説明

家畜の繁殖障害改善方法

【課題】 家畜の飼育方法を見直すことによって、繁殖障害を防止する。
【解決手段】 家畜に一定期間甘草を給与し、直腸検査により、卵巣や子宮の状態に改善が認められることを確認した後に種付けを実施する。この方法により、繁殖障害を起こしている家畜の90%以上が妊娠することが認められた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛を代表とする家畜の繁殖障害を改善する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉を得ること目的とする畜産業や酪農においては、製品の品質の維持向上のため、自然に任せた交尾による繁殖よりは、人工授精を行うことが一般的である。そして、人工授精、つまり種付けを行うには相当の費用が必要であり、その成否は畜産業に従事する農家の収益に直結するものである。
【0003】
従って、繁殖障害は農家の経営健全化にとっては、重要な阻害要因の一つである。これは、何らかの原因で、種付けを実施できないか、実施しても家畜が妊娠しない状態であり、代表的な現象としては、次のようなものが挙げられる。
【0004】
まず、第一に、発情の異常がある。これは、家畜が年齢的に成熟期に達し、発情すべき時期になっても、発情状態が顕在化しない程度に弱く、識別できないこと、発情が不定期になることなどが挙げられる。また、子宮や膣などの生殖器官の異常や、受精卵が着床しなかったり、受精卵が着床してもすぐに死んでしまったりする現象が見られる。
【0005】
これらの障害は、飼育の環境が不適切で、家畜に無用のストレスを与えたり、飼料の与え方の不適切で栄養バランスの欠如が生じたりすることで起こることもあり、これらの問題に的確に対処することで、解決する場合もある。
【0006】
家畜の順調な繁殖を管理する技術として、特許文献1には、パーソナルコンピュータ及びインターネットを用いて、人工授精師に発情時期を自動的に連絡することにより、遅滞なく授精作業を完遂し、分娩に立ち会うことを可能とする、乳牛の繁殖管理システムが開示されている。しかし、このシステムは、繁殖障害に対処する方法を含むものでなく、前記の課題には、必ずしも十分に適応したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2002−328967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、前記特許文献に開示されているような方法によらず、家畜の飼育方法を見直すことによって、繁殖障害を防止することである。
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題の解決を目的として、家畜に与える栄養のバランスを適切にするために、様々な健康食品やサプリメントを与えて、その効果を検討した結果、医薬品の原料としても用いられている甘草が、極めて有効であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。即ち、本発明は、甘草単独または甘草を混合した飼料を経口給与することにより、家畜の繁殖障害を改善する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発明の実施の形態にて後述するように、種付けの成功率を極めて高めることが可能となる。甘草の給与の形態は、甘草をそのままか、乾燥して粉末化したもの、甘草エキス粉末のいずれでも、効果を得ることができる。また必要な量を飼料に混合しても良い。給与量としては、家畜の体重1kgあたり甘草粉末0.05g、つまり、体重が500kgの雌の成牛の場合で、25g程度であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】 本発明に係る甘草の給与方法の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
ここでは、肉牛に甘草を与えて、種付けの成否を検討した結果について説明する。表1は、宮城県加美郡加美町城生字前田の長曽我部獣医科にて、近隣の農家で頻繁に繁殖障害を起こしている63頭の肉牛に対し、試験を行なった結果をまとめたものである。また、図1には、甘草給与方式をまとめて示した。
【0013】
【表1】

【表1】

【0014】
表1において、例えば試験No.1について、記載項目の意味するところを説明すると、平成10年6月19日に誕生し、6回出産を経験した雌の肉牛に9回種付けをおこなったところ、妊娠しなかったため、直近の出産から子宮に胎児が存在しなかった期間、つまり空胎日数が270日であったが、甘草を10日間給与すると同時に、甘草給与開始1週間後に、ホルモン剤であるプロスタグランディン(以下、PGと記す)を投与し、種付けを行なった結果、妊娠した、というものである。この甘草給与方法は図1(a)に相当する。表1における『判定』の項目は、『+』が妊娠したもの、『−』が妊娠しなかったもの示す。
【0015】
つまり、表1の中の1wPGという記載は、甘草給与開始後1週間でPGを投与し、その後も甘草を給与したという意味で、試験No.1では、7日間甘草を与えた後、PGを投与し、その後も甘草を3日間、合計10日間給与したことになる。
【0016】
試験を行なうにあたっては、対象となる肉牛に、事前に直腸検査を行い、卵巣並びに子宮の状態が、妊娠に好ましくないことを確認し、甘草投与開始後1週間経過した時点で、再び直腸検査を行い、卵巣並びに子宮の状態に改善が認められた場合は、その後3日間甘草を給与し、卵巣並びに子宮の状態が回復途中である判断されたものについては、引き続き6〜8日間甘草を給与した。後者の甘草給与方法は。図1(b)に相当する。
【0017】
また、中には、PG投与を行わないで10日間甘草給与を行い、発情を確認して種付けを行った場合もある。この甘草給与方法は、図1(c)に相当する。その結果、甘草給与開始後10日程で、直腸検査により、卵巣の状態が改善されたことを確認し、種付けを行った場合、つまり図1(a)や図1(b)の場合で、約80%の牛が妊娠したことを確認された。なお、試験No.99における『コンセラール×2』という記載は、卵巣の病気の治療薬品であるコンセラールを、2回投与したことを示す。
【0018】
残りの20%については、その後、他のホルモン剤や甘草を給与することなく、自然発情を待った上で、種付けを行ったところ、2箇月以内に妊娠したことが確認された。ただし、甘草の給与を継続しながら種付けを2回行っても妊娠しない場合、つまり図1(d)に相当する甘草給与方法でも妊娠しない場合が4件認められ、農家の判断で廃牛とした例もある。
【0019】
以上に説明したように。本発明によれば、所要量の甘草を与えるという簡便な方法で、繁殖障害を起こしている家畜について、種付けの成功率を飛躍的に上昇することが可能となり、畜産業発展に寄与するところは極めて大きいと言える。
【0020】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、肉牛の他の家畜、例えば豚に適用するような、各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草単独または甘草を混合した飼料を経口給与することにより、家畜の繁殖障害を改善する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−167184(P2011−167184A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73545(P2010−73545)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(510085043)株式会社田村薬草農場グループ (1)
【Fターム(参考)】