説明

密封装置

【課題】組み込み、取り外しに圧入に使用するような特殊な工具は不要で、かつ組み込み、取り外し作業が容易な密封装置を提供する。
【解決手段】互いに移動自在に組み付けられる二部材間の環状隙間をシールするもので、一方の部材に固定される固定環と、該固定環に固定され他方の部材に摺動自在に接触するシール本体部とを備えた密封装置において、固定環に、前記一方の部材に設けられたねじ部にねじ込み固定可能なねじ部を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば建設機械や一般機械に用いられる油空圧シリンダ、自動車のショックアブソーバ等のダストシール、あるいは一般的な環付のオイルシールとしても適用可能な密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダストシールは、油空圧機器のシリンダ内部へダスト等の異物が浸入することを防止する機能を有するパッキンである。
ダストシールには、大別して、(i)NBRやウレタンなどのゴム材単体のタイプのパッキン100(図4(A)参照)と、(ii)ゴム材よりなるシール本体部112に固定環111を焼き付けたタイプの環付きパッキン110と(図4(B)参照)、(iii)樹脂リング122とゴム状弾性材製のゴムリング121を組み合わせた組合せパッキン120で、摺動面側に樹脂リング122を用いたタイプの組合せパッキン(図4(C)参照)の3種類のパッキンが用いられている。
【0003】
この中で、建設機械に代表されるダスト環境の厳しい用途には、シールの安定性を重視して、(ii)の固定環111を焼付けた環付きパッキン110を適用するのが一般的である。
【0004】
一方で、建設機械、特にブレーカーなどに代表されるダスト環境が厳しい部位で使用されるダストシールは、破損、磨耗などにより長寿命化が困難であり、しばしば定期交換部品(消耗品)として取り扱われている。
【0005】
しかし、環付きパッキンは、図4(E)に示すように、ハウジング130に対して、圧入治具140を用いて圧入して組み込む必要がある。圧入嵌合されるために、取り外しも容易ではなくなる。また、組み込み時に、プレスなどの圧入のための特殊な工具が必要となるため、建設現場や工事現場などでの補修や交換作業が困難であり、定期交換部品(消耗品)としては作業性の課題が残る。
そのため、従来は、特に消耗品としてパッキン交換頻度の高いブレーカー用途などへは、使用が見送られてきた。
【0006】
また、固定環111とハウジング130の金属同士を嵌合して組みつけているため、嵌合部には、金属の傾きによる隙間が生じやすく、外周側から液体状の外部ダストが浸入する可能性もある。
なお、外周からのダスト浸入については、図4(D)に示すように、外周面に副リップ113を設けたタイプの環付パッキン110′が知られているが、嵌合面に副リップ113を設定しているため、斜めに挿入した場合などは組み込み時にめくれたり、破損するという可能性がある。
なお、このような一般的なパッキンについては、たとえば、特許文献1,2に記載されている。
【0007】
一方、本出願人は、図5に示すように、ダストシール110A、110Bを2つ設け、外部空間A側のダストシール110Bについて、周方向1箇所で切断し、切断部Cの切断端部同士の隙間が軸の径以上となるように変形させることができ、かつ外力をなくすと元の形に復元する程度の柔軟性と弾性復元力とを有する素材によって構成することで、組み込み性の改善を図ったものを提案している(特許文献3参照)。しかし、この場合には、分割部Cのシール性について検討する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭59−22360号公報
【特許文献2】実開平05−83410号公報
【特許文献3】特開2008−223900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、従来の圧入嵌合のように圧入に使用するような特殊な工具は不要で、かつ組み込み、取り外し作業が容易にできる固定環付きの密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、互いに移動自在に組み付けられる二部材間の環状隙間をシールするもので、一方の部材に固定される固定環と、該固定環に固定され他方の部材に対して摺動自在に接触するシール部材とを備えた密封装置において、前記固定環に、前記一方の部材に設けられたねじ部にねじ込み固定可能なねじ部を設けたことを特徴とする。
固定環の外部空間側に固定環を回転させるための工具が係合する工具係合部を設けることが有効である。
また、ねじ部が設けられる固定環外周部をテーパ形状とすることも有効である。
ねじ部には、シールテープを装着し、また、液状ガスケットを塗布するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る密封装置によれば、圧入嵌合のように圧入あるいは取り外すための特殊な工具が不要で、固定環を回転させることにより、一方の部材への組み込み・取り外しが容易にでき、交換作業の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(A)は本発明の実施の形態に係る密封装置をハウジングに装着した状態の一例を示す要部縦断面図、同図(B)は(A)の密封装置を取り出して示す要部縦断面図である。
【図2】図2は図1(A)の密封装置とハウジングのねじ部を示す一部破断分解斜視図である。
【図3】図3(A)は固定環に設けられるスリットを設けた密封装置の一部破断斜視図、同図(B)は同図(A)のX方向部分矢示図、同図(C)は図1(B)の固定環の筒状部をテーパ形状とした形態を示す要部縦断面図である。
【図4】図4(A)は従来のゴム単体のパッキンの一例を示す要部縦断面図、同図(B)は従来の環付きパッキンの一例を示す要部縦断面図、同図(C)は従来の組み合わせパッキンの一例を示す要部縦断面図、同図(D)は従来の副リップを設けた環付きパッキンの一例を示す要部縦断面図、同図(E)は環付きパッキンの圧入状態を示す概略断面図である。
【図5】図5は従来の環付きパッキンを2連配置したダストシールの構成を示すもので、同図(A)は要部縦断面図、同図(B)は固定環の分割部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明の例示であって、実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置
などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
図1(A)は本発明の実施例に係る密封装置をハウジングに装着した状態の一例を示す要部縦断面図、同図(B)は(A)の密封装置を取り出して示す要部縦断面図、図2は図1(A)の密封装置とハウジングのねじ部を示す一部破断分解斜視図である。
【0015】
図において、密封装置1は、互いに往復動自在に組み付けられるハウジング50とロッド60間の環状隙間をシールするもので、ハウジング50内周に設けられた取付溝51に装着されている。本実施例の密封装置1は、たとえば建設機械や一般機械に用いられる油空圧シリンダ、自動車のショックアブソーバ等のダストシールに用いられるもので、密封空間Fから外部空間Aへの密封流体の流出を防止すると共に、外部空間Aから塵埃等の異物が密封空間F側に進入しないようにシールする。
【0016】
取付溝51は、ハウジング50の外部空間A側の端面に開いた構成で、ロッド60が挿通されるロッド孔53の外部空間A側の端部を一段大径に拡径した構成となっている。この取付溝51の内周面は中心軸と平行に延びる円筒形状で、雌ねじ52が形成されている。
【0017】
密封装置1は、取付溝51に固定される固定環10と、この固定環10に固定されロッド60に摺動自在に接触するシール本体部20とを備えている。
固定環10は金属製で、円筒形状の筒状部11と、筒状部11の外部空間側端部から半径方向内方に向かって伸びるワッシャ状の内向きフランジ部12とを備えた構成となっている。
筒状部11の外周には、上記したハウジング50の取付溝51内周に形成された雌ねじ52と螺合する雄ねじ13が形成され、固定環10が、取付溝51にねじ込み固定されている。筒状部11の密封空間側端部は、取付溝51の奥端面51aに突き当てられている。
【0018】
組み込み時に、雄ねじ13にシールテープが装着してもよいし、液状ガスケットを塗布してもよい。このようにすれば、外周縁からの液状ダストの浸入を防ぐことができ、ねじ嵌合部のシール性を向上させることができる。
【0019】
シール本体部20はゴム状弾性材で構成され、固定環10の内周面に焼付け固定される内周ゴム部23と、内向きフランジ部12の密封空間側の側面に焼付け固定されるフランジ状ゴム部24と、フランジ状ゴム部24から密封空間F側に延びる密封空間側リップ部21と、内向きフランジ部12の内径端部から外部空間A側に延びるダストリップ部22と、を備えている。
【0020】
密封空間側リップ部21は、フランジ状ゴム部24の内径端部から軸方向密封空間F側に向かって徐々に小径となるように傾斜して延び、リップ先端がロッド60の外周面に密封状態で接触している。
【0021】
ダストリップ部22は、内向きフランジ部12の内径端部から軸方向外部空間Aに向かって徐々に小径となるように傾斜して延び、リップ先端がロッド60の外周面に密封状態で接触している。
固定環10の外部空間側の端面である内向きフランジ部12の外部空間側端面には、ねじ込み作業用の工具が係合する係合部としての凹部15が設けられている。
なお、シール本体部20の材料としては、ニトリムゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム等の架橋ゴム材料だけでなく、ウレタンゴム等の熱可塑性エラストマーでもよいし、PT
FE等の樹脂材でもよい。
【0022】
図3には、この凹部15の一例を示している。
凹部15は四角形状で、周方向に複数等配されている。この凹部15に不図示の工具ヘッドの凸部を係合させて、密封装置1に回転方向のトルクを付与するようになっている。図示例では、シール本体部20を構成するゴム材を内向きフランジ部12の外部空間側の端面に回り込ませ、ゴム材によって凹部15を成形している。このようにすれば、加工工数を変えずに成形することができ、加工上有利である。もっとも、内向きフランジ部12の金属部に切削加工などによって凹部を形成してもよい。
【0023】
工具係合部としては、凹部15に限定されるものではなく、凸部であってもよく、要するに工具を回転方向にかけることができ、固定環10に回転トルクを付与できる構成であればよい。
【0024】
本実施例に記載の密封装置にあっては、次のように取付け、取り外し作業を行う。
取付作業は、密封装置1の固定環10の筒状部11の雄ねじ13を、ハウジング50の取付溝51内周の雌ねじ52にねじ込み、最終的には不図示の工具を内向きフランジ部12の凹部15に係合し、筒状部11の密封空間側端部が取付溝の奥端面51aに突き当て締め付け、ねじ部の締め付け力を得る。
【0025】
その後、押さえ板55をハウジング50に固定し、密封装置1の抜け止めが図られる。図示例では、押さえ板55は、ハウジング50の外部空間側端面に、ねじ等によって固定されるワッシャ状部材で、その内径側端部が取付溝51の開口部に被さって、密封装置1の外部空間側端面である固定環10の内向きフランジ部12に係合するようになっている。もっとも、抜け止め部材としては、押さえ板に限定されるものではなく、たとえば、取付溝51の内周に設けた溝に弾性的に係合する抜け止めリング等、種々の構成を適用し得る。
【0026】
取り外し作業は、組み付け作業とは逆に、押さえ板55を外し、内向きフランジ部12の凹部15に不図示の工具を係合し、取り外し方向に回転させて取り外す。
【0027】
このように、本発明によれば、従来の圧入嵌合のように圧入あるいは取り外すための特殊な工具が不要で、固定環10を回転させることにより、ハウジング50への組み込み・取り外しが容易にでき、交換作業の作業性が向上する。
【0028】
なお、上記実施例では、雄ねじ13が形成された固定環10の筒状部11が円筒形状となっているが、図3に示すように、筒状部11がテーパ形状であってもよい。すなわち、筒状部11の中心軸に対して平行の基準線Nに対して所定角度θだけ傾斜している。テーパの方向は、密封空間F側から軸方向外部空間A側に向けて徐々に大径となるように傾斜する形状である。特に、図示しないが、ハウジングの取付溝の内周面も、特に図示しないが、密封空間F側から軸方向外部空間A側に向けて徐々に大径となるテーパ形状とする。このようにすれば、組み込み・取り外し性を向上させ、かつ、締め付け力を大きくすることができるので、外周からの液体状のダスト浸入を防ぐことができる。
【0029】
なお、上記実施例では、固定環がハウジングにねじ込み固定され、シール本体部がロッド外周に摺接する密封装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、固定環がロッドにねじ込み固定され、シール本体部がハウジング内周に摺接するような密封装置にも適用可能である。その場合には、固定環の内周にねじ部としての雌ねじを形成し、ロッド側にねじ部としての雄ねじを形成すればよい。
【0030】
また、本発明は油空圧機器のダストシールに限定されるものではなく、その他往運動する摺動部のシールとして広く適用可能である。また、往復運動する場合ではなく、回転運動する部分のシールとしても適用可能であるし、回転と往復の複合運動する部分のシールとしても適用可能である。
【0031】
尚、本発明の密封装置は、上記した実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 密封装置
10 固定環
11 筒状部、12 内向きフランジ部、13 雄ねじ(ねじ部)
15 凹部
20 シール本体部
21 密封空間側リップ部、22 ダストリップ部
23 内周ゴム部、24 フランジ状ゴム部
50 ハウジング
51 取付溝、51a 奥端面、52 雌ねじ(ねじ部)
53 ロッド孔、55 抜け止め部材
60 ロッド
110,110′ 環付パッキン、111 シール本体部、112 固定環、
113 副リップ
120 組合せパッキン、121 樹脂リング、122 ゴムリング
130 ハウジング
A 外部空間
F 密封空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに移動自在に組み付けられる二部材間の環状隙間をシールするもので、一方の部材に固定される固定環と、該固定環に固定され他方の部材に摺動自在に接触するシール本体部とを備えた密封装置において、
前記固定環に、前記一方の部材に設けられたねじ部にねじ込み固定可能なねじ部を設けたことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
固定環の密封対象側の端部に、固定環を回転させるための工具が係合する工具係合部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
固定環がテーパ形状となっている請求項1又は2に記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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