説明

密封装置

【課題】ハウジングと挿入部材の間を静止的にシールする密封装置であって、外周取付部、内周リップ部および膜部を一体に有し、組付け時に内周リップ部を滑らせながら外周取付部を嵌め込む構造の密封装置において、内周リップ部が滑りやすく、よって嵌め込み後に内周リップ部の位置修正を行なう必要がなく、膜部にストレスがかかりにくく、内周リップ部に接触キズが生じにくい構造を提供する。
【解決手段】組付け時に内周リップ部に塗布する潤滑剤を貯留するための立体形状を内周リップ部の挿入方向斜面に設ける。立体形状としては、これを内周リップ部の挿入方向斜面に設けた円周上多数の溝によって形成し、あるいは内周リップ部の挿入方向斜面に円周上多数の突起を設けることにより突起間の凹部によって形成し、あるいは内周リップの挿入方向斜面に設けた表面粗し部によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封技術に係る密封装置に係り、更に詳しくは、ハウジングとハウジングに設けた開口に挿入される挿入部材との間をシールする密封装置に関するものである。本発明の密封装置は、自動車関連分野または一般産業機械の分野などで用いられ、例えば自動車関連分野では、内燃機関におけるシリンダヘッドカバーとプラグチューブとの間またはシリンダヘッドカバーとインジェクションパイプとの間をシールするために用いられる。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等車両における内燃機関のシリンダヘッドカバーには、プラグチューブやインジェクションパイプ等の挿入部材を挿入するための開口(挿通孔)が設けられており、この開口に挿入部材を挿入した状態で、ハウジングと挿入部材との間をシールするよう密封装置が装着されている。
【0003】
図5はこのような密封装置の一例としてプラグチューブシール51を示しており、このシール51は、ハウジングとしてのシリンダヘッドカバー61と、このシリンダヘッドカバー61に設けた開口62に挿入される挿入部材としてのプラグチューブ63との間を静止的にシールする密封装置であって、シリンダヘッドカバー61の開口周縁部62aに固定される外周取付部52と、プラグチューブ63に静止的に密接する内周リップ部53と、外周取付部52および内周リップ部53を繋ぐ膜部54とを一体に有している。尚、ここに「静止的」とは、プラグチューブ63が挿入後回転せず軸方向往復動もせず静止したままであり、よってプラグチューブ63に対し内周リップ部53は摺動せず静止したままで密接してシール作用を奏することを云い、本発明はこのように限られた条件下における発明である。
【0004】
ところで、上記シール51の組付けは、図示するように内周リップ部53をリップ拡張治具64にセットし、外周取付部52を手作業または工具を用いて押圧し、内周リップ部53を滑らせながら(内周リップ部53がリップ拡張治具64の外周円錐面上およびプラグチューブ63の外周面上を軸方向に滑る)、外周取付部52をシリンダヘッドカバー61に嵌め込んでいる(外周取付部52がシリンダヘッドカバー61の開口周縁部62a内周面に嵌合される)。嵌め込み完了時、内周リップ部53はプラグチューブ63との摩擦抵抗により所定の位置よりも上側に来ているため、嵌め込み後の修正作業として、内周リップ部53を所定の位置まで押し下げる作業を実施している。したがってこのような段取りの組付け工程には、以下の不都合がある。
【0005】
(1)組付け工程が複雑であり、すなわち外周取付部52の嵌め込み後、内周リップ部53を所定の位置まで押し下げる必要がある。
(2)組付け時に外周取付部52および内周リップ部53を繋ぐ膜部54に大きなストレスがかかる。したがって製品開発時に十分な組付け検討が必要とされ、膜部54の厚みの一定確保や内周リップ部53の締め代設定などについて設計時の制約が多い。
(3)内周リップ部53を所定の位置まで押し下げる際に接触キズが生じる危険がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−98231号公報
【特許文献2】特開2005−330996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、内周リップ部を滑らせながら外周取付部をシリンダヘッドカバー等のハウジングに嵌め込む際に、内周リップ部が滑りやすく、よって嵌め込み後に内周リップ部の位置修正を行なう必要がなく、膜部にストレスがかかりにくく、内周リップ部に接触キズが生じにくい構造の密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、ハウジングと前記ハウジングに設けた開口に挿入される挿入部材との間を静止的にシールする密封装置であって、前記ハウジングに固定される外周取付部と、前記挿入部材に静止的に密接する内周リップ部と、前記外周取付部および内周リップ部を繋ぐ膜部とを一体に有し、組付け時に前記内周リップ部を滑らせながら前記外周取付部を嵌め込む構造の密封装置において、組付け時に前記内周リップ部に塗布する潤滑剤を貯留するための立体形状を前記内周リップ部の挿入方向斜面に設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記立体形状は、前記内周リップ部の挿入方向斜面に設けた円周上多数の溝によって形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記立体形状は、前記内周リップ部の挿入方向斜面に円周上多数の突起を設けることにより前記突起間の凹部によって形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記立体形状は、前記内周リップの挿入方向斜面に設けた表面粗し部によって形成されていることを特徴とする。
【0012】
更にまた、本発明の請求項5による密封装置は、上記した請求項1ないし4の何れかに記載の密封装置において、前記ハウジングはガソリンエンジンのヘッドカバー、前記挿入部材はプラグチューブ、または前記ハウジングはディーゼルエンジンのヘッドカバー、前記挿入部材はインジェクションパイプであることを特徴とする。
【0013】
上記構成の密封装置においては、組付け時に内周リップ部に塗布する潤滑剤を貯留するための立体形状が内周リップ部の挿入方向斜面に設けられているために、挿入部材に対する内周リップ部の接触面積を減らし、摩擦抵抗を下げることが可能とされている。また、潤滑剤が立体形状の凹み(谷部)に貯留され塗布量が増えるため、潤滑切れの懸念がなくなる。したがって組付け時、内周リップ部を滑らせながら外周取付部をシリンダヘッドカバー等のハウジングに嵌め込む際に、内周リップ部が滑りやすくなる。
【0014】
立体形状としては、これを内周リップ部の挿入方向斜面に設けた円周上多数の溝によって形成し、あるいは内周リップ部の挿入方向斜面に円周上多数の突起を設けることにより突起間の凹部によって形成し、あるいは内周リップの挿入方向斜面に設けた表面粗し部によって形成するのが好適である。
【0015】
また、ハウジングとしてはガソリンエンジンのヘッドカバーで、挿入部材としてはプラグチューブの組み合わせ、あるいはハウジングとしてはディーゼルエンジンのヘッドカバーで、挿入部材としてはインジェクションパイプの組み合わせが代表例と云うことになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0017】
すなわち、本発明の密封装置においては上記したように、組付け時に内周リップ部に塗布する潤滑剤を貯留する立体形状が内周リップ部の挿入方向斜面に設けられているために、挿入部材に対する内周リップ部の接触面積が減少し、摩擦抵抗が低減される。また、潤滑剤が立体形状の凹み(谷部)に貯留され塗布量が増えることから、潤滑切れの懸念がなくなる。したがって組付け時、内周リップ部を滑らせながら外周取付部をシリンダヘッドカバー等のハウジングに嵌め込む際に、内周リップ部が滑りやすくなる。したがって本発明所期の目的どおり、嵌め込み後に内周リップ部の位置修正を行なう必要がなく、膜部にストレスがかかりにくく、内周リップ部に接触キズが生じにくい構造が実現される。密封装置は静止的にシールを行なうことから、潤滑剤は組付け後も永く貯留される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施例に係る密封装置の要部断面図
【図2】本発明の第二実施例に係る密封装置の要部断面図
【図3】本発明の第三実施例に係る密封装置の要部断面図
【図4】本発明の第四実施例に係る密封装置の要部断面図
【図5】従来例に係る密封装置の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0020】
第一実施例・・・
図1は、本発明の第一実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は、ガソリンエンジン(内燃機関)におけるシリンダヘッドカバー(ハウジング)と、このシリンダヘッドカバーに設けた開口に挿入されるプラグチューブ(挿入部材)との間(環状隙間)を静止的にシールするプラグチューブシールであって、以下のように構成されている。
【0021】
すなわち先ず、シリンダヘッドカバーの開口周縁部に固定される環状の外周取付部2が設けられ、その内周側に、プラグチューブの外周面に静止的に密接する環状の内周リップ部3が設けられ、この外周取付部2および内周リップ部3が環状の膜部4を介して一体に成形されている。材質は所定のゴム状弾性体とされている。外周取付部2には金属等剛材製の補強環5が埋設され、内周リップ部3には環状のスプリング6が設けられている。上記したようにプラグチューブは挿入後回転するものでなく軸方向に往復動するものでもないが、開口に対して偏心した状態で挿入されることがあるため、この場合に膜部4が偏心を吸収する作用を奏する。したがって当該密封装置1は偏心シールと称されることもある。
【0022】
当該密封装置1を組み付けるに際しては、上記したように内周リップ部3をリップ拡張治具にセットし、外周取付部2を手作業または工具を用いて押圧し、内周リップ部3を滑らせながら(内周リップ部3がリップ拡張治具の外周円錐面上およびプラグチューブの外周面上を軸方向に滑る)、外周取付部2をシリンダヘッドカバーに嵌め込む(外周取付部2がシリンダヘッドカバーの開口周縁部の内周面に嵌合される)ことになるが、嵌め込み完了時、内周リップ部3がプラグチューブとの摩擦抵抗により所定の位置よりも上側(挿入方向後方)に来ているために、嵌め込み後の修正作業として、内周リップ部3を所定の位置まで押し下げる作業を実施する必要がある。そこで、この修正作業を省略可能とするため当該密封装置1には、以下の対策が施されている。
【0023】
すなわち、組付け時には、内周リップ部3の滑りを良くするため内周リップ部3の表面(内周面)に潤滑剤が塗布されるが、この塗布された潤滑剤を貯留するための立体形状7が内周リップ部3の挿入方向斜面3aに設けられている。立体形状7は、内周リップ部3の挿入方向斜面3aに設けた円周上多数の溝8によって形成され、溝8は軸方向に長い縦溝よりなり、この縦溝が多数、円周上に等配形成されている。溝8の長手端部は、挿入方向斜面3aと反対側斜面3bとが交叉するリップ端3cに達しておらず、溝8とリップ端3cとの間には環状の立体形状不形成領域9が設けられている。
【0024】
上記構成の密封装置1によれば、組付け時に内周リップ部3に塗布する潤滑剤を貯留するための立体形状7として多数の溝8が内周リップ部3の挿入方向斜面3aに設けられているために、プラグチューブに対する内周リップ部3の接触面積を減らし、摩擦抵抗を下げることが可能とされている。また、潤滑剤が立体形状7の溝8内に貯留され塗布量が増えるため、潤滑切れの懸念がなくなる。したがって組付け時、内周リップ部3を滑らせながら外周取付部2をシリンダヘッドカバーに嵌め込む際に、内周リップ部3が滑りやすくなる。したがって嵌め込み後に内周リップ部3の位置修正を行なう必要がなく、膜部4にストレスがかかりにくく、内周リップ部3に接触キズが生じにくい構造を実現することができる。密封装置1は静止的にシールを行なうものであることから、潤滑剤は組付け後も永く貯留される。
【0025】
第二実施例・・・
図2に示す第二実施例では、立体形状7が、内周リップ部3の挿入方向斜面3aに円周上多数の突起10を設けることにより突起10間の凹部11によって形成され、突起10は軸方向に長い縦リブよりなり、この縦リブが多数、円周上に等配形成されている。突起10の長手端部は、挿入方向斜面3aと反対側斜面3bとが交叉するリップ端3cに達しておらず、突起10とリップ端3cとの間には環状の立体形状不形成領域9が設けられている。
【0026】
第三実施例・・・
尚、上記第二実施例の突起10によると、プラグチューブの偏心量が大きなときに、突起10がプラグチューブと干渉することによりリップ端3cの接触を妨げる可能性があるので、この場合は図3に示す第三実施例のように、突起10のリップ端側端部に環状の高止まり領域12を設け、これにより突起10がプラグチューブと干渉しないようにすることが考えられる。高止まり領域12は、突起10と同じ高さの帯状領域であって突起10のリップ端側端部と一連に繋がっており、これと反対側斜面3bとが交叉することによってリップ端3cが形成されている。
【0027】
第四実施例・・・
図4に示す第四実施例では、立体形状7が、内周リップ部3の挿入方向斜面3aに設けた表面粗し部13によって形成され、この表面粗し部13の凹凸のうちの凹部内に潤滑剤が多量に貯留されるように構成されている。表面粗し部13は、挿入方向斜面3aと反対側斜面3bとが交叉するリップ端3cに達しておらず、表面粗し部13とリップ端3cとの間には環状の立体形状不形成領域9が設けられている。このように立体形状7として表面粗し部13を設ける場合には、リップ部3内周面の表面積が増大することから、ここに塗布する潤滑剤のはじきが抑制される効果もある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
上記各実施例に示したように本発明の密封装置は、ガソリンエンジンのヘッドカバーとプラグチューブとの間をシールするプラグチューブシールとして利用されるが、ディーゼルエンジンのヘッドカバーとインジェクションパイプとの間をシールするインジェクションパイプシールとしても利用される。また、その他の静止シールに利用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 密封装置
2 外周取付部
3 内周リップ部
3a 挿入方向斜面
3b 反対側斜面
3c リップ端
4 膜部
5 補強環
6 スプリング
7 立体形状
8 溝
9 立体形状不形成領域
10 突起
11 凹部
12 高止まり領域
13 表面粗し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと前記ハウジングに設けた開口に挿入される挿入部材との間を静止的にシールする密封装置であって、前記ハウジングに固定される外周取付部と、前記挿入部材に静止的に密接する内周リップ部と、前記外周取付部および内周リップ部を繋ぐ膜部とを一体に有し、組付け時に前記内周リップ部を滑らせながら前記外周取付部を嵌め込む構造の密封装置において、
組付け時に前記内周リップ部に塗布する潤滑剤を貯留するための立体形状を前記内周リップ部の挿入方向斜面に設けたことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記立体形状は、前記内周リップ部の挿入方向斜面に設けた円周上多数の溝によって形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1記載の密封装置において、
前記立体形状は、前記内周リップ部の挿入方向斜面に円周上多数の突起を設けることにより前記突起間の凹部によって形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1記載の密封装置において、
前記立体形状は、前記内周リップの挿入方向斜面に設けた表面粗し部によって形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の密封装置において、
前記ハウジングはガソリンエンジンのヘッドカバー、前記挿入部材はプラグチューブ、または前記ハウジングはディーゼルエンジンのヘッドカバー、前記挿入部材はインジェクションパイプであることを特徴とする密封装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−281404(P2010−281404A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135961(P2009−135961)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】