説明

密閉型清浄鶏舎

【課題】 近年、鶏卵やブロイラーの生産性の向上を図るべくウィンドレス鶏舎での密閉飼いが行われており、鶏舎内の冷却、粉塵の除去、鳥インフルエンザなどの疾病の予防が飼養及び社会の問題となっている。更に、ポジティブリストの施行により、従来以上に薬の使用が制約され、薬を使わないで疾病や虫、ねずみ等の害を防止する手段が求められている。
【解決手段】 ウインドレス鶏舎の空気取入口に湿式デシカント装置を備えて取り入れ外気の湿度調節、除菌、浮遊粉塵除去を行い、空調の経済性を高めるために鶏舎内又は一部が連通した密閉室内に加湿冷却装置を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
換気空気を洗浄する密閉型鶏舎
【背景技術】
【0002】
近年、鶏卵や鶏肉の採取を目的とする養鶏では、生産コストの低減を目指して大量生産工場並みの合理化、大規模化が進んでおり、1棟に5万羽以上の鶏が飼養されている鶏舎も多い。これらの鶏の飼養では、開放型からセミウインドレス、ウインドレスへと密閉化されつつある。
【0003】
しかし、鶏の体温は41.5℃と人間よりも高く、皮膚に汗腺が無く汗の蒸散による熱放出が無いため、室温が高くなると体温が上昇し、呼吸数が増加、食欲不振や産卵量の低下、更には死亡に至ることがある。
【0004】
このため、大量の空気をファンによって換気して室温の上昇を抑えている。例えば、標準的な鶏舎(5万羽、面積1000m)では空気を24台(500m/min)の大型ファンによって換気している。
【0005】
鶏舎等に用いられている換気法は、陰圧換気と陽圧換気に大別される。陰圧換気は、舎内の空気を圧力型換気扇によって舎外に排出し、舎内を陰圧にして吸気口から新鮮な空気を吸引する換気法である。陽圧換気は圧力型送風機を用い、空気を畜舎内に吹き込んで畜舎内を陽圧にして、舎外との圧力差によって舎内の空気を排気口から排出する換気法である。代表的な鶏舎と陽圧換気の形態を図6に示す。図6(a)は鶏舎の全景、(b)は鶏舎の前面、(c)は縦断面を示す。外気はフード(20)の下部から入り、前面(110)に設けられたファン(50)で鶏舎(100)内部に送入され、側面の排気口(41)、(42)から外部へ排出されている。鶏舎(100)では図6(b)、(c)に矢印で示される方向に流れると想定されている。陰圧換気は図6とは逆に鶏舎内の空気をファン(150)で吸引して換気する。
【0006】
近年、鳥インフルエンザが各地で発生し、感染した鶏の出た鶏舎或いは近郊の感染の可能性の高い鶏舎の鶏は全て焼却処分又は埋設処分されており、深刻な社会問題となっている。また、鳥インフルエンザ菌が変異すると人への感染の可能性があり、鶏はインフルエンザ菌の培養体となることから感染予防や早期発見が重要な問題とされている。
【0007】
鳥インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって発病するものであり、その感染経路は不明な点もあるが、主に鳥インフルエンザに感染した鳥の糞などを介して感染しており、飲料水やえさへの混入防止、鶏舎へ出入りする人、靴や車両に付着して鶏舎へ入るものと考えられている。
【0008】
このため、ウインドレス鶏舎が有効と考えられていたが、鳥インフルエンザはわずか300個の菌で感染するとされており、鳥インフルエンザ菌の付着した野鳥の糞やごみなどによっても感染する危険性が高く、ウインドレス鶏舎でも図6に示されているようなファン(150)で外気が送入されるものでは、鳥インフルエンザが発生する可能性がある。
【0009】
一般に、空調では湿度40−60%が快適ゾーンとされているが、ウイルスの生存や増殖は湿度50−70%で抑えられるとされており、湿度50%で10時間保持されると死滅するとの実験結果(GJ Harper:Airborne micro−organisms:survival tests with four viruses.J Hyg Camb 1961:59:479−86)が示されている。
【0010】
他方、院内感染防止、悪臭、埃などの除去には、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの水溶液(以下湿式デシカント溶液)を使った湿式デシカント空調が有効であることが実証されている。
【0011】
更に、鶏舎内では、鶏の糞尿や羽毛、えさなどの細かな粒子が浮遊しており、これらがウイルスを媒介するばかりでなく、鶏舎の換気によって鶏舎外へ飛散する問題があり、出口で水噴霧(技術の窓 No1176 細霧吸着方式の畜舎換気用徐塵・脱臭装置 H16.01.09)や生物(技術の窓No.1183 H16.2.10生物脱臭方式の畜舎換気用除じん・脱臭装置)を用いた防止策が開発されている。
【0012】
畜舎の徐塵・脱臭装置として、(独)農業・生物系特定産業技術研究機構生物系特定産業技術研究支援センターで細霧吸着方式(「畜舎換気用除じん・脱臭装置の開発」道宗直昭、原田泰弘、根津昌樹、福森功、古山隆司、名川稔、松下エコシステムズ(株))生物脱臭方式(「畜舎換気用除じん・脱臭装置の開発」道宗直昭、原田泰弘、根津昌樹、福森功、古山隆司、名川稔、松下エコシステムズ(株)特願2002−352309)の開発が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
鳥インフルエンザをはじめとする病原菌或いは病原菌が付着した糞尿や埃などの鶏舎への侵入を防止して、鶏の健全性を確保すること。
【0014】
鶏舎内の温度を適正に保つために行われている換気量の低減を図ると共に、室内温度および湿度の適正化も図る。
【0015】
鶏の糞尿、えさ、埃などの悪臭や飛散を抑制し、鶏舎内の環境改善、各種疾病の伝染防止、換気に伴う外部への放出を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
鶏舎の内部又は隣接して一部が接続されている部屋に設けられた湿式デシカントの水溶液と、鶏舎へ流入する外気が接触する構造を設ける。
【0017】
前記湿式デシカントの水溶液の噴霧を多段とする。
【0018】
鶏舎の内部又は隣接して一部が接続されている部屋に水の蒸発により、室内の温度が低下する冷却塔を設置する。
【0019】
鶏舎内の湿度が50−70%となるような湿度制御装置を設ける。
【0020】
前記の冷却塔に糞尿の悪臭、埃、えさなどの微粒子を補足する水噴霧、前記微粒子回収のフィルターなどの装置を設ける。
【0021】
湿式デシカント空調の設備コスト及びエネルギー消費の低減のために、気化冷却機と組み合わせて、鶏舎内の温度と湿度の調整を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
実施例1の構成を図1に示す。外気は吸入孔(210)から吸入され、処理機(200)内で水溶液噴霧と接触、除湿、浄化され、吐出孔(220)から換気口(110)へと送られる。(以下ではこの装置をデシカント浄化装置と呼ぶ。)鶏舎(100)に設けられた換気入口(110)と接続された送気孔(220)から送り込まれた清浄空気は、鶏舎内の鳥の呼吸に必要な酸素を鶏舎内に送入すると共に鶏の体温を適正に維持して、換気出口(120)から排出される。噴霧管(530)から噴霧された湿式デシカント溶液は、外気中の水分を吸着希釈されて液溜(230)から接続管(240)を通って液槽(300)、ポンプ(400)、再生機(500)へと送られる。再生機(500)内で加熱され、水溶液中の水分は吸気管(510)から吸入された空気の湿度が上昇して排気管(520)から排出される。デシカント浄化装置は、1つの鶏舎(100)に対して少なくとも1ユニットが設けられている。
【0023】
実施例2の構成を図2に示す。実施例2は、実施例1の鶏舎内に加湿冷却装置(600)と水を供給する水タンク(610)が設けられたものである。水タンク(610)の水は加湿冷却装置(600)で蒸散される。水タンク(610)内の水に殺菌、滅菌、浄化などの効果を有する薬剤の添加も可能である。加湿冷却装置(600)と水タンク(610)は1つの鶏舎(100)に対して少なくとも1ユニットが設けられている。
【0024】
実施例3の構成を図3に示す。実施例3は、実施例1又は実施例2の換気出口(120)の出口に水噴霧装置が設けられたものである。換気出口(120)と吸入孔(210)は接続され、換気出口(120)から出た鶏舎内から流出する微量の糞尿の悪臭や埃の混じった空気は、吸入孔(210)へと入り、処理機(200)内で水噴霧と接触、除臭、徐塵されて外部へと放出される。悪臭や埃の混じった水は、液溜(230)から接続管(240)を通って液槽(300)へと送られ、適正な処理後に放出される。
【0025】
実施例4の構成を図4に示す。実施例4は、処理機(200)、加湿冷却装置(600)が密閉室(700)内収められたもので、再生機(500)が密閉室外に設置されたものである。再生器(500)が密閉室(700)内に収められる場合、吸気管(510)と排気管(520)は大気に開放されている。吸入孔(210)から吸い込まれた外気は、処理機(200)で吸湿或いは加湿されて送気孔(220)から密閉室(700)へと吐出され、加湿冷却装置(600)で加湿冷却された後に鶏舎(100)と接続された換気入口(110)から鶏舎へと送り込まれる。
【発明の効果】
【0026】
鶏舎(100)の換気には、鶏の体温上昇抑制、呼吸用の酸素補給の二つの役割がある。鶏の呼吸量は正常な状態では、1リットル/羽・分で、5万羽では50m/分(50000リットル/分)の換気量が呼吸に必要である。一方、鶏舎内の温度を適正に保ち、鶏の体温上昇を抑制するためには、夏場は500m3/分のファンが24台程度使用され、全負荷で運転されており、12000m/分が必要とされている。
【0027】
実施例1は、外気が吸入孔(210)から吸入され、処理機(200)内で吸湿されて吐出孔(220)から換気入口(110)を通って鶏舎へ挿入される。処理機(200)内で外気中の湿度と塵芥が除かれ、病原菌等は約95%滅菌される。このため、鳥インフルエンザなどの疾病が防止され、夏場の過大な湿度や塵芥による疾病の予防が可能である。更に、鶏の体温は41.5℃と人間の体温よりも高く、汗腺が無いために呼吸により体温の上昇が抑えられるので、鶏舎(100)内の温度が高くなるとあえぎや各種の疾病に罹りやすくなる。このデシカント浄化装置は、外気から湿度や塵芥を取り除き適切な温度に調節、滅菌して鶏舎(100)に挿入されるので鶏の体温調節、疾病の予防が確実にできる。実施例1では、呼吸用の空気50m/分、鶏舎内冷却用の空気1200m/分、併せて1250m/分が必要である。この空気量をデシカント浄化装置で処理する場合、初期設備コストや電力費が大きくなるという欠点を有している。
【0028】
実施例2は、実施例1の初期設備コストと電力費の低下を図るとともに鶏舎(100)内の浮遊粉塵を加湿冷却装置(600)で除去され、加湿冷却装置(600)の下部にもうけられた水受部(601)の一部の水は浄化機(620)に循環して水に混じった粉塵等が除去される。鳥の呼吸に必要な空気量(5万羽の場合は50m/分)がデシカント浄化装置で浄化・乾燥され、換気入口(110)から鶏舎(100)へ入り、加湿冷却装置(500)によって空気が冷却されるとともに鶏舎(100)内に空気の循環が起こされる。この循環によって鶏舎(100)内に空気の循環が生じて鶏の呼吸や体温によって昇温される鶏舎(100)内の空気が冷却される。
【0029】
換気入口(110)における湿度は、デシカント溶液の濃度と温度、空気量とセ氏間と溶液量で決まるので、これらの量が制御装置で制御され、鶏舎(100)内の温度と湿度が調整され、鶏にとって快適な温度と湿度が提供される。
【0030】
実施例3では、鶏舎(100)の排気出口(120)の後に水又はデシカント溶液を噴霧して鶏舎(100)から排出される微量の臭気や粉塵、鶏糞から蒸発したアンモニア等が除去される。
【0031】
実施例4は、密閉室(700)内に処理機(200)と加湿冷却装置(600)が収められ、密閉室(700)上部に再生機(500)が設けられたもので、処理機(200)に入る外気は、浄化・乾燥されて吐出孔(220)から密閉室(700)内へと放出され、加湿冷却装置(600)で冷却される。鶏舎(100)との取り合い部が換気入口(110)のみであり、既存の鶏舎(100)への取り付けが容易となる。
【0032】
実施例5は、畜舎等の内部や外気の温度、湿度、炭酸ガス量、粉塵量をセンサーで検知して、前記の湿式デシカント浄化装置、加湿冷却装置、浄化機の機能、即ち必要な外気導入量、湿式デシカント浄化装置の運転台数、デシカント溶液の循環量と温度、加湿冷却装置の運転台数、循環空気量、循環水量、浄化機の循環水量を制御装置で制御するもので、その制御チャートを図5に示す。
【0033】
本考案の説明では、畜舎等の課題として最も重要な夏場の畜舎等の外気導入、温度と湿度の調節を行う機器及び制御について説明したが、これらは前記の制御によって四季を通じて最適な畜舎等の環境を維持できることは明らかである。
【0034】
また、ウィンドレス鶏舎を対象として説明したが、同様のウインドレス豚舎等の畜舎についても同様の機能と効果を有することも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1のデシカント浄化装置の構成図
【図2】 実施例2のデシカント浄化装置と加湿冷却装置の構成図
【図3】 実施例3の排気浄化装置
【図4】 実施例4の密閉室型のデシカント浄化装置と加湿冷却装置の構成図
【図5】 デシカント浄化装置、加湿冷却装置及び浄化機の制御チャート
【図6】 従来の鶏舎及び鶏舎換気の構成図
【符号の説明】
【0035】
(10) 鶏舎前面
(20) フード
(30) 鶏舎背面
(41) 排気口
(42) 排気口
(50) ファン
(100) 鶏舎
(101) 鶏舎屋根
(110) 換気入口
(120) 換気出口
(200) 処理機
(210) 吸気孔
(220) 吐出孔
(230) 液溜
(251) 淡液低圧管
(252) 淡液高圧管
(300) 液槽
(400) ポンプ
(500) 再生機
(510) 吸気管
(520) 排気管
(530) 噴霧管
(531) 濃液低圧管
(532) 濃液高圧管
(600) 加湿冷却装置
(610) 水タンク
(620) 浄化機
(700) 密閉室
(710) 淡液ポンプ
(720) 濃液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気を取り入れて換気する密閉型のウィンドレスの畜舎等において、畜舎や温室の外気取り入れ部に少なくとも一つの湿式デシカント浄化装置を備え、少なくとも畜舎等の内部に飼養されている生物の呼吸酸素量を含有する外気を畜舎や温室等に導入することを特徴とする畜舎等の湿式デシカント浄化装置。
【請求項2】
請求項1において、畜舎等の内部又は畜舎との間に十分な開口部を有する少なくとも一つの密閉室の内部に少なくとも一つの加湿冷却装置を備えたことを特徴とする畜舎等の湿式デシカント浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、畜舎等の排気口以後に微細な水滴を噴霧する少なくとも一つのシャワー室を設けたことを特徴とする畜舎等の湿式デシカント浄化装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、畜舎等との間に十分な開口部を有する密閉室に湿式デシカント浄化装置と加湿冷却装置が納められていることを特徴とする畜舎等の湿式デシカント浄化装置。
【請求項5】
請求項2又は4において、加湿冷却装置に設けられた水受部の水を浄化する少なくとも一つの浄化機を備えたことを特徴とする畜舎等の湿式デシカント浄化装置。
【請求項6】
請求項2、4、5において、畜舎等の内部の少なくとも一つの温度、湿度および炭酸ガス濃度のセンサーからの信号に基づいて制御装置によって導入空気量と循環空気量が適切に調節されること特徴とする畜舎等の湿式デシカント浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−61632(P2008−61632A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271220(P2006−271220)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(598054692)
【出願人】(303007061)
【Fターム(参考)】