説明

家畜骨残渣の処理方法

【課題】家畜骨材料からエキスを抽出した後の家畜骨残渣を無駄なく再利用するための、低コストかつ簡便な家畜骨残渣の処理方法を提供する。
【解決手段】食肉と骨とを含む家畜骨材料からエキスを抽出した後の家畜骨残渣の処理方法であって、家畜骨残渣を120℃から200℃の温度範囲で乾燥させる乾燥工程、乾燥させた家畜骨残渣を食肉部分と骨部分とに分離させる分離工程、並びに、食肉部分を粉砕し、食肉加工品とする粉砕工程、及び/又は、骨部分を粉砕し、空気流中300℃から1000℃の温度範囲で焼成してヒドロキシアパタイト含有粉体材料とする焼成工程とを含む、家畜骨残渣の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉と骨とを含む家畜骨材料からエキスを抽出した後の家畜骨残渣、特に鶏骨残渣及び豚骨残渣の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産加工業者の副産物である大量な家畜骨は、エキスの抽出用原料として利用されている。エキス抽出後の家畜骨残渣は鶏骨残渣及び豚骨残渣だけで年間100万トンも産出されると推定されるが、その殆どが産業廃棄物として埋め立て処分されるか、焼却してその灰を肥料として利用されているのが現状である。しかし、埋め立て処分は資源を無駄にするうえ埋め立て地の確保が難しくなりつつあるという課題があり、また、焼却処分する際に大量な二酸化炭素及び悪臭ガスが発生し、種々の環境問題を引き起こす。
【0003】
ほかに、例えば特許文献1に記載の生ゴミ処理方法によって鶏骨を処理する方法も知られているが、これも生ゴミとして処理した後に廃棄してしまうため、資源は再利用されていない。また、鶏骨がらを原料とする醗酵調味料の製造方法も知られているが(特許文献2)、この方法では鶏骨がら中の有機質のわずか一部しか利用されず、また、大量のエキス抽出後の家畜骨材料の処理には適していない。
【0004】
エキス抽出後の家畜骨残渣にはタンパク質や遊離アミノ酸などの有機質や、ヒドロキシアパタイトなどの無機質が豊富に含まれると思われるため、廃棄せずに再利用されることが望ましいが、処理にはコストや手間がかかるため、これまで家畜骨残渣の再利用の試みは殆どなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−207310号公報
【特許文献2】特開平8−66165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、家畜骨材料からエキスを抽出した後の家畜骨残渣、特に鶏骨残渣及び豚骨残渣を無駄なく再利用するための、低コストかつ簡便な家畜骨残渣の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究の結果、家畜骨残渣を120℃から200℃の温度範囲で乾燥させることで食肉部分と骨部分とに容易に分離でき、食肉部分を食肉加工品に、骨部分を天然ヒドロキシアパタイト含有粉体材料にそれぞれ加工することで、無駄なく家畜骨残渣を再利用できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、食肉と骨とを含む家畜骨材料からエキスを抽出した後の家畜骨残渣の処理方法であって、家畜骨残渣を120℃から200℃の温度範囲で乾燥させる乾燥工程、乾燥させた家畜骨残渣を食肉部分と骨部分とに分離させる分離工程、並びに、食肉部分を粉砕し、食肉加工品とする粉砕工程、及び/又は、骨部分を粉砕し、空気流中300℃から1000℃の温度範囲で焼成してヒドロキシアパタイト含有粉体材料とする焼成工程とを含む、家畜骨残渣の処理方法を提供する。本発明によれば、低コストかつ簡便な方法で家畜骨残渣を無駄なく再利用することを可能とする。
【0009】
本発明は、また、上記乾燥工程の前処理として、家畜骨残渣を冷凍処理及び解凍処理を行う、家畜骨残渣の処理方法を提供する。かかる処理方法によれば、家畜骨残渣を食肉部分と骨部分とに分離することがより容易にすることができる。
【0010】
本発明は、また、上記分離工程が、振動篩い機によって行われる、家畜骨残渣の処理方法を提供する。かかる処理方法によれば、振動篩い機によって乾燥させた家畜骨残渣を食肉部分と骨部分とに簡単に分離することができる。
【0011】
本発明は、また、上記粉砕工程は、媒体攪拌型粉砕法によって平均粒子径が50μm以下となるよう行われる、家畜骨残渣の処理方法を提供する。かかる処理方法によれば、一度に大量な食肉部分を効率よく粉砕することができ、また、得られる食肉加工品の平均粒子径が50μm以下であるため各種食品にスムーズに融合することが可能である。
【0012】
本発明は、また、上記焼成工程によって得られたヒドロキシアパタイト含有粉体材料を、さらに媒体攪拌型粉砕法によって平均粒子径が0.3μm以下となるよう微粉砕する、家畜骨残渣の処理方法を提供する。かかる処理方法によれば、一度に大量な粉体材料を効率よく微粉砕することができ、また、微粉砕された粉体材料の平均粒子径が0.3μm以下であるため吸着性などの性能の高いヒドロキシアパタイト含有粉体材料を得ることができる。
【0013】
本発明は、また、上記家畜骨材料は食肉が付着している鶏骨である、家畜骨残渣の処理方法を提供する。家畜骨材料として最も量が多いのは食肉が付着している鶏骨、いわゆる鶏がらであるため、かかる処理方法によれば、鶏がら残渣を簡便に無駄なく再利用することができる。
【0014】
本発明は、また、上記いずれかの家畜骨残渣の処理方法によって得られる食肉加工品を提供する。かかる食肉加工品は、タンパク質や遊離アミノ酸、カルシウムなどのミネラル分が豊富な食品であり、そのまま又は食品添加物として幅広く利用され得る。
【0015】
本発明は、また、上記食肉加工品のカルシウム含有量が2000mg/100g以上である食肉加工品を提供する。かかる食肉加工品は、通常の食肉加工品よりも特にカルシウム含有量が高いため、付加価値の高い食品加工品として利用され得る。
【0016】
本発明は、さらに、上記いずれかの家畜骨残渣の処理方法によって得られる80重量%以上のヒドロキシアパタイトと20重量%以下のカーボンとを含む、ヒドロキシアパタイト含有粉体材料を提供する。かかるヒドロキシアパタイト含有粉体材料は、天然ヒドロキシアパタイトとして食品添加剤、歯磨き材、バイオセラミックス原料或いは吸着材又は吸臭材などとして利用され得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の家畜骨残渣の処理方法によれば、低コストかつ簡便な方法で、これまで廃棄されていた家畜骨残渣を食肉加工品及びヒドロキシアパタイト含有粉体材料に製造することで無駄なく再利用することを可能とする。また、本発明の処理方法によれば、焼却処理で発生した二酸化炭素を大幅に削減でき、環境保全にも貢献できる。本発明の食肉加工品は生肉に比べ高いタンパク質含有量及びカルシウム含有量を有するものである。また、本発明のヒドロキシアパタイト含有粉体材料は、天然ヒドロキシアパタイトとして食品添加剤、歯磨き材、バイオセラミックス原料、或いは吸着材、吸臭材又は環境浄化材などとして利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は実施例1の粉末状食肉加工品の粒子径分布図を示す図である。
【図2】図2は実施例1の液状食肉加工品の粒子径分布図を示す図である。
【図3】図3は実施例2のヒドロキシアパタイト含有粉体材料のX線回折図形を示す図である。
【図4】図4は実施例2の微粉砕したヒドロキシアパタイトの粒子径分布図を示す図である。
【図5】図5は実施例3の粉末状食肉加工品の粒子径分布図を示す図である。
【図6】図6は実施例3の液状食肉加工品の粒子径分布図を示す図である。
【図7】図7は実施例4のヒドロキシアパタイト含有粉体材料のX線回折図形を示す図である。
【図8】図8は実施例4の異なる焼成温度によって焼成してなるヒドロキシアパタイト含有粉体材料の重量の変化を示す図である。
【図9】図9は実施例4のヒドロキシアパタイト含有粉体材料の吸臭能力を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明の処理方法によって処理できる家畜骨残渣は、食肉と骨とを含む家畜骨材料からエキスを抽出した後のものであれば特に限定されない。家畜としては、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、カモ、アヒル、ウサギ、七面鳥、ダチョウなどが挙げられる。家畜骨材料としては、食肉を剥離した後の肉付き骨であればよく、肉付き骨のほかに肉や内臓を含まれてもよく、特に食肉が付着している鶏骨が大量にあるため好ましい。エキスの抽出方法は特に限定されないが、一般に炊き出し法を好ましく用いられる。家畜骨残渣としては、特に鶏がらスープ抽出した後の鶏がら残渣、特に鶏大腿骨残渣は大量にあるため好ましく用いられる。
【0021】
本発明の処理方法は、まず、エキスを抽出した後の家畜骨材料を120℃から200℃の温度範囲で乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥によって食肉が収縮するため骨から容易に剥がれるようになる。乾燥方法は特に限定されないが、電気乾燥炉等の常用機器を用いて乾燥させればよい。乾燥温度は120℃よりも低くなると、時間がかかり、また充分に乾燥できない傾向があり、200℃よりも高くなると、食肉部分が焦げやすくなる傾向がある。
【0022】
乾燥工程の前処理として、家畜骨残渣を冷凍処理及び解凍処理を行ってもよい。家畜骨残渣は変質しやすいため、品質保持のために冷凍保存することが好ましい。冷凍はエキス抽出後に速やかに行うことが好ましい。乾燥工程を行うために解凍するが、冷凍・解凍を行うことで食肉が骨から容易に剥がれるようになるという利点もある。
【0023】
次に、乾燥させた家畜骨残渣を食肉部分と骨部分とに分離させる分離工程を行う。分離方法は特に限定されないが、乾燥工程によって食肉と骨とが剥離しやすくなるため、一般的な振動篩い機を用いて分離すればよい。振動篩い機によって、まず振動で骨に付着している食肉を剥がれさせ、次に骨と食肉とのサイズの違いに基づき、篩い分けることで両者を分離させる。使用する篩い金網の種類は限定されないが、ステンレス製金網が望ましく、また金網の織り方は限定されないが、溶接金網又はクリンプ網はメッシュ(目開き)が大きく強度が高いため望ましい。篩いのメッシュサイズは、家畜の種類や骨の大きさにより異なるが、鶏大腿骨の場合、目開き6.7〜16mm(JIS Z 8801)のものが好ましく用いられる。篩いに残留する部分を骨部分とし、篩いを通過した部分を食肉部分とする。分離工程によっては、食肉と骨とに完全に分離させることが好ましいが、一部混ざっていても問題ない。当業者が、食肉部分に含まれる骨は20重量%以下、好ましくは10重量%以下となるようメッシュサイズを選択することが好ましい。食肉部分から製造される食肉加工品は高いカルシウム含有量を有する理由の一つは、食肉部分には骨が含まれることにあると推測される。
【0024】
乾燥分離した食肉部分と骨部分とを別々に処理する。食肉部分については、粉砕工程を行い、本発明の食肉加工品を得る。乾燥分離した食肉部分の粉砕方法は特に限定しないが、カッターミル、ハンマミル、ゲージミル、ピンディスクミルなどを用いて約0.3mm〜1mmの平均粒子径を有する粉末状食肉加工品に加工することが好ましい。本明細書における「平均粒子径」とはメジアン径であり、すなわち、粒子径の積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。メジアン径は、例えばレーザー回折/散乱式粒子径分析装置を用いて測定することができる。
【0025】
本発明の食肉加工品は、タンパク質や遊離アミノ酸などの栄養分が豊富に含まれており、特にカルシウム含有量は2000mg/100g以上、ないし5000mg/100g以上であり、通常の食肉よりも多くのカルシウムを含むものである(「五訂増補 日本食品標準成分表」)。これは、食肉部分にも骨が少量に含まれているからと推測される。
【0026】
また、本発明の食肉加工品は、風味のいいものであり、そのまま食材として利用してもよいが、食感をさらによくすると共に栄養分が摂取されやすくするために、さらに小さい平均粒子径を有する形態に微粉砕することが好ましい。微粉砕の方法は特に限定されないが、媒体攪拌型粉砕法によって平均粒子径が50μm以下となるよう行われることが好ましい。媒体攪拌型粉砕法は、ビーズなどの粉砕媒体を充填したミルを攪拌棒や回転ディスクなどによって攪拌しながら、媒体を衝突させることによって粉砕を行うものであり、乾式にも湿式にも用いられる。湿式法は粉砕効率がよりよいため好ましく用いられる。媒体攪拌型粉砕法は、セラミックス、石炭、顔料などの粉砕に幅広く利用されているが、食肉加工品に応用される例はこれまでなかった。
【0027】
本発明の食肉加工品の微粉砕には、例えば、1mm以下の平均粒子径を有する粉末状食肉加工品と水とを媒体攪拌型湿式粉砕装置の粉砕容器に投入し、平均粒子径(メジアン径)は50μm以下となるように行うことが好ましい。分散媒体としては直径0.1〜1mmのセラミックス製の微細ビーズが好ましい。微粉砕後の食肉加工品は流動性のよい液状となり、分散性や安定性を向上し、ほかの食材とスムーズに融合できる食肉加工品となる。これにより、様々な食品に添加し食感・味のよいものを提供することができる。例えば、豆腐や寒天など液体を固めることによって製造される食品に添加し、均一に分散された食感のよい加工食品が得られる。
【0028】
湿式媒体攪拌型粉砕法において、水のほかに、少量の界面活性剤又は乳化剤を添加してもよく、少量の界面活性剤又は乳化剤を添加することにより、食肉加工品のボール又はビーズなど粉砕媒体の表面への付着を抑え、粉砕効率を高めると共に、得られた液状食肉加工品の安定性を向上させる効果もある。界面活性剤又は乳化剤は特に制限がなく、食品添加剤であればよく、例えば、花王株式会社製のエマゾールL−120V又はエマゾール0−10Vが好適に用いられる。添加量は、0.05〜2.00重量%であることが好ましいが、実際の添加量は食品の種類によりそれぞれ許容される最大添加量以下とする。
【0029】
湿式媒体攪拌型粉砕の粉砕効率を高めるために、前処理として平均粒子径が50〜300μmとなるように回転式のボールミルにて湿式粉砕を行うことが好ましい。回転式のボールミルは、粉砕容器に粉砕媒体(ボールなど)を充填し、粉砕容器を回転させることにより粉砕媒体に運動エネルギーを与えて、原料の粉砕を行う装置であり、例えば遊星型ボールミルが挙げられる。ボールとしては直径5〜100mmのセラミックス又はステンレス製のものが好ましい。回転式のボールミルによる前処理は食肉加工品を水に分散させると同時により細かく粉砕することで、その後の湿式媒体攪拌型粉砕の処理時間を短縮し、微粉砕効率を高めることができる。
【0030】
上記分離工程で得られた骨部分は、粉砕し、300℃〜1000℃の温度範囲で焼成することによって本発明のヒドロキシアパタイト含有粉体材料を製造することができる。骨に含まれる無機質は、ヒドロキシアパタイト(量論組成はCa10(PO(OH))の微細結晶で、水酸基の一部が炭酸イオンに置換された、マグネシウムなどを微量に含まれる結晶性の低い化合物で、天然アパタイト又はバイオ・アパタイトとも呼ばれる。骨部分の粉砕は、上記食肉部分の粉砕と同様に行うことができる。
【0031】
粉砕した骨部分を300℃〜1000℃の温度範囲で焼成処理すれば本発明のヒドロキシアパタイト含有粉体材料が得られる。骨部分に少量の食肉などの有機物が混ざっていることがある。そのため、焼成温度が300℃を下回ると、タンパク質・脂質などの有機質が完全に炭化されずに残ってしまう傾向があり、1000℃を超えると、ヒドロキシアパタイトの一部が分解しリン酸三カルシウムを生成する傾向がある。また、焼成過程において焼成炉に空気流を送り込み、十分な酸素を供給することが好ましい。酸素が不足すると、結晶性のよいヒドロキシアパタイトが得られない傾向がある。これは、残存したカーボンの影響によるものと推測される。
【0032】
300℃以上から800℃未満の焼成温度では、カーボンが完全にガス化されない傾向にあり、80%以上のヒドロキシアパタイトと20重量%以下のカーボンを含むヒドロキシアパタイト含有粉体材料が得られる。特に、この材料は天然ナノ多孔質材料として、好ましく吸着剤や吸臭材、環境浄化材として用いられる。特に300℃〜350℃の低い温度範囲で焼成して得られる粉体材料は、高い吸着能力を有することで、吸収材、吸着材又は吸臭剤として好適に利用される。一方、800℃〜1000℃の焼成温度では、有機物が殆ど熱分解・ガス化されるため、結晶性がよくカーボンが殆ど含まない純度の高いヒドロキシアパタイト含有粉体材料が得られる。この材料は白色を呈し、好ましく食品添加剤、歯磨き材、バイオセラミックス原料などとして用いられる。
【0033】
こうして得られる天然ヒドロキシアパタイト含有粉体材料は平均粒子径1μm以上ものである。さらに、ヒドロキシアパタイト含有粉体材料の性能(例えば、各種有害物質の吸着除去能力)を高めるために、サブミクロン以下のヒドロキシアパタイト含有粉体材料に微粉砕することが好ましい。微粉砕については、上述した食肉加工品の微粉砕と同様に行うことができる。例えば、湿式媒体攪拌型粉砕法によってヒドロキシアパタイト含有粉体材料を平均粒子径が0.3μm以下となるよう微粉砕することが好ましい。平均粒子径が0.3μm以下、特に平均粒子径が150nm以下のヒドロキシアパタイト含有粉体材料の微粉末は化粧品の原料に好ましく用いられる。
【0034】
本発明の処理方法における、家畜骨残渣の乾燥、食肉部分と骨部分との分離、及び、食肉部分及び骨部分のそれぞれの粉砕の一連の工程を連続的に機械的に行うことができる。例えば、トンネル式連続乾燥機構の出口部に振動篩い分離機構を設け、さらに振動篩い分離機構の出口に食肉部分及び骨部分を別々に粉砕する二つの粉砕機構を設けた連続的な設備が好ましく用いられる。このような設備を用いれば、衛生的で低コストかつ効率よく家畜骨残渣、特に鶏大腿骨残渣を処理し、再利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1 食肉加工品の製造その1)
鶏がらスープを抽出した後の鶏大腿骨残渣(日本ピュアフード(株)、宮崎工場)を原料とした。該鶏がらスープは調味料や添加剤は一切使用せず炊き出すことによりスープ用エキスを抽出した。エキス抽出直後の残渣を食品用袋に密封し速やかに冷凍して2日間冷凍保存した。冷凍残渣2kgを室温にて自然解凍後、電気乾燥炉内に投入し、150℃で24時間乾燥させ、約1kgの乾燥品を得た。
【0037】
次に、得られた乾燥品を網状篩いステンレス製溶接金網(目開き11.2mm、JIS Z 8801)に乗せて振動させ、篩い上に残留した部分を骨部分(約0.5kg)とし、篩いを通過した部分を食肉部分(約0.5kg)とした。
【0038】
食肉部分を、卓上型連続粉砕機(MF−10型、カッター式ヘッド、ヘッド内篩い1mm)を用いて粉砕し、粉末状の食肉加工品を得た。該食肉加工品は黄茶色を呈し、風味のよいものであった。表1は食肉加工品の組成についての分析方法及び分析結果を示す。また、参考のため生の鶏モモ肉(皮なし)の標準成分も併記した。表2は、粉末状の食肉加工品における遊離アミノ酸をアミノ酸自動分析装置を用いた生体液分析法によって測定した結果を示す。表1から、得られた食肉加工品はタンパク質が豊富で、また、生の鶏モモ肉(皮なし)に比べて、特に高いカルシウム含有量を有することが分かった。表2からは得られた食肉加工品は遊離アミノ酸も豊富であることが分かった。
【0039】
【表1】



【0040】
【表2】



【0041】
粉末状食肉加工品の粒子径分布をレーザー回折/散乱式粒子径分析装置(LA−950V2、掘場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、循環速度が2で、攪拌速度が1で、超音波処理せず、分散媒として純水を用いた。測定結果は図1に示し、図1からは平均粒子径(メジアン径)が約363μmであったことを判明した。なお、粒子径分布の計算には、体積基準を採用し、屈折率は1.540であった。
【0042】
上記粉末状食肉加工品を媒体攪拌型湿式粉砕機装置(ミニツェア、アシザワ・ファインテック(株)製)を用いてさらに微粉砕した。装置の粉砕室に粉砕媒体としての直径0.5mmのジルコニアビーズを80%程度充填し、粉砕室中央の回転軸を周速8m/秒程度で回転させながら、上記粉末状食肉加工品50gを純水250gと共に攪拌しながらポンプで粉砕室に送り込み、滞留時間5分間で微粉砕を行い、流動性のよい液状食肉加工品を得た。この液状食肉加工品の粒子径分布を、レーザー回折/散乱式粒子径分析装置(同上)を用いて分析した結果、平均粒子径(メジアン径)が約14μmであったことを判明した(図2)。
【0043】
なお、食肉加工品1gと、寒天(UPタイプ、伊那食品工業(株)製)0.5gと水10gとを混合し寒天ゼリーを製造したところ、上記平均粒子径が約363μmの食肉加工品の場合、色のグラデーションが確認されたに対して、上記平均粒子径が約14μmの食肉加工品の場合は、分散性がよく色が均一であったことが確認された。このことから、微粉砕された食肉加工品は様々な食材にスムーズに融合し得ると推測される。
【0044】
(実施例2 ヒドロキシアパタイト含有粉体材料の製造その1)
実施例1の乾燥分離により得られた骨部分を卓上型連続粉砕機(同上)を用いて粉砕し、粒子径1mm以下の粉体を得た。得られた粉体を有機物が完全に熱分解・ガス化するように空気流中1000℃で1時間焼成して、粉体材料を得た。この粉体材料をX線回折法(XRD)によって同定した結果を図3に示す。図3からこの粉体材料は結晶性のよいヒドロキシアパタイト粉末であることが分かった。
【0045】
上記ヒドロキシアパタイト粉末を媒体攪拌型湿式粉砕装置(同上)を用いてさらに微粉砕した。上記食肉加工品の微粉砕と同じ条件で、滞留時間1時間で微粉砕処理を行った。微粉砕したヒドロキシアパタイト粉末の平均粒子径を、レーザー回折/散乱式粒子径分析装置(同上)を用いて分析した。測定条件は、循環速度が2であり、攪拌せず、超音波処理が強度7で3分間、分散媒として純水を用いた。測定結果を図4に示す。図4から微粉砕されたヒドロキシアパタイト粉末の平均粒子径(メジアン径)が約139nmであったことを判明した。なお、粒子径分布の計算には、体積基準を採用し、屈折率は1.600であった。
【0046】
(実施例3 食肉加工品の製造その2)
実施例1で得られた平均粒子径が約363μmの食肉加工品20gを、直径10mmのセラミックスボール約200gと共に容量250mLのセラミックス容器に入れ、次に100gの純水と0.1gの乳化剤(花王(株)製エマゾールL−120V)を添加し、遊星型ボールミル(P−5型、ドイツFRITSCH GmbH製)を用いて、回転数300rpmで10分間粉砕処理を行い、スラリー状の分散物を得た。レーザー回折/散乱式粒子径分析装置(同上)を用いて分析した結果、平均粒子径(メジアン径)が約92μmであった(図5)。
【0047】
次に得られたスラリー状分散物200mLをさらに媒体攪拌型湿式粉砕装置(同上)を用いて微粉砕を行った。装置の粉砕室に直径0.5mmの粉砕媒体としてのジルコニアビーズを80%程度充填し、粉砕室中央の回転軸を周速8m/秒程度で回転させながら、スラリー状分散物を攪拌しながらポンプで粉砕室に送り込み、滞留時間5分間でビーズを衝突させることによって微粉砕を行った。これにより、流動性のよい液状食肉加工品を得た。得られた液状食肉加工品の平均粒子径(メジアン径)をレーザー回折/散乱式粒子径分析装置(同上)を用いて分析した結果、平均粒子径(メジアン径)が約13μmであった(図6)。
【0048】
(実施例4 ヒドロキシアパタイト含有粉体材料の製造その2)
実施例1の乾燥分離により得られた骨部分を卓上型連続粉砕機(同上)を用いて粉砕し、粒子径1mm以下の粉体を得た。得られた粉体を空気流中で300℃で1時間焼成してヒドロキシアパタイトとカーボンとを含むヒドロキシアパタイト含有粉体材料を得た。この粉体材料をX線回折法(XRD)によって分析した結果は図7に示す。ヒドロキシアパタイトの回折ピークが観察されたが、回折線の幅が広いため、結晶性の低いヒドロキシアパタイトが含まれていることが分かった。
【0049】
300℃で1時間焼成したヒドロキシアパタイト含有粉体材料中のヒドロキシアパタイトの含有量を以下の方法によって測定した。上記骨部分を粉砕して得られた平均粒子径1mm以下の粉体1.0gを精確に測りとって、直径40mm深さ10mmの灰分測定用灰皿(丸型、耐熱温度1100℃)に入れ、空気流中で300℃1時間焼成し、室温まで冷却した後その重量を測った。次に同じ条件で粉体1.0gを500℃、600℃、800℃、1000℃で焼成し、それぞれの焼成後の重量を測った。焼成により重量の変化を図8に示す。図8から、300℃以上800℃までの温度範囲では、温度が高ければ高いほど得られた粉体の重量が減少するが、800℃〜1000℃の温度範囲では、焼成温度による重量の変化が殆どなかったことが分かった。ヒドロキシアパタイトは1000℃までの温度では分解・蒸発せず、また空気とも反応しないため、減少した重量は殆どカーボンであったと推測される。また、800℃で焼成した粉体は300℃で焼成したものに比べて15重量%減少したことから、本実施例で得られた粉体材料中、ヒドロキシアパタイトの含有量が85重量%で、カーボンの含有率が15重量%以下であったと推測される。
【0050】
上記300℃で焼成して得られた粉体材料の吸臭能力を、市販吸臭材である人工ゼオライトCaタイプ(中部電力製)と比較した。具体的には、水中におけるトリエチルアミンの吸着能力を評価した。トリエチルアミンは揮発性有機化合物であり、悪臭をする有害大気汚染物質である。まず、330μL/Lのトリエチルアミン水溶液を用意し、該水溶液に所定量の人工ゼオライトCaタイプ又は本発明の粉体材料を投入し、1分間振とうし、1分間静置した後、水中トリエチルアミンの濃度を測定し、吸臭能力を評価した。その結果は図9に示した。図9から、330μL/Lのトリエチルアミン水溶液中のトリエチルアミンの全量を吸収するために必要な吸臭材の量は、上記300℃で焼成して得られた粉体材料が約20gであるに対して、人工ゼオライトCaタイプは約30gであった。本発明のヒドロキシアパタイト含有粉体材料は優れた吸臭能を有し、吸臭材又は環境浄化材として利用可能であることが分かった。
【0051】
なお、水中トリエチルアミン濃度の測定は、高分子薄膜の膨潤に基づく干渉増幅反射法式VOCセンサー(O.S.P.Inc.製)を利用したヘッドスペース法を適用した。まず、純水にマイクロシリンジでトリエチルアミンを注入して所定濃度のトリエチルアミン溶液を調製した。次に、濃度が既知のトリエチルアミン溶液300mLを容量500mLのガラス瓶に入れて密閉させ、液相と気相中のトリエチルアミンが平衡状態になった際の気相中のトリエチルアミン濃度をVOCセンサーにより測定した。VOCセンサーの出力と既知の水中トリエチルアミン濃度との相関関係図を作成し、これを検量線として利用した。測定する前に、純水を使ってゼロ点校正を行った。測定は、測定ガスが循環される循環方式を採用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉と骨とを含む家畜骨材料からエキスを抽出した後の家畜骨残渣の処理方法であって、
前記家畜骨残渣を120℃から200℃の温度範囲で乾燥させる乾燥工程、
乾燥させた前記家畜骨残渣を食肉部分と骨部分とに分離させる分離工程、並びに、
前記食肉部分を粉砕し、食肉加工品とする粉砕工程、及び/又は、
前記骨部分を粉砕し、空気流中300℃から1000℃の温度範囲で焼成してヒドロキシアパタイト含有粉体材料とする焼成工程と
を含む、家畜骨残渣の処理方法。
【請求項2】
前記乾燥工程の前処理として、前記家畜骨残渣を冷凍処理及び解凍処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の家畜骨残渣の処理方法。
【請求項3】
前記分離工程が、振動篩い機によって行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の家畜骨残渣の処理方法。
【請求項4】
前記粉砕工程が、媒体攪拌型粉砕法によって平均粒子径が50μm以下となるよう行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の家畜骨残渣の処理方法。
【請求項5】
前記焼成工程によって得られたヒドロキシアパタイト含有粉体材料を、さらに媒体攪拌型粉砕法によって平均粒子径が0.3μm以下となるよう微粉砕することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の家畜骨残渣の処理方法。
【請求項6】
前記家畜骨材料は食肉が付着している鶏骨であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の家畜骨残渣の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の家畜骨残渣の処理方法によって得られることを特徴とする、食肉加工品。
【請求項8】
前記食肉加工品のカルシウム含有量が2000mg/100g以上であることを特徴とする、請求項7に記載の食肉加工品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の家畜骨残渣の処理方法によって得られることを特徴とする、80重量%以上のヒドロキシアパタイトと20重量%以下のカーボンとを含む、ヒドロキシアパタイト含有粉体材料。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−109928(P2011−109928A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266467(P2009−266467)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 一般社団法人 廃棄物資源循環学会 刊行物名 平成21年度廃棄物資源循環学会研究討論会 講演論文集 発行日 2009年5月25日 [刊行物等]発行者名 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター 刊行物名 平成21年度研究発表会要旨集 発行日 平成21年6月17日
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】