説明

容器入り酸性液状食品

【課題】柑橘類果皮、あるいは、シトラール含有香料が配合された容器入り酸性液状食品であって、前記柑橘類果皮、あるいは、ショウガの香りの変質が防止され、しかも、食味や色調が良好な容器入り酸性液状食品を提供する。
【解決手段】柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品において、ゴマの熱水抽出液及びアルカリ材が配合されている容器入り酸性液状食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品であって、前記柑橘類果皮、あるいは、ショウガの香りの変質が防止され、しかも、食味や色調が良好な容器入り酸性液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類果皮やショウガのさわやかな香りは、食事の美味しさを引き立て、食欲を刺激するため、飲料や液状調味料等の香り付けに利用されている。このさわやかな香りはこれら柑橘類果皮やショウガに含まれるシトラール(3、7−ジメチル−2,6−オクタジエナール)によるものであり、シトラールを有効成分として含む柑橘系の香料等も市販されている。
【0003】
しかしながら、上述したショウガ、柑橘類果皮、あるいは、柑橘系香料を飲料や調味料等の酸性の液状食品に配合した容器入り製品は、保存中にさわやかな香りが変質し刺激臭が発生する場合があった。特に、近年は、内容物が視認できるガラスやPET樹脂製等の透明容器入り製品の販売が増加しており、当該透明容器入り製品は店頭で長時間光を照射されるため、前記香りの変質が生じ易く問題となっていた。
【0004】
前記香りの変質に関し、従来、シトラールが酸性水溶液中で熱や光により劣化し、異臭の
原因となるp−サイメン等に変化することが知られている(非特許文献1)。
【0005】
このようなシトラールの劣化を防止するための技術としては、例えば、特開2003−96486号(特許文献1)には、茶ポリフェノールを添加することが、また、特開2003−79335号(特許文献2)には、カキノキ科カキノキ属植物の果実又は未熟果由来のタンニン又は該タンニン精製物を添加することが記載されているが、これらの添加材はいずれも多価フェノール特有の呈味により添加した食品の風味を損なう場合があった。また、特開2005−171116号公報(特許文献3)には、テアフラビン類を添加することが記載されているが、当該添加材は色素であるため、添加した食品の色調を損なう場合があった。したがって、製品の風味や色調を損ない難い添加材により、上述した香りの変質が防止された容器入り製品を提供することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】稲波 治、月刊フードケミカル、1997−7、P.1〜6「フレーバーの光による変質防止」
【特許文献1】特開2003−96486号公報
【特許文献2】特開2003−79335号公報
【特許文献3】特開2005−171116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品であって、前記柑橘類果皮、あるいは、ショウガの香りの変質が防止され、しかも、食味や色調が良好な容器入り酸性液状食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、柑橘類果皮、あるいは、ショウガを含む容器入り酸性液状食品に、ゴマの熱水抽出液と、塩基性化合物等のアルカリ材とを配合するならば、意外にも前記柑橘類果皮、あるいは、ショウガに由来するさわやかな香りの変質が防止された容器入り酸性液状食品が得られることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)、柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品において、ゴマの熱水抽出液及びアルカリ材が配合されている容器入り酸性液状食品、
(2)、前記ゴマの熱水抽出液が、ゴマを60〜100℃の熱水と接触させて得た抽出液
である(1)記載の容器入り酸性液状食品、
(3)、前記アルカリ材が、塩基性化合物である(1)又は(2)記載の容器入り酸性液
状食品、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品であって、前記柑橘類果皮、あるいは、ショウガの香りの変質が防止され、しかも、食味や色調が良好な容器入り酸性液状食品を提供できる。特に、本発明によれば、光により前記香りの変質が生じ易い透明容器入りの製品において、前記香りの変質が防止された製品を提供できる。したがって、柑橘類果皮、あるいは、ショウガが配合された容器入り酸性液状食品、特に、透明容器入りの製品について、更なる需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の容器入り酸性液状食品及びその製造方法を詳述する。なお、本発明におい
て「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0012】
本発明の酸性液状食品とは、pHが4.6以下の液状食品である。液状食品の具体例としては、ドレッシング、たれ等の液状調味料、スープ、シチュー等のスープ類、果汁飲料、酢飲料、炭酸飲料、カクテル、乳清飲料等の飲料、ヨーグルト等が挙げられる。
【0013】
本発明において、容器入り酸性液状食品とは、前記酸性液状食品が容器に充填されたものである。容器としては、特に制限は無く、一般的に食品の保存に利用される種々の容器を使用することができ、例えば、ガラス、金属、樹脂、あるいは紙等からなる容器が挙げられる。なお、前記容器の中でも、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン等からなる透明の成形容器や、ポリエチレン等からなる透明パウチ等の透明容器を用いた場合、当該透明容器入りの製品は店頭や流通中に長時間光を照射されるため、柑橘類果皮、あるいは、ショウガのさわやかな香りが変質する問題が生じやすい。しかしながら、本発明によれば、前記香りの変質が防止されることから、本発明は、このような透明容器入り酸性液状食品において特に好適に実施できる。
【0014】
本発明の容器入り酸性液状食品に用いる柑橘類果皮とは、柑橘類果実の果皮であり、例えば、ユズ、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライム、スダチ、カボス等の果皮が挙げられる。これら柑橘類果皮を食品に添加する際の形態は、特に制限は無いが、液状食品に柑橘類果皮の風味を付与しやすい点から、大きさが好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下の細片状物を用いることが好ましい。細片状物としては、例えば、截断、粉砕、すりおろし等の処理により得られたものが挙げられる。
【0015】
柑橘類果皮の配合量としては、柑橘類果皮の香りを適度に食品に付与する点から、製品に対して、生換算で、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜5%である。
【0016】
本発明で用いるショウガとは、一般的に食用に供されるショウガ科の多年草の根茎である。ショウガを食品に添加する際の形態は、特に制限は無いが、液状食品に柑橘類果皮の風味を付与しやすい点から、大きさが好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下の細片状物を用いることが好ましい。細片状物としては、例えば、截断、粉砕、すりおろし等の処理により得られたものが挙げられる。
【0017】
ショウガの配合量としては、ショウガの香りを程度に食品に付与する点から、製品に対して、生換算で、好ましくは0.5〜20%、より好ましくは1〜10%である。
【0018】
また、本発明の容器入り酸性液状食品には、シトラール含有香料を配合することができる。前記シトラール含有香料とは、シトラール(3、7−ジメチル−2,6−オクタジエナール)を有効成分として含む香料であれば特に制限は無く、例えば、ユズフレーバー、オレンジフレーバー、レモンフレーバー、グレープフルーツフレーバー、ライムフレーバー、スダチフレーバー、レモングラスフレーバー、ショウガフレーバー等が挙げられる。なお、前記シトラールとしては、天然物由来、または、合成品のいずれであってもよい。
【0019】
本発明の酸性液状食品は、上述した柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品において、ゴマの熱水抽出液及びアルカリ材が配合されていることを特徴とする。柑橘類果皮、あるいは、ショウガが配合された酸性液状食品においては、保存中に、ショウガ、あるいは、柑橘類果皮の香りが変質し刺激臭が発生する場合があるが、本発明においては、このようにゴマの熱水抽出液及びアルカリ材が配合されていることにより、前記香りの変質が防止される。しかも、ゴマの熱水抽出液及びアルカリ材はいずれも強い色調や風味が無いことから、液状食品に添加しても製品の風味や色調を損なわずに香りの変質が防止される。
【0020】
ここで、ゴマの熱水抽出液とは、ゴマを熱水と接触させてゴマ成分を抽出したものである。熱水抽出に使用するゴマとしては、その種類や産地は限定されるものではく、通常の白ゴマ、金ゴマ、黒ゴマ、茶ゴマ等を用いることができ、これらのゴマは焙煎処理されたものであってもよい。また、これらゴマの形態としては、特に制限はないが、ゴマ粉砕物を用いると熱水抽出液中で成分が抽出され易く好ましい。このようなゴマ粉砕物としては、ゴマをマスコロイダー、コミットロール、サイレントカッター等の粉砕処理装置等により粉砕処理して得ることができる。また、切りゴマ、すりゴマ等が市販されているのでこれらを用いてもよい。
【0021】
抽出に用いる熱水としては、水系媒体であればよく、例えば、清水の他に液状食品、例えば、液状調味料、飲料等が挙げられるが、ゴマの有効成分が抽出されやすいことから、水分が90%以上のものが好ましい。また、前記熱水としては、より香りの変質防止効果が高いゴマ熱水抽出液が得られ易いことから、有機酸によりpH4.6以下に調整した熱水を用いることが好ましい。有機酸としては、食用に供することができる有機酸であれば特に制限は無く、例えば、乳酸、酢酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等およびこれらの混合有機酸等が挙げられる。これら有機酸としては、有機酸を含む原料、例えば、酢酸を含む合成酢、米酢、リンゴ酢、果実酢、ワインビネガー等の醸造酢を使用してもよい。熱水中の有機酸の含有量は、pH4.6以下に調整する程度であればよく、熱水に対して好ましくは0.1〜20%、より好ましくは0.5〜10%である。
【0022】
前記熱水の温度は、ゴマ有効成分が抽出されやすい点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上である。抽出温度の上限としては特に制限は無いがあまり温度が高すぎてもそれにともなって抽出効率が上昇するわけではなく食品工業的に製造し難くなることから、好ましくは100℃以下、より好ましくは98℃以下である。
【0023】
ゴマの熱水抽出液は、ゴマを熱水と接触させその成分を熱水中に抽出することにより得ることができる。具体的には、例えば、ゴマを熱水に浸漬してその成分を熱水中に抽出すればよく、この際、より有効成分が抽出されやすいようにゴマを熱水中で撹拌しながら浸漬することがより好ましい。熱水抽出を行う際のゴマと熱水の割合は、ゴマ1部に対して、熱水が好ましくは2〜100部、より好ましくは2〜50部である。熱水が前記範囲よりも少ないと抽出がされ難く、一方、熱水が前記範囲よりも多くても抽出成分の収率は増加せず得られた熱水抽出液の濃度が低下するので製品に配合した際に香りの変質防止効果が得られ難くなる。また、ゴマと熱水を接触させる時間は、ゴマ有効成分を充分に抽出する点から、好ましくは3分以上、より好ましくは10分以上である。抽出時間はあまり長すぎても特に問題はないが、抽出時間が長くすればするほど抽出成分の収率が増加し続けるわけではないことから、製造コスト点から好ましくは24時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0024】
本発明においては、前記ゴマの熱水抽出液、つまり、ゴマの成分を熱水に溶出して使用することが肝要であり、ゴマの水抽出液を使用した場合は、保存中に柑橘類果皮、又はショウガの香りが変質を防止する効果が充分に得られ難い。
【0025】
本発明において、前記ゴマの熱水抽出液を配合する際には、ゴマの熱水抽出液を製した後、残渣であるゴマを取り除いてから熱水抽出液を酸性液状食品に配合してもよく、あるいは、ゴマの熱水抽出液を製し、当該ゴマ残渣を含む熱水抽出液をゴマ残渣を含んだまま配合してもよい。
【0026】
酸性液状食品に配合するゴマの熱水抽出液の量は、あまり少なすぎても柑橘類果皮、又はショウガの香りの変質防止効果が得られ難いことから、酸性液状食品に対して、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上である。一方、ゴマの熱水抽出液の配合量の上限としては、その他の配合原料等も配合することを考慮すると、好ましくは90%以下、より好ましくは50%以下である。
【0027】
一方、本発明で用いる前記アルカリ材とは、清水に溶解した状態でアルカリ性を呈する添加材である。前記アルカリ材としては、食用に供することができるアルカリ材であれば特に制限は無く、具体的には、例えば、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物としては、クエン酸塩、酢酸塩、炭酸ナトリウム等の有機酸塩、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等のアミノ酸塩、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0028】
酸性液状食品に配合する前記アルカリ材の配合量は、あまり少なすぎてもショウガ、又は柑橘類果皮の香りの変質防止効果が得られ難く、一方、あまり多すぎてもそれにともなって香りの変質防止効果が高まるわけではなく、酸性液状食品のpHが上昇して風味に影響がでる場合があることから、酸性液状食品に対して、好ましくは0.1〜2%、より好ましくは0.5〜5%である。
【0029】
なお、本発明の容器入り酸性液状食品には、上述した柑橘類果皮、ショウガ、ゴマ熱水抽出液及びアルカリ材の他に、本発明の効果を損なわない範囲で酸性液状食品に通常用いられている各種原料を適宜選択し配合することができる。このような原料としては、例えば、ニンジン、リンゴ等の野菜・果実類、牛乳、生クリームヨーグルト等の乳製品、食酢、食塩、砂糖、動植物のエキス類などの各種調味料、焼酎、リキュール等の酒類、澱粉分解物、デキストリン、デキストリンアルコール等の糖類、澱粉、キサンタンガム、ローカストビーンガム等の増粘材、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化材、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤等が挙げられる。
【0030】
次に、本発明の容器入り酸性液状食品の製造方法を説明する。
【0031】
本発明の容器入り酸性液状食品は、上述したゴマの熱水抽出液及びアルカリ材を配合する他は、柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上を配合する従来の一般的な容器入り酸性液状食品の製造方法に準じ、配合原料を略均一に混合することにより製造することができる。
【0032】
ここで、配合原料の混合順序に関し、本発明においては、上述したゴマの熱水抽出液を得
る際の熱水に柑橘類果皮、又はショウガを配合してもよいが、これら柑橘類果皮、又はショウガは、できるだけ製造工程時に受ける熱が少ないほうが本発明の変質防止効果がより得られやすい。したがって、本発明においては、ゴマを熱水と接触させてゴマの熱水抽出液を製した後、好ましくは品温0〜50℃、より好ましくは品温0〜40℃に冷却したゴマの熱水抽出液と、柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上とを撹拌タンク等で混合して製造することが好ましく、また、この混合時の雰囲気温度は0〜40℃とすることが好ましい。
【0033】
柑橘類果皮、又はショウガと、ゴマの熱水抽出液以外の原料であるアルカリ材や、その他、必要に応じて配合する果汁、食酢、調味料等の原料については、その混合順序によりに特に風味等に影響は無いことから、製造工程中の任意の段階で、これら配合原料を適宜加え、撹拌装置等で全体が略均一になるように混合すればよい。
【0034】
以上のようにして配合原料を混合して得られた酸性液状食品は、上述した透明容器等の容器に充填することにより容器入り製品とすることができる。また、必要により容器に充填する前、あるいは、充填後に殺菌処理を施してもよい。
【0035】
次に、本発明を実施例、比較例及び試験例に基づき、更に説明する。
【実施例】
【0036】
[試験例1]
ゴマ抽出液の種類が、ショウガが配合された酸性液状食品の香りの変質に与える影響を調べるために以下の試験を行った。
【0037】
(1)ゴマ抽出液の調製
(1−1)ゴマの熱水抽出液の調製
清水100部にすりゴマ10部を加えた混合液1000gをステンレス製鍋に入れ、へらでゆるやかに撹拌しながら電磁調理器で加熱し90℃で1時間保持した後、品温20℃に冷却し、吸引ろ過(桐山ロート、ろ紙:No.5A)により残渣のすりゴマを取り除くことにより、ゴマの熱水抽出液を調製した。
【0038】
(1−2)ゴマの冷水抽出液の調製
(1−1)に準じて冷水抽出液を調製した。つまり、(1−1)同様にして得たすりゴマと清水の混合液1000gをステンレス製容器に入れ、20℃で1時間保存した後、吸引ろ過により残渣のすりゴマを取り除くことにより、ゴマの冷水抽出液を調製した。
【0039】
(2)試験品の製造
表1に示す配合割合の原料を室温下(20℃)でそれぞれ撹拌混合することにより、酸性液状食品の試験品a〜d及び対照品を調製した。表中の熱水抽出液は(1−1)で調製した品温20℃のものを、冷水抽出液は(1−2)で調製した品温20℃のものである。
【0040】
【表1】

【0041】
(3)劣化促進試験
(2)で調製した試験品a〜d及び対照品をそれぞれ鍋に入れて加熱し微沸状態を保ちながら3時間加熱処理することにより香気成分の劣化促進試験を行った。次に、促進試験後の刺激臭の強さを評価した。刺激臭の強さは、1〜7の7段階で評価し、この際、変質防止材を配合していない対照品の刺激臭の強さが5であり、数字が少ないほど刺激臭が弱いことを、数字が大きいほど刺激臭が強いことを示す。また、評価は、訓練されたパネラー4人で行いその平均値を評価結果とした。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、アルカリ材とゴマ熱水抽出液を併用した場合(試験品d)は、変質防止材を添加していない対照品に比べて大幅に刺激臭が弱くなっていることが理解される。ここで、ゴマの熱水抽出液のみを用いた試験品b、アルカリ材のみを用いた試験品c、アルカリ材とゴマ熱水抽出液を併用した試験品dの刺激臭の評価結果から、ゴマの熱水抽出液のみを用いた場合は、刺激臭の低減効果が得られるもののその低減効果はわずかであったのに対して熱水抽出液をアルカリ材と併用することにより、アルカリ材のみを用いた場合及びゴマの熱水抽出液のみを用いた場合に比べて刺激臭を大幅に低減する効果が得られることが理解される。また、ゴマの冷水抽出液のみを用いた試験品aにおいては、低減効果は見られなかった。
【0044】
[実施例1]
(1)ゴマの熱水抽出液の製造
ステンレス製の撹拌装置付きの抽出釜に、白ゴマ(すりゴマ)10部と酢酸水溶液(酢酸濃度13%)90部を投入し、白ゴマが酢酸水溶液中に分散するようにゆるやかに撹拌しながら品温60℃で1時間保持した。この際、熱水のpHは4.6以下であった。次いで、内容物を品温20℃になるまで冷却し、目開き0.1mmのフィルターを用いて残渣であるゴマを分離し、ゴマの熱水抽出液を製した。
【0045】
(2)容器入り分離液状ユズドレッシングの製造
下記の配合割合に準じ、本発明の容器入り酸性液状食品として容器入り分離液状ユズドレッシングを製した。すなわち、まず、(1)で調製した品温20℃のゴマ熱水抽出液、ユズ果皮、醤油、ユズ果汁、食酢、砂糖、食塩、キサンタンガム、酢酸ナトリウム、ユズフレーバー及び清水を撹拌タンクに投入して室温下(20℃)で均一に混合することにより、水相を調製した。そして、分離液状調味料の容量が250mLとなるように250mL容量の蓋付き樹脂製透明容器(容器材質:ポリエチレンテレフタレート(PET))に上記水相を充填した後に、残りの油相であるサラダ油を充填して水相の上に油相を積載させ、次いで密栓し、透明容器入り分離液状ユズドレッシングを製した。
【0046】
なお、本実施例においては、ゴマ熱水抽出液の配合量が20%、アルカリ材の配合量が0.1%であり、製品のpHは4.6以下である。
【0047】
<分離液状ユズドレッシングの配合割合>
(油相原料)
サラダ油 35%
(水相原料)
ゴマ熱水抽出液 20%
ユズ果皮(2mm各の截断物) 1%
醤油 10%
ユズ果汁 10%
食酢(酢酸濃度4%) 10%
砂糖 5%
食塩 2%
キサンタンガム
0.1%
酢酸ナトリウム 0.1%
ユズフレーバー※ 0.1%
清水 6.7%
―――――――――――――――――――――
合計 100%
※シトラールを含むユズ水溶性香料
【0048】
[実施例2]
下記の配合割合に準じ、本発明の容器入り酸性液状食品として容器入り黒酢飲料を製した。すなわち、品温20℃のゴマ熱水抽出液(実施例1(1)で調製したものと同じ)、黒酢、ショウガ、はちみつ、酢酸ナトリウム、ショウガフレーバー及び清水を撹拌タンクに投入して室温下(20℃)で均一に混合することにより、黒酢飲料を製した。次いで、得られた黒酢飲料200mLを蓋付きガラス瓶に充填した後に、密栓し、透明容器入り黒酢飲料を製した。
【0049】
なお、本実施例においては、ゴマ熱水抽出液の配合量が10%、アルカリ材の配合量が0.2%であり、製品のpHは4.6以下である。
【0050】
<容器入り黒酢飲料の配合割合>
ゴマ熱水抽出液 10%
黒酢 4%
ショウガ(おろし) 7.5%
はちみつ 4%
酢酸ナトリウム 0.2%
ショウガフレーバー※ 0.1%
清水 74.2%
―――――――――――――――――――――

合計 100%
※シトラールを含むショウガ水溶性香料
【0051】
[実施例3]
下記の配合割合に準じ、本発明の容器入り酸性液状食品として容器入り果汁飲料を製した。すなわち、品温20℃のゴマ熱水抽出液(実施例1(1)で調製したものと同じ)、オレンジ果汁、レモン果皮、砂糖、クエン酸ナトリウム、レモンフレーバー及び清水を撹拌
タンクに投入して室温下(20℃)で均一に混合することにより、果汁飲料を製した。得られた果汁飲料500mLを蓋付き樹脂製透明容器(容器材質:ポリエチレンテレフタレート(PET))に充填した後に、密栓し、透明容器入り果汁飲料を製した。
【0052】
なお、本実施例においては、ゴマ熱水抽出液の配合量が10%、アルカリ材の配合量が0.1%であり、製品のpHは4.6以下である。
【0053】
<容器入り果汁飲料の配合割合>
ゴマ熱水抽出液 10%
オレンジ果汁 40%
レモン果皮(おろし) 3%
砂糖 5%
クエン酸ナトリウム 0.1%
レモンフレーバー※ 0.1%
清水 41.8%
―――――――――――――――――――――

合計 100%
※シトラールを含むレモン水溶性香料
【0054】
[実施例4]
下記の配合割合に準じ、本発明の容器入り酸性液状食品として容器入りノンオイルショウガドレッシングを製した。まず、二重釜に、金ゴマ、食酢、食塩及び清水を投入して混合し、金ゴマが酢酸水溶液中に分散するようにゆるやかに撹拌しながら品温80℃で30分間保持した。この際、熱水のpHは4.6以下であった。次いで、前記金ゴマ、食酢、食塩及び清水の混合物を品温20℃になるまで冷却した。続いて、撹拌タンクに、金ゴマ、食酢及び清水からなる前記品温20℃の混合物、ショウガ、醤油、砂糖、食塩、キサンタガム、グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びショウガフレーバーを投入し室温下(20℃)で全体を均一に混合することにより、ノンオイルショウガドレッシングを製した。更に、得られたノンオイルショウガドレッシング200mLを蓋付きガラス瓶に充填した後に、密栓し、透明容器入りノンオイルショウガドレッシングを製した。
【0055】
なお、本実施例においては、ゴマ熱水抽出液の配合量が81.6%、アルカリ材の配合量が0.2%であり、製品のpHは4.6以下である。
【0056】
<ノンオイルショウガドレッシングの配合割合>
金ゴマ(ホール) 2%
ショウガ(2mm各の截断物) 1%
醤油 10%
食酢(酸度4%) 16%
砂糖 5%
食塩 2%
キサンタンガム
0.1%
グルタミン酸ナトリウム 0.1%
酢酸ナトリウム 0.1%
ショウガフレーバー※ 0.1%
清水 63.6%
―――――――――――――――――――――

合計 100%
※シトラールを含むショウガ水溶性香料
【0057】
[実施例5]
実施例4において、ゴマの熱水抽出液を製造する際の熱水抽出液にショウガ及びショウガフレーバーを配合した以外は同様にして、ノンオイルショウガドレッシングを製した。つまり、まず、二重釜に、金ゴマ、食酢、食塩、ショウガ、ショウガフレーバー及び清水を投入して混合し、金ゴマが酢酸水溶液中に分散するようにゆるやかに撹拌しながら品温80℃で30分間保持した後、混合物を品温20℃になるまで冷却した。次に、撹拌タンクに、その他の原料を投入し室温下(20℃)で全体を均一に混合することにより、ノンオイルショウガドレッシングを製した。次いで、得られたノンオイルショウガドレッシング200mLを蓋付きガラス瓶に充填した後に、密栓し、透明容器入りノンオイルショウガドレッシングを製した。
【0058】
なお、本実施例においては、ゴマ熱水抽出液の配合量が81.7%、アルカリ材の配合量が0.2%であり、製品のpHは4.6以下である。
【0059】
[試験例2]
実施例1乃至5で得られた容器入り酸性液状食品について、試験例1の方法に準じて香気成分の劣化促進試験を行った。つまり、実施例1乃至5で得られた酸性液状食品をそれぞれ鍋に入れて加熱し微沸状態を保ちながら3時間加熱処理することにより香りの変質の促進試験を行った。次に、促進試験後の各酸性液状食品における香りを下記の評価基準で評価した。結果を表3に示す。
【0060】
<香りの評価基準>
A:刺激臭がほとんど感じられず製品として問題ない。
B:刺激臭がわずかに感じられるが製品として問題ない。
C:刺激臭がやや強く製品としてやや問題となる。
D:刺激臭が強く製品として問題となる。
【0061】
【表3】

【0062】
表3より、アルカリ材とゴマ熱水抽出液が配合された実施例1乃至5の容器入り酸性液状食品は、いずれも刺激臭が問題のない程度であり好ましいことが理解できる。また、製造方法が刺激臭に与える影響に関し、品温20℃に冷却したゴマの熱水抽出液と、ショウガ及びシトラール含有香料とを混合して製造した実施例4の容器入り酸性液状食品は、ゴマを熱水抽出する際の熱水に、ショウガ及びシトラール含有香料を配合して製造した実施例5の容器入り酸性液状食品に比べて、刺激臭が弱くより好ましかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類果皮、又はショウガから選ばれる一種以上が配合された容器入り酸性液状食品において、ゴマの熱水抽出液及びアルカリ材が配合されていることを特徴とする容器入り酸性液状食品。
【請求項2】
前記ゴマの熱水抽出液が、ゴマを60〜100℃の熱水と接触させて得た抽出液である請求項1記載の容器入り酸性液状食品。
【請求項3】
前記アルカリ材が、塩基性化合物である請求項1又は2記載の容器入り酸性液状食品。

【公開番号】特開2013−59340(P2013−59340A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257000(P2012−257000)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2009−259438(P2009−259438)の分割
【原出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】