説明

家鶏及び養鶏施設の防疫方法。

【課題】本発明は、家鶏及び養鶏施設の防疫に関して、安全度が高く、性状の安定した消毒液を採用し、併せて、消毒液の被消毒体に対する噴霧・散布を効果的にする家鶏及び養鶏施設の防疫方法を提供する。
【解決手段】アリルイソチアネート成分を含有する消毒用溶液を用いて噴霧・散布することにより、かつ、前記噴霧散布された微粒の溶液粒子に電荷又はイオンを付加することにより、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする家鶏及び養鶏施設の防疫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家鶏及び養鶏施設の防疫に関するもので、環境に優しくて、実施し易く、効果が発揮できる家鶏及び養鶏施設の防疫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家禽類を飼育するに際し、感染性病原菌、ウイルスの不活化は、環境面および飼育面の両面からも重要な点で、家鶏である採卵鶏及び食用鶏の養鶏において、感染性病原菌、ウイルスを殺菌、不活化する家鶏及び養鶏施設の防疫管理が非常に重要である。
【0003】
養鶏において、鶏の伝染病は多数存在し、ウイルス病として、ニューカッスル病、伝染性気管支炎(鶏IB),鶏伝染性喉頭気管支炎、マレック病、鶏痘、EDS−76,鶏封入体肝炎、鶏脳脊髄炎、伝染性ファブリキウス嚢病、鶏白血病があり、また細菌病として、雛白痢、鶏大腸菌症、鶏ブドウ球菌症、伝染性コリーザ、鶏マイコプラズマ病、鶏カビ性肺炎などは伝播することが多く、これらの疾病が複合して養鶏に大きな被害をもたらす例が多い。さらに、人畜共通感染の恐れのあるH5N1型等の鶏インフルエンザは人命にも影響を及ぼすと言われ、家鶏の生活環境から病原体を如何に無くし、防ぐかが養鶏の大きな課題である。
【0004】
鶏舎などの養鶏施設でのウイルスや感染性病原菌に対する防疫対策として、清掃、洗浄及び消毒が行われている。このうち消毒には、クレゾール石鹸液、オルソ剤、フェノール系消毒剤、ヨード系消毒剤、塩素系消毒剤等の希釈液の散布を主体に、また人体に有害なホルムアルデヒドも消毒に用いられている。その際、鶏舎内の完全な衛生化をするには、鶏を鶏舎から移動して空にする必要があり、オールインオールアウト方式といわれ、空になった鶏舎を清掃、洗浄を中心とした物理的防疫法と、消毒剤を用いた化学的消毒法が行われ、無毒化された鶏舎に家鶏を導入して飼育する方法が採られている。
【0005】
このオールインアウト方式により清浄化された鶏舎でも、またそれがウィンドレス型等の密閉構造の鶏舎でも、導入された雛がウイルスや伝染性病原菌を保有している場合や、養鶏場に出入りする作業者や車両を介して外部からウイルスや伝染性病原菌が侵入する危険がある。そして、一旦鶏舎内にそれらが伝播すると、咳による空気伝染や鶏糞などを媒介して短期間に大量の発病が起こることになる。また、ウイルスや病原体は鶏自身の体や羽に貯留して、排出され、他の鶏に撒き散らされることになるので、最大の伝播経路となっている。さらに、開放型鶏舎においては、渡り鳥等との直接接触により、海外伝染病までが伝播する危険性がある。
【0006】
そのため、鶏を飼育している鶏舎内では、自動噴霧装置を用いた消毒剤の散布が行われている。この消毒剤としては、前述のクレゾール石鹸液、オルソ剤、フェノール系消毒剤、ヨード系消毒剤と異なり皮膚刺激性の少ない逆性石鹸、両性石鹸等が用いられるが、長期間継続的な鶏体への使用については安全性について疑問を残すものである。また、防疫に対する不安から、必要量以上の消毒剤が散布されると、消毒剤が糞尿中に残り、残留した消毒剤は、糞尿処理装置内の有用なバクテリアまでを不活化し、汚泥処理による糞尿処理能力を低下させる原因となるおそれがある。
【0007】
一方、対処療法として、ウイルスや感染性病原菌に鶏が感染し難いように、ワクチンや抗菌性物質などの薬剤が注射、点眼、点鼻、噴霧又は飲水に混合されて経口投与されている。しかし、一旦感染性疾病が発病すると、その治療のために、さらに薬剤を投与しなければならず、投薬する作業の頻繁と多量の薬剤の使用という問題を惹起することになり、養鶏業の受ける損失は大きい。また、大量に投与されるワクチンや抗生物質は、耐性菌発生の要因ともなり、耐性菌によるこれら投薬の無効力化は、鶏の死亡率の上昇や、最大の問題として人への感染に到る重大問題に発展するおそれもある。
【0008】
鶏に対するワクチンの投与、薬剤の飼料への添加等により鶏の発病を予防しているが、採卵鶏の成鳥ではこれらの使用が禁止され、また食用鶏では出荷前一週間は休薬期間であるから、これらの鶏は無防備状態に置かれる。よって、予防薬やワクチンだけに頼らず、外部からの厳密な隔離、鶏舎の清浄化および鶏群のSPF化が鶏の衛生管理に不可欠である。このための一つの手段として、消毒剤としてのオゾンが、強力な殺菌力、消臭力等の特性、さらに分解による残存薬剤が少ない利点から養鶏関係での利用が提案されている。〔参考文献1〕
【特許文献1】特開2005−253378公報(〔0012〕、〔0014〕、〔0043〜0047〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記先行技術は、高濃度のオゾン水を散布して消毒に用い、かつ、有害なオゾンガスの発生を抑制できる点で優れているが、低温でのオゾン水の貯蔵やオゾン水配管の腐食対策やオゾン水のガス化を抑制する散布液ノズルの採用等複雑かつ高価な設備を必要とするなど、付随的な問題があった。本発明は、これらの問題を解決したものであって、家鶏及び養鶏施設の防疫に関して、安全度が高く、性状の安定した消毒液を採用し、併せて消毒液の被消毒体に対する噴霧・散布を効果的にする家鶏及び養鶏施設の防疫方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る家鶏及び養鶏施設の防疫方法は、アリルイソチアネート成分を含有する消毒用溶液を用いて、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする。また、請求項2に係る家鶏及び養鶏施設の防疫方法は、アリルイソチアネート成分を含有する溶液と、消毒剤を含有する溶液と、を混合した消毒用溶液を用いて、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする。また、請求項3に係る家鶏及び養鶏施設の防疫方法は、請求項2に記載の消毒剤が、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類であることを特徴とする。
【0011】
アリルイソチアネートは山葵又は辛子由来の成分でもあり、鶏が感染し、健康被害をもたらすウイルスや感染性病原菌を死滅させる薬効がある。また、アリルイソチアネート成分を含有した溶液を消毒剤として使用しても、消毒剤の残存による蓄積性も無く、耐性菌などの出現も無いので、家鶏及び養鶏施設の防疫処理の消毒剤として適している。また、アリルイソチアネート成分は、山葵又は辛子から真空低温蒸留により抽出して使用するのが良い。また、アリルイソチアネート成分を含有した溶液に、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類の溶液を混合した消毒液は家鶏及び養鶏施設に対し、それぞれが薬効を発揮する。すなわち、家鶏に対しては主にアリルイソチアネート成分が、鶏舎を含む養鶏施設には主に木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類が、それぞれ主体となって効果を発揮すると推定される。
【0012】
また、請求項4に係る家鶏及び養鶏施設の防疫方法は、請求項1、2、3のいずれかに記載の消毒用溶液を噴霧散布することにより、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする。また、請求項5に係る家鶏及び養鶏施設の防疫方法は、請求項4記載の家鶏及び養鶏施設の防疫方法において、前記噴霧散布された微粒の溶液粒子に電荷又はイオンを付加することにより、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする。
【0013】
この構成を採用することにより、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を効果的に行うことができる。特に、噴霧散布された微粒の溶液粒子に電荷又はイオンを付加することにより、プラスに帯電した鶏の羽毛に対し消毒剤の噴霧散布されたマイナス荷電の微粒子が電気的に引き寄せられて、密着するので、消毒効果を増大させ、かつ、長時間継続する。一方、鶏舎を含めた養鶏施設の個々の物体は、概ねマイナスに帯電しているので、消毒剤の噴霧散布された微粒子にプラスの電荷又はイオンを付加することにより、消毒剤の微粒子が電気的に引き寄せられて、密着するから、消毒を効果的に、かつ、長時間継続させることができる。このようにして、消毒の対象物によって、電荷又はイオンの付加状況を変えることにより、消毒効果が効率的に実施できるので、量的にも消毒剤を過剰に使わなくてよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る請求項1から3記載の家鶏及び養鶏施設の防疫方法によれば、山葵等の天然物から抽出したアリルイソチアネート成分は、鶏が感染し、健康被害をもたらすウイルスや感染性病原菌を死滅させる薬効があると共に、アリルイソチアネート成分は、消毒剤として使用しても、残存による蓄積性も無く、耐性菌などの出現も無いので、家鶏及び養鶏施設の防疫処理の消毒剤として適している。また、アリルイソチアネート成分を含有した溶液に、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類の溶液を混合した消毒液は、アリルイソチアネート成分が主に家鶏に対して、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類が主に鶏舎を含む養鶏施設に対して、消毒薬として有効に働くことができる。
【0015】
また、本発明に係る請求項4及び5記載の家鶏及び養鶏施設の防疫方法によれば、噴霧散布された微粒の溶液粒子に電荷又はイオンを付加することにより、プラスに帯電しているがために、ウイルスや感染性病原菌を多量に付着・保有する鶏の羽毛を含めた鶏体に対して、消毒剤の噴霧散布されたマイナス荷電の微粒子が電気的に引き寄せられて、密着するので、消毒効果が増大し、長時間継続することができる。一方、鶏舎を含めた養鶏施設の個々の物体は、概ねマイナスに帯電しているので、消毒剤の噴霧散布された微粒子にプラスの電荷又はイオンを付加することにより、消毒を効果的に、かつ、長時間継続させることができる。このように消毒対象物の荷電状況により、消毒剤の荷電付加を対応させて噴霧散布できるので、消毒効果が効率的に実施でき、しかも、量的に消毒剤を過剰に使わなくてすむ特長がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の家鶏及び養鶏施設の防疫方法を実施するための最良の形態について説明すると、鶏のウイルスや感染性病原菌を死滅させる薬効があるアリルイソチアネート成分は、例えば、天然の、または、人工栽培の山葵又は辛子から真空低温蒸留により抽出して、溶液の形態にする。このアリルイソチアネート成分は水、アルコールや有機溶媒に溶解する。この溶液にすることで、貯蔵および噴霧・散布の使用態様が容易となる。
【0017】
また、アリルイソチアネート成分を含有した溶液に、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類の溶液を混合した消毒液は、家鶏及び養鶏施設に対し、それぞれが薬効を発揮する。すなわち、家鶏に対しては主にアリルイソチアネート成分が、鶏舎を含む養鶏施設には主に木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類が、それぞれ主体となって効果を発揮すると推定される。いずれにしても、アリルイソチアネート成分を含有した溶液だけ、或いはアリルイソチアネート成分を含有した溶液に、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類の溶液を混合した消毒液は、夫々家鶏及び養鶏施設の防疫処理に用いることができる。そしてウイルスや感染性病原菌の種別により適宜使い分けすることができる。
【0018】
前述の消毒液は、家鶏及び養鶏施設の防疫処理に用いるが、その使用態様は消毒液を噴霧・散布するのがウイルスや感染性病原菌を不活化する上で効果的である。この噴霧・散布は、液圧式又は気液二流体式の噴霧機を用いるのがよい。
【0019】
また、ウイルスや感染性病原菌を多量に付着・保有する鶏の羽毛を含めた鶏体は、特に湿度の低い冬季には、帯電していることが多いので、その電荷と相反する電荷を消毒液の噴霧・散布する微粒子に持たせれば、電気的に相引き合い、確実に密着して長時間保有させることができる。一方、鶏舎を含めた養鶏施設にも同様な効果が期待できる。
【0020】
よって、噴霧散布された微粒の溶液粒子に電荷又はイオンを付加することにより、プラスに帯電しているために、ウイルスや感染性病原菌を多量に付着・保有する鶏の羽毛を含めた鶏体に対して、消毒液の噴霧散布されたマイナス荷電の微粒子が電気的に引き寄せられて、密着するので、消毒効果が増大して、長時間継続することができる。一方、鶏舎を含めた養鶏施設の個々の物体は、概ねマイナスに帯電しているので、消毒液の噴霧散布された微粒子にプラスの電荷又はイオンを付加することにより、消毒を効果的に、かつ、長時間継続させることができる。このように消毒対象物の荷電状況により、消毒液の荷電付加を対応させて噴霧散布できるので、消毒効果が効率的に実施でき、しかも、量的に消毒剤を過剰に使かう必要がなくなる。
【0021】
上記の電荷又はイオンを付加した消毒液の噴霧微粒子の製造は、液圧式又は気液二流体式噴霧機の噴霧ノズルの周り又は直後に電荷又はイオンを付加する電極筒を設け、プラス又はマイナスの直流高電圧を印加することにより達成できる。
【0022】
前述の液圧式又は気液二流体式噴霧機は、可搬式、固定式どちらでも製作可能なものであり、家鶏や家鶏群には可搬式、固定式どちらでも適用することができるし、鶏舎を含む養鶏施設には固定式で、自動散布の適用が望ましい。
【0023】
近年の冬季に発生する渡り鳥に起因するH5N1型に代表される鶏イフルエンザウイルスが、渡り鳥の羽毛表面に運動により静電気が発生し、鶏イフルエンザウイルスを吸着して纏った状態で飛来してくると推定される。これに対し、本発明の家鶏及び養鶏施設の防疫方法によれば、鶏舎の天井より、山葵の抽出物であるアリルイソチアネート成分を含有した溶液と、木酢液及び石灰液のアルカリ液を混合したものを、ミスト化と同時にイオン化して鶏舎内に散布することにより、湿度を高めてウイルスの増殖を防ぎ、同時に、静電気付着により鶏の体表面や羽毛内部に、また、呼吸,飲用により体全体にアリルイソチアネート成分とアルカリ液の混合バリア膜が作られ、ウイルスの付着を妨げて、鳥の罹病率を下げる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0024】
家禽全般について、家禽自体及び家禽の飼育設備の防疫管理に適用することができる。また、畜産の防疫管理にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルイソチアネート成分を含有する消毒用溶液を用いて、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする家鶏及び養鶏施設の防疫方法。
【請求項2】
アリルイソチアネート成分を含有する溶液と、消毒剤を含有する溶液と、を混合した消毒用溶液を用いて、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする家鶏及び養鶏施設の防疫方法。
【請求項3】
前記消毒剤が、木酢液、次亜塩素酸ソーダ液及び石灰液の内から選択される少なくとも一種類であることを特徴とする請求項2記載の家鶏及び養鶏施設の防疫方法。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれかに記載の消毒用溶液を噴霧散布することにより、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする家鶏及び養鶏施設の防疫方法。
【請求項5】
前記噴霧散布された微粒の溶液粒子に電荷又はイオンを付加することにより、家鶏及び養鶏施設の防疫処理を行うことを特徴とする請求項4記載の家鶏及び養鶏施設の防疫方法。

【公開番号】特開2008−206664(P2008−206664A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45438(P2007−45438)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(500136810)株式会社 大通 (26)
【Fターム(参考)】