説明

家畜排泄物の処理方法

【課題】環境に負荷を与えない家畜排泄物の処理方法の提供。
【解決手段】海藻由来の微生物活性化剤を使用し、家畜排泄物中のアンモニア成分を亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素にまで酸化した後、易分解性有機物を添加してこれら亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を窒素ガスにまで還元させる処理方法。
【効果】家畜尿を高濃度、高BOD負荷のまま浄化処理することが可能であり、設備費、維持費が大幅に低減されるので、導入が容易であり、環境汚染問題解決に貢献し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
わが国の畜産地帯では、家畜尿中に含まれるアンモニアが酸化され、亜硝酸性または硝酸性窒素になった状態で、土壌または河川に放流されている。農林水産省は、1999年7月22日「家畜排せつ物の管理の適性化及び利用の促進に関する法律」を成立させ、これを同年11月1日から施行し、家畜排せつ物の処理施設建設の補助金を交付して、悪臭と亜硝酸性または硝酸性窒素汚染の解消に注力してきた。5年間の緩和措置の後2004年11月より規制をさらに強化しているが、その効果は一部に止まり、畜産地帯は悪臭と河川または地下水が亜硝酸性または硝酸性窒素により汚染された状態が続いている。
【0002】
亜硝酸性窒素は、生物の体内に摂取されると血液中のヘモグロビンと結合し、メトヘモグロビン血症を発症させる恐れがあり、水質汚濁防止法では10ppm以上含有される水は、人体に有害であると規定されている。わが国では、人の発症例は報告されていないが、家畜が30ppm程度の亜硝酸性窒素を含んだ水を摂取してメトヘモグロビン血症を発症し、死亡した例は数多くある。
【0003】
硝酸性窒素は、メトヘモグロビン血症を発症させる恐れはないが、土壌に散布された場合、土壌菌により還元され、亜硝酸性窒素になる恐れがあり、畜産地帯のように土壌が亜硝酸性または硝酸性窒素で飽和状態になっていると思われる場所では、硝酸性窒素も極力低減することが望ましいとされている。
本発明は、家畜尿中に含まれる亜硝酸性または硝酸性窒素を安全に低減させる家畜排泄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0004】
従来の家畜排泄物の浄化処理は、
1)固形分と尿を分離せずに堆肥化設備で堆肥化して土壌に還元する、または
2)固液分離した後、液状成分を大量の水で希釈し、活性汚泥によって浄化処理する、
方法が一般的であった。
そのため、大規模な設備と維持費が必要で、多額の設備資金を必要とし、国の補助金を活用しても導入を躊躇う畜産業者が多かったと考えられる。
【0005】
これに対して、特許文献1では家畜排泄物を固液分離して得られる液状物に易分解性炭素若しくは炭素源を加え、該液状物中の全炭素率即ちC/N比を高めて微生物処理する方法が提案されている。そして、微弱な電磁波放出物および/またはミネラル剤を添加することにより該処理方法がさらに促進されると記載されている。
【特許文献1】特開2003−290787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
元来、家畜排泄物中に含まれる亜硝酸性窒素または硝酸性窒素は極めて少ないが、多量に含まれるアンモニア性窒素が容易に酸化されて亜硝酸性窒素または硝酸性窒素を生じさせ、その処理が問題となっている。
本発明の目的は、家畜排泄物中に含まれるアンモニア並びに亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を安全に低減させ、なおかつ、CODおよび/またはBODを低減させ得る家畜排泄物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、豚尿処理方法を検討中、海藻由来の微生物活性化剤を投入すると微生物が予想以上に活性化されアンモニアの亜硝酸性窒素または硝酸性窒素への酸化反応、および続く窒素ガスへの還元反応が極めて好適に進行することを見出して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、家畜尿を大量の水で希釈する必要もなく、高濃度、高BOD負荷のまま浄化処理することが可能である。また、付随効果ではあるが、設備費、維持費が大幅に低減されるので、多くの畜産業者にとって導入が容易な方法であり、環境汚染の問題解決にも貢献し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用される微生物活性化剤は海藻類、例えば昆布を発酵させて得られるもので、例えば商品名「シュア・ゴー」(株式会社ベリタス)として市販されている微生物活性化剤がミネラル、酵素、および栄養分に富み、本発明の方法において好適に使用することができる。かかる微生物活性化剤を使用することにより、新たに微生物を添加する必要はなく、尿中または大気中に浮遊する地場に適応し棲み着いた微生物を活性化することにより処理を行い得る。
【0010】
本発明の方法では、まず必要に応じて家畜排泄物を固液分離する。分離された固形物は肥料として活用できる。本願において、固液分離された液状排泄物は家畜原尿を包含する概念である。
次に、液状排泄物を曝気槽に移し、上記の微生物活性剤を液量の10〜1000ppm投入(BOD負荷により変動する)し、大量の空気を送気し曝気することにより好気的条件を維持し、液状排泄物のBODを極力低減させる。BODの低減が不完全であると、液状排泄物が擬似嫌気性状態におかれて、アンモニアが十分に酸化されず、次工程を経た後もアンモニア性窒素の状態で残留し、土壌または河川への放流後に酸化され亜硝酸性または硝酸性窒素になる恐れがある。従って、BODを十分に低減させた後、更に曝気処理を継続し、排泄物中のアンモニアを十分に酸化し、亜硝酸性または硝酸性窒素に変換しなければならない。
【0011】
反応の進行は、処理中の排泄物を分析することで確認する。通常、分析する項目は、(1.pH、2.COD、3.BOD、4.SS、5.全リン、6.亜硝酸態窒素、7.硝酸態窒素、8.アンモニア性窒素、9.有機態アンモニア、10.全窒素、11.大腸菌数)の11項目であるが、圃場還元に限定する場合には、窒素関連項目のみでもよい。排泄物中のアンモニア性窒素は可能な限り酸化し低減させる必要があるが、単に長時間曝気しているだけでは数百ppm程度にまでしか低減できない。このため、微生物活性化剤を投入した上で曝気を実施し、アンモニア性窒素を数ppmまで低減させることが重要である。
この第一工程に要する日数は、処理対象の排泄物や使用する微生物活性化剤、および曝気の程度や気温等により異なるが、通常、夏場で1週間程度、冬場では2週間程度で完了する。
【0012】
十分に酸化した後、第二工程として易分解性有機物を処理物の100〜5000ppm投入し、間欠的に曝気することにより硝酸呼吸を促し、亜硝酸性窒素または硝酸性窒素を窒素ガスに還元し、大気中に放出させる。ここで使用する易分解性有機物は亜硝酸性窒素または硝酸性窒素還元のための水素供与体として機能するものであればよく、例えばブドウ糖、廃糖蜜、アミノ酸等が例示されるが、特に廃糖蜜が好ましい。
【0013】
また、上記で使用した微生物活性剤を10〜1000ppm程度改追加して窒素ガスへの還元反応を促進するのが好ましい。
処理液を分析して、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素が所定値(それぞれ10ppm未満)以下になれば処理が完結する。通常、夏場では3〜7日、冬場では6〜14日程度で処理は完結する。処理後の液は微生物活性化剤や易分解性有機物由来のミネラル・養分を含み、有用な液肥として灌水に利用することができる。
【実施例】
【0014】
以下に実施例および比較例を示して本発明を更に詳細に説明する。
実施例
家畜排泄物を固液分離された液状物に対して、微生物活性化剤(商品名シュア・ゴー)を添加し、大量の空気を送気して曝気する。分析により、アンモニア性窒素が数ppm以下となったのを確認した後、微生物活性化剤(商品名シュア・ゴー)および廃糖蜜を加えて間欠的に曝気を行い、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の還元を行う。処理液を分析して、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素が所定値以下になれば処理が完結する。
【0015】
参考例1
鹿児島県鹿屋市の養豚場にて、原尿を10日間曝気処理して得られた豚尿約120トンに、微生物活性化剤(商品名シュア・ゴー)4リットルおよび廃糖蜜75kgをあらかじめ空ドラム缶の中で水道水にて100リットルに希釈したものを作り、10:00、11:00、14:00の3回投入した。処理物の分析結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
本データから以下のことが読み取れる。
1)原尿レベルでは、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素は殆ど含まれない。
2)原尿を効率の良い曝気装置で曝気したが10日を経過してもアンモニア性窒素は残った(440ppm)。この時点でシュア・ゴーを添加し曝気を継続すれば、よりアンモニア性窒素を低減させ、好適に次の工程を行い得る。
3)シュア・ゴーと廃糖蜜を投入すると亜硝酸性窒素、硝酸性窒素は還元されNガスとして大気中に放出される。
4)易分解性有機物の廃糖蜜が消化されると残留アンモニア性窒素が酸化され、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素が増える。
5)シュア・ゴーの投入で、アンモニア性窒素の酸化が促進されている。
【0018】
参考例2
鹿児島県鹿屋市の養豚場にて実施した。原尿約120トンに対して、微生物活性化剤(商品名シュア・ゴー)3リットルおよび廃糖蜜75kgを水道水にて100リットルに希釈したものを、初日、1週間後、および2週間後に投入した。処理物の分析結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
本データから以下のことが読み取れる。
1)第一工程を省略したため、廃糖蜜を分割投入してもアンモニアの酸化は進まない。
2)廃糖蜜由来のアミノ酸が分解され、アンモニア性窒素が却って増加する。
3)アンモニア性窒素の酸化には、BODを低減させることが不可欠である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻由来の微生物活性化剤を用いて、家畜尿中のアンモニアを亜硝酸性窒素若しくは硝酸性窒素に酸化することを特徴とする、家畜排泄物の処理方法。
【請求項2】
海藻由来の微生物活性化剤を用いて、家畜尿中のアンモニアを亜硝酸性窒素若しくは硝酸性窒素に酸化した後、易分解性有機物を加えて亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を窒素ガスに還元することを特徴とする、請求項1の処理方法。
【請求項3】
窒素ガスに還元する工程で易分解性有機物の他に海藻由来の微生物活性化剤を追加する、請求項2の処理方法。
【請求項4】
微生物活性化剤が昆布を発酵させて得られる成分を含む、請求項1から3のいずれかの処理方法。
【請求項5】
ブドウ糖、廃糖蜜、およびアミノ酸から選択される易分解性有機物を用いる、請求項1から4のいずれかの処理方法。