説明

容器の使用性評価方法

【課題】種々の形態の容器に対して定量的でかつ精度の高い評価を行うことを可能とした容器の使用性評価方法を提供する。
【解決手段】被験者Aの腕の複数の筋肉に対応して取付けられた筋電計40A〜40Dにより各容器10,20,30の使用時における各筋の筋電位を測定する筋電位測定工程と、被験者Aの手首に取付けられた角度計50により各容器10,20,30の使用時における関節角度を手首の回転方向毎に測定する関節角度測定工程と、筋電位測定工程及び関節角度測定工程で測定された筋電位及び関節角度の値から各容器10,20,30間における筋電位及び関節角度の有意差を求め、この各有意差に基づき各容器10,20,30の使用性を判定する判定工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器の使用性評価方法に係り、特に容器使用時において腕及び手の筋肉及び関節に作用する負担を定量的に測定し当該容器の使用性を評価する容器の使用性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、化粧品容器等の容器に対して使用性の評価を行う場合、複数のパネル(容器の評価を行なう試験者)を用意し、このパネルに実際に容器を使用してもらい、各パネルが当該容器を使用した際の使用感のアンケートを取り、これを分析することにより、容器の使用性を評価することが行われていた(官能評価)。
【0003】
しかしながら従来の官能評価を主体とした使用性の評価方法では、パネルの個人差(容器使用経験の有無、嗜好等)に起因して使用性の評価に大きな相違が生じることがある。アンケート項目が多数ある場合には、アンケートの分析作業が膨大となり、分析に多大な時間を要してしまうという問題点もある。
【0004】
そこで、筋電計を用いて定量的に容器の使用性評価を行うことにより、官能評価の場合に発生する上記の問題点を解決することが提案されている(特許文献1)。この評価方法によれば、官能評価と異なり筋電計を用いて定量的な評価ができるため、効率及び評価精度の向上を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−56040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1に開示された容器の使用性評価方法では、蓋体を容器本体に対して回転させることにより着脱する構成の蓋回転式容器に対する使用性評価を行うことができる。
【0007】
しかしながら、化粧品容器等の容器にはヒンジキャップ付き容器及びディスペンサー容器等の種々の形態の物が提供されている。引用文献1に開示された容器の使用性評価方法は、蓋回転式容器には適用できるが、これ以外の容器に対しては適用することができないという問題点があった。よって従来の容器の使用性評価方法では、複数の種類の容器間において、何れの容器が使用性が良好であるかを比較検討することができないという問題点があった。
【0008】
また引用文献1では、筋電計を用いて容器使用時の筋肉の変化のみを測定し、これに基づき使用性の評価を行う構成とされていた。しかしながら、容器使用時においては、筋肉ばかりでなく関節にも負担が印加される。よって、引用文献1に開示された評価方法では、関節の影響が評価結果に反映されないため、評価精度が低下するおそれがあるという問題点もある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、種々の形態の容器に対して定量的でかつ精度の高い評価を行うことを可能とした容器の使用性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、第1の観点からは、
複数個の被測定容器を比較することにより、当該複数個の被測定容器より使用性の良好な容器を選定する容器の使用性評価方法であって、
前記複数個の被測定容器のそれぞれを被験者に使用させ、前記被験者の腕の複数の筋肉に対応して取付けられた筋電計により当該使用時における前記筋肉の筋電位を、前記筋肉毎に測定する筋電位測定工程と、
前記複数個の被測定容器のそれぞれを前記被験者に使用させ、前記被験者の手首に取付けられた角度計により当該使用時における前記手首の関節角度を、前記手首の回転方向毎に測定する関節角度測定工程と、
前記筋肉毎に測定された筋電位の値を前記被測定容器毎に比較して前記被測定容器間の前記筋電位の有意差を求めると共に、前記手首の回転方向毎に測定された関節角度の値を前記被測定容器毎に比較して前記被測定容器間の前記関節角度の有意差を求め、
前記筋電位の有意差と前記関節角度の有意差に基づき、前記被測定容器の使用性を判定する判定工程とを有することを特徴とする容器の使用性評価方法により解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
開示の容器の使用性評価方法によれば、筋電計により測定される筋電位と、角度計により測定される手首の関節の関節角度に基づき容器の使用性評価を行うため、評価精度の向上を図ることができる。また、筋肉毎に測定された筋電位の値及び手首の回転方向毎に測定された関節角度の値を前記被測定容器毎に比較するため、種々の形態の容器に対して同一条件下で使用性評価を行うこととなり、使用性の良好な容器の選定を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である容器の使用性評価方法で評価される各種被測定容器を示す図である。
【図2】図2は、筋電計及びエレクトロゴニオメータの取り付け位置を示す図である。
【図3】図3は、筋電計及びエレクトロゴニオメータの取り付け状態を示す図である。
【図4】図4は、エレクトロゴニオメータにより測定される手の関節の回方向を説明するための図である。
【図5】図5は、筋電計で測定された被験者の各筋肉の筋電位の一例を示す図である。
【図6】図6は、エレクトロゴニオメータにより測定された関節の各回方向に対する角度の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態である容器の使用性評価方法による容器評価結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0014】
本実施形態に係る容器の使用性評価方法(以下、使用性評価方法という)は、複数個の被測定容器を比較することにより、当該複数個の被測定容器より使用性の良好な容器を選定するものである。以下の説明では、図1に示す3つの形態の容器10,20,30に対して本発明の一実施形態である使用性評価方法を適用した例について説明する。
【0015】
なお、本願発明の適用は図1に示す3つの形態の容器10,20,30に限定されるものではなく、チューブ容器、塗布具付き容器等、種々の形態の容器に対して適用が可能なものである。
【0016】
先ず、図1を用いて本実施形態で用いた3種類の容器10,20,30について説明する。この各容器10,20,30は、化粧品容器として一般に用いられるものである。
【0017】
図1(A)に示すのは、ヒンジキャップ付き容器10である。このヒンジキャップ付き容器10は、キャップ12がヒンジ13により容器本体11に接続された容器である。このヒンジキャップ付き容器10は、キャップ12を指で弾くようにして開蓋することが可能であるため、ワンタッチキャップ式容器とも言われている。また、開蓋した後においても、キャップ12はヒンジ13により容器本体11に接続された状態を維持するため、キャップ12を紛失することがないという利点もある。
【0018】
図1(B)に示すのは、蓋回転式容器20である。この蓋回転式容器20は、化粧品容器としては最も一般的なものであり、使用者が蓋体22を回転させることにより容器本体21に対して蓋体22を装着脱するものである。
【0019】
図1(C)に示すのは、ディスペンサー容器30である。このディスペンサー容器30は、容器本体31にディスペンサー32が装着された構成の容器である。このディスペンサー容器30では、使用者はカバーキャップ33(蓋)を外し、ディスペンサー32を押圧操作することで内容物の取り出しを行うことが可能である。
【0020】
次に、本実施形態に係る使用性評価方法で使用する測定機器について説明する。本実施形態では、容器10,20,30の使用性評価を行うのに、筋電位を測定する筋電計と、手首の関節の関節角度を測定するエレクトロゴニオメータ(角度計)とを用いる。
【0021】
筋電計とは筋肉活動に伴う電位の変化を測定・記録する装置であり、本実施形態では被験者Aの測定位置に電極を貼着する表面筋電位計を用いた。また、ゴニオメータは各関節に対応したものが提供されているが、本実施形態では手首の関節の関節角度を測定しうるゴニオメータを用いた。
【0022】
図2及び図3は、被験者Aに対して筋電計41及びエレクトロゴニオメータ51を装着した状態を示している。なお、後述するように本実施形態では被験者Aの13箇所の筋肉を測定しており、筋電計41ではこの筋肉毎に電極を配設する。しかしながら、図2及び図3に示す筋電計41では、図示の便宜上、5個の電極40A〜40Dを例に挙げて示している。
【0023】
電極40Aは物を掴むときに関与する筋肉の筋電位を測定するものであり、手の第一背側骨間筋等の筋電位測定するものである。また、電極40Bは物を握るときに使う筋肉の筋電位を測定するものであり、浅指屈筋等の筋電位測定するものである。また、電極40Cは人差し指、中指、薬指、小指を伸ばす筋肉の筋電位を測定するものであり、総指伸筋等の筋電位測定するものである。また、電極40Dは肘関節の動きに関与する筋肉の筋電位を測定するものであり、上腕二頭筋等の筋電位測定するものである。更に、電極40Eは肩関節の動きに関与する筋肉の筋電位を測定するものであり、三角筋等の筋電位測定するものである。
【0024】
なお、上記のように実際の筋電位の測定では、この5個の電極40A〜40D以外に、被験者Aの短母指屈筋、短母指伸筋、示指伸筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、長橈側手根伸筋、上腕三頭筋、及び大胸筋の各筋肉に電極を装着し、合計13個の電極を用いて13の上記筋肉のそれぞれについて筋電位を測定している。
【0025】
また、本実施形態では上記の13種の筋肉について筋電計41により筋電位を測定しているが、上記の13種の全ての筋肉について筋電位を測定する必要はなく、少なくとも上記の筋肉から選択された二つ以上の筋肉を選定することとしてもよい。また、上記の筋肉以外の筋肉の筋電位を測定する構成とすることも可能である。
【0026】
一方、エレクトロゴニオメータ51は、被験者Aの手首に配設されたセンサー部50を有している。手首の関節は、図4(A)に示す背屈方向及び掌屈方向の回転、図4(B)に示す尺屈方向及び橈屈方向の回転、及び図4(C)に示す回外方向及び回内方向の回転を行う。本実施形態で用いるエレクトロゴニオメータ51は、センサー部50からの信号に基づき、図4(A)〜(C)に示される各方向に対する関節の回転を測定可能な構成とされている。
【0027】
なお、本実施形態では背屈、掌屈、尺屈、橈屈、回外、回内の全てに対して関節角度を測定しているが、必ずしも上記の全ての関節角度を測定する必要はなく、少なくとも上記の回転方向から選択された二つ以上の関節角度を選定することとしてもよい。また、上記した回転方向と異なる方向の関節角度を測定する構成とすることも可能である。
【0028】
次に、上記した筋電計41及びエレクトロゴニオメータ51を用いた使用性評価方法について説明する。本実施形態に係る使用性評価方法は、準備工程、筋電位測定工程、関節角度測定工程、及び判定工程等を有している。以下、各工程について説明する。
【0029】
本実施形態では、図1に示す各形態の容器10,20,30に対して使用性評価を行う。このため、準備工程では図1示す3形態の容器10,20,30を用意する。また、被験者Aの腕に図2,図3に示すように、筋電計41の電極40A〜40E及びエレクトロゴニオメータ51のセンサー部50を装着する。この際、本実施形態では被験者Aの利き腕にのみ筋電計41及びエレクトロゴニオメータ51を装着する構成とした。しかしながら、被験者Aの利き腕以外の腕、又は両腕の双方に筋電計41とエレクトロゴニオメータ51とを装着する構成とすることも可能である。
【0030】
なお、被験者Aの数は、一人であっても使用性評価は可能であるが、複数の被験者Aに対して測定を実施することにより、個人誤差の影響を低減でき評価精度の向上を図ることができる。
【0031】
上記の準備工程が終了すると、続いて筋電位測定工程及び関節角度測定工程が実施される。この筋電位測定工程と関節角度測定工程は同時に実施することが可能であるため、同時に行うことが測定効率からは望ましい。しかしながら、必ずしも同時に行う必要はなく、それぞれ別箇に行うことも可能である。
【0032】
先ず、筋電位測定工程について説明する。筋電位測定工程では、各容器10,20,30を被験者Aに実際に使用させ、被験者Aの腕の各筋肉に対応して取付けられた電極40A〜40Eを介して、当該使用時における筋肉の筋電位を筋電計41により筋肉毎に且つ容器毎に測定する。この際、被験者Aは各容器10,20,30に対して一般的な使用を行うものとし、通常行わない使用動作は行わないものとする。
【0033】
ここで、各容器10,20,30を被験者Aに実際に使用させる使用態様(使用動作)は、開き動作、吐出動作、及び閉め動作に大別される。筋電位測定工程及び後述する関節角度測定工程の実施は、この選択される一の動作の全てに対して実施してもよく、またこれらから選択される一又は複数の動作について実施することとしてもよい。なお、本実施形態では説明の便宜上、開き動作を例に挙げて説明するものとし、他の動作についての説明は省略するものとする。
【0034】
図5は、筋電位測定工程を実施することにより得られた各筋肉毎の筋電位を、各容器10,20,30毎に示している。なお、図5において横軸は筋肉の種類であり、縦軸は筋電位の値を示している。この筋電位は、被験者Aに対する負担が大きいほど高い値となる。よって、筋電位が低いほど使用性が高いということができる。
【0035】
具体例として、図中左端部に示される短母指屈筋の測定結果を例に挙げると、ヒンジキャップ付き容器10を使用したときの筋電位は約0.06V、蓋回転式容器20を使用したときの筋電位は約0.075V、ディスペンサー容器30を使用したときの筋電位は蓋回転式容器20を使用したときよりも若干高い値であった。よって、短母指屈筋のみを見た場合には、ヒンジキャップ付き容器10の使用性が最も良好となる。しかしながら実際の使用性の評価判定は、後述するように各容器の筋電位に有意差のある筋肉に注目し、この有意差に基づき評価を行う構成としている。
【0036】
次に、関節角度測定工程について説明する。関節角度測定工程においても、各容器10,20,30を被験者Aに実際に使用させ、被験者Aの腕に取付けられたセンサー部50を介して、当該使用時における関節の関節角度をゴニオメータ51により各関節の回転方向毎に測定する。
【0037】
図6は、関節角度測定工程を実施することにより得られた手首の関節の回転方向毎の関節角度を、各容器10,20,30毎に示している。なお、図6において横軸は関節の回転方向であり、縦軸は関節角度を示している。この関節角度は、被験者Aに対する負担が大きいほど高い値となる。よって、関節角度が小さいほど使用性が高いということができる。
【0038】
具体例として、図中左端部に示される背屈方向の測定結果を例に挙げると、ヒンジキャップ付き容器10を使用したときの関節角度は約8°、蓋回転式容器20を使用したときの関節角度は約11°、ディスペンサー容器30を使用したときの関節角度は約5°であった。よって、背屈方向の関節回転のみを見た場合には、ディスペンサー容器30の使用性が最も良好となる。しかしながら実際の使用性の評価判定は、各容器10,20,30の関節角度に有意差のある回転方向に注目し、この有意差に基づき評価を行う構成としている。
【0039】
上記の筋電位測定工程及び関節角度測定工程が終了すると、続いて判定工程が実施される。この判定工程では、筋電位測定工程で筋肉毎に測定された筋電位の値を各容器10,20,30毎に比較し、各容器10,20,30間の筋電位の有意差を求める。また、関節角度測定工程で関節の回転方向毎に測定された関節角度の値を各容器10,20,30毎に比較し、各容器10,20,30間の関節角度の有意差を求める。そして、この筋電位の有意差と関節角度の有意差に基づき、各容器10,20,30の使用性を判定する。
【0040】
この有意差に基づき各容器10,20,30の使用評価の判定を行う際、本実施形態ではポイント付けを行うことにより使用評価の判定を行っている。即ち、本実施形態では有意差を有する各容器10,20,30間において、筋電位が小さい容器に対してポイントを付加する処理を行う。同様に、有意差を有する各容器10,20,30間において、関節角度が小さい容器に対してポイントを付加する処理を行い、このポイントが最も多い容器を各容器10,20,30の内で最も使用性が高い容器であると判定する。以下、この判定処理の具体的な実施方法について説明する。
【0041】
本実施形態に係る判定工程では、先ず筋電位の統計解析にて有意差を求め、次に関節角度の有意差を求める。しかしながら、有意差を求める順番は必ずしも筋電位の有意差を先に求める必要はなく、関節角度の有意差を先に求めることも可能である。なお、筋電位及び関節角度の有意差は、周知の有意差を演算する統計解析ソフトを用い、これに筋電位測定工程,関節角度測定工程で測定された筋電位の値,関節角度の値を入力することにより得ることができる。
【0042】
図5は、筋電位の有意差の統計解析結果も合わせて示している。同図に示されるA1〜A11は、各容器10,20,30間において筋電位に有意差があったものを示している。この有意差A1〜A11が示された筋肉の筋電位以外については、各容器10,20,30間に有意差が認められなかった。よって、有意差が認められないものについては、使用性評価の判定には使用しない。
【0043】
ここで、有意差A1を有した短母指伸筋に注目する。この短母指伸筋では、ヒンジキャップ付き容器10とディスペンサー容器30との間に有意差を有している。また、図5に示されるように、ヒンジキャップ付き容器10の筋電位の値に対してディスペンサー容器30の筋電位の値は小さくなっている。従って、使用時において被験者Aに対する負担が小さいのは、筋電位の値が低いディスペンサー容器30である。よって、有意差A1に基づき、ディスペンサー容器30に対してポイント“1”が付与される。
【0044】
次に、有意差A2,A3,A4を有した総指伸筋に注目する。先ず、ヒンジキャップ付き容器10とディスペンサー容器30との間における有意差A2に注目すると、ディスペンサー容器30の筋電位の値に対してヒンジキャップ付き容器10の筋電位の値は小さくなっている。よって有意差A2に基づき、ヒンジキャップ付き容器10に対しポイント“1”が付与される。
【0045】
上記と同様の方法を用いることにより、有意差A3基づきディスペンサー容器30に対してポイント“1”が付与され、有意差A4基づきヒンジキャップ付き容器10に対してポイント“1”が付与され、有意差A5基づきヒンジキャップ付き容器10に対してポイント“1”が付与され、有意差A6基づき蓋回転式容器20に対してポイント“1”が付与され、有意差A7基づきヒンジキャップ付き容器10に対してポイント“1”が付与され、有意差A8基づき蓋回転式容器20に対してポイント“1”が付与され、有意差A9基づきヒンジキャップ付き容器10に対してポイント“1”が付与され、有意差A10基づき蓋回転式容器20に対してポイント“1”が付与され、有意差A11基づきヒンジキャップ付き容器10に対してポイント“1”が付与される。
【0046】
以上の筋電位の有意差におけるポイント付与の結果を纏めると、ヒンジキャップ付き容器10が“6ポイント”、蓋回転式容器20が“3ポイント”、ディスペンサー容器30が“2ポイント”となる。
【0047】
図6は、関節角度の有意差の統計解析結果も合わせて示している。同図に示されるB1〜B5は、各容器10,20,30間において関節角度に有意差があったものを示している。この有意差B1〜B5が示された関節の回転方向以外の関節角度については、各容器10,20,30間に有意差が確認されなかった。よって、有意差が確認されなかったものについては、関節角度においても使用性評価の判定には使用しない。
【0048】
ここで、有意差B1,B2を有した尺屈方向の関節角度に注目する。先ず有意差B1に注目すると、この有意差B1はヒンジキャップ付き容器10と蓋回転式容器20との間に発生している。また図6に示されるように、有意差B1では、蓋回転式容器20の関節角度の値に対してヒンジキャップ付き容器10の関節角度の値が小さくなっている。従って、使用時において被験者Aに対する負担が小さいのは、関節角度の値が低いヒンジキャップ付き容器10である。よって、有意差B1に基づき、ヒンジキャップ付き容器10に対してポイント“1”が付与される。
【0049】
次に、有意差B2に注目すると、この有意差B2は蓋回転式容器20とディスペンサー容器30との間に発生している。有意差B2では、蓋回転式容器20の関節角度の値に対してディスペンサー容器30の関節角度の値が小さくなっている。よって、有意差B2に基づき、ディスペンサー容器30に対してポイント“1”が付与される。
【0050】
上記と同様の方法を用いることにより、有意差B3基づきディスペンサー容器30に対してポイント“1”が付与され、有意差B4基づき蓋回転式容器20に対してポイント“1”が付与され、有意差A5基づきディスペンサー容器30に対してポイント“1”が付与される。
【0051】
以上の関節角度の有意差におけるポイント付与の結果を纏めると、ヒンジキャップ付き容器10が“1ポイント”、蓋回転式容器20が“1ポイント”、ディスペンサー容器30が“3ポイント”となる。
【0052】
図7は、上記のようにして求められた判定結果を筋電位と関節角度に分けて示す図である。筋電位の有意差により求められた使用評価の結果では、ヒンジキャップ付き容器10が6ポイントであり、蓋回転式容器20が3ポイントであり、ディスペンサー容器30が2ポイントである。よって、筋電位の有意差に基づき得られた各容器10,20,30の使用性評価結果では、ヒンジキャップ付き容器10が最も筋肉に対する筋負担が少なく、使用性が良好な容器であることが判明した。
【0053】
これに対して蓋回転式容器20は手首の関節角度を変化させる筋肉に対する筋負担が大きく、ディスペンサー容器30は肘・肩の関節を動かす筋肉の筋負担が大きいことが分かった(図5参照)。
【0054】
一方、関節角度の有意差により求められた使用評価の結果では、ヒンジキャップ付き容器10が1ポイントであり、蓋回転式容器20が1ポイントであり、ディスペンサー容器30が3ポイントであった。よって、関節角度の有意差に基づき得られた各容器10,20,30の使用性評価結果では、ディスペンサー容器30が最も手首の関節に対する負担が少なく、使用性が良好な容器であることが判明した。
【0055】
これに対してヒンジキャップ付き容器10は一時的に(構えたとき)に角度変化が大きくなることにより負担が増大し、蓋回転式容器20では手首の関節角度が大きいために関節に対する負担が増大することが分かった(図6参照)。
【0056】
更に筋電位と関節角度を含めた総合的な使用性評価を行うには、本実施形態では筋電位の有意差により求められた各容器10,20,30の使用評価のポイントと、関節角度の有意差により求められた各容器10,20,30の使用評価のポイントを合計したポイント値(総合ポイント値)に基づき判定することとした。各容器10,20,30の総合ポイントは、ヒンジキャップ付き容器10が“7ポイント”、蓋回転式容器20が“4ポイント”、ディスペンサー容器30が“5ポイント”となる。よって、以上の評価結果から、各容器10,20,30の中では、ヒンジキャップ付き容器10が最も使用性が良好である容器であることが判明した。同時に使用性がよくない容器は蓋回転式容器20であることが判明した。
【0057】
このように本実施形態に係る容器の使用性評価方法によれば、筋電計41により測定される筋電位と、エレクトロゴニオメータ51により測定される手首の関節の関節角度に基づき容器の使用性評価を行うため、従来行われていたパネラーの主観に基づく官能性評価に比べ、使用性評価精度の向上を図ることができる。
【0058】
また、筋肉毎に測定された筋電位の値及び手首の回転方向毎に測定された関節角度の値を各容器10,20,30毎に比較するため、種々の形態の容器に対して同一条件下で使用性評価を行うこととなり、使用性の良好な容器の選定を確実に行うことができる。
【0059】
また、各容器10,20,30の使用性評価は、筋電位及び関節角度の夫々において各容器間で有意差が発生しているものに基づき行っている。また、その評価方法も有意差を有する筋電位及び関節角度において、筋負担及び関節負担の小さい方にポイントを付与する方法であるため、容易かつ確実に使用性評価を行うことができる。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の利用は容器に限定されるものではなく、容器以外の化粧道具(例えば、化粧ブラシ等)に利用することができる。また、本発明の利用は化粧品容器に限定されるものではなく、他の分野で把持されて使用される各種容器の使用性評価に広く適用が可能なものである。
【符号の説明】
【0062】
10 ヒンジキャップ付き容器
20 蓋回転式容器
30 ディスペンサー容器
40A〜40E 電極
41 筋電計
50 センサー部
51 エレクトロゴニオメータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の被測定容器を比較することにより、当該複数個の被測定容器より使用性の良好な容器を選定する容器の使用性評価方法であって、
前記複数個の被測定容器のそれぞれを被験者に使用させ、前記被験者の腕の複数の筋肉に対応して取付けられた筋電計により当該使用時における前記筋肉の筋電位を、前記筋肉毎に測定する筋電位測定工程と、
前記複数個の被測定容器のそれぞれを前記被験者に使用させ、前記被験者の手首に取付けられた角度計により当該使用時における前記手首の関節角度を、前記手首の回転方向毎に測定する関節角度測定工程と、
前記筋肉毎に測定された筋電位の値を前記被測定容器毎に比較して前記被測定容器間の前記筋電位の有意差を求めると共に、前記手首の回転方向毎に測定された関節角度の値を前記被測定容器毎に比較して前記被測定容器間の前記関節角度の有意差を求め、
前記筋電位の有意差と前記関節角度の有意差に基づき、前記被測定容器の使用性を判定する判定工程と
を有することを特徴とする容器の使用性評価方法。
【請求項2】
前記判定工程では、
前記有意差を有する前記被測定容器間において、前記筋電位が小さい前記被測定容器に
対してポイントを付加し、
前記有意差を有する前記被測定容器間において、前記関節角度が小さい前記被測定容器に対してポイントを付加し、
前記ポイントが最も多い前記被測定容器を最も使用性が高い容器と判定することを特徴とする請求項1記載の容器の使用性評価方法。
【請求項3】
前記被験者に使用させる前記被測定容器の使用態様は、開き動作、吐出動作、閉め動作から選択される一又は複数の動作であることを特徴とする請求項1又は2記載の容器の使用性評価方法。
【請求項4】
前記被測定容器の種類は、ヒンジキャップ付き容器、蓋回転式容器、及びディスペンサー容器であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の容器の使用性評価方法。
【請求項5】
前記複数の筋肉は、短母指屈筋、手の第一背側骨間筋、短母指伸筋、示指伸筋、橈側手根屈筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋、総指伸筋、長橈側手根伸筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、大胸筋、三角筋から選択された二つ以上の筋肉であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の容器の使用性評価方法。
【請求項6】
前記手首の回転方向は、背屈、掌屈、尺屈、橈屈、回外、回内から選択された二つ以上の方向であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の容器の使用性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−100768(P2012−100768A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250145(P2010−250145)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】