説明

密封小線源収容容器

【課題】125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器外への放射線の漏洩を防止し、かつ鉛に起因する環境汚染問題を軽減又は解消でき、しかも製造時の加工性に優れるという特徴を有する密封小線源収容容器を提供する。
【解決手段】
容器の全面が放射線の遮蔽材からなり、該遮蔽材の少なくとも一部が亜鉛及び/又は亜鉛合金である密封小線源収容容器。遮蔽材のすべてが亜鉛及び/又は亜鉛合金であるものが好ましい。密封小線源が、前立腺がんの治療のために人体に挿入される前のもの又は前立腺がんの治療のために人体に挿入された後、人体から脱落したものである場合にも適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封小線源収容容器に関するものである。更に詳しくは、本発明は、125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器外への放射線の漏洩を防止し、かつ鉛に起因する環境汚染問題を軽減又は解消でき、しかも製造時の加工性に優れるという特徴を有する密封小線源収容容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
がんの治療法のひとつとして密封小線源療法がある。これは、放射線を放出する密封小線源をがん病巣部分及び/又はがん病巣周辺部分に埋め込み、密封小線源から放出される放射線をがん病巣部分に照射することにより、がん細胞を壊滅させる治療法である。密封小線源療法は、特に前立腺がんの治療に汎用されている(「前立腺がんブラキセラピー」と呼ばれる。)(たとえば、非特許文献1参照。)。この場合、密封小線源(「シード」とも言う。)としては、長さ数ミリメートルで直径1ミリメートル程度の円柱形のチタン製のカプセル内に、銀製の短線に化学的に結合された放射線源である125I又は103Pdが密封されたものが用いられるのが一般である。密封小線源は、通常50〜100個程度が、前立腺のがん病巣部分及び/又はがん病巣周辺部分に埋め込まれ、いったん埋め込まれた密封小線源は、原則としてそのまま永久に体内に留め置かれる。
【0003】
ところで、密封小線源は放射線を放出するものであり、非使用時には放射線を遮蔽する能力を有する容器に収容して保管する必要がある。放射線を遮蔽する能力を有する容器としては、放射線の遮蔽材として知られる鉛が用いられたものが一般である(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
また、鉛以外の材料を用いた例として、ステンレスを用いた密封小線源の遮蔽材が開示されている(非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−540042号公報
【特許文献2】特開2004−151117号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本メジフィジック株式会社「前立腺がんの小線源療法」[平成23年2月16日検索]、インターネット<URL:http://www.nmp.co.jp/seed/about/brachytherapy.html>
【非特許文献2】”ONCURA RAPID Strand▲TM▼ Instructions for the use of Rapid Strand for Interstitial Brachytherapy Treatments”,[online],p.6,[平成23年4月13日検索]、インターネット<URL:http://www.oncura.net/media/pdf/RAPID−SPC.pdf>
【非特許文献3】株式会社メディコン、シードアプリケーター添付文書、[online]、[平成23年4月13日検索]、インターネット<http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/780045_27B1X00052000103_B_04_04.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、鉛は放射線の遮蔽効果には優れるものの、廃棄された場合、鉛により環境を汚染するという問題(鉛害問題)が発生する。タングステンやステンレスを用いると、上記の様な鉛による環境問題は回避できるものの、一般にこれらの材料は機械加工が必要となり、加工費が高くなる上、量産した場合であっても加工費自体は下がらないため、全体としてのコスト増は避けられないといった欠点がある。また、タングステンについては、材料そのものが高価であるといった欠点も有している。
【0008】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器外への放射線の漏洩を防止し、かつ鉛に起因する環境汚染問題を軽減又は解消でき、しかも製造時の加工性に優れるという特徴を有する密封小線源収容容器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器の全面が放射線の遮蔽材からなり、該遮蔽材の少なくとも一部が亜鉛及び/又は亜鉛合金である密封小線源収容容器に係るものである。
【0010】
従来、放射線を遮蔽する物質としては、鉛又はタングステンを用いることが一般的であり、それ以外の物質では十分な遮蔽効果が得られないため、遮蔽材としては用いられないと考えるのが技術常識であった。鉛、タングステン以外の材料としては、まれに、ステンレスを利用した例が開示されているに過ぎなかった。我々はこのような技術常識に反し、密封小線源、特に体内から脱落した密封小線源に対しては、成型加工が可能であり、加工性に優れる亜鉛又は亜鉛合金であっても十分な遮蔽効果を得ることができ、遮蔽材として用いることが可能であることを見出し、本発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器外への放射線の漏洩を防止し、かつ鉛に起因する環境汚染問題を軽減又は解消でき、しかも製造時の加工性に優れるという特徴を有する密封小線源収容容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の密封小線源収容容器の実施態様の例を示す図である。
【図2】実施例1で用いた本発明の密封小線源収容容器を示す図である。
【図3】実施例2における表面線量率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0014】
本発明の容器は、125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器である。
【0015】
密封小線源療法とは、前記のとおりであり、放射線を放出する密封小線源をがん病巣部分及び/又はがん病巣周辺部分に埋め込み、密封小線源から放出される放射線をがん病巣部分に照射することにより、がん細胞を壊滅させる治療法である。
【0016】
密封小線源療法は、特に前立腺がんの治療に汎用されている。以下、前立腺がんの治療を例にとって、本発明を説明する。
【0017】
放射線を放出する放射線源としては125I又は103Pdが用いられ、これらから放出される特性X線及びγ線が利用される。
【0018】
密封小線源としては、長さ数ミリメートルで直径1ミリメートル程度の円柱形のチタン製のカプセル内に、銀製の短線に化学的に結合された放射線源である125I又は103Pdが密封されたものが用いられる。密封小線源は通常50〜100個程度が、前立腺のがん病巣部分及び/又はがん病巣周辺部分に埋め込まれ、いったん埋め込まれた密封小線源は、原則としてそのまま永久に体内に留め置かれる。後述するように、体内に埋め込まれた密封小線源は、まれに脱落して体内に排出される場合があり、そのような場合、脱落した密封小線源からの放射線を遮蔽する容器に収容する必要がある。このような場合に脱落した密封小線源を収容する容器として、本発明に係る密封小線源収容容器を使用することができる。
【0019】
本発明の密封小線源収容容器は、容器の全面が放射線の遮蔽材からなり、該遮蔽材の少なくとも一部が亜鉛又は亜鉛合金であるものである。このような構造とすることにより、容器からの放射線の漏洩を防止できる。容器の全面とは、容器の上下面(天井面及び底面)及び側面を含むすべての面を言う。
【0020】
本発明の最大の特徴のひとつは、放射線の遮蔽材の少なくとも一部が亜鉛及び/又は亜鉛合金からなる点に存する。このことにより、遮蔽材として鉛を用いた場合に発生する鉛による環境汚染の問題を軽減又は解消することができるのである。該問題を完全に解消する観点からは、遮蔽材のすべてを亜鉛及び/又は亜鉛合金とすることが好ましい。
【0021】
亜鉛合金としては、亜鉛以外の金属成分として、アルミニウム2〜6重量%及びマグネシウム0.01〜0.08重量%を含有するものを用いることができる。亜鉛合金を用いることにより、純亜鉛を用いる場合に比べて、容器を製造する際の成形性を向上させることができる。
【0022】
本発明の密封小線源収容容器は、上記のとおり、亜鉛及び/又は亜鉛合金を用いることにより鉛による環境汚染を抑制するものであるが、本発明によらず、亜鉛及び/又は亜鉛合金以外の金属を用いた場合には次のとおりの不都合が発生する。すなわち、鉄、ステンレススチール、真鍮、銅等を用いた場合、放射線を十分に遮蔽するためには遮蔽材の厚さを亜鉛に比べて厚くする必要があり、容積及び重量が増加して、取り扱いに不便であると共に、容器の製造時に機械加工を行う必要があり、製造コストが高くなる。また、タングステンを用いた場合、焼結加工が必要であり、製造コストが高くなる。更に錫を用いた場合、錫は高価であると共に、放射線の遮蔽能力に劣る。それに対し、本発明による亜鉛及び/又は亜鉛合金を用いた場合は、鋳物加工が可能であり、製造コストの点で有利である。
【0023】
次に、本発明の密封小線源収容容器の好ましい実施態様及びその使用方法について説明する。
【0024】
本発明の密封小線源収容容器は、プラスチック製の外容器及びプラスチック製の内容器と組み合わせて用いるのが、取り扱いの点から好ましい(図1)。すなわち、外容器内に本発明の密封小線源収容容器を置き、該密封小線源収容容器内に内容器を置き、該内容器内に密封小線源を収納する。外容器及び内容器と本発明の密封小線源収容容器は相対的に移動自由でよく、固着させなくてもよい。外容器及び内容器は、各々その胴の部分と蓋の部分がネジ形式で開放と密閉が可能な構造とする。本発明の密封小線源収容容器も胴の部分と蓋の部分からなるが、胴と蓋は両者が密着する構造であればよく、ネジ形式としなくてもよい。使用時には、内容器の蓋を開放して密封小線源を入れ、内容器の蓋をネジで閉める。該内容器を本発明の密封小線源収容容器の胴の部分に入れ、蓋をする。該密封小線源収容容器を外容器の胴の部分に置き、蓋をネジで閉める。このとき、密封小線源収容容器の蓋の上面と外容器の蓋の下面が接する構造としておくことにより、外容器の蓋をネジ締めすることにより密封小線源収容容器の蓋が密封小線源収容容器の胴に圧着されて密閉される。
【0025】
本発明の密封小線源収容容器の大きさ及び形状は、要するに密封小線源を収容できればよいのであるが、たとえば、直径30〜40mm、高さ30〜40mmの円筒状のもの又は直径10〜20mm程度、長さ50〜150mm程度の長円筒状のものをあげることができる。密封小線源収容容器は胴体の部分と蓋の部分からなり、両者は密着可能な構造とする。ここで、密着可能な構造であればよく、必ずしもネジ構造等で密閉する必要はない。遮蔽材の厚さは1〜5mmであることが好ましい。該厚さが薄すぎると放射線の遮蔽能力が不十分になる場合があり、一方該厚さが厚すぎると重くなって取り扱いに不便であり、材料コストの点からも不都合である。
【0026】
外容器及び内容器の構造及び大きさは、上記の使用方法に適すればよく、制限はない。なお、プラスチックとしては、たとえばポリプロピレンをあげることができる。
【0027】
本発明の密封小線源収容容器は、前立腺がんの治療用の密封小線源を収容する目的に最適に使用される。ここで、前立腺がんの治療用の密封小線源としては、前立腺がんの治療のために人体に挿入される前のものであってもよい。ところで、前立腺がんの治療用の密封小線源は、前立腺のがん病巣部分及び/又はがん病巣周辺部分に埋め込まれ、いったん埋め込まれた密封小線源は、原則としてそのまま永久に体内に留め置かれるのであるが、体内に埋め込まれた密封小線源が尿と共に人体から外に排泄される場合があり、この排泄された密封小線源は「脱落線源」と呼ばれることがある。脱落線源は回収され、施術を受けた医療施設へ返還される。本発明の密封小線源収容容器は、医療施設に脱落線源を返還する際の脱落線源の一時保管容器としても最適に使用される。
【0028】
本発明の密封小線源収容容器を製造する方法には、制限はなく、亜鉛又は亜鉛合金を加工する通常の鋳物加工法を適用することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により説明する。
【0030】
実施例1、参考例1
密封小線源収容容器として、図2に示す構造ものを用いた。すなわち、容器の上下面の厚さが4mm、側面が厚さ2mmの亜鉛合金(アルミニウム3.5〜4.3重量%、マグネシウム0.02〜0.06重量%、残り亜鉛)からなり、直径36mm、高さ32mmの円筒状のものであり、蓋の部分は胴の部分と印籠じゃくりに形成されている。密封小線源としては、長さ4.6mm、直径0.8mmの円柱形のチタン製のカプセル内に、銀製の短線に化学的に結合された125Iが密封されたものを用いた。1個10MBqの密封小線源5個をプラスチック製の内容器(ポリプロピレン製、厚さ1mm、直径30mm、高さ20mmの上蓋付円筒状)に入れ、該内容器を前記の密封小線源収容容器に入れ、更にプラスチック製の外容器(ポリプロピレン製、厚さ1mm、直径40mm、高さ36mmの上蓋付円筒状)に収納して、漏洩放射線量の測定に供した。測定地点は、密封小線源収容容器の上面、側面及び底面の各面に対し、密着した地点及び1m離れた地点で行った。漏洩放射線量の測定は、電離箱測定器(INOVISION社製451B−DE−S1)で行った。
また、参考例1として、遮蔽材が鉛である容器を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
測定結果を表1に示した。この表から明らかなように、実施例1、参考例1共に、全ての測定地点において、漏洩放射線は検出されなかった。この結果から、本発明による亜鉛合金を遮蔽材とする密封小線源収容容器は、鉛を遮蔽材とする密封小線源収容容器と同等の漏洩放射線遮蔽効果を有することがわかる。
【0031】
【表1】

・表中の数値は各地点の測定値からバックグラウンド値を引いた値(単位 μSv/h)である。
・密封小線源収容容器の上蓋を開放した場合の容器上部表面(密着)での測定値は320μSv/hであった。
【0032】
実施例2
放射線源が125Iである場合の測定結果をもとにして、放射線源が103Pdである場合の容器表面線量率をシミュレーションにより求めた。なお、シミュレーションに使用した計算コードは高エネルギー加速器研究機構から公開されている、電子・光子モンテカルロ法シミュレーションコード EGS5 (H.Hirayama,Y.Namito,A.F.Bielajew,S.J.Wilderman and W.R.Nelson:The EGS5 Code System.SLAC−R−730 and KEK Report 2005−8:2005)を用いた。
シミュレーションの結果を図3に示した。図3から、亜鉛合金を遮蔽材とする本発明の密封小線源収容容器は、放射線源が125Iである場合と同様、放射線源が103Pdである場合にも十分な漏洩放射線遮蔽効果を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器外への放射線の漏洩を防止し、かつ鉛に起因する環境汚染問題を軽減又は解消でき、しかも製造時の加工性に優れるという特徴を有する密封小線源収容容器を提供することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 密封小線源
2 内容器(胴)(プラスチック)
3 内容器(蓋)(プラスチック)
4 密封小線源収容容器(胴)(亜鉛合金)
5 密封小線源収容容器(蓋)(亜鉛合金)
6 外容器(胴)(プラスチック)
7 外容器(蓋)(プラスチック)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
125I又は103Pdを放射線源とする密封小線源療法用の密封小線源を収容する容器であって、容器の全面が放射線の遮蔽材からなり、該遮蔽材の少なくとも一部が亜鉛及び/又は亜鉛合金である密封小線源収容容器。
【請求項2】
遮蔽材のすべてが亜鉛及び/又は亜鉛合金である請求項1記載の容器。
【請求項3】
密封小線源が、前立腺がんの治療用のものである請求項1記載の容器。
【請求項4】
密封小線源が、前立腺がんの治療のために人体に挿入される前のものである請求項3記載の容器。
【請求項5】
密封小線源が、前立腺がんの治療のために人体に挿入された後、人体から脱落したものである請求項3記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−230093(P2012−230093A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108769(P2011−108769)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【出願人】(511118090)エヌ・エム・ピイビジネスサポート株式会社 (4)
【Fターム(参考)】