説明

密封装置

【課題】水や油が、軸受内に浸入することを確実に防止できる密封装置を提供すること。
【解決手段】環状の芯金部21に環状の弾性部22を固着する。径方向に芯金部21と弾性部22とを貫通する貫通穴28を設ける。貫通穴28の径方向の外方の開口を完全に塞ぐように、芯金部21の外周面に、空気が通過自在である一方、水および油が通過できない性質を有する多孔質部材29を固着する。芯金部21の外周面に、多孔質部材29の径方向の外方に位置する覆板40を有するひさし部材30を固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、密封装置に関し、特に、圧延機のワークロールに使用されれば好適な密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密封装置としては、特開2002−178013号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0003】
この密封装置は、圧延機のワークロールのロールネック支持用の軸受に配置されている。詳しくは、この軸受は、内輪、外輪、および、円錐ころを備え、上記内輪は、第1内輪および第2内輪を有している。第1内輪の軸方向の端面と、第2内輪の軸方向の端面とは、軸方向に突き合せされている。上記内輪の上記軸方向に突き合わされた部分の外周面には、環状溝が設けられている。
【0004】
この密封装置は、環状溝に配置されている。この密封装置は、環状の芯金部と、この芯金部に固定された弾性部とからなる。上記弾性部は、第1内輪の外周面に接触する第1シールリップと、第2内輪の外周面に接触する第2シールリップとを有している。また、上記密封装置は、第1内輪の軸方向の端面に接触する第3シールリップと、第2内輪の軸方向の端面に接触する第4シールリップとを有している。
【0005】
この密封装置は、ロールネック側から、突き合わせた第1内輪と第2内輪との間を通過して環状溝に浸入してくる冷却水や圧延油が、軸受内に浸入することを防止している。ここで、冷却水や圧延油が、軸受内に浸入することを防止する性能の更なる向上が所望されている。
【特許文献1】特開2002−178013号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明の課題は、水や油が、軸受内に浸入することを確実に防止できる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、この発明の密封装置は、
環状の芯金部と、
第1内輪と第2内輪との軸方向に突き合わされた部分の外周面に形成された環状溝の底面の一部を構成する上記第1内輪の外周面部に接触する第1シールリップと、上記環状溝の上記底面の一部を構成する上記第2内輪の外周面部に接触する第2シールリップとを有すると共に、上記芯金部に固定された環状の弾性部と、
上記芯金部と上記弾性部とを径方向に貫通すると共に、上記径方向の内方の開口が、上記軸方向において上記第1シールリップと上記第2シールリップとの間に位置する貫通穴と、
上記貫通穴の上記径方向の外方の開口を塞いでいると共に、空気が通過自在である一方、水および油が通過できない性質を有する多孔質部材と、
上記多孔質部材の上記径方向の外方に位置する覆部を有する覆板と
を備えることを特徴としている。
【0008】
上記「第1内輪と第2内輪との軸方向に突き合わされた部分」という文言は、上記第1内輪と上記第2内輪とが軸方向に当接した状態における上記第1内輪と上記第2内輪とに跨る部分を含むのは勿論のこと、上記「第1内輪と第2内輪との軸方向に突き合わされた部分」という文言は、上記第1内輪と上記第2内輪とが軸方向の隙間を介して軸方向に非接触に対向している状態における上記第1内輪と上記第2内輪とに跨る部分を含むものとする。
【0009】
また、上記「径方向に貫通する」とは、貫通穴の少なくとも一部が、少なくとも径方向の延在成分を有した状態で、芯金部と弾性部とを貫通している状態をいう。このことから、貫通穴の少なくとも一部が、軸方向や周方向の延在成分を有した状態で、芯金部と弾性部とを貫通していても構わない。
【0010】
本発明によれば、径方向の内方の開口が上記第1シールリップと上記第2シールリップとの間に位置すると共に、芯金部および弾性部を径方向に貫通している貫通穴を備え、さらに、貫通穴の径方向の外方の開口を塞いでいると共に、空気が通過自在である一方、水が通過できない性質を有する多孔質部材を備えているから、軸受内の温度が急激に低下して、軸受内が負圧になっても、外部から多孔質部材を介して空気が軸受内に円滑に浸入するから、軸受内の負圧を速やかに解消することができる。したがって、内輪の径方向の内方に存在している水や油が、負圧の際に、空気と共に、軸受内に浸入しようとする作用を格段に小さくすることができる。さらには、水および油は、上記多孔質部材を通過することができないから、内輪の径方向内方に存在している水や油が、軸受内に浸入することを確実に防止できる。
【0011】
また、本発明によれば、上記多孔質部材の径方向の外方に配置された覆部を有する覆板を備えているから、軸受内の潤滑剤が、多孔質部材に接触することを抑制することができる。したがって、多孔質部材の通気性の低下を抑制できて、多孔質部材の通気性を長期に亘って良好なものにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の密封装置によれば、径方向の内方の開口が軸方向において第1シールリップと第2シールリップとの間に位置すると共に、芯金部および弾性部を径方向に貫通している貫通穴を備え、さらに、貫通穴の径方向の外方の開口を塞いでいると共に、空気が通過自在である一方、水が通過できない性質を有する多孔質部材を備えているから、水や油が、軸受内が負圧の際に、空気と共に、軸受内に浸入しようとする作用を格段に小さくすることができる。さらには、水および油は、上記多孔質部材を通過することができないから、内輪の径方向内方に存在している水や圧延油が、軸受内に浸入することを確実に防止できる。
【0013】
また、本発明によれば、上記多孔質部材の径方向の外方に配置された覆部を有する覆板を備えているから、軸受内の潤滑剤が、多孔質部材に接触することを抑制できて、多孔質部材の通気性を長期に亘って良好なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0015】
図1は、圧延機のワークロールのロールネック20付近の拡大断面図であり、この発明の一実施形態の密封装置1を示す軸方向の断面図である。
【0016】
この密封装置1は、圧延機のワークロールのロールネック20を支持するロールネック用軸受としての円錐ころ軸受2に配置されている。
【0017】
この円錐ころ軸受2は、ロールネック20と、筒状のハウジング(図示せず)との間に配置されている。この円錐ころ軸受2は、内輪3、外輪6、および、円錐ころ7,8を備えている。また、この円錐ころ軸受2は、密封装置1以外に2つの密封装置を備えている。詳しくは、この円錐ころ軸受2の内輪3と外輪6との間の空間を外部から密閉するため、円錐ころ軸受2の一端側に配設される外輪6に固定され内輪3または内輪3と一体回転する部材に摺動する第2密封部材(図示せず)と、円錐ころ軸受2の他端側に配設される外輪6に固定され内輪3または内輪3と一体回転する部材に摺動する第3密封装置(図示せず)とを備えている。
【0018】
上記内輪3は、ロールネック20に隙間嵌めされている。上記内輪3は、第1内輪4および第2内輪5を有している。第1内輪4の軸方向の端面4aと、第2内輪5の軸方向の端面5aとは、軸方向に突き合わされている。上記内輪3の軸方向に突き合わされた部分の外周面には、環状溝10が形成されている。
【0019】
上記外輪6は、軸方向に隣接する2つの円錐軌道面を有している。上記外輪6は、上記ハウジングの内周面に隙間嵌めされている。上記円錐ころ7は、第1内輪4の円錐軌道面と外輪6の一方の円錐軌道面との間に、保持器9によって保持された状態で、周方向に所定の間隔を隔てられて複数配置されている。また、上記円錐ころ8は、第2内輪5の円錐軌道面と外輪6の他方の円錐軌道面との間に、保持器11によって保持された状態で、周方向に所定の間隔を隔てられて複数配置されている。
【0020】
この発明の一実施形態の密封装置1は、環状溝10に嵌合固定されている。上記密封装置1は、環状の芯金部21と、環状の弾性部22と、多孔質部材29と、ひさし部材30とを有する。
【0021】
上記芯金部21は、金属材からなる。上記芯金部21は、軸方向の半断面図において、断面略L字状の形状をしている。詳しくは、上記芯金部21は、略円筒状の円筒状部21aと、円筒状部21aに連なる屈曲部21bとを有する。円筒状部21aは、略軸方向に延在している。上記屈曲部21bは、上記芯金部21の第1内輪3側の端部を構成し、軸方向から径方向の内方に屈曲している。
【0022】
一方、上記弾性部22は、弾性材からなる。上記弾性部は、芯金部21に固着されている。上記弾性部22は、芯金部21の円筒状部21aの外周面よりも径方向の内方に位置している。上記弾性部22は、4つの環状のシールリップ24,25,26,27を有する。第1シールリップ24は、環状溝10の底面の位置を構成する第1内輪4の外周面部4cに接触する一方、第2シールリップ25は、環状溝10の底面の一部を構成する第2内輪5の外周面部5cに接触している。また、第3シールリップ26は、環状溝10の側面の一部をなす第1内輪4の軸方向の端面4dに接触する一方、第4シールリップ27は、環状溝10の側面の一部をなす第2内輪5の軸方向の端面5dに接触している。
【0023】
芯金部21および弾性部22は、径方向に延在して、芯金部21の円筒状部21aと弾性部22とを径方向に貫通する貫通穴28を有している。上記貫通穴28の径方向の内方の開口は、軸方向において、第1シールリップ24と第2シールリップ25との間に位置している。上記貫通穴28は、周方向に所定間隔毎に複数形成されている。
【0024】
上記多孔質部材29は、ポリテトラフルオロエチレン材に特殊加工を施したゴアテックス(商品名)からなっている。上記多孔質部材29は、貫通穴28の径方向の外方の開口を完全に塞ぐように、芯金部21の円筒状部21aの外周面に固着されている。上記多孔質部材29は、貫通孔28の数に一致する数設けられている。上記多孔質部材29は、多数の微少な通気孔を有し、空気の通過を許容する一方、水や油の通過を禁止する性質を有している。
【0025】
上記ひさし部材30は、多孔質部材29の数に一致する数設けられている。上記ひさし部材30は、覆板40と、スペーサー41,42とを有する。なお、スペーサー41は断面図である図1の手前に配設されているため図示されないが、スペーサー42と周方向に離隔して配設される。上記覆板40は、多孔質部材29の径方向の外方に配置されている。上記覆板40の全体は、覆部を構成している。上記スペーサー41,42の径方向の内方の端面は、円筒状部21aに固着される一方、スペーサー41,42の径方向の外方の端面は、覆板40の径方向内方の円筒面状の端面に固着されている。スペーサー41,42は、覆板40を、多孔質部材29から径方向に離間する役割を担っている。上記覆板40と、多孔質部材29とは、径方向の隙間(径方向の長さが1mm程度)を介して径方向に対向している。
【0026】
図2は、覆板40を径方向の外方から見た平面図である。
【0027】
図2に示す平面図において、覆板40およびスペーサー41,42は、長方形の形状を有し、多孔質部材29は、円形状を有している。また、図2に示すように、径方向の外方から見た平面図において、多孔質部材29は、覆板40の内部(覆板40によって隠れる位置)に存在している。上記覆板40は、多孔質部材29の表面に軸受内の潤滑剤が接触するのを抑制する役割を果たしている。
【0028】
上記実施形態の密封装置1によれば、径方向の内方の開口が第1シールリップ24と第2シールリップ25との間に位置すると共に、芯金部21および弾性部22を径方向に貫通している貫通穴28を備え、さらに、貫通穴28の径方向の外方の開口を塞いでいると共に、空気が通過自在である一方、水および油が通過できない性質を有する多孔質部材29を備えているから、円錐ころ軸受2内の温度が急激に上昇して、円錐ころ軸受2内の空気圧が高圧になった場合、円錐ころ軸受2内から多孔質部材29を介して空気が円錐ころ軸受2外に円滑に放出されるから、円錐ころ軸受2内の圧力を速やかに下げることができる。一方、円錐ころ軸受2内の温度が急激に低下して、円錐ころ軸受2内が負圧になった場合、外部から多孔質部材29を介して空気が円錐ころ軸受2内に円滑に浸入するから、円錐ころ軸受2内の負圧を速やかに解消することができる。したがって、内輪3の径方向の内方に存在している冷却水や圧延油が、円錐ころ軸受2内の圧力が負圧の際に、空気と共に、円錐ころ軸受2内に浸入しようとする作用を格段に小さくすることができる。さらには、冷却水および圧延油は、多孔質部材29を通過することができないから、内輪3の径方向の内方に存在している冷却水や圧延油が、円錐ころ軸受2内に浸入することを確実に防止できる。
【0029】
また、上記実施形態の密封装置1によれば、多孔質部材29の径方向の外方に配置された覆板40を備えているから、円錐ころ軸受2内の潤滑剤が、多孔質部材29に接触することを抑制できる。したがって、多孔質部材29の通気性の低下を抑制できて、多孔質部材29の通気性を長期に亘って良好なものにすることができる。
【0030】
尚、上記実施形態の密封装置1では、密封装置1が設置されたのが円錐ころ軸受2であったが、この発明の密封装置は、円筒ころ軸受や玉軸受等、円錐ころ軸受以外の転がり軸受に設置されても良い。
【0031】
また、上記実施形態の密封装置1では、密封装置1が設置された円錐ころ軸受が2つの円錐軌道面を有する外輪6と、第1内輪4と、第2内輪5と、軸方向2列の円錐ころとの組み合わせであったが、円錐ころが、軸方向に3列以上の転がり軸受に設置されてもよい。また、軸方向に2つ以上の外輪を組み合わせた転がり軸受に設置されてもよい。例えば、円錐ころが軸方向に4列の転がり軸受の場合、軸方向に2つの外輪の端面を突き合わせた構成や、軸方向に2つの外輪の端面を外輪間座を介して突き合わせた構成があるが、このような場合、ハウジングと第2密封装置との間を密封する密封部材およびハウジングと第3密封装置との間を密封する密封部材を介装させ、または、ハウジングとそれぞれの外輪との間を密封する密封部材をそれぞれ介装させ、円錐ころ軸受2の内輪3と外輪6との空間を外部から密閉するため、第1内輪4と第2内輪5との軸方向に突き合わされた部分の外周面に形成された環状溝10に本発明の密封装置1を配設することで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、上記実施形態の密封装置1では、多孔質部材29の材料がゴアテックスであったが、この発明では、多孔質部材の材料は、ポリテトラフルオロエチレン材に、延伸加工を施して形成したポリテトラフルオロエチレンシートと、毛および繊維を圧縮して形成してなる不織布と、を貼合わせた材料を使用しても良い。多孔質部材の材料は、要は、気体が透過する一方、液体が透過しない性質を有している材料ならば如何なる材料であっても良い。
【0033】
また、上記実施形態の密封装置1では、径方向に延在する貫通穴28を複数設けたが、貫通穴は、一つでも良い。また、貫通穴は、径方向の内方の開口が、軸方向において、第1リップと第2リップとの間に位置していると共に、径方向の外方の開口が、軸受の潤滑剤封入空間に開口していれば、如何なる形状であっても良く、正確に径方向に延在していなくても良く、直線でなくても良い。
【0034】
また、上記実施形態の密封装置では、覆板40の全体が覆部を構成し、覆板40は、スペーサー41,42によって多孔質部材29から径方向に離間されていた。しかしながら、この発明では、覆板の一部が覆部を構成するようにしても良い。例えば、スペーサーを省略して、芯金部の円筒状部の外周面に固定される固定部と、固定部から径方向に延在する径方向延在部と、径方向延在部につながると共に、軸方向に延在する軸方向延在部とを有する覆板を使用しても良い。この場合、軸方向延在部が覆部を構成することは言うまでもない。
【0035】
また、上記実施形態の密封装置1では、覆部を構成する覆板40を径方向の外方から見た平面図において、覆板40およびスペーサー41,42は、長方形の形状を有し、多孔質部材29は、円形状を有していたが、この発明では、覆部を径方向の外方から見た平面図において、覆部およびスペーサーは、円形状等、長方形の形状以外の形状を有していても良く、多孔質部材は、矩形状等、円形状以外の形状を有していても良い。要は、覆部の径方向の外方から見た平面図において、多孔質部材が、覆部の内部(覆部によって隠れる位置)に存在していさえすれば、覆部、スペーサー、多孔質部材の形状は、如何なる形状であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の密封装置を示す軸方向の断面図である。
【図2】覆板を径方向の外方から見た平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 密封装置
3 内輪
4 第1内輪
4c 第1内輪の外周面部
5 第2内輪
5c 第2内輪の外周面部
6 外輪
7,8 円錐ころ
10 環状溝
21 芯金部
22 弾性部
24 第1シールリップ
25 第2シールリップ
28 貫通孔
29 多孔質部材
40 覆板
41,42 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の芯金部と、
第1内輪と第2内輪との軸方向に突き合わされた部分の外周面に形成された環状溝の底面の一部を構成する上記第1内輪の外周面部に接触する第1シールリップと、上記環状溝の上記底面の一部を構成する上記第2内輪の外周面部に接触する第2シールリップとを有すると共に、上記芯金部に固定された環状の弾性部と、
上記芯金部と上記弾性部とを径方向に貫通すると共に、上記径方向の内方の開口が、上記軸方向において上記第1シールリップと上記第2シールリップとの間に位置する貫通穴と、
上記貫通穴の上記径方向の外方の開口を塞いでいると共に、空気が通過自在である一方、水および油が通過できない性質を有する多孔質部材と、
上記多孔質部材の上記径方向の外方に位置する覆部を有する覆板と、
を備えることを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106825(P2008−106825A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289000(P2006−289000)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000167196)光洋シーリングテクノ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】