説明

家庭園芸用植物の美観維持方法

【課題】容易に施用でき、植物の生育抑制による美観維持効果を持続する方法を提供する。
【解決手段】植物生育調節剤を有効成分とする水性溶液を充填したアンプルの注液部を家庭園芸用植物の株元の土壌中に差し込み、水性溶液を徐々に土壌に浸透させることを特徴とする家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭園芸植物、特に鉢栽培およびコンテナ栽培用植物の生育抑制による美観維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭園芸植物の生育抑制方法として、確実な効果が得られるために化学的処理が多用されている。薬剤の施用方法としては、多くの場合、薬剤を直接または水で希釈して茎葉部に散布する方法がとられる。しかし、この薬剤散布による方法は、即効的に効果が発現するが、一時的なものであり、持続性がない。また、散布忘れや長期不在による散布不能などの散布懈怠を生じて植物の成長抑制対策が手遅れになることが多い。
【0003】
このような薬剤処理による効果の持続性の問題、および薬剤散布懈怠による弊害を防止する方法として、土壌浸透性の薬剤を粒剤形態にしたものを植物の株元に施用するという植物ではなく土壌に対して薬剤を適用する方法がる。この方法は薬剤を希釈調整する手間が省け、散布器具も必要としないことから簡便かつ省力的で、しかも薬剤が土壌から植物の根系を通して徐々に吸収されるので抑制効果が比較的持続するというメリットがある。しかし、この粒剤施用の方法は、効果発現が遅いという欠点がある。また、使用時に薬剤に直接手で触れなければならないので皮膚にかぶれや湿疹を生ずる危険性がある。これを防ぐためにゴム手袋などをすると施用量の加減ができず、特に植物が繁茂しているような場合には、薬剤を株元に施用するのが難しいという欠点がある。
【0004】
この粒剤の欠点を解消する方法として、薬剤を液剤形態にして土壌に散布する方法が考えられるが、従来、生育調節剤の薬液を土壌に施用する方法は殆ど行われていない。この理由は、薬液の土壌施用では薬量を多く要し、高コストとなる割に生育抑制効果の持続性が改善されず、従って省力メリットも期待できないためと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、少ない薬液量で効果の持続性があり、しかも健康上の問題がなく、簡単な作業で的確に株元に施用できる家庭園芸用植物用の生育抑制による美観維持法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究の結果、生育調節剤を有効成分とする水性溶液を土壌表面に散布するのではなく、これを一定量のアンプルに充填して株元の土壌中に注入するようにすれば、薬液が土壌に浸透すると同時に直接根系より徐々に植物体内に吸収されることにより、生育抑制され美観維持効果が持続することを確認して本発明を完成させた。なお、従来、水性肥料および、殺虫剤についてこれをアンプル剤としてアンプル注入口を土壌に差し込んで施用する方法が実施されているが、植物生育調節剤をアンプル剤として土壌に差し込んで施用する方法はこれまで全く行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は下記1〜4の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法に関する。
1.植物調節剤を有効成分とする水性溶液を充填したアンプルの注液部を家庭園芸植物の株元の土壌中に差し込み、水性溶液を徐々に土壌に浸透させることを特徴とする家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
2.植物調節剤が、イナベンフィド、メピコートクロリド、クロルメコート、フルルプリミドール、ビスピリバックナトリウム塩、パクロブトラゾール、プロヘキサジオンカルシウム塩、トリネキサパックエチル、ダミノジット、ウニコナゾールPから選択される少なくとも1種である前項1記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
3.家庭園芸用植物1株当たり植物調節剤を有効成分量で0.00001〜1gを徐々に土壌中に浸透させる前項1または2に記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
4.前記生育抑制剤の他に、水性肥料、土壌浸透性殺虫剤、土壌浸透性殺菌剤、及び土壌浸透性殺虫剤・殺菌剤の1種以上と組合せからなる混合剤として使用する前項1乃至3のいずれかに記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
5.アンプルの注液部の先端開口径が1〜5mmのアンプル中に植物調節剤を有効成分量で0.00001〜1gを水10〜100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたアンプルを使用する前項1乃至4のいずれかに記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明による家庭園芸用植物の生育抑制、美観維持方法は、少ない薬量で家庭園芸植物の生育を抑制し、美観維持を持続的に行えるので薬剤の散布懈怠を生じることがなく、しかも人体が薬剤に直接触れないので健康上の問題がなく、簡単な作業で的確に家庭園芸植物の株元に生育調節剤を施用できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明方法では、図1(A)、(B)及び(C)に具体例を示すように生育調節剤を有効成分とする水性溶液をアンプル1に充填して使用する。使用する生育調節剤は、家庭園芸用植物の生育抑制に有効なものであれば特に限定されず、市販されているものを用いることができる。
本発明で使用する生育調節剤として好ましい具体例としては、イナベンフィド(セリタード)、メピコートクロリド(フラスター)、クロルメコート(サイコセル)、フルルプリミドール(グリーンフィールド)、ビスピリバックナトリウム塩(グラスショート、ショートキープ)、パクロブトラゾール(スマレクト、バウンティ、ボンザイ)、プロヘキサジオンカルシウム塩(ビビフル、ビオロック)、トリネキサパックエチル(プリモ、テソロ)、ダミノジット(ビーナイン)、ウニコナゾールP(スミセブンP,ロミカ)が挙げられる。
【0009】
これらの生育抑制剤の施容量は、家庭園芸用植物1株当たり有効成分量で0.00001 〜1gが適当である。施容量が0.00001 g未満では生育抑制効果が不充分であり、1gを越えても通常一定以上の効果の上昇は期待できないし、薬害の恐れも生じる。これらの生育調節剤を水、必要により分散剤を用いて水溶液、乳化液、懸濁液(水性フロアブル)などの水性剤にした後アンプルに充填する。すなわち、生育調節剤0.00001 g〜1gに対して水10〜100mlの割合で混合して水性剤とするが、使用する水は地下水、水道水、深層海水、脱塩素水、蒸留水などのいずれであってもよい。
【0010】
このような薬剤の混合は生育抑制剤同士に限らず、例えば水性肥料との組合わせ、土壌浸透性の殺虫剤との組合わせ、土壌浸透性の殺菌剤との組合わせ、土壌浸透性殺虫剤・殺菌剤との組合わせからなる混合剤として使用してもよい。
【0011】
なお、このような混合剤を使用する場合には、1アンプル当たりの各薬剤の用量を0.00001 〜1gに保つようにする。すなわち、各薬剤につきそれぞれの有効量範囲の最低限の量を配合することが過剰施用の弊害を防止するためにも好ましい。
【0012】
このようにして作られた生育調節剤の水溶液は、図1に示すようなアンプル(1)に充填される。使用するアンプル(1)は合成樹脂またはガラス材で作られた家庭園芸用植物1株当たりの薬剤施容量分の容量、すなわち水性剤として、10〜100mlを十分に収容できる容量のもので、大経口の保液部(1a)と小口径で長形の先端が開口している注液部(1b)とで形成され、水性剤を収容した後、開口している注液部(1b)の先端はゴムまたは合成樹脂製の栓2が外嵌または内嵌する態様のものである。このアンプル1の形状は任意に定めてよく、大小2種の横断面が円形、長円形、角径の筒形のものを接続して作れば良いが、これに限らず細長い円錐形または角錐形に形成するのであってもよい。
【0013】
このアンプル(1)の注液部(1b)の先端開口径は、土壌への水性液剤の注入量と注入時間とに関係して重要である。すなわち、開口径が大きすぎると水性剤の注入が一時的に大量になり、すぐに水性剤が尽きてしまって薬剤の効力を持続させるという本発明方法の目的を達成することができないばかりでなく、家庭園芸用植物に薬剤の過剰適用によるダメージを与えることになる。また、逆に開口径が小さすぎると水性剤の注入時間は長くなるが、生育抑制に十分な量の常時施用ができなくなる。本発明において、アンプル2本の生育抑制効果は2ヶ月以上持続することが期待されるが、このためには前記注液部(1b)の先端開口径は1〜5mmとするのがよい。
【0014】
本発明方法においては図2に示すように、上記のようにして調整した液状の生育調節剤を充填したアンプル(1)は、その栓(2)を外して注液部(1b)を家庭園芸用植物の株元の土壌中に差し込み、徐々に土壌に浸透させるようにして用いる。土壌に浸透した液剤は土壌中の家庭園芸植物の根系を通して徐々に植物に吸収されて持続的に植物の生育を抑制し株を密にし美観を維持する。なお使用するアンプルは生育抑制による美観維持の目的に応じて通常2本対称的に使用すればよいが、効果が十分の場合は場合には、1本、不充分の場合には、2本以上を同時に使用してもよい。
【0015】
本発明の方法が適用される家庭園芸植物は特に限定されないが、例えばバラ、ペチュニア、サフィニア、パンジー、デイジー、キク、プリムラ、シネラリア、キンセンカ、ベコニア、ストック、サルビア、マリーゴールド、コスモス、マーガレット、アネモネ、チューリップ、ヒヤシンス、ユリ、ダリア、ウメ、サツキ、ツツジなどが挙げられる。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施例を挙げて説明するが、この実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0017】
実施例1:ペチュニアの移植直後に対する効果試験
ペチュニアの苗を中輪鉢6号に1株移植し、試験に供試した。次の生育調節剤を水を用いて、ウニコナゾールPおよびパクロブトラゾールはそれぞれ0.0016%の液剤形態に調整し、各30mlをプラスチック製アンプル(開口径5mm)に詰めて、前記ペチュニア鉢を1区2鉢とし、1株にアンプル2本ずつ移植直後に供試した。対照区として無処理、粒剤施用および茎葉散布を設け、処理を行った。粒剤および散布剤は市販剤を使用し、1区2鉢とした。試験は全て3 反復で行った。薬剤処理後経時的に株の生育抑制程度を目視で調査した。
結果を表1に示す。いずれの供試薬剤においてもアンプル注入区は生育抑制効果が高く、株も密になり、葉色もよく、美観維持効果が認められ粒剤と同等以上の長い残効性が確認された。また、薬剤処理時、粒剤の施用に要する時間がアンプル注入の3倍ほどかかった。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例2:ペチュニアの剪定直後の効果試験
実施例1と同様にペチュニア苗を移植し、慣行の管理で育成した。大きくなった株を剪定した直後にウニコナゾールPアンプルを用いて生育抑制効果試験を実施した。まず、ウニコナゾールPを0.0016%の液剤にし、30mlをプラスチック製アンプル(開口径4mm)に詰めてウニコナゾールPアンプルとし、ペチュニア1株にアンプル2本で処理した。試験は3反復で実施し、対照区には無処理を設けた。薬剤処理後経時的に株の生育抑制程度を目視で調査した。無処理区は剪定後通常通り生育を続け、株が徐々に疎になって行くのに対し、アンプル注入区は生育抑制効果が高く、株が密になることで花が纏まり美観が非常によく、観賞面からもメリットが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)、(B)及び(C)は、各々本発明方法で使用するアンプル例の斜視図である。
【図2】本発明方法の実施状況を示す一部縦断側面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 アンプル
1a 保液部
1b 注液部
2 栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物調節剤を有効成分とする水性溶液を充填したアンプルの注液部を家庭園芸植物の株元の土壌中に差し込み、水性溶液を徐々に土壌に浸透させることを特徴とする家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
【請求項2】
植物調節剤が、イナベンフィド、メピコートクロリド、クロルメコート、フルルプリミドール、ビスピリバックナトリウム塩、パクロブトラゾール、プロヘキサジオンカルシウム塩、トリネキサパックエチル、ダミノジット、ウニコナゾールPから選択される少なくとも1種である請求項1記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
【請求項3】
家庭園芸用植物1株当たり植物調節剤を有効成分量で0.00001〜1gを徐々に土壌中に浸透させる請求項1または2に記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
【請求項4】
前記生育抑制剤の他に、水性肥料、土壌浸透性殺虫剤、土壌浸透性殺菌剤、及び土壌浸透性殺虫剤・殺菌剤の1種以上と組合せからなる混合剤として使用する請求項1乃至3のいずれかに記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。
【請求項5】
アンプルの注液部の先端開口径が1〜5mmのアンプル中に植物調節剤を有効成分量で0.00001〜1gを水10〜100mlに溶解またはフロアブル化した溶液が充填されたアンプルを使用する請求項1乃至4のいずれかに記載の家庭園芸用植物の生育抑制による美観維持方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−301753(P2008−301753A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151162(P2007−151162)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(591057511)ヤシマ産業株式会社 (12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】