説明

密閉型圧縮機

【課題】通路カバーと隔壁シールフィルムを有しており、電動機インシュレータと前記通路カバーの隙間からのオイルを含んだ冷媒の短絡を防ぎ、オイル吐出量の増加が発生する現象を抑えることの出来る密閉型圧縮機を提供すること。
【解決手段】熱収縮性のある隔壁シールフィルム52を熱収縮させることで、インシュレータ3cおよび連通路カバー51と隔壁シールフィルム52を密着させて、オイルを含んだ冷媒ガスの短絡を防ぐことで、気液分離効果が向上し、オイル吐出が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機、冷凍機等に使用される密閉型圧縮機のオイル吐出量低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の密閉型圧縮機の冷媒ガスの流れとオイル分離の方式について(たとえば、特許文献1)について図面を参照にしながら説明する。
【0003】
図2は特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機の縦断面図を示すものである。密閉容器1内に圧縮機構2、この圧縮機構2の下方に設けた圧縮機構2を駆動するための電動機3と、この電動機3の回転力を圧縮機構2に伝達するためのクランク軸4とを備え、密閉容器1内の下部に設けたオイル溜め20のオイル6をクランク軸4を通じてクランク軸4の軸受部66や圧縮機構2のしゅう動部に供給する給油機構7とを備えている。
【0004】
これによって、オイル6は給油機構7によって重力に逆らって軸受部66や圧縮機構2のしゅう動部に強制給油されて、円滑な動作を確保しながら、圧縮機構2で圧縮した冷媒ガスを密閉容器1内の電動機3の部分を通して電動機3を冷却した後、密閉容器1階に吐出するようにしており、軸受部66や圧縮機構2のしゅう動部に供給した後のオイルが供給圧や重力によって下方に移動しオイル溜め20に自然回収されるようにすることが出来る。
【0005】
しかし、冷媒ガスは常時オイルと接触してこれを随伴させ、密閉容器から冷凍サイクルに供給される際にオイルを持ち込んでしまい、冷凍サイクル中での配管圧力損失や凝縮器や蒸発器などの熱交換器での熱交換効率の低下をもたらす問題がある。
【0006】
この問題を解消するのに従来、圧縮機構から密閉容器内に吐出した冷媒ガスが電動機を通ってこの電動機を冷却しながら密閉容器外に吐出されるまでの冷媒ガスの通路を、オイルの衝突分離や遠心分離が繰り返し生じるように設計して、密閉容器外に吐出される冷媒ガスにオイルが随伴しないように工夫したものがある。
【0007】
また、圧縮機構2から吐出される冷媒ガスが、圧縮機構上部の容器内吐出室31、この容器内吐出室31から圧縮機構2の下部に連通させる圧縮機構連通路32、この圧縮機構連通路32から回転子上部室33まで続くように通路カバーで囲われた連通路34、回転子上部室33と回転子下部室35を順次経て電動機の下に至り、さらに固定子3aの下部と上部とを連通させるように固定子3aまたは固定子3aと密閉容器1との間に設けられた固定子通路37を通って連通路34外まわりの固定子上部室38に抜けた後、密閉容器1の固定子上部室38の位置以上の部分に設けられた外部吐出孔39を通って密閉容器1外に吐出されるようにする容器内冷媒ガス通路経路を設けるなどしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−280252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術においては圧縮機構部からの連絡路、電動機の回転子および固定子を用いて
ガスを効果的に拘束してガスとオイルの気液分離を行う設計思想であった。
【0010】
しかしながら、電動機周りの寸法によってはガスの拘束が必ずしも十分に行なえないことがあった。例えば、固定子上部のコイルエンドと冷媒ガスを回転子上部へ誘導するための連通路カバーの間隙が組立てバラツキ等で大きくなったりすると、その間隙からの冷媒ガスの短絡によって、回転子上部の冷媒ガスの拘束および誘導能力が低下することによって、気液分離効果が低下してしまう問題があった。
【0011】
また、固定子上部にインシュレータが装着される電動機においても、インシュレータと連通路カバーの間隙が組立てバラツキ等で大きくなったりすると、同様にその間隙からの冷媒ガスの短絡によって、回転子上部の冷媒ガスの拘束および誘導能力が低下することによって、気液分離効果が低下してしまう問題があった。
【0012】
このため、連通路カバーを延長するために隔壁シールフィルムを追加し連通路カバー先端の延長を行ったり、インシュレータとの径方向間隙を狭めることで、この問題を解決してきた。
【0013】
本発明はこのような従来の効果を向上させるものであり、冷媒の短絡を防ぎ、長期運転や熱による影響を抑えることで、気液分離効果を向上させ、圧縮機外へのオイル吐出量を抑制できる密閉型圧縮機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記解決法を向上させるために本発明は、熱収縮性のある隔壁シールフィルムをインシュレータに追加し、連通路カバーと前記隔壁シールフィルムを熱収縮により接着させる。
【0015】
上記構成にすることにより、隔壁シールフィルムと電動機インシュレータの間に発生する隙間無くし、前記隔壁シールフィルムが連通路カバーと接着することで、前記隔壁シールフィルムと前記連通路カバーの間隙を無くし、オイルを含んだ冷媒ガスの短絡を防ぐことで、気液分離効果が向上することで、オイル吐出が減少する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の密閉型圧縮機は、隔壁シールフィルムと電動機インシュレータの間隙を無くすことで、オイルミストを多く含んだ冷媒ガスの短絡を抑制して気液分離効果が向上することで、圧縮機外へのオイル吐出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1を示す密閉型圧縮機の縦断面図
【図2】従来の密閉型圧縮機の縦断面図
【図3】通路カバーと隔壁シールフィルムの接触状況を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の発明は、密閉容器内に圧縮機構と、この圧縮機構の下方に設けた圧縮機構を駆動するためのインシュレータ付電動機と、この電動機の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランク軸と、密閉容器内の下部に設けたオイル溜めのオイルを、クランク軸を通じてクランク軸の軸受部や圧縮機構部しゅう動部に供給する給油機構とを備え、圧縮機構から吐出される冷媒ガスが、圧縮機構上部の容器内吐出室、この容器内吐出室と圧縮機構下部を連通させる圧縮機構連通路、この圧縮機構連通路から回転子上部室まで続く連通路カバーで囲われた連通路、電動機の上部と下部とを連通する通路、回転子下部室を順次経て電動機下に至り、さらに固定子の下部と上部とを連通させるように固定子または固定子と密閉容器との間に設けられた固定子通路を通って前記連通路外回りの固定子上部室、圧縮機
構または圧縮機構と密閉容器との間に設けられた圧縮機構上昇通路を経て、密閉容器の固定子上部室の位置以上の部分に設けられた外部吐出孔を通って密閉容器外に吐出されるようにする容器内冷媒ガス通路を設けた密閉型圧縮機において、電動機インシュレータに隔壁シールフィルムを設け、前記隔壁シールフィルムが熱収縮性を有しており、前記隔壁シールフィルムが連通路カバーと接着する構成の密閉型圧縮機である。
【0019】
この様な構成にすることによって隔壁シールフィルムとインシュレータの間からオイルミストを多く含んだ冷媒ガスの短絡を抑制して、さらに隔壁シールフィルムが連通路カバーに接着することで、隔壁シールフィルムと連通路カバーの間隙が無くなり、オイルを含んだ冷媒ガスの短絡を防ぐことで、圧縮機外へのオイルの持ち出しを抑制できる。
【0020】
第2の発明は、第1の発明の密閉型圧縮機において、圧縮されるガスが塩素を含まない代替冷媒(例えばHFC冷媒)の場合には、しゅう動部の表面に耐摩耗性の塩化鉄層を形成しないため、密閉容器内にオイルを確保しておく必要が特に高いが、本発明により密閉容器外へオイル吐出量を低減できるので、しゅう動部の信頼性を確保することができるものである。
【0021】
第3の発明は、第1の発明の密閉型圧縮機において、圧縮されるガスが二酸化炭素のような自然冷媒の場合、圧縮機から吐出されるガスは高圧にする必要があり、しゅう動部の負荷耐力も大きなものが必要となるため、密閉容器内にオイルを確保しておく必要が特に高いが、本発明により密閉容器外へのオイル吐出量を低減できるので、しゅう動部の信頼性を確保することができるものである。
【0022】
第4の発明は、通常圧縮機には、使用する冷媒や圧縮機構部2に用いられる材質によって様々な種類のオイルが使用されているが、当発明は、圧縮機で主に用いられているナフテン油、パラフィン油、アルキルベンゼン油などの天然物あるいは天然物由来のオイル、およびポリエーテル系油、ポリオールエステル系油などの合成オイル、または上記天然物あるいは天然物由来のオイルと合成オイルの混合オイルなどにも適用することを可能とするものである。
【0023】
第5の発明は、機械的特性を上げるために、上記オイルに種々の添加剤を加えることがあるが、当発明は、ベンゾトリアゾールなどの銅不活性化剤、硫黄系極圧添加剤、ハロゲン系極圧添加剤、りん系極圧添加剤、有機金属化合物系極圧添加剤、およびこれらの組み合わせからなる極圧添加剤などを有効量配合した圧縮機にも適用することを可能とするものである。
【0024】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図において、それぞれ同じ構成要素については同じ符号を用い説明を省略する。
【0025】
(実施例の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における密閉型圧縮機(スクロール式密閉圧縮機)の縦断面図である。
【0026】
図1において、密閉容器1内に圧縮機構2、この圧縮機構2の下方に設けた圧縮機構2を駆動するための電動機3と、この電動機3の回転力を圧縮機構2に伝達するためのクランク軸4とを備え、密閉容器1内の下部に設けたオイル溜め20のオイル6がクランク軸4を通じてクランク軸4の軸受部66や圧縮機構2の修道部に供給される給油機構7とを備えている。
【0027】
これによって、オイル6は給油機構7によって重力に逆らって軸受部66や圧縮機構2のしゅう動部に強制給油されて、円滑な動作を確保しながら、圧縮機構2で圧縮した冷媒ガスを密閉容器1内の電動機3の部分を通して電動機3を冷却した後、密閉容器1階に吐出するようにしており、軸受部66や圧縮機構2のしゅう動部に供給した後のオイルが供給圧や重力によって下方に移動しオイル溜め20に自然回収されるようにすることが出来る。
【0028】
しかしながら実際には、圧縮機構2から吐出される冷媒ガスには圧縮機構2内で接触したオイル6を随伴させていたり、主軸受部材11の下に滴下してくる供給後のオイル6を飛散させて随伴させたりしていて、従来これを十分に分離できず密閉容器1外に吐出する冷媒ガスとともにオイルも吐出されてしまう問題があり、それを防止するために以下のような構成をとっている。
【0029】
圧縮機構2から吐出される冷媒ガスが、圧縮機構2の上部の容器内吐出室31、この容器内吐出室31と圧縮機構2の下部を連通させる圧縮機構連通路32、この圧縮機構連通路32から回転子上部室33に続く連絡路34、回転子上部室33と回転子下部室35を連通させるように回転子3bに設けた回転子通路36、固定子3aと回転子3bとの電動機ギャップ80、回転子下部室35、を順次経て電動機3の下に至り、さらに固定子3aの下部と上部とを連通させるように固定子3aまたは固定子3aと密閉容器1との間に設けられた固定子通路37を通って前記連絡路34の外まわりの固定子上部室38に抜けた後、密閉容器1の固定子上部室38の位置以上の部分に設けられた外部吐出口39を通って密閉容器1外に吐出されるようにする容器内ガス通路Aを設けてある。
【0030】
このような容器内ガス通路の容器内吐出室31と、圧縮機構連通路32とは、圧縮機構2およびその軸受部66の外回りに位置して、圧縮機構2から吐出される冷媒ガスを一括して圧縮機構2の下部の連絡路34に吐出させる。続いて連絡路34は吐出されてきた冷媒ガスを回転子上部室33、固定子上部室38に導く。
【0031】
上記の様に誘導された冷媒ガスの一部は、回転子3bの回転による影響で緩く旋回する状態で回転子通路36内に進入させて下方に通りぬけ、オイル6を分離する分離板61に強く衝突して、随伴しているオイル6を効果的に分離し、またオイル6のミストを液滴化しかつ成長させて、分離板61と回転子3bの下端との間の空間の円周上の少なくとも一部が側方へ開口していることにより遠心分離作用が働き、オイル6の分離効果を高めている。
【0032】
また、残りの冷媒ガスは、冷媒ガスガイドカップ82外壁と通路カバー51内壁の狭い空間から電動機ギャップ80を経て回転子下部空間35に流れるものと、通路カバー51と固定子3aのインシュレータ内壁に取り付けられた隔壁シールフィルム52の間隙を経て固定子上部室38へ流れるものに分かれる。
【0033】
隔壁シールフィルム52の材質を熱収縮性のあるものに変更することで、隔壁シールフィルム52を通路カバー51に接着させることによってオイルミストを多く含んだ状態のままの冷媒ガスの短絡を防ぎ、オイル6が十分に分離されて電動機下部空間に導かれた冷媒ガスは、固定子通路37を通って軸受部66まわりにある連絡路34のさらに外まわりの固定子上部室38に達して、圧縮機構2に設けられた圧縮機構上昇通路43を経て、密閉容器1の固定子上部室38の位置以上の部分にある外部吐出口39から密閉容器1外に吐出でき、圧縮機外へのオイルの持ち出しを抑制できることによって冷凍サイクル中での配管圧力損失や凝縮器、蒸発器などの熱交換器での熱交換効率の低下を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
上記のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、隔壁シールフィルムに熱収縮性のある材質を用い、通路カバーと接着させることにより、シール性を向上させオイルミストを多く含んだ冷媒ガスの短絡を抑制して、圧縮機外へのオイル吐出量を抑制できる密閉型圧縮機を実現することができ、HFC系冷媒、HCFC系冷媒および自然冷媒CO2を用いたエアコンディショナー用圧縮機やヒートポンプ式給湯機用圧縮機などの用途に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 密閉容器
2 圧縮機構
3 電動機
3a 固定子
3b 回転子
3c インシュレータ
4 クランク軸
6 オイル
7 給油機構
20 オイル溜め
31 容器内吐出室
32 圧縮機構連通路
33 回転子上部室
34 連絡路
35 回転子下部室
36 回転子通路
37 固定子通路
38 固定子上部室
39 外部吐出口
42 圧縮機構上部室
43 圧縮機構上昇通路
51 通路カバー
52 隔壁シールフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に圧縮機構と、この圧縮機構の下方に設けた圧縮機構を駆動するための電動機と、この電動機の回転力を圧縮機構部に伝達するためのクランク軸と、密閉容器内の下部に設けたオイル溜めのオイルがクランク軸を通じてクランク軸の軸受部や圧縮機構部しゅう動部に供給される給油機構とを備え、圧縮機構から吐出される冷媒ガスが、圧縮機構上部の容器内吐出室、この容器内吐出室と圧縮機構下部を連通させる圧縮機構連通路、この圧縮機構連通路から回転子上部まで続く通路カバーで囲われた連通路、電動機の上部と下部とを連通する通路、回転子下部室を順次経て電動機下に至り、さらに固定子の下部と上部とを連通させるように固定子または固定子と密閉容器との間に設けられた固定子通路を通って前記連通路外回り固定子上部室、圧縮機構または圧縮機構と密閉容器との間に設けられた外部吐出孔を通って密閉容器外に吐出されるようにする容器内冷媒ガス通路を設けた密閉型圧縮機において、前記通路カバーで囲われた連通路と電動機の上部と下部とを連通する通路の間で冷媒が流路から逸脱しないように前記通路カバーと電動機インシュレータの間に隔壁シールフィルムを設けたもので、前記隔壁シールフィルムが熱収縮性を有する素材であり、前記隔壁シールフィルムを前記電動機インシュレータに取り付け、前記隔壁シールフィルムが熱収縮により前記通路カバーに接着する密閉型圧縮機。
【請求項2】
塩素を含まないHCFCやHFC等を冷媒とした請求項1記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
二酸化炭素やアンモニア、ヘリウム等の自然冷媒を冷媒とした請求項1記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
ナフテン油、パラフィン油、アルキルベンゼン油などの天然物あるいは天然物由来のオイル、およびポリエーテル系油、ポリオールエステル系油などの合成オイル、または上記天然物あるいは天然物由来のオイルと合成オイルの混合オイルを使用した請求項1記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
オイルに、ベンゾトリアゾールなどの銅不活性化剤、硫黄系極圧添加剤、ハロゲン系極圧添加剤、りん系極圧添加剤、有機金属化合物系極圧添加剤、およびこれらの組み合わせからなる極圧添加剤など、その他の公知の添加剤を有効量配合した請求項1記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−163221(P2011−163221A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27240(P2010−27240)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】