説明

容器

【課題】ウェル状の試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器において、試薬収容部からの試薬を容易かつ高回収率で回収できる容器及びこれを用いた物質の検出方法を提供することを目的とする。また、試薬収容部からばらつきなく試薬を回収できる容器を提供することを目的とする。
【解決手段】基板に、ウェル状試薬収容部を有し、かつ少なくともウェル状試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器において、被覆フィルムの基材側の面の接触角がウェル状試薬収容部内壁の接触角より大きいことを特徴とする容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学分野に用いられる、試薬を収容するための容器、及び抗原抗体反応による抗原の検出及びDNAの検出等に用いられる容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学反応やDNA反応、たんぱく質反応などをチップ上にて行うμ−Total Analysis System技術やLab−on−Chip技術が研究され実現してきており、今まで大型の実験装置や大量の試薬が必要であった反応実験が数ミリ角以下のチップで少量の試薬で行えるようになってきている。
【0003】
このようなチップ上には、通常、ウェルと呼ばれる微小な穴やくぼみが形成され反応場として用いられており、半導体やガラスにエッチングで作られたり穴のあいた板を積層することでウェルが形成されていた。
【0004】
ウェルタイプのものとしては、例えば、基板表面に多数のウェルが設けられている検出用基板が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
このようなウェル型のチップでは例えば、抗原抗体反応においては抗原溶液と抗体溶液、DNA検出においてはプローブDNAと検体DNAなどの複数の試薬をウェル内に注入し、反応をおこない、反応の有無を検出する。
【0006】
また、ウェル状に、ウェル内の液の蒸発を防ぐためにフィルム設けたものも開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
このようなフィルム付のウェル状チップの場合、ウェル内に試薬を収容しておき、反応を行う際、スポイト等により液を回収し別のところにある反応部に分注する。具体的にはフィルムを剥離した後スポイト等により液を回収するか、フィルムを剥離せずフィルムに注射針等を突き刺しウェル内の液を回収する。
フィルムを剥離した後に液を回収する場合、フィルム側に液が残ることがある。またフィルム上から注射針等を突き刺し液を回収する場合においても、フィルムの内側に液が残ってしまうことがある。
ウェルの内径、深さが小さい場合には、回収できる量に対し、フィルムに残存する量が増えるため、特に影響がある。ライフサイエンス分野においては、試料溶液が微量であることが多く、それに伴って、反応容器も小さくなる。そのため、前述のようなウェル状の試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器を用いる場合、溶液を高い回収率で回収することが困難である。また、試薬収容部が複数ある場合や同じ試薬収容部から何回かに分けて試薬を回収する場合、各試薬収容部での回収や毎回の回収でのばらつきなく回収するのは困難である。
【0008】
【特許文献1】WO2003/031972号公報
【特許文献2】特開平09−099932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、ウェル状の試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器において、試薬収容部からの試薬を容易かつ高回収率で回収できる容器及びこれを用いた物質の検出方法を提供することを目的とする。また、試薬収容部からばらつきなく試薬を回収できる容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、基板に、ウェル状試薬収容部を有し、かつ少なくともウェル状試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器において、被覆フィルムの基材側の面の接触角がウェル状試薬収容部内壁の接触角より大きいことを特徴とする容器である。
【0011】
請求項2の発明は、前記被覆フィルムの基材側の面の接触角とウェル状試薬収容部内壁の接触角の差が10°以上であることを特徴とする請求項1記載の容器である。
【0012】
請求項3の発明は、前記ウェル状反応部の直径が0.1〜10mmの範囲内であり、かつ深さが0.1〜10mmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の容器である。
【0013】
請求項4の発明は、前記ウェル状試薬収容部の内面に親水性の表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器である。
【0014】
請求項5の発明は、前記親水性の表面処理がプラズマ処理であることを特徴とする請求項4に記載の容器である。
【0015】
請求項6の発明は、前記被覆フィルムの基材と接する側に撥水性の表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の容器である。
【0016】
請求項7の発明は、前記撥水性の表面処理がフッ素を含むガスを用いたプラズマ処理であることを特徴とする請求項6に記載の容器である。
【0017】
請求項8の発明は、前記ウェル状反応部の内面に撥水性被膜を有することを特徴とする請求項6または7に記載の容器である。
【0018】
請求項9の発明は、さらに反応検出部及び/またはPCR反応部を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の容器である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ウェル状の試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器において、試薬収容部から試薬収容部からの試薬を容易かつ高回収率で回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
本発明は、基板に、ウェル状試薬収容部及び被覆フィルムを有する容器において、被覆フィルムの基材側の面の接触角がウェル状試薬収容部内壁の接触角より大きいことを特徴とするものである。
図1に、本発明における一実施形態を示す図を示す。図1は、略長方形の板状の基板に、試料及び試薬を反応させるためのウェル状反応部が複数形成されている。
【0022】
本発明に用いる基板は、反応系に悪影響を与えないものであればよい。また、反応を検出する際、基板下方より光学検出する場合は透明性が高い方が好ましい。
例えば、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、TPX樹脂(三井化学株式会社製)などのメチルペンテン系樹脂、ゼオノア(日本ゼオン株式会社製)などのシクロオレフィン系樹脂、シリコン樹脂、フッ素系ポリマーなどの樹脂を用いることができる。
透明性、耐熱性、耐薬品性や反応系に対する影響などの点からシクロオレフィン系樹脂(ゼオノア(日本ゼオン株式会社製))やメチルペンテン系樹脂(TPX(三井化学株式会社製))を用いることが好ましい。
【0023】
このような合成樹脂を用いて基板を作成すれば、耐熱性、耐薬品性、成形加工性などに優れているため好ましい。さらに、2種類以上の樹脂を接合して用いてもよい。この場合、それぞれの樹脂の特徴を活かして基板を作成することにより、試薬及び試料等の特性に応じた多様な基板とすることが可能となり、用途ごとに使い分けることができる。例えば、基板の上半分と下半分とで材料を分けたりすることも可能となる。また、後述の試薬収容部やPCR反応部など部分ごとに材料を分けることもできる。
なお、基板の素材としてガラスを用いてもよい。
【0024】
そして、基板には、ウェル状の試薬収容部を備える。
ウェル状試薬収容部は、基材がプラスチック、合成樹脂系であれば切削加工、成型加工により形成することができる。ガラスであれば切削加工により形成することができる。
【0025】
試薬収容部は、反応に用いる試薬を収容しておくことができる。
また、試薬収容部は用いる試薬の種類などに応じて複数設けることができる。例えば、試薬収容部には試薬が複数あり、多段階反応を行う場合は、1種の試薬を含む溶液、またはその他バッファー、希釈液などを入れておくことができる。
【0026】
ウェルの形状は、底部が平坦であり、またウェル開口部から底面まで壁面が傾斜している円錐台形状であることが好ましい。
また、ウェルの大きさは、特に限定はしないが、ライフサイエンス分野では極微量での反応、検出が行われることが多く、開口部の直径及び深さが0.1mm〜10mmの範囲内であればよい。また、本発明ではこの大きさの範囲内のときに特に効果を発揮するものである。
【0027】
被覆フィルムは、試薬収容部内の溶液の蒸発を防ぐことができ、また埃など外部からの汚染を防ぐものであり、試薬収容部上を被覆していればよい。
被覆フィルムとしては、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、TPXフィルム(三井化学株式会社製)などのメチルペンテン系フィルム、ゼオノア(日本ゼオン株式会社製)などのシクロオレフィン系フィルム、シリコン樹脂フィルム、フッ素系ポリマーフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。
また、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン系フィルムなどであればヒートシール性であるため、接着剤を用いずに基材と貼り合わせることができる。
【0028】
また、試薬の回収は、フィルムを剥離してからスポイト、注射針、ピペット等により回収しても良いが、フィルムの上から注射針、ピペット等を突き刺し、吸引することにより回収しても良い。後者の方が、フィルム剥離時の汚染の可能性がなくなり好ましい。
【0029】
本発明では、被覆フィルムの基材側の面の接触角がウェル状試薬収容部内壁の接触角より大きいことを特徴とするが、この範囲内であれば、試薬収容部内での溶液と被覆フィルムの接触が抑えられ(図2参照)、フィルムを剥がしてから溶液を回収する場合でも、フィルム上から注射針やピペット等を突き刺し、吸引することにより回収する場合もフィルム上に液が残存することなく、高い回収率で回収できる。
また、具体的には、被覆フィルムの基材側の面の接触角とウェル状試薬収容部内壁の接触角の差は10°以上、好ましくは20°以上あるとよい。
被覆フィルムの基材側の面の接触角がウェル状試薬収容部内壁の接触角より小さいまたは同じであると、試薬の充填量にもよるが、試薬収容部内で、溶液と被覆フィルムの濡れ性により、溶液と被覆フィルムが一部接触した状態になり(図3参照)、フィルムを剥がしてから溶液を回収する場合、剥離したフィルムに溶液が付着状態になり高い回収率での回収が望めない。またフィルム上から注射針やピペット等を突き刺し、吸引することにより回収する場合においては、溶液がフィルム側に接触し、ウェル底部が空洞状態になることがあり、溶液を回収することが困難である。
【0030】
ウェル状反応検出部内の純水との接触角を上記範囲内にするためには、そのような関係にある基材の材質と被覆フィルムの材質を選択すればよい。
一般に金型成型等により形成する基材に用いる樹脂は、延伸加工などをしていない。それに対し、フィルム状樹脂は、一軸又は2軸延伸加工をしてあり、表面状態が異なる。さらに通常は易滑処理として、両面に粒径数μmの粒子を混入させ、表面に微細な凹凸を形成することが行われる。そのため、基材などに用いられる樹脂に比べ、フィルムにした場合の方が、純水との接触角が小さくなる傾向にある。
基材とフィルムの材質を選択することにより接触角を上記範囲にしても良いが、被覆フィルム及び/またはウェル状試薬収容部内壁に表面処理を施すことにより接触角を上記範囲にしても良い。
【0031】
例えば、ウェル状試薬収容部内壁に親水性の表面処理を施しても良い。具体的には、例えば大気圧プラズマ処理により行うことができる。
なお、接触角の測定は、公知の接触角計を用いて測定し、反応液の充填には、分注器、注射器、ピペット等を用いて充填する。又、親水化処理は大気圧プラズマ処理に限られず、コロナ処理や、親水性のコーティング剤を用いたコーティング処理で行っても良い。
【0032】
被覆フィルムの基材と接する側には、撥水性の表面処理を施しても良い。
例えば、プラズマ処理、コロナ処理、洗浄やコーティングなどの撥水性の表面処理を施すことにより、接触角をあげてもよい。プラズマ処理の中でも特に大気圧近傍下で行う大気圧プラズマ処理であることが、生産性などの点から好ましい。
【0033】
また、フッ素を含むガスを用いてプラズマ処理を施しても良い。特に大気圧近傍下でのプラズマ処理を施すことが、生産性などの点から好ましい。
フッ素系ガスを用いてプラズマ処理を施す場合、基材表面になんらかの被膜または官能基を導入すると考えられるが、この場合、反応系に悪影響を与えず、また耐熱性、耐薬品性があることが好ましい。
【0034】
フッ素を含むガスとしては四フッ化炭素、四フッ化ケイ素などのフッ化炭素、フッ化珪素化合物やこれらのハロゲン化物などが挙げられる。
また、フッ化メタン、フッ化エタン、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロパン、トリフルオロアセテート、ヘキサフルオロアセトンなどの有機フッ化化合物を含むガスや、フッ化エチレン、フッ化塩化エチレン、フッ化ビニール、フッ化ビニリデンなどフッ素含有モノマーを含むガスが挙げられる。
また、CF(CFRSiX(X:ハロゲンまたはR、R:有機官能基、なおRはそれぞれ異なっていてもよい)で表されるフッ素含有珪素化合物を含むガスを用いても良い。このようなものとして、例えば、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルメトキシシランなどが挙げられる。
また、珪素ガスを用いてプラズマ処理を施しても良い。珪素ガスとしてはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルシロキサン(TMSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)などが挙げられる。
【0035】
また、表面エネルギーの低い物質を、蒸着法、スプレー塗工やスピンコートなどのコーティング法やディッピング法によりウェル内に導入し撥水性被膜を形成しても良い。
表面エネルギーの低い物質は、反応系に悪影響を与えず、また耐熱性、耐薬品性があることが好ましい。
表面エネルギーの低い物質としては、フッ素系またはフッ素含有珪素化合物やシリコーン樹脂などが挙げられる。
フッ素系化合物としては、フッ化メタン、フッ化エタン、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロパン、トリフルオロアセテート、ヘキサフルオロアセトンなどや、フッ化エチレン、フッ化塩化エチレン、フッ化ビニール、フッ化ビニリデンなどフッ素含有モノマーが挙げられる。
また、フッ素含有珪素化合物としては、CF(CFRSiX(X:ハロゲンまたはR、R:有機官能基、なおRはそれぞれ異なっていてもよい)で表されるフッ素含有珪素化合物が挙げられ、例えば、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルメトキシシランなどが挙げられる。
【0036】
撥水性被膜の膜厚は、特に限定はしないが、薄膜であることが好ましく、具体的には100nm以下であることが好ましい。
【0037】
なお、接触角の測定は、公知の接触角計を用いて測定する。
【0038】
被覆フィルムと、基材の貼り合わせは、接着剤を用いて貼り合わせても良いし、被覆フィルムがポリオレフィン系フィルムなどのヒートシール性のものであれば、ヒートシールにより貼り合せても良い。
接着剤としては、特に限定はしないが、例えばポリ酢酸ビニル系、ポリアミド系などの熱可塑性樹脂接着剤を用いることができる。また、ポリオレフィン系フィルムなどのヒートシール性の接着フィルムを介して貼り合わせても良い。
また、本発明のフィルムの基材側の接触角というのは、基材側のウェルの位置に対応するところ接着剤または接着フィルムが存在する場合は、この接着剤または接着フィルムの基材と接する側のところの接触角のことをいう。
【0039】
なお、本発明では、被覆フィルムは、ウェル状試薬収容部の位置に対応するところ以外は必ずしも、純水との接触角は上述の範囲内でなくても良く、ウェル状試薬収容部の位置に対応するところ以外に部分的に易接着処理を施しても良い。
易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、易接着処理剤によるコーティング処理などが挙げられる。
また、撥水性の表面処理をする場合は、ウェル状試薬収容部の位置に対応するところのみに処理を施し、それ以外のところは処理をしなくても良い。
【0040】
また、同一基板上に、反応検出部を設けても良い(図4、5、6参照)。反応検出部は試薬収容部に収容してある試薬を用いて反応検出を行う場所である。複数の反応検出を行う場合は、反応検出部は複数も受けることができる。なお、反応検出部はウェル形状でもよい。
【0041】
また、DNAの検出反応に用いる場合、同一チップ上にPCR反応部を設けても良い(図5参照)。
PCR反応部を設けることにより、同一チップ上で検体の調整、DNAの検出を行うことができる。
PCR反応部としては、ウェル状の反応部を設けても良いし、流路を設け流路内で反応を行っても良い。
また、その他の反応部を設けても良い。
【0042】
また、ウェル状反応検出部同士を接続する流路を設けてもよい(図6参照)。またウェル状反応検出部と試薬収容穴部、PCR反応部、その他の反応部を接続する流路を設けてもよい。これら流路を形成することにより、連続した反応を行わせることが可能となる。これにより、検査時間の短縮が図れるとともに微量な試料及び試薬で各種の分析を行うことができ、コストの削減を実現することができる。
【0043】
本発明の容器は、様々な生化学系の反応用として用いることができ、例えば抗原抗体反応及びDNA反応の検出などに用いることができる。
抗原抗体反応による抗原検出の場合、例えば、予め各ウェル状反応部内に抗原を含む試料を入れておき、後から抗体を含む試薬を添加し、抗原または抗体に標識物質を付けておくことで、反応の有無を検出できる。標識物質としては、蛍光などの発光物質が一般的に用いられる。なおこの場合、基板上に試薬収容部を設けて置き、抗体を収容しておいてもよい。
【0044】
DNAの検出の場合、例えば、予めウェル状反応検出部内に核酸プローブを用意しておく。次に検体DNAをウェル状反応検出部に供給し、核酸プローブと検体DNAとのハイブリダイゼーション反応により、DNAの検出を行うことができる。その際、検体DNAに標識物質を付けておけば、その標識物質の有無を検出することにより検出が可能となる。また、検体DNAとして、血液等から抽出したDNAをPCR法、LAMP法などにより調整しておいたものを用いることができる。また、配列の異なる核酸プローブを複数用意することで検体DNAがどのような配列であるかを検出することができる。なおこの場合、基板上に試薬収容部を設けて置き、検体DNAを収容しておいてもよい。
【0045】
また、基板上にPCR反応部を設けておき、チップ上で連続して、血液などから抽出したDNAをPCR反応により増幅させ、それを検体DNAとし、反応部で核酸プローブとの反応の有無を検出してもよい。具体的には、例えばウェル状試薬収容部に血液などから抽出したDNAを収容しておき、分注動作により、PCR反応部へ分注し、PCR反応により調整した検体DNAをウェル状の反応検出部へ分注すればよい。ウェル状試薬収容部からPCR反応部、ウェル状反応検出部へは流路を用いて送液しても良い。
【0046】
また、一塩基遺伝子多型(SNP)の解析にも用いることができる。なお、その場合、プローブ核酸やそのた検出に用いる試薬は複数あってもよく、それらの試薬のひとつが標識されていればよい。
【0047】
また、標識物質は、結合したプローブ核酸と検体DNAに特異的に作用するものを、反応後に加えることもできる。このようなものとしては、インターカレーターなどがある。また、ここでいう標識物質とは間接的なものも含む。すなわち、蛍光物質などに結合する物質を標識物質としてプローブ核酸または検体DNAに結合させておき、後から蛍光物質を加えても良い。
【0048】
また、多段階反応を行ってSNPまたはDNAを検出してもよい。
例えば、インベーダー・アッセイ法(サードウェイブテクノロジーズ,Inc(米国ウィスコンシン州マディソン市)を用いても良い。これによりSNP解析の具現化を図ることが可能となる。
【0049】
この場合、検体DNAの検出に用いるプローブ核酸などの試薬が複数種でもよく、予めウェル状反応部内に、プローブ核酸など少なくとも1種の試薬を入れておき、その後、検体DNAと他の試薬を同時または順次注入し、反応をおこなっても良い。
【0050】
また、ウェル状反応部、PCR反応部には、反応用液の乾燥を防ぐ目的でミネラルオイルなどの反応用液より比重の軽い溶液を加えても良い。
また、検体DNA又は抗原などはウェル状反応部内に固定してもよいし、固定させずに保持させておくだけでもよい。
【0051】
また、前記ウェル状反応検出部、PCR反応部に、フィルムなどのフタ材で被覆しても良い。
【実施例】
【0052】
次に、上述した容器を用いた一具体例について、説明する。
<実施例1>
(チップ作成(成形))
図1のウェル形状の検出チップを、成形により作成する。成形に用いた樹脂は、ゼオノア 1420R(日本ゼオン株式会社製を)用いて成形品を作成した。成形温度は280℃、型締め力は100tonF、金型温度は90℃、計量値24mmで行った。成形機は住友重機械工業サイキャップM3で成形を行い、スクリュー系はφ35mmである。
次に浸水性の表面処理としてOを3%含むHeガスを用いて、大気圧近傍下にてプラズマ処理を行った。
ウェル内の接触角の測定は困難であったため、ウェル内の表面状態と同様の表面状態であるウェルの表面を用いて測定した値をウェル内の接触角とした。
4箇所測定した結果、得られた値の平均値は47°であった。なお、用いた測定装置はFACE自動固体エナジー解析装置CA−VE型である。
【0053】
(被覆層)
被覆フィルムとして、膜厚50μm、片面PEマスキングフィルムであるZF14−050(株式会社オプテス製)を用いた。
次に、基材側と接する側の接触角を、4箇所測定した結果、得られた値の平均値は86.3°であった。なお、用いた測定装置はFACE自動固体エナジー解析装置CA−VE型である。
【0054】
(液の充填、回収)
ウェル状試薬収容部に試薬として、水を内径2mmのピペットを用いて10μl注入し、ヒートシールにより被覆フィルムを貼りあわせた。
その後、フィルム上から内径2mmのピペットを用いて、試薬収容部内の試薬の回収量を10μlで試みたところ、9.6μl回収できた。
【0055】
<実施例2>
実施例1と同様の方法で容器を作成し、水を充填し、被覆フィルムを貼り合わせた。
(液の充填、回収)
ヒートシールにより基材と被覆フィルムを貼り合わせ後、容器を10秒間逆さまにして液の状態を観察した。逆さまの状態から戻したところ、速やかにウェルの底部に水が戻っていく現象が目視にて観察できた。
また、フィルム上から内径2mmのピペットを用いて、試薬収容部内の試薬の回収量を10μlで試みたところ、8.9μl回収できた。
【0056】
<比較例1>
(チップ作成(成形))
図1のウェル形状の検出チップを、成形により作成する。成形に用いた樹脂は、ゼオノア 1420R(日本ゼオン株式会社製を)用いて成形品を作成した。成形温度は280℃、型締め力は100tonF、金型温度は90℃、計量値24mmで行った。成形機は住友重機械工業サイキャップM3で成形を行い、スクリュー系はφ35mmである。
ウェル内の接触角の測定は困難であったため、ウェル内の表面状態と同様の表面状態であるウェルの表面を用いて測定した値をウェル内の接触角とした。
4箇所測定した結果、得られた値の平均値は90.3°であった。なお、用いた測定装置はFACE自動固体エナジー解析装置CA−VE型である。
【0057】
(被覆層)
被覆フィルムとして、膜厚50μm、片面PEマスキングフィルムであるZF14−050(株式会社オプテス製)を用いた。
次に、基材側と接する側の接触角を、4箇所測定した結果、得られた値の平均値は86.3°であった。なお、用いた測定装置はFACE自動固体エナジー解析装置CA−VE型である。
【0058】
(液の充填、回収)
ウェル状試薬収容部に試薬として、水を内径2mmのピペットを用いて10μl注入し、ヒートシールにより被覆フィルムを貼りあわせた。
その後、フィルム上から内径2mmのピペットを用いて、試薬収容部内の試薬の回収量を10μlで試みたところ、7.3μl回収できた。
【0059】
<比較例2>
比較例1と同様の方法で容器を作成し、水を充填し、被覆フィルムを貼り合わせた。
(液の充填、回収)
ヒートシールにより基材と被覆フィルムを貼り合わせ後、容器を10秒間逆さまにして液の状態を観察した。逆さまの状態から戻したところ、水がウェル底部に戻らずに、被覆フィルム側に残っている状態が目視にて観察できた。
また、フィルム上から内径2mmのピペットを用いて、試薬収容部内の試薬の回収量を10μlで試みたところ、ピペットを突き刺した瞬間に水が飛び出し、回収できた量は4.3μlであった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の反応容器の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の反応容器における試薬の充填を説明する概略図である。
【図3】従来の反応容器における試薬の充填を説明する概略図である。
【図4】本発明の反応容器の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の反応容器の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の反応容器の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0061】
1 容器
2 基板
3 試薬収納部
4 被覆フィルム
5 ウェル状反応検出部
6 PCR反応部(流路タイプ)
7 流路
8 試薬溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、ウェル状試薬収容部を有し、かつ少なくともウェル状試薬収容部上に被覆フィルムを有する容器において、被覆フィルムの基材側の面の接触角がウェル状試薬収容部内壁の接触角より大きいことを特徴とする容器。
【請求項2】
前記被覆フィルムの基材側の面の接触角とウェル状試薬収容部内壁の接触角の差が10°以上であることを特徴とする請求項1記載の容器。
【請求項3】
前記ウェル状反応部の直径が0.1〜10mmの範囲内であり、かつ深さが0.1〜10mmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
前記ウェル状試薬収容部の内面に親水性の表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器。
【請求項5】
前記親水性の表面処理がプラズマ処理であることを特徴とする請求項4に記載の容器。
【請求項6】
前記被覆フィルムの基材と接する側に撥水性の表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の容器。
【請求項7】
前記撥水性の表面処理がフッ素を含むガスを用いたプラズマ処理であることを特徴とする請求項6に記載の容器。
【請求項8】
前記ウェル状反応部の内面に撥水性被膜を有することを特徴とする請求項6または7に記載の容器。
【請求項9】
さらに反応検出部及び/またはPCR反応部を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−349558(P2006−349558A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177654(P2005−177654)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】