説明

容器用鋼板およびその製造方法

【課題】高フィルム密着性に優れた容器用鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板上に、金属Zr量1〜100mg/m、P量0.1〜50mg/m、F量0.1mg/m以下である化成皮膜を有し、当該化成皮膜上に、C量0.1〜50mg/mであるフェノール樹脂層を有する容器用鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いずれの缶種においても、缶に用いられる鋼板(容器用鋼板)に対する塗装が行われてきたが、近年、地球環境保全の観点から、塗装に代わるものとしてフィルムをラミネートする技術が注目され、急速に広まってきた。
【0003】
ところで、従来、ラミネートフィルムの下地に用いられる鋼板には、クロメート皮膜が形成されていたが、近年、鉛やカドミウムなどの有害物質の使用制限や製造工場の労働環境への配慮が叫ばれ始め、クロメート皮膜の不使用が求められるようになった。
【0004】
また、飲料容器市場において、缶は、コストや品質の点で、PETボトル、瓶、紙パックなどの容器との競争に曝されており、ラミネート容器用鋼板に対しても、より優れた製缶加工性(特に、フィルム密着性、加工フィルム密着性、耐食性など)が求められるようになった。
【0005】
このような要求を満たすものとして、例えば、特許文献1には、『Zrイオン、Fイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより鋼板上に形成されたZr化合物皮膜を有し、前記Zr化合物皮膜の付着量が、金属Zr量で1〜100mg/m、F量で0.1mg/m以下である事を特徴とする、容器用鋼板。』が開示されている([請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−13728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、近年では、飲料容器市場においては品質競争が激化しており、ラミネート容器用鋼板に対しても、より優れたフィルム密着性が求められている。特に、缶をネッキング加工した後のネック部分のフィルムは、一般的に剥離しやすいため、厳しい条件下でも当該部分における剥離が生じないような容器用鋼板が望まれている。
本発明者らが、特許文献1に開示された容器用鋼板を用いて、ネック部分に関するフィルム密着性(以下、「高フィルム密着性」ともいう)について検討を行ったところ、昨今求められているレベルには達しておらず、改良が必要であることが分かった。
そこで、本発明は、高フィルム密着性に優れた容器用鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、鋼板上に形成された所定の化成皮膜上に所定のフェノール樹脂層を設けた容器用鋼板が、高フィルム密着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
【0009】
(1)鋼板上に、金属Zr量1〜100mg/m、P量0.1〜50mg/m、F量0.1mg/m以下である化成皮膜を有し、当該化成皮膜上に、C量0.1〜50mg/mであるフェノール樹脂層を有する容器用鋼板。
【0010】
(2)Zrイオン、リン酸イオン、Fイオンを含む処理液中での浸漬処理または当該処理液を用いた電解処理により前記鋼板上に前記化成皮膜を形成し、次いで、前記化成皮膜が形成された前記鋼板をフェノール樹脂を含有する水溶液中に浸漬し、または、前記化成皮膜上に当該水溶液を塗布し、その後乾燥することにより得られる、上記(1)に記載の容器用鋼板。
【0011】
(3)前記鋼板が、少なくとも片面に、金属Ni量で10〜1000mg/mのNiまたは金属Sn量で100〜15000mg/mのSnを含む表面処理層を有する、上記(1)または(2)に記載の容器用鋼板。
【0012】
(4)前記鋼板は、その表面にNiめっきまたはFe−Ni合金めっきが施されて下地Ni層が形成され、前記下地Ni層上にSnめっきが施され、当該Snめっきの一部と前記下地Ni層の一部または全部とが溶融溶錫処理により合金化されて島状Snを含むSnめっき層が形成され、前記下地Ni層は、金属Ni量で5〜150mg/mのNiを含み、前記Snめっき層は、金属Sn量で300〜3000mg/mのSnを含む、上記(1)または(2)に記載の容器用鋼板。
【0013】
(5)Zrイオン、リン酸イオン、Fイオンを含む処理液中での浸漬処理または当該処理液を用いた電解処理により前記鋼板上に前記化成皮膜を形成し、次いで、前記化成皮膜が形成された前記鋼板をフェノール樹脂を含有する水溶液中に浸漬し、または、前記化成皮膜上に当該水溶液を塗布し、その後乾燥する、容器用鋼板の製造方法。
【0014】
(6)前記乾燥の温度が70℃以上である、上記(5)に記載の容器用鋼板の製造方法。
【0015】
(7)前記乾燥の後に、さらに温度80℃以上の水で洗浄し、再度乾燥を行う、上記(5)または(6)に記載の容器用鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高フィルム密着性にも優れた容器用鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<容器用鋼板>
本発明の容器用鋼板は、鋼板上に、金属Zr量1〜100mg/m、P量0.1〜50mg/m、F量0.1mg/m以下である化成皮膜を有し、当該化成皮膜上に、C量0.1〜50mg/mであるフェノール樹脂層を有する容器用鋼板である。
以下、本発明の容器用鋼板の構成について詳細に説明する。
【0018】
<鋼板>
本発明で用いられる鋼板としては、特に限定されず、通常、容器材料として使用される鋼板原板を用いることができる。また、この鋼板原板の製造方法、材質なども特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の各工程を経て製造されたものを使用することができる。
【0019】
本発明で用いられる鋼板としては、少なくとも片面に、ニッケル(Ni)および/またはスズ(Sn)を含む表面処理層を有するものであってもよい。
【0020】
このような表面処理層は、Niめっき層、Snめっき層、Sn−Ni合金めっき層等である。
【0021】
Niは、塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性などにその効果を発揮するものである。このとき、表面処理層において、金属Ni量は、これらの特性がより優れるという理由および経済的な観点から、10〜1000mg/mであるのが好ましい。
【0022】
Snは、加工性、溶接性、耐食性などにその効果を発揮するものである。このとき、表面処理層において、金属Sn量は、これらの特性がより優れるという理由および経済的な観点から、100〜15000mg/mであるのが好ましく、溶接性がより優れるという理由から、200〜15000mg/mであるのが好ましく、加工性がより優れるという理由から、1000〜15000mg/mであるのがさらに好ましい。
【0023】
表面処理層(めっき層)を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、電気めっき法、浸漬めっき法、真空蒸着法、スパッタリング法などの公知の方法を用いることができ、さらに、拡散層を形成するため、加熱処理を組み合わせてもよい。
【0024】
Niめっき層としては、金属Niめっきを施して形成された層のほか、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)合金めっきを施して形成されたFe−Ni合金めっき層であってもよい。
【0025】
Snめっき層は、金属Snによるめっき(Snめっき)が施されて形成されるが、本発明における「Snめっき」は、金属Snに不可逆的不純物が混入したものや、金属Snに微量元素が添加したものも含むものとする。
【0026】
また、本発明においては、島状Snを含むSnめっき層が形成されていてもよい。この場合、鋼板の表面にNiめっきまたはFe−Ni合金めっきが施されて下地Ni層が形成され、下地Ni層上にSnめっきが施され、このSnめっきの一部と下地Ni層の一部または全部とが溶融溶錫処理により合金化されて島状Snを含むSnめっき層が形成される。
【0027】
溶融溶錫処理(リフロー処理)により、Snが溶解して鋼板や下地Ni層と合金化し、Sn−Fe合金層またはSn−Fe−Ni合金層が形成されて、合金層の耐食性が向上するとともに、島状のSn合金が形成される。島状のSn合金は、溶融溶錫処理を適切に制御することで形成することが可能である。
【0028】
Niが高耐食金属であることから、溶融溶錫処理により形成されるFeおよびSnを含む合金層の耐食性を向上させることができる。
下地Ni層中の金属Ni量は、耐食性発現の観点および経済的な観点から、5〜150mg/mであることが好ましい。
下地Ni層として、加熱処理を施して拡散層を形成する場合、加熱処理の前後または加熱処理と同時に、窒化処理を行ってもよい。
【0029】
Snの優れた耐食性は、金属Sn量が300mg/m以上から顕著に向上し、Snの含有量が多くなるほど、耐食性の向上の度合いも増加する。したがって、島状Snを含むSnめっき層における金属Sn量は、300mg/m以上であることが好ましい。また、耐食性向上効果は、金属Sn量が3000mg/mを超えると飽和するため、経済的な観点から、Sn含有量は、3000mg/m以下であることが好ましい。
【0030】
また、電気抵抗の低いSnは軟らかく、溶接時に電極間でSnが加圧されることにより広がり、安定した通電域を確保できることから、特に優れた溶接性を発揮する。この優れた溶接性は、金属Sn量が100mg/m以上あれば発揮される。また、上述した優れた耐食性を示す金属Sn量の範囲では、この溶接性の向上効果は、飽和することはない。そのため、優れた耐食性および溶接性を確保するためには、金属Sn量を300mg/m以上3000mg/m以下とすることが好ましい。
【0031】
なお、表面処理層中の金属Ni量または金属Sn量は、例えば、蛍光X線法によって測定することができる。この場合、金属Ni量既知のNi付着量サンプルを用いて、金属Ni量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Ni量を特定する。金属Sn量の場合も同様にして、金属Sn量既知のSn付着量サンプルを用いて、金属Sn量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Sn量を特定する。
【0032】
<化成皮膜>
本発明の容器用鋼板は、上述した鋼板上に形成された、金属Zr量1〜100mg/m、P量0.1〜50mg/m、F量0.1mg/m以下である化成皮膜を有する。
【0033】
化成皮膜を形成する方法としては、例えば、Zrイオン、リン酸イオン、Fイオンを溶解させた処理液(酸性溶液)に鋼板を浸漬する浸漬処理により行う方法;Zrイオン、リン酸イオン、Fイオンを含む処理液中での陰極電解処理により行う方法;等が挙げられ、均一な皮膜を得ることができるという理由から、陰極電解処理により行う方法であるのが好ましい。
さらに、特に陰極電解処理においては、処理液中に硝酸イオンとアンモニウムイオンとを共存させることが好ましい。これにより、数秒から数十秒程度の短時間処理が可能となり、また、耐食性や密着性の向上効果に優れた化成皮膜の形成が可能となる。
【0034】
なお、陰極電解処理を行う場合、陰極電解処理の浴温は、皮膜の形成効率、コスト、形成される皮膜組織の均一性などの観点から、10〜40℃であるのが好ましい(低温陰極電解処理)。また、陰極電解処理の電解電流密度は、皮膜付着量の低下抑制、安定的な皮膜の形成、処理時間、皮膜特性の低下抑制などの観点から、0.05〜50A/dmであるのが好ましい。さらに、陰極電解処理の通電時間は、皮膜付着量の低下抑制、安定的な皮膜の形成、処理時間、皮膜特性の低下抑制などの観点から、0.01〜5秒であるのが好ましい。
【0035】
化成皮膜は、Zr化合物を含有する。ここで、Zr化合物の役割は、耐食性および密着性の確保である。Zr化合物は、Zr水和酸化物およびZrリン酸化物であると考えられ、これらのZr化合物は優れた耐食性および密着性を有する。なお、「Zr水和酸化物」とは、Zr酸化物とZr水酸化物とが混在した状態を意味する。
化成皮膜中の金属Zr量が1mg/m以上であれば、実用上、問題ないレベルの耐食性と密着性が確保される。また、金属Zr量が100mg/mを超えると、化成皮膜自体の密着性が劣化するとともに電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。したがって、化成皮膜中の金属Zr量は、1〜100mg/mであり、1〜20mg/mであるのが好ましく、1〜10mg/mであるのがより好ましい。
【0036】
また、Zrリン酸化物が増加するとより優れた耐食性と密着性を発揮するが、その効果をはっきり認識できるのは、P量が0.1mg/m以上の場合である。また、P量が50mg/mを超えると密着性が劣化するとともに電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。したがって、化成皮膜中のP量は、0.1〜50mg/mであり、0.1〜20mg/mであるのが好ましく、0.1〜10mg/mであるのがより好ましい。
【0037】
Fは処理液中に含まれることから、Zr化合物と共に皮膜中に取り込まれる。皮膜中のFは、塗料やフィルムの通常の密着性には影響を及ぼさないが、レトルト処理などの高温殺菌処理時の密着性や耐錆性あるいは塗膜下腐食性を劣化させる原因となる。これは、水蒸気や腐食液に皮膜中のFが溶出し、有機皮膜との結合を分解、または、下地鋼板を腐食することが原因であると考えられている。
化成皮膜中のF量は、0.1mg/mを超えると、これらの諸特性の劣化が顕在化し始めることから、0.1mg/m以下である。
化成皮膜中のF量を0.1mg/m以下にするためには、化成皮膜を形成した後、温水中での浸漬処理やスプレー処理により洗浄処理を行えばよい。この際、処理温度を高く、または、処理時間を長くすることによりF量を減少させることができる。
例えば、化成皮膜中のF量を0.1mg/m以下にするには40℃以上の温水で0.5秒以上の浸漬処理あるいはスプレー処理をすればよい。
【0038】
化成皮膜中の金属Zr量、P量、F量は、例えば、蛍光X線分析等の定量分析法により測定することができる。
【0039】
処理液中におけるアンモニウムイオンの濃度は100〜10000ppm程度、硝酸イオンの濃度は1000〜20000ppm程度の範囲で、生産設備や生産速度(能力)に応じて、適宜調整すればよい。
【0040】
<フェノール樹脂層>
本発明の容器用鋼板は、化成皮膜上に形成された、フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂層を有する。
フェノール樹脂成分としては、例えば、N,N−ジエタノールアミン変性した水溶性フェノール樹脂が挙げられる。
【0041】
フェノール樹脂自体が有機物であるため、フェノール樹脂層を有する本発明の容器用鋼板は、ラミネートフィルムに対して非常に優れた密着性が得られる。
【0042】
このとき、フェノール樹脂層中のC量が0.1mg/m未満であると、実用的なレベルの密着性が確保されない。一方、C量が50mg/m超であると、電気抵抗が上昇して溶接性が劣化し、また、フェノール樹脂層中での凝集破壊により密着性が低下する場合もある。
これに対して、C量が0.1〜50mg/mであれば、実用的に問題ないレベルの密着性が確保され、かつ、電気抵抗の上昇も抑制される。したがって、フェノール樹脂層中のC量は、0.1〜50mg/mであり、0.1〜10mg/mであるのが好ましく、0.1〜8mg/mであるのがより好ましい。
【0043】
なお、フェノール樹脂層中のC量は、TOC(全有機体炭素計)を用い、鋼板中に存するC量を差し引くことにより測定することが可能である。
【0044】
フェノール樹脂層を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、化成皮膜が形成された鋼板を、フェノール樹脂を含有する水溶液に浸漬させた後に乾燥する方法;フェノール樹脂を含有する水溶液を、鋼板上に形成された化成皮膜上に塗布した後、乾燥する方法;等が挙げられる。
浸漬の場合、浸漬時間は特に限定されないが、1秒以上であるのが好ましい。
なお、いずれの方法であっても、乾燥の温度は、70℃以上であるのが好ましい。
【0045】
<洗浄>
本発明においては、容器用鋼板の高フィルム密着性がより優れるという理由から、フェノール樹脂層を形成した後に、得られた容器用鋼板を、さらに、水、好ましくは温度80℃以上の水で洗浄し、その後、乾燥を行ってもよい。
このような洗浄を行うことにより、フェノール樹脂層の表面が適度に粗面化されて、高フィルム密着性がより良好になるものと考えられる。
また、このような洗浄を行うことにより、化成皮膜中に存するFを除去してF量を減少させる点でも効果が見られる。
【0046】
このとき、洗浄の方法としては特に限定されず、例えば、得られた容器用鋼板を水中に浸漬させる方法;得られた容器用鋼板にスプレーなどを用いて水を塗布する方法;等が挙げられる。
浸漬の場合、浸漬時間は1秒以上であるのが好ましい。
また、乾燥の温度は、70℃以上であるのが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
<表面処理層>
以下の処理法(1−0)〜(1−7)の方法を用いて、板厚0.17〜0.23mmの鋼板上に表面処理層を形成した。
(1−0)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板に脱脂、酸洗を施した鋼板を作製した。
(1−1)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、硫酸−塩酸浴を用いてSn−Ni合金めっきを施し、Ni、Snめっき鋼板を作製した。
(1−2)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、ワット浴を用いてNiめっきを施し、Niめっき鋼板を作製した。
(1−3)冷間圧延後、ワット浴を用いてNiめっきを施し、焼鈍時にNi拡散層を形成させ、Niめっき鋼板を作製した。
(1−4)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnをめっきし、Snめっき鋼板を作製した。
(1−5)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnをめっきし、その後、溶融溶錫処理(リフロー処理)を行い、Sn合金層を有するSnめっき鋼板を作製した。
(1−6)冷間圧延後、原板を脱脂、酸洗後、ワット浴を用いてNiめっきを施し、焼鈍時にNi拡散層を形成させ、脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnめっきを施し、その後、溶融溶錫処理を行い、Sn合金層を有するNi、Snめっき鋼板を作製した。
(1−7)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、硫酸−塩酸浴を用いてFe−Ni合金めっきを施し、引き続き、フェロスタン浴を用いてSnめっきを施し、その後、溶融溶錫処理(リフロー処理)を行い、Sn合金層を有するNi、Snめっき鋼板を作製した。
なお、(1−6)および(1−7)の処理を行った場合に、光学顕微鏡にて表面を観察し、島状Sn状況を評価したところ、全体的に島が形成されていることが確認された。
【0049】
<化成皮膜>
上記の処理により表面処理層を形成した後、以下の処理法(2−1)〜(2−3)で化成皮膜を形成した。
(2−1)KZrF(4.3g/L)とリン酸(1.2g/L)とを溶解させて硝酸アンモニウムを添加してpHを2.65に調整した処理液に、上記鋼板を浸漬し、浴温30℃で、第1表に示す条件で陰極電解して化成皮膜を形成した。
(2−2)KZrF(4.3g/L)とリン酸(1.2g/L)とフェノール樹脂(0.7g/L)を溶解させて硝酸アンモニウムを添加してpHを2.65に調整した処理液に、上記鋼板を浸漬し、浴温30℃で、第1表に示す条件で陰極電解して化成皮膜を形成した。
(2−3)KZrF(4.3g/L)とリン酸ナトリウム(1.4g/L)を溶解させてリン酸を添加してpHを2.65に調整した処理液に、上記鋼板を浸漬し、浴温30℃で、第1表に示す条件で陰極電解して化成皮膜を形成した。
【0050】
(水洗処理)
上記の処理により化成皮膜を形成した後、以下の処理法(3−1)で水洗処理を行い、化成皮膜中のF量を制御した。
(3−1)40℃の温水に1秒間浸漬した。
【0051】
<フェノール樹脂層>
上記の処理により化成皮膜を形成し、上記の処理により水洗処理を行った後、以下の処理(4−1)〜(4−5)でフェノール樹脂層を形成した。
(4−1)フェノール樹脂0.1g/Lを溶解させた水溶液をロールコーターで塗布させた後、75℃で乾燥し、フェノール樹脂層を形成した。
(4−2)フェノール樹脂0.5g/Lを溶解させた水溶液に、上記鋼板を1秒間浸漬させた後、ロールで絞り、75℃で乾燥し、フェノール樹脂層を形成した。
(4−3)フェノール樹脂3.0g/Lを溶解させた水溶液をロールコーターで塗布させた後、75℃で乾燥し、フェノール樹脂層を形成した。
(4−4)フェノール樹脂0.01g/Lを溶解させた水溶液に、上記鋼板を1秒間浸漬させた後、ロールで絞り、75℃で乾燥し、フェノール樹脂層を形成した。
(4−5)フェノール樹脂10.0g/Lを溶解させた水溶液をロールコーターで塗布させた後、75℃で乾燥し、フェノール樹脂層を形成した。
なお、いずれの場合も、フェノール樹脂としては、上述した、N,N−ジエタノールアミン変性した水溶性フェノール樹脂(重量平均分子量:5000)を使用した。
【0052】
<洗浄>
上記の処理によりフェノール樹脂層を形成した後、以下の処理法(5−1)で洗浄を行った。
(5−1)85℃の水に1秒間浸漬した後、75℃で乾燥した。
【0053】
なお、いずれの実施例および比較例においても、表面処理層中の金属Ni量および金属Sn量は、蛍光X線法によって測定し、検量線を用いて特定した。また、化成皮膜中に含有される金属Zr量、P量、F量は、蛍光X線分析等の定量分析法により測定した。また、化成皮膜およびフェノール樹脂層中に含有されるC量は、TOC(全有機体炭素計)を用い、鋼板中に存するC量を差し引くことにより測定した。
【0054】
<性能評価>
上記の処理を行った試験材について、高フィルム密着性の評価を行った。
まず、実施例及び比較例の各試験材の両面に、厚さが20μmのPETフィルムを200℃でラミネートした後、絞りしごき加工を行って缶体を作製し、作製した缶体にネッキング加工を施してネック部を形成した。この缶体を120℃で30分間のレトルト処理を行い、ネック部におけるフィルムの剥離状況を評価した。
具体的には、剥離が全くなかったものを「◎」、実用上問題がない程度の極僅かな剥離が生じていたものを「○」、部分的に剥離が生じて実用上問題があるものを「△」、大部分で剥離が生じていたものを「×」と評価した。結果を第1表に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
第1表に示す結果から、比較例1〜11は、いずれも、高フィルム密着性に劣ることが分かった。
特に、化成皮膜中にフェノール樹脂が含有された比較例9においても、充分な高フィルム密着性が得られないことが分かった。
また、フェノール樹脂層を有しているが、そのC量が本発明の範囲外である比較例10,11も、やはり、充分な高フィルム密着性が得られないことが分かった。
これに対し、実施例1〜9は、いずれも、高フィルム密着性に優れることが分かった。このとき、フェノール樹脂層を形成した後に洗浄を行った実施例2は、洗浄を行わなかった実施例1と比較して、より高フィルム密着性に優れることが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板上に、金属Zr量1〜100mg/m、P量0.1〜50mg/m、F量0.1mg/m以下である化成皮膜を有し、当該化成皮膜上に、C量0.1〜50mg/mであるフェノール樹脂層を有する容器用鋼板。
【請求項2】
Zrイオン、リン酸イオン、Fイオンを含む処理液中での浸漬処理または当該処理液を用いた電解処理により前記鋼板上に前記化成皮膜を形成し、次いで、前記化成皮膜が形成された前記鋼板をフェノール樹脂を含有する水溶液中に浸漬し、または、前記化成皮膜上に当該水溶液を塗布し、その後乾燥することにより得られる、請求項1に記載の容器用鋼板。
【請求項3】
前記鋼板が、少なくとも片面に、金属Ni量で10〜1000mg/mのNiまたは金属Sn量で100〜15000mg/mのSnを含む表面処理層を有する、請求項1または2に記載の容器用鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、その表面にNiめっきまたはFe−Ni合金めっきが施されて下地Ni層が形成され、前記下地Ni層上にSnめっきが施され、当該Snめっきの一部と前記下地Ni層の一部または全部とが溶融溶錫処理により合金化されて島状Snを含むSnめっき層が形成され、
前記下地Ni層は、金属Ni量で5〜150mg/mのNiを含み、
前記Snめっき層は、金属Sn量で300〜3000mg/mのSnを含む、請求項1または2に記載の容器用鋼板。
【請求項5】
Zrイオン、リン酸イオン、Fイオンを含む処理液中での浸漬処理または当該処理液を用いた電解処理により前記鋼板上に前記化成皮膜を形成し、次いで、前記化成皮膜が形成された前記鋼板をフェノール樹脂を含有する水溶液中に浸漬し、または、前記化成皮膜上に当該水溶液を塗布し、その後乾燥する、容器用鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥の温度が70℃以上である、請求項5に記載の容器用鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥の後に、さらに温度80℃以上の水で洗浄し、再度乾燥を行う、請求項5または6に記載の容器用鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−62520(P2012−62520A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207347(P2010−207347)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】