説明

密閉容器

【課題】 特に熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、および成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部よりなることから、電気・電子部品又は自動車電装部品、溶媒等の密封、密閉、耐漏性等に優れるとともに、熱伝導性にも優れる密閉容器を提供する。
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともタルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(B)80〜200重量部、及び、繊維状充填材(C)50〜100重量部を含むポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる蓋部とを超音波溶着してなる密閉容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドが本来有する耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などを損なうことなく、熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、及び成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部と蓋部とを超音波溶着してなる密閉容器に関するものであり、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品、溶剤等の密封、密閉、耐漏性等に優れるとともに、熱伝導性にも優れ、超音波溶着により効率的に製造することが可能な密閉容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などに優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリアリーレンスルフィドは熱伝導性が低いことから、例えば発熱を伴うような電子部品を封止すると、発生する熱を効率よく拡散することができず、熱膨張による寸法変化、熱による変形、ガス発生などの不具合を生じることがあった。その一方で、ポリアリーレンスルフィドは、本来電気絶縁性に優れていることから、電気絶縁性と熱伝導性とを兼ね備えることも求められていた。
【0004】
ポリアリーレンスルフィドの優れた電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性を改良する試みについては、これまでにもいくつかの検討がなされ、例えば(a)ポリフェニレンスルフィド、(b)800℃以上で焼成後表面処理されてなる酸化マグネシウム粉末、及び(c)電気絶縁性無機充填材を配合する樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)アルミナ、及び(c)板状フィラーを配合する樹脂組成物(例えば特許文献2参照。)、(a)ポリフェニレンスルフィド、(b)タルク、及び(c)扁平形状の断面を有するガラス繊維を配合する樹脂組成物(例えば特許文献3参照。)、(a)ポリアリーレンスルフィド、(b)板状充填材、及び(c)粒状充填剤を配合する樹脂組成物(例えば特許文献4参照。)、等が提案されている。
【0005】
一方、樹脂又は樹脂組成物を部材等として使用する際、特に成形が困難な中空構造を有する部材とする際には、部材同士を組み合わせ構成することが行われてきた。その際に部材を構成する樹脂又は樹脂組成物には接着性、溶着性に優れることが求められてきた。そして、部材同士を接合する際には、より効率的に部材を製造することが可能となることから超音波溶着が注目されている。
【0006】
ポリアリーレンスルフィドの超音波溶着性を改良する試みについては、これまでにもいくつかの検討がなされ、例えば(a)ポリフェニレンスルフィド、(b)ポリアミド樹脂を配合する樹脂組成物(例えば特許文献5参照。)、(a)ポリフェニレンスルフィド、(b)ポリオレフィン樹脂を配合し、ポリフェニレンスルフィドがマトリックス、ポリオレフィン樹脂が分散相となる相構造を有する樹脂組成物(例えば特許文献6参照。)等が提案されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−038010号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開2002−256147号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開2008−260830号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献4】特開2010−053350号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献5】特開平10−237304号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献6】特開2001−302917号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜4に提案された樹脂組成物においては、熱伝導性がまだ十分に満足できないという課題があった。また、これらの提案樹脂組成物は超音波溶着性という面で検討されたものでないことから、超音波で溶着しないか、或いは溶着したとしても、溶着強度は極めて低いものであった。更には、これら提案樹脂組成物においては、十分に優れた熱伝導性を得ようとすると、組成物の機械的強度や溶融流動性の低下も著しいものであった。
【0009】
また、特許文献5〜6に提案された樹脂組成物は、超音波溶着性の面では満足できるものであるが、熱伝導性と言う観点で検討されたものでないことから、熱伝導性は著しく劣るものであった。
【0010】
更にこれまで、熱伝導性と超音波溶着性とを併せ持つ部材を検討した事例はなく、熱伝導性を有する成形品を接合する場合の接合方法に課題を抱えていた。即ち、熱伝導性を有する成形品同士を接合する場合、或いは熱伝導性を有する成形品と熱伝導性を有さない成形品を接合する場合のいずれの場合でも、その接合方法としては、接着剤で接合する方法、ボルト等による機械的接合方法等があるが、いずれの方法でも接合強度が低いものであった。
【0011】
そこで、本発明は、熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、及び成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部と蓋部とを溶着してなる密閉容器を提供することを目的とし、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品、溶媒などの密封、密閉、耐漏性等に優れるとともに、熱伝導性にも優れ、超音波溶着により効率的に得ることが可能な密封容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィドに、タルク、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー、及び繊維状充填材を特定割合で配合し、更に必要に応じて金属ケイ素粉末、離型剤等を配合するポリアリーレンスルフィド系組成物部材は、熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、及び成形品外観にも優れる容器部となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともタルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(B)80〜200重量部、及び、繊維状充填材(C)50〜100重量部を含むポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる蓋部とを超音波溶着してなることを特徴とする密閉容器に関するものである。
【0014】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0015】
本発明の密閉容器は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともタルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(B)80〜200重量部、及び、繊維状充填材(C)50〜100重量部を含むポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる蓋部とを超音波溶着してなるものである。
【0016】
本発明の密閉容器を構成する容器部は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともタルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(B)80〜200重量部、及び、繊維状充填材(C)50〜100重量部を含むポリアリーレンスルフィド系組成物からなるものであり、該ポリアリーレンスルフィド系組成物からなることにより、超音波溶着によっても優れた接合強度を有するとともに、熱伝導性にも優れた密閉容器となるものである。
【0017】
その際のポリアリーレンスルフィド(A)としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよく、その中でも、機械的強度、成型加工性に優れた部材が得られることから、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜3000ポイズのポリアリーレンスルフィドが好ましく、特に60〜1500ポイズであるものが好ましい。
【0018】
該ポリアリーレンスルフィド(A)としては、その構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。また、他の構成単位として、例えばm−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等を含有していてもよく、中でもポリ(p−フェニレンスルフィド)が好ましい。
【0019】
該ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られ、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調製されても、また系外で調製されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=1.00/0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。
【0020】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0021】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド(A)は、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0022】
熱伝導性フィラー(B)は、タルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラーである。該熱伝導性フィラー(B)からなることにより、熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着により容易に密閉容器とする事のできる容器部となる。
【0023】
該熱伝導性フィラー(B)として選択されるタルク(B1)とは、MgSi10(OH)で表される天然の粘土鉱物の一種である。一般的にタルクは、産地により不純物の種類及びその量が異なり、本発明で用いられるタルクは、従来からタルクとして知られ販売されているものであれば如何なるものを用いることも可能であり、産地、不純物の種類及びその量に制限を設けるものではない。また、タルクの粒子径は、レーザー回折散乱法等により測定した平均粒子径(D50)で、0.6〜30μmの範囲のものが市販されており、その中でも、本発明においては、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、平均粒子径(D50)が5〜20μmであるものが好ましい。該タルク(B1)は、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤でさらに表面処理されたものであってもよく、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0024】
該熱伝導性フィラー(B)として選択される鱗片状窒化ホウ素(B2)は、六方晶構造を有するものであり、該条件を満たすものであれば如何なるものを用いることが可能であり、該鱗片状窒化ホウ素(B2)としては、例えば粗製窒化ホウ素をアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩の存在下、窒素雰囲気中、2000℃×3〜7時間加熱処理して、窒化ホウ素結晶を十分に発達させ、粉砕後、必要に応じて硝酸等の強酸によって精製することにより製造することができ、この様にして得られた窒化ホウ素は、通常、鱗片状を有するものである。そして、該鱗片状窒化ホウ素(B2)としては、容器部を構成するポリアリーレンスルフィド系組成物中における分散性に優れ、熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度の優れた容器部となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が、3〜30μmであるものが好ましい。また、該鱗片状窒化ホウ素(B2)は、高結晶性を示し、特に熱伝導性に優れた容器部とすることが可能となることから、粉末X線回折法で求められる、(102)回折線の積分強度値(I(102))に対する、(100)回折線及び(101)回折線の積分強度値の和(I(100)+(101))の比で示されるG.I値(G.I=(I(100)+(101))/(I(102)))が0.8〜10の範囲となるものであることが好ましい。
【0025】
該熱伝導性フィラー(B)として選択される酸化マグネシウム(B3)は、酸化マグネシウムとして知られ販売されているものであれば如何なるものを用いることも可能である。中でも熱伝導性に優れる容器部となることから、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウムであることが好ましい。この様な被覆酸化マグネシウムは、例えば特開2004−027177号公報に記載の方法より入手することが可能である。ここで、ケイ素とマグネシウムの複酸化物とは、フォルステライト(MgSiO)等に代表されるケイ素、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化ケイ素の複合物である。また、アルミニウムとマグネシウムの複酸化物とは、スピネル(AlMgO)等に代表されるアルミニウム、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの複合物である。該被覆酸化マグネシウムは、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤でさらに表面処理されたものであってもよく、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。また、該被覆酸化マグネシウムは、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が、1〜500μmを有するものであることが好ましく、特に3〜100μmを有するものであることが好ましい。
【0026】
該熱伝導性フィラー(B)として選択される酸化アルミニウム(B4)は、従来から酸化アルミニウムとして知られ販売されているものであれば、如何なるものを用いることも可能である。この様な酸化アルミニウムの結晶形態としては、α、γ、δ、θ等が知られており、特に熱伝導性及び超音波溶着性に優れた容器部となることから、α結晶の酸化アルミニウムが好ましい。また酸化アルミニウムには、球状のものと板状のものとがあるが、そのどちらを用いることも可能である。球状の酸化アルミニウムには、α結晶粒子径が0.1〜4μm程度で、そのα結晶粒子が凝集して球状の粒子を形成しているもの;凝集粒子をα結晶粒子径の大きさまで粉砕し球状の粒子を形成しているもの;α結晶粒子径が5μmより大きい単粒状の酸化アルミニウムであるもの、等があるが、その何れのものを用いることも可能である。球状の酸化アルミニウムの粒子径(ここでの粒子径は、α結晶粒子が凝集して球状の粒子を形成しているものでは凝集粒子の粒子径、凝集粒子が粉砕され球状の粒子を形成しているものでは粉砕後の粒子径、α結晶単状粒子では単状粒子の粒子径を、それぞれ言う。)は、レーザー回折散乱法等により測定した平均粒子径(D50)で、1〜100μmの範囲のものが市販されており、その中でも、本発明においては、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、平均粒子径(D50)が3〜50μmであるものが好ましい。板状の酸化アルミニウムには、その平面形状が六角形、四角形、菱形等があるが、その何れのものを用いることも可能である。板状の酸化アルミニウムの外径サイズは、0.5〜15μmの範囲のものが市販されており、その中でも、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、3〜10μmであるものが好ましい。また、板状の酸化アルミニウムのアスペクト比は、10〜100の範囲のものが市販されており、その中でも、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、30〜100であるものが好ましい。
【0027】
該熱伝導性フィラー(B)として選択される窒化アルミニウム(B5)は、従来から窒化アルミニウムとして知られ販売されているものであれば如何なるものを用いることも可能である。該窒化アルミニウム(B5)の製造方法としては、例えば、有機アルミニウム化合物とアンモニアを反応させ、加熱する気相法、アルミナと炭素の混合物を窒素中で加熱する還元窒化法、アルミニウムと窒素で反応させる直接窒化法等があるが、何れの方法で製造したものも本発明では使用することが可能である。また、窒化アルミニウムは一般的に耐水性が劣ることから、これを改良する方法として、窒化アルミニウムを燐酸化合物で処理することにより、窒化アルミニウム表面に耐水性の燐酸アルミニウム層を形成させる方法;窒化アルミニウムに少量の酸化イットリウム、及び窒化ホウ素とを加え高温焼結させる方法;等が挙げられるが、何れの方法で処理された耐水性窒化アルミニウムも本発明では使用することが可能である。また、窒化アルミニウムの粒子径は、レーザー回折散乱法等により測定した平均粒子径(D50)で、1〜100μmの範囲のものが市販されており、その中でも、本発明においては、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、平均粒子径(D50)が3〜60μmであるものが好ましい。
【0028】
該熱伝導性フィラー(B)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、80〜200重量部である。該熱伝導性フィラー(B)の配合量が80重量部未満である場合、得られる容器部は、熱伝導性に劣るものとなる。一方、該熱伝導性フィラー(B)の配合量が200重量部を越える場合、得られる容器部は超音波溶着性、機械的強度、溶融流動性、成形品外観に劣るものとなり、耐漏性にも劣るものとなる。
【0029】
該繊維状充填材(C)は、容器部の機械的強度及び寸法安定性を向上させるために配合されるものであり、この目的を達成できる繊維状充填材であれば、如何なるものを用いることも可能である。繊維状充填材(C)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が例示でき、その中でも、ガラス繊維が好ましい。該繊維状充填材(C)は、部材の機械的強度が高いものとなることから、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであることが好ましい。
【0030】
該繊維状充填材(C)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、50〜100重量部である。該繊維状充填剤(C)の配合量が50重量部未満である場合、得られる容器部は機械的強度に劣るものとなる。一方、該繊維状充填剤(C)の配合量が100重量部を越える場合、得られる容器部は熱伝導性、超音波溶着性、溶融流動性、成形品外観に劣るものとなり、耐漏性にも劣るものとなる。
【0031】
また、本発明の密閉容器を構成する容器部となるポリアリーレンスルフィド系組成物としては、特に熱伝導性に優れたものとなることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、さらに金属ケイ素粉末(D)15〜50重量部を含み、該金属ケイ素粉末(D)と該熱伝導性フィラー(B)との比率が、金属ケイ素粉末(D)/熱伝導性フィラー(B)=0.125〜0.25(wt/wt)の範囲であるものが好ましい。
【0032】
該金属ケイ素粉末(D)とは、珪石(ケイ酸質の鉱石や岩石の総称)を還元して製造され、アルミ合金、シリコン樹脂、高純度シリコン等の原料として従来から知られ販売されている金属ケイ素の粉末を言い、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能である。該金属ケイ素粉末(D)におけるケイ素含有率は、特に制限はなく、その中でも、特に熱伝導性に優れた容器部となることから、ケイ素含有率が95重量%以上であるものが好ましく、特に98重量%以上であるものが更に好ましい。また、該金属ケイ素粉末(D)は、特に熱伝導性、超音波溶着性、機械的強度に優れた容器部となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が1μm以上であるものが好ましい。また、該金属ケイ素粉末(D)の形状に特に制限はなく、例えば樹枝状粉、片状粉、角状粉、球状粉、粒状粉、針状粉、不定形状粉、海綿状粉等が挙げられる。また、これら形状の混合物であっても良い。該金属ケイ素粉末(D)の製造方法としては、例えば電解法、機械的粉砕法、アトマイズ法、熱処理法、化学的製法等が挙げられ、これらの製法に限定されるものではない。
【0033】
更に、本発明の密閉容器を構成する容器部となるポリアリーレンスルフィド系組成物は、容器部とした際の金型離型性や外観をより優れるものとするために離型剤(E)を配合してなることが好ましい。該離型剤(E)としては離型剤として知られている範疇に属するものであれば用いることが可能であり、例えばカルナバワックス(E1)、ポリエチレンワックス(E2)、ポリプロピレンワックス(E3)、ステアリン酸金属塩(E4)、酸アマイド系ワックス(E5)等を挙げることができ、その中でも特に得られる容器部の金型離型性、成形品外観に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることからカルナバワックス(E1)であることが好ましい。
【0034】
該カルナバワックス(E1)としては、一般的な市販品を用いることができ、例えば(商品名)精製カルナバ1号粉(日興ファインプロダクツ製)等を挙げることができる。
【0035】
該離型剤(E)の配合量は、特に金型離型性、成形品外観に優れる容器部となることからポリアリーレンスルフィド(A)、熱伝導性フィラー(B)、繊維状充填剤(C)、及び金属ケイ素粉末(D)の合計量100重量部に対し、0.05〜5重量部であることが好ましい。
【0036】
本発明の密閉容器を構成する容器部となるポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、非繊維状充填材を配合していてもよく、非繊維状充填材としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。また、該非繊維状充填材は、イソシアネート系化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ化合物等で表面処理したものであってもよい。
【0037】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。さらに、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0038】
そして、該ポリアリーレンスルフィド系組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことが出来る。
【0039】
該ポリアリーレンスルフィド系組成物は、例えば射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等の従来から知られている成形機等を用いて、任意の形状を有する容器部に成形することにより、本発明の密閉容器を構成する容器部とすることが可能である。また、該容器部の形状としては、密閉容器の形状により選択すればよく、例えば箱型、円柱型、三角柱型、四角柱型、五角柱型、六角柱型、八角柱型、半球状等を挙げることができる。
【0040】
本発明の密閉容器を構成する蓋部は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物よりなるものであり、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物としては、市販されているものでもよく、また、通常ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、充填材20〜300重量部を含むものであってもよい。その際のポリアリーレンスルフィドとしては、上記ポリアリーレンスルフィド(A)と同様のものであってもよい。
【0041】
また、充填材としては、上記した熱伝導性フィラー(B)、繊維状充填材(C)の他、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;ガラスフレーク、ガラスビーズ等の非繊維状充填材を挙げることができる。
【0042】
そして、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記したポリアリーレンスルフィド系組成物と同様の方法により組成物として調製することが可能である。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等の従来から知られている成形機等を用いて、任意の形状を有する蓋部に成形することにより、本発明の密閉容器を構成する蓋部とすることが可能である。また、該蓋部の形状としては、密閉容器の形状により選択すればよく、例えば円板、半球状、三角平板、四角平板、五角平板、六角平板、八角平板、箱型、円柱型、三角柱型、四角柱型、五角柱型、六角柱型、八角柱型等を挙げることができる。
【0043】
そして、本発明の密閉容器が容器部と蓋部の接合性に優れ、耐漏性に優れた密閉容器となることから、蓋部は、充填材としてガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム及び/又はタルクからなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物よりなることが好ましい。また、密閉容器が特に熱伝導性に優れたものとなることから、蓋部は、上記したポリアリーレンスルフィド系組成物と同様のものよりなることが好ましい。
【0044】
このようにして得られた容器部と蓋部とを超音波溶着することにより、本発明の密閉容器とすることが可能であり、超音波溶着という接合方法により、より効率的に密閉容器とすることが可能である。そして、該密閉容器の形状としては任意であり、例えば箱型、円柱型、三角柱型、四角柱型、五角柱型、六角柱型、八角柱型、球状等を挙げることができる。そして、該密閉容器は、熱伝導性、放熱性に優れるばかりか超音波溶着性にも優れたものであることから、中空形状を有したものであってもその接着性、気密性は優れたものであり、耐漏性に優れる密閉容器となり、特に電子部品、電気部品、溶媒等を収納・保管するケースとすることが好ましい。
【0045】
本発明の密閉容器とする際には、容器部と蓋部とを超音波溶着すればよく、その際の溶着条件に特に制限を設けるものではなく、一般的に用いられている周波数、振幅、溶着圧力、溶着時間で溶着することができる。更に溶着接合面に、予めエポキシ系、ウレタン系、シリコン系等の接着剤を塗布し、溶着を行っても差し支えない。
【0046】
本発明の密閉容器は、容器部と蓋部とを超音波溶着したものであり、熱伝導性、密閉性、耐漏性に優れる密閉容器となることから、例えば燃料タンク、オイルタンク、バッテリーケース、コンデンサ容器、電解液保存容器、耐酸性容器、耐アルカリ性容器、有機溶媒保存容器、水保存容器等の溶媒容器;電子回路、電装部品、パワーモジュール、トランジスタ、IC、コンデンサ等の電子部品保管容器;発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバータ、電極、電池等の電気部品保管容器、等として用いることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の密閉容器は、熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、および成形品外観にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部よりなることから、電気・電子部品又は自動車電装部品、溶媒などの密封、密閉、耐漏性に優れるとともに、熱伝導性にも優れるものである。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されものではない。
【0049】
実施例及び比較例において用いたポリアリーレンスルフィド、熱伝導性フィラー、繊維状充填材、金属ケイ素粉末、離型剤、その他フィラーの詳細を以下に示す。
【0050】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−1)(以下、単にPPS(A−1)と記す。)
:溶融粘度110ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−2)(以下、単にPPS(A−2)と記す。)
:溶融粘度300ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−3)(以下、単にPPS(A−3)と記す。)
:溶融粘度350ポイズ。
【0051】
<熱伝導性フィラー(B)>
タルク(B1−1);日本タルク(株)製、(商品名)MSZC、平均粒子径12μm、アミノシラン処理。
六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2−1)(以下、単に鱗片状窒化ホウ素(B2−1)と記す。);電気化学工業(株)製、(商品名)デンカボロンナイトライドSGP、平均粒子径18.0μm、比表面積2m/g、G.I値0.9。
被覆酸化マグネシウム(B3−1);タテホ化学工業(株)製、(商品名)クールフィラーCF2−100、フォルステライトによる表面被覆、平均粒子径20μm。
酸化アルミニウム(B4−1);昭和電工(株)製、(商品名)丸み状アルミナAS−30、α結晶の単粒状アルミナ、球状、平均粒子径18μm。
酸化アルミニウム(B4−2);キンセイマテック(株)製、(商品名)セラフYFA10030、六角板状、平均外径サイズ10μm、アスペクト比33。
窒化アルミニウム(B5−1);古河電子(株)製、(商品名)FAN−F05、酸化イットリウムと窒化ホウ素との併用処理、平均粒子径5μm。
【0052】
<繊維状充填材(C)>
ガラス繊維(C−1);エヌエスジー・ヴェトロテックス(株)製、(商品名)RES03−TP91;繊維径9μm、繊維長3mm。
【0053】
<金属ケイ素粉末(D)>
金属ケイ素粉末(D−1);キンセイマテック(株)製、(商品名)金属シリコン#200(98%);ケイ素含有率98.4重量%、平均粒子径17μm、不定形状粉末。
【0054】
<離型剤(E)>
カルナバワックス(E1−1);日興ファインプロダクツ製、(商品名)精製カルナバ1号粉末。
【0055】
<その他フィラー(F)>
炭酸カルシウム(F−1);白石カルシウム(株)製、(商品名)ホワイトンB;重質炭酸カルシウム、平均粒子径3.6μm。
【0056】
合成例1(PPS(A−1)、PPS(A−2)の合成)
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、NaS・2.8HO1866g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)5リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、407gの水を溜出させた。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2280gとNMP1500gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、ポリマーを遠心分離器により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。
【0057】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−1))の溶融粘度は110ポイズであった。
【0058】
更にPPS(A−1)を、空気雰囲気下235℃で加熱硬化処理を行った。
【0059】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−2))の溶融粘度は300ポイズであった。
【0060】
合成例2(PPS(A−3))の合成)
攪拌機を装備する15リットルチタン製オートクレーブにNMP3232g、47%硫化水素ナトリウム水溶液1682g及び48%水酸化ナトリウム水溶液1142gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、1360gの水を溜出させた。この系を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン2118gとNMP1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて1時間重合し、続けて250℃まで昇温し、250℃にて2時間重合した。更に、250℃で水451gを圧入し、再度255℃まで昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを固液分離した。ポリマーをNMP、アセトン及び水で順次洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。
【0061】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−3))は直鎖状のものであり、その溶融粘度は350ポイズであった。
【0062】
実施例及び比較例で用いた評価・測定方法を以下に示す。
【0063】
〜熱伝導率の測定〜
射出成形により長さ70mm、幅70mm、厚み2mmの平板作製し、熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定は、測定装置(アルバック社製、(商品名)TC7000;ルビーレーザー)を用い、23℃の条件下で、レーザーフラッシュ法にて測定した。熱伝導率は平面方向で測定し、平面方向の熱伝導率は、熱容量Cpと平面方向の熱拡散率αを求め、次式より熱伝導率を算出した。
平面方向の熱伝導率=ρ×Cp×α
ここで、密度ρは、ASTM D−792 A法(水中置換法)に準じ測定した。熱伝導率として2.0W/(m・K)を超えるものを熱伝導性に優れると判断した。
【0064】
〜超音波溶着強度の測定〜
射出成形により図1に示す形状の溶着試験片1と溶着試験片2とを成形し、図2に示す様に溶着試験片1と溶着試験片2とを重ね合わせ、超音波溶着機(精電舎電子工業(株)製、(商品名)超音波ウェルダー1201B/P46A)で超音波溶着を行い、超音波溶着強度測定用試験片を調製した。
超音波溶着の溶着条件を以下に示す。
周波数 :19.15kHz
振幅 :22μm
加圧圧力:300kPa
溶着時間:0.50秒
超音波溶着した試験片を、測定装置(島津製作所製、(商品名)AG−5000B)を用い、測定速度10mm/分の試験条件で溶着強度を測定した。
【0065】
超音波溶着強度の測定は、熱伝導性フィラー(B)を配合したポリアリーレンスルフィド系組成物により調製した溶着試験片1及び2を評価測定した強度(以下、この強度を超音波溶着強度Aと言う。)と、熱伝導性フィラー(B)を配合したポリアリーレンスルフィド系組成物により調整した溶着試験片1と該熱伝導性フィラー(B)を配合していないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物により調製した溶着試験片2により評価測定した強度(以下、この強度を超音波溶着強度Bと言う。)をそれぞれ測定した。超音波溶着強度Aとして250Nを超えるものを、超音波溶着強度Bとしては350Nを超えるものを、超音波溶着性に優れると判断した。
【0066】
〜密閉容器の調製及び溶着接合性〜
熱伝導性フィラー(B)を配合しないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形により図3に示す四角平板1の蓋部に成形した。また、熱伝導性フィラー(B)を配合したポリアリーレンスルフィド系組成物を射出成形により図3に示す箱型容器2の容器部に成形した。該容器部に水25cmを入れ、蓋部を、容器部のつばの部分で重ね合わせ、超音波溶着機で超音波溶着を行い、接合することにより密閉容器を得た。超音波溶着は超音波溶着強度の測定に示す条件と同じ条件で行った。この密閉容器を150℃に設定したギヤー式オーブンに入れ24時間放置した。放置後、密閉容器から水漏れのないものを○、水漏れのあるもの×として判定した。尚、水漏れの有無は、オーブンに入れる前後の密閉容器の総重量で判定した。成形品の溶着接合性は○であるものを優れると判断した。
【0067】
〜体積固有抵抗率の測定〜
射出成形により直径50mm、厚み2mmの円盤状試験片を作製し、該円盤状試験片を用いて、ASTM D−257に準じ、体積固有抵抗率を測定した。測定装置(絶縁抵抗試料箱;タケダ理研製、(商品名)TR−42型、絶縁抵抗計;タケダ理研製、(商品名)TR−8601型)を用い、測定印加電圧500V、23℃の試験条件下で行った。体積固有抵抗率として1.0×1014Ω・cm以上であるものを電気絶縁性に優れると判断した。
【0068】
〜曲げ強度の測定〜
射出成形により長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの試験片を作製し、該試験片を用いて、ASTM D−790 Method−1(三点曲げ法)に準じ、曲げ強度を測定した。測定装置は(商品名)AG−5000B(島津製作所製)を用い、支点間距離50mm、測定速度1.5mm/分の試験条件で行った。曲げ強度として120MPaを超えるものを機械的強度に優れると判断した。
【0069】
〜バーフロー長さの測定〜
溶融流動性の指標としてバーフロー長さ(以下、BFLと記す。)を測定した。射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)に、深さ1mm、幅10mmの溝がスパイラル状に掘られた金型を装着し、次いで、シリンダー温度を310℃、射出圧力を190MPa、射出速度を最大、射出時間を1.5秒、及び金型温度を135℃に設定した該射出成形機のホッパーにポリアリーレンスルフィド組成物を投入し、射出した。そして金型内のスパイラル状の溝を溶融流動した長さをBFLとして測定した。BFLとして80mmを超えるものを溶融流動性に優れると判断した。
【0070】
〜成形品外観〜
熱伝導率の測定と同じ平板を作製し、該平板の表面状態を目視にて観察した。表面全体に艶のあるものを○、表面の一部に艶のあるもの、又は、表面にまったく艶のないものを×として判定した。成形品外観が○であるものを成形品外観に優れると判断した。
【0071】
実施例1
PPS(A−2)100重量部、及びタルク(B1−1)80重量部の割合で配合して、シリンダー温度310℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C−1)50重量部を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド系組成物を作製した。
【0072】
また、PPS(A−2)100重量部、炭酸カルシウム(F−1)100重量部、及びカルナバワックス(E1−1)1重量部の割合で配合して、シリンダー温度310℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入し、一方、ガラス繊維(C−1)35重量部を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を作製した。
【0073】
該ポリアリーレンスルフィド系組成物を、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、熱伝導率を測定し成形品外観を評価するための平板、超音波溶着強度を測定するための溶着試験片1及び2、密閉容器の溶着接合性を評価するための箱型容器2、体積固有抵抗率を測定するための円盤状試験片、曲げ強度を測定するための試験片をそれぞれ成形した。更に、BFLを測定した。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形機のホッパーに投入し、溶着試験片2及び密閉容器の四角平板1を成形した。また、箱型容器2からなる容器部と四角平板1からなる蓋部とを超音波溶着により接合し、密閉容器とした。その際、容器部には水25cmを入れた。
【0074】
これら試験片を用い、熱伝導率、超音波溶着強度A及びB、密閉容器の溶着接合性、体積固有抵抗率、及び曲げ強度を測定すると共に成形品外観を評価した。これらの結果を表1に示した。
【0075】
得られた密閉容器は、熱伝導性、超音波溶着性、溶着接合性、電気絶縁性、機械的強度、溶融流動性、及び成形品外観に優れていた。
【0076】
実施例2〜11
PPS(A−1,2,3)、タルク(B1−1)、鱗片状窒化ホウ素(B2−1)、被覆酸化マグネシウム(B3−1)、酸化アルミニウム(B4−1,2)、窒化アルミニウム(B5−1)、ガラス繊維(C−1)、金属ケイ素粉末(D−1)、及びカルナバワックス(E1−1)を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド系組成物を作製し、その評価、密閉容器の作成を行った。その際の密閉容器の蓋部は、実施例1と同様のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から調製を行った。なお、実施例6及び9については、蓋部もポリアリーレンスルフィド系組成物で作成し密閉容器とした。その評価結果を表1に示した。
【0077】
得られた全ての密閉容器は、熱伝導性、超音波溶着性、溶着接合性、電気絶縁性、機械的強度、溶融流動性、及び成形品外観に優れていた。
【0078】
【表1】

比較例1〜5
PPS(A−2)、タルク(B1−1)、被覆酸化マグネシウム(B3−1)、ガラス繊維(C−1)、金属ケイ素粉末(D−1)、及びカルナバワックス(E1−1)を表2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド系組成物を作製し、その評価、密閉容器の作成を行った。その際の容器の蓋部は、実施例1と同様のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から調製を行った。その評価結果を表2に示した。
【0079】
比較例1,3,5により得られた容器は、熱伝導性に劣るものであった。比較例2,5により得られた容器は、超音波溶着性、溶着接合性に劣るものであった。比較例2,4により得られた容器は、機械的強度が劣るものであった。比較例2,5により得られた容器は、成形加工性に劣るものであった。また、比較例2,5により得られた容器は、成形品外観に劣るものであった。
【0080】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の密閉容器は、熱伝導性、電気絶縁性に特に優れると同時に、超音波溶着性にも優れ、更には機械的強度、溶融流動性、および成形品外観にも優れるものであり、特に電気・電子部品又は自動車電装部品、溶媒等の保存・密閉用の容器として期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】;超音波溶着強度を測定する際の試験片の例を示す図である。
【図2】;超音波溶着強度測定用の試験片の調製例を示す図である。
【図3】;実施例により得られた密閉容器を構成する蓋部、容器部の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともタルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(B)80〜200重量部、及び、繊維状充填材(C)50〜100重量部を含むポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる蓋部とを超音波溶着してなることを特徴とする密閉容器。
【請求項2】
容器部が、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、さらに金属ケイ素粉末(D)25〜50重量部を含み、金属ケイ素粉末(D)/熱伝導性フィラー(B)=0.125〜0.25(wt/wt)の範囲のポリアリーレンスルフィド系組成物からなる容器部であることを特徴とする請求項1に記載の密閉容器。
【請求項3】
蓋部が、ポリアリーレンスルフィド100重量部に対し、充填材20〜300重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる蓋部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の密閉容器。
【請求項4】
蓋部が、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともタルク(B1)、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素(B2)、酸化マグネシウム(B3)、酸化アルミニウム(B4)、窒化アルミニウム(B5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(B)80〜200重量部、及び、繊維状充填材(C)50〜100重量部を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる蓋部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の密閉容器。
【請求項5】
媒体を密閉するケースであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の密閉容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86823(P2013−86823A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227789(P2011−227789)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】