説明

密閉型リチウム二次電池

【課題】電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池であって、電池性能に優れ、かつ安全性を向上し得る技術を提供する。
【解決手段】正極を有する電極体と電解質と所定の電池電圧を超えた際にガスを発生させる芳香族化合物とが電池ケース内に収容され、かつ該電池ケースの内圧が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられた密閉型リチウム二次電池であって、上記正極には導電材としての黒鉛を含む正極合材層が備えられている。ここで上記黒鉛は、励起波長514.5nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度(I)とGピークの強度(I)との比の値(I/I)が0.2以上0.7以下であることを特徴とする。上記比の値を満たす黒鉛を正極合材層に有する電池では過充電時のガス発生量が増大し、早期に電流遮断装置を作動させ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型リチウム二次電池(典型的には密閉型リチウムイオン電池)に関する。詳しくは、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池その他のリチウム二次電池は、既存の電池に比べ小型、軽量かつエネルギー密度が高いという特徴から、民生用(パソコンや携帯端末の電源等)として広く利用されている。また出力密度が高いことから、例えばハイブリッド自動車(HV)等の車両駆動用の高出力電源としても好ましく用いられている。
【0003】
かかる電池の一形態として、密閉型リチウム二次電池が挙げられる。該電池は、典型的には、活物質を含む合材層を備えた正負極からなる電極体が、電解質(典型的には、電解液)とともに電池ケースに収容された後、蓋体が装着されて封口(密閉)されることにより構築される。
【0004】
密閉型リチウム二次電池は、一般に電圧が所定の領域(例えば3.0V以上4.2V以下)に収まるよう制御された状態で使用されるが、誤操作等により電池に通常以上の電流が供給されると、所定の電圧を超えて過充電となる場合がある。そこで、過充電の進行を停止する安全機構として、電池ケース内の圧力が所定値以上になると充電電流を遮断する電流遮断機構(CID;Current Interrupt Device)を備えた電池が広く用いられている。一般に、電池が過充電状態になると電解液の非水溶媒等が電気分解され、ガスが発生する。上記電流遮断機構は、このガス発生に基づいて電池の充電経路を切断することで、それ以上の過充電を防止し得るようになっている。
【0005】
また、上記電流遮断機構を用いる際には、あらかじめ電解液の非水溶媒よりも酸化電位の低い(即ち、酸化分解反応の始まる電圧が低い)化合物(以下、「過充電防止剤」という。)を、電解液中に含有させておく手法が知られている。かかる過充電防止剤は、電池が過充電状態になると正極(典型的には、正極合材層中の正極活物質や導電材)の表面において速やかに酸化分解され水素イオン(H)を生じる。そして該水素イオンが拡散し、負極上で還元されることにより水素ガスが発生する。かかる水素ガスにより電池の内圧が上昇するため、電流遮断機構をより迅速に作動させることができる。
この種の従来技術として、例えば、特許文献1には、過充電防止剤としてシクロアルキルベンゼン化合物(典型的には、シクロヘキシルベンゼン(CHB))等の芳香族化合物を用いる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−15155号公報
【特許文献2】特開2007−317583号公報
【特許文献3】特開2008−282613号公報
【特許文献4】国際公開第98/05083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、かかる水素ガスの発生は、正極表面における過充電防止剤の酸化分解を起点として生ずる。そこで、該電池の安全性を従来に比べ向上させる(即ち、発生するガスの量を増大させる)方法として、例えば、過充電防止剤の添加量を増やすことや、正極合材層中の導電材量を増やし過充電防止剤との接触面積を広げること等が考えられる。しかし過充電防止剤は電池反応の抵抗成分として働くため、添加量が増すと電池性能が低下(例えば内部抵抗の増大や耐久性の低下等)する虞があり、好ましくない。また正極合材層中の導電材量を増加させた場合には、電池反応とは無関係なガスの発生により電池膨れ等の問題が生じたり、単位体積当たりの容量低下を招いたりする虞がある。かかる課題に対し、特許文献1に記載の技術では対処することが困難である。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電池ケース内の圧力上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池であって、電池性能に優れ、かつ該電池の安全性を従来に比べ向上し得る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現すべく、正極と負極を有する電極体と、電解質と、所定の電池電圧を超えた際にガスを発生させる芳香族化合物からなる添加剤(過充電防止剤)とが電池ケース内に収容され、かつ該電池ケースの内圧が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられた密閉型リチウム二次電池が提供される。ここで、上記正極は、正極集電体と、該集電体上に形成された正極合材層であって正極活物質と導電材としての黒鉛とを含む正極合材層を備えており、ここで上記黒鉛は、励起波長514.5nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度(I)とGピークの強度(I)との比の値R(R=I/I)が0.2以上0.7以下であることを特徴とする。
上記R値を満たす黒鉛を正極合材層に有する電池では、過充電時におけるガス発生量が従来に比べて増加し、早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。このため、該電池の安全性を高め得る。この理由として、一般的に化合物は自己の結晶構造と類似なものと相互作用(反応)を生じやすい性質があるため、例えば、かかる黒鉛の六角網面構造と、芳香族化合物からなる過充電防止剤のベンゼン環の構造とが特異的に作用することで、該過充電防止剤の酸化反応が促進され、過充電防止剤の反応効率が高まったことが考えられ得る。また、ここで開示される技術では、かかる黒鉛の添加により正極合材層内の導電性が高められるため、電池性能をも向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。
【0010】
ところで、正極に導電材として黒鉛を添加する技術については、特許文献2〜4にも記載されている。しかし、これらの従来技術は、正負極の分極を均衡化したり、正極の空隙率を高めたりすることで電池性能(サイクル特性や出力特性)の改善を目指したものであり、本発明の目的とするような安全性の向上(即ち、過充電防止剤の反応効率を高める)という観点での検討は行われていない。
【0011】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記黒鉛は、X線回折により求められる格子面間隔d(002)が0.337nm以上0.339nm以下であることが挙げられる。
上記格子面間隔を満たす黒鉛を正極合材層に有する該電池では、該黒鉛の六角網面構造の配向性が高いため、過充電防止剤との特異的な作用が生じやすく、該過充電防止剤の反応効率をより高めることができる。このため、過充電時において大量のガスを発生させることができ、より早い段階で電流遮断装置を作動させ得る。
【0012】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記黒鉛は、粒度分布測定(レーザー回折・光散乱法)により測定される累積50%粒径(D50)が10μm以下であることが挙げられる。
上記粒径範囲を満たす黒鉛は正極合材層中の空隙を好適に埋め(例えば、細かな隙間にまで微小な粒子が入り込むことができる等)、導電経路を確保することができる。したがって上記粒径範囲を満たす黒鉛を有する正極合材層では、導電性(即ち、正極活物質と導電材との接触)が高められ、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。
【0013】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記黒鉛は、タップ密度測定によるタップ密度が0.01g/cm以上0.3g/cm以下であることが挙げられる。
上記タップ密度の範囲を満たす黒鉛は、正極合材層内に好適に電解液が浸潤するため、過充電防止剤の反応効率を向上し得る。このため、過充電時において、より大量のガスを発生させることができ、一層早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。また、導電材の体積が比較的小さいため、相対的に正極合材層に含まれる正極活物質の割合を高めることができ、単位体積当たりの電池容量(エネルギー密度)を高める上でも有効である。
【0014】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記黒鉛の粒度分布測定(レーザー回折・光散乱法)により測定したD50値(R)と、上記正極活物質のD50値(R)との比(R/R)が、0.1以上2.0以下であることが挙げられる。
上記R/Rを満たすよう規定される黒鉛は、正極活物質粒子間の空隙をより好適に充填し導電経路を確保することができる。したがって上記粒径範囲を満たす黒鉛を有する正極合材層では、導電性(即ち、正極活物質と導電材との接触)が高められ、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。
【0015】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記黒鉛は、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子形状が鱗片状であることが挙げられる。
鱗片状の上記黒鉛は六角網面構造の配向性が高く、過充電防止剤の反応効率をより一層高めることができるため、過充電時において大量のガスを発生させることができ、より早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。
【0016】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記正極合材層中に含まれる上記黒鉛の量は、上記正極活物質100質量%に対し、0.5質量%以上10質量%以下であることが挙げられる。
上記黒鉛は、過充電防止剤の反応効率をより一層高めることができるため、比較的少ない添加量でも、過充電時において大量のガスを発生させることができる。また、かかる黒鉛の添加量を増減することで、電流遮断装置を確実に作動させるために要する量のガスを発生させることができる。
【0017】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記導電材として、上記黒鉛に加え、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックのうち少なくとも1種類を含んでいることが挙げられる。
上記黒鉛は比表面積が比較的小さいため、過充電防止剤の反応場が狭くなってしまう虞がある。しかし、導電材として、上記黒鉛と、該反応場を広げることができる(即ち、比表面積の広い)炭素材料とを併用することで、過充電時において大量のガスを発生させ得る。その結果、電流遮断機構を迅速に作動させることができる。
【0018】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記添加剤(過充電防止剤)として、少なくともシクロヘキシルベンゼンを含んでいることが挙げられる。
シクロヘキシルベンゼンは、酸化電位が4.6Vと比較的低く、過充電時において速やかに酸化分解され水素ガスを発生し得る。このため、電流遮断機構をより迅速に作動させることができる。
【0019】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記添加剤の添加量が、上記電解質100質量%に対し0.1質量%以上5質量%以下であることが挙げられる。
ここで開示される技術では、過充電防止剤の反応効率が高いため、添加する過充電防止剤の量を従来に比べ低減し得る。よって、該電池の電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。
【0020】
また、ここで開示される密閉型リチウム二次電池により構築された密閉型リチウム二次電池を駆動用電源として備える車両が提供される。かかる密閉型リチウム二次電池は、高容量、高出力の電池が大電流充電時に過充電となった場合に有効であるため、特に、車両(典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)のような電動機)に搭載されるモーター駆動のための動力源(駆動用電源)として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池を備えた車両(自動車)を示す側面図である。
【図4】本発明の実施例について、ガス発生量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池(若しくはリチウムイオン二次電池)、リチウムポリマー電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池等と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。また、本明細書において「活物質」とは、正極側又は負極側において蓄電に関与する物質(化合物)をいう。即ち、電池の充放電時において電子の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0023】
以下、ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。かかる構造の密閉型リチウム二次電池は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0024】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の正極は、正極活物質と導電材とバインダ(結着剤)等とを混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「正極合材スラリー」という。)を調製し、該スラリーを正極集電体上に付与して正極合材層(正極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
ここで正極集電体の素材としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。集電体の形状は、得られた電極を用いて構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、主に箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度を好ましく用いることができる。
【0025】
ここで用いられる正極活物質には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩等が挙げられる。中でも、層状構造のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)は、熱安定性に優れ、かつエネルギー密度も高いため好ましく用いることができる。また、特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める正極活物質の割合は典型的には凡そ50質量%以上(典型的には70質量%〜99質量%)であり、凡そ80質量%〜99質量%であることが好ましい。
【0026】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li、Ni、Co、Mnを構成金属元素とする酸化物のほか、Li、Ni、Co、Mn以外に他の少なくとも一種の金属元素(Li、Ni、Co、Mn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ceのうちの一種または二種以上の元素であり得る。リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、及びリチウムマンガン酸化物についても同様である。このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。また、特に限定するものではないが、例えば、累積50%粒径(D50)が凡そ1μm〜25μm(好ましくは2μm〜10μm、より好ましくは6μm〜10μm、例えば6μm〜8μm)の範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を正極活物質として好ましく用いることができる。
【0027】
ここで用いられる導電材は、少なくとも黒鉛を一種類以上含んでいる。黒鉛としては、従来からリチウム二次電池で用いられているものを特に限定することなく使用することができる。例えば、天然鉱物から採られた天然黒鉛(石墨ともいう)や、石油または石炭系の材料から製造された人造黒鉛、あるいは上記黒鉛に粉砕やプレス等の加工処理を施したもの等から選択される、一種または二種以上であり得る。より具体的には、例えば、鱗片状黒鉛や鱗状(塊状)黒鉛等の鱗状黒鉛、土状黒鉛、膨張黒鉛、熱分解黒鉛等が挙げられる。かかる形状は、鱗片状(多角形の形状を有する薄い小片や、楕円形の形状を有する薄い小片等(薄片状)も包含する。)、針状、球状、粒状などであり得る。ここで開示される技術においては、とりわけ配向性の高い(即ち、導電性の高い)鱗片状のものが好ましく用いられる。また、ここで開示される技術において上記正極合材層中に含まれる黒鉛の量は、上記正極活物質100質量%に対し、例えば0.5質量%以上(好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上)であって、10質量%以下(好ましくは、7質量%以下)とすることができる。上記黒鉛は、過充電防止剤の反応効率をより一層高めることができるため、比較的少ない添加量でも、過充電時において大量のガスを発生させることができる。電流遮断装置を確実に作動させるために要するガス量を得るためには、かかる黒鉛の添加量を調節すればよい。
【0028】
上記黒鉛の形状は、一般に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することができる。具体的には、少なくとも30個以上(例えば30個〜100個)の黒鉛粒子について例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)、型式「HITACHI S−4500」を用いて、SEM観察を行い、画像を得ることができる。なお、本明細書において「鱗片状」とは、かかる形状を、「球状」と区別する用語であって、典型的には薄い小片状で形状異方性を有する粒子を指し、魚の鱗のような形状のみには限定されない。例えば粒子の最も長い辺の長さ(A)と、最も短い辺の長さ(B;典型的には厚み)の比(A/B)が、2以上(好ましくは10以上)であって、1000以下(典型的には、500以下、好ましくは100以下)のものが好適に用いられる。鱗片状の上記黒鉛は、とりわけ六角網面構造の配向性が高く、過充電防止剤の反応効率をより一層高めることができるため、過充電時において大量のガスを発生させることができ、より早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。
【0029】
また、黒鉛は、六角網面構造の炭素原子が積層され構成された物質である。六角網面内の炭素は、強い共有結合(sp結合)で結合されており、積層された層間(かかる面と面の間)は弱いファンデルワールス力で結合されている。ここで開示される技術では、黒鉛の六角網面構造の配向性(即ち、黒鉛化度)を、例えばレーザーラマン分光法によって測定することができる。即ち、ラマン分光法により得られたラマンスペクトルにおいて、Dピーク強度IとGピーク強度Iの比(I/I;R値)によって求めることができる。なお、上記Dピークは、連続性の低いsp結合の振動に起因し、主に黒鉛のエッジ面(層状結晶構造の端部や欠損部;すなわち、配向性の低い部分)に対応する。また、上記Gピークは、連続性の高いsp結合の振動に起因し、黒鉛のベーサル面(sp結合が六角網状に共役してなるグラフェンシートの網面;すなわち、配向性の高い部分)に対応する。よって、R値は黒鉛表面におけるベーサル面の比率を表し、値が小さいほど該黒鉛の配向性が高いことを示している。なお、ここで用いられる黒鉛は、アルゴンレーザーを用いたラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおける、1360cm−1付近のラマンバンド(Dピーク)の強度(I)と、1580cm−1付近のラマンバンド(Gピーク)の強度(I)との比R(R=I/I)が、0.2以上(例えば0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上)であって、0.7以下(好ましくは0.6以下)である。上記R値を満たす(即ち、六角網面構造の配向性が高い)黒鉛を正極合材層に有する該電池では、かかる黒鉛の六角網面構造と、芳香族化合物からなる過充電防止剤のベンゼン環の構造とが特異的に作用することで、該過充電防止剤の酸化反応が促進される。このため、過充電時におけるガス発生量が増大し、早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。また、該黒鉛によって正極合材層内の導電性が高められるため、電池性能をも向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。なお、かかるR値は、黒鉛の産地や種類(原料)、製法、焼成温度、粉砕方法の違いなどによって変化させることができる。
【0030】
上記レーザーラマン分光法による測定は、ラマン分光器(例えば、日本分光社製ラマン分光器、型式「NRS−5000」)を用いて行うことができる。具体的には、まず測定対象(黒鉛粉末)を測定セル内へ自然落下させることで試料充填する。次に該測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させ、例えば、以下の測定条件で測定を行なうことができる。
アルゴンイオンレーザー波長:514.5nm
試料上のレーザーパワー:15〜25mW
分解能:4cm−1
測定範囲:1100cm−1〜1730cm−1
ピークの処理:バックグラウンド処理、スムージング処理
解析;各ピークの強度(I、I)としては、ベースラインを補正した各ピークの高さの値を採用する。
【0031】
なお、黒鉛の六角網面構造の配向性(黒鉛化度)については、X線回折によって測定することができ、上記ラマン分光法により得られるR値と、XRDにより得られる格子面間隔d(002)値との間には、凡そ直線的な比例関係がみられる。ここで用いられる黒鉛としては、X線回折により求められる格子面間隔d(002)が0.337nm以上(好ましくは0.3375nm以上、より好ましくは0.338nm以上)であって、0.339nm以下が好適な範囲として挙げられる。上記格子面間隔を満たす黒鉛は六角網面構造の配向性が高いため、過充電防止剤との特異的な作用が生じやすく、該過充電防止剤の反応効率を高めることができる。このため、過充電時において、大量のガスを発生させることができ、早い段階で電流遮断装置を作動させ得る。
ところで、電池性能(サイクル特性や出力特性)の改善を目的として、正極合材層中に黒鉛を添加した従来技術(特許文献4)では、好ましい範囲として、該黒鉛の格子面間隔d(002)が0.335nm以上0.337nm未満(好ましくは、0.3360nm未満)と記載されている。即ち、ここで開示される技術とは該黒鉛を用いた目的が異なるため、該黒鉛の好適範囲は異なっている。
【0032】
上記X線回折による測定は、CuKα線を用いたX線回折装置(XRD:X−ray diffraction)により測定することができる。具体的には、X線発生源から照射されたX線(CuKα線)を試料に入射させることにより行う。試料は、黒鉛(典型的には粉末状)を試料ボードに詰めたものであってもよく、該黒鉛と正極活物質とバインダとを用いて形成された正極合材層の表面であってもよい。この際、試料を所定の走査軸で回転走査しながら試料に対する入射角度をステップ的または連続的に変化させてX線を照射し、試料によって回折されたX線を検査器でとらえるとよい。そして、X線の回折方向と入射方向の角度差(回折角2θ)と、回折X線強度を測定する。かかる測定は、種々の測定装置メーカーから市販されているX線回折測定装置を用いて行うことができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置、型式「Ultima IV」を用いて下記条件にて行うことができる。
ターゲット:Cu(Kα線)黒鉛モノクロメーター
スリット:発散スリット=1°、受光スリット=0.1mm、散乱スリット=1°
【0033】
一般的に、導電材の粒径は、比較的小さいものほど正極活物質との接触面積が広いため、有利である。一方、あまりに粒径が小さすぎると正極合材層内の導電経路が細くおよび/または切断され易くなる虞があるため、好ましくない。ここで用いられる黒鉛としては、粒度分布測定(レーザー回折・光散乱法)により測定した粒度分布による累積50%粒径(D50)が15μm以下(典型的には10μm以下、好ましくは4μm以上10μm以下)が好適な範囲として挙げられる。また、ここで用いられる黒鉛のD50値(R)と、正極活物質のD50値(R)との比(R/R)が、0.1以上(好ましくは、0.2以上、より好ましくは0.5以上)であって、2.0以下(好ましくは1.7以下)である場合は、より好ましい。上記粒径範囲を満たす黒鉛は正極合材層中の空隙を好適に埋め(例えば、細かな隙間にまで微小な粒子が入り込むことができる等)、導電経路を確保することができる。したがって上記粒径範囲を満たす黒鉛を有する正極合材層では、導電性(即ち、正極活物質と導電材との接触)が高められ、電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。
【0034】
上記粒度分布の測定は、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定することができる。具体的には、まず試料(黒鉛粉末)を測定溶媒中に分散させる。この際、測定結果に影響を与えない範囲で界面活性剤等の分散剤を添加してもよい。次に、かかる分散液を、例えば、株式会社堀場製作所製の粒度分布測定装置、型式「LA−920」で測定した値を採用することができる。なお、本明細書においては、かかる測定結果より算出される体積基準の粒度分布から導き出せる値を採用し、累積50%粒径(D50)とは体積基準の粒度分布において微粒子側からの累積50%に相当する粒径(メディアン径)を示す。よって、「粒径」が一次粒子そのものの大きさを指すこともあれば、多数の粒子が凝集した凝集体(二次粒子等)の大きさを指す場合もある。
【0035】
上述の通り、過充電防止剤の酸化反応は正極表面との接触により生ずるため、反応場を広げる意味では、導電材の比表面積は大きい方が有利である。しかし単純に比表面積を増加させると、電池反応とは無関係なガスの発生により電池膨れ等の問題が生じる虞がある。特に限定されるものではないが、ここで用いられる導電材としては、比表面積が5m/g以上であって、40m/g以下(好ましくは30m/g)の範囲にあることが好ましい。上記比表面積を満たす黒鉛を用いた場合、過充電時における過充電防止剤の反応場を確保することができ、早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。また、通常使用時のガス発生量が抑制され電池膨れなどの問題を低減し得る。
【0036】
上記比表面積の測定は、窒素ガスの吸着等温線を測定するガス吸着法にて、例えば日本ベル株式会社製の自動比表面積/細孔分布測定装置、「BELSORP(商標)−18PLUS」を用いて定容量式吸着法にて測定した値(BET比表面積)を採用することができる。具体的には、試料(黒鉛粉末)凡そ0.4gをセルに充填し、真空状態で凡そ200℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、BET法(例えば、1点法)により比表面積を算出する。
【0037】
ここで用いられる導電材としては、タップ密度が比較的小さいものが有利である。例えば、0.01g/cm以上(好ましくは0.05g/cm以下、より好ましくは0.07g/cm以下)であり、0.3g/cm以下(好ましくは0.2g/cm以下、より好ましくは0.1g/cm以下)の範囲にあることが好ましい。上記タップ密度の範囲を満たす黒鉛は、正極合材層内に好適に電解液が浸潤するため、過充電防止剤の反応効率を向上し得る。このため、過充電時において、より大量のガスを発生させることができ、より早い段階で電流遮断装置を作動させることができる。また、導電材の体積が比較的小さいため、相対的に正極合材層に含まれる正極活物質の割合を高めることができ、単位体積当たりの電池容量(エネルギー密度)を高める上でも有効である。
なお、上述した黒鉛化度は、上記比表面積やタップ密度によっても、概ね把握することができる。具体的には、試料の黒鉛化度が低いほど、比表面積は小さくなる傾向にあり、タップ密度はより大きくなる傾向にある。
【0038】
上記タップ密度の測定は、例えば、JIS K1469に規定される方法で、タッピング式の密度測定装置によってタッピングした後、測定した値を採用することができる。具体的には、円筒状タップセルに、篩を通して質量W(g)の試料(黒鉛粉末)を落下させ、セルに満杯に充填する。その後、タップ速度31回/分、タップ数300回の条件にて機械的にタッピングして体積V(cm)を測定し、WをVで除することによって求められる。装置としては、例えば、筒井理化学器械社製のタップ密度測定装置、型式「TPM−3」を用いることができる。
【0039】
また、ここで用いられる導電材は、上記黒鉛以外を必要に応じて含む組成であり得る。具体的な例としては、種々の非晶質黒鉛(例えば、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(KB)、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック)が挙げられる。また、その他にも炭素繊維(PAN系、ピッチ系)、金属繊維(例えばAl、SUS等)、導電性金属粉末(例えばAg、Ni、Cu等)、金属酸化物(例えばZnO、SnO2等)、金属で表面被覆した合成繊維等をも含み得る。
【0040】
上述したように、黒鉛は導電性が高く、過充電時において過充電防止剤の反応効率を高めることができる。一方で、比表面積が小さいため、過充電防止剤の反応場が狭くなってしまう虞がある。このため、ここで用いられる導電材としては、上記黒鉛に加え、反応場を広げることができる(即ち、比表面積の広い)炭素材料を含んでいることが好ましい。特に限定されるものではないが、該炭素材料としては、例えば、比表面積が1m/g以上(好ましくは10m/g以上)であって、1000m/g以下(好ましくは500m/g以下、より好ましくは100m/g以下)の範囲にあるものが好ましい。特に好適に用いられる例として、上述した各種カーボンブラックが挙げられる。なかでも高導電性のアセチレンブラックがより好適に用いられる。また、導電材として比表面積の比較的小さい黒鉛と、比表面積の比較的大きなアセチレンブラックを混合して用いることで、導電材全体としては従来に比べ比表面積が小さく抑えられるため、電池反応とは無関係なガスの発生(電解液の分解)が抑制され、過充電とは無関係な電池の膨張を低減することができる。特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める全導電材の割合は、例えば凡そ0.5質量%〜15質量%とすることができ、凡そ0.1質量%〜10質量%(より好ましくは3質量%〜7質量%)とすることができる。
【0041】
ここで用いられるバインダには、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。典型的には、各種のポリマー材料を好適に用いることができる。例えば、水系の液状組成物を用いて正極合材層を形成する場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、セルロース系ポリマー、フッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、ゴム類等が例示される。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等が挙げられる。あるいは、溶剤系の液状組成物(分散媒の主成分が有機溶媒である溶剤系組成物)を用いて正極合材層を形成する場合には、有機溶剤に分散または溶解するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が挙げられる。特に限定するものではないが、正極活物質100質量%に対するバインダの使用量は、例えば0.1質量%〜10質量%(好ましくは1質量%〜5質量%)とすることができる。
【0042】
ここで用いられる溶媒としては、従来からリチウム二次電池に用いられる溶媒のうち一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。かかる溶媒は水系と有機溶剤に大別され、有機溶媒としては、例えば、アミド、アルコール、ケトン、エステル、アミン、エーテル、ニトリル、環状エーテル、芳香族炭化水素等が挙げられる。より具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、2−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロペン酸メチル、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、アセトニトリル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好適に用いられる。
【0043】
正極合材スラリーを調製する方法としては、上記正極活物質と導電材とバインダとを一度に混練してもよく、何回かに分けて段階的に混練してもよい。好ましくは、例えば、先ず導電材を溶媒に分散させ、後から正極活物質とバインダを段階的に投入する手法をとり得る。即ち、比較的分散性の悪い導電材を先ず溶媒中に分散させることで、正極活物質と導電材とバインダとが均一に分散した正極合材スラリーを得ることができる。特に限定されるものではないが、正極合材スラリーの固形分濃度(NV)は凡そ50%〜75%(好ましくは55%〜65%、より好ましくは55%〜60%)となる。
【0044】
また、ここで調製される正極合材スラリーには、必要に応じて分散剤として機能し得る材料を添加してもよい。これにより、導電材の粒度分布をより適切に制御し得る。該分散剤としては、疎水性鎖と親水性基をもつ高分子化合物(例えばはアルカリ塩、典型的にはナトリウム塩)や、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩などを有するアニオン性化合物やアミンなどのカチオン性化合物などが挙げられる。より具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ等が例示され、例えば、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子材料が好ましく用いられる。
【0045】
正極合材層を形成する方法としては、上記正極合材スラリーを正極集電体の片面または両面に適量塗布して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。
正極合材スラリーを正極集電体に塗布する操作は、従来の一般的なリチウム二次電池用正極を作製する場合と同様に行うことができる。例えば、適当な塗布装置(スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を使用して、上記正極集電体上の片面または両面に所定量の上記正極合材スラリーを均一な厚さにコーティングすることにより作製され得る。
その後、適当な乾燥手段で正極合材層を乾燥することにより、正極合材スラリーに含まれていた溶媒を除去する。正極合材層を乾燥するにあたっては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線等を単独または組み合わせにて用いることができる。好ましい一態様では、乾燥温度を凡そ200℃以下(典型的には80℃以上200℃未満)とする。このようにして、ここに開示される密閉型リチウム二次電池用の正極を得ることができる。
正極合材スラリーの乾燥後、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極合材層の厚みや密度を調整することができる。正極集電体上に形成された正極合材層の密度は、例えば2.0g/cm〜4.2g/cm(典型的には2.5g/cm〜3.2g/cm)とすることができる。通常は、2.5g/cm〜2.8g/cmとすることにより好適な結果が実現され得る。該正極合材層の密度が低い(即ち、正極合材層内の活物質量が少ない)と、電池の単位体積当たりの容量が低下する。また、密度が高すぎると、特に大電流充放電時や低温下での充放電時において内部抵抗が上昇する傾向にある。
【0046】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の負極は、正極と同様、負極活物質とバインダ等とを混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「負極合材スラリー」という。)を調製する。該スラリーを負極集電体上に付与して負極合材層(負極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
ここで負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。なお、形態は特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、箔状が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度を好ましく用いることができる。
【0047】
ここで用いられる負極活物質には、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、少なくとも一部に黒鉛構造(層状構造)を含む粒子状の黒鉛粉末(カーボン粒子)、チタン酸リチウム(LTO)等の酸化物、スズ(Sn)やケイ素(Si)とリチウムの合金等が挙げられる。黒鉛粉末としては、黒鉛質のもの(黒鉛)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、またはこれらを組み合わせたもの等を用いることができ、特に、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)を好ましく使用することができる。負極合材層全体に占める負極活物質の割合は特に限定されないが、通常は凡そ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ90質量%〜99質量%(例えば凡そ95質量%〜99質量%)である。
【0048】
ここで用いられるバインダとしては、上記正極合材層用のバインダとして例示したポリマー材料から適当なものを選択することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が例示される。特に限定するものではないが、負極活物質100質量%に対するバインダの使用量は、例えば1質量%〜10質量%(好ましくは2質量%〜5質量%)とすることができる。その他、負極合材スラリーの増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))や導電材なども使用することができる。
【0049】
負極合材層を形成する方法としては、上述した正極の場合と同様、負極合材スラリーを負極集電体上の片面または両面に適当量塗布し、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。この乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。負極合材スラリーの乾燥後、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、負極合材層の厚みや密度を調製することができる。
【0050】
上記正極および負極を積層した電極体を作製し、電解液と、過充電防止剤とともに適当な電池ケースに収容して密閉型リチウム二次電池が構築される。なお、該ケースは安全機構として、電流遮断機構(電池の過充電時に、内圧の上昇に応じて電流を遮断し得る機構)を備えている。なお、ここに開示される密閉型リチウム二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。
電池ケースとしては、従来のリチウム二次電池に用いられる材料や形状を用いることができる。材質としては、例えばアルミニウム、スチール等の比較的軽量な金属材や、PPS、ポリイミド樹脂等の樹脂材料が挙げられる。また、形状(容器の外形)としては特に限定されず、例えば、円筒型、角型、直方体型、コイン型、袋体型等の形状であり得る。
【0051】
ここで用いられる電解液には、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様の一種または二種以上のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に電解質(リチウム塩)を含有させた組成を有する。
該非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なかでもカーボネート類を主体とする非水溶媒が好ましく用いられる。例えば、非水溶媒として一種または二種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水電解液を好ましく用いられる。また、かかる液状電解液にポリマーが添加された固体状(ゲル状)の電解液であってもよい。
該電解質としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiCSO、LiC(SOCF、LiClO等が例示される。なかでもLiPFが好ましく用いられる。電解質の濃度は特に制限されないが、電解質の濃度が低すぎると電解液に含まれるリチウムイオンの量が不足し、イオン伝導性が低下する傾向がある。また支持電解質の濃度が高すぎると非水電解液の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下する傾向がある。このため、電解質を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(好ましくは、凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解液が好ましく用いられる。
【0052】
電解液に含有させる過充電防止剤には、ベンゼン環を有する芳香族化合物であって、酸化電位がリチウム二次電池の稼動電圧以上であって、過充電状態において分解され大量のガスを発生させるような物質であれば、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば4.2Vで満充電状態となる密閉型リチウム二次電池においては、酸化反応電位が4.6V以上のものが好適に用いられる。かかる過充電防止剤としては、例えば、シクロアルキルベンゼン化合物、アルキルベンゼン化合物、アルキルビフェニル化合物、有機リン化合物、フッ素原子置換芳香族化合物、カーボネート化合物、環状カルバメート化合物、脂環式炭化水素等が挙げられる。より具体的には、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、trans−ブチルシクロヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミノベンゼン、ターフェニル、2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4,4’−ジフルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン、tris−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、フェニルフルオライド、4−フルオロフェニルアセテート、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、ビスターシャリーブチルフェニルカーボネート、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等が挙げられる。特に、酸化電位の低いビフェニル(BP)やシクロヘキシルベンゼン(CHB)等の芳香族化合物が好ましく用いられる。
ここで開示される技術では、過充電防止剤の反応効率が高いため、添加する過充電防止剤の量を従来に比べ低減し得る。よって、該電池の電池性能を向上(例えば、IV抵抗の低減やサイクル特性の向上)させることができる。使用する電解液100質量%に対する過充電防止剤の使用量は、例えば凡そ0.01質量%以上(好ましくは0.1質量%、より好ましくは1質量%以上)であって、10質量%以下(好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下)の範囲が好適例として挙げられる。
【0053】
ここで用いられるセパレータとしては、従来からリチウム二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。特に限定されるものではないが、セパレータとして用いられる好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.001μm〜30μm程度であり、厚みが5μm〜100μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度のものが挙げられる。該多孔質シートの気効率(空隙率)は、例えば凡そ20体積%〜90体積%(好ましくは30体積%〜80体積%)程度であり得る。なお、固体状の電解液を用いたリチウム二次電池(リチウムポリマー電池)では、上記電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。
【0054】
ここで用いられる電流遮断機構としては、内圧の上昇に応じて(即ち、内圧の上昇を作動のトリガーとして)電流を遮断し得るものであれば特に限定されず、この種の電池に設けられる電流遮断機構として従来知られているいずれかのものと同様の機構を適宜採用することができる。例えば、後述する図1に示すような構成が好ましく用いられる。かかる構成では、電池ケースの内圧が上昇した際、電極端子から電極体に至る導電経路を構成する部材が変形し、他方から離隔することにより導電経路を切断するように構成されている。
【0055】
特に限定することを意図したものではないが、ここで開示される密閉型リチウム二次電池の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と、非水電解液と、過充電防止剤とを扁平な箱型(直方体形状)の容器に収容した形態の密閉型リチウム二次電池を例とし、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
図1は、密閉型リチウム二次電池(単電池)100を示している。密閉型リチウム二次電池100は、捲回電極体80と電池ケース50とを備えている。また、図2は捲回電極体80を示す図である。
【0056】
図1に模式的に示すように、本実施形態に係る密閉型リチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40Aおよび40Bを介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液と過充電防止剤とともに、扁平な箱型(直方体形状)の電池ケース50に収容された構成を有する。
【0057】
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50の上面(即ち、蓋体54)には、正極端子70および負極端子72が設けられている。上記正極端子70は正極10の捲回方向の端部に付設された正極集電板74と電気的に接続されている。また、負極端子72は負極20の捲回方向の端部に付設された負極集電板76と電気的に接続されている。
【0058】
電池ケース50の内部には、電池ケースの内圧上昇により作動する電流遮断機構30が設けられている。電流遮断機構30は、電池ケース50の内圧が上昇した場合に少なくとも一方の電極端子から電極体80に至る導電経路(例えば、充電経路)を切断するように構成されていればよく、特定の形状に限定されない。この実施形態では、電流遮断機構30は、蓋体54に固定した正極端子70と電極体80との間に設けられ、電池ケース50の内圧が上昇した場合に正極端子70から電極体80に至る導電経路を切断するように構成されている。
【0059】
上記電流遮断機構30は、例えば第一部材32と第二部材34とを含み得る。そして、電池ケース50の内圧が上昇した場合に第一部材32および第二部材34の少なくとも一方が変形して他方から離隔することにより上記導電経路を切断するように構成されている。この実施形態では、第一部材32は変形金属板であり、第二部材34は上記変形金属板32に接合された接続金属板である。変形金属板(第一部材)32は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有し、その周縁部分が集電リード端子35を介して正極端子70の下面と接続されている。また、変形金属板32の湾曲部分33の先端が接続金属板34の上面と接合されている。接続金属板34の下面(裏面)には正極集電板74が接合され、かかる正極集電板74が電極体80の正極10に接続されている。このようにして、正極端子70から電極体80に至る導電経路が形成されている。
【0060】
また、電流遮断機構30は、プラスチック等により形成された絶縁ケース38を備えている。絶縁ケース38は、変形金属板32を囲むように設けられ、変形金属板32の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された湾曲部分33の上面には、電池ケース50の内圧が作用しない。また、絶縁ケース38は、変形金属板32の湾曲部分33を嵌入する開口部を有しており、該開口部から湾曲部分33の下面を電池ケース50の内部に露出している。この電池ケース50の内部に露出した湾曲部分33の下面には、電池ケース50の内圧が作用する。かかる構成の電流遮断機構30において、電池ケース50の内圧が高まると、該内圧が変形金属板32の湾曲部分33の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分33が上方へ押し上げられる。この湾曲部分33の上方への押し上げは、電池ケース50の内圧が上昇するに従い増大する。そして、電池ケース50の内圧が設定圧力を超えると、湾曲部分33が上下反転し、上方へ湾曲するように変形する。かかる湾曲部分33の変形によって、変形金属板32と接続金属板34との接合点36が切断される。このことにより、正極端子70から電極体80に至る導電経路が切断され、過充電電流が遮断されるようになっている。
【0061】
なお、電流遮断機構30は正極端子70側に限らず、負極端子72側に設けてもよい。また、電流遮断機構30は、上述した変形金属板32の変形を伴う機械的な切断に限定されない。例えば、電池ケース50の内圧をセンサで検知し、該センサで検知した内圧が設定圧力を超えると充電電流を遮断するような外部回路を電流遮断機構として設けることもできる。
【0062】
図2は、捲回電極体80を組み立てる前段階における長尺状のシート構造(電極シート)を模式的に示す図である。長尺状の正極集電体12の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って正極合剤層14が形成された正極シート10と、長尺状の負極集電体22の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って負極合剤層24が形成された負極シート20とを、二枚の長尺状セパレータ40Aおよび40Bとともに重ね合わせて長尺方向に捲回し、捲回電極体を作製する。かかる捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体80が得られる。
正極シート10は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極合材層14が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体12が露出するよう形成されている。同様に、捲回される負極シート20は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極合材層24が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体22が露出するように形成されている。そして、正極集電体12の該露出端部に正極集電板74(図1)が、負極集電体22の該露出端部には負極集電板76(図1)がそれぞれ付設されており、上記正極端子70および上記負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0063】
ここで開示される密閉型リチウム二次電池は、各種用途に利用可能であるが、かかる密閉型リチウム二次電池は、高容量、高出力の電池が大電流充電時に過充電となった場合に有効であるため、例えば図3に示すように、自動車等の車両1に搭載されるモーター用の動力源(駆動用電源)としてここで開示される密閉型リチウム二次電池100が好適に使用され得る。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)が挙げられる。また、かかる密閉型リチウム二次電池100は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
【0064】
以下、具体的な実施例として、ここで開示される手法(即ち、正極に添加する導電材の種類)によって電池ケース内のガス発生および電流遮断機構の作動に相違があるか否かを評価した。なお、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0065】
ここで開示される実施例において、導電材として使用した黒鉛(黒鉛1〜4)の物性値を下表1に示す。なお、各物性値は、すでに上述した手法(例えば、測定装置や条件等)によって測定・解析を行った。
【0066】
【表1】

【0067】
<例1>
[密閉型リチウム二次電池の構築]
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、黒鉛1と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率が凡そ91:4:2:3となるよう、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製、型式「PVM−15」)に投入し、固形分濃度(NV)が凡そ50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、正極合材層形成用のスラリー状組成物(正極合材スラリー)を調製した。この正極合材スラリーを、厚み凡そ15μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、乾燥することで正極合材層を形成した。得られた正極をロールプレスし、電極密度が凡そ2.6g/cmのシート状の正極(正極シート(例1))を作製した。
【0068】
上記と同様に、負極活物質としての天然黒鉛(球形状の粉末)とスチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比率が凡そ98:1:1であり、NVが凡そ45質量%となるようにイオン交換水で粘度を調製しながら混練し、負極合材層形成用のスラリー状組成物(負極合材スラリー)を調製した。この負極合材スラリーを、厚み凡そ10μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、乾燥することで負極合材層を形成した。得られた負極をロールプレスし、電極密度が凡そ1.4g/cmのシート状の負極(負極シート)を作製した。
【0069】
次に、上記で作製した正極シート(例1)と負極シートとを、2枚のセパレータ(ここでは、PE層の両面にPP層が積層された三層構造のものを用いた。)を介して重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形した。そして、該捲回電極体の正極集電体の端部に正極端子を、負極集電体の端部に負極端子を溶接によりそれぞれ接合した。かかる電極体を非水電解液(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1.1mol/Lの濃度で溶解し、さらに過充電防止剤としてのシクロヘキシルベンゼン(CHB)を2質量%の濃度で含有させた電解液を用いた。)とともに電池ケースに収容し、該電池ケースに内圧を検知するセンサ(内圧センサ)および電流遮断機構(CID)を設置した。かかる電池ケースの開口部に蓋体を装着し、溶接して接合することにより密閉型リチウム二次電池を構築した。
【0070】
上記構築した電池に対して、25℃の温度下において、適当なコンディショニング処理および、高温エージング処理を行った。具体的には、0.3Cの充電レートで4.2Vまで定電流で充電する(CC充電)操作と、0.3Cの放電レートで3.0Vまで定電流で放電する(CC放電)操作を2回繰り返す初期充放電処理を行った後、電圧をSOCが100%になるよう調整し、60℃で24時間保持(放置)した。
なお、「SOC」とは、充電深度(State of Charge)を意味し、可逆的に充放電可能な稼動電圧の範囲において、その上限となる電圧が得られる充電状態(即ち、満充電状態)を100%とし、下限となる電圧が得られる充電状態(即ち、充電されていない状態)を0%としたときの充電状態を示す。
【0071】
[サイクル特性試験]
上記構築した電池に対して、60℃の温度下において、1000サイクルのサイクル特性試験(耐久性試験)を行った。本例では、2CのレートでSOCが100%になるまで定電流で充電する(CC充電)操作と、2CのレートでSOCが0%になるまで定電流で放電する(CC放電)操作を1000回繰り返す充放電処理により評価を行った。サイクル特性の容量維持率(%)は、1サイクル目の放電容量(A)に対する、1000サイクル目の放電容量(B)の割合(B/A×100(%))として算出した。得られた測定結果を表2の該当箇所に示す。
【0072】
[過充電試験]
そして、上記高温エージング処理後の電池を25℃の温度下に戻し、かかる電池に対し、過充電試験(即ち、電池の充電が完了した後も強制的に充電電流を流し続ける試験)を行った。本例では、1Cの充電レートでSOCが160%まで定電流充電を行い、電流遮断機構(以下)が正常に作動するか否かを確認した。得られた測定結果を表2の該当箇所に示す。なお、下表1中の「CID作動」の欄は、過充電試験中の各電池の外観を観察し、電池の状態変化(具体的には、急速な温度上昇を伴う電池の発熱やケースの変形等)がなく正常に電流遮断機構が作動した場合に、電流遮断機構が十分迅速に作動したものと判断し、「○」と評価した。
【0073】
また、上記CIDを備えた電池とは別に、過充電時におけるガス発生量を定量するためのラミネートシート型リチウム二次電池を構築した。かかる方法としては、まず上記作製した正極シート(例1)と負極シートとを、それぞれ凡そ45(mm)×45(mm)の寸法に切断したものを、セパレータ(ここでは、PE層の両面にPP層が積層された三層構造のものを用いた。)を介して対面に配置し、電極体を作製した。次に、この電極体を非水電解液(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1.1mol/Lの濃度で溶解し、さらにシクロヘキシルベンゼン(CHB)を凡そ2質量%の濃度で含有させた電解液を用いた。)とともにラミネートシートに収容して、ラミネートシート型リチウム二次電池を構築した。そして、上記構築した電池に対して、25℃の温度下において、適当なコンディショニング処理を行った。
【0074】
[ガス発生量の測定]
上記コンディショニング処理後の各電池について、アルキメデス法にてセルの体積を測定した。その後、上記電池を過充電状態(本例では、SOCが160%の状態)まで1Cのレートで充電し、再びアルキメデス法にてセルの体積を測定した。過充電後のセルの体積(A(cm))から、コンディショニング処理後のセルの体積(B(cm))を差し引いて、過充電時おけるガス発生量(A−B(cm))を算出した。この結果を、表2の該当箇所に示す。なお、アルキメデス法とは、測定対象物(本例では、ラミネートシート型のリチウム二次電池)を、媒液(例えば、蒸留水やアルコール等)に浸漬し、測定対象物が受ける浮力を測定することにより、該測定対象物の体積を求める方法である。
【0075】
<例2〜4>
ここで開示される手法において、導電材として好適な黒鉛を検討するため、物性値の異なる各種黒鉛を用いて比較を行った。例2〜4では、上記黒鉛1に変えて、それぞれ表1に示す黒鉛2〜4を用いたこと以外は例1と同様に、正極シート(例2〜4)を作製し、これを用いて例1と同様に2種類の密閉型リチウム二次電池を構築し、各種評価を実施した。結果を表2の該当箇所に示す。
【0076】
<例5>
例5では、上記黒鉛1を添加しなかったこと以外は例1と同様に、正極シート(例5)を作製し、これを用いて例1と同様に2種類の密閉型リチウム二次電池を構築し、各種評価を実施した。結果を表2の該当箇所に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2に示されるように、黒鉛を添加しなかった例5、および黒鉛4を添加した例4では、過充電時におけるガス発生量が少なく、電流遮断機構が作動する前に電池の発熱や外観上の不具合(電池膨れ等)が確認された。一方、例1〜3では、いずれも電池ケースに備えられた電流遮断機構が正常に作動した。この理由としては、表1に示したような物性値を有する黒鉛を添加したことで、過充電時における過充電防止剤(ここでは、CHB)の反応が促進され、ガス発生量が増加したことが考えられる。また、黒鉛を添加しなかった例5に比べ、例1〜3ではサイクル特性が凡そ20%向上した。よって、例えば黒鉛1〜3のような物性値(例えば、正極合材層層の空隙を埋めるのに適当な粒径等)を有する黒鉛を添加することで、正極合材層内の導電性を良好に保持し得ることが示された。本結果はここで開示される密閉型リチウム二次電池の技術的意義を裏付けるものである。
【0079】
また上記結果より、ここで開示される手法において、導電材として好適と考えられる黒鉛2を用い、添加する黒鉛の量と、発生するガス量の関係について更に検討を行った。
<例6>
例6では、正極活物質粉末としてのLiCoO粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)および黒鉛2と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率が凡そ89:4:4:3となるよう混合したこと以外は例1と同様に、正極シート(例6)を作製し、これを用いて例1と同様にラミネートシート型リチウム二次電池を構築し、過充電時におけるガスの発生量を評価した。結果を表3および図4の該当箇所に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3および図4に示されるように、正極合材層内の黒鉛含有量を増加させると、ほぼ直線的に発生するガスの量が増大した。よって、かかる密閉型リチウム二次電池においては、過充電防止剤の添加量を変えなくとも、かかる黒鉛の添加量を増減することで電流遮断装置を確実に作動させるために要するガス量を得ることができる。
【0082】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 自動車(車両)
10 正極シート(正極)
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート(負極)
22 負極集電体
24 負極合材層
30 電流遮断機構
32 変形金属板(第一部材)
34 接続金属板(第二部材)
38 絶縁ケース
40A、40B セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極集電板
76 負極集電板
80 捲回電極体
100 密閉型リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極を有する電極体と、電解質と、所定の電池電圧を超えた際にガスを発生させる芳香族化合物からなる添加剤とが電池ケース内に収容され、かつ該電池ケースの内圧が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられた密閉型リチウム二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、該集電体上に形成された正極合材層であって正極活物質と導電材としての黒鉛とを含む正極合材層を備えており、
ここで前記黒鉛は、励起波長514.5nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度(I)とGピークの強度(I)との比の値(I/I)が0.2以上0.7以下であることを特徴とする、密閉型リチウム二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛は、X線回折により求められる格子面間隔d(002)が0.337nm以上0.339nm以下である、請求項1に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛は、粒度分布測定(レーザー回折・光散乱法)により測定される累積50%粒径(D50)が10μm以下である、請求項1または2に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項4】
前記黒鉛は、タップ密度が0.01g/cm以上0.3g/cm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項5】
前記黒鉛のD50値(R)と、前記正極活物質の粒度分布測定(レーザー回折・光散乱法)により測定したD50値(R)との比(R/R)が、0.1以上2.0以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項6】
前記黒鉛は、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子の形状が鱗片状である、請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項7】
前記正極合材層中に含まれる前記黒鉛の量は、前記正極活物質100質量%に対し、0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項8】
前記導電材として、前記黒鉛に加え、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックのうち少なくとも1種類を含んでいる、請求項1から7のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項9】
前記添加剤として、少なくともシクロヘキシルベンゼンを含んでいる、請求項1から8のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項10】
前記添加剤の添加量が、前記電解質100質量%に対し0.1質量%以上5質量%以下である、請求項1から9のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池を駆動用電源として備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−101825(P2013−101825A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244814(P2011−244814)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】