密封構造及びシール材
【課題】相手部材の大きい撓みを吸収可能な弾性変形可能なシール材を有する密封構造を提供する。
【解決手段】被密封用平坦面5に対して、弾発的に接触する弯曲状の延伸リップ1を有し、この延伸リップ1は横断面薄肉C字型であり、かつ、付け根部に段差部19を有する。
【解決手段】被密封用平坦面5に対して、弾発的に接触する弯曲状の延伸リップ1を有し、この延伸リップ1は横断面薄肉C字型であり、かつ、付け根部に段差部19を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封構造及びシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、有機EL表示素子として、ガラス等の薄い基板に正孔注入電極と有機薄膜発光層と電子注入電極を順次積層した薄板状積層構造体を、気密に保つために、封止板を接着剤を介して接着したものが公知である(例えば特許文献1参照)。
即ち、浅皿状であって外鍔状フランジを上方開口端縁に有する封止板に対し、薄板状積層構造体を、上記外鍔状フランジに、接着剤と帯板状ガスケットとを介して、固着し、内部を真空又は非酸化・低湿雰囲気に、気密して、有機EL素子が構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−189191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の有機EL素子を含む各種の薄型ディスプレイに於て、最近はその縦横サイズが増加する傾向にあるが、薄型ディスプレイ自体の密封構造としては上述の帯板状ガスケットと接着剤であっても、ほとんど問題がなかった。
ところが、薄型ディスプレイを製造する工程に於て、ガラス等の薄い基板の一面に、(例えば、有機EL表示素子では、)正孔注入電極と有機薄膜発光層と電子注入電極を積層する等のために、ガラス等の薄い基板の外周端縁を、密封空間を有するチャンバーの開口端縁に対して、帯板状ガスケットやOリング等のシール材を介して、押付けて、気密を保つ必要がある。
【0005】
しかし、従来の上記シール材では、密封性を保つことが至難であった。特に、チャンバーの開口部が大きく、密封を要する周方向長さ寸法が長大であると、シール溝加工等の影響で、密封を要するチャンバー開口端縁に撓み(変形)が発生し、かつ、大面積の上記基板にも同様に撓み(変形)が発生し易く、従来の上記シール材では、つぶし量(つぶし代)が小さいので、上記撓みに追従不十分となって、気密を保ち得ないことがある。
しかも、基板が薄いガラスである場合、大きな荷重を掛けることができないので、一層、上記追従が不十分となり、密封性が得られないという問題が生じ、また、シールから基板に作用する反力が、従来の帯板状ガスケットやOリング等のシール材では、大きいので、薄いガラスの基板の反りが大きくなって、割れる虞もあった。
【0006】
そこで、本発明は、このような従来の問題点を解決して、割れ易い薄いガラス等の基板に対する密封を、該基板に割れ等の損傷を発生させずに、小さな荷重を掛けるだけで、確実に行い得る密封構造を、提供することを、目的とする。
さらに、外周長が例えば 400mmを越える大面積の薄いガラス基板であって、チャンバー内を真空引きした場合等に大きな撓み(変形)を発生し、かつ、チャンバー開口端縁にも大きな撓み(変形)を生じていても、これ等の撓みを吸収して、安定して確実な密封性能を発揮する密封構造及びシール材を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、被密封用平坦面に弾発的に接触する延伸リップを有するシール材を具備している密封構造である。
また、シール材が取着される取付部材と、被密封用平坦面を有する相手部材の間を密封する密封構造に於て、上記シール材は、上記被密封用平坦面に弾発的に接触する延伸リップと、上記取付部材に固定される取着部と、を具備し、上記延伸リップの一面側にて高圧側流体を受圧して該リップの他面側を上記被密封用平坦面に対して所定幅の帯状平面をもって密接状態として密封するように構成した。
また、上記延伸リップは、上記一面側を凹状弯曲内面側とする弯曲状リップであり、該一面側に於て、上記弯曲状リップの付け根部に段差部又は小凹溝部を形成したものである。
または、上記延伸リップは、上記一面側へ付け根部が折曲ってから先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップであり、該一面側に於て、上記付け根部に段差部又は小凹溝部を形成したものである。
また、本発明に係るシール材は、高圧側流体を受圧する一面側の付け根部に、段差部又は小凹溝部を有する弯曲状リップ又は屈折ストレート状リップを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の密封構造によれば、延伸リップは弾性的に大きなつぶし代を有し、被密封用平坦面(例えば、薄いガラス基板)に撓みが存在していても、弾性変形しつつ十分に追従できる。従って、常に安定した密封性(気密性)を発揮することが可能となる。また、シール材が取着される取付部材側に撓み(変形)が存在している場合も、同様に、延伸リップは十分な弾性変形をもって十分に追従して、安定した密封性(気密性)を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シール材の全体の平面図である。
【図2】図1の(イ−イ)断面拡大図である。
【図3】装着状態説明用要部拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の一形態を示す要部断面図である。
【図5】作用説明のための要部拡大断面図である。
【図6】変形例を示す要部拡大断面図である。
【図7】シール材の具体的な一形状についてのFEM解析による面圧分在グラフ図である。
【図8】シール材の具体的な別の形状についてのFEM解析による面圧分在グラフ図である。
【図9】つぶし量と単位長さ当たりの反力の関係を示すグラフ図である。
【図10】他の種々の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態を示す要部拡大断面説明図である。
【図12】本発明の別の実施の形態を示す要部拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1に示すように、本発明に係る密封構造に用いられるシール材Sは、全体の平面視形状は、円形(図1(A))や略矩形(図1(B))や楕円形(図示省略)等であり、図1(A)(B)各々の(イ−イ)拡大断面図としての図2、及び、使用(装着)状態を示す図3及び図4に示すように、シール材Sは、被密封用平坦面5に弾発的に接触する延伸リップ1を有し、かつ、取付部材10に取着(固定)される取着部11を有する。
延伸リップ1は、図1〜図6では、高圧側流体Eを受ける一面側31を凹状弯曲内面側2とする弯曲リップ1Aの場合を例示する。また、弯曲リップ1Aは、高圧側に弯曲状であるということができる。
【0011】
本発明に係る密封構造は、シール材Sが取着される取付部材10と、被密封用平坦面5を有する相手部材4の間を、密封するものである。シール材Sの延伸リップ1(弯曲状リップ1A)は、横断面薄肉C字型であり、具体的に、この延伸リップ1(弯曲状リップ1A)の肉厚寸法をTとし、その肉厚の中央線にて測定した(C字型の)弧の長さ寸法をLとする(図2,図6(A)参照)と、次の数式1を充足するように設定する。
[数1]
4.0≦L/T≦ 8.0
即ち、本発明に於て、延伸リップ1が弯曲状リップ1Aである場合では、「延伸」とは、上記数式1を満たすように、肉厚に比べてその弧の長さが十分大きいことをいう。
【0012】
そして、延伸リップ1(弯曲状リップ1A)の凹状弯曲内面側2(一面側31)にて、図5(C)又は(D)の如く、高圧側流体Eを受圧して、リップ1の凸状弯曲外面側3を、相手部材4の平坦面5に対して密接状態として密封するが、自由状態では、図2と図3のように、外面側3(他面側33)は凸状弯曲状であったが、密接状態下では、図5(C)又は(D)のように所定幅W3 の帯状平面6をもって被密封用平坦面5に接触(密接)する。
図5(C),(D)に於て、圧力Pが、延伸リップ1(弯曲状リップ1A)の凹状弯曲内面側2に作用している状態を示し、上記圧力Pとしては、大気圧程度が望ましいが、大気圧の3倍(3atm )程度まで適用可能ではある。
【0013】
ところで、シール材Sの材質は、ゴム又はプラスチック等の弾性材であって、ふっ素ゴム,ブチルゴム,ニトリルゴム,シリコーンゴム等が適用できる。また、シール材Sは横断面に於て、(図2〜図5に示した実施の一形態では、)延伸リップ1と取着部11とを、中間肉厚寸法T7 を有する中間部7にて連結され、中間部7の背面7Aと取着部11の背面11Aとは、一直線を描くように同一平面上にある。また、取着部11は横断面直角三角形であり、十分に断面積が大きく、膨出状基部を成し、底面8と背面11Aは90°を成し、取付部材10の第1平面21と第2平面22を直交状に結ぶ起立面23に背面11A,7Aが密接状に対向し、底面8は第1平面21に密接し、(上述の)90°を成す底面8と背面11Aの角部24は、第1平面21と起立面23によって形成される隅部25に密接する。
【0014】
9はシール固定部材であり、シール材Sの取着部11の傾斜面12を押圧する傾斜状押圧面13を有する。この傾斜状押圧面13と第1平面21と起立面23にて台形蟻溝型のシール保持凹溝14が、包囲状に形成される。
【0015】
ところで、図4に示す実施の形態では、有機EL表示素子やその他の薄型ディスプレイ素子を製造する装置の一部を示し、前記相手部材4が肉厚寸法T4 が約 1.0mm〜 3.0mmの薄いガラス基板の場合を示し、かつ、取付部材10が、密封空間15を有するチャンバー16の大きな開口端縁部16Aの場合を示す。
このチャンバー16の開口端縁部16Aは、平面視円形や矩形や長円形等の閉環状であって、所定幅寸法W16の平坦面(第2平面22)を上面に有し、この平坦面(第2平面22)に対して、ガラス基板(相手部材4)を、押え部材17にて矢印J方向に押え付けて、そのガラス基板(相手部材4)の外周端縁の下面(平坦面5)を、シール材Sの延伸リップ1(弯曲状リップ1A)にて弾発的に受けて、図3から図4の状態とする。
【0016】
図3と図4に於て、チャンバー16の開口端縁部16Aは、所定幅寸法W16の凸状に、起立面23をもって形成され、この起立面23に背面7A,11Aが密接状にシール材Sが固定部材9にて固着され、第2平面22よりも凸状弯曲外面側3が上方へ予め突出するように配設され、矢印J方向に押付けられてくるガラス基板(相手部材4)の下面(平坦面5)を、この凸状弯曲外面側3(他面側33)にて弾発的に受持する。
【0017】
このような薄型ディスプレイ素子を製造するために薄いガラス基板の下面に発光層等を積層する工程に於て、密封空間15の気体を吸収し(排出し)、真空状態とする。
即ち、図5(B)から(D)のように、矢印Kの方向に吸引されることで、大気圧(1atm )の圧力Pが、リップ1の凹状弯曲内面側2に作用して、リップ1は所定幅W3 だけストレート状にガラス基板の下面に密接し、大気のチャンバー密封空間15への浸入を防止する密封作用をなす。
【0018】
上記ガラス基板は、最近、縦横各寸法が1000mmを越える場合も多く、密封すべき外周端縁18の長さ寸法が4000mmを越えることとなる。従って、チャンバー16の開口端縁部16Aの第2平面22(上面)が(完全平面状ではなく)上下に寸法誤差を生じることがあったり、ガラス基板(相手部材4)が面状撓み(変形)を生ずることがあり、真空引き前であっても、図5(A)に示すように、間隙Gを発生する部位と、図5(B)に示すように間隙ゼロとして、第2平面22(上面)にガラス基板下面が接触する部位とが、生ずるが、本発明では、弧の長さ寸法Lが十分に大きい延伸リップ1(弯曲状リップ1A)は十分なつぶし量を備え、余裕をもって、図5(A)と(B)のように、間隙Gの大小に対応できる。従って、真空引きが迅速かつ確実に行い得る。
【0019】
そして、密封空間15内の真空引きによって、薄いガラス基板(相手部材4)が上方からの大気圧を受けて、面状撓み(変形)を発生し、前記の元々の撓みに加重され、図5(C)と(D)に示すように、間隙Gが大小様々な状態となるが、矢印Pにて示すように大気圧を受けて、リップ1は大きく弾性的に変形自在なため、ガラス基板(相手部材4)の下面(平坦面5)に十分な所定幅W3 をもって密接し、間隙Gからの大気浸入を阻止し、優れた密封作用(シール性)をなすことができる。
【0020】
さらに、起立面23に沿った中間部7は、十分に背が高いので、この中間部7の弾性圧縮変形によって、図5の(A)と(B)、及び、(C)と(D)に示したようなガラス基板下面(被密封用平坦面5)の上下位置の相違する変形―――撓み―――に、一層確実に対応できる。
【0021】
例えば、自由状態の図2に於て、この中間部7の肉厚寸法をT7 とし、高さ寸法(長さ寸法)をL7 とすると、次の数式2が成立するように設定するのが望ましい。
[数2]
3.0≦L7 /T7 ≦ 5.0
また、図2〜図5に於て、段差部19をもって、中間部7の肉厚寸法T7 よりも、リップ1の肉厚寸法Tを小さく設定するのが望ましい。
【0022】
大気圧(1atm )よりも小さな圧力差を受圧力Pとして、リップ1がその凹状弯曲内面側2にて受圧する際に、このような小さな受圧力Pであっても、図5(C)(D)に示す如く、弾性的に変形して、確実に、ガラス基板(相手部材4)の下面(平坦面)5と、起立面23との隅部の密封作用をなす。
【0023】
なお、図6(A)は、既述の図2〜図5の延伸リップ1(弯曲状リップ1A)を示し、小凹弧状の段差部19にて、中間部7の肉厚寸法T7 よりも、肉厚寸法Tが小さく形成されている。これに対し、図6(B)では、延伸リップ1の肉厚寸法Tを中間部7の肉厚寸法T7 と略同一に設定すると共に、延伸リップ1の付け根部において、凹状弯曲内面側2に、小凹溝部20を設けている。この小凹溝部20によって、弾性変形を容易に行わしめて、図5(A)〜(D)にて述べたような撓みや変形に、柔軟に対応させている。
【0024】
なお、本発明は、図6(C)に示すように((A)(B)に示した)中間部7を省略して、取着部11から直接的に、延伸リップ1を延設するも、自由であり、この図6(C)では付け根部に小凹溝部20を形成している場合を例示した。また、取着部11としては、横断面矩形としても良いことを示す。
【0025】
次に、図7と図8は、流体圧力が作用する以前の状態(未受圧状態という)において、相手部材4の被密封用平坦面5を、取付部材10の第2平面22に当接させた状態の、リップ1の凸状弯曲外面側3と、被密封用平坦面5との接触面圧分布Px ,Py を各々示すグラフ図である。
図8は、図2〜図5で既述した段差部19にて延伸リップ1の肉厚寸法Tを(中間部7の肉厚寸法T7 よりも)小さく設定した場合であり、図7は、延伸リップ1の肉厚寸法Tが中間部7の肉厚寸法T7 と略同一のままで、又は、先端に向かってしだいに減少させた場合である。
図7の実施品の接触面圧分布Px よりも、図8の実施品の面圧分布Py の方が、(最大面圧値は同一であるにかかわらず)シャープな山型を示して、これによって面積が小さくなっている。即ち、面積が小さいということは、延伸リップ1が被密封用平坦面5に与える(作用する)弾性的反発力が小さいことを意味する。
【0026】
図9は、図7と図8の実施品のシール材Sであって、高さ寸法が12mmのものについて、つぶし量と単位長さ当たりの反力の関係を実測したグラフ図である。図9の横軸のつぶし量とは、図2と図3に例示した自由状態から、相手部材4を(図3の矢印J方向に)接近させて、初めて凸状弯曲外面側3に接触した状態をつぶし量「零」として、しだいに延伸リップ1を圧縮する場合の下方への移動量に相当する。また、図1に示すようにシール材Sの全体は閉じた環状であるが、その周方向に測定した単位長さ(単位:mm)当たりの反力(単位:g)を、図9の縦軸に示す。この図9から、図7の実施品よりも図8の実施品の単位長さ当たりの反力が小さいことが判る。
【0027】
図8の実施品は、図7の実施品よりも、シール材Sとして、相手部材4の被密封用平坦面5に与える反力が小さく、例えば、図4で説明したような、大面積の薄型ディスプレイ用の肉厚寸法T4 の極めて薄いガラス基板の相手部材4であれば、その割れ破損を防ぐうえで、望ましい。
なお、図10(A)(B)(C)に示すように、本発明のシール材Sの取着部11の横断面形状は種々設計変更自由であり、かつ、取付部材10側のシール保持凹溝14の形状も、種々変更自由である。
【0028】
次に、図11,図12は、各々、さらに他の実施の形態を示す拡大断面説明図である。
図11(A)と図12(A)に示す自由状態において、延伸リップ1は、付け根部が折曲って、先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップ1Bの場合を示す。図11(C)と図12(C)のように、高圧側の流体Eに対応した一面側31へ、図11(A)と図12(A)の自由状態下で折曲っている。
しかも、図11では、付け根部に段差部19を形成して、T<T7 となるように、先端側の屈折ストレート状リップ1Bの肉厚寸法Tを、中間部肉厚寸法T7 よりも十分に薄く設定する。図12では、T=T7 として、一面側31の付け根部に小凹溝部20を形成している。なお、図12に於て、T<T7 とするも好ましい(図示省略)。
自由状態下で、屈折ストレート状リップ1Bの、中間部7の背面7Aに対する屈折角度βは、45°〜70°が好ましく、特に、50°〜60°とするのが良い(図11(A),図12(A)参照)。
【0029】
そして、屈折ストレート状リップ1Bの肉厚寸法をTとし、その肉厚の中央線にて測定した長さ寸法Lとした場合、次の数式1を充足する。
[数1]
4.0≦L/T≦ 8.0
即ち、本発明に於て、延伸リップ1が屈折ストレート状リップ1Bである場合も、「延伸」とは、上記数式1を満たすように、肉厚に比べてその弧の長さを十分に大きいことをいう。
【0030】
そして、屈折ストレート状リップ1Bの一面側31に、高圧側の流体Eを受圧すると、図11(B)と図12(B)の矢印Y方向へ付け根部とその近傍が弾性的に(引張られて)伸長し、図11(C)と図12(C)のように、相手部材4の平坦面5に対して、他面側33が密接して、密封作用をなす。つまり、圧力Pが一面側31に作用して、密接状態(密封状態)では、既述の図5(C)(D)と同様の断面形状となる。それ以外の構成と作用(効果)は、図1〜図8で説明した場合と同様である。
【0031】
本発明は、図4等にて説明したように、薄くかつ大面積のガラス基板等の相手部材4が、チャンバー16の密封空間15を真空状態となるように吸引した際に、その外周端縁18が撓み(変形)を発生し、外周端縁18に沿って被密封用平坦面5の上下位置が変化しても、薄肉C字型横断面形状の弯曲状リップ1A、又は、屈折ストレート状リップ1Bは、図5(C)及び(D)、又は、図11(C)と図12(C)に示す如く、自由自在に(余裕をもって)弾性変形して、対応でき、常に良好なシール性能を発揮し、大気の浸入を阻止する。本発明のシール材Sは、延伸リップ1が柔軟な弾性変形を生ずることによって、上記撓み(変形)を十分に吸収できる。
【0032】
なお、チャンバー16側も大型化するに伴って、寸法誤差や変形も増加して、シール材Sの取着高さが周方向に沿って変化して、同様に、シール材Sと被密封用平坦面5との相対的寸法が相違を生ずることがある。この場合も同様に、本発明のシール材Sの延伸リップ1が柔軟に弾性変形を生じて、十分に対応できる。又は、図4の具体例では、押え部材17による矢印J方向の押え力によって、薄いガラス基板等の相手部材4が反り返る等の変形(撓み)を発生する場合も、同様に本発明によって十分に優れたシール性能を維持することができる。
【0033】
そして、上記リップ1の付け根部が連設される中間部7は、鉛直状起立面23に接触する背面7Aを有すると共に、上下高さ寸法が十分に大きく形成されているので、上下方向への弾性的圧縮伸長変形が十分に行われ、上述の撓みの吸収作用や、周方向に沿っての平坦面5とシール材Sとの相対的寸法の相違への対応作用等を、一層強化できる。
【0034】
本発明に係るシール材Sの延伸リップ1は、取付部材10の起立面23と、これと直交方向の被密封用平坦面5との直角状隅部を、図5,図11,図12に示したように、(大気圧等の)高圧側の圧力Pを受けると、弾性的に、十分なつぶし量をもって、柔軟に対応し、巧妙な密封性(シール性能)を発揮するものである。なお、密封空間15が真空である場合に限らず、密封空間15の圧力が、外側の圧力よりも、低い箇所であれば、本発明を適用可能である。また、本発明に係る密封構造は、図4で述べたような各種薄型ディスプレイの製造装置(チャンバー16)に限定されず、密封容器、密封搬送容器に適用したり、あるいは、薄型ディスプレイ等の製品自体の密封部位に適用するも自由である。
【0035】
本発明は以上述べたように、被密封用平坦面5に弾発的に接触する弯曲状又は屈折ストレート状の延伸リップ1を有するシール材Sを具備している構成であるので、被密封用平坦面5の相対的撓みや変位に対して、リップ1は弾性的に変形しつつ柔軟に対応できる(吸収可能である)。
【0036】
また、シール材Sが取着される取付部材10と、被密封用平坦面5を有する相手部材4の間を密封する密封構造に於て、上記シール材Sは、上記被密封用平坦面5に弾発的に接触する延伸リップ1と、上記取付部材10に固定される取着部11と、を具備し、上記延伸リップ1の一面側31にて高圧側流体Eを受圧して該リップ1の他面側33を上記被密封用平坦面5に対して所定幅W3 の帯状平面6をもって密接状態として密封するように構成したので、全周にわたって安定した密封性(シール性能)を発揮でき、かつ、特に大きい相対的撓み(変位)を吸収して、特に、3atm 以下の低圧力密封に好適である。さらに、薄肉のガラス基板の外周縁を、真空状態とした密封空間に対して、大気から遮断して密封するのに、特に好適である。
【0037】
また、上記延伸リップ1は、上記一面側31を凹状弯曲内面側2とする弯曲状リップ1Aであり、該一面側31に於て、上記弯曲状リップ1Aの付け根部に段差部19又は小凹溝部20を形成したので、つぶし量に対する単位長さ当たりの反力を低減できる。これによって、相手部材4が薄いガラス基板等である場合に、その破損を防止できる。
また、上記延伸リップ1は、上記一面側31へ付け根部が折曲ってから先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップ1Bであり、該一面側31に於て、上記付け根部に段差部19又は小凹溝部20を形成したので、つぶし量に対する単位長さ当たりの反力が小さくなり、相手部材4が薄いガラス基板等であっても、その破損を有効に防ぎ得る。
また、上記延伸リップ1は、横断面薄肉C字型とすれば、上述の撓み(変形)や変位に柔軟に対応可能となり、反力も低減できる。
【0038】
また、本発明に係るシール材は、高圧側流体Eを受圧する一面側31の付け根部に、段差部19又は小凹溝部20を有する弯曲状リップ1A又は屈折ストレート状リップ1Bを有する構成であるので、(図5及び図11,図12に示す如く)圧力Pを受けて弾性変形しやすく、薄肉のガラス基板の外周縁を、真空状態とした密封空間に対して、大気から遮断して密封するのに、特に好適である。
【符号の説明】
【0039】
1 延伸リップ
1A 弯曲状リップ
1B 屈折ストレート状リップ
2 凹状弯曲内面側
3 凸状弯曲外面側
4 相手部材
5 被密封用平坦面
6 帯状平面
10 取付部材
11 取着部
20 小凹溝部
31 一面側
33 他面側
S シール材
W3 所定幅
【技術分野】
【0001】
本発明は密封構造及びシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、有機EL表示素子として、ガラス等の薄い基板に正孔注入電極と有機薄膜発光層と電子注入電極を順次積層した薄板状積層構造体を、気密に保つために、封止板を接着剤を介して接着したものが公知である(例えば特許文献1参照)。
即ち、浅皿状であって外鍔状フランジを上方開口端縁に有する封止板に対し、薄板状積層構造体を、上記外鍔状フランジに、接着剤と帯板状ガスケットとを介して、固着し、内部を真空又は非酸化・低湿雰囲気に、気密して、有機EL素子が構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−189191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の有機EL素子を含む各種の薄型ディスプレイに於て、最近はその縦横サイズが増加する傾向にあるが、薄型ディスプレイ自体の密封構造としては上述の帯板状ガスケットと接着剤であっても、ほとんど問題がなかった。
ところが、薄型ディスプレイを製造する工程に於て、ガラス等の薄い基板の一面に、(例えば、有機EL表示素子では、)正孔注入電極と有機薄膜発光層と電子注入電極を積層する等のために、ガラス等の薄い基板の外周端縁を、密封空間を有するチャンバーの開口端縁に対して、帯板状ガスケットやOリング等のシール材を介して、押付けて、気密を保つ必要がある。
【0005】
しかし、従来の上記シール材では、密封性を保つことが至難であった。特に、チャンバーの開口部が大きく、密封を要する周方向長さ寸法が長大であると、シール溝加工等の影響で、密封を要するチャンバー開口端縁に撓み(変形)が発生し、かつ、大面積の上記基板にも同様に撓み(変形)が発生し易く、従来の上記シール材では、つぶし量(つぶし代)が小さいので、上記撓みに追従不十分となって、気密を保ち得ないことがある。
しかも、基板が薄いガラスである場合、大きな荷重を掛けることができないので、一層、上記追従が不十分となり、密封性が得られないという問題が生じ、また、シールから基板に作用する反力が、従来の帯板状ガスケットやOリング等のシール材では、大きいので、薄いガラスの基板の反りが大きくなって、割れる虞もあった。
【0006】
そこで、本発明は、このような従来の問題点を解決して、割れ易い薄いガラス等の基板に対する密封を、該基板に割れ等の損傷を発生させずに、小さな荷重を掛けるだけで、確実に行い得る密封構造を、提供することを、目的とする。
さらに、外周長が例えば 400mmを越える大面積の薄いガラス基板であって、チャンバー内を真空引きした場合等に大きな撓み(変形)を発生し、かつ、チャンバー開口端縁にも大きな撓み(変形)を生じていても、これ等の撓みを吸収して、安定して確実な密封性能を発揮する密封構造及びシール材を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、被密封用平坦面に弾発的に接触する延伸リップを有するシール材を具備している密封構造である。
また、シール材が取着される取付部材と、被密封用平坦面を有する相手部材の間を密封する密封構造に於て、上記シール材は、上記被密封用平坦面に弾発的に接触する延伸リップと、上記取付部材に固定される取着部と、を具備し、上記延伸リップの一面側にて高圧側流体を受圧して該リップの他面側を上記被密封用平坦面に対して所定幅の帯状平面をもって密接状態として密封するように構成した。
また、上記延伸リップは、上記一面側を凹状弯曲内面側とする弯曲状リップであり、該一面側に於て、上記弯曲状リップの付け根部に段差部又は小凹溝部を形成したものである。
または、上記延伸リップは、上記一面側へ付け根部が折曲ってから先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップであり、該一面側に於て、上記付け根部に段差部又は小凹溝部を形成したものである。
また、本発明に係るシール材は、高圧側流体を受圧する一面側の付け根部に、段差部又は小凹溝部を有する弯曲状リップ又は屈折ストレート状リップを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の密封構造によれば、延伸リップは弾性的に大きなつぶし代を有し、被密封用平坦面(例えば、薄いガラス基板)に撓みが存在していても、弾性変形しつつ十分に追従できる。従って、常に安定した密封性(気密性)を発揮することが可能となる。また、シール材が取着される取付部材側に撓み(変形)が存在している場合も、同様に、延伸リップは十分な弾性変形をもって十分に追従して、安定した密封性(気密性)を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シール材の全体の平面図である。
【図2】図1の(イ−イ)断面拡大図である。
【図3】装着状態説明用要部拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の一形態を示す要部断面図である。
【図5】作用説明のための要部拡大断面図である。
【図6】変形例を示す要部拡大断面図である。
【図7】シール材の具体的な一形状についてのFEM解析による面圧分在グラフ図である。
【図8】シール材の具体的な別の形状についてのFEM解析による面圧分在グラフ図である。
【図9】つぶし量と単位長さ当たりの反力の関係を示すグラフ図である。
【図10】他の種々の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態を示す要部拡大断面説明図である。
【図12】本発明の別の実施の形態を示す要部拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1に示すように、本発明に係る密封構造に用いられるシール材Sは、全体の平面視形状は、円形(図1(A))や略矩形(図1(B))や楕円形(図示省略)等であり、図1(A)(B)各々の(イ−イ)拡大断面図としての図2、及び、使用(装着)状態を示す図3及び図4に示すように、シール材Sは、被密封用平坦面5に弾発的に接触する延伸リップ1を有し、かつ、取付部材10に取着(固定)される取着部11を有する。
延伸リップ1は、図1〜図6では、高圧側流体Eを受ける一面側31を凹状弯曲内面側2とする弯曲リップ1Aの場合を例示する。また、弯曲リップ1Aは、高圧側に弯曲状であるということができる。
【0011】
本発明に係る密封構造は、シール材Sが取着される取付部材10と、被密封用平坦面5を有する相手部材4の間を、密封するものである。シール材Sの延伸リップ1(弯曲状リップ1A)は、横断面薄肉C字型であり、具体的に、この延伸リップ1(弯曲状リップ1A)の肉厚寸法をTとし、その肉厚の中央線にて測定した(C字型の)弧の長さ寸法をLとする(図2,図6(A)参照)と、次の数式1を充足するように設定する。
[数1]
4.0≦L/T≦ 8.0
即ち、本発明に於て、延伸リップ1が弯曲状リップ1Aである場合では、「延伸」とは、上記数式1を満たすように、肉厚に比べてその弧の長さが十分大きいことをいう。
【0012】
そして、延伸リップ1(弯曲状リップ1A)の凹状弯曲内面側2(一面側31)にて、図5(C)又は(D)の如く、高圧側流体Eを受圧して、リップ1の凸状弯曲外面側3を、相手部材4の平坦面5に対して密接状態として密封するが、自由状態では、図2と図3のように、外面側3(他面側33)は凸状弯曲状であったが、密接状態下では、図5(C)又は(D)のように所定幅W3 の帯状平面6をもって被密封用平坦面5に接触(密接)する。
図5(C),(D)に於て、圧力Pが、延伸リップ1(弯曲状リップ1A)の凹状弯曲内面側2に作用している状態を示し、上記圧力Pとしては、大気圧程度が望ましいが、大気圧の3倍(3atm )程度まで適用可能ではある。
【0013】
ところで、シール材Sの材質は、ゴム又はプラスチック等の弾性材であって、ふっ素ゴム,ブチルゴム,ニトリルゴム,シリコーンゴム等が適用できる。また、シール材Sは横断面に於て、(図2〜図5に示した実施の一形態では、)延伸リップ1と取着部11とを、中間肉厚寸法T7 を有する中間部7にて連結され、中間部7の背面7Aと取着部11の背面11Aとは、一直線を描くように同一平面上にある。また、取着部11は横断面直角三角形であり、十分に断面積が大きく、膨出状基部を成し、底面8と背面11Aは90°を成し、取付部材10の第1平面21と第2平面22を直交状に結ぶ起立面23に背面11A,7Aが密接状に対向し、底面8は第1平面21に密接し、(上述の)90°を成す底面8と背面11Aの角部24は、第1平面21と起立面23によって形成される隅部25に密接する。
【0014】
9はシール固定部材であり、シール材Sの取着部11の傾斜面12を押圧する傾斜状押圧面13を有する。この傾斜状押圧面13と第1平面21と起立面23にて台形蟻溝型のシール保持凹溝14が、包囲状に形成される。
【0015】
ところで、図4に示す実施の形態では、有機EL表示素子やその他の薄型ディスプレイ素子を製造する装置の一部を示し、前記相手部材4が肉厚寸法T4 が約 1.0mm〜 3.0mmの薄いガラス基板の場合を示し、かつ、取付部材10が、密封空間15を有するチャンバー16の大きな開口端縁部16Aの場合を示す。
このチャンバー16の開口端縁部16Aは、平面視円形や矩形や長円形等の閉環状であって、所定幅寸法W16の平坦面(第2平面22)を上面に有し、この平坦面(第2平面22)に対して、ガラス基板(相手部材4)を、押え部材17にて矢印J方向に押え付けて、そのガラス基板(相手部材4)の外周端縁の下面(平坦面5)を、シール材Sの延伸リップ1(弯曲状リップ1A)にて弾発的に受けて、図3から図4の状態とする。
【0016】
図3と図4に於て、チャンバー16の開口端縁部16Aは、所定幅寸法W16の凸状に、起立面23をもって形成され、この起立面23に背面7A,11Aが密接状にシール材Sが固定部材9にて固着され、第2平面22よりも凸状弯曲外面側3が上方へ予め突出するように配設され、矢印J方向に押付けられてくるガラス基板(相手部材4)の下面(平坦面5)を、この凸状弯曲外面側3(他面側33)にて弾発的に受持する。
【0017】
このような薄型ディスプレイ素子を製造するために薄いガラス基板の下面に発光層等を積層する工程に於て、密封空間15の気体を吸収し(排出し)、真空状態とする。
即ち、図5(B)から(D)のように、矢印Kの方向に吸引されることで、大気圧(1atm )の圧力Pが、リップ1の凹状弯曲内面側2に作用して、リップ1は所定幅W3 だけストレート状にガラス基板の下面に密接し、大気のチャンバー密封空間15への浸入を防止する密封作用をなす。
【0018】
上記ガラス基板は、最近、縦横各寸法が1000mmを越える場合も多く、密封すべき外周端縁18の長さ寸法が4000mmを越えることとなる。従って、チャンバー16の開口端縁部16Aの第2平面22(上面)が(完全平面状ではなく)上下に寸法誤差を生じることがあったり、ガラス基板(相手部材4)が面状撓み(変形)を生ずることがあり、真空引き前であっても、図5(A)に示すように、間隙Gを発生する部位と、図5(B)に示すように間隙ゼロとして、第2平面22(上面)にガラス基板下面が接触する部位とが、生ずるが、本発明では、弧の長さ寸法Lが十分に大きい延伸リップ1(弯曲状リップ1A)は十分なつぶし量を備え、余裕をもって、図5(A)と(B)のように、間隙Gの大小に対応できる。従って、真空引きが迅速かつ確実に行い得る。
【0019】
そして、密封空間15内の真空引きによって、薄いガラス基板(相手部材4)が上方からの大気圧を受けて、面状撓み(変形)を発生し、前記の元々の撓みに加重され、図5(C)と(D)に示すように、間隙Gが大小様々な状態となるが、矢印Pにて示すように大気圧を受けて、リップ1は大きく弾性的に変形自在なため、ガラス基板(相手部材4)の下面(平坦面5)に十分な所定幅W3 をもって密接し、間隙Gからの大気浸入を阻止し、優れた密封作用(シール性)をなすことができる。
【0020】
さらに、起立面23に沿った中間部7は、十分に背が高いので、この中間部7の弾性圧縮変形によって、図5の(A)と(B)、及び、(C)と(D)に示したようなガラス基板下面(被密封用平坦面5)の上下位置の相違する変形―――撓み―――に、一層確実に対応できる。
【0021】
例えば、自由状態の図2に於て、この中間部7の肉厚寸法をT7 とし、高さ寸法(長さ寸法)をL7 とすると、次の数式2が成立するように設定するのが望ましい。
[数2]
3.0≦L7 /T7 ≦ 5.0
また、図2〜図5に於て、段差部19をもって、中間部7の肉厚寸法T7 よりも、リップ1の肉厚寸法Tを小さく設定するのが望ましい。
【0022】
大気圧(1atm )よりも小さな圧力差を受圧力Pとして、リップ1がその凹状弯曲内面側2にて受圧する際に、このような小さな受圧力Pであっても、図5(C)(D)に示す如く、弾性的に変形して、確実に、ガラス基板(相手部材4)の下面(平坦面)5と、起立面23との隅部の密封作用をなす。
【0023】
なお、図6(A)は、既述の図2〜図5の延伸リップ1(弯曲状リップ1A)を示し、小凹弧状の段差部19にて、中間部7の肉厚寸法T7 よりも、肉厚寸法Tが小さく形成されている。これに対し、図6(B)では、延伸リップ1の肉厚寸法Tを中間部7の肉厚寸法T7 と略同一に設定すると共に、延伸リップ1の付け根部において、凹状弯曲内面側2に、小凹溝部20を設けている。この小凹溝部20によって、弾性変形を容易に行わしめて、図5(A)〜(D)にて述べたような撓みや変形に、柔軟に対応させている。
【0024】
なお、本発明は、図6(C)に示すように((A)(B)に示した)中間部7を省略して、取着部11から直接的に、延伸リップ1を延設するも、自由であり、この図6(C)では付け根部に小凹溝部20を形成している場合を例示した。また、取着部11としては、横断面矩形としても良いことを示す。
【0025】
次に、図7と図8は、流体圧力が作用する以前の状態(未受圧状態という)において、相手部材4の被密封用平坦面5を、取付部材10の第2平面22に当接させた状態の、リップ1の凸状弯曲外面側3と、被密封用平坦面5との接触面圧分布Px ,Py を各々示すグラフ図である。
図8は、図2〜図5で既述した段差部19にて延伸リップ1の肉厚寸法Tを(中間部7の肉厚寸法T7 よりも)小さく設定した場合であり、図7は、延伸リップ1の肉厚寸法Tが中間部7の肉厚寸法T7 と略同一のままで、又は、先端に向かってしだいに減少させた場合である。
図7の実施品の接触面圧分布Px よりも、図8の実施品の面圧分布Py の方が、(最大面圧値は同一であるにかかわらず)シャープな山型を示して、これによって面積が小さくなっている。即ち、面積が小さいということは、延伸リップ1が被密封用平坦面5に与える(作用する)弾性的反発力が小さいことを意味する。
【0026】
図9は、図7と図8の実施品のシール材Sであって、高さ寸法が12mmのものについて、つぶし量と単位長さ当たりの反力の関係を実測したグラフ図である。図9の横軸のつぶし量とは、図2と図3に例示した自由状態から、相手部材4を(図3の矢印J方向に)接近させて、初めて凸状弯曲外面側3に接触した状態をつぶし量「零」として、しだいに延伸リップ1を圧縮する場合の下方への移動量に相当する。また、図1に示すようにシール材Sの全体は閉じた環状であるが、その周方向に測定した単位長さ(単位:mm)当たりの反力(単位:g)を、図9の縦軸に示す。この図9から、図7の実施品よりも図8の実施品の単位長さ当たりの反力が小さいことが判る。
【0027】
図8の実施品は、図7の実施品よりも、シール材Sとして、相手部材4の被密封用平坦面5に与える反力が小さく、例えば、図4で説明したような、大面積の薄型ディスプレイ用の肉厚寸法T4 の極めて薄いガラス基板の相手部材4であれば、その割れ破損を防ぐうえで、望ましい。
なお、図10(A)(B)(C)に示すように、本発明のシール材Sの取着部11の横断面形状は種々設計変更自由であり、かつ、取付部材10側のシール保持凹溝14の形状も、種々変更自由である。
【0028】
次に、図11,図12は、各々、さらに他の実施の形態を示す拡大断面説明図である。
図11(A)と図12(A)に示す自由状態において、延伸リップ1は、付け根部が折曲って、先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップ1Bの場合を示す。図11(C)と図12(C)のように、高圧側の流体Eに対応した一面側31へ、図11(A)と図12(A)の自由状態下で折曲っている。
しかも、図11では、付け根部に段差部19を形成して、T<T7 となるように、先端側の屈折ストレート状リップ1Bの肉厚寸法Tを、中間部肉厚寸法T7 よりも十分に薄く設定する。図12では、T=T7 として、一面側31の付け根部に小凹溝部20を形成している。なお、図12に於て、T<T7 とするも好ましい(図示省略)。
自由状態下で、屈折ストレート状リップ1Bの、中間部7の背面7Aに対する屈折角度βは、45°〜70°が好ましく、特に、50°〜60°とするのが良い(図11(A),図12(A)参照)。
【0029】
そして、屈折ストレート状リップ1Bの肉厚寸法をTとし、その肉厚の中央線にて測定した長さ寸法Lとした場合、次の数式1を充足する。
[数1]
4.0≦L/T≦ 8.0
即ち、本発明に於て、延伸リップ1が屈折ストレート状リップ1Bである場合も、「延伸」とは、上記数式1を満たすように、肉厚に比べてその弧の長さを十分に大きいことをいう。
【0030】
そして、屈折ストレート状リップ1Bの一面側31に、高圧側の流体Eを受圧すると、図11(B)と図12(B)の矢印Y方向へ付け根部とその近傍が弾性的に(引張られて)伸長し、図11(C)と図12(C)のように、相手部材4の平坦面5に対して、他面側33が密接して、密封作用をなす。つまり、圧力Pが一面側31に作用して、密接状態(密封状態)では、既述の図5(C)(D)と同様の断面形状となる。それ以外の構成と作用(効果)は、図1〜図8で説明した場合と同様である。
【0031】
本発明は、図4等にて説明したように、薄くかつ大面積のガラス基板等の相手部材4が、チャンバー16の密封空間15を真空状態となるように吸引した際に、その外周端縁18が撓み(変形)を発生し、外周端縁18に沿って被密封用平坦面5の上下位置が変化しても、薄肉C字型横断面形状の弯曲状リップ1A、又は、屈折ストレート状リップ1Bは、図5(C)及び(D)、又は、図11(C)と図12(C)に示す如く、自由自在に(余裕をもって)弾性変形して、対応でき、常に良好なシール性能を発揮し、大気の浸入を阻止する。本発明のシール材Sは、延伸リップ1が柔軟な弾性変形を生ずることによって、上記撓み(変形)を十分に吸収できる。
【0032】
なお、チャンバー16側も大型化するに伴って、寸法誤差や変形も増加して、シール材Sの取着高さが周方向に沿って変化して、同様に、シール材Sと被密封用平坦面5との相対的寸法が相違を生ずることがある。この場合も同様に、本発明のシール材Sの延伸リップ1が柔軟に弾性変形を生じて、十分に対応できる。又は、図4の具体例では、押え部材17による矢印J方向の押え力によって、薄いガラス基板等の相手部材4が反り返る等の変形(撓み)を発生する場合も、同様に本発明によって十分に優れたシール性能を維持することができる。
【0033】
そして、上記リップ1の付け根部が連設される中間部7は、鉛直状起立面23に接触する背面7Aを有すると共に、上下高さ寸法が十分に大きく形成されているので、上下方向への弾性的圧縮伸長変形が十分に行われ、上述の撓みの吸収作用や、周方向に沿っての平坦面5とシール材Sとの相対的寸法の相違への対応作用等を、一層強化できる。
【0034】
本発明に係るシール材Sの延伸リップ1は、取付部材10の起立面23と、これと直交方向の被密封用平坦面5との直角状隅部を、図5,図11,図12に示したように、(大気圧等の)高圧側の圧力Pを受けると、弾性的に、十分なつぶし量をもって、柔軟に対応し、巧妙な密封性(シール性能)を発揮するものである。なお、密封空間15が真空である場合に限らず、密封空間15の圧力が、外側の圧力よりも、低い箇所であれば、本発明を適用可能である。また、本発明に係る密封構造は、図4で述べたような各種薄型ディスプレイの製造装置(チャンバー16)に限定されず、密封容器、密封搬送容器に適用したり、あるいは、薄型ディスプレイ等の製品自体の密封部位に適用するも自由である。
【0035】
本発明は以上述べたように、被密封用平坦面5に弾発的に接触する弯曲状又は屈折ストレート状の延伸リップ1を有するシール材Sを具備している構成であるので、被密封用平坦面5の相対的撓みや変位に対して、リップ1は弾性的に変形しつつ柔軟に対応できる(吸収可能である)。
【0036】
また、シール材Sが取着される取付部材10と、被密封用平坦面5を有する相手部材4の間を密封する密封構造に於て、上記シール材Sは、上記被密封用平坦面5に弾発的に接触する延伸リップ1と、上記取付部材10に固定される取着部11と、を具備し、上記延伸リップ1の一面側31にて高圧側流体Eを受圧して該リップ1の他面側33を上記被密封用平坦面5に対して所定幅W3 の帯状平面6をもって密接状態として密封するように構成したので、全周にわたって安定した密封性(シール性能)を発揮でき、かつ、特に大きい相対的撓み(変位)を吸収して、特に、3atm 以下の低圧力密封に好適である。さらに、薄肉のガラス基板の外周縁を、真空状態とした密封空間に対して、大気から遮断して密封するのに、特に好適である。
【0037】
また、上記延伸リップ1は、上記一面側31を凹状弯曲内面側2とする弯曲状リップ1Aであり、該一面側31に於て、上記弯曲状リップ1Aの付け根部に段差部19又は小凹溝部20を形成したので、つぶし量に対する単位長さ当たりの反力を低減できる。これによって、相手部材4が薄いガラス基板等である場合に、その破損を防止できる。
また、上記延伸リップ1は、上記一面側31へ付け根部が折曲ってから先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップ1Bであり、該一面側31に於て、上記付け根部に段差部19又は小凹溝部20を形成したので、つぶし量に対する単位長さ当たりの反力が小さくなり、相手部材4が薄いガラス基板等であっても、その破損を有効に防ぎ得る。
また、上記延伸リップ1は、横断面薄肉C字型とすれば、上述の撓み(変形)や変位に柔軟に対応可能となり、反力も低減できる。
【0038】
また、本発明に係るシール材は、高圧側流体Eを受圧する一面側31の付け根部に、段差部19又は小凹溝部20を有する弯曲状リップ1A又は屈折ストレート状リップ1Bを有する構成であるので、(図5及び図11,図12に示す如く)圧力Pを受けて弾性変形しやすく、薄肉のガラス基板の外周縁を、真空状態とした密封空間に対して、大気から遮断して密封するのに、特に好適である。
【符号の説明】
【0039】
1 延伸リップ
1A 弯曲状リップ
1B 屈折ストレート状リップ
2 凹状弯曲内面側
3 凸状弯曲外面側
4 相手部材
5 被密封用平坦面
6 帯状平面
10 取付部材
11 取着部
20 小凹溝部
31 一面側
33 他面側
S シール材
W3 所定幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被密封用平坦面(5)に弾発的に接触する延伸リップ(1)を有するシール材(S)を具備していることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
シール材(S)が取着される取付部材(10)と、被密封用平坦面(5)を有する相手部材(4)の間を密封する密封構造に於て、上記シール材(S)は、上記被密封用平坦面(5)に弾発的に接触する延伸リップ(1)と、上記取付部材(10)に固定される取着部(11)と、を具備し、上記延伸リップ(1)の一面側(31)にて高圧側流体(E)を受圧して該リップ(1)の他面側(33)を上記被密封用平坦面(5)に対して所定幅(W3 )の帯状平面(6)をもって密接状態として密封するように構成したことを特徴とする密封構造。
【請求項3】
上記延伸リップ(1)は、上記一面側(31)を凹状弯曲内面側(2)とする弯曲状リップ(1A)であり、該一面側(31)に於て、上記弯曲状リップ(1A)の付け根部に段差部(19)又は小凹溝部(20)を形成した請求項1又は2記載の密封構造。
【請求項4】
上記延伸リップ(1)は、上記一面側(31)へ付け根部が折曲ってから先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップ(1B)であり、該一面側(31)に於て、上記付け根部に段差部(19)又は小凹溝部(20)を形成した請求項1又は2記載の密封構造。
【請求項5】
高圧側流体(E)を受圧する一面側(31)の付け根部に、段差部(19)又は小凹溝部(20)を有する弯曲状リップ(1A)又は屈折ストレート状リップ(1B)を有することを特徴とするシール材。
【請求項1】
被密封用平坦面(5)に弾発的に接触する延伸リップ(1)を有するシール材(S)を具備していることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
シール材(S)が取着される取付部材(10)と、被密封用平坦面(5)を有する相手部材(4)の間を密封する密封構造に於て、上記シール材(S)は、上記被密封用平坦面(5)に弾発的に接触する延伸リップ(1)と、上記取付部材(10)に固定される取着部(11)と、を具備し、上記延伸リップ(1)の一面側(31)にて高圧側流体(E)を受圧して該リップ(1)の他面側(33)を上記被密封用平坦面(5)に対して所定幅(W3 )の帯状平面(6)をもって密接状態として密封するように構成したことを特徴とする密封構造。
【請求項3】
上記延伸リップ(1)は、上記一面側(31)を凹状弯曲内面側(2)とする弯曲状リップ(1A)であり、該一面側(31)に於て、上記弯曲状リップ(1A)の付け根部に段差部(19)又は小凹溝部(20)を形成した請求項1又は2記載の密封構造。
【請求項4】
上記延伸リップ(1)は、上記一面側(31)へ付け根部が折曲ってから先端へストレート状に延伸した屈折ストレート状リップ(1B)であり、該一面側(31)に於て、上記付け根部に段差部(19)又は小凹溝部(20)を形成した請求項1又は2記載の密封構造。
【請求項5】
高圧側流体(E)を受圧する一面側(31)の付け根部に、段差部(19)又は小凹溝部(20)を有する弯曲状リップ(1A)又は屈折ストレート状リップ(1B)を有することを特徴とするシール材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−265950(P2010−265950A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116252(P2009−116252)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】
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