説明

密閉式掘削装置及び密閉式掘削方法

【課題】アンダーパス工事において鋼殻を使用した外殻先行トンネル工法を適用できるようにし、安全で効率の良い掘削を可能とすることで外殻形成に掛かる施工時間の短縮と労力の軽減を図る。また地山の緩み高さを小さくすることで地上の構造物や路線等に及ぼす影響を回避して土圧保持力の向上と土圧バランスの維持とを図る。
【解決手段】本発明の密閉式掘削装置9は、地山Rを掘削するカッター要素20と、カッター要素20を駆動する駆動手段21と、これらを保持するシールド筒体22とを備え、シールド筒体22を筒状胴部25と、可動手段26の伸長に伴って掘進方向に迫り出す可動ルーフ27とによって構成されている。また本発明の密閉式掘削方法では、カッター要素20による地山Rの掘削に先行させて可動ルーフ27は掘進方向に迫り出させるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば道路や鉄道の盛土部等のアンダーパス工事において直上に位置する道路や鉄道に影響を及ぼすことなく横に長い矩形断面の外殻用下穴を掘削する場合に好適な密閉式掘削装置及び該密閉式掘削装置を使用した密閉式掘削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数の構造物が林立し、網目状に道路や鉄道、モノレールの軌道等(本明細書ではこれらを総称して路線という)が張り巡らしている都市部では、地上の構造物や路線等に影響を与えることなく、その地下においてトンネルを構築し、新たな路線等を敷設する工事が頻繁に行われている。また地上に盛土部を設け、盛土部に沿うようにその上面に一路線、当該盛土部の側面を貫通するようにトンネルを設けて上記路線と交差する他の路線をその直下に敷設する工事も行われている。
【0003】
これらはアンダーパス工事と呼ばれ、地下の比較的浅い個所、あるいは盛られた土砂の量がそれほど多く期待できない低土被りの盛土部に対して適用されることから、トンネルの構築に先立って周辺地山の崩落や直上に位置する構造物や路線等に及ぼす影響を回避するために、外殻を構築する外殻先行トンネル工法が採用されている。尚、外殻は門型ないし矩形枠状をした構造体であり、従来は多数本の角鋼管を使用して直接外殻を構築するようにしたもの、あるいは端部に係合構造を備えた平鋼板を使用して外殻を構築するようにしたものが主流であった。
【0004】
一方、地中深くに大型の矩形断面のトンネルを形成する場合には、下記特許文献1に示すように上記円形鋼管や角鋼管より更に口径の大きな鋼殻を使用し、先行して掘削した外殻用下穴内に設置して隣接する鋼殻間をボルト、ナットにより締結固定することによって外殻を形成する工法も発案されている。また円形以外の異形状のトンネルを掘削する掘削手段としては、下記特許文献2に示すようなシールド掘進機が既に本出願人によって開発されている。
【0005】
しかし、上記角鋼管ないし平鋼板を使用する工法にあっては、基準となるエレメント(ここでは角鋼管ないし平鋼板を意味する)の口径ないし幅寸法が小さいため、多数のエレメントを使用しなければならず多大な施工時間と労力を必要としていた。また鋼殻を設置する工法にあっては、先行して口径の大きな外殻用下穴を掘削しなければならず、上述のように地下の比較的浅い個所や低土被りの盛土部に対して適用されるアンダーパス工事では、周辺地山の崩落や直上に位置する構造物や路線等に及ぼす影響が拭い切れず、その適用は困難とされていた。また矩形断面のトンネルの掘削には特許文献2に示すシールド掘進機が使用できるが、周辺地山の崩落や直上に位置する構造物や路線等に及ぼす影響が極めて大きくなることから、そのままの形での適用は事実上不可能と言える。
【0006】
更にアンダーパス工事では、以下述べるような「緩み高さ」の問題があって、口径の大きな、特に幅寸法の大きなトンネル等を掘削することは理論的に難しいとされていた。即ち、図7(a)に示すように、幅寸法がa、高さ寸法がbの矩形断面のトンネルTRを掘削する場合、底辺の両端の端点c、c’から緩み角度θ=45°―φ/2(ここに φ:土の内部摩擦角)の角度で上方に斜線を立ち上げ、上辺の延長線との交点d、d’を求める。そしてd、d’を結ぶ線分を直径とする半円をトンネルTRの上方に描く。
【0007】
この時描いた半円内の領域が概略の緩み領域A、緩み領域Aの高さが緩み高さHとなる。尚、上記条件を当て嵌めると、概略の緩み高さH=2aとなる。また、トンネルTRの側断面方向での緩み領域Aは図7(b)に示すような分布となる。即ち、図7(b)に示すように、トンネルTR先端の下点c’’から緩み角度θ=45°―φ/2の角度で上方に斜線を立ち上げ、上点eから水平に延ばした直線との交点fを求める。そして、図示のような上点eと交点fを結んだ線分を下辺とする幾分掘進方向に偏った放物線状の曲線によって区画された領域が緩み領域A、緩み領域Aの高さが緩み高さHとなる。
【0008】
同様に図7(c)に示すように、幅寸法が4a、高さがbの横に長い矩形断面のトンネルTRを掘削する場合には、図示のように緩み領域Aは拡大し、緩み高さH’も大きくなって、H’=8aとなる。これによりトンネルTRの高さ寸法bは、掘削手段の高さ寸法によって一義的に定まり一定と考えることができるから、トンネルTRの幅寸法の大きさに比例して緩み高さHは大きくなることがわかる。従って、地上ないし盛土部の上面から極めて浅い位置にトンネルTRを形成するアンダーパス工事では、上述のような緩み高さH’の問題があってできるだけトンネルTRの幅寸法aは小さくすることが理論的には望ましいと言うことができる。
【0009】
【特許文献1】特開2001−288991号公報
【特許文献2】特開2000−45689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景技術及び背景技術が抱える問題点の存在を踏まえてなされたものであって、その目的はアンダーパス工事において鋼殻を使用した外殻先行トンネル工法を適用できるようにし、安全で効率の良い掘削を可能とすることで外殻形成に掛かる施工時間を短く、労力を小さくすることができ、地山の緩み高さを小さくすることで地上の構造物や路線等に及ぼす影響を回避できる土圧保持力の向上と土圧バランスの維持とを図ることのできる密閉式掘削装置及び該密閉式掘削装置を使用した密閉式掘削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の第1の態様に係る密閉式掘削装置は、直接地山を掘削するカッター要素と、カッター要素を駆動する駆動手段と、カッター要素及び駆動手段を保持するシールド筒体とを備え、地山を掘削するに際して当該掘削部位周辺を密閉して圧力をかけた状態で掘削するようにした密閉式の掘削装置であって、前記シールド筒体は、上記カッター要素と駆動手段とを保持してこれらと一体に移動する筒状胴部と、筒状胴部の上部に位置し、可動手段によって筒状胴部とは別個独立して掘進方向に迫り出すように移動する可動ルーフとを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、可動ルーフをカッター要素に先行させて掘進方向に迫り出させることによって、緩み高さを小さくすることができ、地上の構造物や路線等に及ぼす影響を回避することができる。また地山を掘削するに際して掘削部位周辺を密閉して圧力をかけた状態で掘削していることから、上記緩み高さを小さくしたことと相俟って土圧保持力及び土圧バランスの維持の向上を図ることができ、安定した精度の高い掘削を実行することが可能となる。
【0013】
本発明の第2の態様に係る密閉式掘削装置は、第1の態様において、前記シールド筒体は前記カッター要素を複数組水平方向に並設した横に長い角筒状の部材であって、当該シールド筒体における可動ルーフはそれぞれ別個独立して駆動される複数枚の可動ブレードによって構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、カッター要素を複数組水平方向に並設したことにより横に長い角穴を一挙に形成することができる。また、上記角穴を外殻用下穴として利用した場合には、横に長い長尺の鋼殻をそのまま設置できるから短寸の鋼殻を水平方向に複数連接する作業が不要となり、施工時間の短縮と労力の軽減を図ることができる。また、可動ルーフを複数枚の可動ブレードに分断し、これらの可動ブレードを組み合わせることによって構成したから、可動ルーフに掛かる土砂の荷重も分断されて可動ブレードの動きが円滑になる。
【0015】
本発明の第3の態様に係る密閉式掘削装置は、第2の態様において、前記可動手段は油圧ジャッキであり、1枚の可動ブレードに対して2基のブレード可動油圧ジャッキを使用して駆動するようにしたことを特徴とするものである。
本発明の第3の態様によれば、駆動力の大きな油圧ジャッキを使用することで可動ブレードは傾くことなく正確に大きな駆動力によって掘削部位の地山中に挿入される。
【0016】
本発明の第4の態様に係る密閉式掘削装置は、第1〜第3のいずれか1つの態様において、前記可動ルーフの迫り出し量は、直上の地山の緩み高さを直上の地山等に影響を与えない程度に低くでき、尚且つ可動ルーフの円滑な移動を妨げるような大きさの土圧が掛からない範囲に設定されていることを特徴とするものである。
本発明の第4の態様によれば、直上の地山の緩み高さを所望の大きさまで小さくでき、可動ルーフに掛かる負荷も可動ルーフの動作に支承がない程度まで小さくできるから、可動ルーフを長期に亘って安定して動作させることが可能となる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る密閉式掘削装置は、第2〜第4のいずれか1つの態様において、前記密閉式掘削装置は道路や鉄道の盛土部等のアンダーパス工事において適用される掘削装置であって、複数組のカッター要素を水平方向に並設した横に長い密閉式の横型パッケージ掘進機であることを特徴とするものである。
本発明の第5の態様によれば、地上の構造物や路線等から極めて浅い位置に設けられるトンネルの掘削工事を短時間で少ない労力で効率良く行うことができる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る密閉式掘削方法は、地山を掘削するに際して当該掘削部位周辺を密閉して圧力をかけた状態で掘削する密閉式掘削装置を使用した密閉式掘削方法であって、前記密閉式掘削装置として第1〜第5のいずれか1つの態様の密閉式掘削装置を使用しており、カッター要素による地山の掘削に先行して可動ルーフを掘進方向に迫り出させることを特徴とするものである。
本発明の第6の態様によれば、カッター要素の掘削時の振動等によって生ずる直上の地山の崩落や地上の構造物及び路線等に与える影響を未然に防止した状態で地山の掘削を行うことが可能となる。
【0019】
本発明の第7の態様に係る密閉式掘削方法は、第6の態様において、前記密閉式掘削方法は、地山の掘削部位周辺を密閉して圧力を掛けた状態で保持すると共に、可動ルーフの先端位置をカッター要素の先端位置より幾分突出させた可動開始位置にして地山の掘削開始壁面に当接させた状態とする可動開始準備工程と、可動手段により可動ルーフを所定の迫り出し量、掘進方向に迫り出させて地山中に挿入する可動ルーフ迫り出し工程と、駆動手段を駆動してカッター要素を作動状態にすると共に、シールド筒体を上記可動ルーフの迫り出し量分掘進させる掘削掘進工程とを有し、これらを繰り返し実行することによって所望の長さ、地山を掘削するようにしたことを特徴とするものである。
本発明の第7の態様によれば、カッター要素の待機時〜作動時の一連の状態において掘削部位周辺の地山の緩み高さが小さく設定されているから、土圧管理が適正に行われて、土圧保持力の向上及び土圧バランスの維持が図られる。
【0020】
本発明の第8の態様に係る密閉式掘削方法は、第6または第7の態様において、前記カッター要素による地山の掘削及びシールド筒体の掘進と同時にシールド筒体の内側からシールド筒体の外部に向けて滑材を注入するようにしたことを特徴とするものである。
本発明の第8の態様によれば、シールド筒体の外表面と地山との間の空隙部に滑材を至らせることができるから、滑材を介してシールド筒体によって直上の地山は保持されているから、直上の地山の沈下等、地上の構造物や路線等に与える影響は防止される。また滑材の注入によってシールド筒体の掘進は円滑に行われるようになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外殻形成の基準になるエレメントサイズを大きくすることが可能となり、当該エレメントとして横に長い長尺の鋼殻を使用することが可能となる。従って、外殻形成に掛かる施工時間を大幅に短くでき、労力を軽減することができる。そして、可動ルーフの採用により地山の緩み高さを小さくすることができるから、安定し強固な土圧保持が図られ、土圧バランスの維持を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本願発明に係る密閉式掘削装置及び該密閉式掘削装置を使用することによって実行される本願発明にかかる密閉式掘削方法について下記の実施例を例にとって説明する。尚、下記の実施例では地上(地面線GLより上方)の構造物や路線等に影響を与えることなく、その直下(地面線GLより下方)の比較的浅い地下にトンネルを構築し、あるいは地上に設けた盛土部に対してトンネルを構築してトンネル内に新たな路線等を敷設するアンダーパス工事に使用する場合を想定して説明する。また下記の実施例では、上述のようなアンダーパス工事においてトンネルの形成に先立って外殻を構築するようにした外殻先行トンネル工法を採用し、外殻を形成するための基準になるエレメントとして口径の大きな外殻を使用し、当該鋼殻を設置するための外殻用下穴を掘削する場合を例にとって説明する。
【0023】
最初に図1、図2に基づいて外殻1の基本的構成について説明する。図1は横型鋼殻3と縦型鋼殻4とを組み合わせることによって構成される外殻1の一例を示す正面から見た縦断面図である。図2は基準鋼殻2と横型鋼殻3と縦型鋼殻4とを組み合わせることによって構成される外殻1の他の一例を示す縦断面図である。
【0024】
外殻1は、トンネルの構築に先立って周辺地山Rの崩落や地上の構造物や路線等に与える影響を防止するために設けられる構造体である。図1に示す外殻1は、矩形枠状に形成されており、外殻1の天井部及び床部に2つずつ設けられる計4つの横型鋼殻3と、左右の側壁部に2段ずつ設けられる計4つの縦型鋼殻4とを接合することによって構成されている。また横型鋼殻3と縦型鋼殻4は図示を省略した鋼殻の接合装置によって接合され、各鋼殻3、4内には中詰めコンクリート7が充填され、中詰めコンクリート7を養生、固化させることによって外殻1が形成されている。尚、各鋼殻3、4内に充填される中詰めコンクリート7としては、高流動コンクリートが一例として使用されている。
【0025】
図2に示す外殻1は、図1と同様矩形枠状に形成されており、外殻1の隅角部に設けられる4つの基準鋼殻2と上下または左右に位置する基準鋼殻2間を連接する2つずつ設けられる天井、床部用の横型鋼殻3と、側部用の縦型鋼殻4とを接合することによって構成されている。また基準鋼殻2と横型鋼殻3ないし縦型鋼殻4は図示しない鋼殻の接合装置によって接合され、各鋼殻2、3、4内には中詰めコンクリート7が充填され、中詰めコンクリート7を養生、固化させることによって外殻1の骨格は形成されている。そして基準鋼殻2には、その一部に仮設鋼殻8が設けられており、トンネルTRの掘削の際に上記仮設鋼殻8を除去することによって外殻1は矩形枠状に整形される。
【0026】
[実施例]
次に、図1に示す外殻1を形成する場合を例にとって、当該外殻1を形成するのに先立って行われる外殻用下穴100の掘削に使用される本願発明に係る密閉式掘削装置の一例である密閉式掘進機9の構造と、当該密閉式掘進機9を使用することによって実行される本願発明に係る密閉式掘削方法について説明する。尚、図3は本発明に係る密閉式掘削装置の一例を示す正面から見た縦断面図、図4は同密閉式掘削装置の側断面図である。図5は本発明に係る密閉式掘削方法の各工程を示す説明図である。また図6は本発明の密閉式掘削装置を使用した場合の緩み領域と緩み高さの大きさを示す説明図である。
【0027】
密閉式掘進機9は、直接地山Rを掘削するカッター要素20と、カッター要素20を駆動する駆動手段21と、カッター要素20及び駆動手段21を保持するシールド筒体22とを備えている。また密閉式掘進機9は、地山Rを掘削するに際して当該掘削部位周辺を密閉して圧力を掛けた状態で掘削する密閉式の掘削装置であって、本実施例では左右一対4組のカッター要素20を水平方向に並設した横型パッケージ掘進機11と左右互い違いに2組のカッター要素20を垂直方向に段積みした縦型パッケージ掘進機12との2種類を備えている。
【0028】
カッター要素20は、図3に示すように所定の角度範囲内において往復揺動されるカッタービット固定揺動板13と、カッタービット固定揺動板13に対して多数設けられるカッタービット14と、カッタービット固定揺動板13に対して出没自在に設けられ、カッタービット14の掘削残部を掘削するコピーカッター16とを備えることによって構成されている。尚、カッター要素20としては、本出願人が既に出願して公開されている特開2000−45689号公報の翼型シールド掘進機において採用されている翼型のカッタービット固定揺動板13を備えるカッター要素が一例として採用できる。
【0029】
因みにこの翼型のカッター要素は、カッタービット固定揺動板13を翼形状とし、その揺動中心を外殻用下穴100の中心より上部に位置させたことにより、カッタービット固定揺動板13を鳥の翼の羽ばたきのように上下方向に揺動させることができるため効率的な掘削が可能である。従って図1、図2に示すように横または縦に長い矩形断面の外殻用下穴100を掘削するのに最も好適なカッター要素20と言うことができる。
【0030】
駆動手段21は、図4に示すようにカッタービット固定揺動板13を駆動するカッタービット揺動油圧ジャッキ15と、コピーカッター16を駆動するコピーカッター油圧ジャッキ17とを備えることによって構成されている。またシールド筒体22は、外殻用下穴100の形状に合わせて一例として角筒状をした前筒体23と後筒体24とから構成されており、前筒体23と後筒体24との間には、前筒体23の掘進方向を調整する図示しない掘進方向修正油圧ジャッキが設けられている。また前筒体23は、上記カッター要素20と駆動手段21を保持してこれらと一体に移動する筒状胴部25と、筒状胴部25の上部に位置し、可動手段26の伸長に伴って筒状胴部25とは別個独立して移動する可動ルーフ27とを備えることによって構成されている。
【0031】
可動ルーフ27は、一例として4枚の可動ブレード28を組み合わせることによって構成されており、1枚の可動ブレード28に対して幅方向の端部寄りに2基のブレード可動油圧ジャッキ29を可動手段26として備えている。そして、ブレード可動油圧ジャッキ29の伸長に伴って、可動ブレード28は、シールド筒体22の掘進方向に所定ストローク迫り出して移動するように構成されている。尚、可動ブレード28の迫り出し量は、直上の地山Rの緩み高さHを直上の地山R等に影響を与えない程度に低くでき、尚且つ可動ブレード28の円滑な移動を妨げるような大きさの土圧が掛からない範囲内で設定される。因みに本実施例では、可動ブレード28の迫り出し量を一例として60cm程度に設定した。
【0032】
シールド筒体22の内部には掘削した土砂R(地山と同じ符号Rで示す)を掘進方向後方に搬出するスクリューコンベヤ19が設けられ、シールド筒体22の内壁面には、シールド筒体22の外部に向けて図示しない滑材を注入するための図示しない注入口が設けられている。尚、ここで使用する滑材としては、セメントミルク等の固化性液状物と混合した場合に凝集しない性質を持つベントナイトと水と珪酸ソーダを主成分とする流動性充填材が一例として使用できる。
【0033】
次に、このようにして構成される密閉式掘進機9を使用することによって実行される本発明の密閉式掘削方法を、横型パッケージ掘進機11を使用することによって実行される天井部に形成される外殻用下穴100の掘削作業を例にとって説明する。本発明の密閉式掘削方法は、カッター要素20による地山Rの掘削に先行して常に可動ルーフ27を掘進方向に迫り出させるようにしたことを特徴としており、可動開始準備工程と、可動ルーフ迫り出し工程と、掘削掘進工程とを備え、これらを繰り返し実行することによって構成されている。
【0034】
可動開始準備工程では、地山Rの掘削部位周辺を密閉して圧力を掛けた状態で保持すると共に、図5(a)に示すように、可動ルーフ27の先端位置をカッター要素20の先端位置より幾分突出させた可動開始位置にして地山Rの掘削開始壁面に当接させた状態とする。従って、カッター要素20による掘削の際に生ずる振動がその直上の地山Rに作用したとしても、地山Rの崩落は生ぜず、安定した掘削が実行される。また可動ルーフ27を可動開始位置に至らせることにより、カッター要素20が駆動していない待機状態においても直上の地山Rの荷重はカッター要素20には直接作用していないから、カッター要素20は大きな掘削抵抗を受けることなく円滑に掘削が開始される。
【0035】
可動ルーフ迫り出し工程では、図5(b)に示すように、可動手段26としてのブレード可動油圧ジャッキ29を伸長させ可動ルーフ27を所定の迫り出し量、掘進方向に迫り出させて地山R中に挿入させた状態とする。この状態では、直上の地山Rの荷重は、可動ルーフ27によって保持されることになり、地山Rの緩みによって生ずる地山Rの崩落は生じない。可動ルーフ27の迫り出しは、個別の可動ブレード28単体で行われるため、直上の地山Rの荷重は可動ブレード28毎に分配されるから可動ブレード28の円滑な移動も保証される。
【0036】
掘削掘進工程では、図5(c)に示すように駆動手段21としてのカッタービット揺動油圧ジャッキ15とコピーカッター油圧ジャッキ17を駆動してカッター要素20を作動状態とする。またこれと同時に図示しない前進用ジャッキを駆動してシールド筒体22を上記可動ルーフ27の迫り出し量分掘進させる。これにより地山Rは、上記迫り出し量分掘削される。
【0037】
また、シールド筒体22の掘進方向を修正したい場合には、適宜図示しない複数の前進用油圧ジャッキを調整して前筒体23の傾斜角度を調整してシールド筒体22の進行方向を修正する。また上記カッター要素20による地山Rの掘削及びシールド筒体22の掘進と同時にシールド筒体22の内壁面の注入口からシールド筒体22の外部に向けて滑材を必要に応じて注入する。因みに滑材を注入した場合には、直上に位置する地山Rの沈下防止とシールド筒体22の掘進抵抗の低減とを図ることができる。
【0038】
そして、図5(d)に示すように、再び可動ルーフ27を所定ストローク迫り出させ、カッター要素20による地山Rの掘削と前進用ジャッキによるシールド筒体22の掘進とを繰り返し実行することによって所望の長さの外殻用下穴100が形成される。尚、このような密閉式掘削方法を採用した場合の緩み領域Aと緩み高さH’’は、図6に示すように格段に小さくなり、従来の密閉式掘削装置を使用した場合の図7に示す緩み領域A’及び緩み高さH’と比較すると大幅に改善されたことが明確となる。
【0039】
[他の実施例]
本願発明に係る密閉式掘削装置9及び該密閉式掘削装置9を使用した本発明の密閉式掘削方法は、以上述べたような構成を基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。例えば、可動ルーフ27を複数本の可動ロッドを備えた櫛歯状の形状とすることで可動ルーフ27の地山R中への挿入抵抗を低減させることが可能である。またこの場合の可動ロッドは掘進方向に迫り出すだけでなく、ドリルのように軸中心の周りを回転できるような構成とすることも可能である。
【0040】
この他、掘削装置の構成としては、元押しジャッキによる押し込み動作によって推進する推進機を備えたもの、更に高度な機能を備えるシールドマシン等の種々の構成の掘削装置が採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明は、アンダーパス工事等が行われているトンネル施工現場、より具体的には、トンネルの施工に先立って行われる外殻用下穴の掘削を効率良く、安全に、安定して行なえるようにしたい場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】横型鋼殻と縦型鋼殻とを組み合わせることによって構成される外殻の一例を示す正面から見た縦断面図である。
【図2】基準鋼殻と横型鋼殻と縦型鋼殻とを組み合わせることによって構成される外殻の他の一例を示す正面から見た縦断面図である。
【図3】本発明に係る密閉式掘削装置の一例を示す正面から見た縦断面図である。
【図4】本発明に係る密閉式掘削装置の一例を示す側断面図である。
【図5】本発明に係る密閉式掘削方法の各工程を示す説明図である。
【図6】本発明の密閉式掘削装置を使用した場合の緩み領域と緩み高さの大きさを示す説明図であって、(a)は正面から見た縦断面図、(b)は側断面図をそれぞれ示している。
【図7】従来の掘削装置を使用した場合の緩み領域と緩み高さの大きさを示す説明図であって、(a)は幅寸法がaで高さ寸法がbの基本的な大きさのトンネルを形成する場合の正面から見た縦断面図、(b)は同上側断面図をそれぞれ示している。また(c)は幅寸法が4aで高さ寸法がbの横に長いトンネルを形成する場合の正面から見た縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 外殻、2 基準鋼殻、3 横型鋼殻、4 縦型鋼殻、7 中詰めコンクリート、
8 仮設鋼殻、9 密閉式掘進機(密閉式掘削装置)、11 横型パッケージ掘進機、
12 縦型パッケージ掘進機、13 カッタービット固定揺動板、14 カッタービット15 カッター揺動油圧ジャッキ、16 コピーカッター、
17 コピーカッター油圧ジャッキ、19 スクリューコンベヤ、20 カッター要素、21 駆動手段、22 シールド筒体、23 前筒体、24 後筒体、25 筒状胴部、26 可動手段、27 可動ルーフ、28 可動ブレード、
29 ブレード可動油圧ジャッキ、100 外殻用下穴、TR トンネル、
R 地山、土砂、GL 地面線、A 緩み領域、A’ 緩み領域、A’’ 緩み領域、
H 緩み高さ、H’ 緩み高さ、H’’ 緩み高さ、θ 緩み角度、
a (外殻用下穴の)幅寸法、b (外殻用下穴の)高さ寸法、c (下辺の)端点、
c’ (下辺の)端点、d 交点、d’ 交点、c’’ 下点、e 上点、f 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接地山を掘削するカッター要素と、カッター要素を駆動する駆動手段と、カッター要素及び駆動手段を保持するシールド筒体とを備え、地山を掘削するに際して当該掘削部位周辺を密閉して圧力をかけた状態で掘削するようにした密閉式掘削装置であって、
前記シールド筒体は、上記カッター要素と駆動手段とを保持してこれらと一体に移動する筒状胴部と、筒状胴部の上部に位置し、可動手段によって筒状胴部とは別個独立して掘進方向に迫り出すように移動する可動ルーフとを備えていることを特徴とする密閉式掘削装置。
【請求項2】
請求項1において、前記シールド筒体は前記カッター要素を複数組水平方向に並設した横に長い角筒状の部材であって、当該シールド筒体における可動ルーフはそれぞれ別個独立して駆動される複数枚の可動ブレードによって構成されていることを特徴とする密閉式掘削装置。
【請求項3】
請求項2において、前記可動手段は油圧ジャッキであり、1枚の可動ブレードに対して2基のブレード可動油圧ジャッキを使用して駆動するようにしたことを特徴とする密閉式掘削装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、前記可動ルーフの迫り出し量は、直上の地山の緩み高さを直上の地山等に影響を与えない程度に低くでき、尚且つ可動ルーフの円滑な移動を妨げるような大きさの土圧が掛からない範囲に設定されていることを特徴とする密閉式掘削装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項において、前記密閉式掘削装置は道路や鉄道の盛土部等のアンダーパス工事において適用される掘削装置であって、複数組のカッター要素を水平方向に並設した横に長い密閉式の横型パッケージ掘進機であることを特徴とする密閉式掘削装置。
【請求項6】
地山を掘削するに際して当該掘削部位周辺を密閉して圧力をかけた状態で掘削する密閉式掘削装置を使用した密閉式掘削方法であって、
前記密閉式掘削装置として請求項1〜5のいずれか1項に記載の密閉式掘削装置を使用しており、カッター要素による地山の掘削に先行して可動ルーフを掘進方向に迫り出させることを特徴とする密閉式掘削方法。
【請求項7】
請求項6において、前記密閉式掘削方法は、地山の掘削部位周辺を密閉して圧力をかけた状態で保持すると共に、可動ルーフの先端位置をカッター要素の先端位置より幾分突出させた可動開始位置にして地山の掘削開始壁面に当接させた状態とする可動開始準備工程と、可動手段により可動ルーフを所定の迫り出し量、掘進方向に迫り出させて地山中に挿入する可動ルーフ迫り出し工程と、駆動手段を駆動してカッター要素を作動状態にすると共に、シールド筒体を上記可動ルーフの迫り出し量分掘進させる掘削掘進工程とを有し、これらを繰り返し実行することによって所望の長さ、地山を掘削するようにしたことを特徴とする密閉式掘削方法
【請求項8】
請求項6または7において、前記カッター要素による地山の掘削及びシールド筒体の掘進と同時にシールド筒体の内側からシールド筒体の外部に向けて滑材を注入するようにしたことを特徴とする密閉式掘削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−125085(P2006−125085A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315854(P2004−315854)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【Fターム(参考)】