説明

寄生植物防除剤及びその使用方法

【課題】 作物に寄生する寄生植物を効果的に防除することのできる寄生植物防除剤及びその使用方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 チアジニル等を有効成分として含有することを特徴とする寄生植物防除剤及び当該寄生植物防除剤の有効量を被寄生植物又は土壌に処理することを特徴とする寄生植物防除剤の使用方法。
【効果】 作物の収量を寄生の無い作物のレベルまで回復させることができる。また、寄生植物の寄生を強く抑制することにより、次世代の発生を抑制することができ、圃場の寄生植物汚染レベルを下げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生植物防除剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アフリカ及び西アジアの熱帯又は亜熱帯に属する乾燥地帯には、ゴマノハグサ科のストライガ(学名:striga、英名:witchweed)属やハマウツボ科のオロバンキ(学名:Orobanche、英名:broomrape)属等といった植物寄生植物が分布している。これら寄生植物により、穀物や豆類、ナス、トマト、タバコ等を初め多種の作物が被害を受けている。寄生植物は根部等に寄生して、徐々に養分を収奪し、やがて成長して作物の収穫量を大きく減じる。これらは、初期には背丈が低く目立たないため気付かない。そのためにこれら寄生植物の防除が遅れると、花が咲き、個体あたり10万粒以上もの非常に細かい種子を稔らせる。種子は宿主に遭遇するまで発芽せずに待ち受ける。発芽しないまま、10年以上生存することもあるためその防除は極めて困難である。アフリカの一部地域では、ストライガ等の寄生植物は昆虫や病害を凌ぐ、農業に対する最大の生物的脅威となっている。特に、品種改良され、高収量の作物には、寄生植物に対して感受性となる問題点が存在している。汚染種子の移動等により、最近では、ヨーロッパやオーストラリアにも寄生植物による作物の被害が拡大している。
寄生植物から作物を保護する方法として、従来は、トラップクロップと呼ばれる、寄生植物の発芽は促すが寄生は受け難い作物との輪作や休耕とを組合せて行うことにより、寄生植物の密度を下げる耕種的防除を行ってきた。
しかし、上述のように一度できた種子は数が多く、長年に亘って生存するため寄生植物によって一度汚染されると防除は難しい。最近では、作物に選択性のある除草剤(例えばALS阻害剤、穀類や豆類の畑に用いる。)を利用して、トラップクロップとの組合せ等により防除する方法が行われている。また、宿主特異的発芽という特性を利用し、発芽促進物質の利用により、いわゆる自殺発芽を誘導して防除する方法(例えば、特許文献1乃至3を参照。)等も考案されている。また、作物側については、抵抗性作物の作出や、発芽誘導物質産生の少ない作物の創出といったことも行われている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−251243号公報
【特許文献2】特開平11−139907号公報
【特許文献3】特開平11−139908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
寄生植物に対する防除効果が高く、しかもより簡便な処理で、かつ、コストパーフォーマンスに優れた寄生植物防除剤が求められている。また、さらに、品種改良された作物においても、寄生植物の影響を受けることなく、高収量を可能とする寄生植物防除剤および防除方法が求められている。
除草剤は選択性により適用できる作物に限定がある。寄生植物耐性作物も、寄生植物の生理的変異株に対しては有効ではないため安定した対処方法とは言えない。自殺発芽誘導物質は、未だ満足すべきレベルではない。さらに、自殺発芽誘導物質産生の少ない作物では、今のところ収穫量が通常種には及ばず、寄生植物汚染地以外では受け入れられないため汚染が進むまでは広く栽培されず、根本的解決にはならない。
本発明は、作物に寄生する寄生植物を効果的に防除することのできる寄生植物防除剤及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、チアジニル等の化合物を有効成分とする寄生植物防除剤を農作物の種子、茎葉又は農作物を栽培する周辺土壌へ処理することにより、寄生植物の対象作物への寄生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち本発明は、
[1]チアジニル、プロベナゾール、2−クロロイソニコチン酸及びイソチアニルから選択される1又は2以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とする寄生植物防除剤、
[2]防除対象が根部寄生植物であることを特徴とする[1]に記載の寄生植物防除剤、
[3]根部寄生性植物がストライガ属又はオロバンキ属であることを特徴とする[2]に記載の寄生植物防除剤、
[4]有効成分がチアジニルである[1]乃至[3]いずれか1つに記載の寄生植物防除剤、
[5][1]乃至[4]いずれか1つに記載の寄生植物防除剤の有効成分量を被寄生植物又は土壌に処理することを特徴とする寄生植物防除剤の使用方法、及び、
[6]被寄生植物又は土壌に処理が、被寄生植物が有効成分を根部から吸収できる土壌処理である[5]に記載の寄生植物防除剤の使用方法、
[7]有効成分が寄生植物防除剤に対して0.01〜60重量%含まれることを特徴とする[1]乃至[4]いずれか1つに記載の寄生植物防除剤、
[8]有効成分が寄生植物防除剤に対して0.1〜50重量%含まれることを特徴とする[7]に記載の寄生植物防除剤、
[9]有効成分量が、1ヘクタールあたり5.0〜5000gである[5]または[6]に記載の寄生植物防除剤の使用方法、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の寄生植物防除剤を用いることにより、作物の収量を寄生の無い作物のレベルまで回復させることができる。寄生植物に対して感受性の高い作物を栽培した場合においても、同様である。
また、寄生植物の寄生を高いレベルで抑制することにより、次世代の発生を抑制することができる。すなわち、圃場の寄生植物種子による汚染レベルを下げることができるので作物を連続して栽培することができる。さらに寄生植物の花芽の形成に至らないレベルで作物栽培ごとに繰り返し処理をすることで防除効果が増していく。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の寄生植物防除剤及びその製造方法について具体的に説明する。
有効成分として、例えば、チアジニル(一般名、略称を「TDN」とする。)、プロベナゾール(一般名、略称を「PBZ」とする。)、2−クロロイソニコチン酸(化学名、略称を「INA」とする。)、イソチアニル(一般名、化学名:N−(2−シアノフェニル)−3,4−ジクロロイソチアゾール−5−カルボキサミド、略称を「CICA」とする。)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくはチアジニル、プロベナゾール又はイソチアニルである。これらの化合物は、特に作物に対する許容濃度が高く薬害の発生しにくい化合物であるため高濃度で処理できるため、発生圃場での防除や徹底的防除に適している。本発明で用いられるこれら有効成分は、抵抗性誘導剤という共通の作用特性を持ち、農業用殺菌剤としての登録を有するものが多い。しかしながら、そのような作用を有する化合物の中でも、サリチル酸は薬害が強くあまり高い寄生植物防除活性を示さない等好ましい結果を示さなかった。適用する作物の種類により適当な化合物を選ぶ必要があるが、作物植物に対する毒性の軽い化合物として、チアジニルは特に好ましい化合物であり、活性面でも高い防除効果を示す。
【0009】
これらの有効成分は、例えば、ペスティサイドマニュアル(The Pesticide Manual Thirteenth Edition 2003)等の文献に記載の公知化合物である。イソチアニルは(N−(2−シアノフェニル)−3,4−ジクロロイソチアゾール−5−カルボキサミド)は、日特表2001−522840号公報(製造実施例No.1)に記載の化合物である。
【0010】
本発明の寄生植物防除剤の有効成分は剤型に応じて任意の割合で配合することができ、組成物中の有効成分の配合割合は、寄生植物防除剤全量に対して0.01〜60重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜50重量%である。
また、本発明の寄生植物防除剤には、必要に応じて有効成分として1又は2以上の他の農薬成分等を添加することもできる。他の農薬成分としては、除草剤、殺菌剤、殺虫剤、植物生長調節剤、昆虫生育制御剤等を例示することができる。これら農薬成分等を加えることにより相乗効果を得ることができる。例えば、ストライガは主にイネ科植物に寄生するが、例えばスルホニルウレア系やイミダゾリノン系の双子葉(広葉)雑草選択防除性の除草剤を用いることにより発芽したストライガの生育を抑制し、本発明の寄生植物防除剤による宿主根へのストライガ侵入を抑えることとの協力作用により防除効率を高めることができる。
【0011】
本発明の寄生植物防除剤は有効成分をそのまま、または液体若しくは固体担体に担持させ、農薬製剤上の常法に従って製造及び使用することができる。
本発明の寄生植物防除剤を製造する際に用いることができる固体担体としては、非水溶性固体担体及び水溶性固体担体とに分類され、非水溶性固体担体としては、例えば、クレー、炭酸カルシウム、タルク、ベントナイト、焼成珪藻土、未焼成珪藻土、含水ケイ酸、セルロース、パルプ、モミガラ、木粉、ケナフ粉等が挙げられる。また、水溶性固体担体としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖等の糖類、尿素、尿素ホルマリン縮合物、有機酸塩、水溶性アミノ酸類等が挙げられる。これら固体担体は単独で用いてもよく又は2種以上を混合して用いてもよい。これら固体担体の添加量は、寄生植物防除剤全量に対して、通常、0.5〜99.79重量%、好ましくは20〜98重量%である。
【0012】
液体担体としては薬害を生じない範囲である限り特に限定されないが、例えば、例えば水、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール,プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ケトン類(例えばメチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、γ―ブチロラクトン等)、エーテル類(例えばセロソルブ等)、脂肪族炭化水素類(例えばケロシン、鉱油等)、芳香族炭化水素類(例えばキシレン、ソルベントナフサ、アルキルナフタレン等)、エステル類(例えばジイソプピルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレ−ト、アジピン酸エステル等)、アミド類(例えばジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド類、含窒素担体類(N―アルキルピロリドン等)、又は油脂類(例えば、菜種油、大豆油、オリーブ油、コーン油、ヤシ油、ヒマシ油等)等を挙げることができる。これら液体担体の添加量は、寄生植物防除剤全量に対して、通常、0.5〜99.79重量%、好ましくは20〜98重量%である。
【0013】
また、本発明の寄生植物防除剤は、含有される農薬有効成分の薬効を最大限に発揮させたり、寄生植物防除剤の品質を良好なものとするため、必要に応じて、界面活性剤、結合剤、粉砕助剤、吸収剤、分解防止剤、色素等様々な補助成分が添加される。またそれらの選択や配合比は使用する有効成分の性質に適合するように決定することが必要である。
【0014】
本発明の寄生植物防除剤に添加できる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等のノニオン界面活性剤、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテルリン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等のアニオン界面活性剤等が例示される。
【0015】
本発明の寄生植物防除剤を製造する際に用いることができる結合剤としては、天然系、半合成系及び合成系の高分子類等が挙げられ、天然系のものとしては、例えば、デンプン、アラビヤガム、トラガントガム、グアーガム、マンナン、ペクチン、ソルビトール、キサンタンガム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。また、半合成系としては、例えば、デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、α化デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。合成系のものとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、エチレン-アクリル酸共重合体、無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。しかしながら、これらに限定されるものではない。また、これらを1種類を単独で用いることも、2種以上を併用することも可能であり、その添加量は、寄生植物防除剤全量に対して、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.3〜10重量%である。
【0016】
粉砕助剤としては、特に限定されないが、例えばベントナイト、ゼオライト、タルク、酸性白土、活性白土等の鉱石を原料とする担体、ホワイトカーボン(シリカ)等の合成品担体、糖類、デキストリン、粉末セルロース等の植物担体、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤、その他有機化合物、樹脂類等を用いることができる。
【0017】
吸収剤は、油状などの液体の農薬原体を粉末化、プレミックス化するうえで用いる助剤用いられ、液体成分を吸収させ粒剤の流動性をも付与する目的で、吸収力、吸油力の高い鉱物質、植物質、または化成品の微粉末が添加される。吸収剤はいわゆる担体(増量剤)でもあり、吸油能の高い担体が粉末化助剤として適当である。例えばホワイトカーボン、珪藻土、微結晶セルロースなどの吸油性微粉等を用いることができる。
【0018】
分解防止剤としては、例えばブチルヒドロキシトルエン(BHT)又はブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、ハイドロキノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤又はシアノアクリレート系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤を用いることができる。
色素としては、特に限定は無いが例えば赤色202号、酸化鉄、酸化チタン等を用いることができる。
【0019】
本発明の寄生植物防除剤には、必要に応じて他の成分を混合又は併用することができ、例えば種子処理に際して、鳥類をはじめとする動物類による摂取(誤飲を含む)を避けるために忌避剤や他の成分を含有せしめることもできる。忌避剤としては、例えばナフタレン化合物等の臭気性化合物、ひまし油、松脂、ポリブタン、ジフェニルアミンペンタクロロフェノール、キノン、酸化亜鉛、芳香族溶媒等の摂食阻害剤、N−(トリクロロメチルチオ)−4−シクロヘキセン−1,2−カルボキシイミド、アントラキノン、蓚酸銅、テルペン油等の苦味物質類、パラジクロルベンゼン、アリールイソチオシアナート、酢酸アミル、アネトール、柑橘油、クレゾール類、ゼラニウム油又はラベンダー油等のハーブ油、メントール、サリチル酸メチル、ニコチン、ペンタンチオール、ピリジン類、塩化トリブチルスズ、チラム、ジラム、カーバメート系殺虫剤(例えばメチオカルブ等)、グアザチン、塩素化シクロジエン系殺虫剤(例えばエンドリン等)、有機リン系殺虫剤(例えばフェンチオン等)等を例示することができる。他の成分として、毒性物質又は増殖抑制物質(不妊化剤)としては、例えば3−クロロ−4−トルイジン塩酸塩、ストリキニーネ 20、25−ジアザコレステロール塩酸塩(コード名:SC−12937)等を例示することができる。
【0020】
本発明の寄生植物防除剤を使用する場合、農薬製剤上の常法に従い目的に応じて適当な剤型に調製して使用すれば良く、例えば固体担体、液体担体、界面活性剤、その他必要に応じて補助剤等と混合して粒剤、水和剤、粉剤、フロアブル剤、乳剤、液剤、懸濁剤、顆粒水和剤、等の剤型に調製して使用すれば良い。
【0021】
寄生植物類としては、多種のものが知られており、葉緑体を有する半寄生性のものと葉緑体を全く持たず全ての栄養を宿主植物に依存する全寄生性のものがあるが、いずれであっても良く、例えば、ビャクダン目のヤドリギ科、オオバヤドリギ科、ミソデンドロン科(Misodendraceae)、ビャクダン科のビャクダン、ツクバネ、カナビキソウなど、エレモレピス科(Eremolepidaceae)、ボロボロノキ科、カナビキボク科(Opiliaceae)、キノモリア科(Cynomoriaceae)、ツチトリモチ科、ラフレシア目のラフレシア科、ヤッコソウ科、ヒドノラ科(Hydnoraceae)、その他クスノキ科のスナヅル、クラメリア科(Krameriaceae)、レンノア科(Lennoaceae)、ヒルガオ科のネナシカズラ、マメダオシ等、ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)の一部(シオガマギク、ママコナ、コゴメグサ、Striga asiatica(学名)、Striga hermonthica haustorium(学名、英名:purple witchweed)、Striga densiflora(学名)、Striga gesnerioide(学名)、Striga Lour(学名)など)、ハマウツボ科(Orobanchaceae)のハマウツボ、ヤセウツボ(和名、学名:Orobanche minor)、ナンバンギセル、Orobanche cumana(学名)、Orobanche ramosa(学名)等が挙げられる。
【0022】
本発明の寄生植物防除剤が有効な寄生植物は特に限定されないが、食用植物栽培において被害を与えるものが重要であり、例えば、ゴマノハグサ科のストライガ(Striga)属、ハマウツボ科のオロバンキ(Orobanche)属、ネナシカズラ科のクスクタ(Cuscuta)属、ヴィサカセ(Visacaceae)科、オオバヤドリギ科のヤドリギ属等が挙げられる。なかでも、ハマウツボ科の寄生植物であるオロバンキ属植物及びゴマノハグサ科の寄生植物であるストライガ属(英名Witchweeds)植物等に対して特に有用である。寄生部位は、根部であっても良く、また葉部や茎部等であっても良いが、本発明の好ましい態様である土壌処理の場合には、根寄生性の寄生植物(根寄生植物)に特に高い効果を発揮することができる。上記ハマウツボ科のオロバンキ属植物及びゴマノハグサ科のストライガ属植物等は根寄生性である。
【0023】
本発明の寄生植物防除剤が適用できる植物としては、寄生植物によって宿主が特定のものに限定されることが多いが種によっては多種の植物に寄生するものもあり、寄生植物の寄生する植物(被寄生植物)であれば特に限定されないが、例えば、イネ科植物、ナス科植物及びマメ科植物、その他パセリ、セロリ、ニンジン等のセリ科植物、キウリ、メロン等のウリ科植物、ヒマワリ等のキク科植物、ゼラニウム等のフウロソウ科植物、カブ、ダイコン、ナタネ、レタス等のアブラナ科植物等も対象となる。好ましくは、トウモロコシ、ソルガム、サトウキビ、コムギ、イネ等のイネ科植物、トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、ジャガイモ、トウガラシ、タバコ等のナス科植物、大豆、小豆、落花生、エンドウ、サヤインゲン、ささげ、ソラマメ、レンズマメ、アルファルファ、アカクローバー等の豆科植物等が挙げられる。
【0024】
本発明の寄生植物防除剤は、水田、畑、牧草地等の農耕地での使用に特に適したものであるが、その他の場面、例えば公園等の草地、果樹園、営林地、森林、造成林等の寄生植物類の防除にも使用することができる。本発明はこれらの態様のみならず、望ましくない寄生植物類を防除するために目的に応じてあらゆる場所及び対象寄生植物類に適用することができる。
【0025】
施用の方法としては、通常の農薬と同様な方法によって施用することができ、例えば、手での粒剤等の直接散布、粒剤、粉剤又は水等に希釈又は希釈せずして液状とした製剤の、人力式散布機、電動式散布機、背負形動力式散布機、走行形動力散布機、トラクター搭載型散布機、有人又は無人ヘリコプター等航空散布機による処理等を挙げることができる。処理方法は、種子処理(種子粉衣、コーティング、種子浸漬等)、土壌処理、対象作物(被寄生植物)への茎葉処理等特に選ばないが、対象作物(被寄生植物)により吸収可能な方法であることを要する。被寄生植物に根から吸収させる土壌処理方法としては、液状製剤原液そのまま又は各種製剤の希釈液を調整して株元等に施用する土壌潅注処理、粒剤、水和剤等の固形製剤の土壌への混和処理、播種時等の覆土混和処理、株元施用、田水への投入等が例示できる。寄生植物にのみに直接処理する方法では好ましい結果は得られない。好ましくは、土壌への薬液等の潅注処理である。種子処理も好ましい処理方法である。
【0026】
本発明の寄生植物防除剤の処理量は、有効成分量として1ヘクタール当たり5.0〜5000gの範囲から適宜選択して使用すれば良い。好ましくは1ヘクタール当たり20〜2000gであり、より好ましくは約200g程度である。本発明に用いられる寄生植物防除剤の施用量は、有効成分化合物の配合割合、気象条件、製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、防除対象病害、対象作物等により異なるが、通常種子重量当たり有効成分化合物として0.0001〜40%の範囲から適宜選択して施用すれば良く、好ましくは0.001〜10%の範囲が良い。粒剤や粉剤の通常処理や種子に処理する場合等では、種子粉衣、種子浸漬、種子コーティング等、製剤を希釈しないか又は高濃度の状態で処理することもある。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例につき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例において「部」は「重量部」を意味するものである。
【0028】
製剤例1
チアジニル 10部
キシレン 70部
N−メチルピロリドン 10部
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと
アルキルベンゼンスルホン酸カルシウムとの混合物 10部
以上を均一に混合溶解して乳剤とする。
製剤例2
チアジニル 3部
クレー粉末 82部
珪藻土粉末 15部
以上を均一に混合粉砕して粉剤とする。
【0029】
製剤例3
プロベナゾール 5部
ベントナイトとクレーの混合粉末 90部
リグニンスルホン酸カルシウム 5部
以上を均一に混合し、適量の水を加えて混練し、造粒、乾燥して粒剤とする。
製剤例4
N−(2−シアノフェニル)−
3,4−ジクロロイソチアゾール−5−カルボキサミド 20部
カオリンと合成高分散珪酸 75部
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと
アルキルベンゼンスルホン酸カルシウムとの混合物 5部
以上を均一に混合粉砕して水和剤とする。
【0030】
製造例5
チアジニル 10部
リグニンスルホン酸カルシウム 5部
ラウリル硫酸ナトリウム 3部
キサンタンガム 0.2部
ホワイトカーボン 5部
水 76.8部
以上を混合し、湿式粉砕をして懸濁剤とする。
【0031】
製造例6
チアジニル 20部
ポリエチレングリコールジアルキルアリールエーテル硫酸エステル
5部
リグニンスルホン酸カルシウム 10部
ケイソウ土 65部
以上をよく混合粉砕した後、少量の水を加えて混合捏和し、押出式造粒機で造粒し、乾燥して顆粒水和剤とする。
【0032】
寄生植物防除剤について、次の方法にて試験を行った。使用した薬剤は、有効成分としてチアジニル(TDN)、プロベナゾール(PBZ)、サリチル酸(SA)、2−クロロイソニコチン酸(INA)及びN−(2−シアノフェニル)−3,4−ジクロロイソチアゾール−5−カルボキサミド(CICA、CAS登録番号224049−04−1)を用いた。
【0033】
試験例1 種子浸漬処理
方法
赤クローバー種子を所定濃度に調製した薬液に24時間浸漬した。土壌を充填したポット(1/10000アール)に赤クローバー種子及びその周囲にヤセウツボ種子を播種し、温室内で栽培した。赤クローバーの生長、ヤセウツボ(Orobanche minor)の寄生数と生長を目視により観察した。ヤセウツボの生育は以下のように4段階で評価した。
【0034】

表1 寄生植物生育ステージ
S1:2mm以下の小塊茎
S2:2mm以上の小塊茎
S3:ある程度発達した不定根形成
S4:芽形成
【0035】
結果
TDN20ppm、INA200ppmの処理でヤセウツボの総寄生数に減少傾向が見られた。また、INA処理によるS4(芽形成)の減少が大きい。
【0036】

表2 赤クローバーへのヤセウツボ寄生に対する効果試験
(種子浸漬処理)
――――――――――――――――――――――――――――
薬剤 処理濃度 平均寄生数 S4芽形成
(ppm) 1株あたり 1株あたり
――――――――――――――――――――――――――――
TDN 2000 2.01 0.15
200 2.57 0.21
20 1.07 0.08
――――――――――――――――――――――――――――
PBZ 200 1.59 0.29
20 1.50 0.28
――――――――――――――――――――――――――――
INA 200 1.03 0.02
20 2.28 0.22
――――――――――――――――――――――――――――
SA 200 2.17 0.44
20 2.09 0.38
――――――――――――――――――――――――――――
無処理区 2.55 0.52
――――――――――――――――――――――――――――

【0037】
試験例2 土壌灌注処理
方法
土壌を充填したポット(1/10000アール)に赤クローバー種子及びその周囲にヤセウツボ種子を播種し、温室内で栽培した。播種10、20、30日後に20ml/ポットの割合で所定濃度に調製した薬液を灌注処理した。
結果
TDNで薬量相関的な低下が見られた。200ppm以上の濃度で効果的であった。TDN2000ppmではほとんど寄生が見られなかった。INA200ppm処理でやや寄生数が低下した。おおむね、すべての処理区でS4(芽形成)が減少した。
【0038】














表3 赤クローバーへのヤセウツボ寄生に対する効果試験
(土壌処理)
――――――――――――――――――――――――――――
薬剤 処理濃度 平均寄生数 S4芽形成
(ppm) 1株あたり 1株あたり
――――――――――――――――――――――――――――
TDN 2000 0.03 0.00
200 0.53 0.16
20 1.71 0.10
2 2.36 0.17
――――――――――――――――――――――――――――
PBZ 200 1.52 0.08
20 3.17 0.08
2 2.47 0.13
――――――――――――――――――――――――――――
INA 20 1.03 0.08
2 1.49 0.07
――――――――――――――――――――――――――――
SA 20 2.47 0.03
2 1.75 0.06
――――――――――――――――――――――――――――
無処理区 2.55 0.52
――――――――――――――――――――――――――――

【0039】
試験例3 茎葉散布処理
方法
土壌を充填したポット(1/10000アール)に赤クローバー種子及びその周囲にヤセウツボ種子を播種し、温室内で栽培した。赤クローバー1−2葉期から播種10、20、30日後に所定濃度に水で希釈した薬液をアトマイザーで十分量を茎葉に散布処理を行った。
結果
TDNで薬量相関的な低下が見られた。2000ppmで高い効果が認められた。しかしながら、土壌処理よりも寄生数は多かった。1回目のSA200ppm処理により2ポットで4/6および1/5の赤クローバーが枯死した。SA200ppmの寄生数は多かった。INAで寄生数が低下した。ただし200ppmの処理区では宿主の生長も抑制された。
【0040】












表4 赤クローバーへのヤセウツボ寄生に対する効果試験
(茎葉処理)
――――――――――――――――――――――――――――
薬剤 処理濃度 平均寄生数 S4芽形成
(ppm) 1株あたり 1株あたり
――――――――――――――――――――――――――――
TDN 2000 0.24 0.03
200 1.02 0.06
20 1.49 0.15
――――――――――――――――――――――――――――
PBZ 200 1.75 0.18
20 2.24 0.16
――――――――――――――――――――――――――――
INA 20 0.94 0.03
2 0.99 0.05
――――――――――――――――――――――――――――
SA 20 4.05 0.38
2 1.91 0.17
――――――――――――――――――――――――――――
無処理区 2.55 0.52
――――――――――――――――――――――――――――
【0041】
試験例4 種子浸漬処理
方法
赤クローバー種子を所定濃度に調製した薬液に24時間浸漬した。土壌を充填したポット(1/10000アール)に赤クローバー種子及びその周囲にヤセウツボ種子を播種し、温室内で栽培した。赤クローバーの生長、ヤセウツボ(Orobanche minor)の寄生数と生長を目視により観察した。
結果
TDN及びCICAのいずれの処理区でもヤセウツボの総寄生数及びS4芽形成に減少傾向が見られた。薬害はいずれの処理区でも認められなかった。
【0042】

表5 赤クローバーへのヤセウツボ寄生に対する効果試験
(種子浸漬処理)
――――――――――――――――――――――――――――
薬剤 処理濃度 平均寄生数 S4芽形成
(ppm) 1株あたり 1株あたり
――――――――――――――――――――――――――――
TDN 200 1.05 0.12
20 1.12 0.10
――――――――――――――――――――――――――――
CICA 200 1.15 0.09
20 1.36 0.11
――――――――――――――――――――――――――――
無処理区 2.08 0.45
――――――――――――――――――――――――――――

【0043】
試験例5 土壌灌注処理
方法
土壌を充填したポット(1/10000アール)に赤クローバー種子及びその周囲にヤセウツボ種子を播種し、温室内で栽培した。播種10、20、30日後に20ml/ポットの割合で所定濃度に調製した薬液を灌注処理した。
結果
TDN及びCICAとも2000、200ppmで寄生数の減少傾向が認められた。また、TDN及びCICAのすべての処理区でS4(芽形成)が減少した。尚、TDNの2000ppmでは強い薬害が、また、200ppmでは弱い薬害が認められ、CICAの2000ppmでも弱い薬害が認められた。症状はいずれも生育抑制であった。
【0044】

表6 赤クローバーへのヤセウツボ寄生に対する効果試験
(土壌処理)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
薬剤 処理濃度 平均寄生数 S4芽形成 薬害
(ppm) 1株あたり 1株あたり
――――――――――――――――――――――――――――――――――
TDN 2000 0.22 0.07 ++
200 1.55 0.11 +
20 2.22 0.13 −
――――――――――――――――――――――――――――――――――
CICA 2000 0.15 0.04 +
200 1.39 0.09 ±
20 1.99 0.10 −
――――――――――――――――――――――――――――――――――
無処理区 2.08 0.45 −
――――――――――――――――――――――――――――――――――

【0045】
試験例6 茎葉散布処理
方法
土壌を充填したポット(1/10000アール)に赤クローバー種子及びその周囲にヤセウツボ種子を播種し、温室内で栽培した。赤クローバーの1−2葉期から播種10、20、30日後に、所定濃度に水で希釈した薬液をアトマイザーで十分量を茎葉に散布処理を行った。
結果
TDN及びCICAとも2000ppmで寄生数の減少が認められたが、200ppm以下での減少傾向は不明瞭であった。また、TDN及びCICAとも2000,200ppmではS4芽形成で減少傾向があった。尚、いずれの処理区でも薬害は認められなかった。
【0046】








表7 赤クローバーへのヤセウツボ寄生に対する効果試験
(茎葉処理)
――――――――――――――――――――――――――――
薬剤 処理濃度 平均寄生数 S4芽形成
(ppm) 1株あたり 1株あたり
――――――――――――――――――――――――――――
TDN 2000 0.34 0.15
200 1.92 0.35
20 2.25 0.49
――――――――――――――――――――――――――――
CICA 2000 0.44 0.03
200 2.05 0.25
20 3.01 0.60
――――――――――――――――――――――――――――
無処理区 2.08 0.45
――――――――――――――――――――――――――――
【0047】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2006年7月13日出願の日本特許出願(特願2006−193083)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、作物に寄生する寄生植物を効果的に防除することのできる寄生植物防除剤及びその使用方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアジニル、プロベナゾール、2−クロロイソニコチン酸及びイソチアニルから選択される1又は2以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とする寄生植物防除剤。
【請求項2】
防除対象が根部寄生植物であることを特徴とする請求項1に記載の寄生植物防除剤。
【請求項3】
根部寄生植物がストライガ属又はオロバンキ属であることを特徴とする請求項2に記載の寄生植物防除剤。
【請求項4】
有効成分がチアジニルである請求項1乃至3いずれか1項に記載の寄生植物防除剤。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の寄生植物防除剤の有効成分量を被寄生植物又は土壌に処理することを特徴とする寄生植物防除剤の使用方法。
【請求項6】
被寄生植物又は土壌における処理が、被寄生植物が有効成分を根部から吸収できる土壌処理である請求項5に記載の寄生植物防除剤の使用方法。
【請求項7】
有効成分が寄生植物防除剤に対して0.01〜60重量%含まれることを特徴とする請求項請求項1乃至4いずれか1項に記載の寄生植物防除剤。
【請求項8】
有効成分が寄生植物防除剤に対して0.1〜50重量%含まれることを特徴とする請求項7に記載の寄生植物防除剤。
【請求項9】
有効成分量が、1ヘクタールあたり5.0〜5000gである請求項5または6に記載の寄生植物防除剤の使用方法。

【公開番号】特開2008−37864(P2008−37864A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182858(P2007−182858)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】