説明

容量性負荷駆動回路および流体噴射装置

【課題】上限あるいは下限付近のデューティー比でも効率よく容量性負荷を駆動する。
【解決手段】駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成し、電力増幅した後に平滑フ
ィルターを通すことによって生成した駆動信号を容量性負荷に印加する。デジタル電力増
幅器から平滑フィルターに流れる電流の方向が一変調周期内で逆転する条件下では、その
一変調周期内での電流の最大値および最小値の絶対値が所定の閾値以上となるようにキャ
リア周波数を変更する。一変調周期内で平滑フィルターを流れる電流の最大値および最小
値の絶対値が所定の閾値を下回ると、電力増幅時に大きな損失が発生する。従って、所定
の閾値を下回らないようにキャリア周波数を変更してやれば、効率よく電力増幅を行って
容量性負荷を駆動することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子などの容量性負荷に駆動信号を印加して駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに搭載されている噴射ヘッドのように、圧電素子などの容量
性負荷によって構成されたアクチュエーターは数多く存在する。このようなアクチュエー
ター(すなわち容量性負荷)を駆動するためには、ある程度の電力を有する駆動信号が必
要となる。そこで、駆動信号の元となる駆動波形信号を電力増幅することによって駆動信
号を生成することが行われる。ここで、アナログの駆動波形信号をアナログ的に電力増幅
してアナログの駆動信号を直接生成したのでは大きな電力損失が発生して電力効率が低下
するので、いわゆるD級増幅器を用いて電力増幅する技術が提案されている(特許文献1
、特許文献2)。
【0003】
D級増幅器は、次のようにして電力増幅を行う。先ず、アナログの駆動波形信号をパル
ス変調することによって変調信号を生成する。パルス変調には幾つかの方式が知られてい
るが、パルス幅変調と呼ばれる方式が使用されることが一般的である。パルス幅変調と呼
ばれる方式とは、変調しようとする駆動波形信号を、一定周期(変調周期)で繰り返され
る三角波形と比較して、駆動波形信号の電圧の方が三角波形の電圧よりも高い期間ではO
Nを出力し、逆に駆動波形信号の電圧の方が低い期間ではOFFを出力することによって
、ONとOFFとを繰り返す変調信号を生成する変調方式である。このようにして得られ
た変調信号は、駆動波形信号の電圧が高くなるほど、一変調周期内でのONの期間の比率
(オンデューティー比またはデューティー比。本明細書中ではデューティー比と呼ぶ)が
高くなる。
【0004】
D級増幅器では、パルス変調によって得られたデジタルの変調信号を電力増幅した後、
平滑フィルターを通してアナログ信号に変換することによって、電力増幅された駆動信号
を生成する。このようにしてデジタルの変調信号を電力増幅すれば、アナログの駆動波形
信号をアナログのまま電力増幅する場合に比べて電力損失を大幅に低減することができる
ので、駆動信号を生成する際の電力損失を大幅に低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−204850号公報
【特許文献2】特開2007−96364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、D級増幅器を用いて容量性負荷を駆動する場合、変調信号のデューティー比が
上限値付近や下限値付近になると、増幅時に大きな電力損失が発生することがあり、その
結果、容量性負荷を駆動する際の電力効率が低下する場合があるという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになさ
れたものであり、デューティー比によらず、どのような条件下でも常に効率よく容量性負
荷を駆動することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の容量性負荷駆動回路は次の
構成を採用した。すなわち、
容量成分を有する容量性負荷に対して駆動信号を印加することによって、該容量性負荷
を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する平滑フィルタ
ーと、
前記デジタル電力増幅器から前記平滑フィルターに流れる電流の方向が前記変調信号の
一変調周期内で逆転する逆転条件下では、該一変調周期内での電流の最大値および最小値
の絶対値が所定の閾値以上となるように、前記変調回路がパルス変調する際のキャリア周
波数を変更するキャリア周波数変更手段と
を備えることを要旨とする。
【0009】
こうした本発明の容量性負荷駆動回路においては、容量性負荷に印加すべき駆動信号の
基準となる駆動波形信号を、パルス変調することによって変調信号を生成し、得られた変
調信号を電力増幅した後に平滑化することによって駆動信号を生成する。また、デジタル
電力増幅器から平滑フィルターに流れる電流の方向が、変調信号の一変調周期内で逆転す
るような条件(逆転条件)下では、キャリア周波数を変更することによって、その一変調
周期内での電流の最大値および最小値の絶対値が所定の閾値以上に保たれるようにする。
【0010】
詳細なメカニズムについては後述するが、デジタル電力増幅器から平滑フィルターに流
れる電流の方向が、変調信号の一変調周期内で逆転するような条件(逆転条件)下では、
変調信号のデューティー比が上限値付近あるいは下限値付近になると、その一変調周期内
での電流の最大値および最小値の絶対値が所定の閾値以上に保たれなくなる。そして、一
変調周期内での電流の最大値および最小値の絶対値が所定の閾値を下回るようになると、
デジタル電力増幅器での増幅時に大きな電力損失が発生することが見いだされた。更に、
一変調周期内での電流の最大値および最小値の絶対値は、変調回路がパルス変調する際の
キャリア周波数を変更することによって変更可能であることも見いだされた。従って、デ
ジタル電力増幅器から平滑フィルターに流れる電流の方向が一変調周期内で逆転する逆転
条件下では、その一変調周期内での電流の最大値および最小値の絶対値が所定の閾値以上
となるようにキャリア周波数を変更することで、デジタル電力増幅器での増幅時に大きな
電力損失が発生することを回避して、効率よく容量性負荷を駆動することが可能となる。
【0011】
また、本発明の容量性負荷駆動回路においては、次のようにしても良い。先ず、デジタ
ル電力増幅器では、電源が発生する所定電圧とグランドとの間でプッシュ・プル接続され
た二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えることによって、電力増幅変調信号を生
成する。また、デジタル電力増幅器の電源が発生する所定電圧をV、二つのスイッチ素子
のON/OFFを切り換える際に二つのスイッチ素子を何れもOFFとする時間であるデ
ッドタイムをT、二つのスイッチ素子の寄生容量のキャパシタンスをCとしたときに、V
・C/Tなる算出式によって得られる閾値を、一変調周期内での電流の最大値および最小
値の絶対値が下回らないように、キャリア周波数を変更するようにしても良い。
【0012】
詳細には後述するが、デジタル電力増幅器での増幅時に大きな電力損失が発生するのは
、前述した逆転条件下で、一変調周期内での電流の最大値および最小値が所定の閾値を下
回ったときであり、この閾値は、デジタル電力増幅器の電源が発生する所定電圧をV、デ
ッドタイムをT、二つのスイッチ素子の寄生容量のキャパシタンスをCとしたときに、V
・C/Tなる算出式によって得られることが見いだされた。従って、逆転条件下でも、一
変調周期内での電流の最大値および最小値がこの閾値を下回らないようにしておけば、デ
ジタル電力増幅器での増幅時に大きな電力損失が発生することを回避することが可能とな
る。
【0013】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、二つのスイッチ素子の寄生容
量のキャパシタンスCの代わりに、ダイオードの接合容量のキャパシタンスCdを用いて
、V・Cd/Tなる算出式によって得られる閾値を、一変調周期内での電流の最大値およ
び最小値の絶対値が下回らないように、キャリア周波数を変更するようにしても良い。
【0014】
一変調周期内での電流の最大値および最小値の絶対値が、このような閾値を下回らない
ように、キャリア周波数を変更するようにしても、デジタル電力増幅器での増幅時に大き
な電力損失が発生することを回避することが可能となる。
【0015】
あるいは、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、二つのスイッチ素子の少
なくとも一方にコンデンサーが並列接続されており、そのコンデンサーと二つのスイッチ
素子の寄生容量との合成容量のキャパシタンスをCsとしたときに、一変調周期内での電
流の最大値および最小値の絶対値が、V・Cs/Tなる算出式によって得られる閾値を下
回らないようにキャリア周波数を変更するようにしても良い。
【0016】
一変調周期内での電流の最大値および最小値の絶対値が、このような閾値を下回らない
ように、キャリア周波数を変更するようにしても、デジタル電力増幅器での増幅時に大き
な電力損失が発生することを回避することができる。
【0017】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、容量性負荷の容量成分の大き
さに関する負荷情報を取得して、この負荷情報に応じてキャリア周波数を変更するように
してもよい。
【0018】
容量性負荷に印加される駆動信号が一定電圧ではない場合、デジタル電力増幅器から平
滑フィルターに流れる電流の、一変調周期内での最大値および最小値の絶対値が、所定の
閾値以上に保たれるキャリア周波数は、容量性負荷の容量成分の大きさによって変化する
。従って、容量性負荷の容量成分の大きさに関する情報(負荷情報)を取得して、この情
報も考慮してキャリア周波数を変更すれば、キャリア周波数を適切に変更することができ
る。たとえば、容量成分の大きさを複数段階に分類して負荷情報として設定しておき、負
荷情報に示される分類に応じたキャリア周波数に変更したり、あるいは変更するキャリア
周波数に対して修正を加えたりすることによって、より適切なキャリア周波数に変更する
ことが可能となる。
【0019】
また、本発明の容量性負荷駆動回路は、次のような構成とすることもできる。すなわち

容量成分を有する容量性負荷に対して駆動信号を印加することによって、該容量性負荷
を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動信号に位相進み補償を行い、該位相進み補償後の信号を帰還信号として出力する
位相進み補償回路と、
該駆動波形信号から該帰還信号を減算することによって誤差信号を出力する演算回路と、
前記誤差信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する
平滑フィルターと、
前記デジタル電力増幅器から前記平滑フィルターに流れる電流の方向が前記変調信号の
一変調周期内で逆転する逆転条件下では、該一変調周期内での電流の最大値および最小値
の絶対値が所定の閾値以上となるように、前記変調回路がパルス変調する際のキャリア周
波数を変更するキャリア周波数変更手段と
を備えるようにしてもよい。
【0020】
こうすれば、駆動信号の基準となる駆動波形信号に対して、容量性負荷に印加された駆
動信号を負帰還させるので、平滑フィルターの共振の影響で駆動信号が歪んでしまうこと
を抑制することができる。また、駆動信号を負帰還させるに際しては、位相を進ませる補
償(位相進み補償)を行ってから負帰還させているので、平滑フィルターによって位相が
遅れた駆動信号を負帰還させることが原因で駆動信号の出力が不安定になってしまうこと
もない。
【0021】
また、上述した本発明の何れの容量性負荷駆動回路も、効率よく電力増幅を行って容量
性負荷を駆動することができる。従って、上述した本発明の容量性負荷駆動回路は、以下
のような流体噴射装置、すなわち、液体を供給する供給ポンプと、該供給ポンプから供給
された液体が流入する流体室と、容量性負荷であるアクチュエーターと、該流体室に流入
された液体を噴射する噴射ノズルとを有する脈動発生部とを備え、アクチュエーターに駆
動信号を印加することによって、該流体室に流入した液体を該噴射ノズルからパルス状に
噴射する流体噴射装置で、駆動信号を発生する駆動回路として好適に適用することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施例の容量性負荷駆動回路を搭載した流体噴射装置の構成を示した説明図である。
【図2】第1実施例の容量性負荷駆動回路の回路構成を示した説明図である。
【図3】一定電圧出力時のデジタル電力増幅器での消費電力がデューティー比に応じて増加する様子を示した説明図である。
【図4】デジタル電力増幅器の詳細な構成を示した回路図である。
【図5】デジタル電力増幅器での電力増幅時に電力損失が発生する理由を示した説明図である。
【図6】一定電圧の出力時に平滑フィルターのコイルに流れる電流がほぼ直線的に変化する様子を示した説明図である。
【図7】一定電圧の出力時に平滑フィルターのコイルに流れる電流がほぼ直線的に変化する理由を示した説明図である。
【図8】一定電圧の出力時に平滑フィルターのコイルに流れる電流の振幅が、デューティー比に応じて変化する様子を示した説明図である。
【図9】一定電圧の出力時に平滑フィルターのコイルに大きな電流が流れる条件では、電力増幅時の電力損失が低下する理由を示した説明図である。
【図10】一定電圧の出力時に平滑フィルターのコイルに大きな電流が流れる条件では、電力増幅時の電力損失が低下する理由を示した説明図である。
【図11】一定電圧の出力時のデジタル電力増幅器の動作を、平滑フィルターのコイルに流れる電流の大きさに応じて示した説明図である。
【図12】一定電圧の出力時にデジタル電力増幅器で電力損失が発生しない条件を示した説明図である。
【図13】第1実施例の容量性負荷駆動回路の一部を示した説明図である。
【図14】第1実施例で駆動波形信号にフラグが設定されている様子を示した説明図である。
【図15】第1実施例の容量性負荷駆動回路の動作を示した説明図である。
【図16】第1実施例で駆動波形信号情報にフラグを設定する処理のフローチャートである。
【図17】第1実施例で駆動波形信号情報にフラグが設定された他の態様を示した説明図である。
【図18】第1実施例の変形例の容量性負荷駆動回路の一部を示した説明図である。
【図19】第2実施例の容量性負荷駆動回路の動作を示した説明図である。
【図20】第2実施例の変形例の容量性負荷駆動回路の動作を示した説明図である。
【図21】第2実施例の変形例の容量性負荷駆動回路がキャリア周波数を切り換えるために行う処理のフローチャートである。
【図22】第3実施例の容量性負荷駆動回路についての説明図である。
【図23】第3実施例の容量性負荷駆動回路の回路構成を示した説明図である。
【図24】第3実施例の容量性負荷駆動回路が負荷情報を取得する態様を例示した説明図である。
【図25】第3実施例の容量性負荷駆動回路が負荷情報を取得する他の態様を例示した説明図である。
【図26】変形例1の容量性負荷駆動回路についての説明図である。
【図27】変形例2の容量性負荷駆動回路についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.第1実施例:
A−1.装置構成:
A−2.容量性負荷駆動回路の回路構成:
A−3.デジタル電力増幅器で電力損失が発生するメカニズム:
A−4.デジタル電力増幅器での電力損失を回避するメカニズム:
A−5.第1実施例での電力損失の増加の回避方法:
A−6.第1実施例の変形例:
B.第2実施例:
B−1.第2実施例での電力損失の増加の回避方法:
B−2.第2実施例の変形例:
C.第3実施例:
D.変形例1:
E.変形例2:
【0024】
A.第1実施例 :
A−1.装置構成 :
図1は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200を搭載した流体噴射装置100の構成
を示した説明図である。図示されているように流体噴射装置100は、大きく分けると、
液体を噴射するための脈動発生部110と、脈動発生部110に向けて流体を供給する流
体供給手段120と、脈動発生部110および流体供給手段120の動作を制御する制御
部130などから構成されている。流体噴射装置100は、パルス状の液体を脈動発生部
110から噴射することによって、生体組織を切除または切開することに使用する手術具
としてのウォータージェットメスの一例である。
【0025】
脈動発生部110は、金属製の第2ケース113に、同じく金属製の第1ケース114
を重ねた構造となっており、第2ケース113の前面には円管形状の流体噴射管112が
立設され、流体噴射管112の先端にはノズル111が挿着されている。第2ケース11
3と第1ケース114との合わせ面には、薄い円板形状の流体室115が形成されており
、流体室115は、流体噴射管112を介してノズル111に接続されている。また、第
1ケース114の内部には、積層型の圧電素子116が設けられている。脈動発生部11
0と制御部130とは配線ケーブル150によって接続されており、制御部130内の容
量性負荷駆動回路200からは、配線ケーブル150を介して駆動信号が圧電素子116
に供給される。また、配線ケーブル150はコネクターによって脈動発生部110に取り
付けられている。このため、配線ケーブル150は、長さや特性の異なる種々の配線ケー
ブル150に取り替えることが可能となっている。尚、圧電素子116が、本発明におけ
る「容量性負荷」に対応する。
【0026】
流体供給手段120は、噴射しようとする液体(水、生理食塩水、薬液など)が収容さ
れた流体容器123から、第1接続チューブ121を介して液体を吸い上げた後、第2接
続チューブ122を介して脈動発生部110の流体室115内に供給する。このため、流
体室115は液体で満たされた状態となっている。
【0027】
そして、制御部130から駆動信号を圧電素子116に印加すると、圧電素子116が
伸張して流体室115が押し縮められ、その結果、流体室115内に充満していた液体が
、ノズル111からパルス状に噴射される。圧電素子116の伸張量は、駆動信号として
印加される電圧に依存する。従って、所望の特性のパルス状の液体を噴射するためには、
精度の良い駆動信号を圧電素子116に印加する必要がある。そこで、このような駆動信
号を生成するために、制御部130内には、以下に説明するような容量性負荷駆動回路2
00が搭載されている。
【0028】
A−2.容量性負荷駆動回路の回路構成 :
図2は、制御部130に搭載された容量性負荷駆動回路200の回路構成を示した説明
図である。図示されているように容量性負荷駆動回路200は、駆動信号の基準となる駆
動波形信号(以下、WCOM)を出力する駆動波形信号発生回路210と、駆動波形信号
発生回路210から受け取ったWCOMと後述する帰還信号(以下、dCOM)とに基づ
いて誤差信号(以下、dWCOM)を出力する演算回路220と、演算回路220からの
dWCOMをパルス変調して変調信号(以下、MCOM)に変換する変調回路230と、
変調回路230からのMCOMをデジタル的に電力増幅して電力増幅変調信号(以下、A
COM)を生成するデジタル電力増幅器240と、デジタル電力増幅器240からACO
Mを受け取って変調成分を取り除いた後、駆動信号(以下、COM)として脈動発生部1
10の圧電素子116に供給する平滑フィルター250と、平滑フィルター250から出
力されたCOMに対して位相を進ませる補償(位相進み補償)を加えてdCOM(帰還信
号)を生成する位相進み補償回路260と、変調回路230がパルス変調する際のキャリ
ア周波数を変更するキャリア周波数変更手段270とを備えている。尚、第1実施例の容
量性負荷駆動回路200には、COMに対して位相進み補償を加えたdCOMを負帰還さ
せているが、負帰還させない構成とすることも可能である。この場合は、演算回路220
や位相進み補償回路260が不要となる。その結果、変調回路230は、dWCOMでは
なく、WCOMに対してパルス変調を行うことになる。
【0029】
このうち、駆動波形信号発生回路210は、WCOMのデータ(後述する駆動波形信号
情報)を記憶した波形メモリーや、D/A変換器を備えており、波形メモリーから読み出
したデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することによって、WCOM(駆動波形
信号)を生成する。演算回路220では、こうして出力されたWCOMからdCOMを減
算した信号を、dWCOM(誤差信号)として出力する。尚、アナログ信号に限らず、駆
動波形信号発生回路210は、WCOMのデータを記憶した波形メモリーからデジタルデ
ータとしてWCOM(駆動波形信号)を読出し、A/D変換器でdCOMをデジタルデー
タとした後、信号処理回路を用いて演算回路220でWCOMからdCOMをデジタル演
算により減算し、dWCOM(誤差信号)をデジタルデータとして生成する構成としても
よい。その場合、変調回路230は信号処理回路を用いてデジタル回路で構成し、dWC
OMをデジタルデータのまま取り扱うようにする。
【0030】
変調回路230では、dWCOMを一定周期(変調周期)の三角波と比較することによ
って、パルス波状のMCOM(変調信号)を生成(パルス変調)する。ここで、パルス変
調に用いる三角波の基底周波数(キャリア周波数)は、キャリア周波数変更手段270が
、駆動波形信号発生回路210からの情報に基づいて変更可能となっている。
【0031】
変調回路230によって得られたMCOMは、デジタル電力増幅器240に入力される
。デジタル電力増幅器240は、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子(MOS
FETなど)と、電源と、これらスイッチ素子を駆動するゲートドライバーとを備えてい
る。MCOMの出力がONの場合は、ハイ側のスイッチ素子がONになり、ロー側のスイ
ッチ素子がOFFになって、電源の電圧VddがACOMとして出力される。また、MC
OMの出力がOFFの場合は、ハイ側のスイッチ素子がOFFになり、ロー側のスイッチ
素子がONになってグランドの電圧がACOMとして出力される。その結果、変調回路2
30の動作電圧とグランドとの間でパルス波状に変化するMCOMが、電源の電圧Vdd
とグランドとの間でパルス波状に変化するACOMに電力増幅される。この増幅では、プ
ッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えているだけなので
、アナログ波形を増幅する場合に比べれば、電力損失を抑制することが可能である。
【0032】
こうして電力増幅されたACOM(電力増幅変調信号)は、LC回路によって構成され
る平滑フィルター250を通すことによってCOM(駆動信号)に変換され、圧電素子1
16に印加される。また、COMは演算回路220に負帰還されるが、平滑フィルター2
50を通過することによって、COMはWCOMに対して位相が遅れている。そこで、C
OMを単純に負帰還させるのではなく、コンデンサーと抵抗とによって構成された位相進
み補償回路260を通して位相を進ませる補償(位相進み補償)を行い、得られた信号を
dCOMとして演算回路220に負帰還させるようになっている。
【0033】
A−3.デジタル電力増幅器で電力損失が発生するメカニズム :
上述したように、デジタル電力増幅器240は、大きな電力損失を伴うことなく、変調
信号(MCOM)を電力増幅してACOMを生成することが可能である。しかし、デジタ
ル電力増幅器240でも、ある条件が成立すると電力増幅時に大きな電力損失が発生する
ことがある。
【0034】
図3は、デジタル電力増幅器240で電力損失が発生する様子を示した説明図である。
図示されるように、たとえば負荷に対して一定電圧を出力する場合には、変調信号のデュ
ーティー比がある値より小さくなると、急激に電力損失が増加する。変調信号のデューテ
ィー比が大きい場合にも、ある値を超えると急激に電力損失が増加する。このような現象
が生じると、WCOMを変調してMCOMに変換してから増幅する効果が無くなってしま
うので対策が必要となる。そのためには、このような現象が生じるメカニズムを明らかに
しなければならない。
【0035】
図4は、デジタル電力増幅器240の内部構成を示した回路図である。図示されるよう
に、デジタル電力増幅器240は、プッシュ・プル接続された2つのMOSFETと、電
源Vddと、これらMOSFETを駆動するゲートドライバーとを備えている。また、そ
れぞれのMOSFETには、ドレイン端子、ゲート端子、ソース端子の各端子間に寄生容
量が存在する。図中のCdsはドレイン端子とソース端子との間に生じた寄生容量を示し
、Cgdはドレイン端子とゲート端子との間に生じた寄生容量を、そしてCgsはゲート
端子とソース端子との間の寄生容量を示している。ここで、Cdsは実際にはMOSFE
Tの寄生ダイオードの接合容量であるが、便宜上、本実施例では寄生ダイオードとCds
とを個別に図示している。本願の発明者らは、負荷に対して、たとえば一定電圧(あるい
は、ほとんど一定の電圧)を出力する場合には、これらの寄生容量が原因で、電力損失が
発生していることを見いだした。
【0036】
図5は、デジタル電力増幅器240が電力増幅する動作を示した説明図である。デジタ
ル電力増幅器240の中には、2つのMOSFETがプッシュ・プル接続されているが、
図5では、これらのMOSFETをスイッチによって簡略化して表している。また、それ
ぞれのMOSFETには、図4に示したように3種類の寄生容量が存在するが、図5では
、これらの寄生容量を1つにまとめて表示している。尚、以下では、プッシュ・プル接続
された2つのMOSFETの中でハイ側のMOSFETを「MOSFET(H)」と称し
、ロー側のMOSFETを「MOSFET(L)」と称することにする。図5(a)は、
MOSFET(H)がOFFでMOSFET(L)がONの状態に相当し、図5(d)は
、MOSFET(H)がONでMOSFET(L)がOFFの状態に相当する。電力増幅
時には、これら2つの状態が交互に切り換わる。また、MOSFET(H)がOFFでM
OSFET(L)がONの状態を、単に「出力状態がLの状態」と称し、逆に、MOSF
ET(H)がONでMOSFET(L)がOFFの状態を、単に「出力状態がHの状態」
と称するものとする。
【0037】
また、2つのMOSFETが共にONになると、電源Vddからグランドに向かって大
きな突入電流が流れて素子に損傷を与える。そこで、こうしたことを回避するために、2
つの状態を切り換える際には、MOSFET(H)およびMOSFET(L)が何れもO
FFとなる期間(デッドタイム期間)を経由して切り換えるようになっている。図5(b
)は、出力状態がLの状態からHの状態に切り換わる際のデッドタイム期間の状態を示し
ており、図5(e)は、出力状態がHの状態からLの状態に切り換わる際のデッドタイム
期間の状態を示している。
【0038】
ここで、図5(a)に示した状態(出力状態がLの状態)に着目すると、この状態では
、MOSFET(H)の寄生容量の一方の端子は電圧Vddに接続され、他方の端子はグ
ランドに接続されている。従って、MOSFET(H)の寄生容量に電荷が蓄積(充電)
される。また、MOSFET(L)の寄生容量については、何れの端子もグランドに接続
されているので、電荷が蓄積されることはない。この状態からデッドタイム期間になると
、図5(b)に示すように、MOSFET(L)がOFFになる。
【0039】
そしてデッドタイム期間が経過すると、今度はMOSFET(H)がONになる。ここ
で、ACOM(電力増幅変調信号)が出力される端子をVsとする。MOSFET(H)
の寄生容量に着目すると、MOSFET(H)をONにしたとき、MOSFET(H)の
寄生容量の電源Vddに接続されている側の端子と、Vsに接続されている側の端子は短
絡状態となり、図5(a)の状態で蓄えられていたMOSFET(H)の寄生容量の電荷
は、図5(c)の一点鎖線の矢印で示すような電流として流れる。また、MOSFET(
L)の寄生容量に着目すると、MOSFET(H)をONにした瞬間に、MOSFET(
L)の寄生容量のVsに接続されている側の端子は電圧Vddになり、またグランドに接
続されている側の端子はグランドの電位に保たれているので、図5(c)の破線の矢印で
示すような電流が流れ、MOSFET(L)の寄生容量が充電される。しかし、図5〈c
〉で示した一点鎖線と破線の電流がMOSFET(H)で抵抗損失を発生させる。
【0040】
このようにしてMOSFET(L)の寄生容量が充電されると、最終的には図5(d)
に示した状態(出力状態がHの状態)となる。この状態では、MOSFET(L)の寄生
容量のVsに接続されている側の端子は電源Vddに接続され、反対側の端子はグランド
に接続されているので電荷が蓄積(充電)されている。また、MOSFET(H)の寄生
容量の端子は何れも電源Vddに接続されているので電荷が蓄積されることはない。
【0041】
以上では、図5(a)の状態(出力状態がLの状態)から図5(d)の状態(出力状態
がHの状態)に切り換える場合について説明したが、今度は逆に、図5(d)の状態(出
力状態がHの状態)から図5(a)の状態(出力状態がLの状態)に切り換える場合につ
いて説明する。図5(d)の状態からデッドタイム期間になると、図5(e)に示すよう
に、MOSFET(H)をOFFにする。この状態では、MOSFET(L)の寄生容量
は電圧Vddに充電されている。そしてデッドタイム期間が経過すると、MOSFET(
L)がONになる。すると、MOSFET(L)の寄生容量のVsに接続されている側の
端子とグランドに接続されている側の端子とが短絡状態となり、図5(d)の状態で蓄え
られていたMOSFET(L)の寄生容量の電荷は、図5(f)の一点鎖線の矢印で示す
ような電流として流れる。
【0042】
また、MOSFET(H)の寄生容量の電源Vddに接続されている側の端子は電源V
ddに接続され、Vsに接続されている側の端子はグランドに接続されるので、図5(f
)の破線の矢印で示すような電流が流れ、MOSFET(H)の寄生容量が充電される。
しかし、図5(f)で示した一点鎖線と破線の電流がMOSFET(L)で抵抗損失を発
生させる。よって、このようにしてMOSFET(H)の寄生容量が充電されると、最終
的には図5(a)に示した状態となる。
【0043】
以上は、デジタル電力増幅器240に平滑フィルター250が接続されていないものと
して説明した。しかし、図2に示したようにデジタル電力増幅器240には平滑フィルタ
ー250が接続されているので、このことによる影響も考慮する必要がある。
【0044】
図6は、コイルとコンデンサーとによって構成される一般的な平滑フィルターに、一定
周期Tで電圧Eと電圧0とに切り換わる電圧を印加した時に、一般的な平滑フィルターの
コイルに流れる電流を示している。第1実施例のデジタル電力増幅器240の出力は、電
圧Vddとグランドとを繰り返すから、図6の電圧Eを電圧Vddと読み替えれば、本実
施例の平滑フィルター250に適用することができる。
【0045】
一定周期Tの中で電圧E(電圧Vddに対応)を印加している時間をtonとすると、
デューティー比Dは、ton/T(パーセント表示の場合は100×ton/T)となる
。この状態は、平滑フィルター250から電圧Vout(=D×E)を出力する場合に相
当する。そして、このときにコイルには、電圧Eが印加されている期間では、電流がマイ
ナス(電源側に逆流している状態)からほぼ直線的に増加してプラス(グランドに向けて
流れる状態)に転じ、印加される電圧が電圧0になっている期間では、プラスからほぼ直
線的に減少してマイナスに転じるようなノコギリ刃状の電流が流れる。また、平滑フィル
ター250から出力される電圧が、電圧Vout(=D×E)で保たれているということ
から、一周期の間でコンデンサーに出入りする電荷が等しいから、プラス側への振幅の最
大値とマイナス側への振幅の最大値とは等しくなる。
【0046】
図7には、平滑フィルター250のコイルに流れる電流Iの算出式が示されている。図
7(a)は、電圧E(電圧Vddに対応)を印加している期間について示したものであり
、図7(b)は、印加する電圧をグランドに落としている期間について示したものである
。電圧Eを印加している期間にコイルに流れる電流Iは、図7(a)中の回路図で示され
る。平滑フィルター250を構成するコイルのインダクタンスをL、コンデンサーのキャ
パシタンスをC、コイルに流れる初期電流(電圧E印加時に流れていた電流)をI、コ
ンデンサーの初期電圧(電圧Eの印加時でのコンデンサーの端子間電圧)をEとすると
、電圧Eと、電流Iとの間には、(1)式で示した微分方程式が成立し、この方程式を解
くと電流Iは(2)式によって求められる。ここで、ωは、平滑フィルター250の共
振周波数(=1/√(LC))である。そして、電圧Eが印加されている時間tonは平
滑フィルター250の共振周期に比べると十分に短いから、cosωtはほぼ1とみな
すことができ、sinωtはほぼωtとみなすことができる。すると(2)式は、(
3)式で近似することができ、電流Iは時間tの経過とともに直線的に増加することが分
かる。
【0047】
平滑フィルター250に印加する電圧がグランドに落とされている期間についても同様
である。すなわち、印加する電圧をグランドに落としている期間にコイルに流れる電流I
は、図7(b)中の回路図で示すことができ、印加する電圧は0であるから、電流Iは(
4)式で示した微分方程式が成立する。そしてこの方程式を解くと、印加する電圧がグラ
ンドの期間に流れる電流Iは(5)式によって求められる。また、sinωtをω
とみなして、cosωtを1とみなすと、電流Iは(6)式で近似することができる。
従って、印加する電圧がグランドに落とされている期間では、電流Iは時間tの経過とと
もに直線的に減少することが分かる。
【0048】
また、図6に示したように、電圧Eを印加した瞬間(t=0)では、電流I=−IAで
あるから、(3)式においてI=−IAとなる。また初期電圧Eは、図6の電圧Vo
ut(=D×E)に等しい。更に、電圧Eを印加している期間から電圧をグランドに落と
す期間に切り替わる直前の時間t=tonにおいては、(3)式においてI(ton)=
IAとなる。これらを(3)式に代入して整理すると、コイルに流れる電流の振幅IAは
、図8(a)に示した(7)式によって示される。ただし、図6で示した周期Tの逆数を
fc(キャリア周波数)とし、(3)式のtにton=D/fcを代入している。(7)式に
示されるように、電流の振幅の大きさIAはデューティー比Dの二次関数であり、図8(
b)に示すように、D=0.5(デューティー比Dが50%)の時に最大値となる。
【0049】
以上のことから次のようなことが分かる。デジタル電力増幅器240の出力を平滑フィ
ルター250で平滑化して一定電圧を負荷に印加する場合(デューティー比が一定の場合
)、平滑フィルター250のコイルには、図6に示したようなノコギリ刃状の電流が流れ
る。電流の振幅がプラス側に最大となるのは、デジタル電力増幅器240の出力がグラン
ドに立ち下がる瞬間(出力状態がHからLの状態に切り換わる瞬間)であり、マイナス側
に最大となるのは、デジタル電力増幅器240の出力がグランドから立ち上がる瞬間(出
力状態がLからHの状態に切り換わる瞬間)である。また、電流の絶対値|IA|は、デ
ューティー比Dが50%の時に最大となり、デューティー比Dが50%から小さくなるに
つれて、あるいは50%から大きくなるにつれて小さくなる。
【0050】
デジタル電力増幅器240に平滑フィルター250を接続すると、平滑フィルター25
0のコイルに流れる電流Iがこのような挙動をすることを踏まえた上で、平滑フィルター
250が接続された状態でのデジタル電力増幅器240の動作について説明する。
【0051】
図9は、図5(a)の状態(デジタル電力増幅器240の出力がLの状態)から、図5
(d)の状態(出力がHの状態)に切り換わる際のデッドタイム期間中に発生する現象を
示した説明図である。図9(a)に示されるように、デジタル電力増幅器240の出力が
Lの状態(MOSFET(H)がOFFで、MOSFET(L)がONの状態)では、M
OSFET(H)の寄生容量には電荷が蓄えられている。また、図6を用いて前述したよ
うに、デジタル電力増幅器240の出力がLからHの状態に切り換わる直前には、平滑フ
ィルター250のコイルからデジタル電力増幅器240に向かって大きさIAの電流が流
れている。図9(a)では、コイルからの電流が流れる様子が、破線の矢印によって表さ
れている。
【0052】
この状態から、デジタル電力増幅器240の出力状態を切り換えるために、デッドタイ
ム期間では二つのMOSFETを何れもOFFの状態にする。すると、平滑フィルター2
50のコイルには、自己誘導現象によって電流をそのまま流し続けようとする方向に起電
力が発生する。図9(b)に示した破線の矢印は、前述した起電力によって流れる電流を
表している。MOSFET(L)はOFFに切り換わっているので、こちらを流れること
はできない。その一方で、MOSFET(L)の寄生容量には電荷が全く蓄えられていな
いので、この寄生容量にはコイルの逆起電力によって電流が流れ、充電される。また、M
OSFET(H)の寄生容量については、コイルの逆起電力が発生する結果、寄生容量の
Vsに接続されている側の端子電圧が上昇するので、電源Vddに接続されている側の端
子との端子間電圧が小さくなり、電流が流れる。その結果、MOSFET(H)の寄生容
量に蓄えられていた電荷が電源Vddに回生される。
【0053】
そして、図9(c)に示すように、MOSFET(H)の寄生容量に蓄えられていた電
荷を全て回生し、MOSFET(L)の寄生容量のVsに接続されている側の端子電圧が
電圧Vddに達するまで寄生容量に電荷を蓄えた後に、MOSFET(H)をONにする
。こうすれば、図5を用いて前述したように、デジタル電力増幅器240の出力をLから
Hの状態に切り換える際に、MOSFET(H)の寄生容量に残った電荷の放電、および
MOSFET(L)の寄生容量の充電に起因する電力損失は全く生じない。すなわち、図
9(a)の状態を、デッドタイム期間の間に図9(c)の状態まで持って行くことができ
れば、電力損失の発生を抑制することができる。デジタル電力増幅器240の出力をHか
らLの状態に切り換える場合にも、同様なことが当て嵌まる。
【0054】
図10は、図5(d)の状態(デジタル電力増幅器240の出力がHの状態)から、図
5(a)の状態(出力がLの状態)に切り換わる際のデッドタイム期間中に発生する現象
を示した説明図である。図10(a)に示されるように、デジタル電力増幅器240の出
力がHの状態(MOSFET(H)がONで、MOSFET(L)がOFFの状態)では
、MOSFET(L)の寄生容量に電荷が蓄えられる。また、図6を用いて前述したよう
に、デジタル電力増幅器240の出力がHからLの状態に切り換わる直前には、デジタル
電力増幅器240から平滑フィルター250のコイルに向かって大きさがIAの電流が流
れている。図10(a)では、デジタル電力増幅器240の電源Vddからコイルに向か
って電流が流れる様子が、破線の矢印によって表されている。
【0055】
この状態から、デジタル電力増幅器240の出力状態をHからLに切り換えるために、
デッドタイム期間では二つのMOSFETを何れもOFFの状態にする。すると、平滑フ
ィルター250のコイルには自己誘導現象によって、電流をそのまま流し続けようとする
方向に起電力が発生する。図10(b)に示した破線の矢印は、前述した起電力によって
流れる電流を表している。MOSFET(H)はOFFに切り換わっているので、電源V
ddからの電流はこちらを流れることはできない。その一方で、MOSFET(H)の寄
生容量には電荷が全く蓄えられていないので、この寄生容量にはコイルの逆起電力によっ
て電流が流れ、充電される。また、MOSFET(L)の寄生容量については、コイルの
逆起電力が発生する結果、寄生容量のVsに接続されている側の端子の電圧が低下するの
で、グランドに接続されている側の端子との端子間電圧が小さくなり、電流が流れる。そ
の結果、MOSFET(L)の寄生容量に蓄えられていた電荷が平滑フィルター250の
コンデンサーに回生される。
【0056】
そして、図10(c)に示すように、MOSFET(L)の寄生容量に蓄えられていた
電荷を全て回生し、MOSFET(H)の端子間電圧が電圧Vddに達するまで寄生容量
に電荷を蓄えた後に、MOSFET(L)をONにする。こうすれば、図5を用いて前述
したように、デジタル電力増幅器240の出力をHからLの状態に切り換える際に、MO
SFET(L)の寄生容量に残った電荷の放電、およびMOSFET(H)の寄生容量の
充電に起因する電力損失は全く生じない。すなわち、図10(a)の状態を、デッドタイ
ム期間の間に図10(c)の状態まで持って行くことができれば、電力損失の発生を抑制
することができる。
【0057】
このように、デジタル電力増幅器240の出力状態を切り換えたときに、平滑フィルタ
ー250のコイルで大きな逆起電力を発生させることができれば、デジタル電力増幅器2
40で発生する電力損失を大幅に抑制することが可能となる。しかし、図8(a)に示し
たように、デューティー比が小さい場合、または大きい場合はコイルに流れる電流値が小
さく、コイルで十分な大きさの逆起電力を発生させることができなくなったために、図3
で示したような大きな電力損失が生じたものと考えられる。
【0058】
A−4.デジタル電力増幅器での電力損失を回避するメカニズム :
図11には、コイルで十分な大きさの逆起電力を発生させることができる場合と、十分
な大きさの逆起電力を発生させることができなかった場合とについて、デジタル電力増幅
器240の動作が切り換わる様子が示されている。図11(a)は十分な大きさの逆起電
力が発生した場合を示し、図11(b)は過不足のない大きさの逆起電力が発生した場合
を、図11(c)は逆起電力の大きさが不足する場合を示している。
【0059】
先ず始めに、最も単純な場合である図11(b)の場合について説明する。デジタル電
力増幅器240の出力状態がLの状態から、デッドタイム期間に切り換わる直前では、図
6に示したようにコイルの電流Iはマイナス方向(逆流する方向)に流れている。また、
デジタル電力増幅器240の出力電圧は0である。この状態を、状態[A]と呼ぶことに
する。続いて、MOSFET(L)をOFFに切り換えてデッドタイム期間に移行すると
、図9(b)を用いて前述したように、コイルの逆起電力によってMOSFET(L)の
寄生容量の電荷が充電され、MOSFET(H)の寄生容量に電荷が回生されて、それに
伴ってデジタル電力増幅器240の出力電圧が上昇し、デッドタイム期間が終了する時に
、ちょうど電圧Vddに達する。コイルの逆起電力によってデジタル電力増幅器240の
出力電圧が上昇している状態を、状態[B]と呼ぶことにする。
【0060】
デッドタイム期間を終了して、デジタル電力増幅器240の出力状態がHの状態になる
と、図6を用いて前述したように、初めのうちはコイルにマイナス方向(コイルからデジ
タル電力増幅器240に向かう方向)の電流が流れているが、途中で電流の向きが逆転し
て、プラス方向(デジタル電力増幅器240からコイルに向かう方向)に電流が流れるよ
うになる。デジタル電力増幅器240の出力電圧が電圧Vddで、コイルにマイナス方向
の電流が流れている状態を、状態[C]と呼び、コイルの電流が逆転してプラス方向の電
流が流れるようになった状態を、状態[D]と呼ぶことにする。
【0061】
その後、デジタル電力増幅器240の出力状態がHの状態から、MOSFET(H)を
OFFに切り換えてデッドタイム期間に移行すると、図10(b)を用いて前述したよう
に、コイルの逆起電力によってMOSFET(L)の寄生容量の電荷が回生され、MOS
FET(H)の寄生容量に電荷が充電されて、それに伴ってデジタル電力増幅器240の
出力電圧が低下する。そして、デッドタイム期間が終了する時に、電圧0まで低下する。
コイルの逆起電力によってデジタル電力増幅器240の出力電圧が低下している状態を、
状態[E]と呼ぶことにする。
【0062】
デッドタイム期間を終了して、デジタル電力増幅器240の出力状態がLの状態になる
と、図6を用いて前述したように、初めのうちはコイルにプラス方向の電流が流れている
が、途中で電流の向きが逆転して、マイナス方向に電流が流れるようになる。デジタル電
力増幅器240の出力電圧が電圧0で、コイルにプラス方向の電流が流れている状態を、
状態[F]と呼ぶことにする。また、コイルにマイナス方向の電流が流れている状態は、
前述した状態[A]である。
【0063】
以上では、デッドタイム期間に移行したときに、過不足のない大きさの逆起電力がコイ
ルで発生した場合に、デジタル電力増幅器240の動作が切り換わる様子について説明し
た。これに対して、十二分な大きさの逆起電力がコイルで発生した場合には、デジタル電
力増幅器240の動作は図11(a)に示すように切り換わる。
【0064】
先ず、デジタル電力増幅器240の出力状態がLの状態の時は、前述した状態[A]と
なっており、デッドタイム期間に切り換わると状態[B]、すなわち、コイルの逆起電力
によってMOSFET(L)の寄生容量が充電され、またMOSFET(H)の寄生容量
の電荷が回生されて、デジタル電力増幅器240の出力電圧が上昇していく状態となる。
そして、コイルで十二分な大きさの逆起電力が発生している場合は、デッドタイム期間が
終了する前に、MOSFET(L)の寄生容量への充電およびMOSFET(H)の寄生
容量の電荷回生が完了し(すなわち、デジタル電力増幅器240の出力電圧がVddに達
し)て、それ以降は、MOSFET(H)の寄生ダイオードを通って、電荷が電源Vdd
に逆流する状態となる。このような状態を、状態[G]と呼ぶ。状態[G]では、デジタ
ル電力増幅器240の出力電圧は、MOSFET(H)の寄生ダイオードの電圧降下分だ
け、電圧Vddよりも高くなる。
【0065】
その後、デジタル電力増幅器240の出力状態がHの状態では、前述した状態[C](
出力電圧がVddであり、コイルの電流がマイナスの状態)から、前述した状態[D](
出力電圧がVddであり、コイルの電流がプラスの状態)へと推移する。そして、デッド
タイム期間になると、前述した状態[E](コイルの逆起電力によってMOSFET(L
)の寄生容量の電荷が回生され、またMOSFET(H)の寄生容量が充電されて出力電
圧が低下していく状態)となる。そして、この場合も、コイルで十二分な大きさの逆起電
力が発生している場合は、デッドタイム期間が終了する前に、MOSFET(L)の寄生
容量からの電荷の回生、およびMOSFET(H)の寄生容量の充電が完了し(すなわち
、デジタル電力増幅器240の出力電圧が0まで低下し)て、それ以降は、MOSFET
(L)の寄生ダイオードを介してグランド側から電荷を吸い出す状態となる。このような
状態を、状態[H]と呼ぶ。状態[H]では、デジタル電力増幅器240の出力電圧は、
MOSFET(L)の寄生ダイオードの電圧降下分だけ、電圧0よりも低くなる。
【0066】
これに対して、コイルで発生する逆起電力が不足している場合は、デジタル電力増幅器
240の動作は図11(c)に示すようにして切り換わる。デジタル電力増幅器240の
出力状態がLの状態からデッドタイム期間に切り換わって、デッドタイム期間が終了する
までの動作は、図11(a)あるいは図11(b)を用いて前述した動作と同様である。
すなわち、状態[A]から状態[B]へと切り換わる。
【0067】
しかし、コイルで発生する逆起電力の大きさが不足していると、デッドタイム期間(状
態[B])が終了しても、デジタル電力増幅器240の出力電圧がVddに達しておらず
、MOSFET(L)の寄生容量への充電が完了しない。また、MOSFET(H)の寄
生容量からの電荷の回生も完了しない。この状態でデッドタイム期間が終了し、デジタル
電力増幅器240の出力状態がHの状態に切り換わった後、MOSFET(H)を介して
電流が流れ、MOSFET(L)の寄生容量への充電、およびMOSFET(H)の寄生
容量に残っている電荷の放電が完了するまで、出力電圧が電圧Vddまで上昇するように
なる。このような状態を、状態[I]と呼ぶ。状態[I]の期間は、図5(a)の状態か
ら図5(d)の状態に切り換えた場合と同様に、MOSFET(H)で抵抗による電力損
失が発生する。
【0068】
また、コイルで発生する逆起電力の大きさが不足していると、デジタル電力増幅器24
0の出力状態をHからLに切り換える時、すなわち状態[D]から状態[E]に切り換え
る時にも同様な現象が発生する。この場合、デッドタイム期間(状態[E])が終了して
も、デジタル電力増幅器240の出力電圧が0まで低下しておらず、MOSFET(L)
の寄生容量からの電荷の回生が完了しない。同様に、MOSFET(H)の寄生容量への
充電も完了しない。この状態でデッドタイム期間が終了し、デジタル電力増幅器240の
出力状態がLの状態に切り換わった後、MOSFET(L)を介して電流が流れ、MOS
FET(H)の寄生容量への充電、およびMOSFET(L)の寄生容量に残っている電
荷の放電が完了するまで、出力電圧が電圧0まで低下するようになる。このような状態を
、状態[J]と呼ぶ。状態[J]の期間は、図5(d)の状態から図5(a)の状態に切
り換えた場合と同様に、MOSFET(L)で抵抗による電力損失が発生する。
【0069】
以上に説明したように、デジタル電力増幅器240が状態[I]あるいは状態[J]に
なると電力損失が発生する。そして、これらの状態は、パルス変調のキャリア周波数fc
に対応する非常に高い頻度で発生するから、結果的に、たいへんに大きな電力損失を発生
させることになる。従って、このようなデジタル電力増幅器240での電力損失を回避す
るためには、状態[I]および状態[J]が発生しないようにすればよい。そこで、これ
らの状態が発生しないための条件について検討する。
【0070】
図12(a)は、状態[I]および状態[J]が発生しない条件を説明した図である。
状態[I]は、状態[B]でのデッドタイム期間が経過した時に、デジタル電力増幅器2
40の出力電圧が電圧Vddに達していない場合に発生する。換言すれば、状態[I]が
発生しないための条件は、デッドタイム期間内にデジタル電力増幅器240の出力電圧が
、電圧0から電圧Vdd以上に上昇することである。ここで、MOSFET(H)および
MOSFET(L)の寄生容量のキャパシタンスを、それぞれCoss(H)およびCo
ss(L)とすると、状態[B]での出力電圧Vの上昇は、図12(a)中に示した(8
)式で表示される。ただし、Cossは出力容量で、一般的にCoss=Cds+Cgd
で表される。また、Cossのキャパシタンスの割合が、Cdsの分が支配的である場合
には、Coss≒Cdsとして考えてもよい。尚、(8)式中のIAは、デッドタイム期
間に切り換わった瞬間にコイルに流れていた電流の大きさである。従って、デジタル電力
増幅器240の出力状態がLからHに切り換わる際のデッドタイム期間をTd1とすると
、状態[I]が発生しないための条件は、図12(b)中に(10)式で示した条件を満
足することとなる。
【0071】
同様に、状態[J]は、状態[E]でのデッドタイム期間が経過した時に、デジタル電
力増幅器240の出力電圧が電圧Vddから電圧0まで低下していない場合に発生する。
状態[E]での出力電圧Vの低下は、図12(a)中に示した(9)式で表示される。従
って、デジタル電力増幅器240の出力状態がHからLに切り換わる際のデッドタイム期
間をTd2とすると、状態[J]が発生しないための条件は、図12(c)中に(11)
式で示した条件を満足することとなる。
【0072】
ここで、(10)式および(11)式の中で、Coss(H)、Coss(L)は、M
OSFETの仕様によって決まる値なので変更は難しい。また、Td1、Td2は、高速
なスイッチングを行う為にはなるべく短い時間で設計する必要があり、デジタル電力増幅
器240の出力パルスの最小時間幅が決められると、それ以上の長さの時間には設計でき
ず、変更は難しい。また図8(a)中の(7)式で示したように、IAの式には電圧E、
すなわちVddが含まれるから、Vddを変更することで(10)式および(11)式で
示した条件を満足させることは出来ない。これに対してIAは(7)式で示されるように
、パルス変調時のキャリア周波数fcによって変更することができる。ちなみに、(7)
式中のLは、平滑フィルター250のコイルのインダクタンスであり、平滑フィルター2
50の必要な特性を確保しようとすると、この値を大きく変更することはできない。また
、デューティー比Dは、平滑フィルター250から出力しようとする電圧値と対応してい
るため、この値は変更することができない。
【0073】
従って、(10)式および(11)式を満足させるために、比較的容易に変更可能なパ
ラメーターは、キャリア周波数fcのみとなっている。換言すれば、パルス変調時のキャ
リア周波数fcを、(10)式および(11)式を満足するように変更してやれば、たと
えデューティー比が上限値付近や下限値付近の値となっても、デジタル電力増幅器240
での電力損失を増加させないようにすることが可能となる。第1実施例の容量性負荷駆動
回路200は、このような原理に基づいて、デジタル電力増幅器240での電力損失が増
加しないように、パルス変調時のキャリア周波数fcを変更している。以下、第1実施例
の容量性負荷駆動回路200で、デューティー比の上限付近あるいは下限付近の一定電圧
で負荷を駆動しているときの電力損失の増加を回避する方法について具体的に説明する。
【0074】
A−5.第1実施例での電力損失の増加の回避方法 :
図13は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200で、デジタル電力増幅器240での
電力損失の増加を回避する方法を示した説明図である。図2を用いて前述したように、第
1実施例の駆動波形信号発生回路210は、COM(駆動信号)の元となるWCOM(駆
動波形信号)を出力しており、そのための情報(駆動波形信号情報)を内蔵する波形メモ
リーに記憶している。
【0075】
図13(b)は、第1実施例の駆動波形信号発生回路210が記憶している駆動波形信
号情報を示した説明図である。図示されるように、駆動波形信号情報には、WCOMの出
力を開始してからの経過時間と、そのときに出力する電圧と、フラグの設定値(以下、f
lagと表記する)とが記憶されている。尚、変調回路230で用いられる三角波の振幅
が決まっているとすると、WCOMの電圧値と、デューティー比Dとは一対一の関係とな
る。
【0076】
図14は、駆動波形信号発生回路210に記憶されている駆動波形信号情報を例示した
説明図である。図中に斜線を付して示した領域は、WCOMの電圧(従ってデューティー
比D)が上限付近(図示した例ではデューティー比Dが80%以上)、あるいは下限付近
(図示した例ではデューティー比Dが20%以下)の値を取る領域である。そして、これ
らの領域内でWCOMの傾きが0の場合(あるいは極めて小さい場合)はflagが「1
」に設定され、それ以外の場合にはflagが「0」に設定されている。このようなfl
agを設定するための処理については後述する。
【0077】
図13(a)に示されるように、第1実施例の駆動波形信号発生回路210は、波形メ
モリーに記憶されている駆動波形信号情報を読み出してWCOMを演算回路220に出力
し、flagをキャリア周波数変更手段270に出力する。また、キャリア周波数変更手
段270には、図13(c)に示すようなflagとキャリア周波数fcとの対応関係が
記憶されている。そして、駆動波形信号発生回路210から受け取ったflagに対応す
るキャリア周波数fcを選択して、変調回路230に設定する。このようにすることで、
図3に示したような現象、すなわち、デューティー比の上限付近あるいは下限付近の一定
電圧(あるいは一定に近い電圧)で負荷を駆動しているときにデジタル電力増幅器240
での電力損失が急激に増加する現象を回避することが可能となる。
【0078】
図15は、第1実施例のデジタル電力増幅器240で電力損失の増加を回避可能な理由
を示した説明図である。尚、以下では、特に断らない限り、一定電圧(従って、一定のデ
ューティー比)で負荷を駆動しているものとする。仮に、デューティー比によらずキャリ
ア周波数をfc0に固定したとすると、平滑フィルター250のコイルに流れる電流の振
幅IAは、図8の(7)式で与えられ、デューティー比が50%から遠ざかるに従って振
幅IAは小さくなる。その結果、振幅IAが、図12に示した(10)式あるいは(11
)式を満たさなくなると、図11(c)に示した現象が発生して、デジタル電力増幅器2
40で大きな電力損失を発生させる。
【0079】
そこで、図12の(10)式および(11)式の等号が成立するような振幅IA、ある
いはこの振幅IAよりも少しだけ余裕を持たせた大きめの振幅を、閾値の振幅Ithとし
て設定しておき、図8の(7)式で与えられる振幅IAが閾値の振幅Ith以下となるデ
ューティー比では、図15(a)に示すようにキャリア周波数をfc0からfc1に引き
下げる。図15では、20%以下のデューティー比あるいは80%以上のデューティー比
では、閾値の振幅Ithを下回るものとしている。また、引き下げるキャリア周波数fc
1は、下限のデューティー比(ここではデューティー比D=5%)および上限のデューテ
ィー比(ここではデューティー比D=95%)でも、図8の(7)式で得られる振幅IA
が、閾値の振幅Ithを下回らない(あるいは振幅Ithと等しくなる)周波数に設定す
る。
【0080】
こうすれば、図15(a)中に太い破線で示したように、全てのデューティー比で、平
滑フィルター250のコイルに流れる電流の振幅IAを、閾値の振幅Ith以上に保って
おくことができる。その結果、図11(c)に示した状態[I]および状態[J]が発生
しないようにすることができるので、図15(b)中に太い破線で示したように、デュー
ティー比の下限付近(低デューティー)あるいは上限付近(高デューティー)で電力損失
が増加する現象を回避することが可能となる。
【0081】
最後に、駆動波形信号情報のWCOMに対してflagを設定するフラグ設定処理につ
いて説明しておく。図16は、駆動波形信号情報のflagを設定する処理を示すフロー
チャートである。フラグ設定処理を開始すると、先ず始めに、X(X−1)+(2L・I
th/Vdd)・fc0=0を満足するXを算出する(ステップS100)。ここで、L
は平滑フィルター250のコイルのインダクタンスであり、Ithはコイルを流れる電流
の閾値の振幅Ithであり、Vddはデジタル電力増幅器240の電源の電圧である。従
って、求められたXは、平滑フィルター250のコイルを流れる電流の振幅IAが閾値の
振幅Ithとなるようなデューティー比を示している。
【0082】
続いて、WCOMの中で、電圧値の時間に対する傾きが0(すなわち電圧値が一定)の
期間を抽出する。また、抽出箇所の個数mを記憶しておく(ステップS102)。そして
、変数nを「1」に設定した後(ステップS104)、抽出しておいたn番目の箇所のデ
ューティー比Dを算出する(ステップS106)。デューティー比Dは、WCOMが示す
電圧値を、変調回路230がパルス変調時に用いる三角波の振幅電圧で除算することによ
って算出することができる。
【0083】
そして、求められたデューティー比Dが、先に算出しておいたXよりも小さいか否か、
あるいは1−Xよりも大きいか否かを判断する(ステップS108)。前述したようにX
は、平滑フィルター250のコイルに流れる電流の振幅IAが、閾値の振幅Ithとなる
デューティー比であるから、ステップS108では結局、コイルに流れる電流の振幅IA
が、閾値の振幅Ithよりも小さくなるようなデューティー比Dか否かを判断しているこ
とになる。
【0084】
その結果、算出したデューティー比DがXよりも小さいか、1−Xよりも大きかった場
合には(ステップS108:yes)、キャリア周波数を切り換える必要があるものと判
断できるので、その期間(n番目の抽出期間)のflagを「1」に設定する(ステップ
S110)。これに対して、算出したデューティー比DがXよりも大きく、且つ1−Xよ
りも小さかった場合には(ステップS108:no)、キャリア周波数を切り換える必要
はないと判断できるので、その期間(n番目の抽出期間)のflagを「0」に設定する
(ステップS112)。
【0085】
このようにして、n番目の抽出期間についてflagを設定したら、その抽出期間がm
番目であるか否かを判断する(ステップS114)。その結果、m番目の抽出期間ではな
かった場合は(ステップS114:no)、まだflagを設定していない抽出期間が残
っていることになるので、nに「1」を加算した後(ステップS118)、新たなnにつ
いて、ステップS106以降の処理を行う。これに対して、flagを設定した抽出期間
がm番目の抽出期間であった場合は(ステップS114:yes)、抽出した全ての期間
についてflagを設定したことになる。そこで、抽出していない期間のflagに「0
」を設定するべく、flagが「1」に設定されていない期間のflagを全て「0」に
設定した後(ステップS116)、図16のフラグ設定処理を終了する。
【0086】
このようにしてフラグを設定してやれば、種々のWCOMに対して適切にflagを設
定することができる。たとえば、図17(a)に示すように、WCOMの途中に電圧の傾
きが0で、デューティー比が高い期間が存在している場合には、この期間のflagを「
1」に設定することができる。また、図17(b)に示すように、電圧の傾きが0の期間
が存在していても、デューティー比が中間的な値を取る場合には、この期間のflagは
「0」のままに設定しておくことができる。このように、図16のフラグ設定処理によれ
ば、駆動波形信号情報のflagを適切に設定して、キャリア周波数を切り換えることが
できる。その結果、たとえデューティーが高い期間でも、デジタル電力増幅器240での
電力損失を抑制することが可能となる。
【0087】
A−6.第1実施例の変形例 :
以上に説明した第1実施例では、キャリア周波数fcを切り換えるためのflagが、
駆動波形信号発生回路210がWCOMを記憶している駆動波形信号情報の中に、予め組
み込まれているものとして説明した。この場合、キャリア周波数変更手段270は、駆動
波形信号発生回路210から出力されるflagに従って、キャリア周波数fcを変更す
ればよい。もっとも、図16を用いて前述したように、flagはWCOMの電圧値に基
づいて設定することができるので、キャリア周波数変更手段270の内部でflagを生
成し、得られたflagに基づいてキャリア周波数fcを切り換えるようにしてもよい。
【0088】
図18は、第1実施例の変形例のキャリア周波数変更手段270が、キャリア周波数f
cを切り換える様子を示した説明図である。変形例の駆動波形信号発生回路210が記憶
している駆動波形信号情報には、時間およびWCOMの電圧値が記憶されているが、fl
agは記憶されていない。そして、駆動波形信号発生回路210は、演算回路220とキ
ャリア周波数変更手段270とにWCOMを出力する。変形例のキャリア周波数変更手段
270では、駆動波形信号発生回路210から受け取ったWCOMに基づいて、フラグ生
成回路でflagを生成する。そして、生成したflagに基づいてキャリア周波数fc
を変更する。このようにしても、デューティー比に関わらず、デジタル電力増幅器240
での電力損失を抑制することが可能となる。
【0089】
B.第2実施例 :
上述した第1実施例では、キャリア周波数fcを、周波数fc0と周波数fc1との二
段階に切り換えるものとしていた。すなわち、平滑フィルター250のコイルに流れる電
流の振幅が、閾値の振幅Ithよりも小さくなると、キャリア周波数fcをfc0からf
c1に一気に引き下げるものとしていた。これに対して、より多くの種類のキャリア周波
数fcを用意しておき、キャリア周波数fcを徐々に切り換えるようにしても良い。以下
では、このような第2実施例について説明する。尚、第2実施例では、前述した第1実施
例と異なる構成についてのみ説明し、同様な構成については説明を省略する。
【0090】
B−1.第2実施例での電力損失の増加の回避方法 :
図19は、第2実施例でデジタル電力増幅器240での電力損失の増加を回避する様子
を示した説明図である。前述した第1実施例では、デューティー比は5%〜95%の範囲
で用いられ、このうち20%以下あるいは80%以上のデューティー比では、キャリア周
波数fcをfc0からfc1に引き下げていた。ここで、デューティー比20%あるいは
80%は、キャリア周波数fcがfc0の時に平滑フィルター250のコイルに流れる電
流の振幅IAが、閾値の振幅Ithに達するデューティー比である。
【0091】
これに対して、第2実施例では、デューティー比の5%〜20%の間に、たとえば9%
、13%、17%といった複数のデューティー比を設定する。デューティー比が5%〜9
%の間ではキャリア周波数をfc1、デューティー比が9%〜13%の間ではキャリア周
波数をfc2、デューティー比が13%〜17%の間ではキャリア周波数をfc3、デュ
ーティー比が17%〜20%の間ではキャリア周波数をfc4といったように、多段階に
キャリア周波数fcを切り換えていく。デューティー比が80%〜95%の間についても
同様に、たとえば84%、88%、92%といった複数のデューティー比を設定する。デ
ューティー比が80%〜84%の間ではキャリア周波数をfc4、デューティー比が84
%〜88%の間ではキャリア周波数をfc3、デューティー比が88%〜92%の間では
キャリア周波数をfc2、デューティー比が92%〜95%の間ではキャリア周波数をf
c1といったように、多段階にキャリア周波数fcを切り換えていく。
【0092】
ここで、デューティー比が5%〜20%の間を分割する数や、分割するデューティー比
は、適宜設定することができる。また、それぞれの期間で設定するキャリア周波数fcn
は、図19(c)に示した計算式で設定することができる。ここで、Xは、デューティ
ー比が5%〜20%の間を区切るデューティー比を示している。また、図19(c)の計
算式によって得られる周波数fcnは、デューティー比がXからXn+1の間で、コイ
ルに流れる電流の振幅IAが閾値の振幅Ithを下回らない周波数の上限値である。従っ
て、このような計算式に基づいて、それぞれの期間でのキャリア周波数fcを切り換えて
いけば、どのようなデューティー比を取る場合でも、コイルに流れる電流の振幅IAが閾
値の振幅Ithを下回らないようにすることができ、デジタル電力増幅器240での電力
損失を抑制することが可能となる。
【0093】
ここで、平滑フィルター250はローパスフィルタである為、キャリア周波数fcの値
を引き下げるほど、平滑フィルター250におけるキャリア周波数成分の振幅減衰量は小
さくなる。キャリア周波数成分の振幅減衰量が小さくなると、COM(駆動信号)に重畳
されるキャリアリップルの振幅が大きくなってしまう。上述したように、第1実施例では
、20%以下のデューティー比あるいは80%以上のデューティー比の範囲において、キ
ャリア周波数fcをfc0からfc1に一気に引き下げていた。従って上述した理由から
、20%以下のデューティー比あるいは80%以上のデューティー比の範囲では、COM
(駆動信号)に重畳されるキャリアリップルの振幅は一律に大きくなってしまう。
【0094】
また、上述したように、第2実施例では、デューティー比が17%〜20%の間ではf
c4(fc1<fc4)、デューティー比が13%〜17%の間ではキャリア周波数をf
c3(fc1<fc3)、デューティー比が9%〜13%の間ではキャリア周波数をfc
2(fc1<fc2)というように段階的に引き下げている。従ってデューティー比が9
%〜20%の期間では、第2実施例は第1実施例と比較して出力にキャリアリップルが重
畳することを抑制することが可能となる。
【0095】
B−2.第2実施例の変形例 :
上述した第2実施例では、デューティー比に応じてキャリア周波数fcを多段階に切り
換えるものとして説明した。これに対して、デューティー比に応じてキャリア周波数fc
を連続的に切り換えるようにしても良い。
【0096】
図20には、デューティー比に応じて、キャリア周波数fcをfc1からfc0の間で
連続的に切り換えている様子が示されている。こうしてキャリア周波数fcを連続的に切
り換えてやれば、デューティー比が20%以下、あるいは80%以上となった場合でも、
平滑フィルター250のコイルに流れる電流の振幅IAを閾値の振幅Ithに保持してお
くことができる。その結果、デジタル電力増幅器240での電力損失を抑制することが可
能となる。
【0097】
図21は、デューティー比に応じてキャリア周波数fcを連続的に切り換えるために行
われるキャリア周波数切換処理のフローチャートである。この処理は、駆動波形信号発生
回路210がWCOMの出力を開始すると、キャリア周波数変更手段270によって実行
される処理である。尚、第2実施例の変形例では、駆動波形信号発生回路210の波形メ
モリーには、図13(b)に示したようなflag付きの駆動波形信号情報が記憶されて
いるものとする。
【0098】
キャリア周波数切換処理では、先ず初めに、キャリア周波数fcを標準の周波数fc0
に設定しておく(ステップS200)。そして、駆動波形信号発生回路210からWCO
M(駆動波形信号)の出力が開始されると、駆動波形信号発生回路210から駆動波形信
号情報(WCOMの電圧およびflag)を取得する(ステップS202)。
【0099】
そして、取得したflagが「1」か否かを判断する(ステップS204)。flag
は、図16を用いて前述したフラグ設定処理によって設定されており、flagが「1」
であれば、キャリア周波数fcを標準の周波数fc0から変更する必要があることを表し
ている。そこで、flagが「1」であった場合は(ステップS204:yes)、駆動
波形信号情報として受け取ったWCOMの電圧値から、デューティー比Dを算出する(ス
テップS206)。前述したようにデューティー比Dは、WCOMが示す電圧値を、変調
回路230がパルス変調時に用いる三角波の振幅電圧で除算することによって算出するこ
とができる。続いて、算出したデューティー比Dから、次式によってキャリア周波数fc
を算出する(ステップS203)。
fc=D・(1−D)・Vdd/(2L・Ith)
ここで、Lは平滑フィルター250のコイルのインダクタンスであり、Ithはコイルに
流れる電流の閾値の振幅である。また、Vddはデジタル電力増幅器240で用いられる
電源が発生する電圧である。また、図8に示した(7)式から明らかなように、この計算
式によって得られたキャリア周波数fcは、あるデューティー比Dが与えられたときに、
コイルに流れる電流の振幅IAが、閾値の振幅Ithとなるようなキャリア周波数fcと
なっている。そして、変調回路230でパルス変調に用いる三角波のキャリア周波数を、
こうして算出したキャリア周波数fcに変更する(ステップS210)。
【0100】
以上では、駆動波形信号情報として取得したflagが「1」に設定されていた場合(
ステップS204で「yes」と判断した場合)の処理について説明したが、flagの
設定が「1」ではなかった場合は(ステップS204:no)、キャリア周波数fcは、
標準の周波数fc0に設定しておけばよい(ステップS212)。
【0101】
続いて、駆動波形信号発生回路210がWCOMの出力を終了するか否かを判断し(ス
テップS214)、WCOMの出力を継続する場合は(ステップS214:no)、ステ
ップS202に戻って、新たな駆動波形信号情報を取得した後、続く一連の処理を行う。
これに対して、WCOMの出力を終了する場合は(ステップS214:yes)、そのま
ま、図21に示したキャリア周波数切換処理を終了する。
【0102】
以上に説明した第2実施例の変形例では、変調回路230から出力されるMCOMのデ
ューティー比が上限付近あるいは下限付近となった場合でも、平滑フィルター250のコ
イルに流れる電流の振幅IAが、閾値の振幅Ithに保たれるようにキャリア周波数fc
を切り換えることができる。このため、デューティー比に関わらず、デジタル電力増幅器
240での電力損失の増加を回避しながら、平滑フィルター250からの出力にキャリア
リップルが重畳することも抑制することが可能となる。
【0103】
C.第3実施例 :
上述した第1実施例および第2実施例では、平滑フィルター250の出力電圧(すなわ
ち、COM)が一定電圧である場合について説明した。しかし、平滑フィルター250の
出力電圧は、必ずしも完全な一定電圧である必要はない。たとえば出力電圧が緩やかに変
化する場合であれば、上述した説明が同様に成立する。また、出力電圧が急激に変化する
のでなければ、短時間だけ同様な説明が成立する可能性がある。以下では、平滑フィルタ
ー250からの出力電圧が変化する場合に拡張した第3実施例について説明する。尚、第
3実施例でも、前述した第1実施例あるいは第2実施例と異なる構成についてのみ説明し
、同様な構成については説明を省略する。
【0104】
図22は、COM(駆動信号)が一定ではない場合に平滑フィルター250のコイルを
流れる電流Iを示した説明図である。駆動しようとしている圧電素子116は容量性負荷
であるから、平滑フィルター250から圧電素子116に向かって電流が流れ込むことに
よってCOMの電圧が上昇し、圧電素子116から平滑フィルター250に向かって電流
が逆流することによってCOMの電圧が低下する。このため、平滑フィルター250のコ
イルには、COM(駆動信号)に対して半周期だけ位相が進んだ電流Iが流れる。
【0105】
また、平滑フィルター250のコイルには、デジタル電力増幅器240から電圧Vdd
のパルス波形が出力されている。このため、図7で示した(3)式および(6)式で表さ
れるように、コイルには、COMに対して半周期だけ位相が進んだ波形に、変調回路23
0での変調周期に対応する小さな脈動が重畳した波形の電流Iが流れることになる。
【0106】
従って、たとえば図22(a)に破線で示したように、電圧の振幅が大きなCOMを出
力しようとすると、平滑フィルター250のコイルに流れる電流Iは、図中に実線で示し
た波形の電流となる。駆動信号が0から極大値に向かって上昇している期間では、電流I
は常にデジタル電力増幅器240からコイル側に向かって流れている。この場合は、A−
3で説明した、デッドタイム期間中のMOSFET(H)の寄生容量の電荷回生、および
MOSFET(L)の寄生容量の充電が行われない。従って、前述したような、低デュー
ティー時や高デューティー時のデジタル電力増幅器240での電力損失の増加を抑制する
ことは難しい。また、駆動信号が極大値から0に向かって下降している期間では、電流I
は常にコイルからデジタル電力増幅器240に向かって流れるので、同様にA−3で説明
したデッドタイム期間中のMOSFET(L)の寄生容量の電荷回生、およびMOSFE
T(H)の寄生容量の充電が行われない。従って、前述したような、低デューティー時や
高デューティー時のデジタル電力増幅器240での電力損失を抑制することは難しい。
【0107】
これに対して、図22(b)に破線で示したように、電圧の振幅が小さなCOMを出力
する場合には、図中に実線で示すように、電流Iは1変調周期内で方向が切り換わる形と
なる。すなわち、A−3で説明したような、デッドタイム期間中のMOSFET(Hまた
はL)の寄生容量の電荷回生、およびMOSFET(LまたはH)の寄生容量の充電が行
われる。従って前述したように、デジタル電力増幅器240での電力損失の増加を抑制す
ることが可能である。すなわち、デッドタイム期間に突入する直前にコイルに流れている
電流Iの振幅IAの絶対値が、前述した閾値の振幅Ithの絶対値を下回らないようにし
ておけば、デジタル電力増幅器240での電力損失を抑制することが可能となる。
【0108】
そこで、変調周期内で増減する電流Iの上限値IA(+)および下限値IA(−)に着
目する。図22(c)に示されるように、上限値IA(+)は、COMを印加することに
因る成分Iloadに、パルス変調に伴う成分Id(+)を加算したものである。また、下限
値IA(−)は、COMを印加することに因る成分Iloadに、パルス変調に伴う成分Id
(+)を加算したものである。
【0109】
ここで図22(c)中に示されるように、COMに起因する成分Iloadは、COMの電
圧値VCOM の時間微分に、平滑フィルター250を構成するコンデンサーおよび圧電素子
116の合成容量を乗算した電流値となる。図22(c)中に示したClpf は、平滑フィ
ルター250を構成するコンデンサーのキャパシタンスを示しており、Cloadは、圧電素
子116のキャパシタンスを表している。従って、Iloadは、COMによって決定されて
しまう。これに対して、パルス変調に伴う成分Id(+)、Id(−)は、パルス変調時
のキャリア周波数fcによって変更することが可能である。このことから、上限値IA(
+)の絶対値および下限値IA(−)の絶対値が、前述した閾値の振幅Ithを下回らな
いようにキャリア周波数fcを変更すれば、COMが図22(b)に示したようにゆっく
りと変化する場合でも、デジタル電力増幅器240での電力損失を抑制することが可能と
なる。
【0110】
尚、キャリア周波数fcを変更する態様としては、COMの電圧値に対して刻々と変化
する上限値IA(+)および下限値IA(−)を、図22(c)中に示した算出式を用い
て計算し、これら上限値IA(+)および下限値IA(−)が、閾値の振幅Ithを下回
らないようにキャリア周波数fcを変更するようにすることができる。あるいは、COM
の電圧値に応じて刻々とキャリア周波数fcを変更するのではなく、上限値IA(+)の
最小値IA(+min)と、下限値IA(−)の最大値IA(−max)とを予め求めて
おき、何れの絶対値も、閾値の振幅Ithを下回らないようにキャリア周波数fcを変更
するようにしても良い。
【0111】
また、図22(a)に示すように、COM(駆動信号)が短時間で大きく変化する場合
でも、平滑フィルター250を構成するコイルの電流Iが電流0を横切る際には、短時間
ではあるが図9および図10を用いて前述した説明が成り立つ場合がある。コイルの電流
Iが電流0になるのは、COM(駆動信号)が極値(極大値または極小値)となる場合で
あるから、デューティー比Dが上限付近あるいは下限付近で、尚且つCOMが極値となる
場合には、キャリア周波数fcを予め定めておいた周波数fc1に引き下げるようにして
もよい。このようにしても、デジタル電力増幅器240での電力損失を抑制することが可
能となる。
【0112】
尚、平滑フィルター250のコイルに流れる電流Iの中のCOMに起因する成分Iload
は、図22(c)に示したように、圧電素子116のキャパシタンスCloadによって変化
する。従って、流体噴射装置100の脈動発生部110が付け替えられた場合には、新た
な圧電素子116のキャパシタンスCloadに関する情報(負荷情報)を取得可能としてお
いてもよい。
【0113】
図23は、第3実施例において負荷情報を取得可能とした変形例の回路構成を示した説
明図である。図示した変形例では、付け替えられた脈動発生部110の負荷情報(ここで
は、圧電素子116のキャパシタンスCloadに関する情報)を取得する負荷情報取得手段
280が設けられており、キャリア周波数変更手段270は、負荷情報取得手段280か
ら負荷情報を取得することが可能である。
【0114】
図24は、負荷情報を取得する一例を示した説明図である。図示した例では、圧電素子
116の側(脈動発生部110)に圧電素子116のキャパシタンスCloadを示すIDタ
グ284が設けられている。そして、流体噴射装置100の操作者が、IDタグ284に
記載された負荷情報を読み取って、負荷情報取得手段280に設けられたスイッチ282
のON/OFFを設定することで、キャリア周波数変更手段270に負荷情報を入力する
ことができる。その結果、脈動発生部110が付け替えられて、圧電素子116のキャパ
シタンスCloadが変わった場合でも適切にキャリア周波数fcを変更して、デジタル電力
増幅器240で電力損失が増加することを回避することが可能となる。
【0115】
あるいは、図25に示したように、圧電素子116の側(脈動発生部110)に、負荷
情報を記憶したROM286を内蔵しておき、この負荷情報を、負荷情報取得手段280
に設けられたROMデータリード回路288で読み出すことによって、負荷情報を取得す
るようにしても良い。このようにしても、脈動発生部110が付け替えられると、新たな
圧電素子116のキャパシタンスCloadに関する情報がキャリア周波数変更手段270に
伝わって、適切にキャリア周波数fcを変更することができるので、デジタル電力増幅器
240で電力損失が増加することを回避することが可能となる。
【0116】
D.変形例1 :
ここで、以上に述べた各種実施例においては、図4に示したように、デジタル電力増幅
器240はプッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子で構成され、そのスイッチ素子
の例としてMOSFETを挙げて説明してきた。またそのMOSFETは、構造上内部に
ボディダイオードが寄生的に形成されており、そのボディダイオードの接合容量がスイッ
チ素子の寄生容量の一つであるCdsとして存在する場合について説明してきた。しかし
ながら、スイッチ素子の種類によっては、構造上ボディダイオードが寄生的に形成されな
いもの(例えばIGBT:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)もある。この場合、前述し
たように、デッドタイム中にコイルに起電力が生じるが、その際に電流を流せるように、
スイッチ素子に並列に還流ダイオードを設けることがある。図26に、スイッチ素子に並
列に還流ダイオードを設けた場合のデジタル電力増幅器240の構成例を示す。図26で
はスイッチ素子にIGBTを用いた場合の例を示しているが、それに限られるものではな
い。図26に示したような還流ダイオードを設ける場合には、その接合容量を前述したM
OSFETのCdsと置き換えて考えることで、デジタル電力増幅器240で電力損失が
増加することを回避することが可能となる。
【0117】
E.変形例2 :
また、デジタル電力増幅器240において、スイッチング動作によって過渡的なスパイ
ク状の高電圧が発生する場合があるが、これを吸収する為に、デジタル電力増幅器240
の出力に保護回路を設けることがある。図27に、デジタル電力増幅器240の出力に保
護回路としてスナバー回路を設けた構成例を示す。図27の場合、スナバー回路のコンデ
ンサーCcはMOSFET(L)の寄生容量Cdsに並列に接続された構成となる為、M
OSFET(L)についてはCdsの容量にCcを加えた合成容量、Cc+Cdsとして
考えることで、デジタル電力増幅器240で電力損失が増加することを回避することが可
能となる。
【0118】
また、上述したようにMOSFETに並列に還流ダイオードを設ける場合には、MOS
FET(L)については、ボディダイオードの接合容量と還流ダイオードの接合容量との
合成容量をCdsとすればよい。またMOSFETに並列に還流ダイオードを設け、さら
に保護回路としてスナバー回路を設けた場合は、Ccを加えた合成容量、Cc+Cdsと
することで、デジタル電力増幅器240での電力損失を抑制することが可能となる。
【0119】
以上、各種実施例の容量性負荷駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実
施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施する
ことが可能である。例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに
用いる流体噴射装置など、医療機器を含む様々な電子機器に本実施例の容量性負荷駆動回
路を適用することで、電力効率が良く小型化の電子機器を提供することができる。また、
インクジェットプリンターに搭載されて、インクを噴射する噴射ノズルを駆動するための
容量性負荷駆動回路に対しても、本発明を好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0120】
100…流体噴射装置、 110…脈動発生部、 111…ノズル、
112…流体噴射管、 113…第2ケース、 114…第1ケース、
115…流体室、 116…圧電素子、 120…流体供給手段、
121…第1接続チューブ、 122…第2接続チューブ、 123…流体容器、
130…制御部、 150…配線ケーブル、
200…容量性負荷駆動回路、210…駆動波形信号発生回路、220…演算回路、
230…変調回路、 240…デジタル電力増幅器、250…平滑フィルター、
260…補償回路、 270…キャリア周波数変更手段、
280…負荷情報取得手段、 282…スイッチ、 286…ROM、
288…ROMデータリード回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量成分を有する容量性負荷に対して駆動信号を印加することによって、該容量性負荷
を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する平滑フィルタ
ーと、
前記デジタル電力増幅器から前記平滑フィルターに流れる電流の方向が前記変調信号の
一変調周期内で逆転する逆転条件下では、該一変調周期内での電流の最大値および最小値
の絶対値が所定の閾値以上となるように、前記変調回路がパルス変調する際のキャリア周
波数を変更するキャリア周波数変更手段と
を備える容量性負荷駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記デジタル電力増幅器は、電源が発生する所定電圧とグランドとの間でプッシュ・プ
ル接続された二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えることによって、前記電力増
幅変調信号を生成しており、
前記所定の閾値は、
前記電源の発生する所定電圧をV、
前記二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換える際に該二つのスイッチ素子を何
れもOFFとする時間であるデッドタイムをT、
前記二つのスイッチ素子の寄生容量のキャパシタンスをCとしたときに、
V・C/Tなる算出式によって得られる閾値である容量性負荷駆動回路。
【請求項3】
請求項1に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記デジタル電力増幅器は、電源が発生する所定電圧とグランドとの間でプッシュ・プ
ル接続された二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えることによって、前記電力増
幅変調信号を生成しており、かつ、前記スイッチ素子にダイオードが並列接続され、
前記所定の閾値は、
前記電源の発生する所定電圧をV、
前記二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換える際に該二つのスイッチ素子を何
れもOFFとする時間であるデッドタイムをT、
前記ダイオードの接合容量のキャパシタンスをCdとしたときに、
V・Cd/Tなる算出式によって得られる閾値である容量性負荷駆動回路。
【請求項4】
請求項1に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記デジタル電力増幅器は、電源が発生する所定電圧とグランドとの間でプッシュ・プ
ル接続された二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えることによって、前記電力増
幅変調信号を生成しており、かつ、前記二つのスイッチ素子の少なくとも一方にコンデン
サーが並列接続され、
前記所定の閾値は、
前記電源の発生する所定電圧をV、
前記二つのスイッチ素子のON/OFFを切り換える際に該二つのスイッチ素子を何
れもOFFとする時間であるデッドタイムをT、
前記コンデンサーと前記二つのスイッチ素子の寄生容量との合成容量のキャパシタン
スをCsとしたときに、
V・Cs/Tなる算出式によって得られる閾値である容量性負荷駆動回路。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記容量性負荷の容量成分の大きさに関する負荷情報を取得する負荷情報取得手段を備
え、
前記キャリア周波数変更手段は、前記負荷情報に応じて前記キャリア周波数を変更する
手段である容量性負荷駆動回路。
【請求項6】
容量成分を有する容量性負荷に対して駆動信号を印加することによって、該容量性負荷
を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動信号に位相進み補償を行い、該位相進み補償後の信号を帰還信号として出力する
位相進み補償回路と、
該駆動波形信号から該帰還信号を減算することによって誤差信号を出力する演算回路と、
前記誤差信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する
平滑フィルターと、
前記デジタル電力増幅器から前記平滑フィルターに流れる電流の方向が前記変調信号の
一変調周期内で逆転する逆転条件下では、該一変調周期内での電流の最大値および最小値
の絶対値が所定の閾値以上となるように、前記変調回路がパルス変調する際のキャリア周
波数を変更するキャリア周波数変更手段と
を備える容量性負荷駆動回路。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか一項に記載の容量性負荷駆動回路と、
液体を供給する供給ポンプと、
前記供給ポンプから供給された液体が流入する流体室と、前記容量性負荷であるアクチ
ュエーターと、前記流体室に流入された液体を噴射する噴射ノズルとを有する脈動発生部

を備え、
前記駆動信号が前記アクチュエーターに印加されることによって、前記流体室に流入さ
れた液体が前記噴射ノズルからパルス状に噴射される流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−175120(P2012−175120A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31715(P2011−31715)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【特許番号】特許第4924761号(P4924761)
【特許公報発行日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】