説明

密封装置および密封構造

【課題】電磁波に対するシールド性が高められた密封装置および密封構造を提供する。
【解決手段】筐体3の内部から外部に引き出される柔軟性を有する平たい伝導部材1に一体化され、伝導部材1と筐体3における伝導部材1の挿通部との間の隙間を封止する導電性を有するシール部材2を備える密封装置において、伝導部材1は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層11が積層され、電磁波シールド層11の上に絶縁層12が積層されるとともに、絶縁層12が電磁波シールド層11の平面部の一部を露出する開口部12aを有し、シール部材2は、開口部12aを覆うように伝導部材1に一体化されるとともに、開口部12aを介して電磁波シールド層11と接触することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性を有する平たい伝導部材に導電性を有するシール部材が一体化された密封装置および密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や屋外に置かれる電子機器、粉塵の多い環境下で使用される電子機器には、筐体の蓋部と本体との隙間、電源線等の配線部と筐体との隙間、または複数の筐体間の接合部における隙間などにおいて、外部から水やほこりの侵入を防ぐ、ガスケットやグロメット等のシール部品が必要となる。また、配線部には、自動車や電子機器等の省スペース化、軽量化に伴って、FPC(フレキシブル配線基板)を使用するケースが増大することが見込まれている。FPCを使用する箇所をシールする場合、シール部品をFPCに一体化することによって配線部でのシール性を確保することが行われている。
【0003】
一方、近年では各種産業分野において電子機器に対するEMC(electromagnetic compatibility)規制が厳しくなっており、回路、筐体、システムの総括的なEMC対策が求
められている。ここで、筐体におけるEMC対策としては、電磁波の放射および侵入を防ぐ電磁波シールドが有効な対策の1つとして知られている。しかし、シール部品が導電性を持たない場合、シール部品の取付部に電気的な隙間が生じてしまい、そこからの電磁波の放射および侵入を防ぐことができない。
【0004】
特許文献1では、ケーシングの蓋部と筐体部の接合面をシールするガスケットに導電性を持たせることで、蓋部と筐体部とを電気的に接続し、ケーシング全体に電磁波シールドを形成している。しかし、ケーシング内部から外部に引き出されるFPCの電磁波シールド層の表面は、表面保護と電気的絶縁のための保護膜で覆われているため、FPCの電磁波シールド層とケーシングとの間に十分な電気的接続を形成することができない。そのため、例えば、シールド層がアンテナとなって2次的な電磁波の放射を生じる等、十分に電磁波をシールドできないおそれがある。
【特許文献1】特開2003−262274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、電磁波に対するシールド性が高められた密封装置および密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明における密封装置は、
筐体の内部から外部に引き出される柔軟性を有する平たい伝導部材に一体化され、前記伝導部材と前記筐体における前記伝導部材の挿通部との間の隙間を封止する導電性を有するシール部材を備える密封装置において、
前記伝導部材は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層が積層され、該電磁波シールド層の上に絶縁層が積層されるとともに、該絶縁層が前記電磁波シールド層の平面部の一部を露出する開口部を有し、
前記シール部材は、前記開口部を覆うように前記伝導部材に一体化されるとともに、前記開口部を介して前記電磁波シールド層と接触することを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明における密封構造は、
柔軟性を有する平たい伝導部材と、
該伝導部材が挿通される挿通部を有する筐体と、
前記伝導部材と前記挿通部との間の隙間を封止する導電性を有するシール部材と、を備え、
前記伝導部材は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層が積層され、該電磁波シールド層の上に絶縁層が積層されるとともに、該絶縁層が前記電磁波シールド層の平面部の一部を露出する開口部を有し、
前記シール部材は、前記開口部を覆うように前記伝導部材に一体化されるとともに、前記開口部を介して前記電磁波シールド層と接触することを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明における密封構造は、
柔軟性を有する平たい伝導部材と、
蓋部と該蓋部が接合される本体部とから構成される筐体と、
前記蓋部と前記本体部の接合面に取り付けられて該接合面を封止するとともに、前記伝導部材を前記筐体の内部から外部に引き出すための挿通部を形成する導電性を有するシール部材と、
を備え、
前記伝導部材は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層が積層され、該電磁波シールド層の上に絶縁層が積層されるとともに、該絶縁層が前記電磁波シールド層の平面部の一部を露出する開口部を有し、
前記シール部材は、前記開口部を覆うように前記伝導部材に一体化されるとともに、前記開口部を介して前記電磁波シールド層と接触することを特徴とする。
【0009】
このように、電磁波シールド層を保護する絶縁層に開口部を設けて、電磁波シールド層の平面部の一部がシール部材と接触するように構成することで、伝導部材の電磁波シールド層と筐体との間の電気的な隙間を小さくすることができる。これにより、電気的な隙間の小さい筐体および伝導部材の全体を覆う電磁波シールドを形成することができ、シール部からの電磁波の放射および侵入をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明により、電磁波に対するシールド性が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
(実施例1)
図1〜図4を参照して、本発明の実施例1に係る密封構造について説明する。図1は、伝導部材の構成について説明する模式図であり、(a)は伝導部材の平面図、(b)は(a)のAA断面図、(c)は(a)のBB断面図である。図2は、伝導部材にシール部材が一体化された構成について説明する模式図であり、(a)は伝導部材およびシール部材の平面図、(b)は(a)のCC断面図、(c)は(a)のDD断面図である。図3は、筐体の構成ついて説明する模式的斜視分解図である。図4は、本実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【0013】
<伝導部材の構成>
図1に示すように、伝導部材1は、FPC10の両面に電磁波シールド層11と絶縁層12が積層された構成となっている。伝導部材(FPC)1は、全体が平たい帯状の部材
となっており、柔軟性を有している。
【0014】
FPC10は、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、液晶ポリマー、ポリエチレンナフタレート等の材料からなるベースフィルムの両面に、同材料からなるカバーフィルムが張り合わされており、銅箔によって形成された回路パターンが、ベースフィルムとカバーフィルムとによってサンドイッチされている。
【0015】
電磁波シールド層11は、FPC10のカバーフィルムの外側に銀ペーストを用いて積層形成されている。
【0016】
絶縁層12は、トップコートと呼ばれるアルキッド樹脂からなる保護膜であり、電磁波シールド層11の表面保護および電気的絶縁のために形成される。絶縁層12には、電磁波シールド層11の上面(平面部)の一部を露出する開口部12aが設けられている。
【0017】
なお、図1(c)に示すように、電磁波シールド層11は、FPC10の幅よりも狭い範囲に積層形成されており、開口部12a以外の領域では絶縁層12によって完全に覆われたような状態となる。また、これら電磁波シールド層11及び絶縁層12は、本実施例のようにFPC10の両面に設ける構成に限られるものではなく、片面のみに設ける構成であってもよい。
【0018】
<シール部材の構成>
図2に示すように、シール部材2は、伝導部材1の長手方向に直交する方向において伝導部材1の一部を全周にわたって包み込むように設けられている。絶縁層12の開口部12aは、シール部材2によって完全に覆われる位置に形成される。
【0019】
本実施例に係るシール部材2は、導電性を有するゴムまたは樹脂等からなるグロメットであり、図3に示す筐体3において伝導部材1を筐体内部から筐体外部に引き出すための挿通孔(挿通部)32と、伝導部材1との間の隙間を封止するためのものである。
【0020】
シール部材2は、固形の導電性ゴムを用いて圧縮成型したり、液状の導電性樹脂材を用いて射出成型することにより伝導部材1に一体成型することができる。あるいは、予め成形されたものを取り付けることにより一体化してもよい。具体的な成形方法は、各種ゴムや樹脂の特徴に合った方法を用いてよい。また、グロメットの成形に使用する金型は、特殊な加工が必要とならないので、比較的安価に作成することができる。
【0021】
シール部材2は、絶縁層12の開口部12aの形状に対応した凸部20を有しており、開口部12aを介して凸部20が電磁波シールド層11に接触している。
【0022】
シール部材2の上面には、伝導部材1の短手方向に延びる開口部12の幅よりも狭い溝部21が設けられている。この溝部21は、シール部材2が伝導部材1と挿通孔32との間に装着されたときに挿通孔32の開口縁部が嵌り込むように構成されている。また、溝部21は、伝導部材1の長手方向における位置が開口部12aが設けられた範囲内となるように設けられている。
【0023】
このような溝部21が設けられることにより、凸部20と開口部12aとの密着度が高められ、シール性が向上される。すなわち、凸部20と開口部12aとの間には、一体成型の場合には硬化後のヒケ、後から取り付ける場合には寸法誤差などによって寸法上隙間が形成される場合がある。しかし、このような隙間が生じても、挿通孔32の開口縁部が溝部21に嵌り込むことによってシール部材2の凸部20には伝導部材1の長手方向に拡張するような変形を生じ、かかる隙間を埋めることが可能となる。また、隙間が埋まるこ
とにより、シール部材2と電磁波シールド層11との接触面積を確実に確保することができる。
【0024】
<密封構造の構成>
図4に示すように、伝導部材1が筐体3の挿通孔32に挿通されてシール部材2が挿通孔32と伝導部材1との間に装着されると、筐体3と伝導部材1の電磁波シールド層11がシール部材2を介して電気的に接続された状態となる。
【0025】
シール部材2は絶縁層12の開口部12aを介して電磁波シールド層11に直接接触しており、これにより、伝導部材1の電磁波シールド層11と筐体3との間の電気的な隙間を小さくすることができる。
【0026】
したがって、電気的な隙間の小さい筐体3および伝導部材1の全体を覆う電磁波シールドを形成することができ、筐体3のシール部からの電磁波の放射および侵入をより効果的に抑制することができる。
【0027】
また、電磁波シールド層11にFPC10のグランドラインを接続させてもよい。これにより、グランドラインと筐体3とが電気的に接続され、グランドラインと筐体3との電気的接続状態の形成が容易となる。
【0028】
(実施例2)
図5を参照して、本発明の実施例2に係る密封装置および密封構造について説明する。図5は、伝導部材にシール部材が一体化された構成について説明する模式図であり、(a)は伝導部材およびシール部材の平面図、(b)は(a)のEE断面図、(c)は(a)のFF断面図である。なお、上記実施例1と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0029】
実施例2に係る密封装置は、シール部の構成が上記実施例1と異なっている。実施例2に係るシール部材2aは、導電性を有するゴムまたは樹脂等からなるガスケットであり、図3に示す筐体3において筐体3の筐体本体30と蓋部31との間の接合面30a、31aに挟み込まれ、筐体本体30と蓋部31との間を封止するとともに、伝導部材1を筐体内部から筐体外部に引き出すための挿通部を形成するためのものである。
【0030】
シール部材2aは、上記実施例1に係るシール部材2と同様、固形の導電性ゴムを用いて圧縮成型したり、液状の導電性ゴム材を用いて射出成型することにより伝導部材1に一体成型することができる。あるいは、予め成形されたものを取り付けることにより一体化してもよい。
【0031】
シール部材2aの上面(筐体本体30または蓋部31との接合面)には、筐体本体30または蓋部31との接合方向に向かって突出するビード部22が、かかる上面全周にわたって設けられている。このビード部22は、筐体本体30または蓋部31との接合によって圧縮されることによりシール性を高めるためのものである。ビード部22は、開口部12aが設けられた範囲内を延びるように設けられている。
【0032】
このようなビード部22が設けられることにより、凸部20と開口部12aとの密着度が高められ、シール性が向上される。すなわち、凸部20と開口部12aとの間には、一体成型の場合には硬化後のヒケ、後から取り付ける場合には寸法誤差などによって寸法上隙間が形成される場合がある。しかし、このような隙間が生じても、ビード部22が圧縮されることによってシール部材2aの凸部20には伝導部材1の長手方向に拡張するような変形を生じ、かかる隙間を埋めることが可能となる。また、隙間が埋まることにより、
シール部材2aと電磁波シールド層11との接触面積を確実に確保することができる。
【0033】
本実施例に係る密封構造の構成については、上記実施例1に係る密封構造と同様であり、説明は省略する。
【0034】
(具体例1)
次に、本発明を具体例について説明する。
【0035】
本発明の具体例として、幅30mm、長さ300mm、厚さ0.15mmのFPCに導電性ゴムを一体成形したグロメットを作成した。FPCの電磁波シールド層の露出範囲は両面に幅26mm、長さ6mmとし、グランドラインは電磁波シールド層に接続した。グロメットの形状は図2に示す形状に基づき、金属筐体のグロメット挿通孔寸法40×10mmに対し、シール部の締め代を0.3mmとした。
【0036】
この形状を基本として作製した金型にFPCをセットし、固形の導電性ゴムを圧縮成型して一体化した。FPCとゴムの一体化は、ゴムの種類によっても異なるが、一般的には約130〜180℃で約2〜10分間程度加硫することにより一体化され、成型される。成型後にバリ部を除去し、FPC一体のグロメットを作製した。
【0037】
得られたグロメットを図4のような金属筐体3のグロメット挿通孔32に装着し、金属筐体内部からの放射電磁界を測定した。非導電性のグロメットを装着した場合の放射電界強度との差をシールド性とした。その結果、シールド性は30〜40dBとなり、電磁波シールド性能が確認できた。また、グランドラインと筐体との間の抵抗値を測定した。その結果、抵抗値が数Ωであり、FPCのシールド層およびグランドラインと筐体の電気的な接続が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、実施例1に係る伝導部材の構成について説明する模式図である。
【図2】図2は、実施例1に係る密封装置の構成について説明する模式図である。
【図3】図3は、筐体の構成ついて説明する模式的斜視分解図である。
【図4】図4は、実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。
【図5】図5は、実施例2に係る密封装置の構成について説明する模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 伝導部材
10 FPC
11 電磁波シールド層
12 絶縁層
12a 開口部
2 シール部材
20 凸部
21 溝部
3 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の内部から外部に引き出される柔軟性を有する平たい伝導部材に一体化され、前記伝導部材と前記筐体における前記伝導部材の挿通部との間の隙間を封止する導電性を有するシール部材を備える密封装置において、
前記伝導部材は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層が積層され、該電磁波シールド層の上に絶縁層が積層されるとともに、該絶縁層が前記電磁波シールド層の平面部の一部を露出する開口部を有し、
前記シール部材は、前記開口部を覆うように前記伝導部材に一体化されるとともに、前記開口部を介して前記電磁波シールド層と接触することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
柔軟性を有する平たい伝導部材と、
該伝導部材が挿通される挿通部を有する筐体と、
前記伝導部材と前記挿通部との間の隙間を封止する導電性を有するシール部材と、を備え、
前記伝導部材は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層が積層され、該電磁波シールド層の上に絶縁層が積層されるとともに、該絶縁層が前記電磁波シールド層の平面部の一部を露出する開口部を有し、
前記シール部材は、前記開口部を覆うように前記伝導部材に一体化されるとともに、前記開口部を介して前記電磁波シールド層と接触することを特徴とする密封構造。
【請求項3】
柔軟性を有する平たい伝導部材と、
蓋部と該蓋部が接合される本体部とから構成される筐体と、
前記蓋部と前記本体部の接合面に取り付けられて該接合面を封止するとともに、前記伝導部材を前記筐体の内部から外部に引き出すための挿通部を形成する導電性を有するシール部材と、
を備え、
前記伝導部材は、配線が施されたベース層の表面を保護する保護層の上に電磁波シールド層が積層され、該電磁波シールド層の上に絶縁層が積層されるとともに、該絶縁層が前記電磁波シールド層の平面部の一部を露出する開口部を有し、
前記シール部材は、前記開口部を覆うように前記伝導部材に一体化されるとともに、前記開口部を介して前記電磁波シールド層と接触することを特徴とする密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−84832(P2010−84832A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253566(P2008−253566)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】