説明

密閉構造及びこれを用いた真空装置

【課題】密閉構造及び容器とその蓋体を有する真空装置の真空シールに関し、メンテナンス時におけるパッキンの着脱の容易性を確保しながらも脱落を防止する。
【解決手段】第1の部材が有する第1の平面と第2の部材が有する第2の平面とに圧縮されるパッキンを用いて第1の部材と第2の部材とを密閉する密閉構造において、第1又は第2の平面上でパッキンの装着位置を決める支持手段、および第1又は第2の平面に対して略平行な方向にパッキンを押圧する押圧手段からなる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉構造、及び容器とその蓋体を有する特に真空装置の真空シールに関し、より具体的にはパッキンの取付けに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から機械部品の接面を真空シールするパッキンの構造はいくつか知られている。蓋体を有する真空容器において真空シールを行うには、蓋体と容器の接面にパッキンを配置して圧することが一般的であり、これにより真空容器内部を気密に保持することが可能となる。以下、蓋体とは容器を開閉する扉などを含めた総称とし、真空容器とは真空領域を画する器すべてを含めた総称とする。パッキンの構造として接着剤やグリスなどを使用する場合もあるが、以下の説明の前提として、パッキンの接触面にこれらを使用しないこととする。この理由は、接着剤を使用すると脱落防止に貢献するものの交換の手間が増大するためであり、グリスを使用するとグリスの蒸気圧が比較的高いことに起因して槽内がグリス蒸気で汚染されてしまうためである。
【0003】
図5は、最も一般的なパッキンであるOリングによる真空シールを示す。同図には、真空容器20、蓋7、およびOリング21を示す。図5乃至図7中aは真空容器20の概略断面図を、bは蓋7の概略平面図を、cはaに示す破線部の拡大図を示す。Oリング21は断面が円形のリング形状であり、その材質にはエラストマーなどの弾性材料が用いられる。真空容器20の蓋7には、Oリング21のリングの径に一致する環状溝22が設けられ、環状溝22の内部にOリング21を嵌入して固定する。真空容器20は、蓋7に接する当たり面23を有し、上記環状溝22は当たり面23に対面する位置に設けられる。環状溝22に嵌入されたOリング21は、当たり面23に密接して真空容器20内を気密に保持する。
【0004】
図6は、甲山パッキンによる真空シールの一例を示す。甲山パッキン1は断面が山型のリング形状であり、その材質には上記同様エラストマーなどの弾性材料が用いられる。真空容器20の蓋7には、甲山パッキン1のリングの径に一致する環状溝24が加工され、この溝24は入口が狭いアリ溝になっている。アリ溝の形状とパッキンの形状が合うため、蓋7からパッキンが脱落する心配はない。また、蓋7が上に位置しても脱落の危険が無い。
【0005】
図7は、甲山パッキン1による真空シールの他の実施例を示す。溝加工の費用を削減し、パッキンの脱着を容易にするために、パッキンを押さえるための部材であるパッキン押さえ3,25を蓋7に取付け固定する方法を示す。パッキン押さえ3,25は、甲山パッキン1を挟んで甲山パッキン1の内側と外側に配置され、ねじ5等により固定される。パッキン押さえの構造については、例えば特許文献1に開示される。特許文献1は、対面配置されるパッキン押さえに高低差を設けてパッキンの逃げ路を形成し、パッキンの交換を容易にして寿命を向上させるものである。
【特許文献1】実用新案登録第2520842号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に示すパッキンを用いた真空シールの場合、Oリング21が環状溝22から抜けやすいという問題がある。同図の真空容器20内を図示しない排気系統により真空状態とすると、Oリング21は気圧差により押しつぶされて蓋7と真空容器20に密着する。Oリング21の材質となるエラストマー等は粘着性が強い為、蓋7を開放したときにOリング21が当たり面23に付着してしまい環状溝22から抜け落ちてしまう。特に、長時間真空状態を維持したあとではOリング21が当たり面23に強く付着するため、Oリング21が抜け落ちる頻度が高い。また、蓋7を上にする構造の装置ではこの傾向が更に強まることは容易に想像できる。
【0007】
図6に示すアリ溝に甲山パッキンを嵌入する真空シールは、図5に示す構造の抜け落ちの欠点を補うために開発されたものであるため、パッキンの脱落防止に貢献するが、その反面挿入しにくくメンテナンス時の着脱性に問題がある。例えば、一定の硬度をもつ甲山パッキン1を挿入するには多大な労力が必要となる。更に、蓋7が大型化するとアリ溝24の加工を行うために大型の工作機械が必要になるという問題もある。
【0008】
図7に示すパッキン押さえ3,25を用いた真空シールの場合、図6に示す構造の課題であったメンテナンス時の着脱性を解決するが、その反面再度パッキン脱落の問題が発生する。真空容器20内部を真空状態にした場合、内外の差圧によって発生する力の全てが甲山パッキン1に作用して甲山パッキン1を押しつぶす力に変化する。パッキンは弾性体であるので、短時間のレンジでは永久変形を起こさず、加えられた力は甲山パッキン1に内部応力を発生させ、真空容器20、蓋7およびパッキン押さえ3,25に力を及ぼす。真空容器20および蓋7は強度が高いので問題ないが、パッキン押さえ3,25は蓋にねじ止めにより固定されるため、間隔を維持可能な力も弱く、パッキンの復元力がこの力よりも勝れば、パッキン押さえ3,25の間隔は広がり、パッキンの脱落が発生する。図7cに概略的に示すように、パッキン押さえ3,25とねじ5の間には隙間があり、この隙間距離だけパッキン押さえ3,25が移動してしまう。実際このような理由でパッキンの脱落が頻繁に発生している。装置が大型化して扉の寸法が大きくなると、大気圧と槽内部の圧力差によって発生する力が大きくなり脱落の頻度が高くなる問題がある。
【0009】
上記のように改善されてきたパッキンの脱落防止策も蓋が大型化するに従い、脱落防止が困難になってきた。同時に脱落時の再取付けも容易ではなくなってきた。
また、特許文献1に記載のパッキン押さえの場合、パッキン先端部の挟持方向への突出距離が予め決定されているため、パッキンによっては、パッキンを挟持する力が強すぎてパッキン割れや剥離を引き起こしてしまう場合や、圧力が弱すぎてパッキンが脱落してしまう場合などが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、メンテナンス時におけるパッキンの着脱の容易性を確保しながらも、脱落を防止する機構に関するものである。
本発明の第1の側面は、第1の部材が有する第1の平面と第2の部材が有する第2の平面とに圧縮されるパッキンを用いて第1の部材と第2の部材とを密閉する密閉構造であって、第1又は第2の平面上でパッキンの装着位置を決める支持手段、および第1又は第2の平面に対して略平行な方向にパッキンを押圧する押圧手段からなる密閉構造である。ここで、支持手段が、第1および第2の平面の少なくとも一方に固定されパッキンを挟持するパッキン押さえからなり、押圧手段がパッキン押さえを貫通してパッキンを押圧する構成を有するようにした。さらに、押圧手段は、パッキン押さえに取付けたねじとした。また、押圧手段は、バネと、バネの一端に接続しパッキン押さえに対して固定配置される座、およびバネの他端に接続しパッキンを押圧する押し具とした。
【0011】
本発明の第2の側面は、第1の部材が有する第1の平面と第2の部材が有する第2の平面とに圧縮されるパッキンを用いて第1の部材と第2の部材とを密閉する密閉構造であって、押圧手段をパッキンとパッキン押さえとに挿通される挿通部材とした。ここで、挿通部材を針金とした。さらに、挿通部材の少なくとも一方の端部が屈曲している構成とした。
【0012】
本発明の第3の側面は、上記第1又は第2の側面の密閉構造、容器からなる第1の部材、容器に対する蓋体からなる第2の部材、及び容器の開口部を囲む環状のパッキンからなる真空装置である。さらに、押圧手段は、真空装置の大気側に配置されるようにした。
【0013】
本発明の第4の側面は、第1の平面を有する第1の部材、第2の平面を有する第2の部材、第1及び第2の平面によって圧縮されるパッキン、第1又は第2の平面上でパッキンの装着位置を決める支持手段、及びパッキンを押圧する押圧手段を用いて第1の部材と第2の部材とを密閉する密閉方法であって、押圧手段により第1又は第2の平面に略平行な方向にパッキンを押圧する密閉方法である。ここで、支持手段が第1および第2の平面の少なくとも一方に固定されパッキンを挟持するパッキン押さえからなり、押圧手段がパッキン押さえを貫通してパッキンを押圧するようにした。また、押圧手段は少なくともバネを有し、バネの復元力によりパッキンを押圧するようにした。
【0014】
本発明の第5の側面は、上記第4の側面の密閉方法を用いた真空シール方法であって、第1の部材が容器であり、第2の部材が容器に対する蓋体であり、容器又は蓋体に備えられた排気系統によって容器及び蓋体で画定される空間を真空にする真空シール方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によりパッキンを側方から押さえる手段を設けることにより、メンテナンス時の着脱性を確保しながらも、パッキンの脱落を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1および図2を参照に本発明の第一の実施例を説明するが、従来と同様の部分には同一符号を付して説明を省略する。
図1は環状パッキンの一部を示し、その外周位置と内周位置に配置した2つのパッキン押さえに挟持される形で蓋に保持されることは図7に示す従来例と同様である。環状パッキンには甲山パッキン1を用いるものとするが、これに限らず断面が半円形状の甲丸パッキンや断面が円形状のOリングなどを用いてもよい。また環状とは、四角形に限られず、円形や多角形など、真空容器の形状にあわせて適宜選択すればよい。第一の実施例は、甲山パッキン1の外周位置に配置したパッキン押さえ4に雌ねじ2を必要数加工したことを特徴とする。雌ねじ2の加工個所は適宜選択すればよい。雌ねじを必要数加工した外周位置のパッキン押さえ4は、従来同様ねじ5等により蓋7に固定して組立てを行う。その後雌ねじ2に固定ねじ6をねじ込んで、数mm程度甲山パッキン1に押し込んでおく。これにより、パッキン押さえ3,4が離れても固定ねじをねじ込んだ距離まではパッキンの脱落が発生しない構造である。
【0017】
実施例では外周位置のパッキン押さえ4に雌ねじ2の加工を行うことにより、真空槽内の部品点数が増加することを防止するが、内周位置のパッキン押さえ3に雌ねじ2の加工を行ってもよい。しかし、外周位置のパッキン押さえ4に雌ねじの加工を行うことで、真空容器内を真空状態に保ったままの状態で固定ねじ6の位置を調整することが可能であるという効果もある。
【0018】
実施例は、パッキン押さえを強固な部材に変更するという手段ではなく、側方からねじ止めする手段を設けるという簡単な構成を追加するのみで、メンテナンス時の着脱性は確保したままパッキンの脱落の問題を解消することを可能とした。つまり従来の機構にねじ止めの手段を設けるのみであるため、メンテナンス時の作業性は確保したまま低コストで効果を得ることが可能である。また、溶接等により予め設けた突出部ではないため、パッキンにあわせてねじ込みの距離を微調整することができるという効果も奏する。
【0019】
図3は本発明の第二の実施例を示し、図1および図2と同様の部分には同一符号を付して説明を省略する。第一の実施例は固定ねじで予めパッキンを押圧する方法であるが、第二の実施例は、座8と押し具10に分割し間にバネ9を入れておくことでもパッキンの脱落を防止することを特徴とする。
座とバネを用いることにより、パッキンの永久変形やパッキン押さえのズレによって、パッキン回りに隙間ができても、押さえ金具がバネの力で常にパッキンとの接触を保っており、確実にしかもパッキンに永久変形を与えない程度の小さな力で脱落を防止できる。また、扉の吸引時でもパッキンに部分的な変形を発生させることがない。
第二の実施例では、第一の実施例の効果に加えて、バネを用いることによりパッキンの脱落防止機能を更に向上させている。
【0020】
図4は、本発明の第三の実施例を示し、図1乃至図3と同様の部分には同一符号を付して説明を省略する。第三の実施例では、甲山パッキン1、外周位置のパッキン押さえ4、および内周位置のパッキン押さえ3を貫通し、金属等の線材からなる針金11を配置したことを特徴とする。針金11は甲山パッキン1に接着するか溶着し、パッキン押さえ3に設けた穴に針金11を挿通し、その両端を曲げておけばパッキンの脱落を防止できる。
【0021】
実施例ではパッキンの材質をゴムなどのエラストマーとしたが、金属やふっ素樹脂などを使用することも可能である。例えば、スパッタ装置などの放電を伴う装置ではノイズの外部放出を防止するために、円形断面のスポンジ外周に金網をまいたパッキンを使用している。この場合はパッキンが柔らかいので、特に垂直面で押さえるのが困難であり、対策として、一定間隔でねじ止めしているが、長い間にたるんできてしまうという問題がある。本発明はこのような金網をまいたパッキンにおいても有効であり、側方から押さえることによりたるみを押さえることが可能となる。
【0022】
なお、上記実施例では最も好適な具体例として容器の内部を真空にする真空装置を用いて説明したが、本発明に係るパッキンの取付け構造、即ち、密閉構造は、外部からの力で容器と蓋とを密閉する密封装置(容器内部を加圧するような装置であってもよいし、容器内部の圧力を調整せずに密封だけを目的とするような装置であってもよい)、又は容器の体をなさない2つの部材を密着若しくは密閉するような構成の装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるパッキン押さえの第一の実施例概略図
【図2】本発明によるパッキン押さえの第一の実施例概略断面図
【図3】本発明によるパッキン押さえの第二の実施例概略断面図
【図4】本発明によるパッキン押さえの第三の実施例概略断面図
【図5】従来のOリングシールを示す図
【図6】従来の甲山パッキンシール1を示す図
【図7】従来の甲山パッキンシール2を示す図
【符号の説明】
【0024】
1 甲山パッキン
2 雌ねじ
3 内周パッキン押さえ
4 外周パッキン押さえ
5 ねじ
6 固定ねじ
7 蓋
8 座
9 バネ
10 押し具
11 針金
20 真空容器
21 Oリング
22 溝
23 当たり面
24 溝
25 外周パッキン押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材が有する第1の平面と第2の部材が有する第2の平面とに圧縮されるパッキンを用いて該第1の部材と該第2の部材とを密閉する密閉構造であって、
該第1又は該第2の平面上で該パッキンの装着位置を決める支持手段、および
該第1又は該第2の平面に対して略平行な方向に該パッキンを押圧する押圧手段
からなることを特徴とする密閉構造。
【請求項2】
請求項1記載の密閉構造であって、さらに、
該支持手段が、該第1および該第2の平面の少なくとも一方に固定され該パッキンを挟持するパッキン押さえからなり、
該押圧手段が該パッキン押さえを貫通して該パッキンを押圧する構成を有することを特徴とする密閉構造。
【請求項3】
請求項2記載の密閉構造であって、
該押圧手段は、該パッキン押さえに取付けたねじであることを特徴とする密閉構造。
【請求項4】
請求項2記載の密閉構造であって、
該押圧手段は、
バネと、該バネの一端に接続し該パッキン押さえに対して固定配置される座、および該バネの他端に接続し該パッキンを押圧する押し具であることを特徴とする密閉構造。
【請求項5】
第1の部材が有する第1の平面と第2の部材が有する第2の平面とに圧縮されるパッキンを用いて該第1の部材と該第2の部材とを密閉する密閉構造であって、
該第1および該第2の平面の少なくとも一方に固定され該パッキンを挟持するパッキン押さえ、および
該パッキンと該パッキン押さえとに挿通される挿通部材
を備えたことを特徴とする密閉構造。
【請求項6】
請求項5記載の密閉構造において、
該挿通部材は針金であることを特徴とする密閉構造。
【請求項7】
請求項5又は6記載の密閉構造において、
該挿通部材の少なくとも一方の端部が屈曲していることを特徴とする密閉構造。
【請求項8】
請求項1から請求項7いずれか一項に記載の密閉構造、容器からなる前記第1の部材、該容器に対する蓋体からなる前記第2の部材、及び該容器の開口部を囲む環状の前記パッキンからなる真空装置。
【請求項9】
請求項8記載の真空装置であって、
該押圧手段は、
該真空装置の大気側に配置されたことを特徴とする真空装置。
【請求項10】
第1の平面を有する第1の部材、第2の平面を有する第2の部材、該第1及び該第2の平面によって圧縮されるパッキン、該第1又は該第2の平面上で該パッキンの装着位置を決める支持手段、及び該パッキンを押圧する押圧手段を用いて該第1の部材と該第2の部材とを密閉する密閉方法であって、
該押圧手段により該第1又は該第2の平面に略平行な方向に該パッキンを押圧することを特徴とする密閉方法。
【請求項11】
請求項10記載の密閉方法において、該支持手段が該第1および該第2の平面の少なくとも一方に固定され該パッキンを挟持するパッキン押さえからなり、
該押圧手段が該パッキン押さえを貫通して該パッキンを押圧することを特徴とする密閉方法。
【請求項12】
請求項10記載の密閉方法であって、
該押圧手段は少なくともバネを有し、
バネの復元力により該パッキンを押圧することを特徴とする密閉方法。
【請求項13】
請求項10から請求項12いずれか一項に記載の密閉方法を用いた真空シール方法であって、該第1の部材が容器からなり、該第2の部材が該容器に対する蓋体からなり、該容器又は該蓋体に備えられた排気系統によって該容器及び該蓋体で画定される空間を真空にすることを特徴とする真空シール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−105292(P2006−105292A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293692(P2004−293692)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】