説明

密閉容器用キャップ

【課題】 スクリュー方式のキャップを用いて開栓トルクを長期に亘り一定以上の高い値に維持して防湿性能を一定以上に維持し得る密閉容器用キャップを提供する。
【解決手段】 高密度ポリエチレン製の容器本体2の口部21のネジ部211にねじ込んで閉栓する、スクリュー式キャップ3aの周壁31aのネジ部311を含む内周側筒状部位33を、高密度ポリエチレンに極少量の滑剤を配合した滑剤配合樹脂材料で形成し、これ以外の部位32,34を容器本体と同じ高密度ポリエチレンで、二層成形により形成する。滑剤としてエルカ酸アミドを0.01〜0.50重量%配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製容器本体の口部に対しスクリュー方式(ネジキャップ方式又はネジ締結式)の合成樹脂製キャップを組み合わせて密閉容器を構成する場合におけるキャップに関し、特に医薬品容器のキャップとして好適に適用されるものであって、閉栓後の時間経過において長期に亘り開栓トルクを一定以上の高い水準に維持して水蒸気透過度を僅少に維持し得る密閉容器用キャップに係る。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉容器を形成するためのスクリュー方式のキャップとして、食品容器や飲料容器を対象とするキャップが知られている。これらにおいては、容器本体の口部外周面のネジ部に対しキャップ内周面のネジ部を螺合させて締結することにより、容器本体の口部上面に対しキャップの天壁の内面、又は、その内面に重ね合わせたキャップライナーの内面を押し付けて密着させ、これにより、容器本体の口部のシールを行って容器内部を密閉(密封)するようにされている。そして、このような食品容器や飲料容器を対象とするキャップとしては、密閉性を備えつつも、開栓トルクを低く抑えて開封し易くするために、所定のプロピレン系重合体を主として、少量の所定の高密度ポリエチレンと、少量の滑剤とをそれぞれ配合したものが知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1のものでは、特定のメルトフローレートのプロピレン系重合体を主樹脂成分とし、これに補助樹脂成分として特定のメルトフローレートの高密度ポリエチレンを少量配合(主樹脂成分100重量部に対し2〜10重量部)したものに対し、0.3〜10重量%の滑剤を配合させることにより、プロピレン系重合体の有する耐熱性による加熱殺菌可能や耐環境応力亀裂性による密封性を得つつ、開栓トルクを低い値に抑制できるようにすることを企図している。
【0003】
又、キャップライナーをキャップ内側に組み込んでキャップのネジ締結により容器本体の口部上面と密着させるようにする場合に、そのキャップライナーの材質を工夫することにより、口部上面との密着性を向上させつつ、過度の摩擦抵抗力に起因する開栓トルクの増大を回避して開封し易くしようとする提案も種々されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−68282号公報
【特許文献2】特開2000−38495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スクリュー方式のキャップを用いた密閉容器の内でも、医薬品を収容・保管するための医薬品容器を対象とする密閉容器の場合には、特に品質保持性能が重要であり、このため、特に防湿性能が要求されることになる。すなわち、内部に医薬品(例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤等の固形製剤)を充填して閉栓した状態で所定期間(例えば3年間)に亘り一定以上の防湿性能(例えば水蒸気透過性)を維持して品質変動を生じさせないことが要求され、このため、上記の所定期間に亘り一定以上の開栓トルクを維持し開栓トルクが低下しないことという性能が要求される。このような医薬品容器の場合には、製造元にて内部に医薬品を充填した後に品質保持のためにスクリュー方式のキャップが所定の締めトルクで巻締めされて閉栓され、以後、その閉栓状態で輸送されて医療施設において使用まで保管されることになる。
【0006】
しかしながら、所定の締めトルクにて閉栓したとしても、クリープ及び応力緩和に起因して緩みが生じトルクダウンが生じ、そして、時間経過とともに開栓トルクが低下することになる。この開栓トルクの低下に伴い水蒸気透過量も徐々に増大していき、開栓トルクがある一定値を超えて低下すると、水蒸気透過量の爆発的な増大を招きかねないことになる。又、容器本体の口部外周のネジ部と、キャップ内周のネジ部とが互いに螺合していく際に、そのネジ部とネジ部との間での引っ掛かりが強かったりかじりが発生したりすると、締めトルクに基づくキャップの容器本体口部に対する押し付け力(軸力)を発揮する前に上記の引っ掛かり等に起因して締めトルクが上がってしまう結果、所定の締めトルクに到達しても所期の押し付け力を発揮していない事態も生じ得る。その反面、上記のネジ部とネジ部との間の引っ掛かり等を弱めるために、そのネジ部とネジ部との互いの接触を滑らかにする方向への改良を加えると、逆に上記の緩みを助長してトルクダウンの進行を促進させてしまい、所定の閉栓状態の維持を図り得ず、その結果、開栓トルクの急低下や水蒸気透過量の急増大(防湿性能の急激な悪化)を招来するとも考えられている。このような不都合の発生は容器本体の口部の口径が大きく広口になるほど顕著になって、水蒸気透過度の急増の他に不安定化をも招く傾向にある。
【0007】
一方、特に医薬品容器の分野では、固形製剤用プラスチックボトルの標準化の要請(「固形製剤用プラスチックボトルの標準化」医薬品包装材料標準化委員会 篠田晃 PHARM TECH JAPAN Vol.17 No.7 2001 p27-p39)があり、容器本体及びキャップに関し、形状・寸法はもとより材質も特定のものが標準材料として定められている。そして、上記の容器本体の口部外周のネジ部や、キャップ内周のネジ部についての詳細寸法(螺旋山径・螺旋谷径)も一定のものに定められており、形状面での変更・改良は実質上採用し得ない状況にある。又、医薬品容器としての特殊性として、内部の医薬品に対する影響を排除するために、容器本体やキャップの樹脂素材面において単一種類で純粋な素材を使用し、できるだけ添加剤等の配合を控えるべきとの要請もある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スクリュー方式のキャップを用いた密閉容器において、開栓トルクを長期に亘り確実に一定以上の高い状態に維持して防湿性能を確実に一定以上に維持し得る密閉容器用キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、天壁及び内周面にネジ部が形成された周壁を有し、容器本体の口部外周面のネジ部に対し上記周壁のネジ部がねじ込まれることにより密閉状態に閉栓されるように構成された密閉容器用キャップを対象として、次の特定事項を備えることとした。すなわち、少なくとも、閉栓時に上記口部外周面のネジ部に接触することになる上記周壁の内周面側のネジ部の表面層を、滑り性を有する材料により形成することとした(請求項1)。上記のネジ部の表面層とは、厳密視すれば周壁の内周面側のネジ部の内でも口部外周面のネジ部と接触することになる部位自体の表面層であればよいが、現実的には周壁の内周面側に露出することになるネジ部の全体の表面層とすればよい。
【0010】
本発明の場合、滑り性を有する材料によりキャップの周壁内周面側のネジ部(以後、「キャップ側ネジ部」とも言う)の表面層を形成しているため、容器本体の口部外周面側のネジ部(以後、「容器本体側ネジ部」とも言う)に対し、キャップ側ネジ部を所定の締めトルクでねじ込んで容器本体口部を閉栓したとき、両ネジ部が滑り性を有しない標準材料で形成されている場合と同じ締めトルクで閉栓したとしても、その後の期間経過において開栓トルクがより高い値に維持され、それに伴い水蒸気透過度も大幅に低い値に維持させることが可能となる。本発明は、ネジ部の滑りについての従来の技術上の考え方に反する結果をもたらすものである。すなわち、従来は、両ネジ部同士の接触摩擦抵抗を減らして滑り性を付与すると、閉栓後の緩みが助長され、より大きなトルクダウンを生じさせる結果、開栓トルクの著しい低下を招くことになる、従って、水蒸気透過度の低下度合も急激となるため、特に医薬品容器には適用することができない、と考えられていた。つまり、医薬品容器に適用するキャップについては、そのネジ部表面に滑り性を付与すること自体、医薬品の品質保持性能を悪化させる原因となり非常識なことと考えられていた。これに対し、本発明では、少なくともキャップ側ネジ部の表面層を、滑り性を有する材料により形成することで、後述の如く、逆に、緩みに起因するトルクダウンを抑えて開栓トルクをより高く維持し、水蒸気透過度をより小さい値に維持し得るという効果が得られることになる。これは、キャップ側ネジ部と容器本体側ネジ部との間の接触摩擦力が低減してねじ込みの際の滑り性が向上することにより、同じ締めトルクでねじ込んだとしても、上記標準材料で形成されている場合の締結位置(回転が停止する位置)よりもさらに余分に回転角度進んだ位置で締結(回転停止)することになるためであると考えられる。つまり、従来はネジ部同士の接触に基づく引っ掛かりやかじりに起因して接触摩擦が増大し、これが加味されて所定の締めトルクに到達してしまうのに対し、本発明ではより長い回転長(螺旋巻き数)だけねじ込まれた後に所定の締めトルクに到達することになり、このため、閉栓状態では、より大きな押し付け力によってキャップが容器本体の口部上面に押し付け又は引き付けられた状態に至るためと考えられる。このような極めて大きな押し付け力(引き付け力)によって、逆に、緩みの発生度合が極めて小さいものに抑制されて開栓トルクも従来の標準材料で形成されている場合よりも高い値に維持されることになると考えることができる。
【0011】
本発明の「滑り性を有する材料」の具体内容として、次のようなものを採用し得る。すなわち、本発明の滑り性を有する材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン及びABS樹脂のいずれかに対し、極少量の滑剤を配合した滑剤配合樹脂材料を用いることができる(請求項2)。少なくともキャップ側ネジ部の表面層を、ポリエチレン(高密度ポリエチレン)等の主樹脂材料に対し極少量(例えば0.01〜0.50重量%)の滑剤を配合した滑剤配合樹脂により形成することで本発明の作用・効果が得られることになる。滑剤の配合量として、上述の如き開栓トルクの値を高く維持し得る滑り性を発揮させ得る下限値(例えば0.01重量%)よりも多い範囲であって、余りに多すぎてブルームによる粉ふきによってキャッパー等の自動締結装置へ付着したり内部収容の医薬品への影響懸念を招いたりすることにならないという条件を満足し得る上限値(例えば0.50重量%)よりも少ない範囲に設定する。この際、上記の影響懸念を払拭する上で、滑剤の配合量を上記範囲の内でもできるだけ少量に、例えば0.01〜0.30重量%の範囲、0.01〜0.25重量%の範囲、0.05〜0.25重量%の範囲、0.05〜0.15重量%の範囲、あるいは、0.05〜0.10重量%の範囲に設定することが好ましい。
【0012】
又、形成方法としては、上記周壁のネジ部を含む内周面側筒状部位を上記滑剤配合樹脂材料により、それ以外の部位を上記滑剤が非配合の樹脂材料により、それぞれ形成することができる(請求項3)。例えば2層成形法により、ネジ部を含む筒状部位と、これ以外のキャップの主要部位とを互いに異なる樹脂材料により形成するのである。このようにすることにより、キャップの主要部位については、前述の標準化の要請に基づく各種性能の発揮を満足させつつ、ネジ部を含む筒状部位を上記の滑剤配合樹脂で形成することで、キャップ側ネジ部の表面層に確実に滑り性を付与して本発明による作用・効果を得ることができるようになる。
【0013】
あるいは、キャップの全てを上記の滑剤配合樹脂により形成することもできる。すなわち、天壁及び周壁の全体を上記滑剤配合樹脂材料により形成する形成方法を採用することもできる(請求項4)。この場合、滑剤の配合量が極少量であるため、ネジ部以外にキャップ全体に及ぼす影響が殆どない一方、大量生産への適応性にも優れることになる。なお、この場合には、キャッパー等の自動締結装置を構成するフィーダやチャック等によるキャップ外面の把持機能を確保する上で、表面ぬめりや粉ふきにより把持滑りが生じないように滑剤の配合量をなるべく少なく設定することが好ましい。
【0014】
以上の滑剤としては、脂肪族アマイド系滑剤を用いることができる(請求項5)。例えば、主樹脂材料として高密度ポリエチレン又はポリプロピレンを用いる場合には、滑剤として脂肪酸アマイド系のステアリン酸アミド、オレイン酸アミドや、エルカ酸アミドを適用すればよく、又、主樹脂材料としてABS樹脂を用いる場合には、滑剤としてアルキレン脂肪酸アマイド系のメチレンビスステアリン酸アミドや、エチレンビスステアリン酸アミドを適用すればよい。なお、高密度ポリエチレンに対しては炭化水素系の合成ポリエチレンワックスや、パラフィンワックスを滑剤として用いてもよい。これらは適用可能な種類で1又は2種以上の滑剤を全体量が上記の配合量の範囲内になるように組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0015】
一方、本発明における滑り性を有する材料や、ネジ部の形成方法については、以上の滑剤配合樹脂とは異なるものを採用することもできる。すなわち、上記ネジ部の表面層として、固体潤滑剤による被膜を形成することもできる(請求項6)。かかる固体潤滑剤による被膜を施すことにより、容器本体側ネジ部との間の接触摩擦力を低減し滑り性を発揮させて、上述のものと同様の本発明の作用・効果が得られることになる。固体潤滑剤による皮膜としては、例えば二硫化モリブデン、グラファイトや、フッ素樹脂(PTFE;ポリテトラフルオロエチレン)を用いた固体潤滑コーティング、あるいは、シリコンコーティングを施せばよい。なお、液体潤滑剤の塗布(例えば油膜層の形成)や、薄肉フィルムの貼り付け等により、滑り性を有する材料により形成されたネジ部の表面層を形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように、請求項1〜請求項6のいずれかの密閉容器用キャップによれば、滑り性を有する材料によりキャップ側ネジ部の表面層を形成するようにしているため、容器側ネジ部に対し、キャップ側ネジ部を所定の締めトルクでねじ込んで容器本体口部を閉栓したとき、両ネジ部が滑り性を有しない標準材料で形成されている場合と同じ締めトルクで閉栓したとしても、その後の期間経過において開栓トルクをより高い値に維持させることができ、それに伴い水蒸気透過度も大幅に低い値に維持させることができるようになる。これにより、特に医薬品容器に対し好適に適用し得る密閉容器用キャップを提供することができるようになる。
【0017】
特に、請求項2によれば、キャップ側ネジ部の表面層を、高密度ポリエチレン等の主樹脂材料に対し極少量の滑剤を配合した滑剤配合樹脂により形成することで上記の本発明の作用・効果を得ることができるようになる。
【0018】
請求項3によれば、例えば2層成形法による形成手段を採用して、キャップの主要部位については医薬品容器に関する標準化の要請に基づく材料で形成することができる一方、本発明の効果を発揮するネジ部を含む筒状部位については上記の滑剤配合樹脂で形成することができるようになる。あるいは、請求項4によれば、本発明による効果を発揮させつつも、大量生産への適応性にも優れるものを提供することができるようになる。
【0019】
請求項5によれば、上記の滑剤配合樹脂に用いる好適な滑剤を具体的に特定することができる。
【0020】
請求項6によれば、固体潤滑剤による被膜を形成することにより、上記の滑剤配合樹脂により形成する手段とは別の手段を用いて、滑り性が付与されたネジ部の表面層を形成することができ、これによっても本発明による効果を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の種々の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態に係る密閉容器用キャップを適用する密閉容器としての医薬品容器1の外観形状(他の実施形態において共通)を示し、図2はその医薬品容器1の第1実施形態に係る部分断面図を示す。同図中の符号2は容器本体、3はこの容器本体2の口部21を開栓又は閉栓するためのスクリュー式のキャップ(スクリューキャップ)である。図1は閉栓前の状態を、図2はキャップ3が容器本体2の口部21の外周面にねじ込まれて閉栓された状態を、それぞれ示している。
【0023】
上記の医薬品容器1は、キャップ3の材質を除き、容器本体2の材質及び形状・寸法やキャップ3の形状・寸法等について前述の固形製剤用プラスチックボトルの標準化の要請に従ったものを例示したものである。すなわち、上記容器本体2は、所定の標準樹脂材料(高密度ポリエチレン)により、口部21の中心軸Xを筒軸とする有底の角筒状容器本体として形成されたものであり、例えばカプセル,錠剤,顆粒状等の固形製剤等の湿気を嫌うものを収容するために用いられるものである。そして、上記口部21の外周面にはキャップ3を閉栓させるためのネジ部211が形成されている。なお、本発明が適用される容器本体としては、特にその形状が限定されるものではなく、本体部分が円筒状もしくは角筒状であっても、スクリュー式のキャップ3により閉栓される円筒形状の口部21を有するものであればよい。以下の説明では上記中心軸Xが延びる方向を上下方向とし、図1及び図2の上を「上」、図1の下を「下」として説明する。
【0024】
上記キャップ3は、下端が開口された周壁31と、この周壁31の上端側を覆う天壁32とが合成樹脂成形により一体に形成されたものであり、周壁31の内周面には上記口部21のネジ部211に螺合するネジ部311が一体に形成されている。これら容器本体2側とキャップ3側との双方のネジ部211,311の螺合・締結により、天壁32の内面321が口部21の上面212に押し付けられて密着し、容器本体2の内部が密閉状態に閉栓されるようになっている。
【0025】
次に、キャップ3の形成材料について説明すると、キャップ3は、高密度ポリエチレンに対し極少量の滑剤を配合した滑剤配合樹脂材料により、その全体が形成されている。すなわち、キャップ3は、滑剤として脂肪族アマイド系に属する脂肪酸アマイドであるエルカ酸アミドを用い、主樹脂材料として99.75重量%の高密度ポリエチレンに対しエルカ酸アミドを0.25重量%配合してなる滑剤配合樹脂を用いて射出成形により形成したものである。
【0026】
なお、高密度ポリエチレンに対し配合する滑剤としては、上記のエルカ酸アミドの代わりに、他の脂肪酸アマイドであるステアリン酸アミドもしくはオレイン酸アミドを用いてもよい。主樹脂材料としてポリプロピレンを用いる場合にも、このポリプロピレンに対し配合する滑剤として、上述の脂肪酸アマイドをポリエチレンの場合と同様に用いればよい。又、主樹脂材料としてABS樹脂を用いる場合には、このABS樹脂に対し配合する滑剤として、脂肪族アマイド系に属するアルキレン脂肪酸アマイドであるメチレンビスステアリン酸アミドもしくはエチレンビスステアリン酸アミドを用いればよい。
【0027】
又、滑剤の配合量は、0.01〜0.50重量%の範囲から滑り性が発揮される限りできるだけ少量に設定することが好ましい。
【0028】
この第1実施形態の場合には、キャップ3の全体が上記の滑剤配合樹脂により形成されているため、そのネジ部311の表面層も上記の滑剤配合樹脂により形成されて滑り性が付与されている。そして、容器本体2内に所定の固形製剤が投入されて充填・収容された後、キャップ3による閉栓工程が行われ、滑り性が付与されたネジ部311が容器本体2側のネジ部211に対しねじ込まれ、所定の締めトルクに到達するまで締め込まれることになる。
【0029】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る密閉容器用キャップ3aを示している。なお、第1実施形態と同様構成のものには第1実施形態と同じ符号を付して重複する詳細説明を省略する。
【0030】
第2実施形態のキャップ3aは、その周壁31aの一部を構成する部位であってネジ部311を含む内周側の筒状部位33が第1実施形態で説明した滑剤配合樹脂により形成され、この筒状部位33以外の他の部位32,34が滑剤を配合していない樹脂材料であって、容器本体2と同じ標準樹脂材料である高密度ポリエチレンにより形成されたものである。すなわち、周壁31aの部分が、上記の内周側の筒状部位33と、外周側の筒状部位34との互いに異なる樹脂材料により成形されて一体にされたもので構成されている。
【0031】
このような第2実施形態のキャップ3aは2層成形により形成することができる。例えば、上記の内周側筒状部位33と、それ以外の部位(外周側筒状部位34と天壁32とを含む部位)との内の一方について金型内で成形し、その後に成形した部位を含んで他方の部位について成形すればよい。
【0032】
この場合には、ネジ部311を含む筒状部位33が上記の滑剤配合樹脂により形成されているため、当然にネジ部311の表面層も滑剤配合樹脂により形成されて滑り性が付与されている。このため、第1実施形態と同様に、容器本体2内に所定の固形製剤が投入されて充填・収容された後にキャップ3による閉栓工程が行われると、滑り性が付与されたネジ部311が容器本体2側のネジ部211に対しねじ込まれ、所定の締めトルクに到達するまで締め込まれることになる。
【0033】
<第3実施形態>
図4は、本発明の第3実施形態に係る密閉容器用キャップ3bの部分拡大断面図を示している。なお、第1実施形態と同様構成のものには第1実施形態と同じ符号を付して重複する詳細説明を省略する。
【0034】
第3実施形態のキャップ3bは、その周壁31bのネジ部311の表面層に固体潤滑コーティングによる皮膜35を形成したものである。この皮膜35は、二硫化モリブデン、グラファイト、フッ素樹脂あるいはシリコンを用いたコーティングを施すことにより形成するようにすればよい。
【0035】
これにより、ネジ部311の表面層が上記皮膜35の存在により滑らかな摺動性及び滑り性を発揮することになる。このため、第1実施形態と同様に、容器本体2内に所定の固形製剤が投入されて充填・収容された後にキャップ3による閉栓工程が行われると、滑らかな摺動性や滑り性が付与されたネジ部311が容器本体2側のネジ部211に対しねじ込まれ、所定の締めトルクに到達するまで締め込まれることになる。
【0036】
なお、上記の固体潤滑剤の代わりに、液体潤滑剤の塗布(例えば油膜層の形成)や、薄肉フィルムの貼り付け等により、滑り性を有する材料により形成されたネジ部311の表面層を形成するようにしてもよい。
【0037】
<他の実施形態>
なお、本発明は上記第1〜第3実施形態に限定されるものではなく、その他種々の実施形態を包含するものである。すなわち、上記第1〜第3実施形態では、医薬品容器1を容器本体2と、キャップ3,3a,3bとで構成しているが、これに限らず、これに加えて、乾燥剤4(図5参照)を装着するための乾燥剤収容タンク5及び/又は天壁32の内面321に重ね合わせるように嵌め込んで口部21の上面212と密着させるキャップライナー(図示省略)を組み合わせて、医薬品容器を構成するようにしてもよい。
【0038】
又、以上の説明では密閉容器として医薬品容器を示したが、かかる医薬品容器と同様の性能を必要とするのであれば、医薬品容器以外の他の用途の密閉容器に対しても本発明を当然に適用し得る。
【実施例】
【0039】
図5に示す医薬品容器1を対象にして、滑剤配合の有無に基づく開栓トルク及び水蒸気透過度の違いについて試験した。試験体として、本発明に基づく発明例H−1として、第1実施形態のキャップ3を用いて図5の医薬品容器1を構成した。これに対し、滑剤を配合しないものとして、比較例T−1,T−2,T−3,T−4の4種類を用意した。発明例H−1は実施形態で説明した滑剤配合樹脂材料により形成したキャップ3を用いたものであり、比較例T−1,T−2,T−3,T−4はそれぞれ滑剤を配合せず添加剤無しの1種類の樹脂材料により形成したキャップを用いたものである。これら発明例H−1や、比較例T−1,T−2,T−3,T−4の各医薬品容器は、それぞれ前述の固形製材用プラスチックボトルの標準化において第二種(角型容器)の7号として特定されている同一の形状・寸法を有するものである。又、これらの医薬品容器を構成する乾燥剤収容タンクも同一仕様のものをそれぞれ用いた。ちなみに、第二種の7号のものの容器本体2の全高さは78.4mm,胴径は60.0mm,口部内径は36.6mm,ネジ部211の螺旋山径が43.8mm,螺旋谷径が41.3mmであり、キャップ3の径は48.4mm,高さは16.5mm,ネジ部311の螺旋山径が42.1mm,螺旋谷径が44.5mmである。
【0040】
次に、発明例H−1や、比較例T−1,T−2,T−3,T−4におけるキャップの形成材料と、対比される特性とについて示す。
【0041】
[発明例H−1]:高密度ポリエチレン(HJ362N;日本ポリエチレン株式会社製品名)99.75重量%に対し、滑剤としてエルカ酸アミド(アルフローP10;日本油脂株式会社製品名)を0.25重量%配合した滑剤配合樹脂材料
[比較例T−1]:高密度ポリエチレン(HJ362N;日本ポリエチレン株式会社製品名)
[比較例T−2]:高密度ポリエチレン(Hizex2805JV;株式会社プライムポリマー製品名)、高剛性・高耐ストレスクラック性を有する
[比較例T−3]:高密度ポリエチレン(Hizex2110JH;株式会社プライムポリマー製品名)、高剛性・高耐ストレスクラック性の他に柔軟性を有する
[比較例T−4]:高密度ポリエチレン(リュブマーL-3000;三井化学株式会社製品名)、超高分子量ポリチレンでかつ射出成形可能な流動性を有する
以上の各樹脂材料を用いて、それぞれ射出成形によりキャップを形成した。
【0042】
試験方法としては次のように行った。すなわち、発明例H−1や、比較例T−1,T−2,T−3,T−4の各種類について1回分の測定のための検体数を20個として各種類必要数ずつ用意し、それぞれ容器本体の内部に塩化カルシウムを封入した上でキャップを設定締めトルク185N・cmで締結して閉栓し、相対湿度40℃−75%RHの暴露条件下で暴露期間の経過を待った。そして、閉栓後、所定の暴露期間の経過毎に、発明例H−1や、比較例T−1,T−2,T−3,T−4の各種類について、1種類につき20個ずつの検体を対象にして、塩化カルシウムの重量変化に基づいて水蒸気透過度(mg/day)を、トルクメータにより開栓トルク(N・cm)の値を、それぞれ測定した。
【0043】
まず、樹脂材料(HJ362N)が互いに同一で、滑剤配合の有無だけが異なる、発明例H−1と、比較例T−1との開栓トルクについて対比する。比較例T−1は要するに前述の固形製材用プラスチックボトルの標準化で定められた樹脂材料により形成された医薬品容器に相当する。暴露期間2週間と、4週間とにおける発明例H−1及び比較例T−1の双方の開栓トルクの測定結果を図6に示す。これを見ると、4週間経過の発明例H−1の20個の検体中に若干のバラツキはあるものの、2週間及び4週間経過の双方において、発明例H−1では開栓トルクとしていまだ100.0N・cm前後の高い範囲の値を維持しているのに対し、比較例T−1では50.0N・cm前後の範囲の値まで低下した。つまり、閉栓後2週間又は4週間経過後であっても、発明例H−1は比較例T−1の実に2倍程度の高い開栓トルクを維持していることになり、滑剤配合の有無が開栓トルクの値の顕著な差となって顕れている。この発明例H−1及び比較例T−1の暴露期間2週間での水蒸気透過度(mg/day)は、図7に示すように、発明例H−1が0.0mg/dayに極めて近い僅少の値で、しかも殆どバラツキなく安定した状態であったのに対し、比較例T−1が2.14〜15.27mg/dayの範囲でばらついた値を示した。発明例H−1の水蒸気透過度の値はその検体20個がほぼ同じ僅少値1.17mg/dayに集中した。この発明例H−1の値は、比較例T−1の検体20個の平均測定値9.45mg/dayのほぼ1/8という僅少なものである上に、比較例T−1の場合の如きばらついた異常値も出現せずにほぼ同じ値に収束した。
【0044】
ここで、閉栓後の暴露期間と、開栓トルクとの関係について見るに、一般的には、図8に示すように、閉栓後の数日間で開栓トルクは閉栓時の締めトルクから急激に初期低下するものの、その後はその開栓トルクの低下は極めて小さくなり、1週間経過後あるいは2週間経過後については、開栓トルクはほぼ同じ値で安定することになる。従って、暴露期間2週間における開栓トルクの値を測定すれば、閉栓後の長期の保管期間に亘る開栓トルクの状況を把握することができると言える。なお、図8は締めトルク185,278,376N・cmで閉栓した後に相対湿度23℃−50%RHの暴露条件下で1日、3日、7日及び14日経過時点での開栓トルクの変動を測定したものである。
【0045】
以上の発明例H−1と比較例T−1との対比より、極少量の滑剤配合によって、所定の締めトルクで閉栓した後の開栓トルクを長期に亘り従来のものよりも大幅に高い値に維持させることができ、それにより、水蒸気透過度も僅少の値でかつ特異値の出現もなく安定的に維持して極めて高い防湿性能を維持させることができるようになる、と言える。
【0046】
又、高密度ポリエチレンである点は共通するものの、その物性において互いに異なる樹脂材料を用いた比較例T−1,T−2,T−3,T−4について、暴露期間2週間及び4週間における開栓トルクの変動を図9に、又、同じ暴露期間2週間及び4週間における水蒸気透過度の変動を図7にそれぞれ示している。これを見ると、いずれの樹脂材料を用いた場合も、開栓トルクの値は比較例T−1と同様に50.0N・cm前後の範囲というようにほぼ同じ傾向を示し、又、水蒸気透過度の値も比較例T−1と大差ない状況であり、同じ高密度ポリエチレンではあるが特性の相違による開栓トルクの維持性能の違いは見出せない。すなわち、高剛性・高耐ストレスクラック性を有する比較例T−2,T−3の場合も、又、中でも開栓トルクの低下抑制のための対策として柔軟性を重視した比較例T−3の場合も、開栓トルクの低下度合や、水蒸気透過度の悪化度合は比較例T−1とほぼ同様傾向を示した。加えて、摺動性を要する歯車の射出成形材料として用いられる超高分子量のポリエチレンを用いた比較例T−4の場合も、上記と同様に開栓トルクや水蒸気透過度について比較例T−1と大差なくほぼ同様傾向を示した。従って、滑剤配合のない1種類の樹脂材料として高密度ポリエチレンを用いる場合に、その物性の違いによって開栓トルクや水蒸気透過度において有意な差は見出せず、これら比較例T−1,T−2,T−3,T−4と比較して、滑剤配合した発明例H−1はその開栓トルクを高い値に維持して水蒸気透過度を僅少に維持するという性能の点で優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態を適用した密閉容器としての医薬品容器の例を示す閉栓前の斜視図である。
【図2】第1実施形態を適用した医薬品容器の部分拡大断面説明図である。
【図3】第2実施形態を適用した医薬品容器の図2対応図である。
【図4】第3実施形態を適用した医薬品容器の部分拡大断面説明図である。
【図5】他の実施形態として第1実施形態に乾燥剤収容タンクを加えて構成した医薬品容器の図2対応図である。
【図6】暴露期間2週間及び4週間での開栓トルクの測定値について発明例H−1の場合と比較例T−1の場合とを対比して示す関係図である。
【図7】暴露期間2週間での水蒸気透過度の測定値について発明例H−1の場合と比較例T−1,T−2,T−3,T−4の場合とを対比して示す関係図である。
【図8】所定の締めトルクで閉栓した後の暴露期間と開栓トルクとの一般的関係を示す関係図である。
【図9】暴露期間2週間及び4週間での開栓トルクの測定値について比較例T−1,T−2,T−3及びT−4を対比して示す関係図である。
【符号の説明】
【0048】
1 医薬品容器(密閉容器)
2 容器本体
3,3a,3b キャップ
21 口部
31,31a,31b 周壁
32 天壁
33 内周面側筒状部位
35 皮膜
211 ネジ部
311 ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天壁及び内周面にネジ部が形成された周壁を有し、容器本体の口部外周面のネジ部に対し上記周壁のネジ部がねじ込まれることにより密閉状態に閉栓されるように構成された密閉容器用キャップであって、
少なくとも、閉栓時に上記口部外周面のネジ部に接触することになる上記周壁の内周面側のネジ部の表面層が、滑り性を有する材料により形成されている
ことを特徴とする密閉容器用キャップ。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉容器用キャップであって、
上記滑り性を有する材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン及びABS樹脂のいずれかに対し、極少量の滑剤を配合した滑剤配合樹脂材料を用いてなる、密閉容器用キャップ。
【請求項3】
請求項2に記載の密閉容器用キャップであって、
上記周壁のネジ部を含む内周面側筒状部位が上記滑剤配合樹脂材料により、それ以外の部位が上記滑剤を配合しない樹脂材料により、それぞれ形成されている、密閉容器用キャップ。
【請求項4】
請求項2に記載の密閉容器用キャップであって、
天壁及び周壁の全体が上記滑剤配合樹脂材料により形成されている、密閉容器用キャップ。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれかに記載の密閉容器用キャップであって、
上記滑剤として、脂肪族アマイド系滑剤を用いてなる、密閉容器用キャップ。
【請求項6】
請求項1に記載の密閉容器用キャップであって、
上記ネジ部の表面層として、固体潤滑剤による被膜が形成されている、密閉容器用キャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−40477(P2009−40477A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208637(P2007−208637)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000206185)大成化工株式会社 (83)
【Fターム(参考)】