説明

容器および粒子

【課題】 液体試料や試薬等の分注あるいは吸引分配が長時間に渡っても、該液体試料や試薬等の濃度変化を簡便に抑制できる、粒子を具備した容器を提供する
【解決手段】 ノズルあるいは針でピックアップする液体を貯留するための液体貯留部を有した容器であって、該液体貯留部に粒子を具備していることを特徴とする容器であり、該容器は、蓋またはカバーを有していることが好ましく、前記粒子を前記液体貯留部内の液体表面全体を覆う量だけ具備していることが好ましい。また、前記粒子は、その見かけの密度が貯留する液体の密度よりも小さく、その直径がノズルの開口部の直径よりも大きいか、あるいは0.075mm〜1mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬の濃度調整、混合および小分けをするための自動分注装置や、血液や尿等の体液を医学的な目的で検査する化学分析装置等において、液体試料の分注あるいは吸引分配に用いる、液体貯留部を有する容器および該液体貯留部に具備する粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種装置上で複数の試薬を混合させて溶液を調製したり、薬品ボトルから複数の容器等に試薬を小分けしたりすることができる自動分注装置が知られている。
例えば、DNAマイクロアレイは、基板上に核酸プローブの微小なスポットを整列させ、該核酸プローブに対して、検体中に含まれる遺伝子をハイブリダイゼーションさせて、該遺伝子のシグナルを検出することで、遺伝子の発現量や変異等の情報を網羅的に解析するために用いられる。
一般的に、DNAマイクロアレイ等の試験片を製造するには、マイクロプレートと呼ばれる容器に設けられた液体貯留部に、5〜50μLのプローブ溶液を分注し、該プローブ溶液をスポッターと呼ばれる装置に搭載されたノズルまたは針によりピックアップし、化学処理された基板に該溶液を吐出あるいは付着(以下、吐出と略記)させて、基板上に、プローブが固定化された微小なスポットを形成する工程を行う。
【0003】
このような、DNAマイクロアレイ等の試験片の製造に用いる各種分注装置は、ノズルまたは針を、マイクロプレートの液体貯留部内のプローブ溶液に浸漬させて、プローブ溶液をピックアップする構成となっているため、マイクロプレートの液体貯留部は、ノズルまたは針が該液体貯留部内に対して進退可能となるように、外部雰囲気に対して開放されている。そのため、液体貯留部内のプローブ溶液は蒸発し易い。
したがって、分注作業が長時間に渡る場合は、マイクロプレートの液体貯留部に分注したプローブ溶液が時間経過とともに蒸発し、これにより該プローブ溶液の濃度に経時的な差違が生じてしまう。
また、マイクロアレイの作製では、例えば、1枚の基板上にプローブ溶液を連続して吐出して、6000のスポットを形成するだけでも、現状では約8時間ほどの時間を要してしまう。
【0004】
このように、マイクロアレイの作製が長時間に渡るような場合は、マイクロプレートの液体貯留部に分注したプローブ溶液は、時間経過とともに蒸発して濃度に経時的な差違が生じて、その結果、基板上に吐出され、固定化されたプローブの量が不均一になる。また、濃度変化に起因するプローブ溶液の粘性あるいは流動性の変化が原因となり、スポッターによるプローブ溶液の基板上への吐出開始時と吐出終了時とで、均一なスポットができなくなり、完成したマイクロアレイの品質が安定しないという問題があった。
【0005】
このようなマイクロアレイにあっては、遺伝子の高密度化、解析時間の短縮あるいは感度および再現性の向上等、より一層の解析精度の向上あるいは品質の安定性が求められている。そして、このような要求を満たすように、様々なマイクロアレイの製造方法および製造装置が提案されている。例えば、分注作業が長時間に渡る場合でも、容器中の溶液が蒸発することによって起こる該溶液の濃度変化を最小限に抑えるため、容器にカバーを設ける方法(特許文献1参照)、あるいは、容器を加湿あるいは冷却する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【特許文献1】特公平5−23829号公報
【特許文献2】特開2002−365302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、容器に設けたカバーを開閉する手段が必要であり、作業や工程の途中で試薬を追加する場合には、前記開閉手段を動作させる必要があるなど、装置、および液体を吸引あるいは吸引分配する方法が複雑になるという問題点があった。
また、特許文献2に記載の方法では、容器周辺の雰囲気を加湿するためには、加湿手段等が必要で装置が複雑になるという問題点があり、また、容器中で各種反応を行う場合には、例えば、核酸の増幅反応には90℃以上の温度が必要であり、生体に近い条件での酵素反応には40℃前後の温度が必要であるので、容器を冷却することによる蒸発防止は困難であるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、液体試料や試薬等の分注あるいは吸引分配が長時間に渡っても、該液体試料や試薬等の濃度変化を簡便に抑制できる、粒子を具備した容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、ノズルまたは針でピックアップする液体を貯留するための液体貯留部を有した容器であって、該液体貯留部に粒子を具備していることを特徴とする容器である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、蓋またはカバーを有していることを特徴とする請求項1に記載の容器である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記蓋がシールであることを特徴とする請求項2に記載の容器である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記粒子の見かけの密度が、貯留する液体の密度よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記粒子が球状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記粒子の直径が、前記ノズルの開口部の直径よりも大きくされていること特徴とする請求項5に記載の容器である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、前記粒子の直径が、0.075mm〜1mmであること特徴とする請求項5に記載の容器である。
【0015】
請求項8に記載の発明は、前記粒子が、樹脂または中空状金属からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の容器である。
【0016】
請求項9に記載の発明は、前記樹脂の種類が、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリアロマー、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリブチレンおよびポリアミドのいずれかであること特徴とする請求項8に記載の容器である。
【0017】
請求項10に記載の発明は、前記粒子を、前記液体貯留部内の液体表面全体を覆う量だけ具備していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の容器である。
【0018】
請求項11に記載の発明は、複数の液体貯留部を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の容器である。
【0019】
請求項12に記載の発明は、ノズルあるいは針でピックアップする液体を貯留するための液体貯留部に入れる粒子であって、該粒子の見かけの密度が、貯留する液体の密度以下であることを特徴とする粒子である。
【0020】
請求項13に記載の発明は、球状であることを特徴とする請求項12に記載の粒子である。
【0021】
請求項14に記載の発明は、直径が、前記ノズルの開口部の直径よりも大きくされていること特徴とする請求項13に記載の粒子である。
【0022】
請求項15に記載の発明は、直径が、0.075mm〜1mmであること特徴とする請求項13に記載の粒子である。
【0023】
請求項16に記載の発明は、樹脂または中空状金属からなることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載の粒子である。
【0024】
請求項17に記載の発明は、前記樹脂の種類が、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリアロマー、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリブチレンおよびポリアミドのいずれかであること特徴とする請求項16に記載の粒子である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、容器に設けられた液体貯留部内に具備された粒子により、簡便かつ確実に、液体試料や試薬等の蒸発が抑制でき、液体試料や試薬等の分注あるいは吸引分配が長時間に渡っても、また、温度が高くても、該液体試料や試薬等の濃度変化を抑制することができる。したがって、これを用いれば、高品質のマイクロアレイ等を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について、詳しく説明する。
本発明の容器は、液体を貯留するための液体貯留部を備え、該液体貯留部には粒子を具備している。
容器の液体貯留部には、予め粒子が入れられているので、該容器の液体貯留部に分注された液体は、外気との接触面積が小さく、該液体貯留部に分注された時点から液体の蒸発が防止される。さらに、該液体貯留部に、分注のためにノズルを入れる場合、あるいはピックアップのためにノズルまたは針を入れる場合も、粒子は該液体貯留部内で容易に移動するので、ノズルまたは針を痛めることなく、液体を分注あるいはピックアップすることが可能である。また、液体を該液体貯留部に入れた後で、さらに、液体を追加する場合も、同様に、ノズルを痛めることなく該液体貯留部に液体を入れることが可能である。
さらに、該液体貯留部にノズルを入れることなく、液体貯留部の上から液体を滴下する方法でも、液体は粒子の間を容易に通過するため、該液体貯留部に液体を追加することができる。
【0027】
また本発明においては、前記容器がさらに、蓋またはカバーを有していると、予め容器の液体貯留部に入れられている粒子が、容器を用いる前に各々の液体貯留部から移動することがなくなるので、好ましい。さらに、前記蓋が、容器から容易に取り外し可能なシールであれば、粒子を液体貯留部に入れた後にシールを貼って、容器を用いる直前にシールを取り外すことで、操作が簡便となるため、より好ましい。また、このシールは、粒子を容器に入れてシールを貼った後で、シールに粒子が貼り付かないように、少なくとも容器の液体貯留部と一致する位置には、粘着性がないようにしておくことがより好ましい。
一方、蓋が破断可能なシールであると、液体貯留部に液体を分注する時に、シールを取り外すことなくノズルによってシールを突き破り、複数の開口部を同時に形成することが可能となるので、操作が一層簡便となり、特に好ましい。
シールの材質は、粒子を保持する強度、破断性および帯電防止性を考慮すると、例えば、アルミ箔が好ましい。
【0028】
本発明で用いる容器は、複数の液体貯留部を有するものが好ましい。複数の液体貯留部を有する容器としては、例えば、自動分注装置や核酸の増幅装置に好適に用いることができるマイクロタイタープレート、あるいは、多数の液体貯留部を有し、多種の溶液を貯留することができるマイクロプレート等を挙げることができる。これらは、一定の間隔で液体貯留部が形成されているので、一定の間隔でノズルまたは針が設けられている分注機を用いて、溶液を分注あるいはピックアップするのに好適である。
【0029】
前記容器の材質は特に制限されないが、好ましいものとして、例えば、各種樹脂やガラス等を挙げることができる。
また、前記液体貯留部は、その形状は特に制限されない。
【0030】
本発明で用いる粒子は、見かけの密度が、貯留する液体の密度よりも小さいことが好ましい。これにより、粒子は液体と空気との界面に配置されるので、液体の表面を効率的に覆うことができ、液体の蒸発が防止される。また、該粒子は容易に液体表面に浮かぶので、外部雰囲気と液体との接触面積がより小さくなることで、より効率的に液体の蒸発が防止される。さらに、該粒子は、ノズルまたは針を液体内に挿入した時に液体中に沈んでも、ノズルまたは針が抜けると直ちに液体表面に浮上するので、液体の蒸発を防止することができる。
なおここで、見かけの密度とは、粒子に空隙が含まれている場合、空隙の体積も含めて粒子の体積としたときの密度のことである。
【0031】
本発明で用いる粒子の量は、容器の液体貯留部内の液体表面全体を覆う量であることが好ましい。用いる量が過剰であっても、分注操作に支障をきたすことはないが、液体表面上部から見た場合に、粒子間に明らかに液体表面が見えるなど、過少量である場合には、液体貯留部内の溶液の蒸発防止効果が低下する。
【0032】
また、前記粒子は球状であることが好ましい。粒子が球状であると、ノズルまたは針を液体貯留部に入れた時に、該粒子は、より小さい力でより容易にノズルまたは針を避けて移動することができ、ノズルまたは針を破損することが無い。また、球状の粒子は製造が容易である。
【0033】
本発明で用いる粒子は、その大きさが小さい方が、液体表面と外気との接触面積が小さくなり、さらに、ノズルまたは針を液体貯留部に入れた時に粒子の逃げる場所が大きくなるので、液体の蒸発をより効率的に防止できる。しかし、粒子が小さすぎると、例えば、ノズルの開口部に入って分注あるいはピックアップを阻害したり、ノズルまたは針に付着して、液体の蒸発防止の効率を低下させてしまうことがある。
そこで、前記粒子は、ノズルの開口部に入らない大きさであることが好ましく、用いるノズルの内径により選択される。例えば、粒子が球状である場合には、その直径は、ノズルの開口部の直径よりも大きくされていることが好ましく、ノズルの開口部の直径の1.5倍〜液体貯留部の直径の1/6倍の大きさであることがより好ましい。この大きさであれば、粒子が誤ってノズルにピックアップされたり、ノズルの開口部に詰まることなく、さらに、効率的に液体の表面を覆うことができるので、溶液の蒸発を効率的に防止できる。
【0034】
また、開口部を持たない針で液体をピックアップする場合は、粒子の直径は、液体貯留部の直径の1/6以下であることが好ましい。具体的には、96穴マイクロプレートで用いられているような直径が約6mmである貯留孔に対しては、0.075mm〜1mmの大きさの直径であることがより好ましい。また、384穴マイクロプレートで用いられているような直径が約3mmである貯留孔に対しては、0.075mm〜0.5mmの大きさの直径であることがより好ましい。さらに、1536穴マイクロプレートで用いられているような直径が約1.5mmである貯留孔に対しては、0.075mm〜0.25mmの大きさの直径であることがより好ましい。この大きさであれば、針で液体をピックアップする際に、粒子が針に付着することなく、より効率的に液面を覆うことができるので、液体の蒸発を防止できる。このように、しばしば用いられる市販の96穴、384穴あるいは1536穴等のマイクロプレート上の液体貯留部の開口部を効率良く覆うことが可能となる。
【0035】
本発明においては、分注する液体として、各種緩衝液あるいは各種水溶液を用いることが多いので、本発明で用いる粒子は、これら各種緩衝液あるいは各種水溶液よりも密度が小さいもの、具体的には、樹脂または中空状金属からなるものが好ましい。
一般的に、しばしば用いられる緩衝液としては、例えば、PBS(リン酸緩衝食塩水、密度0.999g/cm)、PB(リン酸緩衝液、密度1.03g/cm)、SSC(クエン酸−生理食塩水、密度1.004g/cm)、SSPE(塩化ナトリウム−EDTA−リン酸緩衝液)、TAE(トリス−酢酸−EDTA緩衝液)等が挙げられ、水溶液としては、生理食塩水(密度1.0003g/cm)、EDTA水溶液、または、SDS(ドデシル流酸ナトリウム)、Tween(登録商標)、Triton(Dow Chemical社)等の界面活性剤の水溶液等が挙げられる。これら各種緩衝液あるいは各種水溶液は、水が主成分なので、その密度が水とほぼ同等か水より大きい。したがって、水より密度が小さい材質からなる粒子を用いればよい。
【0036】
樹脂としては、例えば、ポリエチレン(密度0.91〜0.95)、ポリエチレン共重合体、超高分子量ポリエチレン(密度0.94〜0.95)、ポリプロピレン(密度0.901)、ポリメチルペンテン(密度0.833)、ポリアロマー(密度0.898)、アイオノマー樹脂、シリコン樹脂(密度1.0)等を、好ましいものとして挙げることができる。これら樹脂は、水よりも密度が小さく、各種緩衝液あるいは各種水溶液以外の多くの溶剤にも耐性を有するので好適である。
また、これら以外にも、例えば、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリブチレン、ポリアミド等も好ましいものとして挙げることができる。これら樹脂は、水とほぼ同等の密度を有し、各種緩衝液は水よりも密度が大きいので、各種緩衝液に対して好適に用いることができる。例えば、25℃における水の密度は0.997であり、3×SSPE緩衝液の密度は1.028である。
【0037】
前記以外では、水よりも密度が大きい樹脂として、例えば、AS樹脂、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、フェノール、エポキシ、ポリウレタン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーおよびフッ素樹脂等の各種樹脂は、各種緩衝液あるいは各種水溶液よりも密度が大きいが、中空状の粒子、不連続孔を有する発泡粒子、または表面を前記の水同等以下の密度を有する樹脂等でコーティングした連続孔を有する発泡体とすることにより、各種緩衝液あるいは各種水溶液よりも、見かけの密度を小さくできるので、好適に用いることができる。
また、フッ素樹脂の粒を、ポリエチレンなどの低密度のプラスチックに分散させることで、密度を下げたものを用いてもよい。
【0038】
一方、金属としては、銅、鉄、ニッケル、コバルト、カドミウム、鉛、亜鉛、砒素、錫、チタン、銀、金、バナジウム、白金、ロジウム等の金属単体、ニッケル−コバルト、ニッケル−コバルト−リン、ニッケル−鉄−リン、ニッケル−タングステン−リンおよびニッケル−リン等のニッケル合金、コバルト−鉄−リン、コバルト−タングステン−リンおよびコバルト−ニッケル−マンガン−レニウム−リン等のコバルト合金、あるいは鉄合金等の各種金属を、中空状の粒子とすることで、各種緩衝液あるいは各種水溶液よりも、見かけの密度を小さくできるので、これら中空状金属も、粒子として好ましいものとして挙げることができる。粒子の材質として金属を用いると、表面に帯電しないので、液体貯留部へ粒子を入れることが容易になり、いったん入れた粒子が容器の壁に吸着されたり、粒子同士が凝集したり、容器のふたやカバーを外すときに、粒子が容器から出てしまうことがないので好ましい。
【0039】
なお、本発明で用いる粒子は、その材質が、各種緩衝液あるいは各種水溶液等の分注する液体よりも密度が小さいものであれば、必ずしも中空状や発泡体にする必要はない。
【0040】
さらに、本発明で用いる粒子は、帯電防止処理が施されていることが好ましい。帯電防止処理を施すことで、容器を運搬する場合等に、粒子間での摩擦あるいは粒子と容器との摩擦による静電気の発生を防止し、液体貯留部へ粒子を入れることが容易になり、いったん入れた粒子が容器の壁に吸着されたり、粒子同士が凝集したり、容器のふたやカバーを外すときに、粒子が容器から出てしまうことがないので好ましい。
帯電防止処理された粒子は、例えば、樹脂に非イオン系、または陰イオン系の界面活性剤を練りこんだ材料を用いて製造することができる。
【0041】
本発明において、容器の底部から光を照射して、液体貯留部内の液体について光学的な解析を行う場合には、粒子が光を散乱してノイズを発生することを防止するために、水の屈折率1.33に近似の屈折率を有する材質からなる粒子を用いるか、黒色等に着色した粒子を用いることが好ましい。
【0042】
水の屈折率1.33に近似の屈折率を有する材質としては、例えば、屈折率がガラス(1.5程度)より小さい材質で、テトラフルオロエチレン(屈折率1.35)等のフッ素樹脂、シリコン樹脂(屈折率1.43)、ポリメチルペンテン(屈折率1.463)、ブニルブチラール(屈折率1.47)、ポリアセタール(屈折率1.48)、PMMA(屈折率1.488)、ポリプロピレン(屈折率1.49)、ポリアロマー(屈折率1.492)等が挙げられる。
【0043】
黒色等に着色した粒子は、例えば、黒色等に染色した樹脂を粒子状に成型することで得られる。
樹脂を黒色にする方法としては、例えば、顔料や染料を樹脂に含有させて着色する方法があり、なかでも顔料で着色する方法が好ましい。顔料で染色することにより、粒子を不透明で粗面のものとすることができるので、光学的な観察や測定を行う場合に好適である。
この時用いる顔料としては、例えば、カーボン、酸化鉄系顔料、鉄とそれ以外の金属とからなる複合酸化鉄系顔料等が挙げられるが、なかでも、カーボンを用いることが好ましい。カーボンの粒子を樹脂に含有させると、粒子の帯電防止にも効果を有するので好適である。
一方、染色に用いる染料としては、特に制限されず、アゾ系染料、アントラキノン系染料等、多くの合成染料が挙げられる。
以上より、本発明で用いる粒子は、水の屈折率に近似の屈折率を有し、さらに黒色で、望ましくは粗面のものであることが特に好ましい。
【0044】
本発明で用いる粒子は、分注する液体および該液体に含まれている物質と反応、結合あるいは吸着等の相互作用をしない材質からなるものが好ましい。
分注する液体が、各種緩衝液あるいは各種水溶液等の水を主成分とするものである場合は、粒子の材質は前記の通り、見かけの密度を考慮すれば、特に制限なく用いることができる。
【0045】
しかし、分注する液体が有機溶媒、酸、アルカリを含んでいる場合は、これらに対する化学的な耐性を考慮する必要がある。生化学分野で用いられる物質を扱う場合に、有機溶媒として用いられるものとしては、例えば、アルコール等が挙げられる。また、酸やアルカリとして用いられるものとしては、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が挙げられる。このような場合は、例えば、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂等は、前記のものをはじめとした種々の有機溶媒、酸、アルカリに対して高い耐性を有しているため、粒子の材質として、好ましいものとして挙げることができる。
【0046】
また、例えば、本発明の容器をマイクロアレイの製造に用いる場合には、容器に貯留する液体として、基板上の所定の位置に固定化する特異的結合物質を含有する液体を用いる。ここで言う特異的結合物質とは、生体から抽出あるいは単離された物質を指すが、生体から直接抽出あるいは単離されたものだけでなく、これらを化学処理あるいは化学修飾等したものも含まれる。例えば、ホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その他のタンパク質、あるいはDNA、cDNA、RNA、その他の核酸等を挙げることができ、さらにこれらを化学処理あるいは化学修飾したもの等を挙げることができる。
【0047】
このような特異的結合物質を含有する液体を用いる場合には、本発明で用いる粒子は、該特異的結合物質と反応、結合あるいは吸着等の相互作用をしない材質からなるものを用いることが好ましい。粒子と該特異的結合物質が相互作用すると、その時の反応性、結合性あるいは吸着性の違いにより、該特異的結合物質の基板上への固定化量に差違が生じてしまい、完成したマイクロアレイの品質が安定しないという問題が生じてしまう。
前記特異的結合物質と相互作用しない材質のものとしては、例えば、タンパク質と吸着しにくいものとして、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミドを挙げることができる。
また、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー(日本油脂株式会社製)を樹脂の表面にコーティングする方法でも、タンパク質の吸着を減少させることができ、好適である。
以上のように、粒子の材質は、その密度、分注する液体との相性、あるいは価格等を考慮して適宜選択すればよい。
【実施例】
【0048】
以下、具体的実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
また、通常の自動分注装置やインクジェットタイプのスポッターの場合は、ノズルにより液体を吸引して吐出することにより液体を分注するが、ピンタイプのスポッターの場合は、液体を針の先端部に付着させた後に、基板に針を接触させて、所定位置に液体を分注する。本発明においては、ピンタイプのスポッターの針による分注の場合も、吐出に含まれる。
【0049】
(実施例1)
複数の液体貯留部を有する容器として、ポリスチレン製の96穴マイクロプレートを用い、非イオン系界面活性剤を材料に練り込み、帯電防止処理を行なって作製したポリエチレン粒子(密度0.91g/cm、粒径200μm)を、該マイクロプレートの各ウエル内に、約0.2g入れた。次に、マイクロプレートのウェルに一致する部位以外に接着剤が塗布されているアルミニウムのシールを、マイクロプレートに貼り付けて、前記粒子を各ウェル内に密封して、粒子入りのマイクロプレートを作製した。
【0050】
続いて、作製したマイクロプレートのシールを剥がした後に、プローブ溶液としてオリゴヌクレオチド溶液を、自動分注装置(バイオメック3000、ベックマン・コールター株式会社製)にセットし、自動的にオリゴヌクレオチド溶液を、前記マイクロプレートの各ウエル内に100μLずつ分注した。分注終了後、このマイクロプレートをピンタイプのスポッター(SPBIO、日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社製)、およびインクジェット式スポッター(Biochip arrayer、パーキンエルマーライフサイエンスジャパン株式会社製)にそれぞれ搭載した。
各々の装置のステージに基板20枚を搭載し、前記プローブ溶液を前記マイクロプレートからピックアップして、基板1枚につきプローブ溶液の吐出を1回行って、基板上に4つのスポットを同時に作成するようプログラムを設定して、マイクロアレイを作製した。
【0051】
この時、ピンタイプのスポッターでは4本の針、インクジェットタイプのスポッターでは4本のノズルが、マイクロプレートのウェル上方に移動し、真上から下降した。針またはノズルは粒子を押しのけ、プローブ溶液をピックアップし、ウェル上方に移動した。押しのけられた粒子は、再びプローブ溶液全面を覆うように移動した。4本の針またはノズルは、基板搭載位置に移動し、ピックアップしたプローブ溶液を全ての基板に吐出した後、洗浄槽へ移動して、針またはノズルの洗浄が行われた。針またはノズルは、再びマイクロプレートのウェル上方に移動し、プローブ溶液のピックアップおよび基板への吐出を、全てのプローブ溶液をすべての基板に吐出するまで繰り返し行った。
【0052】
全てのプローブ溶液の吐出が終了した後、スポッターに搭載された全ての基板を回収し、基板20枚(合計40枚)上のプローブを、該プローブに対して相補的な塩基配列を有する、蛍光色素で標識されたカウンターオリゴDNAと、50℃で3時間反応させてハイブリダイゼーションを行い、解析装置(Scan Array、パーキンエルマーライフサイエンスジャパン株式会社製)を用いて、各スポットの蛍光輝度を測定した。
その結果、いずれのスポッターを用いた場合でも、各スポットの蛍光輝度のCV値は5%以下であり、基板上に吐出されたプローブ溶液は、吐出までの時間によらず均一な濃度であったと考えられる。インクジェットタイプのスポッターにより作製したマイクロアレイを用いた場合の測定結果を、図1に示す。図1は、4つのスポットの蛍光輝度の平均値を縦軸に、蛍光輝度を測定したスポットの、吐出までに要した時間を横軸にとったグラフである。
なお、ここでは図示しないが、ピンタイプのスポッターにより作製したマイクロアレイの場合も同様の結果であった。
【0053】
(実施例2)
複数の液体貯留部を有する容器として、ポリスチレン製の96穴マイクロプレートを用い、各ウエル内に、ポリスチレン粒子(Duke Scientific社製、製品番号4400A、粒径1000μm、帯電防止処理済 )を約0.2g入れた。次に、マイクロプレートのウェルに一致する部位以外に接着剤が塗布されているアルミニウムのシールを、マイクロプレートに貼り付けて、前記粒子を各ウェル内に密封して、粒子入りのマイクロプレートを作製した。
【0054】
(実施例3)
複数の液体貯留部を有する容器として、ポリスチレン製の96穴マイクロプレートを用い、各ウエル内に、黒色のポリメチルペンテン粒子(粒径1000μm、カーボンブラック含有、帯電防止処理済)を約0.2g入れた。次に、マイクロプレートのウェルに一致する部位以外に接着剤が塗布されているアルミニウムのシールを、マイクロプレートに貼り付けて、前記粒子を各ウェル内に密封して、粒子入りのマイクロプレートを作製した。
【0055】
続いて、作製したマイクロプレートの各ウエル内に、30nMの蛍光色素ローダミングリーンを100μL入れた後、マイクロプレートを40℃に保ち、1分子蛍光測定装置(MF20、オリンパス株式会社製)を用いて、各ウエル内の該色素分子の拡散時間の経時変化を測定した。
本測定においては、測定する溶液に濃度変化が生じると、該溶液中の分子の拡散時間に変化が生じるが、本実施例においては、図2に示すように、時間が経過しても、水の蒸発に伴う濃縮に起因する拡散係数の変化は認められず、拡散時間はほぼ一定であり、平均24.2μ秒であった。すなわち、本実施例のような、生体関連反応を行うのに好適な37〜40℃等の加温条件下においても、各ウェル内に粒子を入れておくことで、時間が経過しても、各ウェル内の溶液の濃度が一定に保たれていることが確認された。
【0056】
(比較例1)
粒子が入っていない通常のマイクロプレートを用いた以外は、実施例1と同様にしてマイクロアレイを作製し、カウンターオリゴDNAでハイブリダイゼーションを行って、各スポットの蛍光輝度を測定した。インクジェットタイプのスポッターを用いた場合の結果を図3に示す。蛍光輝度のCV値は10%以上であり、時間経過とともにプローブ溶液の蒸発によって該プローブ溶液の濃度が高くなり、蛍光輝度が徐々に高くなっていることが確認された。
なお、ここでは図示しないが、ピンタイプのスポッターにより作製したマイクロアレイの場合も同様の結果であった。
【0057】
以上、本発明の容器および粒子を用いることにより、容器の液体貯留部内の液体の濃度変化を長時間に渡り抑制でき、しかも、複雑な装置あるいは方法を必要としないため、簡便且つ低コストで、液体の分注が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、液体試料や試薬等の吸引分配が長時間に渡っても、また、高温であっても、該液体試料や試薬等の濃度変化を簡便に抑制することができるため、例えば、マイクロアレイ等の製造に際して、プローブ固定化量が均一な、高品質なマイクロアレイを提供できる。また、このようなマイクロアレイ等を用いて、生体関連物質の定量をより高い精度で行うことができ、定量に際しては、特殊な設備等を必要としないため、遺伝子の発現情報の解析等を低コストで迅速かつ正確に行うことできる。よって、本発明は、広く化学、医薬、医療産業等に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1における基板上へのプローブ固定化の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例3における蛍光色素の拡散時間の経時変化を示すグラフである。
【図3】本発明の比較例1における基板上へのプローブ固定化の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルまたは針でピックアップする液体を貯留するための液体貯留部を有した容器であって、該液体貯留部に粒子を具備していることを特徴とする容器。
【請求項2】
蓋またはカバーを有していることを特徴とする請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記蓋がシールであることを特徴とする請求項2に記載の容器。
【請求項4】
前記粒子の見かけの密度が、貯留する液体の密度よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器。
【請求項5】
前記粒子が球状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器。
【請求項6】
前記粒子の直径が、前記ノズルの開口部の直径よりも大きくされていること特徴とする請求項5に記載の容器。
【請求項7】
前記粒子の直径が、0.075mm〜1mmであること特徴とする請求項5に記載の容器。
【請求項8】
前記粒子が、樹脂または中空状金属からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の容器。
【請求項9】
前記樹脂の種類が、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリアロマー、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリブチレンおよびポリアミドのいずれかであること特徴とする請求項8に記載の容器。
【請求項10】
前記粒子を、前記液体貯留部内の液体表面全体を覆う量だけ具備していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の容器。
【請求項11】
複数の液体貯留部を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の容器。
【請求項12】
ノズルあるいは針でピックアップする液体を貯留するための液体貯留部に入れる粒子であって、該粒子の見かけの密度が、貯留する液体の密度以下であることを特徴とする粒子。
【請求項13】
球状であることを特徴とする請求項12に記載の粒子。
【請求項14】
直径が、前記ノズルの開口部の直径よりも大きくされていること特徴とする請求項13に記載の粒子。
【請求項15】
直径が、0.075mm〜1mmであること特徴とする請求項13に記載の粒子。
【請求項16】
樹脂または中空状金属からなることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項17】
前記樹脂の種類が、ポリエチレン、ポリエチレン共重合体、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリアロマー、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリブチレンおよびポリアミドのいずれかであること特徴とする請求項16に記載の粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−17253(P2007−17253A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198476(P2005−198476)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】