説明

富栄養化防止方法

【課題】 タンニンやタンニン酸によって凝集した微細藻類をさらに大きなフロックに凝集させて沈殿し易くし、浮遊量を抑えて透明度を高めるようにした富栄養化防止方法を提供する。
【解決手段】 富栄養化の発生したもしくは富栄養化の発生しうる滞留水にタンニン又はタンニン酸と、ポリ塩化アルミニウムおよびポリグルタミン酸などの凝集剤を投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アオコその他の藻類が大量に発生している滞留水の富栄養化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、池、沼、湖、潟などの滞留水に溶存する栄養塩の濃度が増加し、その富栄養化が進行している。滞留水の富栄養化によって植物性プランクトンなどが大量に発生して水質を汚濁し、いわゆるアオコなどの微細藻類が形成されて悪臭を放つなど社会問題になっている。富栄養化の原因としては、人工増加や食生活の変化に伴う生活排水の増加、あるいは養殖池などにおいては投餌の沈積、腐敗などが考えられる。
【0003】
従来、この富栄養化を防止する方法として、富栄養化が進行している貯留池にタンニンやタンニン酸を投入して蛋白質や糖などの有機物を結合させ、これを凝集塊として沈殿させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、アオコの発生している滞留水にタンニンやタンニン酸を投入して微細藻類を凝集沈殿させる方法では、凝集塊が小さいために必ずしも十分に沈殿しない場合がある。特に、貯留池の中に、エアコンプレッサとエジェクション装置とを組み合わせた溶存酸素増加水流発生装置が設置してあるような場合には、貯留池の中に流速の早い水流が形成されるために、凝集塊が小さいと浮遊してしまうといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3626155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、タンニンやタンニン酸によって凝集した微細藻類をさらに大きなフロックに凝集させて沈殿し易くし、浮遊量を抑えて透明度を高めるようにした富栄養化防止方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は富栄養化の発生したもしくは富栄養化の発生しうる滞留水にタンニン又はタンニン酸と、無機系凝集剤又は有機系凝集剤の少なくとも1種類を投入するものである。
【0008】
本発明において、無機系凝集剤は、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの中から選択される。また、有機系凝集剤は、ポリグルタミン酸、ポリアクリルアミドなどの中から選択される。
【0009】
本発明において、タンニン又はタンニン酸は滞留水に1〜80ppm投入され、またポリ塩化アルミニウムは滞留水に1〜80ppm投入され、さらに前記ポリグルタミン酸は滞留水に1〜80ppm投入される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る富栄養化防止方法によれば、アオコの原因となる微細藻類を大きなフロックに凝集して沈殿し易くし、これら藻類の浮遊を抑えることで透明性の向上が図られると共に、藻類の死滅による減少が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】凝集剤によって藻類の巨大フロックが形成される過程を示す模式図である。
【図2】ポリ塩化アルミニウムによる凝集効果を示すビーカの横からの写真である。
【図3】ポリ塩化アルミニウムによる凝集効果を示すビーカの上からの写真である。
【図4】ポリ塩化アルミニウムによる凝集効果を示す顕微鏡写真である。
【図5】ポリグルタミン酸による凝集効果を示すビーカの横からの写真である。
【図6】ポリグルタミン酸による凝集効果を示すビーカの上からの写真である。
【図7】ポリグルタミン酸による凝集効果を示す顕微鏡写真である。
【図8】実施例3において、池の中に設置したエジェクション装置とエアコンプレッサの配置関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にいう滞留水とは、池、沼、湖もしくは潟におけるようにくぼ地、又は土手もしくは堰堤で囲まれた場所に溜まった水を意味し、それは水源池や水産動物の養殖池を包含する。
【0013】
富栄養化の発生しうる滞留水とは、汚染の状況から見て放置すれば富栄養化の発生することが予見されるような滞留水を意味する。
【0014】
本発明において、富栄養化の防止とは全リン(T−P)、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素などで示される水中栄養塩類の濃度の増加を防ぎもしくは低下させることを意味する。また、藍藻、珪藻、緑藻などの微細藻類が凝集してフロックを巨大化させ、沈殿速度を増加させて滞留水の透明度を高めることを意味する。さらに、前記微細藻類を死滅させて減少を図ることを意味する。
【0015】
タンニン又はタンニン酸は、タンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し、強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称である。一般に植物には含有されており、どのような植物から得られたものでもよいが、入手し易いのは五倍子や没食子から得られたものであり、またマメ科の植物であるミモザからも容易に得られる。
【0016】
タンニン又はタンニン酸は水溶性化合物なので、原粉末をそのまま滞留水に投入すれば溶解するが、飛散を防止するために水溶液として使用することもできる。
【0017】
本発明におけるタンニン又はタンニン酸の使用濃度は、汚染の状況にもよるが、通常1〜80ppm、好ましくは50〜60ppmとなるように投入される。1ppm未満では十分な効果が現われず、80ppmを超えると水中動物に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0018】
タンニン又はタンニン酸は、その構造中にフェノールの露出基があるので、この露出基が微細藻類の蛋白質や糖類と結合し、凝集してフロックを作り沈殿する。
【0019】
本発明において、タンニン又はタンニン酸で凝集したフロックを更に巨大化するための凝集剤として、無機系凝集剤又は有機系凝集剤が適用される。無機系凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などが利用され、また有機系凝集剤としては、例えばポリグルタミン酸やポリアクリルアミドなどが利用される。
【0020】
無機系凝集剤の中では、富栄養化した滞留水に対する適応性、作業性、経済性、凝集効果などからポリ塩化アルミニウムが優れている。ポリ塩化アルミニウムは、一般式[Al2(OH)nCl6-n]m(1<n<5,m≦10)で示され、例えば[Al6(OH)15]3+、[Al8(OH)20]4+、[Al13(OH)34]5+、などのような塩基性で、且つ高い陽電荷を持った多核縮合イオンを有効成分として、高濃度にしかも安定に含んでいる。凝集沈殿の機構は、水中で濁質を分散安定化させている原因である濁質表面の反発負荷電を中和する過程と、その結果として生じる微細な凝集濁質を架橋により、さらに巨大化する過程を通じて行なわれる。本発明におけるポリ塩化アルミニウムの使用濃度は通常1〜80ppmが好ましい。
【0021】
有機系凝集剤の中では、天然素材からなるポリグルタミン酸が、安全及び無害な生分解性の凝集剤として優れている。アニオン性高分子としてのポリグルタミン酸は、カルボキシル基(活性基)の働きによって、汚濁粒子間を接着させる働きをし、フロックを巨大化させる。本発明におけるポリグルタミン酸の使用濃度は通常1〜80ppmが好ましい。
【0022】
図1は、微細藻類のフロックがタンニン及びポリ塩化アルミニウムによって凝集し巨大化する過程を模式的に示したものである。先ず、図1(a)、(b)に示したように、タンニン1の活性基2に水中の金属イオン3などが結合する。水中の藻類4などの汚れはほとんどがマイナスイオンに帯電しているため、これら藻類4が図1(c)に示したように、タンニン1表面の金属イオン3と結合して電荷を中和させる。また、タンニン1の多価フェノールの露出基に藻類4の蛋白質が結合して凝集させ、さらに糖分も吸収して微小フロック5を形成する。図1(d)は、ポリ塩化アルミニウムよる凝集作用を示している。タンニン1に凝集された微小フロック5にポリ塩化アルミニウムが電荷結合し、またポリ塩化アルミニウムの加水分解によって生じた水酸化アルミのゲル6が吸着し、さらに、吸着した水酸化アルミのゲル6の架橋作用によって微小フロック5同士をくっつけて、藻類4の巨大フロック7を形成する。
【0023】
また、本発明では上記の凝集剤の投与に加えて、水中の溶存酸素量を増やすことで水浄化の効果を高めることができる。具体的には、エジェクション装置を滞留水の中に設置し、これにエアコンプレッサ、水中ポンプ、オゾン発生器、有用微生物を保持した多孔性成形材を接続する。エアコンプレッサからオゾンや過剰空気をエジェクション装置に送り込み、これを水中ポンプで送り出して、溶存酸素量の増加した水流を発生させるものである。これにより池水の酸欠を防ぐことができ、アオコなど藻類の生成が減少する他、藻類の死骸を効果的に酸化促進することができ、結果的には池水の透明化にも寄与するものである。なお、エジェクション装置は、例えば特公平7−63284号公報に開示されている。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示し、本発明について更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
タンニン及びポリ塩化アルミニウムにおける凝集効果試験
【0026】
粉末状のタンニン1.5mgを計量し、150μlの蒸留水で希釈した。この希釈水10μlをさらに990μlの蒸留水で希釈し、希釈した250μlを上海市豫園九曲橋観賞池から採取した滞留水(以下豫園滞留水という。)25mlに添加した(タンニンが10ppm添加)。これをビーカに取り10分間攪拌した後一晩静置した。(試料1)
【0027】
次に、ポリ塩化アルミニウム(多木化学株式会社製の水処理用凝集剤、商品名:PAC)を上記と同様、1.5mgを計量し、150μlの蒸留水で希釈した。この希釈水10μlをさらに990μlの蒸留水で希釈し、希釈した500μlを10ppmのタンニンが含まれる豫園滞留水50mlに添加した(ポリ塩化アルミニウムが80ppm添加)。これをビーカに取り10分間攪拌した後一晩静置した。(試料2)
【0028】
上記試料1及び試料2の波長250nmでの吸光度を測定した結果を表1に示す。なお、豫園滞留水だけで薬剤を添加しないコントロールにおける吸光度も併せて示す。
【0029】
【表1】

【0030】
図2(a),(b)は、試料1及び試料2をビーカの横から見たときの写真、図3(a),(b)は、試料1及び試料2をビーカの上から見たときの写真である。これによれば、タンニンのみが添加されている場合は、フロックが小さくビーカ全体に細かく散らばっている様子が分かる。これに対して、タンニンの他にポリ塩化アルミニウムが添加されている場合には、フロックが大きく成長しており、多くがビーカの底に沈殿している様子が分かる。
【0031】
図4(a),(b)は、顕微鏡(OLYMPUS SZX12)を用いて80倍で写した時の画像である。試料1に比べて試料2では巨大フロックが形成されている様子がよくわかる。
【0032】
[実施例2]
タンニン及びポリグルタミン酸における凝集効果試験
【0033】
粉末状のタンニン1.5mgを計量し、150μlの蒸留水で希釈した。この希釈水10μlをさらに990μlの蒸留水で希釈し、希釈した250μlを豫園滞留水25mlに添加した(タンニンが10ppm添加)。これをビーカに取り10分間攪拌した後一晩静置した。(試料3)
【0034】
次に、ポリグルタミン酸(日本ポリグル株式会社製の水質浄化凝集沈降剤、商品名:PGα21Ca)を上記と同様、1.5mgを計量し、150μlの蒸留水で希釈した。この希釈水10μlをさらに990μlの蒸留水で希釈し、希釈した500μlを10ppmのタンニンが含まれる豫園滞留水50mlに添加した(ポリグルタミン酸が80ppm添加)。これをビーカに取り10分間攪拌した後一晩静置した。(試料4)
【0035】
上記試料3及び試料4の波長250nmでの吸光度を測定した結果を表2に示す。なお、豫園滞留水のみで薬剤を添加しないコントロールにおける吸光度も併せて示す。
【0036】
【表2】

【0037】
図5(a),(b)は、試料3及び試料4をビーカの横から見たときの写真、図6(a),(b)は、試料3及び試料4をビーカの上から見たときの写真である。これによれば、タンニンのみが添加されている試料3は、フロックが小さくビーカ全体に細かく散らばっている様子が分かる。これに対して、タンニンの他にポリグルタミン酸が添加されている試料4は、フロックが大きく成長しており、多くがビーカの底に沈殿している様子が分かる。
【0038】
図7(a),(b)は、顕微鏡(OLYMPUS SZX12)を用いて80倍で写した時の画像である。試料3に比べて試料4では巨大フロックが形成されている様子がよくわかる。
【0039】
[実施例3]
上海市豫園九曲橋観賞池の水質浄化試験
場所:上海市豫園九曲橋観賞池
試験期間:2010年6月15日〜8月30日
池の体積:約3,477立方メートル
池の深さ:平均1.35m
薬剤:タンニン(B剤)、γ-ポリグルタミン酸(C剤)、ポリ塩化アルミニウム(P剤)
設置設備:エジェクション装置 4基、エアコンプレッサ 1基
試験の概要:図8に示したように、池10の四隅にエジェクション装置11を1基ずつ合計4基を設置し、これらのエジェクション装置11にエアコンプレッサ12を接続して、池水に矢印13で示した反時計方向の水流を起こさせる。また、池10のほぼ中心に池水を採取する採取ポイント14を定めた。
各薬剤の総添加量は、タンニンが約60ppm、γ-ポリグルタミン酸が約10ppm、ポリ塩化アルミニウムが約17ppmである。各薬剤の投入日及び各投入量は表3に示したとおりである。
【0040】
【表3】

【0041】
薬剤投与による水質変化を見るために、薬剤投与前と薬剤投与後に池水を採取ポイント14から採取して分析試料とし、表4に示した分析項目について分析した。分析実施日は表4に示したとおりである。
【0042】
表4に各分析実施日に採取した試料の分析結果を示す。6月15日の1回目の分析結果は、薬剤を投与する前の試料について分析したものであり、6月26日の2回目の分析結果は、6月15日と6月22日にB剤を2回投与し、6月20日にC剤を1回投与した後の試料について分析したものである。また、7月26日の3回目の分析結果は、7月10日から7月23日の間にB剤を6回投与し、7月25日にC剤を1回投与した後の試料について分析したものである。さらに、8月30日の4回目の分析結果は、7月29日から8月26日の間にB剤を5回投与し、8月29日にC剤を1回投与し、8月20日にP剤を1回投与した後の試料について分析したものである。
【0043】
【表4】

【0044】
この分析結果から、薬剤投与前に比べて薬剤投与後では透明度が飛躍的に改善されていた。また、藍藻、珪藻、緑藻などの藻類の数が薬剤の投与によって大幅に減少したことが確認できた。
【符号の説明】
【0045】
1 タンニン
2 活性基
3 金属イオン
4 藻類
5 微小フロック
6 ゲル
7 巨大フロック
10 池
11 エジェクション装置
12 エアコンプレッサ
14 採取ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
富栄養化の発生したもしくは富栄養化の発生しうる滞留水にタンニン又はタンニン酸と、無機系凝集剤又は有機系凝集剤の少なくとも1種類を投入することを特徴とする富栄養化防止方法。
【請求項2】
前記無機系凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの中から選択される請求項1に記載の富栄養化防止方法。
【請求項3】
前記有機系凝集剤は、ポリグルタミン酸、ポリアクリルアミドなどの中から選択される請求項1に記載の富栄養化防止方法。
【請求項4】
前記タンニン又はタンニン酸を滞留水に1〜80ppm投入する請求項1に記載の富栄養化防止方法。
【請求項5】
前記ポリ塩化アルミニウムを滞留水に1〜80ppm投入する請求項2に記載の富栄養化防止方法。
【請求項6】
前記ポリグルタミン酸を滞留水に1〜80ppm投入する請求項3に記載の富栄養化防止方法。


【図1】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−75970(P2012−75970A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220476(P2010−220476)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511267815)合同会社ティーアンドエー (1)
【Fターム(参考)】