説明

密封装置

【課題】円錐面による装着の方向性を有するバックアップリングを備える密封装置において、バックアップリング1が正しい向きに組み付けられたかどうかを容易に判定可能とする。
【解決手段】筒状部材10の略円錐状の支持面11aに、この支持面11aと対応する略円錐状の被支持面1aにおいて密接嵌合されるバックアップリング1と、このバックアップリング1と軸方向に並んで前記支持面11aの小径側に装着されるシールリング2と、このシールリング2に対してバックアップリング1と反対側の所定位置で筒状部材10に係止されるホルダ3とを備え、支持面11aに密接嵌合されたバックアップリング1と、前記所定位置に係止されたホルダ3との間の軸方向幅Wが、バックアップリング1の軸方向幅Wとシールリング2の軸方向幅Wの和より小さく、シールリング2の軸方向幅Wより大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば管継手や燃料噴射装置などに設けられる密封装置であって、特に、相手材に、円錐面同士が接触した状態で配置されるバックアップリングを介して軸方向一方への移動が規制された状態に配置されるシールリングを備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンディショナ(冷房装置)等における冷凍サイクルの配管の接続部分から高圧の冷媒ガス(例えばCO)が漏洩するのを防止するため、このような配管接続部分には密封装置が装着される。図6は、この種の密封装置の装着状態を示す断面図である。
【0003】
すなわち、図6において、参照符号110は一方の配管(不図示)の端部に取り付けられる第一継手部材、参照符号120は他方の配管(不図示)の端部に取り付けられる第二継手部材で、第一継手部材110は、挿入筒部111とその後端部から展開したフランジ部112を有し、第二継手部材120は、第一継手部材110の挿入筒部111が挿入されるハウジング部121を有する。そして、この第一継手部材110と第二継手部材120の間を密封する密封装置100は、挿入筒部111とハウジング部121の間に介在されるバックアップリング101及びシールリング102からなる。
【0004】
詳しくは、第一継手部材110の挿入筒部111の外周面には、その先端側が小径、フランジ部112側が大径となる円錐状支持面111aが形成されており、バックアップリング101は、合成樹脂材料からなるものであって、その内周面に形成された円錐状被支持面101aが、前記円錐状支持面111aと密接嵌合することによって、前記挿入筒部111に、軸方向一側(フランジ部112側)への移動が制限された状態で装着される。また、シールリング102は、例えばゴム状弾性材料からなるOリングであって、バックアップリング101によって軸方向一側から支承されると共に、第一継手部材110の挿入筒部111における円錐状支持面111aの小径側に形成された円筒状外周面111bと、第二継手部材120のハウジング部121の内周面121aとの間で径方向に適当に圧縮された状態で装着される。
【0005】
すなわち、この密封装置100は、第一継手部材110及び第二継手部材120の互いに連続した流路110a,120aを流れる高圧ガスGを密封対象とするもので、この高圧ガスGの圧力によるフランジ部112側へのシールリング102の移動や、はみ出しは、バックアップリング101によって防止されている。また、高圧ガスGの圧力が増大すると、シールリング102がバックアップリング101に押し付けられて径方向へ変形し、第一継手部材110の挿入筒部111の円筒状外周面111b及び第二継手部材120のハウジング部121の内周面121aに対する面圧を増大するので、優れた密封性を奏することができる。
【0006】
なお、図6と同様の構成を備える密封装置としては、例えば特許文献1に開示されたインジェクタ(燃料噴射装置)用の密封装置が知られている。
【特許文献1】特開平10−184927号公報
【0007】
図7は、図6の密封装置100において、バックアップリング101が逆向きに組み付けられた状態を示す断面図である。すなわち、バックアップリング101は、内周面に形成された円錐状被支持面101aによって、装着の方向性があるが、図7のように逆向きに組み付けてしまった場合、作業者がそれに気付かないことがある。
【0008】
そして、図7のような誤組み付け状態で、図6に示される第二継手部材120のハウジング部121との間に組み込まれた場合は、シールリング102が、バックアップリング101における径方向幅の狭い端面101bで支承されることになるので、シールリング102に対する本来のバックアップ機能を十分に発揮することができず、高圧ガスGの圧力を受けてシールリング102がバックアップリング101の内周側へはみ出したり、損傷するおそれがある。したがって、装着の際には、バックアップリング101が逆向きに組み付けられていないかを目視によって検査する必要があり、コスト上昇の要因になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、円錐面による装着の方向性を有するバックアップリングを備える密封装置において、バックアップリングが正しい向きに組み付けられたかどうかを容易に判定可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、筒状部材の略円錐状の支持面に、この支持面と対応する略円錐状の被支持面において密接嵌合されるバックアップリングと、このバックアップリングと軸方向に並んで前記支持面の小径側に装着されるシールリングと、このシールリングに対して前記バックアップリングと反対側の所定位置で前記筒状部材に係止されるホルダとを備え、前記支持面に密接嵌合されたバックアップリングと、前記所定位置に係止されたホルダとの間の軸方向幅が、バックアップリングの軸方向幅とシールリングの軸方向幅の和より小さく、シールリングの軸方向幅より大きいことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載の構成において、ホルダは環状体の円周方向一箇所が切断されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項1又は2の構成によれば、ホルダは、バックアップリングと反対側からシールリングを抜け止めする機能を有する。そして、バックアップリングが正規の装着状態、すなわち筒状部材における略円錐状の支持面に密接嵌合された状態にある場合は、このバックアップリングと、ホルダが係止される位置との間の軸方向幅が、シールリングの軸方向幅より大きいため、シールリングを装着した後で、ホルダを、所定の係止位置へ係止することができる。
【0013】
これに対し、バックアップリングが、筒状部材に正規とは逆向きに装着された場合は、筒状部材における略円錐状の支持面と密接嵌合状態にならず、バックアップリングの軸方向幅に相当する分だけ、前記支持面の小径側へずれることになる。したがって、このバックアップリングと、ホルダが係止される位置との間の軸方向幅は、バックアップリングが正規の装着状態にある場合よりも、バックアップリングの軸方向幅に相当する分だけ小さくなり、すなわちシールリングの軸方向幅より小さくなってしまうため、シールリングを装着した後で、ホルダを所定位置へ係止しようとすると、シールリングとの干渉によって係止することができなくなる。このため、バックアップリングが正しく組み付けられたか否かを容易に判別することができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る密封装置によれば、誤組み付けを容易に発見することができ、その結果、誤組み付けに起因するシールリングのはみ出しや破損を、未然に防止することができる。
【0015】
請求項2の発明に係る密封装置によれば、円周方向一箇所が切断されたホルダは、誤組み付けによって変位したシールリングを強制的に押圧しながら筒状部材へ係止しようとしても、シールリングの反力によって開いて係止不可能となるため、誤組み付けを一層確実に発見することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る密封装置の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、本発明に係る密封装置の第一の形態を示す装着状態の断面図、図2は、図1におけるホルダを示す斜視図、図3及び図4は、第一の形態においてバックアップリングが逆向きに組み付けられた状態を示す断面図で、この実施の形態による密封装置は、エアコンディショナ(冷房装置)等における冷凍サイクルの配管の接続部分の密封手段として設けられるものである。
【0017】
すなわち、まず図1において、参照符号10は冷凍サイクルの配管(不図示)の端部に取り付けられる継手部材で、挿入筒部11とその後端部から展開したフランジ部12を有する。挿入筒部11の外周面は、その先端側が小径、フランジ部12側が大径となる円錐状支持面11aと、その小径端部から先端側へ向けて延びる円筒状外周面11bと、この円筒状外周面11bにおける先端寄りの位置に形成された環状の係止溝11cを有する。なお、継手部材10は、請求項1に記載された筒状部材に相当し、円錐状支持面11aは、請求項1に記載された略円錐状の支持面に相当するものである。
【0018】
本発明の密封装置は、継手部材10の挿入筒部11における円錐状支持面11aに外挿されるバックアップリング1と、前記挿入筒部11における円筒状外周面11bに外挿されるシールリング2と、このシールリング2に対してバックアップリング1と反対側となる前記挿入筒部11の先端近傍の所定位置に、着脱可能に係止されるホルダ3とを備える。
【0019】
詳しくは、バックアップリング1は、合成樹脂材料からなるものであって、その内周面は、継手部材10の挿入筒部11における円錐状支持面11aと対応する円錐状被支持面1aとなっている。すなわち、このバックアップリング1は、円錐状被支持面1aが円錐状支持面11aと密接嵌合することによって、継手部材10の挿入筒部11に、フランジ部12側への移動が制限された状態で装着される。
【0020】
シールリング2は、例えばゴム状弾性材料からなるOリングであって、継手部材10の挿入筒部11における円筒状外周面11bに、バックアップリング1によってフランジ部12側から支承された状態で外挿される。
【0021】
ホルダ3は、図2に示されるように、合成樹脂材料からなる環状体の円周方向一箇所を切断した略C字形を呈するものであって、その内周面には、継手部材10の挿入筒部11における先端寄りの位置に形成された係止溝11cと嵌合可能な環状の被係止突起31が形成されている。すなわち、このホルダ3は、図1に示されるように、挿入筒部11の先端近傍の所定位置に外挿されると共に、被係止突起31が係止溝11cと嵌合されることによって、着脱可能に係止されるものである。
【0022】
挿入筒部11の円錐状支持面11aに密接嵌合状態に外挿されたバックアップリング1と、被係止突起31が係止溝11cに嵌合することによって挿入筒部11の先端近傍に係止されたホルダ3との間の軸方向幅Wは、バックアップリング1の軸方向幅Wとシールリング2の軸方向幅(線径)Wの和より小さく(W<W+W)、シールリング2の軸方向幅Wよりも大きいものとなっている(W>W)。
【0023】
以上のように構成された密封装置は、まず図1に示されるように、バックアップリング1とシールリング2を、予め継手部材10の挿入筒部11に仮装着してから、先に説明した図6と同様に、他方の継手部材におけるハウジング部121の内周に組み込まれ、高圧ガスに対する密封機能を奏するものである。そして、前記ハウジング部121への組み込み前の状態では、前記挿入筒部11の先端近傍の所定位置にホルダ3を外挿して、その被係止突起31を係止溝11cに嵌合することによって係止しておくことによって、バックアップリング1及びシールリング2の脱落を防止することができる。
【0024】
なお、上述のハウジング部121への組み込みに際しては、ホルダ3は継手部材10の挿入筒部11から取り外すが、そのままシールリング2の抜け止め手段として残すようにしても良い。
【0025】
ここで、バックアップリング1は、内周の円錐状被支持面1aによって装着の方向性があり、正規の装着状態では、円錐状被支持面1aが、継手部材10における挿入筒部11の円錐状支持面11aに密接嵌合状態となり、このときのシールリング2側の端部は軸方向位置(以下、支持位置という)Pにある。ところが、バックアップリング1とシールリング2を、予め継手部材10の挿入筒部11に仮装着する作業では、過ってバックアップリング1を逆向きに組み付けてしまい、作業者がそれに気付かないことがある。
【0026】
しかしながら、本発明の密封装置によれば、バックアップリング1を継手部材10の挿入筒部11に逆向きに外挿した場合は、図3に示されるように、このバックアップリング1における円錐状被支持面1aの小径端部である最小径の内径縁1bが先行して、支持位置Pで挿入筒部11の円錐状支持面11aと干渉するので、バックアップリング1の装着位置が、図1に示される正規の位置よりも、このバックアップリング1の軸方向幅Wに相当する分だけ、円錐状支持面11aの小径側(挿入筒部11の先端側)へずれることになる。またこのため、その後で挿入筒部11に外挿されるシールリング2も、バックアップリング1の軸方向幅Wに相当する分だけ、図1に示される正規の位置より挿入筒部11の先端側へずれることになる。
【0027】
そして、シールリング2を外挿した後で、ホルダ3を継手部材10の挿入筒部11へ外挿し、被係止突起31を係止溝11cに嵌合するには、図1に示されるように、このホルダ3を、支持位置Pに対して軸方向幅Wに相当する距離だけ先端寄りの位置まで移動させる必要があるが、上述のように、バックアップリング1が逆向きに外挿されることによって、バックアップリング1及びシールリング2が正規の位置より軸方向幅Wに相当する分だけずれた場合は、その後で外挿されるホルダ3は、軸方向位置Pに対してW+Wに相当する距離だけ先端寄りの位置に達した時点で、シールリング2と干渉してしまうので、被係止突起31を係止溝11cに嵌合して係止することができなくなる。したがって、作業者は、バックアップリング1が逆向きに組み付けられたことを、容易に判別することができる。
【0028】
また、ホルダ3がシールリング2と干渉したにも拘らず、このホルダ3を更に押し込んだ場合は、図4に示されるように、シールリング2がホルダ3とバックアップリング1との間で圧縮変形を受ける。したがってこの場合、環状体の円周方向一箇所を切断した略C字形をなすホルダ3は、シールリング2の圧縮反力によって開いてしまい、被係止突起31を係止溝11cに嵌合することができないので、作業者は、バックアップリング1が逆向きに組み付けられたことを認識することになる。
【0029】
なお、シールリング2が硬度の低いゴム材からなるものである場合は、バックアップリング1が逆向きに組み付けられることによって、図4のようにシールリング2がホルダ3とバックアップリング1との間で圧縮変形を受けても、その反力が小さいので、ホルダ3が少ししか開かず、このため被係止突起31が係止溝11cに係止されてしまうことが考えられる。したがって、W+W−Wの大きさ(Wを、WとWの和に比較してどの程度小さくするか)は、このような場合でもホルダ3が開くのに必要かつ十分なシールリング2の圧縮反力を得られるように、適切に決定される。
【0030】
図5は、本発明に係る密封装置の第二の形態を示す装着状態の断面図である。この形態において、上述した第一の形態と異なるところは、ホルダ3におけるシールリング2と反対側の端部内周に、継手部材10における挿入筒部11の先端面11dと当接又は近接対向される内向き突起32を形成したことにある。その他の部分は、第一の形態と同様である。
【0031】
この形態によれば、ホルダ3自体が逆向きに装着されるのを防止することができ、その結果、バックアップリング1が正しい向きに組み付けられたか否かを確実に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る密封装置の第一の形態を示す装着状態の断面図である。
【図2】図1におけるホルダを示す斜視図である。
【図3】本発明に係る密封装置の第一の形態において、バックアップリングが逆向きに組み付けられた状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係るの第一の形態密封装置において、バックアップリングが逆向きに組み付けられた状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る密封装置の第二の形態を示す装着状態の断面図である。
【図6】従来の密封装置の装着状態を示す断面図である。
【図7】従来の密封装置においてバックアップリングが逆向きに組み付けられた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 バックアップリング
1a 円錐状被支持面(被支持面)
2 シールリング
3 ホルダ
31 被係止突起
32 内向き突起
10 継手部材(筒状部材)
11 挿入筒部
11a 円錐状支持面(支持面)
11b 円筒状外周面
11c 係止溝
12 フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材(10)の略円錐状の支持面(11a)に、この支持面(11a)と対応する略円錐状の被支持面(1a)において密接嵌合されるバックアップリング(1)と、このバックアップリング(1)と軸方向に並んで前記支持面(11a)の小径側に装着されるシールリング(2)と、このシールリング(2)に対して前記バックアップリング(1)と反対側の所定位置で前記筒状部材(10)に係止されるホルダ(3)とを備え、前記支持面(11a)に密接嵌合されたバックアップリング(1)と、前記所定位置に係止されたホルダ(3)との間の軸方向幅(W)が、バックアップリング(1)の軸方向幅(W)とシールリング(2)の軸方向幅(W)の和より小さく、シールリング(2)の軸方向幅(W)より大きいことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
ホルダ(3)は環状体の円周方向一箇所が切断されたものであることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−51168(P2008−51168A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226280(P2006−226280)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】