説明

密封構造

【課題】曲面で対向する二部材を通して流体が流れる流路が設けられてなる構造において、コストを抑制しながら上記二部材間からの流体の漏洩を防止することができる密封構造を提供する。
【解決手段】第1の流路31が形成された第1の部材10と第2の流路32が形成された第2の部材20とが互いに曲面で対向し、第1の部材10の前記曲面に第1の流路31の第1の開口端31aが形成されているとともに第2の部材20の前記曲面に第2の流路32の第2の開口端32aが形成されている構造において、リング状のシール部材40を、第1の開口端31aおよび第2の開口端32aの双方の外周を取り囲むようにして、第1の部材10および第2の部材20の前記曲面で挟んで配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面で対向する二部材を通して流体が流れる流路が設けられてなる構造に用いて好適な、流体の漏洩を防止する密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図9および図10に示すように、曲面で対向する二部材110,120を通して流体が流れる流路130が設けられてなる構造においては、前記二部材110,120間に流路130を挟んで2個のリング状のシール部材(Oリング)140A,140Bを配置して、二部材110,120間からの流体の漏洩を防止することが一般的である(例えば、特許文献1の図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−307881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構造は複数個のシール部材140A,140Bを必要とし、また、シール部材140A,140Bを設置するための溝150A,150Bの加工も複数箇所に必要となるため、高価なものとなっていた。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、コストを抑制しながら流体の漏洩を防止することができる密封構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の密封構造は、第1の流路が形成された第1の部材と第2の流路が形成された第2の部材とが互いに曲面で対向し、前記第1の部材の前記曲面に前記第1の流路の第1の開口端が形成されているとともに前記第2の部材の前記曲面に前記第2の流路の第2の開口端が形成されている構造において、前記第1の流路および前記第2の流路を通して流れる流体が前記第1の部材および前記第2の部材の間から漏洩することを防止する密封構造であって、リング状のシール部材が、前記第1の部材および前記第2の部材に挟まれながら、前記第1の開口端および前記第2の開口端の双方の外周を取り囲むようにして配置されていることを特徴としている。
【0007】
なお、前記シール部材は、前記第1の開口端および前記第2の開口端の少なくとも一方と同軸に配置されていることが好ましい。
【0008】
また、前記第1の部材および前記第2の部材の少なくとも一方に、前記シール部材を配置するための溝が加工されていることが好ましい。
【0009】
また、前記シール部材は、前記第1の部材および前記第2の部材の相対的な移動を許容するように、平面視で楕円状または長方形状のリング状に形成され、その長手方向を前記移動方向に一致させて配置されていることが好ましい。
【0010】
また、前記第1の部材および前記第2の部材の一方は軸部材であり、前記第1の部材および前記第2の部材の他方は前記軸部材が内挿されるハウジングであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封構造によれば、複数個のシール部材と複数箇所のシール部材装着溝の加工が不要となり、シール部材の部品点数を削減するとともに、溝加工を簡略化し、廉価で確実に流体の漏洩を防止することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る密封構造を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る密封構造を模式的に示す横断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る密封構造を模式的に示す上面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る密封構造のシール部材の第1の変形例を模式的に示す断面図である。
【図5】(a)および(b)ともに、本発明の一実施形態に係る密封構造のシール部材の第2の変形例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る密封構造の溝加工の第1の変形例を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る密封構造の溝加工の第2の変形例を模式的に示す縦断面図である。
【図8】(a)および(b)ともに、本発明の一実施形態に係る密封構造の変形例を模式的に示す上面図である。
【図9】従来技術に係る密封構造を模式的に示す上面図である。
【図10】従来技術に係る密封構造を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態は、曲面で対向する二部材(第1の部材および第2の部材)を通して流体が流れる流路(第1の流路および第2の流路)が設けられてなる構造において、二部材間からの流体の漏洩を防止する密封構造である。
【0015】
図1および図2に示すように、本密封構造では、二部材のうち一方を軸部材10とするとともに、他方を軸部材10が内挿されるハウジング20とする。これらの二部材は、例えば自動車に搭載されるエンジン、トランスミッション、パワーステアリング、あるいは切換バルブ等の構成要素であって、流体として潤滑油や作動油が用いられるものである。ただし、二部材を構成要素として備える機器や部材は上述のものに限定されず、また、二部材は軸部材10やハウジング20に限定されるものでもない。二部材は、少なくとも曲面を有する部材であって、各曲面上に入口または出口が開口する流路が形成され、少なくとも当該曲面が互いに対向するように配置される任意の部材であればよい。さらに、流体についても、潤滑油や作動油に限定されるものではなく、例えば水等の他の液体や、あるいは気体であってもよい。
【0016】
軸部材10には、入口または出口となる開口端(以下、第1の開口端ともいう)31aを有する流路(以下、第1の流路ともいう)31が形成されている。また、ハウジング20には、入口または出口となる開口端(以下、第2の開口端ともいう)32aを有する流路(以下、第2の流路ともいう)32が形成されている。
【0017】
第1の流路31は、軸方向に延びる流路と当該流路に接続されて径方向に延びる流路とを少なくとも組み合わせて形成されている。第2の流路32は、ハウジング20に軸部材10が内挿された状態で軸部材10の径方向に延びる流路を少なくとも備えて形成されている。第1の流路31および第2の流路32によって、軸部材10およびハウジング20を通して一連の流路30が形成される。
【0018】
第1の開口端31aおよび第2の開口端32aは、軸部材10およびハウジング20の互いに対向する曲面上にそれぞれ開口して形成されている。さらに、第1の開口端31aおよび第2の開口端32aは、同軸となる対向する位置に形成されている。
【0019】
このような軸部材10およびハウジング20の曲面に挟まれながら、第1の開口端31aおよび第2の開口端32aの双方の外周を取り囲むようにして、リング状のシール部材40が配置されている。シール部材40は、第1の開口端31aおよび第2の開口端32aと同軸に配置されている。
【0020】
シール部材40は弾性変形可能な弾性部材(例えばOリング)であり、その素材としては、例えば合成ゴムや合成樹脂、あるいは柔軟性金属などを使用することが可能である。また、シール部材40の形状は、図1および図2に示すような断面略矩形状のほかに、断面球形状や、図4に示すような断面C字状のリップ形状、さらには図5(a)および(b)に示すようなシール面にリブ状の突起を設けた形状など、種々の形状を採用することが可能である。特に、図4に示すようなリップ形状のシール部材40によれば、流体の内圧でシール面部40a,40bが互いに離隔する方向に拡張し、軸部材10およびハウジング20の対向する曲面(壁面)により密着して、シール性能をより高めることができる。
【0021】
軸部材10には、シール部材40を配置するための溝11が、第1の開口端31aの外周に凹状に加工されている。溝11は、第1の開口端31aおよび第2の開口端32aの位置・形状とシール部材40の形状とに適合するように、本実施形態では図3に示すような上面視で正円状に形成されている。ただし、溝11の形状はこれに限定されるものではない。
【0022】
本発明の一実施形態に係る密封構造は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
【0023】
本実施形態の密封構造は、軸部材10に溝11を一つ加工し、その溝11に一つのシール部材40を装着するだけとなっている。したがって、従来の密封構造のように複数個のシール部材および複数箇所の溝加工が不要となり、シール部材の部品点数を削減するとともに溝加工を簡略化することができ、廉価で確実に流体の漏洩を防止することができる。
【0024】
なお、本発明の密封構造は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0025】
例えば、上述の実施形態では、溝11は上面視で正円状に加工されているが、例えば上面視で楕円状や、矩形状や、あるいは図6に示すように円形(正円状や楕円状)乃至は矩形状のリング状に加工されていてもよい。例えばリング状の溝11′であれば、軸部材10側の流路31の開口端31aとハウジング20側の流路32の開口端32aとを接近させることができる。これは、軸部材10とハウジング20との間の隙間をより小さくできるという点で好ましい。
【0026】
また、上述の実施形態では、軸部材10側に溝11,11′を加工したが、図7に示すように、ハウジング20側に溝21を加工してもよい。すなわち、シール部材40は、軸部材10およびハウジング20のうちのいずれか一方に溝加工して装着するようにしてもよいし、あるいは軸部材10およびハウジング20の両方に溝加工して装着するようにしてもよい。
【0027】
また、上述の実施形態では、シール部材40は軸部材10側の流路31の開口端31aおよびハウジング20側の流路32の開口端32aの両方と同軸に配置されているが、少なくとも一方と同軸に配置されていればよい。
【0028】
すなわち、上述の実施形態では、軸部材10およびハウジング20は相対的に静止しているものを想定しているが、変形例として、軸部材10およびハウジング20が相対的に移動するもの(軸部材10およびハウジング20の設置位置のズレを許容するものを含む)であってもよい。
【0029】
例えば、図8(a)および(b)に示すように、軸部材10がハウジング20に対して移動するものとする。このとき、ハウジング20側に溝21′を加工する。溝21′は、流路32の開口端32aの外周に、流路32の開口端32aと同軸の凹状に形成されているとともに、軸部材10の移動方向に直交する方向に比べて移動方向に長く延びる形状に形成されている。そして、シール部材40′は、平面視で楕円状または長方形状のリング状に形成され、その長手方向を前記移動方向に一致させて溝21′内に装着されるようにする。これにより、シール部材40′の中心位置が、ハウジング20側の流路32の開口端32aの中心位置と同軸である一方、軸部材10側の流路31の開口端31aの中心位置からずれて配置されることを可能とする。
【0030】
より具体的には、図8(a)に示すように、軸部材10の周方向の移動(例えば揺動)を許容するように、ハウジング20側において溝21′が軸方向に比べて周方向に沿って長く延びる形状に加工されたものとする。同時に、シール部材40′としては平面視で楕円状または長方形状のリング状のものを用い、その長手方向を周方向に一致させて溝21′内に装着するようにする。
【0031】
また、図8(b)に示すように、軸部材10の軸方向の移動を許容するように、ハウジング20側において溝21′が周方向に比べて軸方向に沿って長く延びる形状に加工されたものとする。同時に、シール部材40′としては平面視で楕円状または長方形状のリング状のものを用い、その長手方向を軸方向に一致させて溝21′内に装着するようにする。
【0032】
これによれば、溝21′内にシール部材40′を装着した際、軸部材10側の流路31の開口端31aとハウジング20側の流路32の開口端32aとが、溝21′およびシール部材40′の移動方向長さ(周方向長さまたは軸方向長さ)の範囲内で移動方向(周方向または軸方向)にずれている場合であっても、流路31の開口端31aおよび流路32の開口端32aはシール部材40′によって取り囲まれて、シール部材40′の内側を介して連通し、シール部材40′によって流体の漏洩を確実に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の密封構造は、例えば自動車に搭載されるエンジン、トランスミッション、パワーステアリング、あるいは切換バルブ等の、流体の漏洩防止が必要とされる各種の機器や部材の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 軸部材
11 溝
20 ハウジング
31、32 流路
31a、32a 開口端
40 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流路が形成された第1の部材と第2の流路が形成された第2の部材とが互いに曲面で対向し、前記第1の部材の前記曲面に前記第1の流路の第1の開口端が形成されているとともに前記第2の部材の前記曲面に前記第2の流路の第2の開口端が形成されている構造において、前記第1の流路および前記第2の流路を通して流れる流体が前記第1の部材および前記第2の部材の間から漏洩することを防止する密封構造であって、
リング状のシール部材が、前記第1の部材および前記第2の部材に挟まれながら、前記第1の開口端および前記第2の開口端の双方の外周を取り囲むようにして配置されている
ことを特徴とする、密封構造。
【請求項2】
前記シール部材は、前記第1の開口端および前記第2の開口端の少なくとも一方と同軸に配置されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記第1の部材および前記第2の部材の少なくとも一方に、前記シール部材を配置するための溝が加工されている
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の密封構造。
【請求項4】
前記シール部材は、前記第1の部材および前記第2の部材の相対的な移動を許容するように、平面視で楕円状または長方形状のリング状に形成され、その長手方向を前記移動方向に一致させて配置されている
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の密封構造。
【請求項5】
前記第1の部材および前記第2の部材の一方は軸部材であり、
前記第1の部材および前記第2の部材の他方は前記軸部材が内挿されるハウジングである
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163144(P2012−163144A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23096(P2011−23096)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000143307)株式会社荒井製作所 (100)
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】