説明

容器の密封性検査方法

【課題】 レトルト充填した液状内容物中に、容器を冷却する際の冷却水が吸い込みがな
いか否かを呈色反応によって確認する方法を提供する。
【解決手段】 反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充填して密封
した容器を加熱殺菌した後、該容器を、反応して呈色反応を示す一方の化合物Bを含有す
る冷却水を用いて冷却した後、該液状内容物に、反応して呈色反応を示すもう一方の化合
物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を確認することにより、容器内への冷却水の吸
い込みを検知することを特徴とする容器の密封性検査方法。化合物Aとしては、エリオム
ロムブラックTが適しており、化合物Bとしては、塩化マグネシウムが適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低酸性飲料などの内容物を充填した容器をレトルト殺菌することが必須のも
のとして組み込まれている工程において、加熱殺菌水あるいは加熱後の冷却水が、容器内
に吸い込まれる現象の有無を未然に確認し、容器の密封性を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PETボトルのようなプラスチック容器に液体飲料を充填し消費者に提供するためには
、容器及び内容物(液体飲料)を、ボトルへの充填前か充填後に殺菌をすることが必要で
ある。
従来、PETボトルの素材であるポリエチレンテレフタレートは、強度や成形性の点か
ら容器素材としては優れているが、耐熱性に劣るという特性があり、PETボトルに内容
物を充填してから容器ごと100℃以上の温度で加熱殺菌することは出来なかった。
【0003】
また、PETボトルへ液体飲料を充填するには、PETボトルの耐熱性を考慮した温度
での充填方法しか採用出来ないため、主として、85℃ないし93℃程度の温度で充填し
た後、パストライザーから77℃程度の殺菌水を3分程度吹きつけるという、いわゆるホ
ットパックという充填方法が採用されている。しかしながら、この方法では、殺菌対象が
黴あるいは酵母のように100℃以下の温度でも充分に殺菌出来るものにしか適用するこ
とができず、近年、ボトル飲料として多用されているお茶、ミルク、コーヒーのように1
00℃以上での殺菌が必要なpH4.6以上の低酸性飲料の場合は、適用出来ないという
問題がある。
【0004】
ところで、これらボトルへの液体飲料の充填においては、いずれの場合も、冷却水によ
る冷却工程が必須であり、この工程においては、ボトル内が減圧になるために、容器とキ
ャップとの嵌合が適切でないと、キャップの嵌合部から僅かながら冷却水が侵入するとい
う問題があることが指摘されている。
【0005】
そこで、その対策として、本出願人は、本願出願前に、2種の化合物の呈色反応(発色
反応または消色反応)を利用して容器の密封性を検査することによって、具体的に冷却水
がボトル内に浸入したか否かを確認して、キャップの巻き締め条件等を適切なものにする
ための手段を特許文献1、2に提案している。
呈色反応には、反応によって着色していた液状内容物が消色するものと、無色の液状内
容物が発色するものがある。
【0006】
特許文献1に示されたものは、反応して呈色する化合物の一方を含有する液状内容物を
充填して密封した合成樹脂製透明容器を熱殺菌し、反応して呈色する他方の化合物を含有
する冷却水で冷却した後に、液状内容物が発色または消色の有無を検査することにより、
冷却工程での冷却水の吸い込みを検知するものである。この検知方法において、呈色反応
化合物の組み合わせとしては、発色反応の場合は、無色が黄色ないし赤色に変化するオル
トトリジン塩酸水溶液と次亜鉛ナトリウム水溶液、無色がピンク色に変化するpH9前後
の水溶液とフェノールフタレイン水溶液、無色が橙色に変化するオルトフェナントリン塩
酸水溶液と塩化第1鉄水溶液が挙げられており、消色反応の場合は、ピンク色が無色に変
化するpH9前後のフェノールフタレイン溶液と低アルカリ性水溶液、黄色が無色に変化
するpH6前後のp−ニトロフェノール水溶液と低酸性水溶液の組み合わせを利用してい
る。いずれの場合も、前者が液状内容物中に含まれ、後者が冷却水含まれるようになって
いる。
【0007】
また、特許文献2に示されたものは、反応して呈色する化合物の一方を合成樹脂製容器
に入れ、次にこの容器に液状内容物を充填して前記化合物を溶解させ密封した後、この液
状内容物入り容器を反応して呈色する他方の化合物を含有する冷却水で冷却し、液状内容
物の発色の有無を検知するものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001−108562号公報
【特許文献2】特開2003−114162号公報
【0009】
これらの検査方法は、いずれも、液状内容物を充填したPETボトルの加熱殺菌後の冷
却工程で、キャップの嵌合部から容器内への冷却水の吸い込みの有無を確認することによ
って、冷却水の吸い込みのないキャップの形状や巻き締め条件を試験的に定めるために利
用されるものである。ところが、上記特許文献記載の方法は、いずれも、100℃以下の
温度で内容物が充填されるホットパック充填において適用出来る方法であって、この方法
は、pHが4.6以下の低酸性飲料における、カビや酵母の殺菌が可能である程度の液状
内容物のものにしか適用出来ず、100℃以上の加熱殺菌が必要なpHが4.6以上の茶
、ミルク、コーヒーなどの殺菌には利用出来ない。
【0010】
また、従来は、容器素材として、ポリエチレンテレフタレートを用いた所謂PETボト
ルの場合には、耐熱性が不十分であり、100℃以上の加熱には耐えられないという問題
があった。
【0011】
pHが4.6以上の低酸性飲料の充填には、アセプ充填と呼ばれる無菌の環境で充填す
る方法が行われる。アセプ充填とは、予め薬剤でボトルを殺菌しておき、内溶液は140
℃で30秒程度の温度でミルクコーヒなどの低酸性飲料の菌類を殺菌してから充填すると
いう無菌充填の方法であり、ボトルは薬剤により殺菌されているため、あらためて加熱す
る必要はないという特徴があるため、PETボトルを用いた低酸性飲料の充填方法として
一般に行われている。
【0012】
一方、最近になって成形加工法の改善により、100℃以上の温度にも耐えることがで
きるPET製ボトルがが開発され、レトルト殺菌により内容物を充填した容器自体を加熱
殺菌することが可能になった。
つまり、容器自体が100℃以上の耐熱性を有するということは、容器に液状内容物を
充填してから、加熱殺菌をするレトルト殺菌が可能であるということであり、上記アセプ
充填における、容器自体を予め薬剤殺菌する必要も、無菌の環境で充填する必要もなく、
加熱殺菌をするだけで、PETボトル詰め低酸性飲料の商品を提供出来るというメリット
があることになる。
【0013】
しかしながら、反応によって呈色反応を示す化合物は、一般に耐熱性が充分でなく、こ
れら2種の化合物がいずれも耐熱性に優れている組み合わせは今のところ見られない。し
かも、呈色反応を示す化合物として耐熱性を有するものは、検出感度が低いという問題が
ある。
【0014】
ところで、レトルト殺菌する場合にも、加熱後の冷却工程でキャップの嵌合部から冷却
水を吸い込むことがないかどうかを確認し、それに適したキャップの形状や巻き締め条件
を採択しなければならないのは当然であるが、密封釜の中でのレトルト充填における、キ
ャップ嵌合部からの冷却水の吸い込みを確認する方法は知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の目的は、液状内容物を充填したPETボトルをレトルト殺菌に付する
際に、冷却工程での熱水、蒸気、冷却工程での冷却水の吸い込みを確認する検査方法を提
供することにある。本発明者らは、上記特許文献に記載された呈色反応を利用した検査方
法を踏まえて、レトルト殺菌の高温においても、キャップの嵌合部からの熱水、蒸気また
は冷却水の吸い込みを確認出来る方法を模索して本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、下記の要件からなることを
特徴とする。
すなわち、本発明によれば、反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物
を充填して密封した容器を加熱殺菌した後、該容器を、反応して呈色反応を示す一方の化
合物B1を含有する冷却水を用いて冷却した後、該液状内容物に、反応して呈色反応を示
すもう一方の化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を確認することにより、容器
内への冷却水の吸い込みを検知することを特徴とする容器の密封性検査方法が提供される

【0017】
また、本発明によれば、反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充
填して密封した容器を、反応して呈色反応を示し、かつ、100℃以上の温度で熱分解し
ない化合物B2を含有する100℃以上の熱水によってレトルト殺菌し、該熱水を冷却し
て容器を冷却した後、上記液状内容物に化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を
確認することにより、容器内への熱水および/または冷却水の吸い込みを検知することを
特徴とする容器の密封性検査方法が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充
填して密封した容器を、蒸気によってレトルト殺菌し、反応して呈色反応を示し、かつ、
100℃以上の温度で熱分解しない化合物B2を含有する水を用いて冷却した後、上記液
状内容物に化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を確認することにより、容器内
への蒸気、冷却水の吸い込みを検知することを特徴とする容器の密封性検査方法が提供さ
れる。
【0019】
また、本発明によれば、反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充
填して密封した容器を、反応して呈色反応を示し、100℃以上の温度で熱分解しない化
合物B2を含有する水溶液を容器の嵌合部に満たして、熱水または蒸気によってレトルト
殺菌し、冷却水を用いて冷却した後、これに化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有
無を確認することにより、容器内への上記水溶液の吸い込みを検知することを特徴とする
容器の密封性検査方法が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、前記容器が透明容器からなり、冷却後の容器内に直接上記化合
物Aを添加する上記容器の密封性検査方法が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、前記化合物B2が、金属イオンを遊離する化合物である上記容
器の密封性検査方法が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、前記化合物Aが、金属イオンとキレートを形成する化合物であ
る上記容器の密封性検査方法が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、化合物Aを含有しない液状内容物を容器に充填するに際して、
該液状内容物に金属イオンを有する化合物が混入した場合に、呈色反応する化合物B1ま
たはB2を添加する前段階において、該化合物とマスキングする化合物を添加する上記容
器の密封性検査方法が提供される。
【0024】
また、本発明によれば、前記マスキングする化合物がエチレンジアミン四酢酸(EDT
A)である上記容器の密封性検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の容器の密封性検査方法の最大の特徴は、密封空間における100℃以上という
高温でのレトルト殺菌における容器内への殺菌工程の熱水、蒸気の吸い込み、冷却工程の
冷却水の吸い込みを、呈色反応を利用して、しかも、容器内には検査のための化合物を含
有することなく、確認可能にした点にある。
本発明においては、呈色反応を示す2種の化合物の少なくとも一方を耐熱性のものを採
択すれば高いレベルでの密封性の検査が可能になる。
また、容器とキャップとの嵌合部に化合物Bを保持出来るような保持部材を付設してお
けば、確実に容器とキャップの嵌合部に化合物Bを保持することができるため、吸い込み
現象をより確実に検出することが可能になる。
さらにこの方法は、レトルト設備を全く使用しないで済むことから設備に錆びなどのト
ラブルをもたらすことがなく、かつ、設備の洗浄も必要ない。
さらに、容器に充填する液状物に予めマスキング剤を添加することにより、ラインの配
管からの僅かな金属イオンの混入影響をなくし、より正確な吸い込み検査が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の具体的な構成を請求項にしたがって説明する。
<請求項1記載の発明>
【0027】
請求項1記載の発明は、反応して呈色反応を示す化合物(化合物Aという)を含有しな
い液状内容物を充填して密封した容器を加熱殺菌した後、該容器を、
反応して呈色反応を示す一方の化合物(化合物B1という)を含有する冷却水を用いて冷
却した後、上記液状内容物を容器から取り出し、該液状内容物に、反応して呈色反応を示
すもう一方の化合物Bを添加して、液状内容物の発色の有無を確認することを規定したも
のである。
上記B1は、反応して呈色反応を示す一方の化合物のうち、非耐熱性であってもよいも
のを意味しており、100℃以上の耐熱性を有するものでなければならないB2とは、若
干意味合いが異なり、B2としてB1を用いることは出来ないが、B1としてB2を用い
ることはできる。本願明細書においては、これらをまとめて単にBと言うことがある。
【0028】
この方法においては、冷却水の吸い込みを確認するために、反応して呈色反応を示す2
種の化合物A、Bが用いられるが、その特徴とするところは、高温での加熱が必要な液状
内容物を充填した容器には、いずれの化合物も入れないことにある。液状内容物としては
、例えばイオン交換水の様な呈色反応に関与しない液状物が用いられ、硬度が0.1未満
のイオン交換水が好適に用いられる。なお、液状内容物としては、硬度が0.1未満の水
を使用しないと、レトルト後の容器内に金属イオンが存在しなくても赤色に変色する呈色
反応を起こすことがあるため、注意しなければならない。
【0029】
この液状内容物は密封環境下の釜内で容器に充填された状態で蒸気または熱水を用いて
加熱されるが、容器内には呈色反応を示す化合物Aは含有されていないので、液状内容物
を高温でのレトルト殺菌することができる。この際、液状内容物中に化合物Aが含まれて
いたとすれば、化合物Aは、レトルト殺菌時の高温によって熱分解してしまい、化合物B
と反応しても呈色反応は示さなくなる。
【0030】
次に、熱水を用いてレトルト殺菌する場合、熱水を用いて容器を殺菌した後、該熱水を
冷却した冷却水を用いて容器を冷却する。この熱水、冷却水には、反応して呈色反応を示
す一方の化合物Bが含まれている。蒸気を用いてレトルト殺菌する場合は、容器は蒸気殺
菌された後、反応して呈色反応を示す一方の化合物B2が含まれている冷却水を用いて冷
却される。いずれの加熱媒体を用いてレトルト殺菌した場合も、冷却水は30℃ないし1
30℃の程度の温度幅で用いられるので、この際、高温側の温度である130℃程度の温
度で熱分解しない程度の耐熱性を有することが望ましい。
【0031】
化合物B1としては、金属イオンを遊離する化合物が好適に用いられ、中でも、塩化マ
グネシウムなどのマグネシウムイオンを有する化合物が好ましい。塩化マグネシウムは、
豆腐を作る際のにがりとしても使用されている食品添加合物である。この化合物Bは、上
記熱水と冷却水に5%(W/V)程度の濃度になるように添加されている。
つまり、上記加熱殺菌工程中および/または冷却工程中にキャップの嵌合部から容器内
へ熱水および/または冷却水が浸入していれば、液状容器内容物には遊離した金属イオン
が存在することになる。
【0032】
本発明においては、この冷却工程が完了した容器の液状内容物を取り出して、これに、
反応して呈色反応を示すもう一方の化合物Aを添加することによって、その内容物が呈色
反応を示すか否かで、上記加熱殺菌工程中および/または冷却工程中において容器内に熱
水および/または冷却水が吸い込まれたか否かを確認することができる。
【0033】
この化合物Aは、上記化合物Bとキレートを形成する化合物であることが好ましく、こ
の化合物Aは殺菌などの加熱工程に付されることはないので、化合物Bとの呈色反応の感
度が高い化合物、言い換えれば、耐熱性の低い化合物であっても使用出来る。
本発明者らの実験によれば、化合物Aとしては、水の硬度測定に使用される指示薬であ
るエリオクロムブラックTが好適に使用される。
【0034】
本発明によれば、例えば、上記冷却後の液状内容物にマグネシウムイオンが含まれてい
る場合に、化合物Bとして塩化マグネシウムを用い、化合物Aとしてエリオクロムブラッ
クTを用いた場合には、無色の液状内容物は赤色に変色し、マグネシウムイオンが含まれ
ていない場合は青色に変色する。この呈色反応は、エリオクロムブラックTが塩化マグネ
シウムと、反応した時に、マグネシウムイオンとキレートを形成して赤色になる反応を利
用したものである。
【0035】
つまり、請求項1に規定した本発明は、化合物Aと化合物B1の呈色反応を利用したも
のであるが、高温に晒される液状内容物を充填した容器には上記化合物のいずれをも用い
ることなく、充填後の殺菌工程中の熱水および/または冷却工程中の冷却水の吸い込みを
確実に検知することができるため、一般に耐熱性に劣るものの方が検出感度が優れている
という呈色反応を示す化合物の特徴を活かして、冷却水の吸い込みを確実に検知すること
ができる。
<請求項2記載の発明>
【0036】
請求項2に規定した発明は、基本的に請求項1にかかる発明と同じ呈色反応を利用した
ものであり、化合物B2が100℃以上の温度で熱分解しないものであることを明確にし
たものである。
反応して呈色反応を示し100℃以上の温度で熱分解しない化合物B2の、100℃以
上の温度で熱分解しない耐熱性とは、特にその上限が限定される温度を意味するものでは
ないが、液状内容物を充填した容器をレトルト殺菌し、その後に、100℃以上で130
℃程度までのの熱水、冷却水によって加熱する工程において熱分解しない程度の耐熱性を
意味するものである。
【0037】
請求項2記載の発明においても、化合物Aは加熱工程に付されることはないから、呈色
反応を示す化合物のうちの少なくとも化合物B2が100℃以上の温度で熱分解しない耐
熱性を有していればよく、両化合物ともに耐熱性が求められないために、耐熱性が低いも
のであっても、検知感度が優れている化合物を用いて冷却水の吸い込みを感度よく検知す
ることができる。
<請求項3記載の発明>
【0038】
請求項3は、上記請求項2記載のレトルト殺菌の熱媒体として蒸気を用いた構成を規定
するものであり、液状内容物に化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を確認する
ことにより、容器内への蒸気および/または冷却水の吸い込みを検知することを明確にし
たものであり、その他の構成は請求項2記載の発明と同じである。
<請求項4記載の発明>
【0039】
請求項4に規定した発明は、請求項1ないし3の発明の応用といえるものであって、呈
色反応を利用して熱水および/または冷却水の吸い込みを、ボトルに付設した治具を用い
て検知するようにしたものである。
図1を参照して本発明を説明する。
図1は、請求項4に規定した発明の態様を実施するためのキャップと化合物Bを含む水
溶液の保持部材の付設状態を断面図で示したものであり、この方法においては、液状内容
物を充填した容器口部5とキャップ1の嵌合部の外周11に、キャップ外周11と所定の
間隔3を保持して環状に覆うパイプ状の保持部材2を密着固定し、その中にキャップ1の
少なくとも嵌合部から上ををすっぽり覆うように化合物Bを含む水溶液を満たしている。
化合物Bを含む水溶液の量は保持部材2の上方からあふれなければ良く、bのライン程度
にとどめておくことが望ましい。この状態で熱水または蒸気を熱媒体として100℃以上
のレトルト殺菌を行い、冷却水を用いて冷却してから、該保持部材2を外して容器内の液
状内容物に化合物Aを添加して、呈色反応が起こるか否かを確認するものである。
【0040】
容器の口部5にはキャップ1が螺合され、通常、さらにキャップ天面から垂下するイン
ナーリング7が容器口部の内周に周接し、密封性を高めている。
パイプ状の保持部材2は、パイプ状のものであればその材質は何でも良く、アルミニウ
ムなどの金属あるいはプラスチック製のものであってもよい。この保持部材2の内径は、
キャップ1の外径の最も張り出した部分、この例では、キャップ下端に形成されたタンパ
ーエビデント部12の外径と略同じ程度のものが好ましく、保持部材2の下端は、シュリ
ンクフィルム4などによってボトル本体と密接されることによって化合物Bが漏れるのを
防いでいる。また、この保持部材2には、化合物Bを含む水溶液がこぼれたり、不純物が
混入しないようにするために、上方からカップ6状の部材を被せておくことが望ましい。
【0041】
図2は、図1のA−A線平面図、つまり、図1の構成からカップ6状の部材を外した状
態を上方から見た平面図である。キャップ外周11と保持部材2の間隔3は、とくに限定
されるものではないが、2mmないし5mm程度あれば充分である。
請求項4に規定した発明によれば、容器とキャップの嵌合部に確実に呈色反応する化合
物Bを含む水溶液を存在させることができ、冷却水の吸い込み現象を確実の検出すること
ができる。また、呈色反応する化合物を含む液体は、レトルト設備には使用されないので
、錆びなどの設備トラブルの危険性がなく、設備の洗浄の必要もない。
<請求項5記載の発明>
【0042】
請求項5記載の発明は、液状内容物を入れる容器が透明容器であって、冷却後の容器内
に直接上記化合物Aを添加する態様を規定したものである。これによって、容器内の呈色
反応が外から確認することができ、わざわざ、容器内容物を取り出す煩わしさがない。
<請求項6記載の発明>
【0043】
請求項6記載の発明は、耐熱性が求められる呈色反応する化合物Bが、金属イオンを遊
離する化合物であることを規定するものである。
金属イオンとしては、マグネシウムイオン、鉄イオンなどが例示され、中でも塩化マグ
ネシウムが好適に用いられる。
<請求項7記載の発明>
【0044】
請求項7記載の発明は、上記化合物Bと反応して呈色反応を示す化合物Aが、キレート
化合物であることを規定するものである。
キレート化合物としては、カルシウムイオンとキレートを形成する2−ヒドロキシ−1
−(2,ヒドロキシ−4−スルホ−1−ナフチルアゾ)−3−ナフトエ酸(NN指示薬)
、銅イオンとキレートを形成する1−(2−ピリジルアゾ−2−ナフトール(PAN)等
が挙げられるが、なかでも、水の硬度測定に用いられるエリオクロムブラックTが好まし
く用いられる。化合物Bとして塩化マグネシウムを用い、化合物Aとしてエリオクロムブ
ラックTを用いた場合には、無色の液状内容物は赤色に変色し、マグネシウムイオンが含
まれていない場合は青色に変色するため、検知感度が高く、容器内への冷却水の吸い込み
の有無を的確に評価することができる。
<請求項8記載の発明>
【0045】
請求項8記載の発明は、化合物Aを含有しない液状内容物を容器に充填するに際して、
該液状内容物に金属イオンを遊離する化合物が混入した場合に、呈色反応する化合物を添
加する前段階において、該化合物とマスキングする化合物を添加することによって、容器
内の液状内容物が確実に中性の液状物であることを担保するものである。
【0046】
本発明で用いる容器内の液状内容物は、基本的にはイオン交換水のような金属イオンを
含まない液状物であれば事足りるものであるが、実際に工場のラインにおいて液状物を供
給する際には、ライン配管内の金属イオンが微量ながら混入するケースが考えられる。そ
の様な場合に、そのまま本発明を実施すると、熱水または冷却水の吸い込みがないにもか
かわらず、上記微量の混入した金属イオンが化合物Aと反応して呈色反応を示すことにな
り、正確な検知が出来なくなる虞がある。
【0047】
なお、容器内への金属イオンの混入がどの程度であるかは測定によって容易に判定する
ことができるから、該混入した金属イオンと完全にマスキングするに足るマスキング剤を
入れてやれば良い。マスキングする化合物の添加量は、内容物に充填時に金属イオンをマ
スキングするのに必要な添加量を予め測定により求める。なお、該化合物を必要以上に添
加すると、フリーのマスキングする化合物と吸い込んだ呈色反応を示す化合物Bがキレー
トを形成し、フリーのマスキング化合物の分だけ吸い込みの検出感度が低下する。
<請求項9記載の発明>
【0048】
請求項9記載の発明は、前記金属イオンとマスキングしてキレートを形成する化合物が
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)であることを規定したものである。
<実施例>
【0049】
以下に、実施例によって本発明を説明する。
【実施例1】
【0050】
充填量300mlの耐熱性PETボトルに、硬度0.1未満のイオン交換水を85±2
℃で280ml充填し、キャップを手で巻締め液状内容物を充填したボトルを準備した。
この際、巻締め条件として、キャップ天面接触時より−10度、0度、+10度、+3
0度の4種類の巻き締めを行った。
また、280kgの塩化マグネシウム6水和物を水道水に溶解して、5%(W/V)の
塩化マグネシウム溶液2.5トンをレトルト給水タンクに供給した。
上記の液状内容物を充填したボトルを5%(W/V)の塩化マグネシウムを用いて熱水
シャワー殺菌(115℃で30、125℃で30分の2条件)した後、5%(W/V)の
塩化マグネシウム溶液を用いて品温が30℃になる迄冷却した。
次いで、ボトルに付着した残留塩化マグネシウム溶液を洗い流すために、水道水で洗浄
した。次に、キャップ開栓時に残留塩化マグネシウム溶液が容器内に吸い込まれないよう
に、ボトルの底部をハンダにて穴を開け、マイクロピペットでpH10の緩衝液150μ
l(0.05%(v/v%))を添加した後、エリオクロムブラックT指示薬を60μl
(0.02%(v/v%))を添加してボトルを攪拌した。その結果得られた呈色反応の
結果から容器の密封性を評価した。使用した塩化マグネシウムの濃度と充填量から計算さ
れた検出限界値は、0.5μlである。
溶液が赤色に変色した物はものは冷却水の吸い込みがあったものであり、溶液が青色に
変色したものは冷却水の吸い込みがなかったものである。
【0051】
その結果を表1に示す。
【表1】

【実施例2】
【0052】
実施例2は、請求項4に規定した発明を説明するためのものである。
充填量300mlの耐熱性PETボトルに、硬度0.1未満のイオン交換水を85±2
℃で280ml充填し、キャップを手で巻締め液状内容物を充填したボトルを準備した。
この際、巻締め条件として、キャップ天面接触時より−10度、0度、+10度、+3
0度の4種類の巻き締めを行った。
次に、キャップとのズルの嵌合部を確実に5%(W/V)の塩化マグネシウム溶液で満
たすために、充填したボトルの口部を5%(W/V)の塩化マグネシウム溶液に浸漬させ
て嵌合部の空気を追い出した後、東洋ジーアール株式会社製のシリコンOリング(AS5
68−020)をキャップ下部のタンパーエビデント部とノズルのネックリングの間に挿
入し、長さ30mmのアルミパイプ(外径35mm、内径33mm)をキャップ天面から
被せて、アルミパイプの下部をシリコンOリング(AS568−020)で支持した。
次に、サムプラテック株式会社製の長さ35mmのPFEP(パーフルオロエチレンプ
ロペンコポリマー)チューブ30Fをアルミパイプの上から被せて、PETボトルの肩部
にPFEPチューブ下部が接する位置で、熱風機を用いて約130℃の熱風でPFEPチ
ューブを熱収縮させ、塩化マグネシウム溶液が漏れないようにしてから、アルミパイプか
らあふれない程度に上記塩化マグネシウム溶液をキャップ天面に満たした。
レトルト殺菌中に上記塩化マグネシウム溶液が熱水、冷却水で希釈されないようにアル
ミキャップをアルミパイプに被せて、熱水シャワー殺菌(115℃で30分、125℃で
30分の2条件)した後、冷却水を用いて品温が30℃になる迄冷却した。
次いで、アルミキャップを外し、キャップ天面に満たされた塩化マグネシウム溶液を洗
い流して、ボトルに付着した残留塩化マグネシウム溶液を洗い流すために、水道水で洗浄
した。次に、キャップ開栓時に残留塩化マグネシウム溶液が容器内に吸い込まれないよう
に、ボトルの底部をハンダにて穴を開け、マイクロピペットでpH10の緩衝液150μ
l(0.05%(v/v%))を添加した後、エリオクロムブラックT指示薬60μl(
0.02%(v/v%))を添加してボトルを攪拌した。その結果得られた呈色反応の結
果から容器の密封性を評価した。使用した塩化マグネシウムの濃度と充填量から計算され
た検出限界値は、0.5μlである。
溶液が赤色に変色したものはものは冷却水の吸い込みがあったものであり、溶液が青色
に変色したものは冷却水の吸い込みがなかったものである。
その結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【実施例3】
【0054】
実施例3は、請求項8、9に規定した発明を説明するためのものである。
充填量300mlの耐熱性PETボトルに、充填ライン上のステンレス配管を通したイ
オン交換水を85±2℃で280ml充填し、キャップを手で巻締め液状内容物を充填し
たボトルを準備した。
この際、巻締め条件として、キャップ天面接触時より−10度、0度、+10度、+3
0度の4種類の巻締めを行った。
また、充填ライン上から混入した金属イオンのマスキングに必要な0.01MのEDT
A溶液の添加量を測定するために同様に充填して30℃迄冷却したボトル5本を準備した
。このボトルを開栓してpH10の緩衝液150μl(0.05%(v/v%))を添加
した後、エリオクロムブラックT指示薬60μl(0.02%(v/v%))を添加して
溶液を赤色に変化させた。次に、0.01MのEDTA溶液を滴下していき溶液が青色に
変わる滴下量を測定し、最も多い滴下量300μlをマスキングするための0.01M
EDTA溶液の滴下量とした。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
次に、キャップとのズルの嵌合部を確実に10%(W/V)の塩化マグネシウム溶液で
満たすために、充填したボトルの口部を10%(W/V)の塩化マグネシウム溶液に浸漬
させて、嵌合部の空気を追い出した後、東洋ジーアール株式会社製のシリコンOリング(
AS568−020)をキャップ下部のタンパーエビデント部とノズルのネックリングの
間に挿入し、長さ30mmのアルミパイプ(外径35mm、内径33mm)をキャップ天
面から被せて、アルミパイプの下部をシリコンOリング(AS568−020)で支持し
た。次に、サムプラテック株式会社製の長さ35mmのPFEP(パーフルオロエチレン
プロペンコポリマー)チューブ30Fをアルミパイプの上から被せて、PETボトルの肩
部にPFEPチューブ下部が接する位置で、熱風機を用いて約130℃の熱風でPFEP
チューブを熱収縮させ、塩化マグネシウム溶液が漏れないようにしてから、アルミパイプ
からあふれない程度に上記塩化マグネシウム溶液をキャップ天面に満たした。
レトルト殺菌中に上記塩化マグネシウム溶液が熱水、冷却水で希釈されないようにアル
ミキャップをアルミパイプに被せて、熱水シャワー殺菌(115℃で30分、125℃で
30分の2条件)した後、冷却水を用いて品温が30℃になる迄冷却した。
次いで、アルミキャップを外し、キャップ天面に満たされた塩化マグネシウム溶液を洗
い流して、ボトルに付着した残留塩化マグネシウム溶液を洗い流すために、水道水で洗浄
した。次に、キャップ開栓時に残留塩化マグネシウム溶液が容器内に吸い込まれないよう
に、ボトルの底部をハンダにて穴を開け、マイクロピペットでpH10の緩衝液150μ
l(0.05%(v/v%))を添加した後、充填ライン上から混入した金属イオンをマ
スキングするために0.01M EDTA溶液300μlを添加、エリオクロムブラック
T指示薬60μl(0.02%(v/v%))を添加してボトルを攪拌した。その結果得
られた呈色反応の結果から容器の密封性を評価した。実測した検出限界値は、5μlであ
る。
溶液が赤色に変色したものは上記塩化マグネシウム溶液の吸い込みがあったものであり
、溶液が青色に変色したものは吸い込みがなかったものである。検出限界値は、マスキン
グすることで若干落ちるが、評価結果はマスキングしない評価結果とほぼ同等の結果を得
ることができた。
その結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0058】
以上詳述したように、本発明の呈色反応を利用した容器への殺菌工程中の熱水、蒸気、
冷却工程中の冷却水の吸い込み検査方法は、呈色反応をする化合物のいずれか一方の化合
物だけを耐熱性のものとするだけで感度の高い検査が出来るため、従来は不可能であった
高温の密封環境下でも容器の密封性が容易に検査することができ、pHが4.6以上の低
酸性飲料の密封性の検査が容易に出来ることから、当該分野において、広く利用が見込ま
れる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の請求項4の態様を示した断面図である。
【図2】図1のA−A線平面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 キャップ
11 キャップ外周
12 タンパーエビデント部
2 保持部材
3 間隔
4 シュリンクフィルム
5 容器口部
6 カップ
7 インナーリング
b 化合物Bの充填境界
B 化合物B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充填して密封した容器を加
熱殺菌した後、該容器を、反応して呈色反応を示す一方の化合物B1を含有する冷却水を
用いて冷却した後、該液状内容物に、反応して呈色反応を示すもう一方の化合物Aを添加
して、液状内容物の発色の有無を確認することにより、容器内への冷却水の吸い込みを検
知することを特徴とする容器の密封性検査方法。
【請求項2】
反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充填して密封した容器を、
反応して呈色反応を示し、かつ、100℃以上の温度で熱分解しない化合物B2を含有す
る100℃以上の熱水によってレトルト殺菌し、該熱水を冷却して容器を冷却した後、上
記液状内容物に化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を確認することにより、容
器内への熱水および/または冷却水の吸い込みを検知することを特徴とする容器の密封性
検査方法。
【請求項3】
反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充填して密封した容器を、
蒸気によってレトルト殺菌し、反応して呈色反応を示し、かつ、100℃以上の温度で熱
分解しない化合物B2を含有する水を用いて冷却した後、上記液状内容物に化合物Aを添
加して、液状内容物の発色の有無を確認することにより、容器内への蒸気、冷却水の吸い
込みを検知することを特徴とする容器の密封性検査方法。
【請求項4】
反応して呈色反応を示す化合物Aを含有しない液状内容物を充填して密封した容器を、
反応して呈色反応を示し、100℃以上の温度で熱分解しない化合物B2を含有する水溶
液を容器の嵌合部に満たして、熱水または蒸気によってレトルト殺菌し、冷却水を用いて
冷却した後、これに化合物Aを添加して、液状内容物の発色の有無を確認することにより
、容器内への上記水溶液の吸い込みを検知することを特徴とする容器の密封性検査方法。
【請求項5】
前記容器が透明容器からなり、冷却後の容器内に直接上記化合物Aを添加する請求項1
ないし4のいずれか1項記載の容器の密封性検査方法。
【請求項6】
前記化合物B2が、金属イオンを遊離する化合物である請求項2ないし4のいずれか1
項記載の容器の密封性検査方法。
【請求項7】
前記化合物Aが、金属イオンとキレートを形成する化合物である請求項1ないし6のい
ずれか1項記載の容器の密封性検査方法。
【請求項8】
化合物Aを含有しない液状内容物を容器に充填するに際して、該液状内容物に金属イオ
ンを有する化合物が混入した場合に、呈色反応する化合物B1またはB2を添加する前段
階において、該化合物とマスキングする化合物を添加する請求項1ないし7のいずれか1
項記載の容器の密封性検査方法。
【請求項9】
前記マスキングする化合物がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である請求項8記載
の容器の密封性検査方法。

【図1】
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【図2】
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