説明

密閉型デバイス

【課題】一つ一つのデバイスに対する圧力測定が容易にできること。
【解決手段】基板11上に密閉状態に形成された空間15を有し、密閉空間内にデバイス部12が設けられ、密閉空間内の圧力を測定する圧力測定手段13と、圧力測定手段に通電するとともに密閉空間外部と接続する出力配線17と、出力配線に接続された出力パッド18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の減圧下で密閉されている密閉型デバイスに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子(デバイス)は電気的情報を変換するために利用されている。近年、半導体製造技術を始めとする微細加工技術を利用して機械要素部品、センサ、アクチュエータ、電子回路といった構造を組み込まれたMEMS(Micro electro mechanical system )と呼ばれるデバイスが多く開発されている。このMEMSデバイスでは、電気以外の情報を検出、解析することが可能となるため、その応用範囲は多岐にわたる。
【0003】
最も多く利用されているMEMSデバイスの一つであるピエゾ抵抗型の加速度センサでは、デバイス内に作りこまれたダイヤフラム構造の位置変化をピエゾ抵抗素子によって検出し、電気回路によって増幅、計測する。同様に、ジャイロセンサや圧力センサも機械的な変化を電気的に検出するようなデバイスであり、また電磁気力を利用して物理的に接点を切り替える、微小機械スイッチを有するRFスイッチもMEMSデバイスとして広く利用されている。この他にもインクジェットヘッドや生物学的な情報を解析するためのマイクロアレイもMEMSデバイスの一つである。
【0004】
これらデバイスは、ウェーハ内に微細加工技術により多数のデバイスを作製する事が可能であり、高集積化する事が容易である。つまりは、機械要素部と電気要素部とを同一デバイス内に作りこむ事ができ、さらには微小な構造であるためにそのデバイスの精度(センサでは検出精度)の向上、信頼性の向上(高寿命)、そして省エネルギー化を図る事が可能となる。
【0005】
一方で、上記したような機械的ならびに電気的な特性変化を利用するMEMSセンサの場合、周囲の影響を受けやすいという欠点がある。例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ、圧力センサのように可動部(駆動部)の微小な変位量を電気的に検出するようなデバイスでは、可動部雰囲気である圧力ならびに温度に大きく影響されてしまう。また、電気的に検出するデバイスにおいては、温度変化によってその電気特性が変化してしまい、性能に影響を与える。
【0006】
そこで多くのMEMSデバイスでは、一定の減圧下で密閉(パッケージ)することでこれを解決している。つまりは、デバイスの基本的な機能を担う要素部を有するデバイスウェハに加え、一定の空間を有するパッケージウェハを減圧下で接合、密閉することで、最終的なデバイス構造をなっている。また、上記したデバイスの他にも水晶振動子や弾性表面波フィルタ、LSIなどデバイスにおいても性能劣化を防止することを目的として減圧下でのパッケージが用いられている。つまり、密閉型デバイスにおいては、パッケージ内の圧力はデバイス性能を大きく左右するため、これを検知することは非常に重要である。
【0007】
このような密閉型デバイスにおいて、パッケージ内の圧力を確認・検査するためによく使われている方法として、デバイスを加圧されたHeもしくは液体中に入れた後にデバイスを破壊してデバイス内に流入したHeや液体量を測定することでリークの有無を検査する方法がある。しかしこの方法ではデバイスそのものを破壊することが必要であるため、デバイス製造最終の検査工程などでは、任意に抽出した一部のデバイスしか検査できず、全数検査をおこなうことはできない。このため、不良品を見逃す可能性が高かった。
【0008】
この問題に対応した非破壊検査として、Heで加圧されたチャンバにデバイスを保持し、その後に減圧したチャンバに入れた際のHeの漏れ量をリークディテクタで測定するボンビング法が考案され、広く用いられている(特許文献1)。
【0009】
その他の非破壊検査としては、デバイス内に圧力センサとして圧電振動子を入れた構造とし、Heで加圧されたチャンバに入れリークを促進し、圧電振動子の共振周波数の変化(Q値)で圧力を読み取り、リークの有無を検査する方法が考案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−053106号公報
【特許文献2】特開2009−222693号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. W. van Zeijl (Delft University, NL), "Electrical Overlay and linewidth measurements for through wafer interconnect", 21st IEEE International Conference on Microelectronic Test Structures (ICMTS), tutorial session 2, 25-28, Mar. Edinburgh, UK (2008).
【非特許文献2】Handbook of Vacuum Technology (WILEY-VCH, Verlag GmbH & Co. KgaA, Weinheim, Germany) Chapter 13, Total Pressure Vacuum Gages, pp. 555-630.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に提案されているボンビング法では、少なくとも2つの圧力の異なるチャンバにデバイスを出し入れする必要がある。そのため、全数のデバイスを個々に検査するためには、サイズの小さいデバイスを扱う上では操作性に問題があると同時に、検査に時間がかかってしまう。さらに、デバイスの密閉されている空間は微少容積であるため、単一デバイスでの浸入したHeの漏れ量を検出するためには、高精度の検出方法が求められる。
したがって、このボンビング法においてはデバイスに切り出す前のウェーハ形態での検査が目的となっている場合が多く、どのデバイスで漏れが発生しているのかを特定するのは困難であった。さらに、この方法による検査は、加圧および減圧をおこなう真空チャンバが必要なことや極めて高精度のリークディテクタが必要であり、設備コストが高くなる。
【0013】
そこで、ウェーハ全体での検査ではなく個々のデバイスにおいてパッケージ性能を検査するために、特許文献2、非特許文献1のような方法が提案されている。これら文献に記載の方法は、デバイス内に圧電振動子を組込み、Heで加圧されたチャンバに入れることでリークを促進した際の圧力変化を圧電振動子の共振周波数(Q値)の変化から読み取ることで、パッケージ性能を検査する方法である。
【0014】
しかしながら、この方法で用いられている圧電素子を用いた真空度の計測では、計測可能な圧力領域は1000Pa以上であり(非特許文献2参照)、それ以下の圧力でパッケージされて性能が保証されるようなデバイスでは用いることはできない。また、圧電振動子の共振周波数は温度に対して非常に敏感であり、その周波数変化を補償するために様々な工夫が必要である。さらに、デバイスのパッケージ内部に圧電振動子を作り込むには、複雑な構造が必要であり、適応可能なデバイス構造が限定されてしまうという問題が生じる。
【0015】
このように、一定の減圧下で密閉されているデバイスの検査工程において不良品を確実に検出することでデバイス製造における歩留まりを向上するために、デバイスのサイズを保ったまま、デバイスの全数に対して圧力測定を必要な感度で簡易におこなうことを低コストで実現することが必要とされている。
【0016】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.一定の減圧下でパッケージされたMEMSデバイスにおいて、密閉された空間の圧力をデバイス一つ一つに対して容易に測定する事ができること。
2.パッケージの密閉性での不良品を低減可能とし、歩留まりの向上を図ること。
3.デバイス動作の信頼性を向上すること。
4.デバイス製造プロセスに対して干渉しないこと。
5.製造コストの削減を図ること。
6.周囲の温度にかかわらず測定可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の密閉型デバイスは、内部に密閉空間を形成する密閉空間形成部と、前記密閉空間内位置に設けられて所定の機能を有するデバイス部と、前記密閉空間内に設けられて該密閉空間内の圧力を測定するための電気抵抗体を有する圧力測定部と、前記電気抵抗体に通電するとともに前記密閉空間外部と接続する出力配線と、該出力配線に接続された出力パッドとを有することを特徴とすることにより上記課題を解決した。
本発明は、前記圧力測定部において、前記電気抵抗体が前記密閉空間内の気体と熱交換を行って、前記電気抵抗体の熱損失量から前記密閉空間内の気体の圧力測定可能とされてなることが可能である。
本発明の前記密閉空間形成部が、デバイス部と圧力測定部とを有する基板と、これらの領域を覆うように前記基板と対向する蓋部基板とからなり、前記基板が前記蓋部基板によって覆われて密閉空間が形成されてなることができる。
本発明前記圧力測定部が、前記電気抵抗体を表面に配置して基板の穴部を跨ぐように形成された浮膜と、
前記浮膜を囲むように前記基板の表面に形成された周辺膜と、
前記浮膜の中心を挟んで対称に配置され、前記浮膜の外周を前記周辺膜に連結する一対の連結膜と、を備え、
前記電気抵抗体の両端部が、前記一対の連結膜の表面を通って、前記周辺膜の表面に形成された電極に引き出されている手段を採用することができる。
本発明の前記圧力測定部が、所定の圧力閾値に対して前記密閉空間内部における圧力状態を二値化して外部に出力可能とされていることが好ましい。
本発明は、前記電気抵抗体の周辺温度の変化を補償する温度補償体が、前記周辺膜の表面に形成され、
前記電気抵抗体と前記温度補償体との間における前記周辺膜に、溝部が形成されていることができる。
【0018】
本発明によれば、デバイスの密閉される密閉空間内にピラニセンサのフィラメント部分のみを入れ、内部の圧力を測定する構造としたことにより、圧力を制御してリークさせるため制御の複雑な複数の密閉系を用いることなく、微少なリークが存在することを検知することが可能となる。これにより、多くは減圧状態となっているデバイスの密閉空間のリークが存在する、すなわち、デバイスの動作不良を精度良く判別することができる。
同時にまた、ウェーハ状の(ダイシングしていない)複数のデバイスであっても、個別に切断されたデバイスであっても、その状態に関係なく密閉空間の圧力を測定することが可能となる。
さらに、デバイス製造工程の最終段階である検査工程のみならず、出荷後等に一定期間使用したデバイスであっても、その時期にかかわらず、デバイスの密閉空間の圧力を測定し、内部状態の検知をおこなうことが可能となる。
【0019】
本発明は、具体的には、減圧下にパッケージされたデバイス密閉空間内に位置する基板上に金属フィラメントを作り込み、この金属フィラメントの抵抗値の変化によってパッケージ内の密閉性検査する方法を提供する。原理としては、真空系として多く用いられているピラニセンサと同様の測定形式を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ウェーハ内に作られたデバイス全数に対して低コストで簡易に真空度が測定できるため不良品が低減でき、メンテナンス時いつでも測定できる上、デバイス内における真空度の経時変化も測定できるとともに、リークのみならずデバイス構造体からの放出ガスによる圧力上昇も測定できるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る密閉型デバイスの第1実施形態における基板上を示す平面図。
【図2】図1のA−A線における側断面図。
【図3】図1の圧力測定領域を示す拡大平面図。
【図4】圧力測定用のブロック回路を示す回路図。
【図5】本発明に係る密閉型デバイスの第1実施形態における実験例を示すグラフ。
【図6】本発明に係る密閉型デバイスの第2実施形態における基板上を示す平面図。
【図7】図6のB−B線における側断面図。
【図8】図6の圧力測定領域を示す拡大平面図。
【図9】図8のB−B線における側断面図。
【図10】本発明に係る密閉型デバイスの第2実施形態における製造工程を示す図。
【図11】本発明に係る密閉型デバイスの第2実施形態における実験例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る第1実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本実施形態における密閉型デバイスの一部を示す平面図であり、図2は、本実施形態における密閉型デバイスの一部を示すもので図1のA−A線における側断面図であり、図3は、本実施形態における密閉型デバイスの圧力測定領域を示す拡大平面図であり、図において、符号10は、密閉型デバイスである。
【0023】
本実施形態の密閉型デバイスは、基板(密閉空間形成部)11表面にはデバイス領域(デバイス部)12と、圧力測定領域(圧力測定部)13とが設けられ、これらを囲むように蓋部基板(密閉空間形成部)14によって覆われている。デバイス領域12と圧力測定領域13とは、基板11上で隣接するように配置され、基板11と蓋部基板14との間に形成された密閉空間15の内部に位置されている。
密閉空間15は、基板11と対向して略平行状態となる蓋部基板14の平板部分14aと、平板部分14a縁部に周設されるように基板11側に突出した側壁部14bと、基板11表面とで囲まれて形成されている。
【0024】
デバイス領域12には、ジャイロセンサやRFスイッチなど可動構造を有して機械的な変化の検出および駆動を利用しているデバイスの可動部が設けられている。
具体的には、振動型ジャイロスコープは、一定方向に振動する物体に角速度が加わるとその物体の振動方向と回転軸のそれぞれに直交する方向にコリオリ力が働くことを利用し、そのコリオリ力を検出して角速度を測定している。振動子にはビーム型や音叉型などの種類があり、その動きを妨げないためや、温度依存性を減少させるために減圧にしている。
【0025】
圧力測定領域13の表面には、電気絶縁膜13Aが形成され、この電気絶縁膜13AはSiOやSiN、SiO、AlO等からなるものとすることができる。
【0026】
圧力測定領域13の電気絶縁膜13A表面には、圧力測定手段としてのピラニセンサのうち、フィラメントに相当する電気抵抗体16が形成され、この電気抵抗体16が密閉空間15内の気体と熱交換を行って電気抵抗体16の熱損失量から密閉空間15内の気体圧力を測定可能とされてなる。電気抵抗体16は、Ptからなるフィラメントとされるが、プラチナに限らず、Au,Al等からなるフィラメントとし、これらを形成する下地となる密着層としてCr,Ti,Ni,Taおよびこれら金属の酸化物、具体的にはTiO,TaO,NiOとの積層体としてもよい。
【0027】
電気抵抗体16は、上述した金属材料からなる細線を、蛇腹状等にパターニングして形成されている。蛇腹状とすることにより細線の長さが増加するので、電気抵抗体16の抵抗値を調整することが可能になり、また被測定ガスとの熱交換を行う表面積を確保することが可能になる。
【0028】
電気絶縁膜13Aは、厚さ5〜10nm程度、電気抵抗体16は、厚さ160〜170nm程度とし、電気抵抗体16の長さを2〜3mmとして100〜200Ω程度の抵抗体とすることができる。なお、図1および図2においては電気絶縁膜13Aは省略してある。
【0029】
圧力測定領域13の周辺には、電気抵抗体16に通電する一対の出力配線17が接続され、この出力配線17は密閉空間15の外側となる外部位置に設けられた出力パッド18にそれぞれ接続されている。出力配線17および出力パッド18は基板11面上に設けられている。
出力配線17は、基板11に接続された蓋部基板14の側壁部14bを貫通しており、密閉空間15内と蓋部基板14外側との間で通電可能となっている。
これら電気抵抗体16、出力配線17、出力パッド18は、圧力測定手段を構成している。
【0030】
電気抵抗体16の抵抗値Rに電流Iを流した際に発生する熱量Qは、電気抵抗体16に被測定ガスが接触し熱交換によって奪う熱量Qg、フィラメントから構造を介した熱伝導量Qw、ならびに輻射によって奪われる熱量Qrの和に相当し、次式が成り立つ。
Q = Qg + Qw + Qr = IR ・・・ (1)
ここで、Iは電気抵抗体16を流れる電流、Rは電気抵抗体16の抵抗値である。電気抵抗体16において気体分子との熱交換によって奪われる熱量Qgは、次式で表される。
【0031】
Qg = Kc(Tf−Tw )P ・・・ (2)
ここで、Kcは被測定ガスにより輸送される熱量の熱伝導係数、Tfは電気抵抗体16の温度、Twは雰囲気温度(室温)、Pは圧力である。
【0032】
数式(1)において、電気抵抗体16の温度Tfと雰囲気温度(室温)Twの差(Tf―Tw)が一定に保たれている場合、構造に依存した熱流出量であるフィラメントから構造を介した熱伝導量Qwならびに輻射によって奪われる熱量Qrは一定となる。つまり、(Tf―Tw)が一定の状態では、数式(2)に示したように圧力Pは電気抵抗体16における気体分子との熱交換によって奪われる熱量Qgと比例関係にあり、圧力Pを算出することができる。
【0033】
実際の圧力測定においては、電気抵抗体16の温度Tfとその雰囲気温度(室温)Twの差(Tf―Tw)を一定にするように電流Iを調整して、その際の出力電圧値から圧力換算する。具体的には、図4に示すブリッジ回路内のRにデバイス10の密閉空間15内に作製された電気抵抗体16を組み込むことで計測される。
【0034】
このブリッジ回路において、図1〜図3に示した引き出し電極の出力パッド18が電極TCおよび電極TDに相当する。本実施形態の場合、抵抗体Rは図1〜図3に図示していないが、白金線の抵抗体とされて、密閉型デバイス10の外に設け計測を行う。具体的には、出力パッド18に接触させる測定用のプローブに接続するように設けることが可能である。
【0035】
つまりは、図4の回路内における電極TCと電極TDとの間における電位差Vが0(ゼロ)となるように動作させることで、(Tf―Tw)が一定となるように電気抵抗体16を流れる電流Iを調整でき、その際の出力電圧値から真空度が求められる。なお、図4の抵抗体Rの抵抗値は、電気抵抗体16より充分大きいものが好ましい。これは、抵抗体Rに流れる電流が微小となり、回路を動作させた際の自己発熱量を抑えることができるからである。
【0036】
(製造方法)
次に、本実施形態に係る密閉型デバイス10のピラニセンサ部分の製造方法について説明する。
【0037】
ここでは、素子の数μmレベルの微細化に有利な電気機械システム(Micro Electro Mechanical System;MEMS)技術を用いて、マイクロピラニセンサを形成する。 MEMS技術とは、金属の蒸着やスパッタリング法などを用いる成膜技術や、基板上に数μmレベルのパターンを作製することができるリソグラフィ技術、さらには金属や半導体、酸化物などの膜を酸性やアルカリ性のエッチング溶液や、気体の放電現象により発生するイオンの化学反応を用いて、部分的に取り除くエッチング技術などを用いて、3次元構造の素子を基板上に多数作製するものである。
【0038】
以下には、ジャイロセンサやRFスイッチなど稼動部を持つMEMSデバイスで、減圧下でパッケージ(真空パッケージ)するデバイス内に気体が衝突することによって持っていく熱量を測定することで真空度を測定するためのフィラメント(電気抵抗体)16を有する圧力測定領域13部分を形成する方法のみを記載する。したがって、デバイス領域12に形成されるデバイスの作製工程にあわせて次の各工程を組み合わせればよい。
【0039】
<S01.基板準備および絶縁膜形成工程>
まず基板11表面に電気絶縁膜13Aを形成する。具体的な電気絶縁膜13Aの材質としては、SiOやSiN、SiO、AlO等が挙げられ、CVD,スパッタリング,真空蒸着法といった方法でなどで成膜することができる。また基材11がSiからなる基体であれば熱酸化で形成されるSiOや熱窒化で形成されるSiNとすることもできる。また、基板11がガラス,石英,サファイア,マイカなどの絶縁物の場合はこの絶縁膜形成工程は省略することができる。
【0040】
<S02.配線形成工程>
電気絶縁膜13A上に電気抵抗体16としてのフィラメント他の配線であるPt薄膜細線をリフトオフ法やエッチング法によって形成する。
【0041】
リフトオフ法で作製する場合は、あらかじめ基板11の上にフォトレジストのパターニングを行う。フォトレジストは、液状の場合スピンコート、スプレーコートおよびディップコート等の手段によって塗布を行う。フィルム状レジストの場合は基板11にラミネートしベークすることで基板11にコートする。レジストコート基板は露光工程および現像工程によってパターニングをおこなう。また、レジストによっては特に化学増幅系のレジストにおいてはPEBと呼ばれる露光後の過熱が必要となる。またパターニング後に、レジストの密着性を向上させるための加熱も必要に応じておこなう。
【0042】
これによって、フィラメント(電気抵抗体)16や電極引き出し用の出力配線17および出力パッド18等の金属配置部位を除く領域にレジストが設けられる。この上から真空蒸着法、スパッタリング法といった成膜手段によって10nmのTaおよび160nmのPtの成膜をおこなう。
最後に、レジストをアセトン、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)およびアルコール系等の有機溶媒によって剥離することで、レジスト上に成膜されたPtおよび密着層も剥離され、レジストのパターンと反転したPt配線パターンが得られる。
【0043】
エッチングを用いた方法ではではあらかじめ密着層であるTaとPtを所定の膜厚で成膜、その上にレジストのパターニングを行う。その後、Ar、Cl系(Cl、BCl、CCl)、CF系(CF、C、C、CHF、C)、F系(SF、SiF)のガスおよびこれらの混合ガスなどを用いたプラズマエッチングを行うことで、レジストの備わっていない領域のTaおよびPt膜を選択的に除去し、所定のパターンを有する形状を得ることができる。
【0044】
<S03.蓋部基板作成工程>
所定の密閉空間15および気体流路構造を形成可能とするために、レジストパターニングとウェットおよびドライプラズマエッチング、もしくはブラスト処理によって図2に示すような蓋部基板14を作成する加工を行う。具体的には、基板11と対向して略平行状態となる平板部分14aと、平板部分14a縁部に周設されるように基板11側に突出した側壁部14bとが形成されるようにする。
【0045】
<S04.貼り合わせ工程>
電気抵抗体16等の形成された基板11および蓋部基板14を減圧下でアライメントを取って貼り合わせる。または、減圧下で封止する。この貼り合わせの方法としては、従来からMEMSデバイス製造工程で多く用いられる陽極接合を適用することができる。
陽極接合の場合、基板11にはガラスを用いる。さらに、接合前には蓋部基板14との接合領域において電気絶縁膜(酸化膜)13Aを除去することが好ましい。この方法においては、基板11および蓋部基板14を約300℃〜500℃で加熱し、基板11側、蓋部基板14側に約1kV程度の電圧をかけ接合する。
【0046】
この他にも、基板11および蓋部基板14が互いに接触する接合部分において、Au−Auなどの金属接合、Au−Snなどの共晶接合も利用することができる。この場合、基板11および蓋部基板14が互いに接触する接合部分に、あらかじめ金属膜をスパッタリングや蒸着法およびメッキ方法にて形成を行い接合することになる。この場合、出力配線17上もしくはその部分と接合される蓋側にSiO等の絶縁膜を形成しておく。
さらに、基板11および蓋部基板14としてSiを用いて、あらかじめ接合領域としてSiを露出させた後に、Si−Siの直接接合を利用する、あるいは、Si上の接合領域に熱酸化膜、CVDおよびスパッタリングといった方法を用いて設けたSiOを成膜し、これらのSiO−SiOによるSi基板どうしの接合を行うことも可能である。また、ポリイミドを始めとする樹脂を接合面に設けて接合する技術も用いることができる。
【0047】
本実施形態においては、従来からある密閉型デバイスの基板11表面に、電気抵抗体16、出力配線17、出力パッド18等の金属配線を追加することだけで、簡便に密閉型デバイス10内部の圧力状態を測定し、内部状態を判別することが可能となる。
これにより、製造最終工程において、非破壊検査として、作業時間を短縮し、ハンドリング性を良好とし、不良品の検品率を向上し、デバイス製造工程を低減することが可能となる密閉型デバイスを提供することができる。
【0048】
以下、本発明に係る第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態における密閉型デバイスの一部を示す平面図であり、図7は、本実施形態における密閉型デバイスの一部を示すもので図6のB−B線における側断面図であり、図8は、本実施形態における密閉型デバイスの圧力測定領域を示す拡大平面図であり、図9は、本実施形態における密閉型デバイスの圧力測定領域を示すもので図8のC−C線における側断面図であり、図において、符号20は、密閉型デバイスである。
【0049】
本実施形態の密閉型デバイス20が、図1〜図3に示した第1実施形態と異なるのは、圧力測定手段である圧力測定領域23、温度補償体29、および、これに対応した出力配線27、出力パッド28にかかる部分であり、これ以外の同等の構成要素に関しては第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
本実施形態において圧力測定領域23は、図6〜図9に示すように、第1実施形態と同様、密閉空間15の内部でデバイス領域12に隣接して設けられ、電気抵抗体16を有する圧力測定領域23の近傍には密閉空間15の内部に温度変化を補償するための抵抗体である温度補償体29が設けられる。圧力測定領域23および温度補償体29は基板11表面位置に設けられる。
温度補償体29は、電気抵抗体16と同様に平面状に蛇腹形に折りたたまれて設置面積を小さくし、かつ抵抗値を高くするように配置されている。
【0051】
電気抵抗体16は、出力配線27Aを介して密閉空間15の外側に接続されており、出力配線27Aには密閉空間15外に位置する出力パッド28A、出力パッド28Bが接続されている。出力パッド28Bには、出力配線27Aとは別に出力配線27Bが接続され、この出力配線27Bは密閉空間15内側の温度補償体29の一端に接続されている。温度補償体29の他端には、もう一つの出力配線27Bを介して密閉空間15外側の出力パッド28Cに接続されている。
【0052】
圧力測定領域23には、基板11表面にキャビティとなるキャビティ凹部23Aが設けられ、このキャビティ凹部23Aの一部を含んで基板11表面に電気絶縁膜23Bが設けられている。電気絶縁膜23Bの構成材料として、酸化シリコンや窒化シリコン等の熱伝導率が低い材料を採用することが望ましい。
電気絶縁膜23Bの厚さは、例えば1〜2μm程度に形成されている。基板11のキャビティ凹部23Aの開口部分を跨ぐように電気絶縁膜23Bが配置されて、浮膜(メンブレン)23Cが形成されている。その浮膜23Cを囲むように、基板11の表面に電気絶縁膜23Bが配置されて、周辺膜23Dが形成されている。浮膜23Cと周辺膜23Dとの間には、基板11のキャビティ凹部23Aに連通するスリット23Eが設けられている。
【0053】
図8、図9に示すように、浮膜23Cは、キャビティ凹部23Aと相似の長方形状に形成され、キャビティ凹部23Aの中央部に配置されている。浮膜23Cの大きさは、例えば短辺が300μm以下、長辺が1550μm以下、短辺と長辺との比率が1:5程度に形成されている。その浮膜23Cの外周を周辺膜23Dに連結するため、スリット23Eを横断するように電気絶縁膜が配置されて、連結膜23F,23Gが形成されている。具体的には、浮膜23Cの中心を挟んで一対の角部に、一対の第1連結膜23Fが形成されている。第1連結膜23Fの大きさは、例えば幅100μm程度、長さ500μm程度に形成されている。また、浮膜23Cの中心を挟残りの一対の角部に、一対の第2連結膜23Gが形成されている。第1連結膜23Fおよび第2連結膜23Gはいずれも、浮膜23Cの4辺のいずれかと平行な方向に延在するように配置されている。
【0054】
浮膜23Cの表面には、電気抵抗体16が形成されている。電気抵抗体16は、通電によりジュール熱を発生する金属材料により、細線状に形成されている。特に、電気抵抗体16の構成材料として、PtやNi、Cr、W等の温度係数(単位温度あたりの電気抵抗値の変化量)の高い材料を採用すれば、ピラニセンサの測定精度を向上させることができる。
電気抵抗体16は、例えば膜厚が200〜400nm、線幅が10〜20μm、抵抗値が100〜150Ωに形成されている。なお電気抵抗体16と浮膜23Cとの密着性を確保するため、両者間に密着層を形成することが望ましい。密着層は、Ta、Cr、Ti等の金属材料で構成することが可能である。
【0055】
電気抵抗体16は、上述した金属材料からなる細線を、蛇腹状にパターニングして形成されている。蛇腹状とすることにより細線の長さが増加するので、電気抵抗体16の抵抗値を調整することが可能になり、また被測定ガスとの熱交換を行う表面積を確保することが可能になる。なお蛇腹状とする代わりに、後述する温度補償体29と同様のつづら折り状としてもよい。電気抵抗体16は、蛇腹の延在方向を浮膜23Cの一辺と平行な方向に略一致させて配置されている。また電気抵抗体16の外形(輪郭)と同等の大きさに浮膜23Cが形成され、電気抵抗体16と物理的に接触している領域が最小限に抑えられていると同時に安定な構造を形成している。
【0056】
電気抵抗体16の両端部には、連結配線16aが形成されている。連結配線16aは、一対の第1連結膜23Fの表面を通って、周辺膜23Dの表面に形成された出力配線27Aに引き出されている。この出力配線27Aを介して、出力パッド28A、28Bから電気抵抗体16に通電しうるようになっている。
【0057】
電気抵抗体40に被測定ガスが接触すると、熱交換が行われる。被測定ガスが電気抵抗体16から奪う熱量Qgは、上述した式(2)で表される。
圧力測定の原理は、第1実施形態で示したとおりである。電気抵抗体16の温度Tfと雰囲気温度(室温)Twの差(Tf―Tw)が一定に保たれている場合、フィラメントから構造を介した熱伝導量Qwならびに輻射によって奪われる熱量Qrは構造に依存した熱流出量であるため一定となる。よって、電気抵抗体16に被測定ガスが接触し、熱交換によって奪われる熱量Qgと圧力Pとは比例関係が成り立ち、圧力Pを計測する事ができる(数式(2))。
【0058】
圧力の測定下限は、数式(1)中のQwならびにQrで示される圧力に依存しない熱流量に大きく影響される。本実施形態では、電気抵抗体16において発生した熱のうち浮膜23等の構造部分を介した熱伝導量Qwは、浮膜23C、連結膜23F,23Gのみから電導するものであり、また微小な領域に電気抵抗体16を設けていること、および、輻射によって奪われる熱量Qrを大きく抑えていることから、圧力測定下限が向上する。
【0059】
ところで、式(2)において電気抵抗体の周辺温度Twが変化すると、電気抵抗体16の抵抗値が変化してしまい、圧力を正確に計測することが困難になる。そこで、電気抵抗体16の雰囲気温度Twの変化を補償するため、電気抵抗体16の抵抗値に比べ十分大きな抵抗値を有する温度補償体29を設ける。
【0060】
図6に示すように、温度補償体29は、電気抵抗体16に隣接して周辺膜23Dの表面に形成されている。温度補償体29は、電気抵抗体16と同じ材料により細線状に形成され、電気抵抗体16より十分高い抵抗値になるよう、細線の長さを長くするつづら折り状に形成されている。
【0061】
実際の測定では、上述したように図4で示したブリッジ回路を用いて、出力される電圧値から圧力Pを計測する。電気抵抗体16は抵抗R、温度補償体29が抵抗Rとして示されるように並列接続されている。そして、それぞれの出力パッド28A、28Cが点TC、TBで示されるように、これらの電極間の電位差Vが0(ゼロ)となるように、電気抵抗体16を流れる電流Iを制御する。
【0062】
抵抗Rで表される温度補償体29の抵抗値は電気抵抗体16(R)より非常に高く設定されているので、温度補償体(R)を流れる電流は微小になり、回路動作による温度補償体29の温度および抵抗値にほとんど変化はない。しかし、雰囲気温度Twが変化すると、温度補償体29(R)の抵抗値が変化し、並列に配置されている電気抵抗体16(R)に流れる電流Iが温度に依存して変化し、結果として(Tf−Tw)が一定という条件が補償され、圧力Pを高精度に測定することが可能となる。
【0063】
本実施形態の密閉型デバイス20は、上記した第1実施形態のものに比べ、真空度の測定下限の向上、雰囲気温度の変化による影響をキャンセル(補償)するという点において優位なセンサを提供できる。
【0064】
数式(1)で示したとおり、電気抵抗体16の発生する熱量は、圧力Pに依存する気体分子との熱交換によって奪われる熱量Qgに加え、構造を介した熱伝導量Qwならびに輻射によって奪われる熱量Qrが測定下限に大きく寄与を与える。第1実施形態では、電気抵抗体16が基板上に形成されるため、前記QwならびにQrが大きくなる可能性がある。これに対し、本実施形態では、電気抵抗体16が構造上安定かつ最小面積を有する浮膜23上に設けられ、圧力Pに依存しない熱流量(QwならびにQr)を最小限に抑えることで、圧力測定下限を向上することができる。
【0065】
さらに、温度補償体29である抵抗体を同一デバイス平面内に形成することで、デバイス雰囲気温度の変化をキャンセルし、高精度に真空度を測定する事が可能となる。第1実施形態では、図4のブリッジ回路図中のRで示される抵抗体をデバイス外に設け測定する。デバイス内の雰囲気温度が変化した場合、電気抵抗体16(図4中のR)の抵抗値も変化する。これに対し本実施形態では、温度補償体29を図4のブリッジ回路図中のRとして使用することで、デバイス雰囲気内の温度変化の影響をキャンセルして測定することができる。恒温槽等の温度変化の少ない環境を用意することなく、高精度に圧力を計測することができる。
【0066】
<製造方法>
次に、本実施形態に係る密閉型デバイス20のピラニセンサ部分の製造方法について説明する。
【0067】
以下には、ジャイロセンサやRFスイッチなど稼動部を持つMEMSデバイスで、減圧下でパッケージ(真空パッケージ)するデバイス内に、気体が衝突することによって持っていく熱量を測定することで真空度を測定するためのフィラメント(電気抵抗体)16を有する圧力測定領域23部分を形成する方法のみを記載する。したがって、デバイス領域12に形成されるデバイスの作製工程にあわせて次の各工程を組み合わせればよい。
【0068】
<S11.基板準備および絶縁膜形成工程>
まず基板11表面に電気絶縁膜23Bを形成する。ここでは、図10(a)に示すように、Si基板11に、熱酸化によって厚さ1μmの酸化膜SiOを電気絶縁膜23Bとして形成した。なお、酸化膜は基板11の裏面にも形成される。
【0069】
<S12.配線形成工程>
次いで、図10(b)に示すように、電気絶縁膜23B上に、抵抗体であるPt/TaOの電気抵抗体(フィラメント)16を形成する。基板11全面にPt/TaOを成膜後、フォトレジストでパターニング、これをマスクとしてBClとArの混合ガスを用いたドライプラズマエッチングにより抵抗体の形成を行った。なお、同時に、温度補償体29、出力配線27A、27B、出力パッド28A、28B、28C他、金属配線も同様の手段で形成することができる。
【0070】
<S13.保護膜形成工程>
続いて、図10(c)に示すように、SiHを用いたCVD(化学気相成膜法)によりSiOからなる保護膜31を成膜した。このSiOからなる保護膜31は、次のTMAHによるSiのウェットエッチングにおいて、電気抵抗体(フィラメント)16ならびに電気絶縁膜23Bを保護するために用いられる。
【0071】
<S14.パターニング工程>
次いで、図10(d)に示すように、保護膜31上にフォトレジスト32のパターニングを行い、これをマスクとしてCFおよびCの混合ガスを用いたSiOからなる保護膜31および電気絶縁膜23Bのドライエッチングをおこなった。これにより、電気絶縁膜23Bには、スリット23Eを有する電気絶縁膜23Bに第1連結膜23Fおよび第2連結膜23G、浮膜23C、および、周辺膜23Dを形成する。
【0072】
<S15.キャビティ形成工程>
次いで、図10(e)に示すように、基板11をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)によってSiのウェットエッチングをおこなった。このウェットエッチングではパターニングされたSiOからなる保護膜31および電気絶縁膜23Bがマスクとなり、キャビティ凹部23Aとなる空間が形成され、浮膜23Cの下側が空間となる。
【0073】
<S16.キャビティ形成工程>
最後に、図10(f)に示すように、電気抵抗体(フィラメント)16上のSiOからなる保護膜31をドライエッチングによって除去することで、所望の構造を有する圧力測定領域23を形成する。
【0074】
このようにして作製した基板11に蓋部基板14を接合することで密閉型デバイス20を得る。具体的には第1実施形態記載の方法と同等の手段を用いればよい。
【0075】
なお、フォトリソグラフィーの条件、エッチング条件等は、上記のものに限定されることはなく、適宜、変更することができる。
【0076】
本実施形態においては、密閉型デバイスの基板11表面において、熱伝導率が低い酸化シリコンまたは窒化シリコンからなる浮膜23Cの表面に電気抵抗体16を形成したので、電気抵抗体16から浮膜23Cへの熱流出を抑制することが可能になる。また基板11に直接接触しない浮膜23Cの表面に電気抵抗体16を配置したので、電気抵抗体16から基板11への熱流出を抑制することが可能になる。また浮膜23Cをスリット23Eで囲み、浮膜23Cの外周を連結膜23F,23Gにより周辺膜23Dに連結することで、電気抵抗体16から周辺膜23Dへの熱流出を抑制することが可能になる。これにより、式(1)記載の圧力に依存しない流出熱量Qc,Qrによる影響を抑制することが可能になり、測定可能な圧力範囲の下限を引き下げることができる。具体的には、従来10−1 Pa程度であった測定範囲の下限を、本実施形態では10−2 Pa程度に引き下げることができる。さらに、電気抵抗体16と同一平面状に温度補償体抵抗体29を設けることによってデバイスの雰囲気温度による影響を受けず、上述したMEMS技術を用いることにより、精密測定可能な圧力範囲の広い密閉型デバイス20得ることができる。
【実施例】
【0077】
<実験例1>
まず、 図1〜図3に示す密閉型デバイス10を製造した。この際、基板11上に密着層13Aとしての7nmのTa上に、165nmのPtとされる電気抵抗体16を、幅10μm、長さが2.1mmで、約140Ωの抵抗を有するフィラメントとして設けた。その後基板11と蓋部基板14とを5×10Paの減圧下で接合して密閉空間15を形成した。
同様に基板11と蓋部基板14とを5×10−1Pa〜1×10Paとなるように圧力状態を変化させて封止し密閉空間15を形成したものも作成した。
【0078】
次いで、これらの密閉型デバイス10および出力パッド18に接続した温度補償体Rを25℃の高温槽に入れ、図4に示した回路における出力電圧値(Output/V)を測定した。
その結果を図5に示す。
【0079】
図5は、封止した圧力と、ブリッジ回路の出力電圧値との関係を示すものであり、本実験例で作成したデバイスの場合、5×10Pa程度の圧力以上から出力値が増加した。すなわち、出力パッド18に温度補償体Rを接続したプローブを接触させることで、密閉空間15の圧力が5×10Paから大気圧までの圧力値を具体的に測定することが可能であることがわかった。
【0080】
さらに、図1〜図3に示す密閉型デバイス10のデバイス領域12に、2×10Pa以下の圧力状態で正常動作する加速度センサを設けるとともに封止圧力を変化させた。またこのデバイスにおいて、密閉型デバイス10および出力パッド18に接続した温度補償体Rを25℃の高温槽に入れ、図4に示した回路における出力電圧値(Output/V)を測定するとともに、加速度センサの動作確認をおこなった。
この結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
この結果から、チップ1および2に関しては、出力電圧値が0.10V以下で、2×10Pa以下の圧力が保持されていることがわかるとともに、動作確認した加速度センサの性能も正常動作していることがわかる。これに対し、出力電圧が0.17Vであるチップ3では、保持されている圧力が高く加速度センサとしての性能も満たされていないことがわかる。したがって、出力電圧値が一定値以上となったデバイスを再検査要として、検品工程ではじくことが可能となる。この場合は出力電圧値の閾値を0.1Vに設定して、この値より高いか低いかで、検査結果を二値化することができる。
【0083】
<実験例2>
次いで、図6〜図9に示す密閉型デバイス20を製造した。この際、基板11上に1μmの厚みを有するSiOからなる電気絶縁膜23Bを形成して浮膜23C他とし、電気絶縁膜23B上に、圧力計測用の電気抵抗体16を幅5μm、長さ2.1mmとして形成するとともに、温度補償体29を幅5μm、長さ315mmとして形成した。電気抵抗体16の材料は、10nmのTaOを密着層として、これに200nmの厚さのPtを積層し、Pt/TaOの積層体でフィラメントを作製した。これにより、圧力計測用の電気抵抗体16は120Ω、温度補償体29は18kΩの抵抗値を有するものとした。
次いで、実験例1と同様に、基板11と蓋部基板14とを接合して密閉空間15を形成し密閉型デバイス20とした。
【0084】
次いで、これらの密閉型デバイス20を25℃の高温槽に入れ、図4に示した回路における出力電圧値(Output/V)を測定した。
その結果を図11に示す。
【0085】
図11は、封止した圧力と、ブリッジ回路の出力電圧値との関係を示すものであり、本実験例で作成した密閉型デバイス20の場合、8×10Pa程度の圧力以上から出力値が増加する。すなわち密閉空間15において、8×10Paから大気圧までの圧力値を具体的に測定することが可能であるということがわかった。
【0086】
さらに、図6〜図9に示す密閉型デバイス20のデバイス領域12に、5×10−2Pa以下の圧力状態で正常動作する加速度センサを設けるとともに5×10−3Paの雰囲気で封止を行って、密閉型デバイス20を25℃の高温槽に入れ、図4に示した回路における出力電圧値(Output/V)を測定するとともに、加速度センサの動作確認を行った。
この結果を表1に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
この結果から、チップ4に関しては、出力電圧値が0.00013Vで、2×10−2Pa以下の圧力が保持されていることがわかるとともに、動作確認した加速度センサの性能も正常動作していることがわかる。同様に、チップ5に関しては、出力電圧値が0.00002Vで、1×10−2Pa以下の圧力が保持されていることがわかるとともに、動作確認した加速度センサの性能も正常動作していることがわかる。これに対し、出力電圧が0.00057Vであるチップ6では、保持されている圧力が5.6×10−2Paと高く加速度センサとしての性能も満たされていないことがわかる。したがって、出力電圧値が一定値以上となったデバイスを再検査要として、検品工程ではじくことが可能となる。この場合は出力電圧値の閾値を0.00020Vに設定して、この値より高いか低いかで、検査結果を二値化することができる。
このように、本発明で示したように、減圧下でパッケージングされることで性能が満たされるセンサを作成する際に、密閉空間内に圧力測定用の抵抗体を設けることで、パッケージ内の圧力をチップ毎に検査することが容易に可能となり、デバイスの歩留まりを向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0089】
10,20…密閉型デバイス、11…基板、12…デバイス領域(デバイス部)、13,23…圧力測定領域、14…蓋部基板、15…密閉空間、16…電気抵抗体、17,27A,27B…出力配線、18,28A,28B,28C…出力パッド、29…温度補償体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に密閉空間を形成する密閉空間形成部と、前記密閉空間内位置に設けられて所定の機能を有するデバイス部と、前記密閉空間内に設けられて該密閉空間内の圧力を測定するための電気抵抗体を有する圧力測定部と、前記電気抵抗体に通電するとともに前記密閉空間外部と接続する出力配線と、該出力配線に接続された出力パッドとを有することを特徴とすることを特徴とする密閉型デバイス。
【請求項2】
前記圧力測定部において、前記電気抵抗体が前記密閉空間内の気体と熱交換を行って、前記電気抵抗体の熱損失量から前記密閉空間内の気体の圧力測定可能とされてなることを特徴とする請求項1記載の密閉型デバイス。
【請求項3】
前記密閉空間形成部が、デバイス部と圧力測定部とを有する基板と、これらの領域を覆うように前記基板と対向する蓋部基板とからなり、前記基板が前記蓋部基板によって覆われて密閉空間が形成されてなることを特徴とする請求項1または2記載の密閉型デバイス。
【請求項4】
前記圧力測定部が、前記電気抵抗体を表面に配置して基板の穴部を跨ぐように形成された浮膜と、
前記浮膜を囲むように前記基板の表面に形成された周辺膜と、
前記浮膜の中心を挟んで対称に配置され、前記浮膜の外周を前記周辺膜に連結する一対の連結膜と、を備え、
前記電気抵抗体の両端部が、前記一対の連結膜の表面を通って、前記周辺膜の表面に形成された電極に引き出されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の密閉型デバイス。
【請求項5】
前記圧力測定部が、所定の圧力閾値に対して前記密閉空間内部における圧力状態を二値化して外部に出力可能とされていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の密閉型デバイス。
【請求項6】
前記電気抵抗体の周辺温度の変化を補償する温度補償体が、前記周辺膜の表面に形成され、
前記電気抵抗体と前記温度補償体との間における前記周辺膜に、溝部が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の密閉型デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−163539(P2012−163539A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26312(P2011−26312)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】