説明

家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物

【課題】家畜の健康を維持することによって畜産の経済性向上への寄与を図るため、畜産物への安全性及び経済性に優れ、実施も容易な、家畜体内の鉄過剰状態を改善する組成物を提供する。また、茶殻や茶飲料製造残渣などを有効利用する技術を提供する。
【解決手段】緑茶などの茶葉、茶殻、茶飲料製造残渣などから水溶成分を抽出した残渣を有効成分とした組成物を、飼料添加物又は飼料として家畜に給与することにより、家畜体内の鉄過剰状態を安全かつ経済的に改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉から水溶成分を抽出した残渣を有効成分とすることを特徴とする、家畜体内の鉄過剰状態を改善する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、BSEや輸入野菜残留農薬など「食の安全」の問題の発生により、生産者にはこれまで以上に安全な農畜産物を提供することが求められている。その一方で、農畜産物をより一層経済的に生産することも求められている。
家畜の健康を維持して潜在能力を最大限にひきだし、疾病を未然に予防することは、医療費の削減、廃家畜の減少につながり、生産の経済性向上に大きく貢献する。また、健康の維持によって、抗生物質を始めとする医薬品の使用機会を減らし、畜産物への残留、予期せぬ副作用などのリスク低減が可能となる。特に、飼料に添加する組成物は素性が明らかで安全でなければならない。
【0003】
一方、茶には、茶飲料(茶葉の水抽出物)における鉄吸収促進(特許文献1)、茶殻(茶葉の水抽出残渣)における重金属の吸着(非特許文献1)など様々な機能が認められており、水溶成分の抽出特性も明らかである(非特許文献2)。茶殻には家畜に有効な栄養分が多く含まれているため、乳牛(非特許文献3)、豚(非特許文献4)を始めとして一般家畜用飼料(特許文献2)への利用について研究例は多く、家畜飼養における安全性は問題ないとされている。
また、近年茶飲料市場の拡大により、その残渣である茶殻は年間約10万トン発生しているが、そのほとんどは焼却または埋め立てにより産業廃棄物として処理されているに過ぎず、資源循環の観点から茶殻を有効利用する技術が待たれている。
【0004】
ヒトの健康に関しては近年酸化的ストレスが話題になっている。
酸化的ストレスは、体内で発生する活性酸素と、活性酸素を消去する抗酸化能のバランスが崩れることにより生じ、日本人の3大死因であるガン・心筋梗塞・脳血管疾患の発生に関与するとされている。
酸化的ストレスは、家畜、特に乳牛においては乳房炎や繁殖障害などに関与して生産性低下の一因となる(非特許文献5)。
【0005】
鉄は動物にとって必須微量ミネラルの一つであり、欠乏した場合貧血などを招く。一方で鉄は体内における酸化促進物質であり、過剰な鉄の摂取により体内で活性酸素が多く発生し、酸化的ストレスが高まるといわれている。
【0006】
乳牛の場合、鉄要求量は2001年版のNRC(米国国家研究会議)乳牛飼養標準において飼料乾物中17ppmとなっている。しかし、一般的な飼料には乳牛の要求量を上回る量の鉄が含まれており、2001年版日本標準飼料成分表によれば、アルファルファ乾草は500ppm、イネ科乾草とデントコーンサイレージは200ppm、牧草サイレージは100ppmである。したがって、乳牛においては、通常の飼養管理下では出血により体外に鉄が放出される場合を除いて、鉄が不足することはなく、むしろ過剰に鉄を摂取する傾向にある。
【0007】
肉牛の場合、ヴィール(仔牛)に代表されるように淡い肉色が望まれることがある。肉色を淡くするためには鉄の摂取量を可能な限り押さえる必要がある。飼料中の鉄含量を減らしすぎると、鉄欠乏による貧血を招き、健康を害することになる。ヴィール生産においては、肉牛の健康を害することなく、体内から鉄排泄を促進して肉色を淡くするような方法が要望されている。
【0008】
ヒトの医療においては、病的な鉄過剰症の治療には、患者の静脈から血を抜き出す治療法である瀉血(しゃけつ)を行ったり、鉄キレート剤であるメシル酸デフェロキサミンを主成分とする鉄排泄剤(例えば、商品名「デスフェラールバイアル」、ノバルティスファーマ株式会社)を注射する方法がとられている。鉄過剰症治療には、鉄キレート剤(特許文献3)のほか、エリスロポエチンを有効成分とする医薬組成物(特許文献4)、ジオカルバメート含有組成物(特許文献5)が開示されている。また、過剰鉄起因肝障害・治療剤として茶ポリフェノールを有効成分とする治療剤及び飲食物が開示されている(特許文献6)。
【特許文献1】特開2001−139481号公報
【特許文献2】特開2002−360185号公報
【特許文献3】特開2004−203820号公報
【特許文献4】特開平10−67678号公報
【特許文献5】特表2001−501182号公報
【特許文献6】特開2003−212780号公報
【非特許文献1】尾崎加奈、他2名、平成15年度「日本農芸化学会西日本支部」「中四国支部」「日本栄養・食糧学会西日本支部」「日本食品科学工学会西日本支部」鹿児島合同大会およびシンポジウム講演要旨集、2003年9月、p.50
【非特許文献2】堀江秀樹、他2名、茶業技術研究報告、2001年7月、第91巻、p.29
【非特許文献3】額爾敦巴雅爾、他4名、日本畜産学会報、2003年11月、第74巻、第4号、p.483
【非特許文献4】柴田昌利、他6名、静岡県中小家畜試験場研究報告、1996年10月、第9号、p.31
【非特許文献5】Miller J. K.、他1名、Journal of Dairy Science、米国、1993年9月、第76巻、第9号、p.2812
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の技術はヒトを対象としているものであり、家畜生体への負荷、畜産物に関しての安全性、飼料及び飼料添加物として利用する場合の経済性などが不明である。特許文献6は安全性では問題ないと考えられるものの、経済性に関しては不明である。
また、畜産業者が上記の技術を現場で実施することは容易ではない。
【0010】
これに対し本発明は、畜産物への安全性及び経済性に優れ、実施も容易な、家畜体内の鉄過剰状態を改善する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するためになされたものであり、茶葉から水溶成分を抽出した残渣を有効成分とする家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物である。本組成物を飼料添加物又は飼料として家畜に給与することにより、家畜体内の鉄過剰状態を安全かつ経済的に改善することができる。
また、本発明は家畜体内の鉄過剰状態に起因する、乳牛の乳房炎や繁殖障害などを予防及び/又は改善する効果を有する。
【0012】
本発明者らは、比較的安価である各種農産製造物の残渣を家畜に給与し、血清鉄濃度を鉄過剰状態の指標に用いて、血清鉄濃度低減機能を有する素材について調査した。素材選択にあたっては、血清鉄濃度を低減させる一方、抗酸化ミネラルである亜鉛の血清中濃度は低減させないことも条件とした。
【0013】
このような中、様々な機能性が報告されている茶に注目し試験したところ、以下の結果が得られた。
(1) 出がらしの茶殻(茶葉の水抽出残渣)を給与したとき、血清鉄濃度は低減した。しかも、亜鉛の血清中濃度は低減しなかった。
(2) 茶飲料製造残渣を給与したとき、その種類によっては血清鉄濃度の低減程度に差があり、効果は安定しなかった。
(3) 茶殻から水溶成分を更に抽出することによって、血清鉄濃度低減の効果は安定した。
(4) 茶葉をそのまま給与したときは血清鉄濃度は低減しなかった。
【0014】
前記の結果から、茶葉には鉄の吸収促進と排出促進を有する物質が混在しており、それぞれの物質についての詳細は不明であるが、水溶性の鉄吸収促進物質を除去した茶葉を給与することにより鉄排出促進効果が得られるとの結論に達した。
【0015】
そこで、茶殻及び茶飲料製造残渣を再度水で抽出し、水溶成分を除去した状態の茶葉を家畜に給与することにより、安定した血清鉄濃度低減効果を得ることに成功し、本発明の完成に至った。
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 茶葉から水溶成分を抽出した残渣を有効成分とすることを特徴とする、家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
(2) 茶葉が緑茶由来のものであることを特徴とする、(1)に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
(3) 茶葉から水溶成分を抽出した残渣中のカテキン含有量が乾物重で2.0mg/100mg未満であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
(4) 家畜が乳牛、肉牛、馬、羊、山羊、豚、犬、猫から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、(1)乃至(3)に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
(5) (1)乃至(4)に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物を含有する飼料添加物又は飼料。
(6) (5)に記載の飼料添加物又は飼料を家畜に給与することを特徴とする、家畜体内の鉄過剰状態を改善する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の組成物を飼料添加物又は飼料として家畜に給与することにより、家畜体内の鉄過剰状態改善を容易に、かつ経済的に行うことができる。しかも、本発明の組成物は、家畜生体及び畜産物に極めて安全である。
【0018】
家畜体内の鉄過剰状態の改善は、酸化的ストレスを低減して家畜の健康に寄与し、各種疾病の予防へつながる。特に、畜産経営上大きな問題となる乳牛の乳房炎や繁殖障害などの予防に有効である。
【0019】
また、本組成物は茶葉、茶殻又は茶飲料製造残渣を水又は温水で抽出させれば得られるので、実施は容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明について、以下に詳細に説明する。
【0021】
原料として用いられる茶は、緑茶であることが望ましいが、特に限定されず、緑茶などの不発酵茶のほか、ウーロン茶やプーアール茶などの半発酵茶、紅茶などの発酵茶いずれも用いることができる。
また、一般家庭あるいは企業・団体などで発生する茶殻、茶飲料製造工程において発生する茶飲料製造残渣のいずれも利用することができる。
【0022】
茶葉からは水溶成分が十分に抽出されていることが望ましく、更にはテアニン、カフェイン、カテキンが90%以上抽出されていることが望ましい。
本発明の効果を安定して得るためには、茶葉より水溶成分を可能な限り抽出することが望ましい。
【0023】
ここで、茶葉から水溶成分が十分抽出されたか否か判断する参考例を挙げる。
非特許文献2において、緑茶の茶葉を60℃以上の温湯で20分抽出すると、テアニン、カフェイン、カテキン(エピガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート)などの水溶成分は約90%抽出される。このとき茶葉には乾物重で、テアニン0.02〜0.08mg/100mg、カフェイン0.05mg/100mg、カテキン1.5〜1.9mg/100mg、が残留することになる。この結果は、抽出前の茶葉によるものであり、茶殻又は茶飲料製造残渣を上記条件で再抽出すると、茶葉中の水溶成分は90%以上抽出されたと見なすことができる。
【0024】
上記例及び茶葉の成分変動(種類・製法・採取時期などに起因する)を考慮すると、茶葉から水溶成分が十分抽出されたか否か判断するに当たっては、茶葉を60℃以上の温湯で30分間以上抽出すること、を目安にすればよい。これ以上の水温、抽出時間で抽出すると水溶成分が十分抽出されると考えられる。特に、茶殻や茶飲料製造残渣を更に上記条件で抽出した場合は、水溶成分が十分抽出されると考えてよい。水温が60℃未満の場合は、1時間以上抽出することが望ましい。
【0025】
保存にあたっては、カビ発生や腐敗防止のため乾燥させることが望ましい。ただし、カビや腐敗の発生を防止できる条件下、あるいは発生する前での給与が可能であれば、湿っていてもよい。乾燥させる場合、乾燥方法は、熱風乾燥、自然乾燥、凍結乾燥など通常考えられるいずれの方法でもよい。
乾燥後粉砕した方が望ましいが、粉砕せずそのままでもよい。
また、キューブ、ペレット、タブレットなどの形状に成形加工してもよい。
【0026】
1日当たりの給与量は、乾燥重量で0.5〜60g/頭、望ましくは5〜30g/頭、家畜の体重当たりでは0.8〜100mg/kg、望ましくは8〜50mg/kgであるが、健康状態を見て適宜増減するのがよい。
給与方法は、通常の飼料に添加・混合するのがよいが、単独で与えてもよい。また、乾燥・湿潤いずれの水分状態でもよい。
【0027】
対象とする家畜は、乳牛、肉牛、馬、羊、山羊、豚、犬、猫などである。
【0028】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0029】
緑茶飲料製造残渣(伊藤園製)の乾燥粉砕物(2mmメッシュ以下)700gを7Lの温水(60℃)で30分間抽出した残渣を、通風乾燥装置(TABAI製オリジナルオーブンPS−240)を用いて、55℃で15時間乾燥させ、水分10%以下に調製した。この残渣を市販のゼラチンカプセルに入れ、乳牛5頭に10g/頭・日を1週間投与した(試験区)。対照として、無投与の乳牛3頭(対照区)、粉砕した茶葉10g/頭・日を投与した乳牛2頭(茶葉区)、水で再抽出していない緑茶飲料製造残渣の乾燥粉砕物10g/頭・日を投与した乳牛5頭(無処理茶殻区)を用意した。各区の投与前後の血清鉄濃度をフェロジン比色法、血清亜鉛濃度を原子吸光分析法により測定した。
試験期間中全ての牛には、乳牛1頭当たり原物量で、コーンサイレージ15kg、牧草サイレージ10kg、ビートパルプ2kg、アルファルファ乾草2kg、配合飼料10kgを混合した完全混合飼料を1日2回に分けて等量ずつ給与した。
乳牛の血液中(血清中)のミネラル濃度の正常値については、鉄で57〜162μg/dL、亜鉛で50〜120μg/dLとされている。投与前の血清鉄濃度はやや高値、血清亜鉛濃度は正常範囲内の値であった。
試験期間後、試験区では血清鉄濃度が減少し(図1)、血清亜鉛濃度が増加した(図2)。一方、対照区、茶葉区、無処理茶殻区のいずれも血清鉄濃度の減少が見られなかった(図1)。
【実施例2】
【0030】
飼料用の茶葉(大地園製)を2mmメッシュ以下に粉砕し、10倍量の水で2時間抽出した残渣を通風乾燥装置(TABAI製オリジナルオーブンPS−240)により、55℃で15時間乾燥させ、水分10%以下に調製した。この茶殻10量部をビートパルプ85量部、糖蜜5量部と混合してペレット化し、茶殻10%含有飼料を製造した。
乳牛40頭を試験区と対照区にそれぞれ20頭ずつ分けた。試験区には茶殻10%含有飼料100g/頭・日を給与した。給与期間は1ヶ月間とし、血清鉄・亜鉛濃度と乳中体細胞数の給与前後の変化を調査した。血清鉄濃度と血清亜鉛濃度は実施例1と同様に測定した。乳中体細胞数はFossomatic(Foss Electric社製)により測定した。
試験期間中全ての牛には、乳牛1頭当たり原物量で、コーンサイレージ15kg、牧草サイレージ10kg、ビートパルプ2kg、アルファルファ乾草2kg、配合飼料10kgを混合した完全混合飼料を1日2回に分けて等量ずつ給与した。
試験の結果、試験区は血清鉄濃度が減少し、血清亜鉛濃度は増加した(図3、図4)。
正常な乳房の場合、乳中体細胞数は200〜300(×1000個/mL)以下であり、乳房炎になると増加する。乳中体細胞数は試験区では減少したのに対し、対照区では正常な範囲以上に増加した(図5)。
【実施例3】
【0031】
乳牛20頭を使用し、試験区と対照区にそれぞれ10頭ずつ分けた。試験区には、実施例1と同様の方法で得た茶葉の水溶成分抽出残渣10量部、ビートパルプ85量部、糖蜜5量部を混合したペレット飼料を100g/頭・日給与した。給与期間は1ヶ月とし、給与開始1ヶ月前、給与開始時、及び給与開始1ヶ月後の血清中の鉄濃度を実施例1と同様に測定した。
試験期間中全ての牛には、乳牛1頭当たり原物量で、コーンサイレージ15kg、牧草サイレージ10kg、ビートパルプ2kg、アルファルファ乾草2kg、配合飼料10kgを混合した完全混合飼料を1日2回に分けて等量ずつ給与した。給与1ヶ月前は牧草サイレージ3番草(鉄含量131ppm)が給与されていたが、給与2週間前に同2番草(同249ppm)に変わった。
牧草サイレージの変更後である給与開始時では、両区とも給与1ヶ月前に比べ血清鉄濃度が増加した。給与開始1ヶ月後において、対照区では給与開始時に比べ更に血清鉄濃度が増加したのに対し、試験区では給与開始時の水準が維持された(図6)。
【実施例4】
【0032】
乳牛6頭を使用し、試験区と対照区にそれぞれ3頭ずつ分けた。試験区には、実施例2と同様の方法で得た茶葉の水溶成分抽出残渣20量部、ビートパルプ75量部、糖蜜5量部を混合したペレット飼料を100g/頭・日給与し、給与前及び給与1週間毎に4ヶ月間の血清中の鉄濃度を実施例1と同様に測定した。
試験期間中全ての牛には、乳牛1頭当たり原物量で、コーンサイレージ15kg、牧草サイレージ10kg、ビートパルプ2kg、アルファルファ乾草2kg、配合飼料10kgを混合した完全混合飼料を1日2回に分けて等量ずつ給与した。試験4週間後に放牧が始まり、同6週間後には牧草サイレージが1番草(鉄含量129ppm)から同3番草(鉄含量170ppm)に変わった。
試験期間のほとんどを通じて、試験区の血清鉄濃度は低位に維持された(図7)。放牧開始後、両区とも血清鉄濃度は減少したが、牧草サイレージの変更後、放牧開始前の水準に戻り、その状態が維持された。乳房炎は対照区で1頭発生が認められたが、試験区では発生は認められなかった。
【実施例5】
【0033】
乳牛24頭を使用し、試験区と対照区にそれぞれ12頭ずつ分けた。
茶殻100kgをポリエチレン製タンク(容量530L)に、水400Lと共に入れ、1昼夜(約26時間)放置した後、水を抜いて残渣を得た。この残渣をD型ハウス内に敷いたビニールシート上に拡散させて2日間自然乾燥させた物を、試験区では30g/頭・日ずつ給与した。試験期間は2ヶ月とした。
試験期間中全ての牛には、乳牛1頭当たり原物量で、コーンサイレージ15kg、牧草サイレージ10kg、ビートパルプ2kg、チモシー乾草2kg、配合飼料10kgを混合した完全混合飼料を1日2回に分けて等量ずつ給与した。
乳房炎の発生は、試験区で1頭認められたのに対し、対照区では4頭認められた。
【実施例6】
【0034】
2頭の種雌豚より生産した去勢豚12頭を使用し試験区と対照区にそれぞれ6頭ずつ分けた。実施例2と同様の方法で得た乾燥茶殻(水分10%以下)を、試験区では5g/頭・日ずつ給与した。
試験期間中全ての豚には市販の配合飼料を2.5kg/頭・日給与した。試験期間は4週間とした。試験開始前と試験終了後の、血清鉄濃度及び血清亜鉛濃度を実施例1と同様に測定した。
豚の血液中(血清中)のミネラル濃度の正常値については、鉄で91〜199μg/dL、亜鉛で50〜150μg/dLとされている。
試験期間後、試験区では血清鉄濃度が減少した(図8)。血清亜鉛濃度については、試験区と対照区いずれも試験前後で増減はなかった(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
家畜の健康的な飼養管理の一助となり、疾病を未然に予防し、畜産物の経済的な生産及び品質向上に貢献し、安価で良質な畜産物を消費者に提供できる。また、茶殻及び茶飲料製造残渣の有効な利用方法を提供することができる。
本組成物は茶葉、茶殻、茶飲料製造残渣を温水又は水で長時間抽出させれば得られるので、製造も容易である。
本発明は、畜産業、飼料製造業、獣医業、家畜用医薬品製造業などに幅広く利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1における血清鉄濃度に及ぼす本組成物ほかの効果を示したグラフである。
【図2】実施例1における血清亜鉛濃度に及ぼす本組成物ほかの効果を示したグラフである。
【図3】実施例2における血清鉄濃度に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。
【図4】実施例2における血清亜鉛濃度に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。
【図5】実施例2における乳中体細胞数に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。
【図6】実施例3における血清鉄濃度に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。
【図7】実施例4における血清鉄濃度に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。
【図8】実施例6における血清鉄濃度に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。
【図9】実施例6における血清亜鉛濃度に及ぼす本組成物の効果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉から水溶成分を抽出した残渣を有効成分とすることを特徴とする、家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
【請求項2】
茶葉が緑茶由来のものであることを特徴とする、請求項1に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
【請求項3】
茶葉から水溶成分を抽出した残渣中のカテキン含有量が乾物重で2.0mg/100mg未満であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
【請求項4】
家畜が乳牛、肉牛、馬、羊、山羊、豚、犬、猫から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1乃至請求項3に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載の家畜体内の鉄過剰状態改善用組成物を含有する飼料添加物又は飼料。
【請求項6】
請求項5に記載の飼料添加物又は飼料を家畜に給与することを特徴とする、家畜体内の鉄過剰状態を改善する方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−117029(P2007−117029A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315642(P2005−315642)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】