に幅方向に延びる補強部材36、46を有し、これら天板3及び底板4の補強部材36、46と左右の側板2の前縁側に設けた前補強部材25とを連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部Bを構成している。このため、天板3、底板4及び側板2自体も補強部材36、46、25によってそれらの面板部31、41、21が補強されるとともに、天板3、底板4及び左右の側板2を組み付けた際に構成される枠体状の構造部Bによって開口部の周囲、ひいては筐体A全体の強度を相乗的に高めることができる。
【0046】
特に、面板部21、31、41の縁部に折り曲げ部24、35、45を形成し、補強部材25、36、46の対応する縁部にも前記折り曲げ部24、35、45の内側に嵌り合う折り曲げ部を25d、36d、46d形成して、両折り曲げ部24、25d同士、35、36d同士、45、46d同士を嵌め合わせた状態で補強部材24、35、45を面板部21、31、41に取り付けているので、折り曲げ部24、35、45によって面板部21、31、41の面強度が増すだけでなく、これに補強部材25、36、46の折り曲げ部25d、36d、46dを嵌め合わせるので、面板部21、31、41の折り曲げ部24、35、45が補強されると同時に、面板部21、31、41と補強部材25、36、46との接合強度も高まり、全体として補強部材25、36、46による面板部21、31、41の補強効果が有効に向上することになる。
【0047】
より具体的には、両折り曲げ部24、25d同士、35、36d同士、45、46d同士の各接触面の少なくとも一部にも、折り曲げ方向と直交する方向に沿ってそのほぼ全域に亘り接着剤Sを介在させているので、折り曲げ部24、35、46の強度、ひいてはそれを設けた面板部21、31、41の強度を更に向上させることができる。
【0048】
特に、本実施形態では、金属板を折り曲げることにより面板部11、21を主体とする背板1及び側板2を形成して、側板2の前後2箇所に上下に延びる補強部材25、36を接着剤Sを介在させて取り付け、そのうち前側の補強部材25の一部に形成した折り曲げ部25dを側板2の前縁部に形成した折り曲げ部24に嵌め合わせている。このように、鉛直荷重を受ける立面となる背板1及び側板2を一枚の金属板から構成し、とりわけ棚荷重や扉荷重、引出荷重などが作用して圧縮荷重が掛かり易い立面である左右の側板2を上記のように補強しているため、筐体Aの強度を効果的に高めることができる。勿論、大型の筐体を構成する場合等には、背板と側板を別々に構成して接合することを妨げない。この場合にも、各面材に高い剛性を付与できるので、筐体全体に必要な強度向上は十二分に見込めるものである。
【0049】
加えて、本実施形態は、所定方向に沿った間欠位置に、接着剤Sによる接着層に加えて溶接等によるポイント接着部Pを備えているので、接着剤Sのみによる場合に比して、僅かなポイント接着部Pの導入だけであっても面板部21、31、41の強度を更に向上させることができる。
【0050】
そして、本実施形態では、補強部材25を棚取付部として利用して棚62を取り付ける態様、補強部材25を扉取付部として利用して扉72を取り付ける態様、または補強部材25を引出取付部として利用して引出82を取り付ける態様を、選択的にとり得るようにしている。このように、補強部材25に付与する機能次第で、共通の筐体Aからオープン収納家具6、扉式収納家具7、引出式収納家具8などに容易かつ多様に展開することができ、これにより複数種類の家具に亘って製造コストの大幅な削減を図ることが可能となる。
【0051】
また、補強部材25を扉取付部として利用して扉72を取り付ける場合に、当該扉72を構成する金属製の面板部73に対して面強度を補う補強部材74を、当該面板部73と補強部材74との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り介在させた接着剤のみによって取り付けてあるので、簡単な構造で扉72の面強度も有効に確保することができる。
【0052】
一方、本実施形態は、熱硬化性の接着剤Sとポイント接着との組み合わせの態様によって、外観や強度、コストを総合的に勘案した効果的な家具を実現しているものである。
【0053】
先ず、少なくとも外観表面を構成する面材、例えば天板3や側板2の裏面に対する補強材36,25,26を、熱硬化性の接着剤Sと最小限のポイント接着部Pとによって取り付けているため、溶接痕を可能な限り減らして、外観品質を向上させているものである。
【0054】
ここに言う家具の外観表面とは、設置状態で家具の外部に露出する面、すなわち外向き面であり、底板の底面などは内向き面であるため含まれない。接眼し難く、溶接痕がわかり難いからである。
【0055】
そして、上記実施形態では、家具の外観表面を構成しない面材、例えば底板4の裏面に対する補強材46,47などにも接着剤Sを適用した例を示したが、これらは上記の趣旨からポイント接着のみによって取り付けることも有効であり、接着剤の使用量を節約してコストを有効に削減することができる。
【0056】
同様の趣旨で、面材と面材との組み付け部分であって外嵌表面を構成しない部位、例えば連結金具5に対する接着などは、ポイント接着によって接合されていることが望ましい。
【0057】
そして、予め各面材の裏面にこれらの補強材を、接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けて背側板等の家具構成部材を構成することで、取り扱いが容易になり、外観品質の良好な家具に組み立てることができる。
【0058】
一方、本実施形態における家具の製造方法は、家具の筐体Aを構成する面板部21、31、41に対して面強度を補う補強部材25、26、36、46を、当該面板部21、31、41と補強部材25、26、36、46との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り熱硬化性の接着剤Sを塗布した上で添設し、当該補強部材25、26、36、46を溶接等によるポイント接着によって面板21、31、41に仮固定した後、熱により接着剤Sを硬化させて面板部21、31、41と補強部材25、26、36、46とを本接着するようにしているので、接着剤Sを単純に塗布し、必要最小限の箇所に溶接等を施した後に熱処理を施すだけで、面板部21、31、41に対して補強部材25、26、36、46を高い強度の下に取り付けることができる。このため、工数を増やすことなく、薄肉な面板部21、31、41を含む筐体Aに必要な強度を有効に付与することが可能となる。特に、熱硬化性の接着剤Sは、接着する意思をもって所要の熱を加えない限り硬化が始まらないので、塗布した後に暫く放置したとしても、或いは面材が捩れた状態にあったとしても、その捻れた状態のままで部材が固まってしまうことがない。このため、煩わしい管理等を要求されずに精度の高い製品製造が可能になる。
【0059】
特に、熱による接着剤Sの硬化を、化成処理時の水切り乾燥時の熱を利用して行うようにしているので、熱硬化に必要なプロセスを敢えて設けなくてよく、製造効率を有効に担保することができる。
【0060】
加えて、熱による接着剤Sの硬化を、塗装工程において粉体塗装を焼き固める際の熱をも利用して行うようにしているので、工程を増やさずにより確実な接着作用を担保することができる。そして、最後に熱処理後に塗装工程を施すようにしているので、接着面からの接着剤の漏出などがあっても、これらを隠蔽して筐体Aの外観、ひいては家具の外観を有効に向上させることが可能となる。
【0061】
また、上記で採用している接着剤の効果としては、叙述したゲル状の状態にあるため、所要箇所に塗布した後に仮に面材を立て掛けることによって塗布面が傾いても、流れ落ちるようなことがないし、柔らかくて塗り易いなど取り扱いに極めて好都合である。そして、この種の接着剤には部材を引っ張る作用はないため、面材と補強材とを接着剤を介して突合せ、ポイント接着した状態で面材に応力が残っていて若干の捩れ等が存するときにも、化成処理や塗装の工程時までに応力がとれれば、面材に捩れのない状態に戻ることを許容し、その状態を待って接着剤が硬化して補強材を接着することを可能にする。また、部材間に僅かな隙間が残ったとしても、塗布したときに接着剤にはある程度の厚みがあるため、隙間を埋める充填剤としての効果も期待することができる。
【0062】
上記の工程を極力オートメーションで行うとするならば、その概要は、板金に対して接着剤を塗布する工程、補強を載せ置いてポイント接着する工程、曲げ加工を施す工程、背側板に頂板や底板を周辺の折り曲げ部分における合わせを利用して組み付ける工程、所要箇所を溶接する工程、化成処理の工程、塗装処理の工程となる。
【0063】
接着剤の塗布工程では、接着剤をポンプで送って数値制御で所要箇所に所要長さで塗布する。上記の種類の接着剤Sであれば通常温度では変化せず、言うなれば歯磨き粉のような柔らかいゲル状の状態がほぼ一定に保たれるので、ポンプで送ってノズルからインジェクトし易く、制御に適する。その後に塗布した状態が適切に維持されるのは叙述したとおりである。
【0064】
補強材に対する溶接は、溶接ガンを用いNCによって所定箇所に施す。インバータ溶接機などを用いれば、電流をコントロールでき、溶接痕を極力目立ちにくくすることができる。
【0065】
化成処理や塗装処理は、筐体を吊るした状態にて順次搬送しながら処理することが好ましい。筐体全体に均一に熱を作用させることができ、捩れの原因となるような応力も作用し難いため面精度が上がることが期待できる。
【0066】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0067】
例えば、図12に側板2の面板部21と前補強部材25との関係を例にとって示すように、補強部材25と面板部21の間に空洞xを設け、接触面からの接着剤Sの漏出があった場合にこれを空洞xに逃がす構造にすれば、接着剤Sの食み出しを回避することができ、簡単な構造で仕上がり状態を良好に保つことができる。特に開けた状態で視認され易い扉などは有効である。
【0068】
また、上記実施形態では側板、天板及び底板に対して本発明を適用しているが、特に補強を要する部位、例えば側板のみに本発明を適用してもよいのは勿論である。
【0069】
さらに、筐体を共用して複数の家具を構成するに際して、補強部材の形態が多少異なることは本発明の本質的要件ではないし、或いは、筐体の寸法を多少変えたとしても、本発明の基本的な作用効果は十分に奏することができる。
【0070】
さらにまた、例えば兆番取付用の金具を側板に取り付ける場合等には、二液硬化型の接着剤、アクリルのハネムーンタイプ接着剤などを用いて、完全な溶接レスを実現することも有効である。この種の接着剤は、塗布した瞬間に固化が始まるため、大きな補強材などは面材が捻った状態で接着する不都合が生じ易いが、比較的小さな領域で面材に取り付けられる上記の類の部品などについては、捩れもさして問題にならず、体積収縮の少ないものを選択すれば外観品質にも影響を与えないため、このような接着剤のみによってスポット等の溶接を全く行わずに取り付けを完了することも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る家具の筐体を示す斜視図。
【図2】図1の分解斜視図。
【図3】側板の面板部と補強部材との関係を示す図。
【図4】天板の面板部と補強部材との関係を示す図。
【図5】底板の面板部と補強部材との関係を示す図。
【図6】側板の面板部に対する補強部材の取付工程を示す斜視図。
【図7】筐体の開口部周縁に形成される構造部を示す図。
【図8】同実施形態で用いた接着剤の作用を示す図3に対応した図。
【図9】同実施形態の筐体を使用したオープン収納家具の斜視図。
【図10】同実施形態の筐体を使用した扉式収納家具の斜視図。
【図11】同実施形態の筐体を使用した引出式収納家具の斜視図。
【図12】接着剤周辺の構造の変形例を示す図。
【符号の説明】
【0072】
1…背板
2…側板
3…天板
4…底板
6…オープン収納家具
7…扉式収納家具
8…引出式収納家具
21,31,41…面板部
24、35、45…面板部の折り曲げ部
25,26,36,46…補強部材
25d、36d、46d…補強部材の折り曲げ部
36、46…補強部材
62…棚
72…扉
82…引出
A…筐体
B…構造部
P…ポイント接着部
S…接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属製の面板部からなる筐体を具備し、その筐体の所要の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介在させて取り付けたことを特徴とする家具。
【請求項2】
側板同士を接続する天板及び底板が面板部の前縁側に幅方向に延びる補強部材を有し、これら天板及び底板の補強部材と左右の側板の前縁側に設けた補強部材とを連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部を構成している請求項1記載の家具。
【請求項3】
面板部の縁部に折り曲げ部を形成し、補強部材の対応する縁部にも前記折り曲げ部の内側に嵌り合う折り曲げ部を形成して、両折り曲げ部を嵌め合わせた状態で補強部材を面板部に取り付けている請求項1又は2記載の家具。
【請求項4】
両折り曲げ部同士の接触面の少なくとも一部にも、折り曲げ方向と直交する方向に沿ってそのほぼ全域に亘り接着剤を介在させている請求項3記載の家具。
【請求項5】
金属板を折り曲げることにより面板部を主体とする背板及び側板を形成して、側板の前後2箇所に上下に延びる補強部材を接着剤を介在させて取り付け、そのうち前側の補強部材の一部に形成した折り曲げ部を側板の前縁部に形成した折り曲げ部に嵌め合わせている請求項3又は4記載の家具。
【請求項6】
所定方向に沿った間欠位置に、接着剤による接着層に加えて溶接等によるポイント接着部を備えている請求項1〜5記載の家具。
【請求項7】
補強部材を棚取付部として棚を取り付ける態様、補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付ける態様、または補強部材を引出取付部として利用して引出を取り付ける態様をとり得るようにしている請求項1〜6記載の家具。
【請求項8】
補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付けるとともに、当該扉を構成する金属製の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り介在させた接着剤のみによって或いは当該接着剤を主体として取り付けている請求項1〜6記載の家具。
【請求項9】
少なくとも家具の外観表面を構成する面材の裏面に対する補強材は、熱硬化性の接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けられていることを特徴とする家具。
【請求項10】
家具の外観表面を構成しない面材の裏面に対する補強材は、ポイント接着によって取り付けられている請求項9記載の家具。
【請求項11】
面材と面材との組み付け部分であって外嵌表面を構成しない部位同士の間は、ポイント接着によって接合されている請求項9又は10記載の家具。
【請求項12】
請求項1〜11記載の家具を構成するものであって、面材の裏面に補強材を、接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けてなることを特徴とする家具構成部材。
【請求項13】
家具の筐体を構成する面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り熱硬化性の接着剤を塗布した上で添設し、当該補強部材を溶接等によるポイント接着によって面板に仮固定した後、熱により接着剤を硬化させて面板部と補強部材とを面接着するようにしていることを特徴とする家具の製造方法。
【請求項14】
熱による接着剤の硬化を、化成処理に伴う洗浄後の乾燥工程時の熱を利用して行うようにしている請求項13記載の家具の製造方法。
【請求項15】
熱による接着剤の硬化を、塗料を塗布した後に焼き固める工程時の熱を利用して行うようにしている請求項13又は14記載の家具の製造方法。
【請求項1】
複数の金属製の面板部からなる筐体を具備し、その筐体の所要の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り接着剤を介在させて取り付けたことを特徴とする家具。
【請求項2】
側板同士を接続する天板及び底板が面板部の前縁側に幅方向に延びる補強部材を有し、これら天板及び底板の補強部材と左右の側板の前縁側に設けた補強部材とを連結して、開口部の周囲に枠体状の構造部を構成している請求項1記載の家具。
【請求項3】
面板部の縁部に折り曲げ部を形成し、補強部材の対応する縁部にも前記折り曲げ部の内側に嵌り合う折り曲げ部を形成して、両折り曲げ部を嵌め合わせた状態で補強部材を面板部に取り付けている請求項1又は2記載の家具。
【請求項4】
両折り曲げ部同士の接触面の少なくとも一部にも、折り曲げ方向と直交する方向に沿ってそのほぼ全域に亘り接着剤を介在させている請求項3記載の家具。
【請求項5】
金属板を折り曲げることにより面板部を主体とする背板及び側板を形成して、側板の前後2箇所に上下に延びる補強部材を接着剤を介在させて取り付け、そのうち前側の補強部材の一部に形成した折り曲げ部を側板の前縁部に形成した折り曲げ部に嵌め合わせている請求項3又は4記載の家具。
【請求項6】
所定方向に沿った間欠位置に、接着剤による接着層に加えて溶接等によるポイント接着部を備えている請求項1〜5記載の家具。
【請求項7】
補強部材を棚取付部として棚を取り付ける態様、補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付ける態様、または補強部材を引出取付部として利用して引出を取り付ける態様をとり得るようにしている請求項1〜6記載の家具。
【請求項8】
補強部材を扉取付部として利用して扉を取り付けるとともに、当該扉を構成する金属製の面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り介在させた接着剤のみによって或いは当該接着剤を主体として取り付けている請求項1〜6記載の家具。
【請求項9】
少なくとも家具の外観表面を構成する面材の裏面に対する補強材は、熱硬化性の接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けられていることを特徴とする家具。
【請求項10】
家具の外観表面を構成しない面材の裏面に対する補強材は、ポイント接着によって取り付けられている請求項9記載の家具。
【請求項11】
面材と面材との組み付け部分であって外嵌表面を構成しない部位同士の間は、ポイント接着によって接合されている請求項9又は10記載の家具。
【請求項12】
請求項1〜11記載の家具を構成するものであって、面材の裏面に補強材を、接着剤と最小限のポイント接着とによって取り付けてなることを特徴とする家具構成部材。
【請求項13】
家具の筐体を構成する面板部に対して面強度を補う補強部材を、当該面板部と補強部材との接触面の少なくとも一部に所定方向ほぼ全域に亘り熱硬化性の接着剤を塗布した上で添設し、当該補強部材を溶接等によるポイント接着によって面板に仮固定した後、熱により接着剤を硬化させて面板部と補強部材とを面接着するようにしていることを特徴とする家具の製造方法。
【請求項14】
熱による接着剤の硬化を、化成処理に伴う洗浄後の乾燥工程時の熱を利用して行うようにしている請求項13記載の家具の製造方法。
【請求項15】
熱による接着剤の硬化を、塗料を塗布した後に焼き固める工程時の熱を利用して行うようにしている請求項13又は14記載の家具の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−101097(P2009−101097A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287951(P2007−287951)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】
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