説明

容器及びその製造方法

【課題】透明性を有し、酸素、炭酸ガス、水蒸気等のガスバリア性、特に高湿度下でのガスバリア性に優れた容器を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明は、基材層の少なくとも片面に、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)が0.25未満である不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層が形成されてなることを特徴とする容器及び基材層の少なくとも片面に、重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工した後、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層を形成することを特徴と容器の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有し、酸素、水蒸気等のガスバリア性、特に高湿度下でのガスバリア性に優れた容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂製容器は軽量であることから、調味料、油、飲料、化粧品、洗剤等の容器として幅広く使用されている。中でもポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂は機械的強度、耐熱性、透明性およびガスバリア性に優れているので、特にジュース、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填用容器の素材として広く用いられている。
一方、熱可塑性樹脂製容器は金属缶、ガラス瓶に比べ酸素等のガスを通し易いので、酸素による変質や香気の低下を嫌う内容物あるいは炭酸ガスを含むビール等の容器には、未だ金属缶やガラス瓶が主に使用されている。
熱可塑性樹脂製容器のガスバリア性を改良する方法として、例えば熱可塑性樹脂製容器の容器壁を多層構造とし、その内の少なくとも一層としてポリグリコール酸等のガスバリア性樹脂を用いる方法(例えば、特許文献1)、ポリカルボン酸系重合体、多価金属化合物、揮発性塩基及び水を含む混合組成物から形成されたガスバリア性樹脂層を用いる方法(例えば、特許文献2)、あるいはポリエチレンテレフタレートに芳香族ポリエステル、ポリオレフィン及び遷移金属触媒からなる酸素吸収剤をブレンドする方法(例えば、特許文献3)などが提案されている。
しかしながら、かかるガスバリア性樹脂は未だ酸素あるいは炭酸ガスの透過を防ぐには不十分であり、金属缶あるいはガラス瓶並のガスバリア性に優れる容器が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−136657号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2004−51146号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2004−131118号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、透明性を有し、酸素、炭酸ガス、水蒸気等のガスバリア性、特に高湿度下でのガスバリア性に優れた容器を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基材層の少なくとも片面に、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)が0.25未満である不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層が形成されてなることを特徴とする容器を提供するものである。
【0006】
本発明は、基材層の少なくとも片面に、重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工した後、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層を形成することを特徴と容器の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体層が形成された容器は高湿度下でのガスバリア性に優れている。
本発明の製造方法は、重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物を用いることにより、容器の表面あるいは内面に塗工することが容易であり、しかも、中和度が高い、即ち、ガスバリア性に優れる不飽和カルボン酸多価金属化合物の重合体からなる膜を容易に製造し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
不飽和カルボン酸化合物
本発明に係わる不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を形成する不飽和カルボン酸化合物は、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のα、β―エチレン性不飽和基を有するカルボン酸化合物であり、重合度が20未満、好ましくは単量体若しくは重合度10以下の重合体である。重合度が20を越える重合体(高分子化合物)を用いた場合は、後述の多価金属化合物との塩が完全には形成されない虞があり、その結果、当該金属塩を重合して得られる層は高湿度下でのガスバリア性が劣る虞がある。これら不飽和カルボン酸化合物は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
これら不飽和カルボン酸化合物の中でも単量体が多価金属化合物で完全に中和された塩が形成し易く、当該塩を重合して得られる重合体層を基材層の少なくとも片面に積層してなるガスバリア性積層体は高湿度下でのガスバリア性に特に優れるので好ましい。
【0009】
多価金属化合物
本発明に係わる不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を形成する成分である多価金属化合物は、周期表の2A〜7A族、1B〜3B族及び8族に属する金属及び金属化合物であり、具体的には、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等の二価以上の金属、これら金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硫酸塩若しくは亜硫酸塩等である。これら金属化合物の中でも、二価の金属化合物が好ましく、特には酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛等が好ましい。これら二価の金属化合物を用いた場合は、前記不飽和カルボン酸化合物との塩を重合して得られる膜の高湿度下でのガスバリア性が特に優れている。これら多価金属化合物は、少なくとも一種が使用され、一種のみの使用であっても、二種以上を併用してもよい。これら多価金属化合物の中でもMg、Ca、Zn、BaおよびAl、特にZnが好ましい。
【0010】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩
本発明の重合体(A)層である不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)を構成する成分である不飽和カルボン酸化合物多価金属塩は、前記重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物との塩である。これら不飽和カルボン酸化合物多価金属塩は一種でも二種以上の混合物であってもよい。かかる不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の中でも、特に(メタ)アクリル酸亜鉛が得られる重合体層の耐熱水性に優れるので好ましい。
【0011】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層
本発明に係わる不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層は、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)が0.25未満、より好ましくは0.20未満の範囲にある。
本発明に係わる不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層は、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩のカルボン酸基と多価金属とがそれぞれイオン架橋してなるカルボキシレートイオンと遊離のカルボン酸基が存在し、夫々、赤外線スペクトルで、遊離のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸収が1700cm−1付近にあり、カルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸収が1520cm−1付近にある。
本発明に係る重合体(A)層において、(A/A)が0.25未満であるということは、遊離のカルボン酸基が存在しないか、少ないことを示しており、0.25を越える層は、遊離のカルボン酸基の含有量が多く、高湿度下での耐ガスバリア性が改良されない虞があるので、(A/A)が0.25未満であることが好ましい。
【0012】
本発明における1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと赤外線吸収スペクトルにおける1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)は、容器から1cm×3cmの測定用サンプルを切り出し、その表面(重合体(A)層)の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR法)に得、以下の手順で、先ず、吸光度A及び吸光度Aを求めた。
1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A:赤外線吸収スペクトルの1660cm−1と1760cm−1の吸光度とを直線(N)で結び、1660〜1760cm−1間の最大吸光度(1700cm−1付近)から垂直に直線(O)を下ろし、当該直線(O)と直線(N)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度Aとした。
1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度A:赤外線吸収スペクトルの1480cm−1と1630cm−1の吸光度とを直線(L)で結び、1480〜1630cm−1間の最大吸光度(1520cm−1付近)から垂直に直線(M)を下ろし、当該直線(M)と直線(L)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度Aとした。尚、最大吸光度(1520cm−1付近)は、対イオンの金属種によりピーク位置が変化することがあり、例えば、カルシウムでは1520cm−1付近、亜鉛では1520cm−1付近、マグネシウムでは1540cm−1付近である。
次いで、上記方法で求めた吸光度A及び吸光度Aから比(A/A)を求めた。
なお、本発明のおける赤外線スペクトルの測定(赤外線全反射測定:ATR法)は、日本分光社製FT−IR350装置を用い、KRS−5(Thallium Bromide−Iodide)結晶を装着して、入射角45度、室温、分解能4cm−1、積算回数150回の条件で行った。
本発明に係わる重合体(A)層の厚さは種々用途により決め得るが、通常は、0.01〜100μm、好ましくは0.05〜50μm、より好ましくは0.1〜10μmの範囲にある。
【0013】
本発明に係わる重合体(A)層には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、澱粉、アラビアガム、メチルセルロース等の水溶性重合体、アクリル酸エステル重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン等の高分子量の化合物等、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤等の各種添加剤が含まれていてもよいし、後述の基材との濡れ性、密着性等を改良するために、各種界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0014】
基材層
本発明の容器を形成する基材層は、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂からなる中空体、カップ等の形状を有するものである。
熱硬化性樹脂としては、種々公知の熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アミノ樹脂、ポリイミド等を例示することができる。
熱可塑性樹脂としては、種々公知の熱可塑性樹脂、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル・1−ペンテン、ポリブテン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの混合物等を例示することができる。これらのうちでは、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等、延伸性、透明性が良好な熱可塑性樹脂が好ましく、とくにポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステルがバリア性、耐熱性等に優れているので好ましい。
基材層が熱可塑性樹脂であれば、無延伸の基材層でも、延伸された基材層でもよいが、延伸された基材層が、耐熱性、剛性、透明性及びガスバリア性に優れているのでより好ましい。
かかる中空体、カップ状の形状を有する基材は、種々公知の成形方法、例えば、熱硬化性樹脂であれば、鋳型に流し込む方法、トランスファー成形、圧縮成型、射出成形等によりカップ状の基材を得る方法等を採り得る。熱可塑性樹脂であれば、中空成形(吹き込み成形)、射出成形、回転成形あるいは予め射出成形して容器成形用プリフォームを得た後吹き込み成形する、所謂二軸延伸吹き込み(ブロー)成形する方法等を採り得る。
また、これら基材層は、ガスバリア性膜との接着性を改良するために、その表面を、例えば、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、アンダーコート処理、プライマーコート処理、フレーム処理等の表面活性化処理を行っておいてもよい。
【0015】
容器
本発明の容器は、基材層の少なくとも片面に前記赤外線吸収スペクトルにおける1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)が0.25未満である不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層が形成されてなる。重合体(A)層は容器の内面に形成さていても、外面に形成されていてもよい。
本発明の容器の厚さは用途に応じて種々決定され得るが、通常は、基材層の厚さが5〜500μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは9〜30μm、不飽和カルボン酸化合物多金属塩の共重合体層の厚さが0.01〜100μm、好ましくは0.05〜50μm、より好ましくは0.1〜10μm、ガスバリア性積層体の全体の厚さが20〜750μm、より好ましくは25〜430μmの範囲にある。
本発明の容器は、重合体(A)層上に保護層が積層されていてもよい。
かかる保護層としては、重合体(A)層を保護し得る層であればとくに限定はされず、種々公知の保護層、例えば、ポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アミノ樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル・1−ペンテン、ポリブテン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの混合物等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0016】
容器の製造方法
本発明の容器の製造方法は、前記中空体、カップ等の形状を有する基材層の少なくとも片面に、重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工した後、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層を形成させることを特徴とする。
重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を作成する方法としては、予め前記不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物とを反応させて、不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩とした後、溶液としてもよいし、直接溶媒に前記不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物を溶かして多価金属塩の溶液としてもよい。
本発明の容器の製造方法として、直接溶媒に前記不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物を溶かす場合、即ち、前記不飽和カルボン酸化合物と前記多価金属化合物とを含む溶液を用いる場合は、前記不飽和カルボン酸化合物に対して、0.3化学当量比を越える量の前記多価金属化合物を添加することが好ましい。多価金属化合物の添加量が0.3化学当量比以下の混合溶液を用いた場合は、遊離のカルボン酸基の含有量が多い重合体層となり、結果として、ガスバリア性が低い容器となる虞がある。また、多価金属化合物の添加量の上限はとくに限定はされないが、多価金属化合物の添加量が1化学当量比を越えると未反応の多価金属化合物が多くなるので、通常、5化学当量比以下、好ましくは2化学当量比以下で十分である。
なお、本発明における化学当量比は、不飽和カルボン酸化合物に対する多価金属化合物の化学当量比を示し、以下の式により算出される値である。
化学当量比=(多価金属化合物のモル数)×(多価金属化合物の価数)/不飽和カルボン酸化合物に含まれるカルボキシル基のモル数
例えば、多価金属化合物として水酸化カルシウム(分子量74g/モル)を37g、不飽和カルボン酸化合物としてアクリル酸単量体(分子量72g/モル)72gを混合した場合の化学当量比は1となる。
また、不飽和カルボン酸化合物と多価金属化合物との混合溶液を用いる場合は、通常、不飽和カルボン酸化合物と多価金属化合物とを溶媒に溶かしている間に、不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩が形成されるが、多価金属塩の形成を確実にするために、1分以上混合しておくことが好ましい。
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液に用いる溶媒は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール若しくはアセトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒が挙げられるが、水が最も好ましい。
基材層の表面に不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工する方法としては、種々公知の方法、例えば、刷毛等により塗布する方法、当該溶液に基材層を浸漬する方法、当該溶液を基材層表面に噴霧する方法等を採り得る。
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液の塗工量は、通常、溶液中(固形分)の量で0.05〜10g/m、好ましくは0.1〜5g/mとなるよう塗工すればよい。
【0017】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を溶解させる際には、本発明の目的を損なわない範囲で、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどのその他の不飽和カルボン酸(ジ)エステル化合物、酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物等の単量体あるいは低分子量の化合物、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、澱粉、アラビアガム、メチルセルロース等の水溶性重合体、アクリル酸エステル重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン等の高分子量の化合物等を添加してもよい。
また、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を溶解させる際には、本発明の目的を損なわない範囲で、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤等の各種添加剤を添加しておいてもよいし、基材層との濡れ性を改良するために、各種界面活性剤等を添加しておいてもよい。
【0018】
基材層の少なくとも片面に形成した(塗工した)不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液(塗工層)を重合させるには、種々公知の方法、具体的には例えば、電離性放射線の照射また加熱等による方法が挙げられる。
電離性放射線を使用する場合は、波長領域が0.0001〜800nmの範囲のエネルギー線であれば特に限定されないが、かかるエネルギー線としては、α線、β線、γ線、X線、可視光線、紫外線、電子線等が上げられる。これらの電離性放射線の中でも、波長領域が400〜800nmの範囲の可視光線、50〜400nmの範囲の紫外線および0.01〜0.002nmの範囲の電子線が、取り扱いが容易で、装置も普及しているので好ましい。
電離性放射線として可視光線および紫外線を用いる場合は、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液に光重合開始剤を添加することが必要となる。光重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、2−ヒドロキシ−2メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;ダロキュアー 1173)、1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー 184)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー819)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー 2959)、α―ヒドロキシケトン、アシルホスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン及び2,4,6−トリメチルベンゾフェノンの混合物(ランベルティ・ケミカル・スペシャルティ社製 商品名;エサキュアー KT046)、エサキュアー KT55(ランベルティー・ケミカル・スペシャルティ)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(ラムソン・ファイア・ケミカル社製 商品名;スピードキュアTPO)の商品名で製造・販売されているラジカル重合開始剤を挙げることができる。さらに、重合度または重合速度を向上させるため重合促進剤を添加することができ、例えば、N、N-ジメチルアミノ-エチル-(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイル-モルフォリン等が挙げられる。
【0019】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合させる際は、溶液が水等の溶媒を含んだ状態で重合させてもよいし、一部乾燥させた後に重合させてもよいが、溶液を塗工後直ぐに重合させた場合は、金属塩が重合する際に溶媒の蒸発が多いためか、得られる重合体層が白化する場合がある。一方、溶媒(水分)が少なくなるとともに、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩が結晶として析出する場合があり、かかる状態で重合を行うと得られる重合体層の形成が不十分になり、重合体層が白化を起こしたりしてガスバリア性が安定しない虞がある。したがって、塗工した不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合させる際には、適度な水分を含んだ状態で重合することが好ましい。
【0020】
本発明の容器の製造方法は、前記方法に加え、容器形成用プリフォームからなる基材層の表面に重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を予備重合し、次いで、容器形成用プリフォームを吹き込み成形して容器とした後、予備重合した不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層を形成させる方法も採り得る。
予備重合を行う場合は、重合率が高くなり過ぎると容器形成用プリフォームを吹き込み成形する際に、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体層に亀裂が入る場合があるので、通常、予備重合の重合率(重合率の求め方は下記に示す)を1〜70%、好ましくは3〜60%、より好ましくは5〜50%の範囲にすることが好ましい。
【0021】
重合体(A)層上に、保護層を形成させる場合は、種々公知の方法、例えば、熱硬化性樹脂からなる保護層を形成させる場合は、モノマーあるいはプレポリマーを重合体(A)層上に塗工した後、硬化させる方法、熱可塑性樹脂からなる保護層を形成させる場合は、熱可塑性樹脂の溶液あるいはエマルションを塗工した後、乾燥させる方法等を採り得る。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0023】
実施例及び比較例における物性値等は、以下の評価方法により求める。
<評価方法>
(1)酸素透過度[ml/(m・day・MPa)]:容器を、モコン社製 OX−TRAN2/21 MLを用いて、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度90%R.H.の条件で測定する。
(2)吸光度比(A/A):上記記載の方法で測定する。
(3)重合率:〔1−(A/A)UV後/(A/A)モノマー〕×100
*(A/A)UV後:紫外線照射(重合後)後の(A/A)
*(A/A)モノマー:モノマー(重合前)の(A/A)
(A/A)については下記に記載のとおり規定した。
830cm−1付近のビニル基に結合する水素のδC−Hに基づく吸光度Aと赤外線吸収スペクトルにおける1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)は、容器から1cm×3cmの測定用サンプルを切り出し、その表面(重合体(A)層)の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR法)により得、以下の手順で、先ず、吸光度A及び吸光度Aを求める。
830cm−1付近のビニル基に結合する水素のδC−Hに基づく吸光度A:赤外線吸収スペクトルの800cm−1と850cm−1の吸光度とを直線(P)で結び、800〜850cm−1間の最大吸光度(830cm−1付近)から垂直に直線(Q)を下ろし、当該直線(Q)と直線(P)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度Aとする。
1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度A:赤外線吸収スペクトルの1480cm−1と1630cm−1の吸光度とを直線(L)で結び、1480〜1630cm−1間の最大吸光度(1520cm−1付近)から垂直に直線(M)を下ろし、当該直線(M)と直線(L)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度Aとした。尚、最大吸光度(1520cm−1付近)は、対イオンの金属種によりピーク位置が変化することがあり、例えば、カルシウムでは1520cm−1付近、亜鉛では1520cm−1付近、マグネシウムでは1540cm−1付近である。
次いで、上記方法で求めた吸光度A及び吸光度Aから比(A/A)を求める。また重合率は上記計算式のように、モノマーの吸光度比(A/A)モノマーとUV照射(重合後)後の(A/A)UV後を測定し求める。
なお、本発明のおける赤外線スペクトルの測定(赤外線全反射測定:ATR法)は、日本分光社製FT−IR350装置を用い、KRS−5(Thallium Bromide−Iodide)結晶を装着して、入射角45度、室温、分解能4cm−1、積算回数150回の条件で行う。
【0024】
<溶液(X)の作製>
アクリル酸亜鉛(アクリル酸のZn塩)水溶液〔浅田化学社製、濃度:15重量%(アクリル酸成分:10重量%、Zn成分:5重量%)〕と、メチルアルコールで25重量%に希釈した光重合開始剤〔1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー 2959)〕及び界面活性剤(花王社製 商品名;エマルゲン120)をモル分率でそれぞれ98.5%、1.2%、0.3%となるように混合し、不飽和カルボン酸化合物Zn塩溶液(X)を作製する。
【0025】
実施例1
市販のポリエチレンテレフタレート製容器(PETボトル)(500ml 耐圧タイプ)に、不飽和カルボン酸化合物Zn塩溶液(X)を浸漬法にて塗工した。次いで、オーブン中で60℃、1分の条件で乾燥後、紫外線照射装置を用い照射光量200mJ/cmになるように容器全体に照射し、重合体層が表面に形成された容器を得た。重合体層の厚さ3μmであり、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)が0.1であり、二重結合部分の重合率は95%であった。また、容器から90mm×90mmの大きさでサンプルを切り出しその酸素透過度を測定すると、0.1ml/m・day・MPa以下であった。
【0026】
実施例2
ポリエチレンテレフタレートからなる容器形成用プリフォームの表面に不飽和カルボン酸化合物Zn塩溶液(X)を浸漬法にて塗工する。次いで、プリフォーム全体をオーブン中で60℃、1分の条件で乾燥後、紫外線照射装置を用い照射光量5mJ/cmになるようにプリフォーム全体に照射しプレ重合させる。このとき塗工した重合体層の重合率は35%である。次いで、容器形成用プリフォームを二軸延伸吹き込み成形して容器とした後、その容器にさらに紫外線を照射光量200mJ/cmになるよう照射し、重合率を90%として、重合体層が形成された容器を得る。容器の重合体層の厚さ1μmであり、吸光度比(A/A)が0.1である。また、容器から90mm×90mmの大きさでサンプルを切り出しその酸素透過度を測定すると、1.1ml/m・day・MPaである。
【0027】
参考例1
PETボトル(500ml 耐圧タイプ)から90mm×90mmの大きさでサンプルを切り出しその酸素透過度を測定すると、53ml/m・day・MPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体層が形成された容器は高湿度下でのガスバリア性に優れており、かかる特徴を活かして、ジュース、清涼飲料水を始め、種々の液体用容器と使用されるばかりでなく、特に、炭酸ガスを含むビール、発泡酒、炭酸飲料等の容器として好適に使用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の少なくとも片面に、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm−1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度Aと1520cm−1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A/A)が0.25未満である不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層が形成されてなることを特徴とする容器。
【請求項2】
多価金属が、Mg、Ca、Zn、BaおよびAlから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の容器。
【請求項3】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩が、重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物から得られる塩である請求項1記載の容器。
【請求項4】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩が、(メタ)アクリル酸から得られる塩である請求項1若しくは請求項3記載の容器。
【請求項5】
重合体(A)層上に、保護層が積層されてなる請求項1記載の容器。
【請求項6】
基材層の少なくとも片面に、重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工した後、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層を形成することを特徴と容器の製造方法。
【請求項7】
容器形成用プリフォームからなる基材層の表面に重合度が20未満の不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の溶液を塗工し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を予備重合し、次いで、容器形成用プリフォームを吹き込み成形して容器とした後、予備重合した不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を重合し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層を形成することを特徴と容器の製造方法。
【請求項8】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を形成する不飽和カルボン酸化合物が、不飽和カルボン酸の単量体若しくは重合度が10以下の重合体である請求項6又は7記載の容器の製造方法。
【請求項9】
不飽和カルボン酸化合物が、(メタ)アクリル酸である請求項6〜8の何れか1項に記載の容器の製造方法。
【請求項10】
溶液が水溶液である請求項6又は7記載の容器の製造方法。
【請求項11】
不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩の重合を水分の存在下に行う請求項6の容器の製造方法。
【請求項12】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の重合体(A)層上に、保護層を形成することを特徴とする請求項6〜11の何れか1項に記載の容器の製造方法。
【請求項13】
請求項7〜12の何れか1項に記載の製造方法により得られ得る容器。

【公開番号】特開2006−248555(P2006−248555A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65941(P2005−65941)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】