説明

密着性、耐食性に優れた容器用鋼板

【課題】 本発明は製缶素材として、耐食性、フィルム密着性に優れた溶接缶用鋼板を提供する。
【解決手段】 少なくとも鋼板片面に、50〜5000mg/m2 のSn、Niの1種以上を含む表面処理層を有し、その上に、タンニン酸または酢酸の1種以上を1〜40wt%含んだフェノール構造を有する樹脂皮膜を施すことを特徴とした密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。更に、金属量で0.2〜100mg/m2 のTiまたはZrまたはそれらの化合物の1種以上を含んだフェノール構造を有する樹脂皮膜を施すことを特徴とした密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。
【効果】 本発明により、製缶素材として、耐食性、フィルム密着性に優れた溶接缶用鋼板を提供することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、製缶加工用素材として、特に、耐食性、フィルム密着性に優れたラミネート容器用鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】飲料や食品に用いられる金属容器は、2ピース缶と3ピース缶に大別される。DI缶に代表される2ピース缶は、絞りしごき加工が行われた後、缶内面側に塗装が、缶外面側には塗装及び印刷が行われる。3ピース缶は、缶内面に相当する面に塗装が、缶外面側に相当する面に印刷が行われた後、缶胴部の溶接が行われる。
【0003】何れの缶種においても、製缶前後に塗装工程が不可欠な工程である。塗装には、溶剤系もしくは水系の塗料が使用され、その後、焼付けが行われるが、この塗装工程において、塗料に起因する廃棄物(廃溶剤等)が産業廃棄物として排出され、排ガス(主に炭酸ガス)が大気に放出されている。近年、地球環境保全を目的とし、これら産業廃棄物や排ガスを低減しようとする取組みが行われている。この中で、廃溶剤や排ガスが殆ど発生しない塗装代替技術としてフィルムをラミネートする技術が注目され、急速に広まってきている。
【0004】これまでに、2ピース缶においては、フィルムをラミネートし製缶する缶の製造方法やこれに関連する発明が多数提供されている。例えば、絞りしごき罐の製造方法(特許第1571783号公報)、絞りしごき罐(特許第1670957号公報)、薄肉化深絞り缶の製造方法(特開平2−263523号公報)、絞りしごき罐用被覆鋼板(特許第1601937号公報)が挙げられる。
【0005】また、3ピース缶においては、3ピース缶用フィルム積層鋼帯およびその製造方法(特開平3−236954号公報)、缶外面に多層有機皮膜を有する3ピース缶用(特開平3−113494号公報)、ストライプ状の多層有機皮膜を有する3ピース缶用鋼板(特開平5−111979号公報)、3ピース缶ストライプラミネート鋼板の製造方法(特開平5−147181号公報)が挙げられる。
【0006】一方、ラミネートフィルムの下地に用いられる鋼板には、多くの場合、電解クロメート処理を施したクロメート皮膜が用いられている。クロメート皮膜は、2層構造を有し、金属Cr層の上層に水和酸化Cr層が存在している。従って、ラミネートフィルム(接着剤付きのフィルムであれば接着層)はクロメート皮膜の水和酸化Cr層を介して鋼板との密着性を確保している。この密着機構の詳細については明らかにされていないが、水和酸化Crの水酸基とラミネートフィルムのカルボニル基あるいはエステル基などの官能基との水素結合によって密着性が発揮すると言われている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記の発明は、確かに、地球環境の保全を大きく前進せしめる効果が得られるが、近年、地球環境問題のクローズアップと共に人体への有毒性が懸念されている6価のCrイオンを使用しない製品やCrを全く使用しない製品への関心が高まって来た。この様な状況に対して、ラミネート容器用鋼板に対しても、クロメート皮膜と同等の優れた製缶加工性、特に、フィルム密着性、加工フィルム密着性、耐食性などを有するCrを使用しない鋼板が求められる様になった。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、Crを使用しない、すなわち、クロメート皮膜に代わる新たな皮膜としてフェノール置換を有する樹脂を活用した皮膜を鋭意検討した結果、フェノール置換を有する樹脂にタンニン酸及び酢酸が添加された樹脂皮膜は、ラミネートフィルムと非常に強力な共有結合を形成し、従来のクロメート皮膜同等以上の優れた密着性、耐食性が得られることを知見し本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、(1)少なくとも鋼板片面に、50〜5000mg/m2 のSn、Niの1種以上を含む表面処理層を有し、その上に、タンニン酸または酢酸の1種以上を1〜40wt%含んだフェノール構造を有する樹脂皮膜を施すことを特徴とした密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。
【0009】(2)少なくとも鋼板片面に、50〜5000mg/m2 のSn、Niの1種以上を含む表面処理層を有し、その上に、タンニン酸または酢酸の1種以上を1〜40wt%含み、更に、金属量で0.2〜100mg/m2 のTiまたはZrまたはそれらの化合物の1種以上を含んだフェノール構造を有す樹脂皮膜を施すことを特徴とした密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。
(3)前記(1)または(2)におけるフェノール構造を有する樹脂皮膜の付着量はC量で0.2〜100mg/m2 であることを特徴とする密着性、耐食性に優れた容器用鋼板にある。
【0010】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の作用である密着性、耐食性に優れた容器用鋼板について詳細に説明する。本発明で用いられる原板は特に規制されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板を用いる。この原板の製造法、材質なども特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延等の工程を経て製造される。この原板に、Sn、Niを含む表面処理層を付与する方法については特に規制するものでは無く、例えば、電気めっき法や真空蒸着法やスパッタリング法などの公知技術を用いれば良く、拡散層を付与するための加熱処理を組み合わせても良い。
【0011】こうして付与されたSnまたはNiの1種以上を含む表面処理層の付着量は、50〜5000mg/m2 に規制される。SnまたはNiは、化学的に安定な金属であることから、SnまたはNiの1種以上を含む表面処理層を付与された鋼板は優れた耐食性を発揮する。この効果は、SnまたはNiの1種以上を含む表面処理層の付着量が50mg/m2 以上必要である。付着量の増加に伴い、耐食性の向上効果も増加する傾向にあるが、5000mg/m2 以上ではその向上効果が飽和するため、5000mg/m2 以上付着することは経済的に不利である。従って、SnまたはNiの1種以上を含む表面処理層の付着量は50〜5000mg/m2 にする必要がある。
【0012】次いで、密着性と耐食性を確保するために本発明の本質とする処のフェノール置換を有する樹脂を活用した皮膜が付与される。本発明で付与されるフェノール置換を有する樹脂を活用した皮膜は、前述の如く、ラミネートされるフィルムあるいは接着層と共有結合を発生し、高い密着性を確保せしめる効果を発揮する。このフェノール置換を有する樹脂には、フェノール樹脂、フェノール変性樹脂あるいは一部をアミン化したフェノール樹脂などが挙げられる。これらのフェノール系の樹脂は常法に製造可能で、例えば、フェノール化合物、ナフトール化合物またはビスフェノール類とホルムアルデヒドを重縮合し製造される。
【0013】上記の樹脂系のみでは十分な密着性、耐食性が確保されないため、タンニン酸または酢酸を1種以上含ませることにより、密着性が著しく向上する。この機構は明確ではないが、タンニン酸または酢酸が、ラミネートされるフィルムとフェノール構造を有する樹脂との結合反応を促進すると共に下地のSnまたはNiと反応してフェノール構造を有する樹脂との密着性を向上させる効果によるものと考えられる。また、密着性の向上に伴い耐食性も向上するものと考えられる。この様な密着性の向上効果は、タンニン酸または酢酸の1種以上が後述する樹脂皮膜の付着量(C量)に対して1wt%以上含まれることにより発現する。タンニン酸または酢酸の含有率が増加する程、密着性は向上するが、40wt%を超えるとこれらの酸が樹脂骨格を切断し密着性が低下する。従って、タンニン酸または酢酸の添加量は、1〜40wt%に規制される。
【0014】更に本発明においては、フェノール構造を有する樹脂中にTiまたはZrまたはそれらの化合物の1種以上を含ませることにより、密着性がより一層向上する。これはTiまたはZrまたはそれらの化合物がラミネートされたフィルムとフェノール構造を有する樹脂が結合する時の開始点になり、開始点が多い程、速やかに結合反応が終了するため密着性が向上するものと考えられる。この様な密着性向上効果が発揮されるには、TiまたはZrの含有量が0.2mg/m2 以上必要とされる。TiまたはZrの含有量が増加する程、密着性は向上するが、含有量が100mg/m2 を越えると経済的に不利になるため、樹脂皮膜中に含有されるTiまたはZrまたはそれらの化合物は、TiまたはZrとして0.2〜100mg/m2 に規制される。
【0015】無機−有機樹脂中にTiまたはZrまたはそれらの化合物を含有させる方法は、特に規制しない。後述する処理液中にTi化合物またはZr化合物を含有させ、その中に鋼板を浸漬することにより可能である。Ti化合物は特に規制しないが、実用上あるいは性能上からもTi塩が望ましい。Ti塩としては、例えば、チタンフッ化水素酸及びそのリチウム、ナトリウム、アンモニウム等の塩、硫酸チタン、硫酸チタニル等が挙げられる。また、Zr化合物も特に規制しないが、実用上あるいは性能上からもZr塩が望ましい。Zr塩としては、例えば、ジルコニウムフッ化水素酸及びそのリチウム、ナトリウム、アンモニウム等の塩、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニル等が挙げられる。
【0016】以上述べたフェノール構造を有する樹脂皮膜が本発明の本質とする処の効果を発揮させるには、この樹脂皮膜の付着量をC量で0.2〜100mg/m2 にする必要がある。付着量が0.2mg/m2 を下回ると樹脂皮膜が鋼板表面を十分に被覆出来ないため、密着性や耐食性を発揮することが出来ない。しかし、樹脂皮膜の付着量がC量で0.2mg/m2 以上になると樹脂皮膜が鋼板表面を概ね被覆し始めるため密着性、耐食性が向上し始める。樹脂皮膜の付着量が多くなる程、密着性、耐食性の向上効果は増加するものの、樹脂皮膜の付着量がC量で100mg/m2 を超えると加工により樹脂が凝集破壊するため密着性が劣化する。従って、樹脂皮膜の付着量をC量で0.2〜100mg/m2 に規制される。
【0017】以上述べたフェノール構造を有する樹脂皮膜を付与する方法は特に規制しない。例えば、フェノール系樹脂にタンニン酸または酢酸あるいはTi化合物、Zr化合物を混合した処理液に浸漬し、リンガーロール等で絞り、乾燥させて得ることが出来る。樹脂の付着量は処理液の濃度やリンガーロールの絞り量で制御すればよい。
【0018】
【実施例】以下に本発明の実施例及び比較例について述べ、その結果を表1に示す。冷間圧延後、焼鈍、調圧されためっき原板に、公知の酸性浴でNiあるいはSnめっきを施し、引続き、10%のフェノール樹脂溶液に必要に応じて、酢酸またはタンニン酸を添加した液や10%のフェノール樹脂溶液に必要に応じてフッ化Tiまたは酢酸Zrを添加した液や10%のフェノール樹脂溶液に必要に応じて、酢酸またはタンニン酸、フッ化Tiまたは酢酸Zrを添加した液に浸漬し、リンガーロールで軽く絞り、120℃で乾燥させて試験材を作製し、以下に示す(A)〜(C)の各項目についての性能評価を行った。
【0019】(A)フィルム密着性評価試験試験材に厚さ25umのPET(ポリエチレンテレフタレート)系フィルムをラミネートした後、缶蓋(End)加工を行い、カウンターシンク等の加工部のフィルム剥離状況を、4段階(◎:全く剥離無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:僅かな剥離有り、×:大部分で剥離)で評価した。
【0020】(B)UCC(アンダーカッティングコロージョン)評価テスト厚さ20nmのPET(ポリエチレンテレフタレート)系フィルムをラミネートした試験材に、地鉄に達するまでクロスカットを入れ、1.5%クエン酸−1.5%食塩混合液からなる試験液中に大気開放下55℃×4日間浸漬した。試験終了後、スクラッチ部近傍の腐食状況、スクラッチ部のピッティング状況およびフィルム剥離状況を4段階(◎:剥離が無く腐食も認められない、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離が有るが腐食は認められない、△:僅かな剥離があり微小な腐食が認められる、×:大部分で剥離し激しい腐食が認められる)で評価した。表1に示すように、本発明により製造された容器用鋼板は、優れたフィルム密着性、耐食性を有することが明らかになった。
【0021】
【表1】


【0022】
【発明の効果】以上述べたように、本発明により製造された容器用鋼板は優れたフィルム密着性および耐食性を有する極めて優れた効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも鋼板片面に、50〜5000mg/m2 のSn、Niの1種以上を含む表面処理層を有し、その上に、タンニン酸または酢酸の1種以上を1〜40wt%含んだフェノール構造を有する樹脂皮膜を施すことを特徴とした密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。
【請求項2】 少なくとも鋼板片面に、50〜5000mg/m2 のSn、Niの1種以上を含む表面処理層を有し、その上に、タンニン酸または酢酸の1種以上を1〜40wt%含み、更に、金属量で0.2〜100mg/m2 のTiまたはZrまたはそれらの化合物の1種以上を含んだフェノール構造を有する樹脂皮膜を施すことを特徴とした密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。
【請求項3】 請求項1または2におけるフェノール構造を有する樹脂皮膜の付着量はC量で0.2〜100mg/m2 であることを特徴とする密着性、耐食性に優れた容器用鋼板。

【公開番号】特開2002−355921(P2002−355921A)
【公開日】平成14年12月10日(2002.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−164330(P2001−164330)
【出願日】平成13年5月31日(2001.5.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】