説明

容器、試薬キットおよび装置

【課題】 劣化したとされる試薬は、通常、目視などでその劣化具合を確認できないため、一般のユーザーにとっては、使用に当たって劣化した試薬かどうかの判定が出来ない。
【解決手段】 生化学反応を行なうための試薬を保持するための容器であって、前記試薬の変化の要因となる環境変化を検知する素子を有することを特徴とする保持容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリダイゼーション反応、核酸抽出反応、核酸増幅反応、その他酵素反応など、生化学反応を行なうための試薬を保持するための容器および試薬キットに関する。
【0002】
さらに本発明は、生化学反応を行なわせるための装置あるいは生化学反応を行なうためのデバイスを製造する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
生化学反応を行なうためのデバイスとは、例えば遺伝子の発現、変異、多型などの同時解析に非常に有効である多数のDNA断片やオリゴヌクレオチドを固相表面に固定したDNAチップを始めとするバイオチップ、生化学反応を利用したμTASなどが挙げられる。また生化学反応装置の一例としては、DNAチップの自動ハイブリダイゼーション装置や、DNA抽出・回収・単離装置(特許文献1)、核酸増幅装置などがある。
【0004】
これら生化学反応には、生体物質やその類縁体などが必要となる。例えばポリメラーゼ連鎖反応を利用した核酸増幅(PCR)を例にとると、dNTP(デオキシリボヌクレオチド三リン酸)、ポリメラーゼ、プライマーなどが必要となる。特に用途によっては蛍光色素などで標識されたプライマーやdNTPなどが使用される。
【0005】
他の例として、DNAチップのハイブリダイゼーションを例に挙げると、ハイブリダイゼーション溶液中に標的物質の他に、外部標準核酸を混合させてハイブリダイズさせる場合もある(特許文献2)。
【0006】
このような生体物質やその類縁体、特に蛍光色素などで標識された物は一般に熱などの環境変化に弱い物も存在し、保存や流通は低温、暗所、低湿度環境下で厳密に管理する必要があるものも少なくない。
【0007】
このような試薬または複数の試薬がセットになった試薬キットの管理は、ユーザーや代理店などの流通業者が保存時あるいは流通時に充分に注意するように委ねられているのみである。例えば、試薬や試薬キットの収納ケース(パッケージ)の表面あるいはカタログや説明書に、冷蔵保管、冷凍保管あるいは冷暗所保管を行なうようにし、室温やその他高温、直射日光の当たる場所、高湿度環境下などとなる場所に長時間放置しないように求められた注意書きが印刷されている。
【特許文献1】特開2000−121511号公報
【特許文献2】特開2004−028695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、このような注意書きをもって、試薬あるいは試薬キットの流通や保管管理は流通業者やユーザーに委ねられてはいるが、熱などにより劣化したとされる試薬は、通常、目視などでその劣化具合を確認できない。このため、一般のユーザーにとっては、使用に当たって劣化した試薬かどうかの判定が容易でない。そして、劣化した試薬を使用してしまうと、診断検査キットなどにおいては誤診断を招く恐れすらある。このような情況に鑑みて、本発明の目的は、流通、保管されていた試薬、試薬キットがどの程度の劣悪環境による劣化を受けたかが容易に判定出来る試薬容器並びに試薬キットを提供することである。また、試薬や試薬キットの劣化度合いを検出し、ある規定値以上の劣化を受けた形跡がある場合には、エラーを出力する自動装置を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる試薬の保持容器は、生化学反応を行なうための試薬を保持するための容器であって、容器の外部に試薬又は容器の変化の要因となる環境変化を検知することが可能なことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、少なくとも上記生化学反応を行なうための試薬と、前記試薬の変化の要因となる環境変化を検知する不可逆性の素子を含む試薬キットをも提供する。
【0011】
またさらに本発明は、上記生化学反応を行なわせるための装置あるいは生化学反応を行なうためのデバイスを製造する装置であって、容器を載置する載置部と、容器等の素子から環境変化に関する情報を取得する手段と、取得手段で取得した情報に基づいて前記試薬の変化の有無を判定する手段を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生化学反応を行なうための試薬を保持する保持容器あるいは、試薬キットに、試薬あるいは容器の変化の要因となる環境変化の痕跡を残すことが可能な、例えば示温材のような素子を付加することにより、保管あるいは流通時にどのくらいの試薬の変化(劣化)を受けたかをユーザーが目視で確認でき、ある一定以上の素子の変化がある場合には、その試薬が劣化している可能性が高いことを簡便に判断でき、流通時、保管時における品質管理確認が容易となる。
【0013】
さらには、核酸増幅装置、核酸抽出装置などの生化学反応を行なうための自動装置あるいは、DNAチップなど生化学反応を行なうためのデバイスの製造装置に、上記素子の変化を読み取る手段を設けることにより、誤って劣化した試薬を使用することがないため、正確な分析やデバイス製造を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で言う生化学反応とは、核酸増幅、核酸抽出、ハイブリダイゼーションなど、生体物質を使用する反応を言い、生体物質とは、酵素などに代表されるタンパク質、オリゴヌクレオチドやcDNAなどに代表される核酸、NTP、さらにはPNA等のような類縁体やこれらが蛍光色素などで標識化された誘導体を含む物質を言い、試薬とは前述した生体物質あるいは生化学反応を行なわせるために使用される化学物質一般を言い、単品か混合物かは問わない。また、本発明で言う試薬キットとは、上記試薬をユーザーが使いやすい形態にした物で、例えば1回分ごとに使用できる量に小分けした物、1つの生化学反応を行なうための試薬群をセットにした物あるいは混合した物などを言い、試薬の数や種類などは問わない。
【0015】
前述した生体物質、特には蛍光標識された物などは一般に熱や紫外線などに弱く、流通や保管時には遮光し、冷蔵保存あるいは冷凍保存することが望まれている。しかし、これまでは取扱注意と言うことで、パッケージや取扱説明書、カタログなどにその旨が記載されていたのみであり、実際にどのくらいの劣悪環境下にさらされ、どのくらい試薬が変化(劣化)したかなどは容易には判断できなかった。
【0016】
そこで本発明では、これら試薬を保持するための容器であって、試薬の変化の要因となる環境変化を検知することが可能な構成とする。試薬の変化の要因となる環境変化を検知することが可能な構成であれば、どのような構成でも構わないが、より好ましくは示温材、紫外線の受光を検知する素子、タイムインジケーターのような試薬の変化の要因となる環境変化を検知する素子を有する構成が好ましい。容器は例えばプラスティック製のマイクロチューブや複数のマイクロチューブが連なったストリップチューブ、多数のウェルからなるマルチウェルプレートなどがよく使われる。また個々の管理を容易にするためバーコード、二次元バーコードなどの識別子が付加された物もある。
【0017】
試薬の変化の要因となる環境変化を検知する素子とは、例えば要因が紫外線の場合は、特開2001−281052号公報で公開されているように、加熱により色変化を伴って酸化型に復元し得る2量化キノン化合物を、紫外線の照射により還元の基に脱色する紫外線検出材としてポリオレフィン系樹脂に配合したものや、特公平3−19536号公報で開示されているように、低重合度のポリ塩化ビニルと有色染料もしくは、無色染料とを必須成分とする溶液状組成物であって、近紫外線照射により前記有色染料もしくは無色染料が明瞭な色彩変化及び色濃度変化を起こしうることを特徴とする紫外線検知材、市販の紫外線検知材(例えば、商品名「UVラベル」、日油技研工業株式会社製)などがある。
【0018】
なお、試薬や容器の種類によっては紫外線の影響の度合いも異なるため、素子形成材料の感度を調整し、使用する試薬や容器に最適なものを選ぶことが好ましく、本発明はこれら感度や紫外線検知材の種類を限定するものではない。
【0019】
パッケージや容器を開封した瞬間から劣化をする試薬には、タイムインジケーターが有効である。例を挙げるのであれば、特開平11−14616号公報で開示されている、基体の片面または両面に、酸素との反応により速やかに変色する化合物を含む変色層を積層し、該変色層の上に、酸素ガス透過率0.1〜3000ml/m・24hr・atm・25℃・100%RHの酸素ガス透過制御層を積層してなることを特徴とするタイムインジケーターがあげられる。
【0020】
また、特開平6−18676号公報には、熱可塑性樹脂と揮散性を有する電子受容性有機化合物と難揮散性の電子供与性発色性有機化合物とを溶融混練してなる組成物を、比表面積が、連続的または非連続的に異なる形状に成形してなるタイムインジケーターが掲示されている。
【0021】
さらには、特開平10−293183号公報には、容器内の空間部分に充填され、大気に接触することにより遅延された形状回復性を有する発泡体又は積層体から形成されていることを特徴とするタイムインジケーターが開示されている。
【0022】
なお、ここであげたタイムインジケーターは、試薬の種類や容器等により感度を調整して用いることが好ましく、またその種類を限定するものではない。
【0023】
pHによって劣化する試薬の場合、湿らせたpH試験紙を添付する方法や、また生化学反応に影響しない範囲でフェノールスルホンフタレインなどのpH指示薬を溶解させておく等の方法がある。
【0024】
温度により劣化する試薬などの場合には、検知する素子として示温材が有効である。示温材としては、非結晶−結晶または相分離−非相分離によるリタイラブル系の電子供与性呈色性化合物(例えばロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、フルオラン類、シアニン色素類、クリスタルバイオレット等、の電子供与性有機物等)、電子受容性化合物(例えばフェノール類、フェノール金属塩類、カルボン酸金属塩類、スルホン酸、スルホン酸塩、リン酸塩、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸塩、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等の酸化物等)のような材料がある。この系は、サーマルヘッドにより融点以上に加熱され、急冷されたときに無色に固定され、そのインク系のガラス転移点以上で徐々に発色する。温度と発色する時間は、可逆剤等の濃度によりコントロールする事ができる。
【0025】
具体的には特開平11−140339号公報で公開されているような、支持体上に、無色ないしは淡色の塩基性染料と呈色剤および熱可融性物質を含有する層を設けた不可逆型示温材料において、塩基性染料として3−(1−n−オクチル−2−メチルインドール−3−イル)−3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリドまたは3,3’−ビス(1−n−オクチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリドを用い、かつ熱可融性物質として1,2−ジフェノキシエタンおよび/またはシュウ酸ジベンジルエステルを含有せしめたことを特徴とする不可逆型示温材料があげられる。
【0026】
また、顔料としてコバルト、ニッケル、鉄、銅、クロム、マンガンなどの塩類を用い、これらの組成中にアミン、アンモニウム塩、炭酸基、しゅう酸基などを含んだものが、アンモニア、炭酸ガス、水などの発生を伴う熱分解によって顔料化合物の組成そのものが変化して変色を起こさせたものなどがある。
【0027】
着色した溶解物質が温度上昇により溶け出して浸透部に着色を呈することを変色原理とした示温材もあり、これはある温度以上にさらされた積算時間を容易に計ることができる。
【0028】
なお、市販されている示温材(例えば商品名「サーモペイント」、「サーモラベル」、「サーモシート」、「サーモテープ」、「クールモニター」、「メルトマーク」いずれも日油技研工業株式会社製)などを用いることもできる。
【0029】
示温材の形状としては、示温材塗料でマークを記しても良いし、シール状の示温材を容器に添付した物でも良い。
【0030】
示温材塗料としては、溶融性顔料の融点を利用したとされる市販の温度管理用の示温材ペイント(例えば、商品名「サーモペイント」、日油技研工業株式会社製)が使用できる。但し、熱履歴の標示が、容器表面に残留するように、前記ペイントは温度上昇により一度変色すると元に戻らない不可逆性(温度上昇で変色するが湿気や可逆剤の存在などにより原色に復色する準不可逆性を含む)を持つものが採用される必要がある。
【0031】
示温材を容器に貼付する場合には、シール状の物が市販されている。例えば、商品名「サーモラベル」、「サーモテープ」、「メルトマーク」いずれも日油技研工業株式会社製などである。
【0032】
例えば試薬がオリゴヌクレオチドの場合、純粋な状態で且つ遮光されていれば室温で搬送しても大きな失活はない。このような場合は例えば変色温度が25℃のメルトマークを使用することで、25℃以上になった場合の熱履歴が検出できる。しかし、例えば蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドや、例えばDNAチップの材料として使用されるメルカプト基を有するオリゴヌクレオチド(特開平11−187900号公報)などは失活する温度が更に低いため、より低温で熱履歴が残る示温材が必要となる。
【0033】
複数の試薬からなる試薬キットの場合は、その中でも一番失活しやすい試薬の温度に合わせて選択する必要がある。
【0034】
このように、試薬の種類、安定剤の有無、不純物の有無などの条件によっては温度の影響の度合いも異なるため、感度を調整し、使用する試薬に最適な示温材を選ぶことが好ましく、本発明はこれら感度や示温材の種類を限定するものではない。
【0035】
示温材などの素子を搭載する場所に関しては特に限定される物ではないが、マイクロチューブ、ストリップチューブなどを例に挙げるならば、蓋の開閉、試薬の出し入れ、試薬の種類や量などが記載されているラベルの視認に影響のないところで、確認しやすい場所が好ましい。例えば多数のマイクロチューブがラックに入っていても一目で確認できるように蓋の上部、あるいはマイクロチューブ底面にシール状の素子を貼付することが好ましい。しかし、装置内のシリンジが蓋を貫通して中の試薬を取り出すような装置に使用される場合や、マイクロチューブ底面に二次元コードなどが設置されているなどの場合は、容器側面にシール状の素子を貼付する方法(図1)や、試薬の種類や量などが記載されているラベルに塗料状の素子(例えば「サーモペイント」(日油技研工業株式会社製))でマークを付加する方法などもある。このようにチューブ側面に貼付する場合、どの方向からも確認できるよう側面一部分に貼付するのではなく、一周取り巻くように貼付することが好ましい。
【0036】
マルチウェルプレートの場合も同様に、蓋の開閉、試薬の出し入れ、試薬の種類や量などが記載されているラベルがある場合にはその視認に影響のないところで確認しやすい場所が好ましい(例えば図2に示す容器の側面など)。
【0037】
さらには、容器の材料にこれら素子を混練して容器を作成しても良い。
【0038】
他に、温度変化や紫外線の照射により容器全体の色または形状が変化する構成なども本発明に含まれる。
【0039】
試薬キットの場合は、上述のように試薬を保持する容器に素子を設けても良いが、試薬やその容器を梱包しているパッケージにシール状の素子を貼付するか、塗料状の素子でマーキングすることにより、パッケージを開梱する前に確認ができることから好ましい方法のひとつである(図3)。さらには試薬パッケージの中に、素子を貼付あるいは塗料状の素子でマークを付した品質安全カードのようなものを同梱させても良い。特に熱劣化を例に挙げると、市販の「クールモニター」(日油技研工業株式会社製)は、高温になった積算時間を見積もれるという利点があるが、他の示温材に比べ大きいという欠点もあることから、上述のようにパッケージ内に同梱させる方法が有効である。
【0040】
また、これら素子は摩耗などにより剥離してしまう可能性や、冷蔵あるいは冷凍のため結露してしまい、これが素子の変化に影響する場合があるので、保護材で保護することが好ましい。例えば塗料状の素子を用いた場合、その上面にクリア塗料の塗膜を加工する事が望ましい。シール状の素子を用いた場合には、本発明の目的に添う範囲でそれを覆うように透明のシールあるいはテープで保護することが好ましい。
【0041】
上述したような生体試料は極少量の場合も多く、そのため容器も小さい物である場合も多い。例えば50μLのマイクロチューブの場合このような素子を設けたとしても、素子自体が小さくなり、目視での確認が行ないにくい場合もある。
【0042】
例えば多数のプローブを用いるDNAチップの製造装置のように、上述したような小さな容器で供給される試薬を多数扱う装置では目視による確認では負荷が大きくなりミスの原因にもなりうる。このような場合は、装置内に素子の変化を読み取る手段を設けることが好ましい。
【0043】
DNAチップは上述したとおり、標的物質と特異的に結合するプローブとして多数のDNA断片やオリゴヌクレオチドを固相表面に固定した物であり、一例としてオリゴヌクレオチドを固定したDNAチップを製造する場合は、例えばオリゴヌクレオチドの合成業者からマイクロチューブで納品され、それを濃度調整し、分注装置などでウェルプレートに分注し、ピン法スポッター(例えば、「商品名 SPBIO III」日立ソフトウェアエンジニアリング製)などでスポットする。あるいは合成業者からウェルプレートで納品されて、これを上記スポッターでスポットする。
【0044】
この時、合成業者から納品される場合の容器に本発明で提供される試薬などの変化の要因となる環境変化を検知する素子が付加されたマイクロチューブを使用し、例えばCCDなどでこの素子から環境変化に関する情報を取得する手段を分注装置に内蔵しておき(図4)、ある一定値以上の環境変化がある場合は異常であることを出力し、あるいは分注動作を停止させる(図6、図7)。
【0045】
また合成業社から納品される場合の容器の素子が付加されたウェルプレートの場合は、同様にスポッターに素子から環境変化に関する情報を取得する手段を内蔵させ、ある一定値以上の環境変化にさらされた場合は異常であることを出力し、あるいはスポッティング動作を停止させる。(図5)
このようにすることで、合成業者から納品される間の流通時あるいは納品後実際に使用する間の保管時に熱などが加わってプローブが劣化している可能性がある場合でも、あやまって製造を続ける心配がない。
【0046】
なお、ここで言う製造装置とは、スポッターだけでなく上述した分注装置のように、直接の製造装置だけでなく製造に間接的に関与する装置を含む。また、異常であることを出力する手段とは、エラーメッセージを液晶表示パネルや、接続されたコンピュータのディスプレイなどに表示する方法や、エラーランプを点灯する方法、装置の動作を異常停止する方法などが挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【0047】
その他の例として、例えばPCR増幅を行なう装置を例に挙げるならば、使用する試薬としてdNTP、ポリメラーゼ、プライマー、テンプレート核酸、必要によっては蛍光などの標識試薬などが必要になる。このうちプライマー(特に蛍光標識されたプライマー)は、熱などによって劣化しやすい。劣化したプライマーを使用するとその後の工程で問題が生じる。
【0048】
そこで標識プライマーを示温材のような素子が付加された容器に入れておくことあるいは、上述した増幅用試薬キットを用いることで、流通や保管時に受けた劣化を実際に使用せずとも容易に検出できる。さらにこの劣化を検出できる手段を設けた自動PCR装置を用いれば、PCRの効果が期待できない熱劣化した試薬を用いずにすむ。
【0049】
これは他にも例えば自動核酸抽出装置、自動ハイブリダイゼーション装置などにも応用ができる。
【0050】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
示温材マイクロチューブ
(1)1.0mL用マイクロチューブ(エフ・シー・アール・アンド バイオ株式会社製、品番:S−1M)の底面に、示温材としてメルトマーク(日油技研工業株式会社製、品番:MK−25)を3mm角に切断して貼付した。
(2)DNA自動合成機を用いて配列番号1および、配列番号1の一本鎖核酸を合成した。なお配列番号1の一本鎖DNA末端にはDNA自動合成機での合成時にチオールモディファイア(Thiol−Modifier)(グレンリサーチ(GlenResearch)社製)を用いる事によってメルカプト基を導入した。続いて通常の脱保護を行い、DNAを回収し、高速液体クロマトグラフィーにて精製し、以下の実験に用いた。
【0052】
5’HS−(CH−O−PO−O−ACTGGCCGTCGTTTTACA3’(配列番号:1)
(3)(2)で合成した一本鎖核酸を純水に8.75μMになるように溶解させ、(1)のマイクロチューブに30μLずつ分注した。
(4)(3)のチューブのうち1本は冷凍庫に、1本は室温で1週間放置した。冷凍庫に保管していた物は示温材が白色のままだったのに対し、室温で放置した物は赤に変色していた。
(5)(4)のチューブをHPLC(XTerra IS MS C18 Column使用、日本ウォーターズ株式会社製)で測定したところ、冷凍庫で保存していた物はリテンションタイム2.4分のピークが1つだったのに対し、室温で放置していた物はリテンションタイム2.4分のピークの他に小さな1.9分のピークが観測された。
【0053】
以上のことから、上記示温材を用いることでメルカプト基を導入した一本鎖核酸の劣化具合を目視で確認可能な容器を作成できた。
【0054】
[実施例2]
分注装置
(1)実施例1で作成した示温剤が貼付された1.0mL用マイクロチューブ96本を収納するラック(エフ・シー・アール・アンド バイオ株式会社製、品番:DS−9RT−PC−M)から96穴ウェルプレートに分注する装置を作製した。これにフラットベッドスキャナCanoScan LiDE40(キヤノン株式会社製)を改造したものを設置した(図4)。スキャナとパーソナルコンピュータをUSBで接続し、パーソナルコンピュータのシリアルポートと分注機を接続した。
(2)コンピュータから分注指示を出すとスキャナから示温材の色を読み取り(101、202)、データ(102)として保持する。このデータを予め設定されている閾値(103)と比較する(104、203)。閾値は、使用される示温剤や対象となる試薬に応じて適宜設定される。この値が閾値以上であれば劣化していると判断し、エラーを表示し(106、206)終了させる。閾値未満であれば劣化はしていないと判断し分注を開始する(108、204)。この時どのプローブをマルチウェルプレートのどのウェルに分注するか、どのくらいの量を分注するかは予め設定している分注パターン(107)に従う。このようにすることで、劣化している試薬を使って誤ってそのまま製造することがなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】示温材が付加されたマイクロチューブ例
【図2】示温材が付加されたウェルプレート例
【図3】示温材が付加された試薬キットのパッケージ例
【図4】分注装置
【図5】ピン法スポッター
【図6】分注装置のデーターフロー図
【図7】分注装置のフローチャート
【符号の説明】
【0056】
1 マイクロチューブ
2 示温材ラベル
3 ウェルプレート
4 試薬キットのパッケージ
5 チューブラック
6 ピペットチップ
7 分注装置
8 ピン
9 ピン法スポッター
10 DNAチップ
11 カメラ
12 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学反応を行なうための試薬を保持するための容器であって、前記試薬の変化の要因となる環境変化を検知することが可能なことを特徴とする保持容器。
【請求項2】
示温材、紫外線の受光を検知する素子、タイムインジケーターの少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項1に記載の容器。
【請求項3】
独立して保持可能な2以上の保持部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
前記試薬が核酸、タンパク質、NTPあるいはその誘導体のうちの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器。
【請求項5】
前記示温材が、示温材塗料であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の容器。
【請求項6】
前記示温材が、テープ、シールあるいはシート状であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の容器。
【請求項7】
少なくとも、1)生化学反応を行なうための試薬、
2)前記試薬の変化の要因となる環境変化を検知する素子、
を含む試薬キット。
【請求項8】
前記素子が示温材、紫外線の受光を検知する素子、タイムインジケーターの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の試薬キット。
【請求項9】
前記試薬が、少なくとも二種類以上含むことを特徴とする請求項7または8に記載の試薬キット。
【請求項10】
前記試薬が、核酸、タンパク質、NTPあるいはその誘導体のうちの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の試薬キット。
【請求項11】
前記試薬が容器内に保持されており、前記素子が該容器に付されている請求項7〜10のいずれかに記載の試薬キット。
【請求項12】
生化学反応を行なわせるための装置であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の容器を載置する載置部と、
前記容器から環境変化に関する情報を取得する手段と、
前記取得手段で取得した情報に基づいて前記試薬の変化の有無を判定する手段と、
を有することを特徴とする装置。
【請求項13】
生化学反応を行なわせるための装置であって、
請求項7〜11のいずれかに記載の試薬キットに含まれる素子から環境変化に関する情報を取得する手段と、
前記取得手段で取得した情報に基づいて前記試薬の変化の有無を判定する手段と、
を有することを特徴とする装置。
【請求項14】
生化学反応を行なわせるためのデバイスを製造する装置であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の容器を載置する載置部と、
前記容器から環境変化に関する情報を取得する手段と、
前記取得手段で取得した情報に基づいて前記試薬の変化の有無を判定する手段と、
を有することを特徴とする装置。
【請求項15】
生化学反応を行なわせるためのデバイスを製造する装置であって、
請求項7〜11のいずれかに記載の試薬キットに含まれる素子から環境変化に関する情報を取得する手段と、
前記容器に付加された素子から環境変化に関する情報を取得する手段と、
前記取得手段で取得した情報に基づいて前記試薬の変化の有無を判定する手段と、
を有することを特徴とする装置。
【請求項16】
前記生化学反応が、少なくとも核酸抽出反応、核酸増幅反応、ハイブリダイゼーション反応のいずれかを含むことを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−317384(P2006−317384A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142486(P2005−142486)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】