説明

容器入り歯磨剤

【課題】アニオン性界面活性剤を含有し、香料のうち特に容器への吸着性、浸透性の高いモノテルペン類を含有する歯磨剤において、モノテルペン類の容器への吸着又は浸透が抑制された容器入り歯磨剤を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)リモネン、1,8−シネオール及びリナロールから選択されるモノテルペン類、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)融点が50℃以上、室温(25℃)で固体であり、有機性値が560〜1500、無機性値が0〜470であって、当該有機性値及び無機性値が下記式(1)を満たす油剤、(有機性値)×0.5−550≦(無機性値)≦(有機性値)×0.5−280・・・(1)
(D)水
を含有する容器入り歯磨剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノテルペン類を含有する容器入り歯磨剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤には、使用感や味の観点から一般的には香料が配合されており、メントールをはじめとするさまざまな香料が配合されている。
しかし、香料によっては容器に吸着、浸透するため、短い期間に香料の効能が低下するという課題があった(特許文献1、特許文献2)。これに対して、特許文献1及び特許文献2では、容器の最内層をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂で構成することによって、香料の保存性を向上させている。しかし、特殊なポリマーを用いると、容器の製造性が低下する等の製造上の課題とコストアップの経済上の問題がある。
【0003】
一方、歯磨剤の組成面で非水溶性有効成分の容器への吸着を抑える技術として、グリセリン等のポリオールを含有し、ポリオールに対する水分の割合を重量割合で0.4以下とすることにより非水溶性有効成分を安定配合した口腔用組成物(特許文献3)が提案されている。また、香料等の親油性成分を、ジェランガムを主成分とする皮膜で包埋するカプセル化により安定化した口腔用組成物(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−82212号公報
【特許文献2】特開平6−279249号公報
【特許文献3】特開2001−199854号公報
【特許文献4】特開平10−67625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献3に記載された口腔用組成物のようにグリセリン等を多く含有させることによって水分量を低くした場合、粘稠性が増加し、口腔内における歯磨剤の分散性が悪くなり、使用感を損なう場合がある。また、グリセリン等は苦味があり、使用感だけでなく味にも影響を与える。特許文献4に記載された口腔用組成物のように、カプセルに香料を内包した場合であっても、口腔用組成物のアニオン性界面活性剤が溶解した水に香料が溶出しやすく、カプセルの皮膜を厚くするか水不溶の皮膜にする必要があるが、カプセル皮膜を厚くしたり水不溶性の皮膜にすると、カプセルの崩壊が困難となったりカプセルが崩壊しても皮膜が残り使用感を損なう虞がある。
従って、本発明の課題は、アニオン性界面活性剤を含有し、香料のうち特に容器への吸着性、浸透性の高いモノテルペン類を含有する歯磨剤において、これらのモノテルペン類の容器への吸着又は浸透が抑制された容器入り歯磨剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、容器に収容されたモノテルペン類及びアニオン性界面活性剤を含有する歯磨剤の長期安定性について種々検討した結果、モノテルペン類としてリモネン、1,8−シネオール又はリナロールを配合し、これに室温において固体状で有機性値及び無機性値が特定の範囲にある高融点油剤を併用すれば、モノテルペン類の容器への吸着や浸透が抑制され、保存後の歯磨剤中の残存量を増やし、香気の持続性の高い容器入り歯磨剤が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)リモネン、1,8−シネオール及びリナロールから選択されるモノテルペン類、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)融点が50℃以上、室温(25℃)で固体であり、有機性値が560〜1500、無機性値が0〜470であって、当該有機性値及び無機性値が下記式(1)を満たす油剤、(有機性値)×0.5−550≦(無機性値)≦(有機性値)×0.5−280・・・(1)
(D)水
を含有する容器入り歯磨剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の容器入り歯磨剤は、容器の材質としてエチレン−ビニルアルコール共重合体のような特殊な樹脂を使用しない場合であっても、リモネン、1,8−シネオール又はリナロールからなるモノテルペン類香料が容器に吸着、浸透することを抑制し、保存後のこれらの香料の歯磨剤中の残存量を増やし、香気の持続性が高く、かつ使用感も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各チューブ容器に保存後の本発明と比較例の香料残存率を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の容器入り歯磨剤は、(A)リモネン、1,8−シネオール及びリナロールから選択されるモノテルペン類を含有する。これらのモノテルペン類は、アニオン性界面活性剤とともに歯磨剤に配合した場合、容器に吸着、浸透してしまい、安定した香気が得られないことが知られているが、本発明によれば容器への吸着又は浸透を抑制し、安定した香気が得られる。リモネンのうち、d−リモネンはレモンオイル、オレンジオイル、ライムオイル、グレープフルーツオイル等に含まれる。l−リモネンは、ハッカ油、スペアミントオイル、スターアニスオイルなどに含まれる。dl−リモネンはテレビンオイル、樟脳油、フェンネルオイルなどに含まれる。本発明においては、これらの精油を配合することもできる。
【0011】
1,8−シネオールは、ユ−カリオイル、カヤプテオイル、ローズマリー油、ローレル油などに含まれており、これらの精油を配合することもできる。また、リナロールのうち、d−リナロールはボアドローズオイル、リナロエオイル、コリアンダーオイル、オレンジオイルに含まれ、l−リナロールは芳樟葉油、ベルガモットオイル、レモンオイル等に含まれており、これらの精油を配合することもできる。また、これらのリモネン、1,8−シネオール及びリナロールは単独でも2種以上を組み合せて含有させることもできる。
【0012】
(A)モノテルペン類の含有量は、十分な香気を得る点から、本発明歯磨剤中、0.1〜質量%、さらに0.3〜2質量%、特に0.3〜1質量%が好ましい。
【0013】
本発明の歯磨剤は、清掃作用及び発泡により口中に他の成分を拡散させる目的で(B)アニオン性界面活性剤が配合される。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;N−ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン塩、N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩等のN−アシルアミノ酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホ酢酸ナトリウム等のアルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸塩等が挙げられる。これらのアニオン性界面活性剤における疎水基のアルキル基、アシル基は炭素数6〜18、特に10〜14のものが好ましい。また、その塩としてはナトリウム塩が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、発泡性が良く、また、安価に入手可能な点からアルキル硫酸塩が特に好ましい。
これらのアニオン性界面活性剤は単独でも2種以上を混合して用いてもよく、清掃作用、発泡性及び香料の安定性の点から、本発明歯磨剤中に0.1〜5.0質量%、さらに0.5〜3.0質量%、特に1.0〜3.0質量%含有するのが好ましい。
【0014】
本発明の歯磨剤に用いられる(C)室温(25℃)で固体の油剤は、融点50℃以上であり、有機性値が560〜1500、無機性値が0〜470であって、当該有機性値及び無機性値が下記式(1)を満たす油剤である。
(有機性値)×0.5−550≦(無機性値)≦(有機性値)×0.5−280・・・(1)
【0015】
成分(C)の固形油剤は、成分(A)モノテルペン類と併用することにより、歯磨剤中における(A)モノテルペン類の分散性を改善し、かつ(A)モノテルペン類の容器への吸着、浸透を抑制する観点から、成分(A)と成分(C)を同時に歯磨剤に配合するか、あらかじめ成分(A)と成分(C)を混合し、又は溶解させてから歯磨剤に配合することが好ましい。
【0016】
かかる(C)固形油剤としては、製造上の制限がなく、保存安定性の点から融点が50℃以上であって、さらに融点が60℃以上、特に70℃以上の油剤が好ましい。また、(C)固形油剤の有機性値は560〜1500であって、600〜1200、さらに600〜1000であるのが好ましく、無機性値は0〜470であって、0〜320、さらに0〜200であるのが好ましい。また、(C)固形油剤の有機性値と無機性値の関係は、上記式(1)を満たすが、有機性値の下限は(有機性値)×0.5−400≦(無機性値)、さらに(有機性値)×0.5−340≦(無機性値)が好ましく、上限は(無機性値)≦(有機性値)×0.5−300が好ましい。
【0017】
かかる(C)固形油剤の例としては、セレシン、鯨ロウ、ミツロウ、カルナウバロウ、マイクロクリスタリンワックス、オゾケライト等の炭化水素系固形油剤;トリステアリン酸グリセリド等の固形油脂;ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸コレステリル等の固形エステル油が挙げられる。このうち、(A)モノテルペン類の安定性、容器への吸着、浸透防止の点から炭化水素系固形油剤が好ましく、セレシンが特に好ましい。
【0018】
歯磨剤における(C)固形油剤の含有量は、成分(A)の安定性及び容器への吸着、浸透防止の点から、成分(A)と成分(C)の質量比(A/C)は1〜20であり、さらに1〜10、特に1〜8が好ましい。また、成分(C)の歯磨剤中の含有量は、0.01〜10質量%が好ましく、さらに0.02〜5.0質量%が好ましい。
【0019】
歯磨剤に、成分(A)と成分(C)を含有するハイドロゲル粒子を含有する場合、ハイドロゲル粒子中における(C)固形油剤の含有量は、成分(A)の安定性及び容器への吸着、浸透防止の点から、成分(A)と成分(C)の質量比(A/C)は1〜20が好ましく、さらに2〜20、さらに2.6〜20が好ましい。また、成分(C)のハイドロゲル粒子を100質量%としたときの含有量は、1〜10質量%が好ましく、さらに1〜8質量%が好ましい。
【0020】
成分(A)と成分(C)は、これら2成分を含有するハイドロゲル粒子として歯磨剤中に含有させるのが好ましい。ここで、ハイドロゲル粒子とは、ハイドロゲル中に成分(A)と成分(C)とを分散させた粒子である。ハイドロゲルは、水を溶媒としてゲル化剤によりゲル化されたゲルである。本発明におけるハイドロゲル粒子は、非架橋型ハイドロゲルのゲル化剤を溶解させた水溶液中に成分(A)と成分(C)とを乳化又は分散させてゲル化することにより得られるハイドロゲル粒子が好ましい。なお、本発明のハイドロゲル粒子は、外層である外皮と内層である芯成分とからなる、内層と外層が同心状のカプセルとは異なり、皮膜を有さず、ハイドロゲル粒子中に配合される油剤を、ゲル形成剤及び水を含む連続相中に分散又は乳化して含有している。
明確に相違する。
【0021】
ハイドロゲル粒子に用いられるゲル化剤は、ゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるゲル化剤である。例えば、寒天、ゼラチン、ジェランガム等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、寒天が好ましい。なお、用いる寒天のゼリー強度としては、使用時の感触の観点から、68.6kPa(700g/cm2)以下が好ましく、19.6kPa(200g/cm2)〜63.7kPa(650g/cm2)がより好ましい。
【0022】
ここで、ゼリー強度は、日寒水式法により求められる。日寒水式法によれば、ゼリー強度は、ゲル化剤の1.5重量%水溶液を調製し、その水溶液を20℃で15時間放置して凝固せしめたゲルに、日寒水式ゼリー強度測定器((株)木屋製作所製)により荷重をかけ、20℃においてゲルが20秒間その荷重に耐えるときの表面積1cm2あたりの最大重量[g]である。
【0023】
ハイドロゲル粒子中のゲル化剤の含有量は、ハイドロゲル粒子の安定性の点から、0.1〜8.0質量%が好ましく、0.5〜5.0質量%がより好ましい。
ハイドロゲル粒子中の成分(A)及び(C)の含有量は、1〜60質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0024】
本発明におけるハイドロゲル粒子は水を含む。ハイドロゲル粒子における水の含有量は、40〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。
また、ハイドロゲル粒子には、必要により、界面活性剤、例えばアニオン性界面活性剤を含有させることができる。アニオン性界面活性剤ではアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩、N−アシルタウリン塩及びN−アシルアミノ酸塩が挙げられる。
界面活性剤は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。安定性及び寒天ゲル強度低下抑制の観点より、アニオン性界面活性剤が好ましく、N−アシルタウリン塩がより好ましく、中でもN−ステアロイルメチルタウリンナトリウムがさらに好ましい。
【0025】
ハイドロゲル粒子におけるアニオン性界面活性剤の含有量は、0.1〜5.0質量%が好ましく、0.15〜3.0質量%がより好ましい。
ハイドロゲル粒子の製造方法は、ゲル化剤、成分(A)、成分(B)、水及び界面活性剤を混合物に、撹拌エネルギーを付与して分散液を得る撹拌処理工程を有する。当該分散液を一般的な方法、例えば滴下法、噴霧法又は撹拌法に付して液滴を形成させた後、当該液滴を冷却固化してハイドロゲル粒子を製造する。
【0026】
混合物を撹拌処理する際に、200〜5000[kW×分/m3]の撹拌エネルギーを混合物に付与することが好ましい。当該撹拌エネルギーの好ましい範囲は230〜4500[kW×分/m3]であり、より好ましい範囲は250〜4200[kW×分/m3]である。
【0027】
また、混合物に撹拌エネルギーを付与する装置としては、特に制限されず、公知の撹拌装置を使用することができる。ただし、かかる撹拌エネルギーを付与するためには高い剪断力を発揮できる装置を要するため、装置としてはホモミキサー、ラインミキサー、ディスパーなどが好ましく、操作面からホモミキサーがより好ましい。
【0028】
撹拌処理工程において、好ましい温度範囲としては60〜90℃であり、好ましい分散液のpHとしてはpH5.5〜8.5(80℃)である。
【0029】
なお、ここで規定する「撹拌エネルギー」とは、撹拌動力P/V[kW/m3]×時間[分]であり、詳細な計算式は、特開2007−161683号公報に記載されている。ホモミキサーを使用したときの撹拌エネルギーの算出式(I)に示す。
【0030】
撹拌エネルギー[kW×分/m3]=[撹拌動力P(kW)]/[処理液体積V(m3)]×撹拌時間(分) (I)
上記式(I)中、撹拌動力P(kW)は、下記の実験式1で算出する。
撹拌動力P(kW)=Np×n3×d5×ρ/1000 (実験式1)
ここで、Np:動力数→ホモミキサーでは、撹拌槽容量が10L未満:1.5、10L以上:1.3
n:撹拌回転数[−/sec]
d:撹拌翼の直径[m]
ρ:内容物の密度[kg/m3
【0031】
滴下法は、孔から分散液を吐出させ、吐出された分散液がその表面張力又は界面張力によって液滴になる性質を利用し、その液滴を空気等の気相中又は液相中で冷却固化させてハイドロゲル粒子を形成する方法である。なお、粒径の均一なハイドロゲル粒子を形成する観点から、孔から吐出される分散液に振動を与えることが好ましい。
【0032】
噴霧法は、噴霧ノズルを用い、噴霧ノズルから分散液を気相に吐出(噴霧)させると共に、その表面張力によって液滴を形成させ、その液滴を気相で冷却固化させてハイドロゲル粒子を形成する方法である。
【0033】
撹拌法は、分散液と実質的に混じり合わない性状を有しかつゲル化温度以上の温度に調製した液に分散液を投入し、撹拌による剪断力により分散液を微粒化し、界面張力によって液滴になる性質を利用し、その液滴を分散液と実質的に混じり合わない液中で冷却固化させてハイドロゲル粒子を形成する方法である。
【0034】
滴下法、噴霧法及び撹拌法のいずれの場合も、吐出時、噴霧時、或いは、投入時の分散液の温度を、ゲル化温度以上でかつ100℃以下の温度とすることが好ましい。また、美観に優れた球状の粒子を容易に製造することができるという観点からは、分散液の温度を、ゲル化温度+10℃以上とすることが好ましく、ゲル化温度+20℃以上とすることがより好ましい。なお、この温度の上限は、水の沸点である100℃である。具体的には、分散液の温度としては、60〜90℃の範囲が好ましく、70〜80℃の範囲がより好ましい。
【0035】
以上のようにして形成されたハイドロゲル粒子を必要に応じてさらに粉砕等により、微細なハイドロゲル粒子にしてもよい。
【0036】
得られるハイドロゲル粒子中において、成分(A)及び(C)は、水を含む連続相中に分散して内包されている。かかるハイドロゲル粒子の構造は、例えばハイドロゲル粒子のSEM写真を分析することにより確認することができる。
【0037】
得られたハイドロゲル粒子の形状は特に限定されないが、曲面で構成された回転体の形状を有することが好ましい。ここで、「曲面で構成された回転体」とは、仮想軸及び連続的な曲線で構成された閉じた図を仮想軸で回転させたものをいい、三角錐や円柱等の平面を有する形状は含まない。ハイドロゲル粒子の形状は、美観の観点から、球状又は楕円状であることがより好ましい。
【0038】
ハイドロゲル粒子の平均粒径及び油性成分の乳化径は、レーザー回折/散乱式により測定できる。レーザー回折/散乱式は粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所(株)製)を用いて測定したメジアン径を平均粒径とした。ハイドロゲル粒子の平均粒径は、5〜300μmが好ましく、30〜280μmがより好まし、50〜280μmが特に好ましい。
【0039】
本発明の歯磨剤には、(D)水が含まれる。水の含有量は、口腔内における分散性、使用感の点から歯磨剤全量中に20〜70質量%、さらに25〜65質量%、特に40〜60質量%が好ましい。なお、ここでいう水の含有量には、ハイドロゲル粒子中の水の量も、ソルビトール液等の各成分中の水も含まれる。歯磨剤中の水の含有量は、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業)を用いることができる。この装置では、歯磨剤を5gとり、無水メタノール25gにより懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0040】
本発明の歯磨剤には、上記成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、研磨剤、粘結剤、湿潤剤、香料、成分(B)以外の界面活性剤、甘味料、殺菌剤、防腐剤、水溶性フッ化物、各種薬効成分等を必要に応じて配合することができる。
【0041】
歯磨剤の基材に配合される研磨剤としては、歯磨用リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸カリウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ベントナイト、ゼオライト、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、レジン等を挙げることができる。
【0042】
歯磨剤の基材に配合される粘結剤としては、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキプロピルセルロース、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びメトキシエチレン無水マレイン酸共重合体から選ばれる1種以上を配合することが好ましい。
【0043】
歯磨剤の基材に配合される湿潤剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール等を挙げることができ、中でもソルビトール、グリセリンが好ましい。
【0044】
歯磨剤の基材又はハイドロゲル粒子に配合される香料としては、本発明の効果を阻害しない範囲でさらに、l−メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、オシメン、n−アミルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオール、サリチル酸メチル、メチルアセテート、シトロネオールアセテート、エチルリナロール、ワニリン、チモール等の合成香料、桂皮油、ピメント油、シソ油、アニス油、冬緑油、ペパーミントオイル、ウインダーグリーンオイル、サッサフラスオイル、丁子油、セージ油、マヨナラ油、肉桂油及びタイム油等の天然香料が挙げられる。
【0045】
殺菌剤としては、クロルヘキシジンの塩類、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0046】
防腐剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
【0047】
水溶性フッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化スズ、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化アンモニウム等が挙げられる。
【0048】
また、各種薬効成分としては、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アズレン、グリチルレチン酸、エピジヒドロコレステリン、α−ビサボロール、グリチルリチン酸及びその塩類等の抗炎症剤;ヒノキチオール等のフェノール性化合物;トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸等の抗プラスミン剤;α−トコフェロール、酢酸α−トコフェロール(dl体、d体)及びその塩;銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸銅等の銅化合物;塩化ナトリウム、硝酸カリウム等の塩類;デキストラナーゼ、ムタナーゼ、アミラーゼ、塩化リゾチーム等の酵素;トウキ、オウバク、チョウジ、オウゴン、ベニバナ等の抽出物;乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、ベルベリン、ヒドロキサム酸及びその誘導体、トリポリリン酸ナトリウム、ゼオライト、ジヒドロコレステロール、クエン酸亜鉛等が挙げられる。
【0049】
本発明の歯磨剤は、液状歯磨剤、練歯磨剤とすることができ、チューブ容器、ポンプ容器、ボトル容器等の容器に充填して使用に供される。香料の容器への吸着、浸透性が防止されているので、容器の材料としては、最内層を例えばポリオレフィン系樹脂で構成してもよい。容器の最内層を形成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができる。内容物を収容する胴部が、複数の樹脂層を有する積層体によって形成されたチューブ容器では、胴部の最内層、肩口部に、例えばポリオレフィン系樹脂を用いて形成することができる。この場合の胴部の積層体の最内層は、積層体を用いてチューブ容器の胴部を形成する際のシール層(シーラント層)として機能する。このため、積層体の最内層を形成するポリオレフィン系樹脂としては、好ましくは低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)が用いられる。ポリエチレン層は、チューブの胴部、肩口部に使用されてもよい。チューブ容器は、肩部とこれに連続する吐出口とが一体に形成された肩口部と、胴部とを備えるものを用いる場合には、肩口部は高密度ポリエチレンであるものが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下の試験例及び実施例において、%は質量%を意味する。
【0051】
試験例1
表1の処方に従って試験液1〜3を調製した。セレシン、カルナウバロウ、エチレングリコールジステアレートの各々にリモネンを溶解し、さらに他の成分と混合した試験液1〜3を各々15gとり、トレー容器に入れすぐに水で冷却して固形物としたものを1cm角に切断し、試験片1〜3を調製した。試験片1〜3(7.5g)を、ラウリル硫酸ナトリウムを1.5%溶解させた水30gに浸漬し、50℃で1日保存後の濁りを観察した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、試験液3による試験片3は、50℃1日保存後に濁りが生じた。濁りは、試験片3に含まれている油剤の成分が、ラウリル硫酸ナトリウム水溶液に溶出したことによると考えられる。
【0054】
試験例2
表2の第I成分中のリモネンと香料をセレシン等の油剤に溶解させ、他の成分と80℃で加熱混合した第I成分と、常温で混合し90℃で30分間加熱混合し80℃に冷却した第II成分とを混合し、ホモミキサーにて攪拌処理し、処理された混合液を80℃を維持しながら孔から冷却空気中に噴霧させ、固化させてハイドロゲル粒子1〜5を得た。
ハイドロゲル粒子1〜5を試験例1と同様に、ラウリル硫酸ナトリウムを1.5%溶解させた水30gに浸漬し、50℃にて2週間保存した。
保存後の状態を評価した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表2に示すように、粒子1〜粒子3は50℃の保存によっては濁りは確認されなかったが、粒子4、5は濁りを生じ、ハイドロゲル粒子から油剤が溶出していることが確認された。表3は粒子1〜5に配合した油剤とカルナウバロウの融点、有機性、無機性を示したものである。
【0058】
(歯磨剤)
表4に示す処方に従い歯磨剤(実施例1、比較例1)を調製した。なお、粒子6、7は、粒子1のリモネンをそれぞれ1,8−シネオール、l-メントールにかえて製造した。
【0059】
【表4】

【0060】
実施例1、比較例1、3、4の歯磨剤を以下のチューブ容器1〜3にそれぞれ充填し、実施例2、比較例2の歯磨剤を以下のチューブ容器3に充填し、密封して50℃で1ヶ月保存した。チューブ容器は、肩口部は肩部とこれに連続する吐出口とが一体に形成された部分で、肩口部に連続する胴部を備えている。チューブ容器の胴部は、最内層が低密度ポリエチレンで構成されている。
【0061】
チューブ容器1:肩口部を低密度ポリエチレン(LDPE)で形成。チューブ容器の胴部は中間層に無機蒸着樹脂層とその外側の層として配置された金属蒸着樹脂層(アルミ蒸着層)を備える。
チューブ容器2:肩口部は高密度ポリエチレン(HDPE)で形成。チューブ容器の胴部は中間層に無機蒸着樹脂層とその外側の層として配置された金属蒸着樹脂層(アルミ蒸着層)を備える。
チューブ容器3:肩口部は低密度ポリエチレン(LDPE)で形成。チューブ容器の胴部は中間層に無機蒸着樹脂層を備える。
【0062】
(リモネン及び他のテルペン類の残存量の測定方法)
歯磨剤をイオン交換水で4倍希釈し均一になるまで攪拌し、歯磨剤4倍希釈水を得る。
次に歯磨剤4倍希釈水をエタノールで5倍希釈し、歯磨剤20倍希釈エタノール水を得る。歯磨剤20倍希釈エタノール水を遠心分離して上澄み液を得る。上澄み液をガスクロマトグラフィーにて測定し、リモネン量を測定する。保存後の歯磨剤中のリモネン量がリモネン残存量であり、充填時のリモネン量を100%とした場合の保存後のリモネン残存量の割合を求めた。他のテルペン類もリモネン同様に測定した。
【0063】
表5に、実施例1、2と比較例1〜4の、各チューブ容器のリモネン及び他のテルペン類の残存量の比較を示す。
【0064】
【表5】

【0065】
図1(a)は表5(1)のリモネン残存量を、チューブ容器3の比較例1を基準とした実施例1、比較例1のリモネン残存量の比率を示し、図1(b)は表5(2)の1,8−シネオールの残存量を、チューブ容器3の比較例2を基準とした実施例2の1,8−シネオールの残存量の比率を示し、図1(c)は表5(3)のl−メントールの残存量を、チューブ容器3の比較例4を基準とした比較例3、比較例4のl−メントールの残存量の比率を示す。図1(a)、(b)に示すように、いずれのチューブ容器についても、リモネン、1,8−シネオールと本発明の成分(C)の油剤と混合した実施例1、2は、比較例1、2よりも高いリモネン、1,8−シネオールの残存量が認められた。図1(c)に示すように、l−メントールでは、本発明の成分(C)の油剤と混合した比較例3と比較例4についていずれのチューブ容器においても、l−リモネンの残存量に大きな相違は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)リモネン、1,8−シネオール及びリナロールから選択されるモノテルペン類、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)融点が50℃以上、室温(25℃)で固体であり、有機性値が560〜1500、無機性値が0〜470であって、当該有機性値及び無機性値が下記式(1)を満たす油剤、(有機性値)×0.5−550≦(無機性値)≦(有機性値)×0.5−280・・・(1)
(D)水
を含有する容器入り歯磨剤。
【請求項2】
成分(A)と成分(C)の質量比(A/C)が、1〜20である請求項1記載の容器入り歯磨剤。
【請求項3】
成分(A)と成分(C)が、平均粒径5〜300μmのハイドロゲル粒子中に含まれるものである請求項1又は2記載の容器入り歯磨剤。
【請求項4】
ハイドロゲル粒子が、非架橋型ハイドロゲルのゲル化剤を溶解させた水性成分水溶液に成分(A)と成分(C)を乳化又は分散させて得られるハイドロゲル粒子である請求項3記載の容器入り歯磨剤。
【請求項5】
ゲル化剤が寒天である請求項4記載の容器入り歯磨剤。
【請求項6】
容器の少なくとも最内層がポリオレフィン系樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の容器入り歯磨剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−280617(P2010−280617A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135511(P2009−135511)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】