説明

家屋倒壊領域抽出システム、家屋倒壊領域抽出方法、及び家屋倒壊領域抽出プログラム

【課題】航空画像として地震発生後に撮影されたものだけを用いて、家屋倒壊領域を好適な精度で抽出する。
【解決手段】記憶装置6は、航空画像に現れる倒壊家屋、非倒壊家屋、植生等の地物についてのスペクトル情報を予め記憶する。演算処理装置4は領域分割手段20により、スペクトル情報に基づいて、航空画像を地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する。さらにテクスチャ解析手段24により、オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した家屋倒壊領域を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上空から撮影された画像から家屋倒壊領域を抽出する家屋倒壊領域抽出システム、家屋倒壊領域抽出方法、及び家屋倒壊領域抽出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機などによる上空からのリモートセンシングは、広範囲での地上の状況把握が可能であり、地震災害等の状況把握に利用されている。
【0003】
地震災害時、上空からの高分解能の画像を利用して家屋の被害状況を把握する従来の方法として、地震発生後の単画像、又は地震発生前後の2時期の画像を用いた目視判読による方法や、地震発生前後2時期の画像やDSM(Digital Surface Model:数値表層モデル)データを用いる自動判読方法、地震発生前の二次元(2D)・三次元(3D)の家屋データと地震発生後の画像とを用いる自動判読方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−284539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
災害においてはその被害状況をいち早く把握することが非常に重要である。この点、目視判読による方法は、判読時間を要するため家屋被害情報を迅速に取得することが困難であるという問題があった。
【0006】
地震発生前後の2時期のデータによる自動判読の場合は、地震発生前のアーカイブデータの取得や整備が必要であるという問題が存在する。
【0007】
一方、地震発生後の単画像のみによる自動判読においては、画像中の倒壊家屋の領域と非倒壊家屋の領域とはピクセルレベルでの相違が明確でない。そのため、それら領域を弁別するための好適な指標の設定や閾値設定が難しく、家屋倒壊領域の誤抽出や抽出漏れが生じやすく、精度の確保が難しいという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、地震発生後の単画像を用いて家屋倒壊領域を迅速かつ良好な精度で抽出することができる家屋倒壊領域抽出システム、家屋倒壊領域抽出方法、及び家屋倒壊領域抽出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る家屋倒壊領域抽出システムは、上空から撮影された画像に現れる地物についてのスペクトル情報を予め記憶する記憶手段と、前記画像を前記スペクトル情報に基づいて、前記地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する領域分割手段と、前記オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、前記オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した家屋倒壊領域を抽出するテクスチャ解析手段と、を有する。
【0010】
上記家屋倒壊領域抽出システムにおいて、前記記憶手段に、さらに前記オブジェクト領域についての幾何条件を記憶し、前記領域分割手段が、前記スペクトル情報及び前記幾何条件に基づいて前記領域分割を行うものとすることもできる。
【0011】
また、上記家屋倒壊領域抽出システムは、前記スペクトル情報に基づいて、前記オブジェクト領域のうち植生及び水域に対応した特定スペクトル領域を検出するスペクトル解析手段を有し、前記テクスチャ解析手段が、前記特定スペクトル領域以外の前記オブジェクト領域から前記家屋倒壊領域を抽出するものであってもよい。
【0012】
また、上記家屋倒壊領域抽出システムは、上空から撮影された画像全体あるいは作業者が設定した任意の領域におけるエッジの乱雑さの相違に基づいて、前記家屋倒壊領域と、非倒壊家屋に対応した前記オブジェクト領域とを区別するエッジ解析手段を有し、前記エッジ解析手段を前記テクスチャ解析手段と併用して前記家屋倒壊領域を抽出するものであってもよい。
【0013】
本発明に係る家屋倒壊領域抽出方法は、演算装置を用いて、上空から撮影された画像から家屋倒壊領域を抽出する方法であって、前記画像に現れる地物についてのスペクトル情報に基づいて、前記画像を前記地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する領域分割ステップと、前記オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、前記オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した前記家屋倒壊領域を抽出するテクスチャ解析ステップと、を有する。
【0014】
本発明に係る家屋倒壊領域抽出プログラムは、コンピュータを、上空から撮影された画像から家屋倒壊領域を抽出するシステムとして機能させるためのプログラムであって、当該コンピュータに、前記画像に現れる地物についてのスペクトル情報に基づいて、前記画像を前記地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する領域分割機能と、前記オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、前記オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した前記家屋倒壊領域を抽出するテクスチャ解析機能と、を実現させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、家屋倒壊領域を、地震発生後に上空から撮影した単画像に基づいて自動的に迅速かつ良好な精度で抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態である家屋倒壊領域抽出システムの概略の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態である家屋倒壊領域抽出システムの概略の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、実施形態である家屋倒壊領域抽出システム2の概略の構成を示すブロック図である。本システムは、演算処理装置4、記憶装置6、入力装置8及び出力装置10を含んで構成される。演算処理装置4として、本システムの処理を行う専用のハードウェアを作ることも可能であるが、本実施形態では演算処理装置4は、コンピュータ及び、当該コンピュータ上で実行されるプログラムを用いて構築される。
【0019】
演算処理装置4は、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)からなり、後述する領域分割手段20、スペクトル解析手段22、テクスチャ解析手段24及びエッジ解析手段26として機能する。
【0020】
記憶装置6は、演算処理装置4を上記各手段20〜26として機能させるためのプログラム及びその他のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データを記憶する。例えば、記憶装置6は、上空から撮影された画像に現れる各種の地物についてのスペクトル情報や、領域分割により生成されるオブジェクト領域が満たすべき条件である幾何条件を予め格納される。また、処理対象とされる上空からの撮影画像も記憶装置6に記憶させることができる。
【0021】
入力装置8は、キーボード、マウスなどであり、ユーザが本システムへの操作を行うために用いる。
【0022】
出力装置10は、ディスプレイ、プリンタなどであり、本システムにより抽出された家屋倒壊領域を画面表示、印刷等によりユーザに示す等に用いられる。また、家屋倒壊領域に関するデータを他のシステムで利用できるよう、データとして出力してもよい。
【0023】
図2は、家屋倒壊領域抽出システム2の概略の処理フロー図である。ユーザは、入力装置8を操作して、処理対象の画像を指定し、家屋倒壊領域の抽出処理を開始する(S30)。家屋倒壊領域抽出システム2が処理対象とする画像は、航空機や人工衛星等により上空から撮影した高解像度の画像である。当該画像は、基本的にはマルチスペクトル画像である。また、複数カメラを用いて撮影する場合には、ステレオ処理により作成したオルソ画像を用いることも可能である。なお、撮影されるスペクトルは、可視光域に加えて、例えば、赤外光域を含んでもよい。また、画像ファイルが表す画像全体を処理対象とすることも、当該画像の一部範囲をユーザが指定して処理対象とすることもできる。
【0024】
演算処理装置4は、家屋倒壊領域の抽出処理を起動されると(S30)、処理対象画像に現れる地物についてのスペクトル情報を記憶装置6から読み出し、当該スペクトル情報に基づいて、処理対象画像を地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する(領域分割処理S32)。例えば、地物として、倒壊家屋の他、非倒壊家屋、道路、樹木、草地、裸地及び水域が設定され、それらの像についてそれらを特徴付けるスペクトル情報が記憶装置6に格納される。領域分割処理S32により、互いに共通するスペクトル情報に適合する画像上のひとまとまりの画素群からなる部分領域が、それぞれ当該スペクトル情報に対応する地物のオブジェクト領域として抽出される。
【0025】
地物の種類によっては、オブジェクト領域の幾何条件を定義することが可能である。例えば、オブジェクト領域の面積及び周長それぞれの範囲や、面積と周長との関係を幾何条件とすることができる。例えば、比((周長)/面積)が最小値4πに近い程、オブジェクト領域は円や正方形等のコンパクトな形状に近くなり、当該比が大きくなるにつれ、形状は細長くなったり複雑なものとなる。そこで、例えば、倒壊家屋、非倒壊家屋のオブジェクト領域については当該比が比較的小さいといった条件を設定し、一方、道路については当該比が比較的大きくなり得るという条件を設定することができる。また、倒壊家屋、非倒壊家屋については、家屋について想定される一般的な建坪に基づいて、オブジェクト領域の面積に関し、その上限、下限等の条件を設定することもできる。
【0026】
このような幾何条件を記憶装置6に格納し、領域分割処理S32において、スペクトル情報に幾何条件を併用して領域分割を行うこともでき、これにより当該領域分割の精度の向上を図ることができる。
【0027】
演算処理装置4は、領域分割によりオブジェクト領域を定義した後、スペクトル情報に基づいて、倒壊家屋ではないと判断できるオブジェクト領域である特定スペクトル領域を検出し、当該特定スペクトル領域を家屋倒壊領域の抽出対象から除外する(スペクトル解析処理S34)。例えば、樹木、草地、水域のうち任意の領域を特定スペクトル領域とすることができる。
【0028】
具体的には、樹木、草地等の植生領域については、カラー画像において緑の強度が強くなるというスペクトル情報により特定スペクトル領域として検出することができる。また、可視光だけでなく近赤外光も含んだマルチスペクトル画像を処理対象画像とすれば、樹木の葉が近赤外光を強く反射する性質から植生領域を検出することもできる。例えば、植生領域を示す指標として、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)等が知られており、そのような植生指標をスペクトル情報として用い、植生に対応したオブジェクト領域を特定スペクトル領域として検出することができる。
【0029】
また、水域は全体的に反射率が低いが、青色寄りではやや高くなる傾向があり、一方、近赤外光に対しては植生とは対照的にほとんど反射しない。そこで、このような特徴に基づくスペクトル情報を用いて、水域を検出することができる。
【0030】
演算処理装置4は、特定スペクトル領域を求めた後(S34)、特定スペクトル領域以外のオブジェクト領域から、オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、倒壊家屋に対応した家屋倒壊領域を抽出する(テクスチャ解析処理S36)。演算処理装置4は、各オブジェクト領域についてテクスチャ解析を行い、倒壊家屋と、非倒壊家屋や道路、裸地とのテクスチャ構造の違いにより、画像中における倒壊家屋に対応したオブジェクト領域を判別し、家屋倒壊領域として抽出する。
【0031】
テクスチャ解析では、倒壊家屋ではオブジェクト領域内の画素値のばらつきが比較的大きくなり、それ以外のオブジェクト領域では比較的小さくなるという特徴の相違が判別される。ばらつきの大きさの判断については、分散や同時生起行列といった統計量などの周知の指標を用いることができる。
【0032】
家屋倒壊領域抽出システム2は、基本的に上述の領域分割処理S32とテクスチャ解析処理S36とによって、処理対象画像から家屋倒壊領域を抽出することができる。この抽出方法では、画像をオブジェクト領域に分割し、倒壊家屋か否かの判定を当該オブジェクト領域を単位として行う。このオブジェクトレベルでの倒壊家屋の抽出処理は、ピクセルレベルでの抽出処理での上述の問題を回避・緩和することができる。
【0033】
さらに、テクスチャ解析処理S36に先だってスペクトル解析処理S34を行うことで、誤検出を抑制し家屋倒壊領域の抽出精度の向上を図ることができる。
【0034】
家屋倒壊領域抽出システム2は、これらの処理S32〜S36に加えて、エッジ解析処理S38を行うことでさらに抽出精度の向上を図っている。このエッジ解析処理S38は、上空から撮影された画像全体あるいは作業者が設定した任意の領域におけるエッジを抽出する。例えば、領域分割処理S32で得られた全てのオブジェクト領域をエッジの抽出対象領域とすることもできるし、またテクスチャ解析処理S36で家屋倒壊領域とされたオブジェクト領域だけをエッジの抽出対象領域とすることもできる。演算処理装置4は、抽出したエッジに関する解析結果と、オブジェクト領域に関する処理S34,S36での解析結果とに基づいて、オブジェクト領域が倒壊家屋か非倒壊家屋かを判別する(S40)。具体的には、倒壊家屋のオブジェクト領域のエッジ方向は非倒壊家屋に比べて不規則性が高くなるといった特徴や、倒壊家屋のオブジェクト領域のエッジ密度は非倒壊家屋に比べて大きくなるといった特徴に基づいて、倒壊家屋か非倒壊家屋かを判別する。処理S32〜S36にて抽出された家屋倒壊領域に対して、さらに判別処理S40にて、処理S38での解析結果を用いて倒壊家屋か非倒壊家屋の確認を行うことにより抽出の精度・信頼性が向上する。
【0035】
家屋倒壊領域抽出システム2は、家屋倒壊領域を自動的に抽出することができる。すなわち、地震発生後の単画像又は地震発生前後の2時期の画像を用いる目視判読の方法に比べて、ユーザの労力が軽減され、抽出速度も遥かに速くなり即時性が向上する。これにより、家屋倒壊領域抽出システム2による家屋倒壊領域の抽出結果は、震災時に早期かつ広域に災害状況を把握したり、人命救助等のために活用可能となる。
【0036】
また、家屋倒壊領域抽出システム2は、処理対象画像として地震発生後の単画像のみを用いて家屋倒壊領域を抽出することができる。すなわち、家屋倒壊領域抽出システム2は、地震発生前後の2時期のデータを用いた自動判読方法が有する、地震発生前のアーカイブデータの取得や整備が必要などの問題を解消でき、その適用性が拡大する。
【0037】
なお、家屋倒壊領域抽出システム2は、図2に示す4つの処理S32〜S38のうち、スペクトル解析処理S34、エッジ解析処理S38の一方、又は両方を省略した構成とすることもできる。
【0038】
また、地震発生前の家屋形状を表した地図等のデータを利用できる場合には、家屋倒壊領域抽出システム2は、当該データと上述の処理で得られた家屋倒壊領域とを照合して、倒壊家屋を特定してもよい。
【符号の説明】
【0039】
2 家屋倒壊領域抽出システム、4 演算処理装置、6 記憶装置、8 入力装置、10 出力装置、20 領域分割手段、22 スペクトル解析手段、24 テクスチャ解析手段、26 エッジ解析手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上空から撮影された画像に現れる地物についてのスペクトル情報を予め記憶する記憶手段と、
前記画像を前記スペクトル情報に基づいて、前記地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する領域分割手段と、
前記オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、前記オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した家屋倒壊領域を抽出するテクスチャ解析手段と、
を有することを特徴とする家屋倒壊領域抽出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の家屋倒壊領域抽出システムにおいて、
前記記憶手段は、さらに前記オブジェクト領域についての幾何条件を記憶し、
前記領域分割手段は、前記スペクトル情報及び前記幾何条件に基づいて前記領域分割を行うこと、を特徴とする家屋倒壊領域抽出システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の家屋倒壊領域抽出システムにおいて、
前記スペクトル情報に基づいて、前記オブジェクト領域のうち植生及び水域に対応した特定スペクトル領域を検出するスペクトル解析手段を有し、
前記テクスチャ解析手段は、前記特定スペクトル領域以外の前記オブジェクト領域から前記家屋倒壊領域を抽出すること、
を特徴とする家屋倒壊領域抽出システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の家屋倒壊領域抽出システムにおいて、
上空から撮影された画像全体あるいは作業者が設定した任意の領域におけるエッジの乱雑さの相違に基づいて、前記家屋倒壊領域と、非倒壊家屋に対応した前記オブジェクト領域とを区別するエッジ解析手段を有し、
前記エッジ解析手段を前記テクスチャ解析手段と併用して前記家屋倒壊領域を抽出すること、
を特徴とする家屋倒壊領域抽出システム。
【請求項5】
演算装置を用いて、上空から撮影された画像から家屋倒壊領域を抽出する家屋倒壊領域抽出方法であって、
前記画像に現れる地物についてのスペクトル情報に基づいて、前記画像を前記地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する領域分割ステップと、
前記オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、前記オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した前記家屋倒壊領域を抽出するテクスチャ解析ステップと、
を有することを特徴とする家屋倒壊領域抽出方法。
【請求項6】
コンピュータを、上空から撮影された画像から家屋倒壊領域を抽出するシステムとして機能させるための家屋倒壊領域抽出プログラムであって、
当該コンピュータに、
前記画像に現れる地物についてのスペクトル情報に基づいて、前記画像を前記地物に対応した複数種類のオブジェクト領域に領域分割する領域分割機能と、
前記オブジェクト領域のテクスチャに基づいて、前記オブジェクト領域から倒壊家屋に対応した前記家屋倒壊領域を抽出するテクスチャ解析機能と、
を実現させることを特徴とする家屋倒壊領域抽出プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate