説明

寛容原性療法のための細胞のプログラミングの方法

生体材料システム、例えば、ゲル足場をインビボで用いて、免疫細胞を動員してその活性化を非炎症性の表現型へと促し、それによって炎症の抑制をもたらす。本組成物および方法は自己免疫、慢性炎症、アレルギーおよび歯周疾患の重症度を低減させるのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究に関する言明
本発明は、一つには、国立衛生研究所が与える助成金番号5R01DE019917-02の下で米国政府による資金援助を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は免疫寛容に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
異常または調節異常な免疫反応は多数の病的状態の発症機序である。そのような状態には、自己免疫障害、および慢性炎症によって特徴付けられる状態が含まれる。
【0004】
自己免疫は、免疫系が宿主の組織または細胞を異物と誤認識する状態である。自己免疫疾患は世界中で何百万人もの個体に影響を与えている。よく見られる自己免疫障害には、1型糖尿病、クローン病、関節リウマチおよび多発性硬化症が含まれる。
【0005】
慢性炎症はがん、糖尿病、うつ病、心臓疾患、脳卒中、アルツハイマー病、歯周炎および多くの他の病態に関係があるとされている。異常または調節異常な免疫反応はまた、喘息およびアレルギーに関係しており、例えば、喘息は、多くのアレルゲンにより誘因される、よく見られる疾患である。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は、自己免疫、アレルギー/喘息、および体内での慢性的または不適切な炎症、例えば、組織/臓器損傷および破壊をもたらす炎症の長年の臨床的問題に対する解決策を提供する。本組成物および方法は、個体の免疫反応を病的反応または致命的反応から離し、生産反応または非損傷反応へと方向づける。樹状細胞(DC)は自己免疫疾患に対する防御において主要な役割を果たす。また、調節性T細胞(Treg)は自己抗原または外来抗原に対する有害な免疫病理学的反応の阻害において重要な役目を果たす。これらの細胞種は、免疫反応の方向を変えて非炎症状態および非破壊状態を提供する目的で操作をする標的となる。
【0007】
したがって、本発明は、抗原、動員組成物および寛容原を含む足場組成物を特徴とする。この足場組成物は自己免疫の低減に有用である。抗原は、精製された組成物(例えば、タンパク質)であるか、または望ましくない免疫反応が導かれる細胞から調製された細胞溶解物である。例示的な動員組成物には、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF; AAA52578)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(AAA17999.1)、N-ホルミルペプチド、フラクタルキン(P78423)または単球走化性タンパク質-1 (P13500.1)が含まれる。例示的な寛容原(すなわち、免疫反応の低減または免疫寛容を誘導する作用物質)には、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP; Q969D9.1))、デキサメタゾン、ビタミンD、レチノイン酸、ラパマイシン、アスピリン、形質転換増殖因子β(P01137)、インターロイキン-10 (P01137)、血管作動性腸管ペプチド(CAI21764)または血管内皮増殖因子(AAL27435)が含まれる。足場には任意で、toll様受容体(TLR)アゴニストのようなTh1促進剤、例えば、CpGのようなポリヌクレオチドがさらに含まれてもよい。Th1促進剤は、病原体関連分子パターン(PAMP)または微生物関連分子パターン(MAMP)またはアラルミンによって特徴付けられることが多い。PAMPまたはMAMPは、TLRを介して先天性免疫系の細胞により認識される、病原体の群と関連する分子である。例えば、細菌性リポ多糖類(LPS)、つまり細菌のグラム陰性細菌細胞膜上に見出される内毒素は、TLR 4によって認識される。他のPAMPには、細菌フラジェリン、グラム陽性細菌由来のリポタイコ酸、ペプチドグリカン、およびウイルスと通常関連する核酸変種、例えば、二本鎖RNA (dsRNA)または非メチル化CpGモチーフなどが含まれる。したがって、さらなる例示的なTh1促進剤には、それぞれポリ(I:C)、LPS/MPLA (一リン酸脂質A)、またはイミキモドなどの、TLR 3、4、または7のアゴニストが含まれる。例示的なTLRリガンドには、以下の化合物が含まれる: TLR7リガンド(ヒトおよびマウスTLR7)-CL264 (アデニン類似体)、ガルジキモド(商標) (イミダゾキノリン化合物)、イミキモド(イミダゾキノリン化合物)およびロキソリビン(グアノシン類似体); TLR8リガンド(ヒトTLR8およびマウスTLR7) - 一本鎖RNA; 大腸菌(E. coli) RNA; TLR7/8リガンド - (ヒト、マウスTLR7およびヒトTLR8)-CL075 (チアゾロキノリン化合物)、CL097 (水溶性R848)、イミダゾキノリン化合物、ポリ(dT) (チミジンホモ重合体ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド(ODN))、ならびにR848 (イミダゾキノリン化合物)。
【0008】
足場は、その中に負荷された因子の持続放出を、時空間的に制御された形で媒介する。例えば、因子または抗原のボーラス送達と比べ、数日(例えば、1、2、3、4、5、7、10、12、14日またはそれ以上)にわたって因子が放出される。ボーラス送達は、体内での短期提示のために効果がほとんどもしくは全くないか、逆効果をもたらすか、または非常に高用量が提供されるならば望ましくない免疫反応をもたらすことが多いのに対し、足場による送達ではそのような事象が回避される。好ましくは、足場は、非炎症性の重合体組成物、例えば、アルギン酸塩、ポリ(エチレングリコール)、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(ビニルアルコール)、フィブリン、ポリ(グルタミン酸)、両親媒性ペプチド、シルク、フィブロネクチン、キチン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(テレフタル酸エチレン)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリジオキサノン、ポリグリコナート、BAK; ポリ(オルトエステルI)、ポリ(オルトエステル)II、ポリ(オルトエステル)III、ポリ(オルトエステル)IV、ポリプロピレンフマレート、ポリ[(カルボキシフェノキシ)プロパン-セバシン酸]、ポリ[ピロメリチルイミドアラニン-コ-1,6-ビス(p-カルボキシフェノキシ)ヘキサン]、ポリホスファゼン、デンプン、セルロース、アルブミン、ポリヒドロキシアルカノエート、または当技術分野において公知の他のもの(Polymers as Biomaterials for Tissue Engineering and Controlled Drug Delivery. Lakshmi S. Nair & Cato T. Laurencin, Adv Biochem Engin/Biotechnol (2006) 102: 47-90 DOI 10.1007/b137240)などから作出される。あるいは、低レベルの炎症をもたらす重合体組成物も、樹状細胞の動員および/または活性化に、特に該細胞をTh1反応の方向へ偏向させるのに役立ちうるため、有用でありうる。ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、それらの共重合体および他のさまざまな医用重合体もこの関連で有用でありうる。セラミック材料または金属材料を利用して、制御可能な形でこれらの因子を提示することもできる。例えば、リン酸カルシウム材料が有用である。骨との関連では、シリカまたは他のセラミックも有用である。
【0009】
一部の例では、複合材料を利用することができる。例えば、免疫活性化因子(例えば、抗原、寛容原またはTh1促進剤)をポリ(ラクチド-コ-グリコリド) (PLG)ミクロスフェアのようなミクロスフェアの中にカプセル封入し、これを次いで、アルギン酸塩ゲルのようなヒドロゲルの中に分散させる。細胞、例えば、DCおよび/またはTregは、表面もしくは表面の近くに、または足場の中に動員され、そこで該細胞は上記の抗原および他の因子に曝露されながら一定時間存留することができ、その後、リンパ節のような体組織に移動し、そこで該細胞は免疫寛容を誘導するように機能する。あるいは、細胞を伴う足場が二次リンパ器官の模倣体を作出しうる。負荷された足場との接触の後、そのような細胞は活性化されて、免疫反応をTh1/Th2/Th17反応(自己免疫および慢性炎症)からTreg反応へ、または(アレルギー/喘息の場合)病原性のTh2状態からTh1状態の方向へと方向を変えられる。免疫反応をTh2反応から離し、Treg反応の方向へと方向づけることにより、アレルギー、喘息における臨床的有益性が得られる。自己免疫の場合、治療方法は、自己免疫疾患を患っているかまたは発症するリスクがある対象を特定し、負荷された足場(抗原(自己抗原)+動員組成物+寛容原)を対象に投与し、それによってTh1/Th17からT調節性偏向免疫反応への免疫反応の変化をもたらすことにより行われる。アレルギー/喘息の場合、治療方法は、アレルギー反応または喘息を患っているかまたは発症するリスクがある対象を特定し、負荷された足場(抗原(アレルゲン)+動員組成物+アジュバント(Th1促進性のアジュバント))を対象に投与し、それによって(アレルギー/喘息) Th2反応からTh1偏向免疫反応への免疫反応の変化をもたらすことにより行われる。
【0010】
それゆえ、Th1媒介性の抗原特異的免疫反応へと選択的に方向づける方法は、抗原、動員組成物、およびアジュバントを含む足場を対象に投与することにより行われる。樹状細胞は、足場に動員され、抗原に曝露され、その後、曝露に基づき病原性のTh2免疫反応と比べてTh1免疫反応が選択的に生じるように教育/活性化された状態で、足場から離れて対象の組織へ移動する。結果として、免疫反応はTh2経路に対してTh1経路の方へ効果的に傾けられ、または偏向される。そのような偏向は、局所的または対象由来の血液もしくは血清のような体液中のサイトカインの量およびレベルを測定することにより検出される。例えば、Th1反応はインターフェロン-γ(IFN-γ)の増加によって特徴付けられる。上記のように、足場には任意で、Th1促進剤が含まれてもよい。
【0011】
本組成物および方法はヒト対象の処置に適している; しかしながら、本組成物および方法はまた、イヌおよびネコのような伴侶動物、ならびにウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタのような家畜にも適用可能である。
【0012】
足場は、個体の免疫系を操作して、異常な、誤った、またはその他の点で不適切な免疫反応、例えば、組織損傷または破壊を引き起こす免疫反応によって特徴付けられるいくつかの病的状態を処置するのに有用である。そのような状態には自己免疫疾患が含まれる。例えば、自己免疫障害の重症度を低減させる方法は、自己免疫障害を患っている対象を特定し、抗原(例えば、精製された抗原または加工処理された細胞溶解物)、動員組成物および寛容原を含む足場組成物を対象に投与することによって行われる。好ましくは、抗原は、病的自己免疫反応が導かれる細胞に由来するかまたは関連する。一つの例では、自己免疫障害は1型糖尿病であり、抗原は膵臓細胞関連ペプチドまたはタンパク質抗原、例えば、インスリン、プロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ-65 (GAD65)、インスリノーマ関連タンパク質2、熱ショックタンパク質60、ZnT8、および膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質またはAnderson et al., Annual Review of Immunology, 2005. 23: p. 447-485; またはWaldron-Lynch et al., Endocrinology and Metabolism Clinics of North America, 2009.38(2): p.303)に記述されているその他のものを含む。別の例では、自己免疫障害は多発性硬化症であり、ペプチドまたはタンパク質抗原はミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質、および/またはミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質を含む。自己免疫疾患/状態のさらなる例としては、クローン病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、円形脱毛症、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎、セリアック病、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本病、溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、炎症性筋疾患、多発性筋炎、重症筋無力症、原発性胆汁性肝硬変症、乾癬、シェーグレン症候群、白斑、痛風、セリアック病、アトピー性皮膚炎、尋常性座瘡、自己免疫性肝炎および自己免疫性膵炎が挙げられる。
【0013】
足場はまた、慢性炎症障害またはアレルギー/喘息などの、他の免疫障害を処置するか、またはその重症度を低減させるのに有用である。これに関連して、本方法は、慢性炎症またはアレルギー/喘息を患っている対象を特定する段階、ならびにその障害と関連する抗原、動員組成物およびアジュバントを含む足場組成物を対象に投与する段階を含む。ワクチンは、アレルギーに対する病原反応を低減/除去することによって急性喘息悪化または発作を低減させるのに有用である。アレルギーおよび喘息の場合、抗原は、対象においてアレルギー症状、例えば、ヒスタミン放出もしくはアナフィラキシーを引き起こすか、または急性喘息発作を誘発するアレルゲンを含む。アレルゲンは、例えば、(Amb a 1 (ブタクサアレルゲン)、Der p2 (ヤケヒョウダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)アレルゲン、つまりイエダニの主要種かつ喘息の主な誘導因子)、Betv 1 (主要な白樺(シラカバ(Betula verrucosa)花粉抗原)、ハンノキ(Alnus glutinosa) (ハンノキ)由来のAln g I、塘蒿(Apium graveolens) (セロリ)由来のApi G I、セイヨウシデ(Carpinus betulus) (ホームビーン)由来のCar b I、セイヨウハシバミ(Corylus avellana) (西洋ハシバミ)由来のCor a I、セイヨウリンゴ(Malus domestica) (リンゴ)由来のMal d I、ホスホリパーゼA2 (ハチ毒)、ヒアルロニダーゼ(ハチ毒)、アレルゲンC (ハチ毒)、Api m 6 (ハチ毒)、Fel d 1 (ネコ)、Fel d 4 (ネコ)、Gal d 1 (卵)、オボトランスフェリン(卵)、リゾチーム(卵)、オボアルブミン(卵)、カゼイン(乳)および乳漿タンパク質(α-ラクトアルブミンおよびβ-ラクトグロブリン、乳)、ならびにAra h 1〜Ara h 8 (ピーナッツ)を含む。本組成物および方法は、多数のアレルギー状態、例えば、ラテックスアレルギー; ブタクサ、牧草、樹木花粉およびイエダニに対するアレルギー; 乳、卵、ピーナッツ、樹木ナッツ(例えば、クルミ、アーモンド、カシュー、ピスタチオ、ペカン)、小麦、魚および貝に対するアレルギーのような食物アレルギー; 枯草熱; ならびに伴侶動物、昆虫、例えば、ハチ毒/ハチ刺されまたは蚊刺されに対するアレルギーの重症度を低減させるのにならびにそれらのアレルギーを処置するのに有用である。好ましくは、抗原は腫瘍抗原または腫瘍溶解物ではない。
【0014】
また、本発明のなかには、抗原特異的な免疫寛容を誘発して疾患の重症度を低減させるための、上記の負荷された足場および対象への注射または移植用の薬学的に許容される賦形剤を含むワクチンがある。他の投与経路には、足場を含む皮膚パッチを局所的に貼付すること、または個体の肺もしくは鼻道へエアロゾルにより足場組成物を送達することが含まれる。
【0015】
本足場およびシステムは、上記の状態に加えて、歯周炎の処置に有用である。樹状細胞を動員してその活性化を非炎症性の表現型へと促す、インビボで用いるための生体材料システムの一例には、生体材料マトリックスまたは足場、例えば、アルギン酸塩のようなヒドロゲル、および歯周炎のような歯または歯周の状態で用いるためのGM-CSFまたは胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)などの生物活性因子が含まれる。歯周炎は、歯周靱帯、セメント質および歯槽骨を含む歯の支持構造に影響を与える破壊性の疾患である。歯周炎は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、バクテロイデス・フォーサイサス(Bacteroides forsythus)、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)のようなグラム陰性細菌、ならびにペプトストレプトコッカス・ミクロス(Peptostreptococcus micros)およびストレプトコッカス・インターメジウス(Streptococcus intermedius)のようなグラム陽性細菌による、慢性の混合感染を示す。
【0016】
本方法は歯周疾患での調節性T細胞による炎症調節に取り組む。DCは調節性T細胞の誘導に加え、エフェクタ細胞においてアネルギーおよびアポトーシスを引き起こすことができる。他の機構には、Th1、Th2、Th17およびTreg間のバランスを変化させることが含まれる。例えば、TSLPはTh2免疫を増強することが公知であり、Treg数を増加させることに加えてTh2反応を増大しうる。本材料は多数の寛容原性DCを動員かつプログラミングして調節性T細胞分化を促進し、歯周炎のげっ歯類モデルで炎症を媒介する。より具体的には、適切に活性化されたDCのリンパ節への動員、適切な活性化、および移動は、大量の調節性T細胞の形成と、エフェクタT細胞の減少とをもたらし、歯周炎症の低減をもたらす。
【0017】
本発明の別の局面では、再生の促進に合わせた炎症の媒介について取り組む。具体的には、材料システムから送達される、BMP-2をコードするプラスミドDNA (pDNA)であり、該材料システムは、炎症を抑制し、DC標的化を介して炎症を低減させ、かつ歯周炎のげっ歯類モデルで歯槽骨を再生するための誘導的手法の有効性を増強する。例えば、まず炎症を低減させ、その後、局所的なBMP-2発現の誘導を介して骨再生を能動的に指令する材料から、顕著な歯槽骨再生がもたらされる。
【0018】
本発明は、炎症主導型の歯周疾患進行を調節し、次いで、炎症抑制の成功の後に再生を能動的に推進して機能する材料を提供する。さらに、本明細書において記述される組成物および方法は、組織再生誘導法(GTR)のための新たな材料に容易につながりうる。細胞運動に対する物理的障壁を単に与えるだけの現行のGTR膜とは異なり、この新たな材料は、局所免疫および組織を再構築する細胞集団をインサイチュで能動的に調節する。より広くは、炎症は、シェーグレン症候群および他の自己免疫疾患、ならびに顎関節障害のいくつかの形態を含めて、歯科および医科におけるその他多くの臨床的課題を構成する一つの要素である。本発明は、炎症媒介性の組織破壊によって特徴付けられるこれらの疾患の多くを処置するうえで広い有用性を有する。さらに、本材料システムはまた、DC輸送、活性化、T細胞分化、および免疫系と炎症との間の関係を探索する基礎研究のための新規かつ有用なツールを提供する。上記の状態および疾患に加えて、本組成物および方法はまた、創傷治癒で、例えば、くすぶり続ける創傷を処置し、それによって免疫系を創傷の軽減および治癒の方向へ変化させるのに有用である。
【0019】
足場に負荷するのに用いられるポリペプチドおよび他の組成物は、それらが天然に存在する状態から精製されるか、または別の方法で加工処理/改変される。例えば、実質的に純粋なポリペプチド、因子またはその変種は、好ましくは、該ポリペプチドをコードする組み換え核酸の発現により、または該タンパク質を化学的に合成することにより得られる。ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然状態において付随する夾雑物(タンパク質および他の天然の有機分子)から分離されている場合に実質的に純粋である。典型的には、ポリペプチドは、調製物中のタンパク質の少なくとも60重量%を構成する場合に実質的に純粋である。好ましくは、調製物中のタンパク質は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも99重量%である。純度は任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLC分析によって測定される。したがって、実質的に純粋なポリペプチドは、真核生物に由来するが、大腸菌もしくは別の原核生物、または該ポリペプチドが元は由来した真核生物以外の真核生物において産生される組み換えポリペプチドを含む。
【0020】
場合によっては、本方法において用いられる樹状細胞または他の細胞、例えば、マクロファージ、B細胞、T細胞のような免疫細胞は、精製または単離される。細胞に関して、「単離された」という用語は、細胞が、一緒になって天然に存在している他の細胞種または細胞物質を実質的に含まないことを意味する。例えば、特定の組織種または表現型の細胞のサンプルは、これが細胞集団の少なくとも60%である場合に「実質的に純粋」である。好ましくは、調製物は細胞集団の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%または100%である。純度は任意の適当な標準的方法により、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)により測定される。他の状況では、細胞は加工処理され、例えば、破壊され/溶解され、その溶解物は、足場中の抗原として用いるために分画される。
【0021】
本発明のこれらのおよび他の可能性は、本発明そのものとともに、以下の図面、詳細な説明および特許請求の範囲を読んだ後に、より十分に理解されるであろう。本明細書において引用される全ての参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。配列は、www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/のEntrezタンパク質データベースを用い、本明細書において提供される配列識別子を用いてオンラインで公的に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】歯周疾患(PD)における免疫反応の役割の略図である。PDの感染は、通例、活性化樹状細胞の形成をもたらし、これによって、エフェクタT細胞の作出、および長期的に骨吸収を生ずる組織中の慢性炎症が引き起こされる。
【図2】本発明の一つの態様におけるPD炎症の改善、および骨再生の促進のための手法の略図である。炎症の部位へ送達されたゲルは、まずGM-CSFおよびTSLPを放出し、未成熟DCからの寛容DC (tDC)の形成を促進し、DC活性化を遮断する。寛容DC/活性化DCの比率の増大により、調節性T細胞(Treg)の形成が促進され、エフェクタT細胞が阻害される。これは、炎症の過程および付随する骨吸収を低減させ、代わりに炎症の消散を促進する。ゲルは、炎症が鎮静するにつれて、BMP-2をコードするpDNAを放出し、局所的なBMP-2発現が骨再生を推進する。角括弧Aは、GM-CSFおよびTSLPのゲルによる送達とその後のtDCの生成との間の関係に対応する。角括弧Bは、Tregの形成および炎症において得られた影響を示し、角括弧Cは、要求に応じたゲルからのpDNA送達、および炎症改善後の骨再生に及ぼす影響を示す。
【図3】インビトロでのDC増殖、動員、活性化および遊出に及ぼすGM-CSFの濃度依存的な効果に関連するデータを示す。(3A) 表示された濃度のGM-CSFによって誘導された、トランスウェルシステムにおけるJAWSII DCのインビトロ動員を示す。移動の計数を12時間の時点で測定した。(3B) JAWSII DCの増殖に及ぼすGM-CSF濃度の効果である。0 (白色棒)、50 (灰色棒)および500 ng/ml (黒色棒)のGM-CSF。(3C) トランスウェルシステムの上側ウェルから、300 ng/ml CCL19を補充した培地の方向への、JAWS II DCの遊出に及ぼす、表示された濃度のGM-CSFの効果を示す。移動の計数を6時間の時点で行った。(3D) 5〜50または500 ng/ml GM-CSF中で培養し、活性化マーカーMHCIIおよびCCR7について染色した、TNF-αおよびLPSで刺激したJAWSII DCの代表的な顕微鏡写真である。(3D)中のスケールバー: 20 μm。(3A〜3C)中の値は平均および標準偏差(n=4)を表す; P<0.05; **P<0.01。
【図4】DCの動員およびプログラミングのインビボでの制御に関するデータを示す。(4A) 組織中で高い初期濃度のGM-CSFを生じる大規模初期バーストを示した、重合体からのGM-CSFの放出プロファイルである。(4B) 外植後14日後のC57BL/6Jマウス背部の皮下ポケットに由来する組織切片のH&E染色を示す: ブランク重合体およびGM-CSF (3000 ng)負荷重合体。(4C) 移植されて28日後に外植重合体から単離され、DCマーカーCD11cおよびCD86について染色された細胞のFACSプロットを示す。FACSプロットの数字は両マーカーについて陽性の細胞集団の割合を示す。(4D) 移植後の時間に応じたブランク(--○--)重合体およびGM-CSF (-●-)負荷重合体における、DCマーカーCD11cおよびCD86陽性の全細胞の割合である。(4E) 移植後の時間に応じたブランク(--○--)重合体およびGM-CSF (-●-)負荷重合体から単離されたDCの総数。(4F) 1000、3000および7000 ngの用量のGM-CSFに応答した、移植後14日目の時点の重合体から単離されたCD11c(+)CD86(+) DCの、対照と比べての微増。スケールバー: 500 μm。4A、4D、4Eおよび4F中の値は平均および標準偏差(n=4または5)を表す; P<0.05; **P<0.01。
【図5】寛容原性DCの誘導においてPD病変部へTSLPおよびGM-CSFを送達する材料システムの効力を示す。図5A〜5C: TSLP、VIPまたはTGF-βの存在下または非存在下でGM-CSF(7日のインキュベーション)により骨髄細胞からインビトロで誘導されたCD11+ DCによるサイトカインの産生を示す。C57BL/6マウスの骨髄(BM)から単離された単核細胞をGM-CSFおよびTSLP (それぞれ100 ng/ml)とともに7日間インビトロでインキュベーションすることにより、寛容原性DCの分化が上方制御され、これにより多量のIL-10 (5A)ならびに低量のIL-6 (5B)およびIL-12 (5C)が産生された。寛容原性DCの誘導において、TGF-β (100 ng/ml)もTSLPと同様の傾向を示したが、VIPは、IL-10を産生するDCの能力を上方制御しなかった。BM培養物におけるCD11c+ DCの表面表現型をフローサイトメトリーによってモニタリングし、各表現型の比率性を全単核細胞(MNC)の百分率(%)として表現した(図5、表1)。二重色共焦点顕微鏡検査により、GM-SCF (1 μg)およびTSLP (1 μg)を有するゲル(1.5 μl)の歯肉注射が、注射を受けなかった対照の骨損失病変部(5D)と比べて、マウス歯周骨損失病変部においてIL-10を産生するCD11c+細胞を増加させた(5E; 注射から7日後)ことが示された。
【図6】局所T細胞数の制御、および抗原特異的なCD8 T細胞を実証する。(6A) ブランクの媒体(灰色の線)、GM-CSF 3000 ngおよびCpG-ODN 100 μgだけを負荷した媒体(破線)、ならびにGM-CSFおよび抗原を負荷した媒体(黒色の線)でのCD8(+)細胞の組織浸潤のFACSヒストグラム。(6B) TRP2特異的なCD8 T細胞の特徴付け。未処置マウス(未処置)および30日目の時点で抗原+GM-CSF+CpGを含有する媒体を受けた(ワクチン接種された)マウス由来の脾臓を、抗CD8-FITC Ab、抗TCR-APC AbおよびKb/TRP2五量体で染色した。右上の四分画領域中の楕円形ゲートは、TRP2特異的なCD8(+) T細胞を表し、数字は陽性細胞の割合を示す。数値は平均を表す。
【図7】PDのマウスモデルにおいて誘導された垂直性の骨損失を示す。7A: 垂直性の歯周骨損失のヒト臨床例の画像(弁移植術時に撮影された写真)である。7B: 垂直性の骨損失へ適用されたGTR膜を示す。7a〜7f: 歯周炎のマウスモデルにおいて誘導された垂直性の骨損失の解剖学的実証である。口腔内Ppを持つマウスでの固定化Aaの全身免疫(皮下)によるPPAIR誘導から30日後、動物を殺処理し、肉を剥がした。7aおよび7b: 固定化Aaの免疫を受けなかった対照マウス; 7c〜7e: 固定化Aaの全身免疫により上顎大臼歯の周囲に垂直性の歯周骨損失を発現したマウス; 7g: 対照の歯周健常マウスの脱灰組織切片の組織化学的(HE染色)画像; 7h: 垂直性の歯周骨損失に付随してPDを発現したマウスの組織化学的(HE染色)画像(より高倍率の画像から広範な好中球浸潤がはっきりと示される)。
【図8】Pp担持マウスへのエクスビボ増殖Tregの養子移植が、PPAIRにより誘導された歯周骨吸収を抑止したことを実証する。Zhengらによって報告されているプロトコルにしたがい、これらの結果から、抗原としての、組み換えヒトTGFb1 (Peprotech)、マウスIL-2 (Peprotech)および固定化Aaの存在下においてAaで免疫されたマウス(Aa 1010個/マウスの腹腔内注射)から単離された脾臓細胞の培養による、FOXP3+ CD25+ T細胞のエクスビボでの増殖が示される。3日間のエクスビボでの刺激の後、全リンパ球中のFOXP3+ CD25+ Treg細胞の割合は、0日目の5.5%から3日目の15.0%まで増加した(上側の2図)。同様に、FOXP3+ CD4+ Treg細胞の割合も培養において増加した(下側の2図)。エクスビボでの刺激の6日後、FOXP3+ CD25+細胞の割合は、全リンパ球の23.3%かつ全CD4 T細胞の79.8%に達した。CD4+細胞を電磁ビーズに基づくネガティブセレクション技術により単離した(TGF/IL-2/Aa/CD4+ T細胞)。TGF/IL-2/Aa/CD4+ Treg細胞をCFSE (5 μM、PBS中、8分、MolecularProbe)で標識し、養子移植(106個/マウス)した。CFSE標識細胞の局在を歯肉組織および頸部リンパ節においてフローサイトメトリーにより確認した(示していない)。TGF/IL-2/Aa/CD4+ Treg細胞(2×104個/ウェル)をマイトマイシンC (MMC)で処理し、MMC処理脾臓APC (2×105個/ウェル)およびAa抗原の存在下においてAa特異的Th1エフェクタ細胞(2×104個/ウェル)と共培養した。マウス補体血清(Sigma)の存在下において、細胞傷害性抗CD25モノクローナル抗体(PC61, ラットIgG2a, Pharmingen)により、元の脾臓CD4+ T細胞中のCD25+細胞を枯渇させた。そのようなCD25枯渇脾臓CD4+ T細胞は、細胞数の調整後にも含まれていた。Th1エフェクタ細胞の増殖を3H-チミジンアッセイ法によって(4日間)モニタリングし、培養上清中のsRANKL濃度をELISA (8B)によって測定した。また、TGF/IL-2/Aa/CD4+細胞をPp担持マウスへ養子移植し、骨吸収(8C)、歯肉組織ホモジネートにおけるIFN-g (8D)、sRANKL (8E)およびIL-10 (8F)の濃度を全て30日目に測定した。, スチューデントのt検定によって対照とは有意差がある(P < 0.05)。**, スチューデントのt検定によってAa (皮下)注射だけ()とは有意差がある(P < 0.05)。
【図9】GM-CSF/TSLP送達重合体によるマウス歯肉組織および局所リンパ節(LN)におけるFOXP3+ T細胞の増殖を示す。PPAIR媒介性のPD誘導により歯周骨吸収窩(上顎大臼歯)を予め発現していたFOXP3-EGFP-KIマウスに、計1.5 μlの (1) 対照の空の重合体、(2) GM-CSF (1 μg)を有する重合体、および(3) GM-CSF (1 μg) + TSLP (1 μg)を有する重合体の歯肉注射を与えた。局所頸部リンパ節(CLN)および上顎を、重合体の注射後7日目の時点で殺処理された動物から切除した。CLN中のEGFP+細胞(=FOXP3+ Treg細胞)をフローサイトメトリーによってモニタリングした(9A、9Bおよび9C)。蛍光共焦点顕微鏡を用いてマウス歯周骨損失病変部におけるFOXP3+ Treg細胞の存在を評価した(9D〜9K)。(9D): 解剖学的対象物(歯根、歯槽骨および炎症結合組織)を示す図解、(9H): 歯周骨損失病変部の組織化学的画像(HE染色)、(9E〜9G): 明視野像、(9I〜9K): 蛍光画像。(9E、9Hおよび9I): 重合体注射を受けなかったマウスの隣接切片、(9F、9J): 重合体によるGM-CSFの注射を受けているマウス、(9G、9K): 重合体によるGM-CSF+TSLPの注射を受けているマウス。GM-CSF/TSLP送達重合体を受けた骨損失病変部におけるマウス歯肉組織では、病巣中に浸潤しているFOXP3+ T細胞の周りにCD11c+細胞およびIL-10が示された(9N、9O)のに対し、重合体の注射を受けなかった対照の骨損失病変部では、組織中にCD11C+細胞またはIL-10がほとんどまたは全く示されず、その組織ではFOXP3細胞の浸潤物も少量であった(9L、9M)。
【図10】BMPをコードするPEI凝縮pDNAの、重合体による送達が、骨再生をもたらすことを実証する。足場の移植はブランク重合体と比べて、(10A)マウスでのヒトBMP-4の長期(15週)発現(免疫組織化学; 矢印は陽性細胞を示す)、および(10B)危機的なサイズの頭蓋欠損での顕著な骨再生をもたらす。円は骨欠損の原領域を示し、円内の骨は新たに再生された骨組織を表す。類骨(10C)および石化組織(10D)で満たされた欠損領域での統計的に有意な増加がブランク重合体、または等量の非凝縮pDNAを負荷した重合体と比べて、凝縮pDNAの送達で認められた。15週時の全データ、および値は平均および標準偏差を表す。データから、ゲル分解速度の制御を介したアルギン酸塩ゲルからのpDNAの放出のタイミングの制御が実証される。
【図11】図11A〜Bは、超音波によるアルギン酸塩ゲルからのpDNA放出のタイミングの的確な制御を実証する線グラフである。pDNAをカプセル封入しているアルギン酸塩ゲルを組織培地中でインキュベートし、超音波振動子を培地中に入れた。照射(1 W)を毎日15分間ゲルに適用し; 培地を回収し、溶液中のpDNAを定量化することによりpDNAの放出速度を分析した。これらの研究において用いられた高分子量の緩徐分解性ゲルからのpDNAの基線放出速度は最低限であった。
【図12】pDNA放出速度を示す線グラフである。
【図13】インビトロでのTreg発生アッセイ法の略図である。
【図14】図14Aは、ペトリ皿の俯瞰を示す略図であり、淡い濃淡はコラーゲンおよびDCを表し、一方で濃い方の濃淡(内円)はアルギン酸塩ゲルを表す。図14B〜Cは、GM-CSF有りまたは無しのアルギン酸塩含有ヒドロゲルに対するインビトロでの骨髄由来の樹状細胞のケモキネシスを示すドットプロットである。図14B (GM-CSFなし); 図14C (GM-CSFがアルギン酸塩に配合された)。図14Dは、GM-CSFの存在下および非存在下(対照)での樹状細胞の平均移動速度のリストである。
【図15】マウス皮膚下のアルギン酸塩ゲル足場材料の写真である。スケールバーは5 mmである。
【図16A】図16A〜Bは、インビボでのGM-CSF負荷アルギン酸塩ゲルへのDCの動員を示す一連の顕微鏡写真である。図16A: GM-CSF無しのアルギン酸塩ゲルを示す。
【図16B】図16A〜Bは、インビボでのGM-CSF負荷アルギン酸塩ゲルへのDCの動員を示す一連の顕微鏡写真である。図16B: GM-CSFを含有するアルギン酸塩ゲルを示す。
【図16C】ブランク(GM-CSF無しのアルギン酸塩)およびGM-CSF負荷アルギン酸塩ゲルにおける細胞の定量化を示す棒グラフである。
【図17】インビボにおいてGM-CSFおよび胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を放出しているアルギン酸塩ゲルに隣接した細胞でのForkhead box P3 (FoxP3)の発現を示す一連の顕微鏡写真である。GM-CSF 3 μgおよびTSLP 0 μg (A、左側パネル)または1 μg (B、右側パネル)を含有するゲルを、注射から7日後に外植した。白色の点線は皮膚組織(左側)とアルギン酸塩ゲル(右側)との間の境界を示す。スケールバーは50 μmである。
【図18】マウス1型糖尿病モデルの樹立を示す線グラフである。
【図19】PLGA-dex、ovaおよびGM-CSF; PLGA、ovaおよびGM-CSF; PLGA-dex、BSAおよびGM-CSF; ならびにPLGA-dexおよびovaを含有する足場の投与後の正常血糖細胞(euglycemic cell)の定量化を示す線グラフである。
【図20】ワクチン接種後のオボアルブミン特異的な血清中IgEを示す棒グラフである。以下のワクチン接種群について試験した: 初回ワクチン接種なし; Ova足場; Ova+GM-CSF足場; Ova+GM-CSF+CpG足場; およびOva+GM-CSF+CpGのボーラス腹腔内(IP)注射/足場なし。これらのデータは、ワクチン接種が病原性IgE抗体を誘発しないことを示す。
【図21】図21Aは、オボアルブミン投与後の脾細胞インターフェロン-γ (IFN-ガンマ)の生成を示す棒グラフである。
【図22】CpG、GM-CSFおよびオボアルブミンを含有する足場でのワクチン接種後のアナフィラキシーショックの減弱化を示す棒グラフである。ワクチン接種し、続いてオボアルブミンで腹腔内攻撃を行った後に、試験動物の体温を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本明細書において記述される足場およびシステムは、DCの活性化を局所的に制御し、かつ免疫反応を非病原性の状態に偏向させるきっかけの時空間的提示を媒介する。この足場および方法を用いて、不適切な免疫活性化により特徴付けられる疾患もしくは障害を患っているか、または発症するリスクがあると特定された対象を処置する。生体材料システム(負荷足場)は、DCを動員し、DCの活性化を、寛容原性もしくは非炎症性の表現型へと促す(自己免疫/炎症)か、または活性化状態へと促して病的状態で起こる異常なまたは誤調節された免疫反応を修正する(アレルギー/喘息)。
【0024】
自己免疫疾患の場合、足場は抗原(自己抗原)、動員組成物および寛容原を含む。アレルギーまたは喘息の場合、足場は抗原(アレルゲン)、動員組成物およびアジュバント(例えば、CpGのようなTh1促進性のアジュバント)を含む。Treg細胞の作出は、免疫反応を、病原性Tエフェクタから離れる方向へ、および免疫系のTreg、Th1、Th17部門(arms)のような他の免疫エフェクタの方向へと方向づけることによって、臨床的有益性をもたらす。
【0025】
ワクチンは、免疫系をTh1/Th17からT調節性偏向免疫反応へ(自己免疫)、およびTh2反応からTh1偏向免疫反応へ(アレルギー/喘息)と方向を変えさせることにより、病原性免疫の疾患を和らげる。
【0026】
足場
例示的な足場はPLG (アレルギーもしくは喘息の場合)またはアルギン酸塩(歯周炎の原因となる糖尿病のような自己免疫疾患の場合)を用いて作出された。PLGを圧縮させ、発泡させ、浸出させて(90%の圧縮粉末で構成されている250 μm〜400 μmのポロゲン(これを後で浸出させて))、多孔質材を作出した。ゲルは、典型的には、1〜20%の重合体、例えば、1〜5%または1〜2%のアルギン酸塩である。足場を作出する方法は当技術分野において公知である、例えば、USSN 11/638,796またはPCT/US2009/000914。重合体は好ましくは架橋される。例えば、1〜2%のアルギン酸塩が二価陽イオン(例えば、カルシウム)の存在下でイオン結合的に架橋された。あるいは、分子の時空間的提示および制御分解を調整するために、過ヨウ素酸ナトリウムでの酸化によりアルギン酸塩鎖を分子で誘導体化し、アジピン酸ジヒドラジドと架橋させることにより、アルギン酸塩は共有結合的に架橋される。
【0027】
免疫系をTh1/Th17からT調節性偏向免疫反応へと方向を変えさせることにより病原性免疫の疾患を和らげるワクチン
GM-CSFはインビトロで骨髄樹状細胞のケモキネシスを増強した。GM-CSF (およそ1 μg/ゲル)有りまたは無しのアルギン酸塩ゲルをペトリ皿の中に入れ、骨髄由来マウス樹状細胞を含有するコラーゲンで囲んだ(図14A)。タイムラプス撮影により細胞を8時間追跡した。細胞の速度を初期および最終の位置の値から計算し、μm/分の単位で図14BおよびCにプロットした。アルギン酸塩に対する走化性は正のx座標として与えられる(正のxは半径方向内向きである)。各ドットは細胞1個の速度を反映し、各ドットは実験3回の代表である。GM-CSFの存在下での細胞の平均遊走速度は、GM-CSFの非存在下での1.1 μm/分と比べて3.1 μm/分であった。対照での速度およびアルギン酸塩ゲルでの速度は、図14Dに示されており、p< 0.01で有意差があると分かった。これらのデータは、GM-CSFが樹状細胞の移動の速度を増大させ、したがって樹状細胞の遊走を促進することを示している。
【0028】
生体材料の足場をインビボで観察するために、アルギン酸塩ゲルを皮内に注射した(図15)。アルギン酸塩ゲル60 μLをマウスの皮膚へ皮内注射した。動物の安楽死の後に皮膚の真皮側から写真画像を撮影した。青色色素をアルギン酸塩ゲルに取り込んだ後に、可視化のため架橋させた。
【0029】
インビボでのGM-CSF負荷アルギン酸塩ゲルへのDCの動員
図16A〜Bは、アルギン酸塩ゲルを含有する皮膚切片の免疫蛍光染色の結果を示し、核、MHCクラスIIおよびCD11cを示している。GM-CSF 0 μg (A)または3 μg (B)を含有するゲルを、注射から7日後に外植した。白色の点線は真皮組織(左側)とアルギン酸塩ゲル(右側)との間の境界を示す。スケールバーは50 μmである。ブランクゲル vs GM-CSF 3 ugを負荷したゲルでCD11c+細胞から構成されている組織切片中の領域を7日後に定量化した。ImageJを用いて、染色された切片の画像解析を行った(動物n=3/状態)。P < 0.02。データは、樹状細胞はインビボでGM-CSF負荷ゲルに動員されたことが実証している。
【0030】
GM-CSF/TSLP負荷ゲルはT調節性(Treg)細胞を動員する
Treg細胞はインビボで、GM-CSFおよびTSLPを放出するアルギン酸塩ゲルに隣接して検出された。TSLPは、Treg細胞によって媒介される免疫寛容を促進し、このような細胞の抑制活性の調節において直接的および間接的な役割を果たす。末梢的には、TSLPの主な影響はDCに対するものである; しかしながら、T細胞はTSLPに対する受容体を有し、同様に影響を受ける。Tregは歯周病に対して治療上有効な手段となるため有益であるが、Th2反応への切り替え(Th1→Treg/Th2)も伴う。他の疾患の場合、圧倒的にTreg反応は望ましい; 後者の場合は、TGF-βおよびIL-10のような因子が利用される。
【0031】
図7においてCD4+CD25+ Treg細胞で特異的に発現される転写因子FoxP3の発現を検出することにより、細胞が特定された。図17のパネルAおよびBは、アルギン酸塩ゲルを含有する皮膚切片の免疫蛍光染色の結果を示し、核(灰色のドット)およびFoxP3 (輝くドット)を示している。全てのゲルにはGM-CSF 3 μgが含まれた。パネル(A)中のゲルにはTSLPが含まれていなかった(0 μg)のに対し、パネル(B)中のゲルにはTSLP 1 μgが含まれていた。ゲルを注射から7日後に移植し、分析した。白色の点線は真皮組織(左側)とアルギン酸塩ゲル(右側)との間の境界を示す。スケールバーは50 μmである。GM-CSFおよびTSLPの両方を含有するゲルを用いて、多数の輝くドット(FoxP3陽性Treg細胞)が検出された。これらのデータから、GM-CSF単独またはアルギン酸塩単独と比べて、GM-CSFおよびTSLPの両方を含有するゲルには増加した数のTreg細胞が動員されることが示される。
【0032】
1型糖尿病に対する樹状細胞免疫療法
本明細書において記述されるゲル足場は、当技術分野において認識されている1型糖尿病(T1DM)の自己免疫モデルで評価された。このモデルでは、膵臓中にてラットインスリンプロモーター(RIP)の制御下でオボアルブミン(OVA)を発現するトランスジェニック動物(RIP-OVAモデル)を利用する(例えば、Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 October 26; 96(22): 12703-12707; またはBlanas et al., 1996. Science 274(5293): 1707-9.を参照のこと)。OVA特異的なCD8陽性(細胞傷害性T)細胞を静脈内に養子移植して自己免疫性糖尿病を誘導し、確立する。より具体的には、養子移植されたT細胞は、膵臓β細胞上に提示されたオボアルブミンを認識し、これらの細胞を攻撃し、勢いの弱くなったインスリン分泌および糖尿病をもたらす。
【0033】
図18は、さまざまな用量のOT-I脾細胞の注射後の、正常血糖RIP-OVAマウスの割合を経時的に示す。6×106、2×106、0.67×106または0.22×106個の静脈内投与された活性化CD8+Va2+ OT-I脾細胞を、1群あたり4匹のマウスに注射した。およそ2×106個の細胞の養子移植は1週間で糖尿病を引き起こす。300 mg/dLを超える血中グルコースの読み出しの状態が3日続くことを、高血糖と定義した。0.67×106〜2×106個のT細胞が疾患の誘導に対する臨界閾値である。本明細書において記述されるようにT細胞の運命に影響を及ぼす治療と同時にこのレベルで細胞が投与されるなら、最終的に糖尿病になる動物の数およびそれらが糖尿病になる速度は、治療なく細胞の養子移植だけの対照動物と比べて大幅に変えられる。
【0034】
同じモデルシステムを用いて、アルギン酸塩ゲルの足場を皮内に移植した。次いで、アルギン酸塩の皮内移植から10日後、2×106個のOT-I脾細胞の注射に続いて経時的に正常血糖マウスの割合を決定した(図19)。どの動物もアルギン酸塩の注射を受けた。TSLPと同様に、デキサメタゾン(dex)は、免疫寛容を誘導する組成物である。この実験では、アルギン酸塩ゲルへ負荷してデキサメタゾンの放出を遅延させる前に、デキサメタゾンをポリ(ラクチド-コ-グリコリド) (PLG)ミクロスフェアの中に入れた。アルギン酸塩ゲルの組成は以下の通りであった: PLG: ブランクのポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ミクロスフェア、PLGA-dex: ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ミクロスフェアの中に入れられたデキサメタゾン(100 ng)、ova: オボアルブミン(25 ug)、GMCSF: 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(6 ug)、BSA: ウシ血清アルブミン(25 ug)。300 mg/dLを超える血中グルコースの読み出しの状態が3日続くことを高血糖と定義した。6匹またはそれ以上のマウスを各群に含めた。デキサメタゾンはインスリンの作用を遮断するが、抗原 + 寛容原の制御された時空間的提示は他群と比べPLGA-dex + Ova + GM-CSF群において糖尿病の改善(より高い正常血糖率およびより遅い疾患発症)をもたらし、足場との関連において寛容原、抗原および動員剤の組み合わせはインビボで特に膵臓細胞に対する糖尿病関連の自己免疫反応の低減をもたらすことが実証された。
【0035】
アレルギー状態の減弱化のためのワクチン
免疫グロブリンE (IgE)は、通常、体内に少量で存在するが、アレルギー疾患において主要な役割を果たす抗体の一種である。肥満細胞の表面は結合性IgEのための受容体を含む。IgEが肥満細胞に結合すると、アレルギー反応のカスケードが始まりうる。IgE抗体はアレルゲン(抗原)に結合し、脱顆粒および肥満細胞からの物質の放出、例えば、ヒスタミンの放出を誘発し、炎症を引き起こす。アレルゲンはT細胞を誘導してB細胞を活性化する(Th2反応)が、このB細胞は成熟してさらに多くの抗体を産生かつ放出する形質細胞となり、それによってアレルギー反応を持続させる。
【0036】
足場に基づくワクチンは、免疫系をTh2からTh1偏向反応へと方向を変えさせることにより、アレルギー、喘息、および異常な免疫活性化によって特徴付けられる他の状態を和らげるように作出された。足場に基づくワクチンは、肥満細胞脱顆粒によるヒスタミン(および他の炎症性分子)の放出が引き起こすアレルギー症状をもたらすIgEの産生を低減させた。
【0037】
ワクチン接種に応じた抗体産生について最初に評価した。Balb/cマウスを処置せずに放置した(初回ワクチン接種なしの対照)。他のマウスには、足場の中に取り込まれたオボアルブミン10 μg (Ova足場)、足場の中に取り込まれたオボアルブミン10 μg + GM-CSF 3 μg (Ova + GM足場)、足場の中に取り込まれたオボアルブミン10 μg + GM-CSF 3 μgおよびCpG 100 μg (Ova + GM + CpG足場)を投与し、またはオボアルブミン10 μg + GM-CSF 3 μgおよびCpG 100 μgを腹腔内に注射(ボーラスIP (Ova、GM、CpG))した。ポリラクチド-コ-グリコリド (PLG)の足場は発泡、つまり粒子浸出技術によって作出された。13日後に動物から血清を回収し、ova特異的IgE抗体の力価についてELISAによりアッセイした。足場ワクチンは側腹部の皮下に投与した。ボーラスIP注射はIgE抗体反応をもたらした。しかしながら、足場を用いた(すなわち、時空間的な形での制御放出を用いた)足場媒介性の因子送達は、抗体反応を生じなかった(図20)。それゆえ、足場による送達戦略では、IgE/肥満細胞脱顆粒が媒介するアレルギー反応の生成が促進されない。
【0038】
14日目に、ミョウバン(アジュバント)に吸着されたオボアルブミンを全てのマウスにワクチン接種した。13日後に、血清オボアルブミン特異的なIgEを定量化した(27日目)。N = 5〜10匹の動物。マウスにOva抗原 + ミョウバン(アジュバント)を投与して、Th2媒介性のアレルギー反応を誘発した。データから、抗原 + 動員剤(GM-CSF) + Th1促進/刺激因子(CpG)を含有する足場のワクチン接種はTh2媒介性のアレルギー反応を低減させ、Th1媒介性の反応を選択的に増大させ、アレルギー媒介物質の低減をもたらすことが示される。
【0039】
ワクチンによって誘発された免疫反応をさらに特徴付けた。Balb/cマウスを処置せずに放置した(初回ワクチン接種なし)。他のマウスには、足場の中に取り込まれたオボアルブミン10 μg (Ova足場)、足場の中に取り込まれたオボアルブミン10 μg + GM-CSF 3 μg (Ova + GM足場)、または足場の中に取り込まれたオボアルブミン10 μg + GM-CSF 3 μgおよびCpG 100 μg (Ova + GM + CpG足場)を投与した。14日後に、ミョウバンに吸着されたオボアルブミンを全てのマウスにワクチン接種し、14日後(28日目)に、動物由来の脾細胞をオボアルブミンとともに培養した。細胞培養上清から培地を回収し、ELISAを用いIFN-γ産生またはIL-4産生についてアッセイした。N = 5〜10匹の動物。この結果は、足場中、全3種の因子(Ova + GM + CpG足場)でのワクチン接種がIFN-γのレベル増大をもたらすことを示し、それによって、Th1免疫反応の方向への(およびTh2アレルギー反応から離れる方向への)シフトを実証するものであった。
【0040】
CpGのボーラス投与は脾腫と関連していることもあった。それゆえ、ワクチン投与後の脾臓肥大を評価するために実験を行った。この結果から、ボーラス投与が脾腫をもたらすことが示された; しかしながら、足場中での因子(例えば、抗原/動員剤/Th1刺激剤; Ova/GM-CSF/CpG)の送達は脾腫をもたらさなかった。したがって、足場からの因子の制御された時空間的放出の利点は、副作用である脾腫の回避である。足場およびそれを使用する方法は、抗体によるDCの標的化およびエクスビボでのDC養子移植を含め、免疫系における樹状細胞を活用するように開発された他の戦略と比べて多くの他の利点を有する。従前の技術は特異性を欠いており、足場とは違って、抗原が検出される微小環境を十分に制御するものではない。養子移植は高価で、一過性であり、多くの細胞が投与後に死滅するか、または十分には機能しない。本明細書で記述される足場システムはいっそう安価であり、インプラントの有効期間を通して細胞の方向づけを行い(連続処理 vs バッチ処理)、低い細胞生存度および低機能化をもたらすエクスビボでの細胞処理を必要としない。
【0041】
抗原誘発が引き起こすアナフィラキシーショックのアレルギー動物モデルにおいてワクチン接種を評価した。ヒスタミン放出は温度の変化(対象の体温の低下)をもたらすが、これをアレルギー反応の重症度の指標として用いた。0日目に、Balb/cマウスにミョウバン(alum)中のオボアルブミン10 μgを投与し; オボアルブミン10 μg + GM-CSF 3 μgおよびCpG 100 μgを皮下に(ボーラス)投与し; 足場中でオボアルブミン10 g + GM-CSF 3 μgおよびCpG 100 μgを皮下に(足場)投与し; または初回処置なし(初回なし)とした。2週目、5週目および8週目に、ミョウバンに吸着されたオボアルブミンを動物にワクチン接種し、11週目に動物の腹腔内にオボアルブミン1 mgを投与した。n=7または8、エラーバー SEM。図22に示した結果から、抗原 + 動員組成物 + アジュバントを負荷した足場によるワクチン接種がアレルギー症状の低減をもたらすことが示される。
【0042】
歯周炎および他の炎症性歯科状態または歯周状態の処置のためのゲル足場材料に基づくワクチン
慢性炎症は、歯槽骨の進行性消失および歯の脱落をもたらしうる慢性炎症によって特徴付けられる、歯周炎を含む歯科の最も喫緊の疾患の多くの主要素である。さまざまなモルフォゲンおよび細胞集団の送達を含め、歯周炎の破壊的影響を反転できる可能性があるいくつかの組織工学および再生戦略が特定されているが、それらの実用性は慢性炎症状態に特有の不適切な微小環境によって損なわれる可能性が高い。歯周炎における炎症は細菌感染にも微生物に対する過度に攻撃的な免疫反応にも関連し、このことが、免疫反応への干渉を介して炎症を調節しようという努力につながった。それゆえ、歯周炎の処置に対する新規の治療手法を考案することが急務である。
【0043】
慢性炎症は、持続的な組織破壊により特徴付けられ、歯周炎、歯髄炎、シェーグレン症候群およびある種の顎関節障害を含む、多くの経口疾患および頭蓋顔面疾患の要素である。特に、歯周疾患(PD)は、歯周囲の炎症、軟組織破壊および骨吸収により特徴付けられ、歯の脱落を引き起こす。約30%の成人米国人がわずかな歯周炎を有し、成人人口の5%が重篤な歯周炎を経験している。また、PDは心血管疾患および低出生体重などの、さまざまな全身性疾患の病原性を悪化させる傾向があるので、PDは、損なわれた宿主防御を示す個体においてとりわけ、疾病率および死亡率に寄与しうる。組織再生誘導(GTR)膜は、歯周組織再生を増強するためによく用いられており、これらの膜は物理的障壁を提供して、上を覆う歯肉由来の上皮細胞が欠陥部位に浸潤するのを防ぎ、歯槽骨の再生および歯への再付着に干渉するのを防ぐ。GTR膜は、おそらく再生に対するその受動的アプローチにより、通例、十分予測可能な形ではないが、再生を増強しうる。それゆえ、PDの処置に対する新規の治療手法を考案することが急務である。
【0044】
歯周疾患の主な合併症の一つは、患部の歯の脱落を引き起こす不可逆的な骨吸収である。PDは、歯にコロニーを形成している細菌の機械的除去、および/または抗生物質による全身もしくは局所処置によって現在のところ処置されている。これらの手法は細菌負荷を低減させ、適切な口腔衛生と組み合わせた場合、疾患の進行を遅延させることができるが、それらは、組織破壊を推進する慢性炎症に真正面から取り組むものではなく、失われた組織構造の再生を促進するものでもない。PDにおける病原性の骨損失は、破骨細胞分化因子RANKLを産生するリンパ球によって誘導される。骨損失につながるPD進行の予防のための一つの手法は、歯周組織における細菌感染に対するT細胞およびB細胞の反応を調節することである。PDのラットモデルによってもマウスモデルによっても、そのような手法は実際に、免疫-RANKL媒介性の骨吸収の阻害で効果的であった。本明細書において記述される方法および組成物では、慢性炎症反応が消散されてさらなる組織破壊を遮断するにちがいなく、適切な生物活性剤の包含を通じて欠損組織の再生が能動的に促進されるにちがいない。
【0045】
歯周炎症の低減およびPDに対して過去に失われた骨の再生。例えば、リンパ球によって誘発される骨吸収および炎症の発病過程(図1)は、局所的に活性化された免疫寛容誘発樹状細胞(tDC)を介してFOXP3(+) T調節性(Treg)細胞により抑制される。調節性T細胞(Treg)の形成を促進するDCによる炎症性免疫反応の寛解の後、病変部において失われた骨は、骨形態形成タンパク質(BMP)をコードするプラスミドベクターの局所的送達によって再構築される。この材料は低侵襲送達(すなわち、歯肉注射)を用いて投与され、機能的に異なる生物活性化合物の時間的に制御された放出を提供する。この装置は、(a) Tregの動員および増殖を介して炎症を抑えるための初期のDCプログラミングを促進し、(b) 続いて、骨再生を誘導するためのBMP-2をコードするプラスミドベクターの放出を促進する。
【0046】
T細胞およびB細胞はヒトおよび動物モデルでPDでの骨吸収において主要な役割を果たす。活動性の歯周病変部はB細胞およびT細胞の顕著な浸潤によって特徴付けられる。具体的には、形質細胞が全細胞浸潤物の50%〜60%を構成しており、これがPDと他の慢性感染疾患とを区別している。破骨細胞分化因子、つまりNF-kBリガンドの受容体活性化因子(RANKL)は、PDを伴う歯肉組織において活性化T細胞およびB細胞により特徴的に発現されるが、健常な歯肉組織においてはこれらの細胞により発現されない。患者の歯肉組織においてT細胞およびB細胞上に発現されたRANKLは、RANKL依存的にインビトロでの破骨細胞形成を誘導するのに十分強力であった。RANKLがほぼ全ての炎症性骨吸収疾患で破骨細胞分化および活性化の誘因として関与しているという所見は、この標的に取り組むことの重要性を強調するものである。
【0047】
マウスモデルはPDでの骨再生過程におけるDCおよびTregの役割の研究用技術と認識されており、この場合、生菌感染に対する免疫反応により炎症性の歯周骨吸収が誘導される(図1)。B細胞抗原としてT細胞抗原A.アクチノミセテムコミタンス(A. actinomycetemcomitans) (Aa) Omp29またはAa細菌全体の局所注射を受けたラット歯周組織において、RANKLを発現する抗原特異的T細胞またはB細胞の養子移植は骨損失を誘導しうる。骨吸収過程におけるT細胞の関与は、2つの阻害剤: (1) CTLA4-Ig (APCによって発現されるB7副刺激分子へのT細胞CD28の結合の結合阻害剤) および(2) カリオトキシン(T細胞特異的なカルシウムチャネルKv1.3の遮断薬)によって実証された。具体的には、カリオトキシンは活性化ラットT細胞によるRANKLの産生を阻害する。侵攻性(若年性)歯周疾患を有する患者から単離されたAa特異的ヒトT細胞株の養子移植は、3日ごとにAaを経口摂取したNOD/SCIDマウスにおいて顕著な歯周骨損失を誘導することができた。
【0048】
Aa免疫マウスおよびラットに対して誘導された免疫反応は、歯周病原性適応免疫反応(PPAIR)を呈する。ラットモデルの過去の研究によって、Aaに感染した限局型侵襲性歯周炎(LAP)患者の大部分の病態生理学的状態、および成人型歯周炎のいくつかの特徴が再現されている。このモデルは、生菌感染よりもむしろ歯肉組織への人工的な細菌抗原注射に依る。さらに、種々の遺伝子ノックアウトラット系統がないことで、細菌感染媒介性のPDとの宿主遺伝子の連鎖の解明が妨げられている。PDのマウスモデルはヒトPDの重要な特徴の多く、およびRANKL誘導に関連するものを含め、マウスでの適応免疫反応の病原性転帰を再現しており、歯周組織において誘導される骨吸収という点で有用である。
【0049】
Tregは適応性Tエフェクタ細胞の過剰反応を抑制し、炎症を抑える。Tregは、動物の実験的自己免疫疾患のいくつかで抑制機能を示すT細胞のサブセットとしてそもそも発見された。TregはIL-10およびTGF-βなどの、抗原非特異的な抑制因子を産生する。さらに、それらは、DC活性化を下方制御しかつT細胞免疫反応の強力な負の調節因子である細胞傷害性Tリンパ球抗原4 (CTLA-4)を構成的に発現する。
【0050】
Tregによって媒介される抗炎症効果は細胞外アデノシンの上方制御からも生じるが、これは、Tregが、CD39およびCD73の作用を介して細胞外ATPをこの抗炎症性メディエータに変換するためである。細胞外ATPは炎症を促進するため、損傷細胞または活性化好中球から放出されたATPは、危険シグナルのイニシエーターまたは天然のアジュバントとして関与している。全てのリンパ球系列細胞のなかで、TregだけがCD39およびCD73の両方を発現することが報告されており、アデノシンスカベンジャーを抑制することもできる。アデノシンは4種の受容体を通じて媒介されるさまざまな免疫調節活性を有する。Tリンパ球は高親和性のA2ARおよび低親和性のA2BRを主に発現する。マクロファージおよび好中球はその活性化状態に応じて全4種のアデノシン受容体を発現することができ、B細胞はA2ARを発現する。A2ARの関与はIL-12の産生を阻害するが、ヒト単球および樹状細胞によるIL-10の産生を増大させ、好中球によって媒介されるいくつかの細胞傷害性機能を選択的に低減させる。Tregの主な生物学的役割は、炎症性因子を産生する適応免疫反応の抑制であるように思われる。それゆえ、Tregの形成および機能を操作する能力は、PDを含むいくつかの炎症性免疫関連疾患に対する新規の治療手法を提供する(図2)。頻回の投薬を必要とする一般的な抗炎症薬と比べて、いったん十分な数のTregが作出されれば、それらは免疫記憶機能により、急性期においてだけでなく長時間にわたっても、PPAIRにより誘導される炎症を抑制できるものと予想される。
【0051】
Tregは転写因子FOXP3の発現レベルを介して特定される。変異FOXP3遺伝子を有する患者は、自己免疫性多腺性内分泌不全症(とりわけ1型糖尿病および甲状腺機能低下症において)ならびに腸疾患(「X染色体連鎖免疫調節異常・多発性内分泌障害・腸症(IPEX)症候群」として特徴付けられる)を示す。FOXP3遺伝子変異も示す、IPEXヒトとScurfyマウスとの間の表現型の類似性から、FOXP3の変異がヒトIPEXおよびマウスScurfyの共通の原因であることが示唆される。FOXP3遺伝子変種(多型)は自己免疫疾患および他の慢性感染に対する感受性に結び付けられることもある。重要なことには、FOXP3(+)細胞はヒト歯肉組織に存在し、また、意義深いことには、FOXP3の発現レベルは健常な歯肉組織と比べて病変歯肉組織において減少するように思われる。さらにより重要なことには、FOXP3(+) T細胞は、PDを呈する患者の歯肉組織においてRANKLを発現せず、FOXP3(+) T細胞はPPAIRの抑制に関与している可能性のあることを示唆している。さらに、Treg関連の抗炎症性サイトカインIL-10は、細菌抗原またはTCR/CD28結合のいずれかによりインビトロで刺激されたヒト末梢血T細胞において、sRANKLの発現により抑制される。したがって、FOXP3+ T細胞は歯周衛生の維持: (a) ヒト歯肉組織のT細胞におけるRANKLとFOXP3との間の多様かつ排他的な発現パターン、および(b) 活性化T細胞により産生されるRANKLおよび他の炎症性サイトカインの抑制に関与している。
【0052】
Treg細胞は慢性感染に対する適応免疫反応の大きさを制限し、激しい抗菌免疫反応によって引き起こされる付随的な組織損傷を防ぐ。歯周疾患は複数菌感染であるため、そのような莫大で多様な細菌を歯肉組織Tregがいかにして認識し、同時に、膨大な数の細菌との反応もする適応エフェクタT細胞を歯肉組織Tregがいかにして調節するかを解明することには意味がある。いくつかの証拠から、CD25(+)FOXP3(+)CD4(+) Treg細胞は、とりわけ感染に応じて、CD25(-)CD4(+)適応T細胞集団から誘導できることが示唆される。これらは誘導Treg細胞(iTreg)と呼ばれることが多く、その誘導は、天然に存在するTreg (nTreg)集団に酷似しているが、特にIL-10またはTGF-βの存在下で、末梢の活性化によって作出される。FOXP3(+) Treg全集団内のT細胞受容体(TCR)の多様性は、FOXP3(-)CD4 T細胞の多様性を超える。リーシュマニア(Leishmania)、住血吸虫(Schistosoma)、およびHIVを含む種々の感染疾患において、抗原特異的Tregの存在が見出されている。これらの結果は全て、Tregが外来抗原を認識する機構と一致している。歯周疾患は複数菌感染であるため、膨大な数の細菌との反応もする活性化された適応エフェクタT細胞と関連する炎症を抑制する際にTregを利用することは意味がある。
【0053】
免疫反応(例えば、Treg誘導)は抗原提示細胞のネットワークによって統合され、おそらく、これらの細胞種のなかで最も重要なのがDCである。組織常在性DCは抗原を常に監視しかつ捕獲し、抗原断片をT細胞に提示する。DCによる抗原提示は、抗原に対する免疫反応を免疫活性化または免疫寛容のいずれかに方向づける際に鍵となる役割を果たす。健常な歯肉組織では、経口共生細菌に対する免疫寛容が誘導されるのに対し、前述の通り、歯周病原菌に対するIgG抗体反応の上昇によって実証されるように、PDとの関連で歯周病原菌に対して免疫活性化が誘発される。寛容 vs 活性化というこれらの二つの相反する結果は、歯肉組織に存在するDCによって制御される。寛容誘導性DC (tDC)は調節性DCとも呼ばれる。免疫活性化を防ぐためにtDCが用いる一つの方法は、抗原提示中にiTreg細胞を作出することである。DCの成熟および活性化の状態はTreg発生にとって欠かせない: 炎症刺激に応じて活性化されかつ成熟するDCは免疫反応を誘発するが、対照的に、未成熟または「半成熟」なDCはTregの作出によって媒介される寛容を誘導する。tDCの主要な表現型の特徴は、IL-10の産生、ならびにIL-12およびエフェクタT細胞を抗原刺激する他のサイトカインの低産生または無産生である。いくつかのシグナルおよびサイトカインがDCの輸送および活性化を指令する。TNF、IL-1、IL-6およびPGE2を含む複数の炎症性サイトカインが、DC活性化を媒介し、エクスビボでDCを成熟させるために頻繁に用いられる。
【0054】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、免疫反応の生成中のDCの動員および増殖に関する特に強力な刺激因子であり、インビボでDC輸送を操作するのに有用である。単独または組み合わせで使われる、TGFβ、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)およびレチノイン酸(RA)を含む種々の外因性因子が、DCの成熟を特定の方向に方向づけ、寛容およびTreg発生を誘導する。
【0055】
モルフォゲン
組織常在細胞による骨形成を能動的に促進するいくつかのモルフォゲン(例えば、骨形態形成タンパク質(BMP)、血小板由来増殖因子(PDGF))が、歯槽骨の再生を促進するのに有用である。その過程において、TGF-βスーパーファミリーのメンバーBMPが鍵となる役割を果たす。BMPは、種々の生理学的役割を有する二量体分子である。BMP-2〜BMP-8は、胚発生および組織修復において重要な役割を果たす骨形成タンパク質である。高度に精製された組み換え型として利用することが可能な最初のBMPであるBMP-2およびBMP-7は骨再生の役割を果たす。BMP-2は、骨および軟骨前駆細胞の、骨細胞表現型への分化因子として主に作用する。BMP-2は、再生された骨の成熟および硬化を改善することに加えて、骨形成の誘導能および骨欠損の治癒能を示した。PDGFは、細胞増殖の調節、マトリックス沈着、および走化性を含む複数の機能を有するタンパク質であり、その歯周再生の促進能についても調べられている。PDGF送達は、歯周の靱帯および骨の修復ならびに歯表面への靱帯付着に影響を及ぼす。骨再生治療における活性剤として組み換えタンパク質が用いられる。あるいは、モルフォゲンを輸送するために局所遺伝子治療戦略が用いられる。
【0056】
遺伝子治療を介した増殖因子の持続的な局所産生および分泌は、短い半減期および炎症環境に対する感受性に関連したタンパク質送達のある種の制限を克服し、組織欠損部位での因子の存在のタイミングの調節も可能にする。小規模の臨床試験および動物実験から、増殖因子の局所発現を推進して骨再生を推進するために、アデノウイルス遺伝子送達手法、または移植の前にインビトロで遺伝子操作された細胞集団の移植を利用した成功例が立証されている。増殖因子をコードする遺伝子を含むプラスミドDNAの送達が好ましい。プラスミド送達では大量投与を要し、これによって、約7日間またはそれ以下の間、導入遺伝子の発現が生じる。重合体デポ剤からのプラスミドDNA送達は、トランスフェクションの効率およびモルフォゲン送達の持続時間を増大する。
【0057】
送達システム
強力かつ特異的な免疫反応および骨形成反応を生成するためのインサイチュでのDCおよび宿主骨前駆細胞のプログラミングには、これらの細胞に作用する種々のシグナルを時空間で的確に制御することが必要になる。所望の作用部位での分子の局所的かつ持続的送達を提供するための一つの手法は、そのカプセル封入とそれに続く重合体システムからの放出によるものである。この手法を用いて、分子は重合体から(例えば、重合体分解を介して)ゆっくりかつ制御可能に放出され、その送達の用量および速度は、負荷される薬物の量、薬物の取り込みに用いられる過程、および媒体を製造するために用いられる重合体に依存する。さらに、重合体システムは、例えば外部誘因として超音波を用いて、カプセル封入された生物活性分子の放出を外部から調節することを可能にする。さまざまな生物活性巨大分子の局所的かつ持続的な送達を可能とするために、種々の異なる重合体およびさまざまな物理的形態の重合体が開発されている。GTR膜を製造するためにも使われる、ラクチドおよびグリコリドの生分解性重合体(PLG)は、ホルモンの長時間送達のために臨床的に用いられる(Lupron Depot(登録商標)ミクロスフェア[Takeda Chemical]およびZoladex微小円筒状インプラント[Zeneca Pharmaceuticals])。マクロファージ炎症性タンパク質(MIP-3β)の放出を維持するPLGミクロスフェアは、インビトロでマウス樹状細胞に対して化学誘引活性がある。重合体の棒も、MIP-3βを腫瘍の溶解物または抗原とともに局所的に同時送達するために用いられており、樹状細胞の動員を誘導し、抗腫瘍免疫を生じる抗原特異的な細胞傷害性Tリンパ球活性を誘導することを可能にしている。
【0058】
GM-CSFおよびIL-12を負荷したミクロスフェアの腫瘍内注射は防御免疫を作出することが示された。アルギン酸塩由来の重合体つまり適当なデポ剤システムは、免疫調節性のきっかけおよび骨形成の刺激のための担体として用いられている。アルギン酸塩は、(1-4)結合したβ-D-マンヌロン酸およびα-L-グルロン酸残基から構成される直鎖状多糖類であり、親水性である。アルギン酸塩ゲルは、おそらくカルボン酸基により、非特異的なタンパク質吸収をほとんど促進せず、食品添加物、歯科用印象材料として、ならびに種々の他の医学的および非医学的用途において広範な使用歴を有する。それは、純粋な形態では、移植時にマクロファージ活性化または炎症反応をほとんど誘発しない。アルギン酸のナトリウム塩は水溶性であるが、カルシウムまたは他の二価陽イオンの結合の後にゲル化して、低侵襲的に体内に容易に導入できるゲルを生ずる。これらの材料システムは、インビボでDC輸送を量的に制御する能力、およびDC活性化を特異的に調節する能力を有する。そのような材料システムは宿主免疫および炎症反応の制御をもたらし、その上、歯周組織再生を能動的に促進するシグナルを同時にもたらす。
【0059】
歯周疾患(PD)における慢性炎症
慢性炎症を伴うPDは、免疫細胞の関与を介して骨吸収を促進する(図1)。それゆえ、材料、具体的にはヒドロゲルは、病変組織に導入されると、まず免疫反応のバランスを変化させるシグナルを送達して炎症を改善し、その後、BMP-2をコードするpDNAの、要望に応じた局所的送達をもたらす。これらの組成物および方法は有意な骨再生を引き起こす(図2)。DCは、免疫系の中心的なとりまとめ役として標的化され、強力な抗原提示細胞である。他の細胞種は免疫調節のための標的を提供することができ、本明細書において記述される戦略はそれらの細胞種に同様に適用可能である。本発明は、TregとエフェクタT細胞との間のバランスを変化させて慢性炎症を改善するためにDCをプログラムする材料システムを提供する。IL-10のような抗炎症性サイトカインを産生しかつ適応免疫反応を抑制するTregの能力によって、Tregは慢性炎症過程を改善するのに魅力的な標的となる。材料システムは、骨誘導刺激を提供するその能力と組み合わせて、体内におけるDCおよびT細胞の数、輸送、および状態をより的確に制御する機会を提供する。
【0060】
本発明の別の局面において、骨再生は、BMP-2をコードするプラスミドDNAの局所的送達を伴う誘導的手法によって促進される。局所遺伝子治療を用いて、骨形成、具体的にはpDNA手法を促進する。この治療システムは骨誘導因子の送達を炎症の能動的消失と組み合わせたものであり、いったん炎症が弱まれば骨誘導因子が外部誘発的に放出される。特定の態様において、アルギン酸塩ヒドロゲルは材料プラットホームとして用いられる。これらのゲルは低侵襲的に体内に導入され、タンパク質、pDNA、および他の分子を送達し、それらのインビボでの分布および持続時間を調節するのに有用であると分かった。アルギン酸塩ヒドロゲルは超音波を介した誘発的放出に特に有用である。
【0061】
さらに、多数の宿主DCを動員するための、およびこれらのDCを寛容状態(tDC)に効果的に誘導するための材料システムに関して、GM-CSFはDCを動員するためのきっかけであり、TSLPは動員されたDCをtDC表現型へと押し進める。GM-CSFは周辺組織に放出されてDCを動員し、その増殖を促進し、通常、未成熟DCの数を増やし、その上、適切なTSLP曝露によってこれらの細胞はtDCに変換される。GM-CSFおよびTSLPの局所送達とtDCとの関係は、活性化DCの数を最小限に抑えながらtDCの作出をもたらす。
【0062】
一つの態様では、GM-CSFおよびTSLPの作用、ならびにアルギン酸塩ゲルを介したそれらの送達を特徴付ける。GM-CSFはDCの動員および増殖の強力なシグナルであり、GM-CSF濃度はDCの成熟を阻害しかつ寛容を誘導するその能力の鍵になる。TSLPはT細胞寛容を惹起しかつ維持するその能力によってtDCを作出する。血管作動性腸管ペプチド、ビタミンD、およびレチノイン酸を含めて、tDCおよびTregの形成を増強するいくつかの他の因子が特定されており、これらを単独でまたはTSLPとの組み合わせで用いることができる。
【0063】
インサイチュでtDCを動員しかつ生じさせるよう時空間的に適切に提示されるGM-CSFおよびTSLPを含有する材料が開発された。持続的なGM-CSFおよびTSLPの曝露(10〜500 ng/ml GM-CSF; 10〜200 ng/ml TSLP)の効果が本明細書において記述される。FACS分析および用いた他の分析方法は、成熟マーカー(例えば、MHCII、CD40、CD80 (B7-1)、CD86 (B7-2)、およびCCR7)の欠失、DCによるサイトカイン分泌(TNF-α、IL-6、IL-12、IFN-α、IL-10; tDCは低レベルのCD40、CD80、CD86、MHCIIおよび高レベルのIL-10によって特定される)の評価によりDC集団を特徴付けることである。拡散チャンバを用いて細胞動員に及ぼすGM-CSFの勾配の効果を評価する。
【0064】
重合体組成、分子量分布および酸化の程度の制御により、さまざまな流体力学的/機械的特性および分解速度を有するアルギン酸塩ゲルが作出される。用いたアルギン酸塩の配合物は、カルシウムで架橋された、75%の酸化低分子量MVGアルギン酸塩および25%の高分子量MVGアルギン酸塩から構成される二成分アルギン酸塩であった。この足場組成物はGM-CSFおよびTSLPの局所的送達を可能にする。GM-CSFおよびTSLPの放出速度はゲル架橋および分解速度に依存し、例えば、ゲルは時間枠およそ1〜2週の間、持続的放出をもたらす。これらの分子は、他の増殖因子およびpDNAの場合で以前に立証されている通り、架橋中にゲルへ直接取り込まれる。放出があまりに急速に行われる(例えば、1〜2日以内にゲルが枯渇する)場合、まず初めに因子をPLGミクロスフェアの中にカプセル封入し、これが次いで架橋中にゲルつまりアルギン酸塩ゲルへ取り込まれることによって、放出を遅延させることができる。この手法では、PLG粒子からの放出が全体的な放出を調節し、この速度はPLGのMWおよび組成を変化させることによって調整される。GM-CSFおよびTSLPの放出速度は、ヨウ素化された因子を用いて因子のカプセル封入後にインビトロで分析される。例えば、GM-CSFは2日〜3週の期間にわたって放出される。放出された因子の生物活性は、当技術分野において公知の、標準的な、細胞に基づくアッセイ法を用いて確認される。
【0065】
ゲルはマウス歯周組織の歯槽骨喪失の部位に注射される(例えば、1.5 μl)。
【0066】
宿主DCを動員するGM-CSFおよびTSLPの能力(図4)から、適切なGM-CSF用量が200 ng〜10,000 ngに及ぶことが示唆される。以下の因子を用いて評価を行った。
マウスサイトカイン/ケモカインパネル-24-Plex

【0067】
GM-CSFの提示は多数の動員DCを生じ、GM-CSF濃度とDC成熟との間の相関関係が得られる(例えば、DC成熟は高いGM-CSF濃度で阻害される)。言い換えれば、GM-CSFの放出動態および用量を制御することにより、GM-CSFは動員因子としてだけでなく寛容原性因子としても作用しうる。例えば、高濃度のGM-CSFで、樹状細胞は寛容原性になりうる。GM-CSFで十分な数のDCが動員されなければ、ゲルからの外因性Flt3リガンドの放出が任意で用いられてもよい。TSLPは、特に炎症シグナル(例えば、LPS)の存在下において、DCの活性化を指令するのに欠かせない。GM-CSFに対するTSLPの用量はこの現象の一因となる。例えば、足場中の各因子の範囲は0.1 μg〜10 μgであり、例えば、足場は各因子1 μgを用いて作出された。TSLPの代わりにTGF-β、IL-10、rレチノイン酸、ビタミンDおよび/または血管作動性腸管ペプチドが任意で添加または使用されてもよい。アルギン酸塩またはPLGは好ましい重合体である; しかしながら、他の重合体ならびにゲル内でのTSLPおよびGM-CSFの固定化の方法は当技術分野において公知である。
【0068】
GM-CSFおよびTSLPを提示する材料でPDに関連する炎症を調節することにより、Treg細胞の形成が誘導され、PDを有するマウスでの炎症が改善される。PDを有するヒト患者において見出される炎症性骨吸収は、骨破壊性のRANKLを産生する活性化適応免疫T細胞(およびB細胞)、ならびにT細胞および他の付随の炎症細胞からの炎症促進性サイトカイン(IL-1-β、IFN-γ)の発現により引き起こされる付随的な炎症性傷害により誘発されることが示された。T細胞の活性化を抑制することで、歯周疾患と関連する慢性炎症および骨吸収が消散される。GM-CSF/TSLP材料ゲルシステムを用いて抗炎症性Treg細胞(iTreg)を局所的に誘導することで、GM-CSFおよびTSLPによるiTreg形成によって作出されるtDCが示され、適応免疫反応の活性化によって誘導される炎症性骨吸収が阻害される。炎症のレベルは、歯肉組織に存在する炎症性化学メディエータ(PGE2、酸化窒素、ATPおよびアデノシン)の測定、および炎症細胞の存在によってモニタリングされる。
【0069】
歯周疾患におけるtDCの誘導
PDマウスモデルは、「歯周病原性適応免疫反応(PPAIR)」と名付けられた、口腔内に住む細菌に対する免疫反応の活性化の後に、垂直性の歯周骨損失を引き起こす。垂直性骨損失はヒト型の歯周疾患と最も密接に関連しており、このPDモデルは、(1) 組織ホモジネート中の炎症促進性サイトカインの測定による炎症反応の評価; (2) FOXP3-EGFP-KIマウスを用いたFOXP3+ Treg細胞の局在および数の評価; (3) 三重色共焦点顕微鏡検査およびフローサイトメトリーによる炎症細胞の表現型の評価; (4) 骨破壊性の破骨細胞(TRAP)、骨形成性の骨芽細胞(ペリオスチン/アルカリホスファターゼ[ALP])および靭帯線維芽細胞(ペリオスチン/ALP)の存在の評価; ならびに(5) 骨吸収のレベルの評価を可能にする。膜に基づくGTRシステムに代えて、ゲルに基づく送達システムの選択は、垂直性骨損失を再構築するための低侵襲(非外科用)材料システムとして有用である。より具体的には、ゲルの1回の歯肉注射で、GM-CSF/TSLPが適切に送達される。垂直性骨吸収病変部位の窩壁は、足場に頼らずに、材料を保持するための空間となる。この手法の基礎をなす原理の実証の成功後、これらのゲルを現行の膜に基づくGTRシステムに対する補充物として用い、またはこれらのきっかけを同様に提供するGTRシステムを開発することもできよう。
【0070】
注目すべきことに、GM-CSF/TSLPゲルが注射されたマウス歯周骨損失病変部において、IL-10+CD11c+ DC細胞とともに数が増加したFOXP3+ Treg細胞が観察された(図9)。これらのデータは、tDCがFOXP3+ Treg細胞の局所濃縮を増強する(またはFOXP3+ Treg細胞の作出を促進する)ことを示す。GM-CSF/TSLP送達ゲルはtDCを誘導した。これらの局面は、歯周骨損失病変部におけるアルギン酸塩ゲルでのGM-CSF/TSLPの送達によるiTreg誘導の動態を示す。iTreg細胞の局所形成が骨再構築系(すなわち、破骨細胞 vs 骨芽細胞および靭帯線維芽細胞)ならびに骨吸収の継続に及ぼす影響が観察された。
【0071】
GM-CSFは用量依存的にDCの動員および増殖を増強した(図3A〜3B)。しかしながら、高濃度(>100 ng/ml)のGM-CSFはLN由来のケモカインCCL19の方向へのDCの遊走を阻害した(図3C)。免疫組織化学的染色から、高濃度のGM-CSFはTNF-αおよびLPSの刺激を介したDCの活性化も抑制することが、MHCIIおよびCCL19受容体CCR7の発現の下方制御により明らかにされた(図3D)。これらの結果は、局所的に高い濃度のGM-CSFが多数のDCを動員し、破壊的免疫反応を生成できる表現型へのDC活性化を阻止することを示す。
【0072】
GM-CSF/TSLPは、DCを動員し、続いてiTregを活性化し、骨形成分子をコードするpDNAの材料に基づく局所的な送達をインビトロにおいて提供し、骨再生をもたらす。
【0073】
重合体送達媒体は、関心対象の組織への導入後に、インビボにおいて規定の時空間的な形でGM-CSFを提示する。例示的な媒体は、最初の5日以内に生物活性GM-CSF負荷量のおよそ60%を素早く放出し、引き続き次の10日間にわたって生物活性GM-CSFを緩徐かつ持続的に放出し(図4A)、周辺組織を通じた因子の拡散を可能にし、常在性DCを効果的に動員する。重合体にGM-CSF 3 μgを負荷し、これをC57BL/6Jマウスの背部皮下部位へ移植した。14日目の時点での組織学的分析から、当該部位での全細胞浸潤は対照(取り込まれたGM-CSFなし)と比べて有意に増強されていることが明らかにされた(図4B)。CD11c(+)CD86(+) DCに対するFACS分析から、GM-CSFは、全細胞数だけでなく、DCであった浸潤細胞の割合も増大させていることが示された(図4C〜4D)。材料移植部位でのDC数の増加は長期間維持された(図4E)。インビトロでの試験によって予測されたように、インビボでのDCの動員に及ぼすGM-CSFの効果は用量依存的であった(図4F)。
【0074】
本発明は、寛容原性DC (tDC)およびその後のiTreg細胞濃縮をもたらすGM-CSF、ならびに適切なDC影響因子の、材料に基づく局所適用を提供する。候補生体因子には、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、および形質転換増殖因子-β(TGF-β)が含まれる。スクリーニングは、誘導されたDCの抗炎症特性に基づく。C57BL/6マウスの骨髄(BM)から単離された単核細胞を、TSLP、VIPまたはTGF-βの存在下でGM-CSFとインビトロでインキュベーションすることにより、細菌刺激に応じた炎症促進性サイトカインIL-6およびIL-12の発現が、GM-CSFだけで誘導されたDCと比べて低減された(図5)。しかしながら、GM-CSF/TSLP誘導性のDCは、細菌攻撃に応答して、抗炎症性サイトカインIL-10を、他の組み合わせと比べて最も高いレベルで産生した。興味深いことに、BM細胞からのGM-CSF媒介性のDC分化の収率は、TGF-bを伴う場合のCD11c+/CD86+ DCの低い収率(10.5%)とは対照的に、TSLPの添加により変化しなかった (全BM細胞中のCD11c+/CD86+; GM-CSFだけ, 14.7% vs GM-CSF+TSLP, 14.6%) (図5、表1)。全体として、これらの所見から、GM-CSFとTSLPとの組み合わせは、抗炎症性の表現型を有するDCを効率的に誘導することが示される。
【0075】
材料に基づくGM-CSF/TSLPの送達がインビボで局所的に寛容原性DCを誘導することを実証するために、GM-CSF (1 μg)およびTSLP (1 μg)の混合物、ならびにGM-CSFだけ(1 μg)を含有する重合体媒体をFOXP3-EGFP-KIマウス(C57BL6バックグラウンド)の歯周骨吸収窩に注射し、局所DC細胞に及ぼすその効果を決定するように評価した。7日後、空の対照重合体の注射と比べて、GM-CSF/TSLPを含有する重合体を投与されたマウスの歯周窩において、CD11c+IL-10+ DCの比率の著しい増加が観察された(図6)。これらの所見から、重合体によるTSLPおよびGM-CSFの局所送達は、以前に発生した歯周骨吸収病変部において、高IL-10発現が示す、抗炎症活性を持ったDCのGM-CSF媒介性分化をプラス方向に傾けうることが示される。
【0076】
DCの動員だけでなくT細胞産生の調節も行う本発明の材料システムの能力についても調べた。これらの研究は、「DC活性化因子」(シトシンおよびグアノシンに富むオリゴヌクレオチド; CpG-ODN; DCにおいて危険シグナルを誘発するTLR9リガンド、ならびに黒色腫特異的抗原)をGM-CSFとともに材料の中に含めることによって、黒色腫に対する抗腫瘍免疫反応を誘発するように行われた。とはいえ、「免疫反応を活性化する」そのような手法は「炎症性免疫反応を抑制する」手法とは矛盾するにもかかわらず、その結果から、材料システムによる特異的かつ定量的な免疫反応の生成能力が実証される。具体的には、対照の非処置部位(<1% CD8)と比べて、当該部位における全細胞の17%超がCD8(+)であった(図6A)。この結果は、重合体送達媒体に隣接する組織に浸潤したT細胞の数が、GM-CSF、抗原、およびCpG-ODGNの送達により増加したことを示している。MHCクラスI/チロシナーゼ関連タンパク質(TRP2)で単離脾細胞を染色することにより、特異的な記憶免疫反応の生成が示された。この分析により、より低いCpG用量(0 μgまたは50 μgのいずれか)を提示するマトリックス(脾細胞の0.17%および0.25%)と比べて、GM-CSF、抗原、およびCpG-ODNでワクチン接種されたマウスにおけるTRP2特異的なCD8 T細胞の有意な増殖(0.55%脾細胞、1.57×105 + 5.5×104個の細胞)が明らかにされた(図6B)。上記でおよび次項(図10)で示されるように、GM-CSFおよびCpGオリゴヌクレオチドを送達する材料は、IL-12を発現するDCの活性化によって抗腫瘍CD8 T細胞を活性化し、またGM-CSFおよびTSLPの送達時には対照的に、IL-10を産生する寛容原性DCの活性化および分化によってTreg細胞を活性化するという所見から、免疫反応を調節するこの手法の威力が確認されるものである。
【0077】
また、ヒトにおいて見られる免疫病理学的な基礎を満たすPDマウスモデルを用い、PDの骨損失病変部において再生を誘導できるだけでなくPPAIRも抑制できる低侵襲材料システムの効力について研究した。このモデルは、マウスの口腔内に住む細菌に対する適応免疫反応の誘導によってRANKL依存的な歯周骨損失を発現する。16S rRNA配列法を用いることにより、自家で繁殖されたBALB/cマウスが口腔内共生細菌パスツレラ・ニューモトロピカ(Pasteurella pneumotropica) (Pp)を有することが本発明において発見された。Ppは通性嫌気性グラム(-)細菌であり、Aaと同様に、Ppはバシトラシンおよびバンコマイシンに耐性を示すが、ゲンタマイシンに感受性を示す。AaおよびPp、ならびにヘモフィルス(Haemophilus)は、系統発生学的に同じパスツレラ(Pasteurellaceae)科に属する。Pp外膜タンパク質OmpAはAa Omp29の相同体である。BALB/cマウスにおけるPpの自然な口腔内定着は、それ自体が潜在的であり、この口腔内共生Ppに対して免疫寛容が誘導されるので、いずれの病原的特徴も示さなかった。これを支持するように、パスツレラ(Pasteurella)はフェレットの歯肉溝の中に共生することも報告された。Pp担持マウスへの (1) Aa反応性Th1系統の養子移植; または(2) 固定化全Aaの末梢免疫(背部皮下注射)のいずれかから30日後に、Aa Omp29に対するIgG抗体反応の上昇、ならびに歯肉組織におけるTNF-αおよびRANKLの産生の増大とともに、歯周骨損失(水平性)が立証された。歯肉組織に浸潤しているT細胞はPD誘導マウス群においてRANKLを発現したが、対照群においてはそうでなかった。さらに、OPG-Fcの全身投与はこのマウスPDモデルにおいて誘導された歯周骨損失を阻害し、誘導された歯周骨損失がRANKL依存的であることを示すものであった。「無Pp」BALB/cマウスへのAa免疫は歯周骨損失を示さず、骨損失誘導には、マウス歯肉組織にT細胞抗原を送達する口腔内に定着した共生Pp細菌が必要とされることを示すものであった。Aa免疫Pp+マウスの血清IgGはAaともPpとも反応したが、調べた他の口腔内細菌または大腸菌とは反応しなかった。Aa Omp29とPp OmpAとの間のこの非常に異なる交差反応性により、Aa抗原でのPp+マウスの免疫によって歯周骨損失を引き起こすPPAIRの誘導が可能になる。実際に、Omp29は、Aaに感染したLAP患者において血清IgG抗体により認識される最も顕著な抗原のうちの一つである。
【0078】
P.ジンジバリス口腔内感染のマウスモデルは最も頻繁に調べられているが、これらのP.ジンジバリス感染モデルはPPAIRとは異なる機構を呈するように思われる。これは、P.ジンジバリス抗原に対するIgG抗体の上昇により呈される適応免疫反応の誘導が、P.ジンジバリス感染媒介性の歯周骨損失を、増強するのではなく改善することが原因で起こる。これはヒト歯周骨吸収に必ずしも対応していない。P.ジンジバリス誘導マウスPDモデルの別の欠点は、ヒトPDが「水平性」および「垂直性」の両方の歯周骨損失によって特徴付けられるのに対し、「水平性の歯周骨損失」のみの誘導による点である。いくつかの病原が提唱されているが、水平性の骨損失は、慢性歯周疾患が穏やかに進行する場合に起こるといわれており、その一方で垂直性の骨損失は、重篤な再発性歯周炎または重篤な急性歯周炎が進行する場合と示唆されている。その差異は、提唱される研究との関連において重要である。というのは、「水平性の」歯周骨損失は非外科的な歯周処置によって維持されうるのに対し、「垂直性の骨損失」はGTR外科手術が実際に必要とされる臨床症例であるためである(図8)。
【0079】
BALB/c系統について公開されているのと同じプロトコルにしたがった、C57BL/6系統マウスを用いての、マウスPDモデルでの炎症性結合組織による垂直性の歯周骨損失から、大量の不可逆的な「垂直性」の歯周骨損失が実証された(図7)。これは、重篤なPDを有する大部分のヒト患者において見られる歯周骨損失を反映している。というのは、いったん発症すると、重度の炎症の消散後でさえも、垂直性の骨損失が残り続けるからである。例えば、マウスの抜歯窩の位置での骨破壊は、15日以内に新生骨で完全に充填される。対照的に、PPAIRによって誘導された垂直性の骨損失は残存したままであり、抜歯によって引き起こされた骨損失とPDによって引き起こされた骨損失との間の骨再生過程の有意な差異を示している。これまでに公にされているPD動物モデルのほとんどが垂直性の歯周骨損失を発現しておらず、これらの動物モデルにおいて誘導された歯周骨損失の大部分が水平に発現するようであり、炎症の消散後に可逆的のようであることは注目に値する。それゆえ、この新たに樹立されたマウスモデルは、損失骨の再生を誘導するだけでなく炎症を下方制御もする低侵襲材料システムを評価する理想的なプラットホームを提供する。図7 (7g: 対照; 7h: PD病変部)に示されるように、PDマウスは、TRAP+破骨細胞を伴う炎症性結合組織で満たされた垂直性の骨損失を発生する。したがって、本明細書において記述されるGM-CSF/TSLP送達重合体のような低侵襲材料システムを、骨損失病変部における炎症反応も骨再生も評価できるように炎症骨損失病変部に投与することができる。
【0080】
FOXP3+ CD4 T細胞の養子移植は、PPAIRにより誘導されたインビボでのマウス骨吸収を阻害する。PPAIRにより引き起こされる歯周骨吸収がFOXP3+ Treg細胞の増加により抑制され得るかどうかを調べるために、TGF-b、IL-2、およびAa抗原で刺激された脾臓T細胞からCD25+ FOXP3+ CD4+ iTreg細胞を単離し(FOXP3+CD25+ 細胞は全CD4 T細胞の79.8%であった)、該細胞を、0日目、2日目、および4日目に、固定化Aaで(背部皮下に)免疫されたPp+ BALB/cマウスに養子移植した。インビトロでのアッセイ法において、CD25+FOXP3+CD4+ iTreg細胞は、抗原/APCで刺激されたAa特異的Th1エフェクタ細胞の増殖および該細胞によるRANKL産生を抑制した(図8B)。対照として、非免疫マウスおよびAa免疫マウス(養子移植なし)を調製した。Aa免疫から30日後において、Omp29に対するIgG1反応の上昇、局所歯肉組織におけるIFN-γおよびsRANKLの上昇(図8Dおよび8E)、ならびに歯周骨吸収(図8C)によって決定されるように、Aa免疫マウスにおいてPPAIRが観察された。Aa全身免疫を受けたマウスへのCD25+FOXP3+CD4+ iTreg細胞の移植は、陽性対照動物群と比べて以下のPPAIRの特徴を有意に阻害した: (1) Omp29に対するIgG1反応の増加; (2) 歯肉組織におけるIFN-gおよびsRANKLの濃度(図8Dおよび8E); ならびに(3) 局所歯周骨吸収(図8C)。iTreg細胞の移植によって歯肉組織における抗炎症性サイトカインIL-10の量が有意に増した(図8F)。これらの結果から、CD25+FOXP3+CD4+ iTreg細胞の局所増殖が、実際に、局所歯肉組織においてIL-10の産生を活性化しながら、sRANKLおよびIFN-γを抑制する機構により、PPAIRによって誘導される歯周の炎症性骨吸収を阻害することが強く示唆される。この所見は、歯周炎症を抑制する際の材料システムの効力が、養子移植によってではなく、寛容原性DCの活性化を介した宿主iTreg細胞の増加によって作出されうるため、本発明との関連で重要でありうる。
【0081】
GM-CSF/TSLPを送達する重合体の局所注射は、マウス歯肉組織および局所リンパ節(LN)においてFOXP3+ T細胞を増加させる。歯周骨吸収病変部および局所(頸部)リンパ節において得られるTreg細胞の比率に及ぼす重合体の効果について、PD誘導性のFOXP3-EGFP-KIマウス(C57BL6バックグラウンド)の歯周骨吸収窩への重合体送達媒体の注射を評価した。GM-CSF (1 μg)およびTSLP (1 μg)の混合物を含有する重合体を歯周骨吸収窩(骨損失病変部は固定化Aa注射によるPPAIR誘導から30日後に発現した)に注射してから7日後において、GM-CSF/TSLP送達重合体を受けたマウスの頸部リンパ節ではFOXP3+EGFP+ Treg細胞の割合の増加が観察されたのに対し、GM-CSF (1 μg)だけを有する重合体の注射を受けた場合には、対照である空の重合体の注射を受けた場合と比べた局所リンパ節でのFOXP3+EGFP+ Treg細胞のそのような増加は示されなかった(図9)。興味深いことに、PD病変部の結合組織において、GM-CSF/TSLP重合体およびGM-CSF重合体を投与されたマウスではFOXP3+細胞の著しい浸潤が観察されたが、いずれの注射も受けなかったマウスの骨損失病変部ではほとんどFOXP3+細胞が検出されなかった。興味深いことに、いくつかの炎症性細胞浸潤物から構成されている病巣においてFOXP3+細胞が見出され、これにより、注射された重合体は、Treg細胞が寛容原性DCと反応するための足場を提供しうることが示唆された。この根拠を支持するように、GM-CSF/TSLP重合体を投与された病変部においてFOXP3+細胞および寛容原性DCの同時局在が観察された(図9C)。それゆえ、GM-CSF/TSLP重合体材料送達システムは、歯周骨吸収病変部および局所リンパ節において抗炎症性FOXP3+ Treg細胞を明らかに増殖させた。
【0082】
局所的pDNA送達および組織再生のための材料、ならびに持続的pDNA放出のための重合体システムを開発して、重合体の分解速度に依存した動態でのpDNAの局所的送達および持続的発現を可能にした。pDNAのカプセル封入のために、PLGのマクロ多孔性の足場を用いることができる。カプセル封入後の放出は、カプセル封入に用いた特定のPLGの分解速度により調節され、10〜30日に及ぶ時間の間、プラスミドDNAの持続的放出を可能にする。pDNAの取り込みを増強するため、および重合体によって包含される領域にプラスミドを局在化するため、重合体媒体への組み込みの前にPEIでpDNAを凝縮した。非凝縮またはPEIで凝縮したマーカー遺伝子(ルシフェラーゼ)を含有する足場の移植により、非凝縮DNAについては短時間の発現が、PEIで凝縮したDNAについては非常に高く長時間持続する発現がもたらされた。さらに、BMP-2またはBMP-4をコードするPEIで凝縮したpDNAの送達重合体を移植することにより、宿主細胞による長時間のBMP-4発現(図10A)、および重合体だけの場合、非凝縮pDNA送達の場合、または処理なしの場合よりも顕著に多い骨再生が起きた(図10B〜10D)。
【0083】
この手法は、注射可能なアルギン酸塩ゲルにも適用可能である。アルギン酸塩ゲルの分解速度は、該ゲルを構成する重合体鎖の分子量分布を制御することにより変えられる。ゲルの分解速度(図11A)は、ゲルの中にカプセル封入されたPEI凝縮pDNAの放出のタイミングと強く相関していた(図11B)。インビトロおよびインビボでのpDNA発現のタイミングはゲル分解速度により調節され、pDNA送達のためのこの手法は、コードされるモルフォゲンの生理的に適切なインビボ発現、および局所組織再生に及ぼす顕著な効果をもたらした。
【0084】
本発明は、送達媒体からのpDNA放出の調節を利用して、慢性炎症の改善後の、骨形成因子をコードするpDNAの送達を提供する。超音波は歯周組織に留置された材料からの薬物の制御放出に対する外部誘因となりうるため、超音波照射を用いてアルギン酸塩ヒドロゲルからのpDNAの放出を誘発することができる。超音波は、薬物輸送を増強するために皮膚を透過化するという観点から過去の薬物送達試験において幅広く探究されているが、本発明では、超音波適用中のゲル構造の一時的破壊を利用して、ゲルの中にカプセル封入されたpDNAの放出を増強する。ゲル(図12A中の単一成分ゲル)を形成するために高分子量の非酸化型アルギン酸塩を使用することにより、このゲルはゆっくり分解することに起因して、pDNAのバックグラウンドの放出が最小限になった(図12)。適切な超音波照射の適用は、pDNA放出速度の1000倍増加をもたらし、その速度は照射の中断後にベースラインのレベルまで素早く戻った(図12)。超音波の適用によるpDNA放出の増加は、生体サンプルに関する過去の研究において述べられているように、ゲル構造の大規模な摂動と相関していた。pDNA放出速度のベースラインレベルへのその後の急速な戻りは、ゲル構造の元の状態への反転と相関していた。超音波の後に「修復する」アルギン酸塩ゲルの能力は、その環境における該ゲルとカルシウムイオンとの可逆的な架橋に起因する可能性が高い。したがって本発明は、非炎症状態への免疫反応の転換を最初に可能とするのに十分な時点での、生体材料マトリックスからの骨形成刺激をコードするpDNAの放出のタイミングの的確な制御を提供する。
【0085】
マウスPDモデルにおける歯肉Treg細胞誘導の動態の分析
アルギン酸塩ゲルによるGM-CSF/TSLPの送達でのTreg細胞の誘導および局所炎症環境の変化にかかる時間を決定するために実験を行った。GM-CSF/TSLPゲルの注射によって炎症が十分にかつ効率的に抑えられる至適時点を知ることで、材料システムからの、BMP2をコードするpDNAの放出に最適なタイミングが示される。
【0086】
口腔内にPpを持つFOXP3-EGFP-KIマウス(8週齢、雄12匹/群)に固定化Aaの免疫(0、2および4日目に細菌109個/部位/日の背部皮下注射)を与える。30日目の時点で、上顎大臼歯の歯肉ポケットの厳密な検査により、歯周骨損失の発現を確認する。30日目の時点でのPp抗原に対するIgG反応の上昇から、垂直性の骨損失の発現をPPAIRが成功裏に誘導することが確認されるので、Pp OmpA (Aa Omp29の相同体)を含む、交差反応性の免疫原性抗原とともに、PpおよびAaに対する血清IgG反応をELISAによって測定する。30日目の時点での左側と右側の間の骨損失のレベルが各動物で対称であると仮定して、抗CD25 MAbによるCD25+FOXP3+ Tregの枯渇有りまたは無しでのゲルの口蓋上顎注射により、GM-CSF/TSLPの効果および誘導されたTreg細胞の役割を評価する。
A群: (1) 左側へのモックの空ゲルの注射、および2) 右側の口蓋上顎歯肉へのGM-CSF/TSLPの注射;
B群: A群と同じ歯肉注射、しかしゲル注射の3日前に抗CD25 MAb (500 μg/マウス、i.v. ATCCのラットMAbハイブリドーマクローンPC61)をマウスに投与;
C群: A群と同じ歯肉注射、しかしゲル注射の3日前に対照である精製ラットIgG (500 μg/マウス、i.v.)をマウスに投与;
D群: 左側へのモックの空ゲルの注射、しかし右側の口蓋上顎歯肉への注射なし。
【0087】
アルギン酸塩ゲルを骨損失病変部に注射した(1.5 μl/部位)。33、37、44および58日目(= それぞれ、ゲルの注射から3、7、14および28日後)に動物を殺処理する。30日目に殺処理される対照である非処置C57BL/6マウスは、GM-CSF/TSLPゲルによる処置前の炎症反応および骨損失レベルに関するベースラインの情報を提供する。30日目の時点でフローサイトメトリーを用いてB群およびC群から単離された末梢血中のCD25+FOXP3+細胞の検出により、B群におけるCD25+FOXP3+ Treg細胞の枯渇を確認する。ゲルからのTSLP/GM-CSF提示のタイミングおよび用量を決定し、異なる2〜3用量について試験する。分析には以下のものを含めた: (1) FOXP3+EGFP+ Treg細胞および他の炎症細胞種(例えば、マクロファージ、好中球)の検出のための蛍光免疫組織化学、歯肉組織サイトカイン測定、歯肉組織における炎症性化学メディエータの検出、ならびにフローサイトメトリーによる頸部リンパ節におけるFOXP3+EGFP+ Treg細胞および他のリンパ球表現型の測定; (2) 脱灰歯周組織におけるTRAP+破骨細胞、ペリオスチン+/ALP+骨芽細胞およびペリオスチン+/ALP+靭帯線維芽細胞の分析; ならびに(3) マイクロCTを用いた骨吸収の程度、および定量的組織形態検査。
【0088】
iTreg反応の免疫記憶に及ぼすGM-CSF/TSLPゲルの効果の評価
PPAIRの再発活性化により攻撃したときの、免疫記憶の誘発でのGM-CSF/TSLPのゲル送達の効力について調べた。いったんiTreg反応の免疫記憶を誘導できれば、同じ部位での病原性の歯周骨損失の再発エピソード、および異なる部位での将来の歯周骨損失の発現を予防できるはずなので、免疫記憶の局面は重要である。
【0089】
PDを上述のように誘導した。30日の時点で、A群およびB群に同一の歯肉注射: (1) 左側へのモックの空ゲルの注射、および (2) 右側の口蓋上顎歯肉へのGM-CSF/TSLPの注射を与える。しかし、44日目の時点で、A群には生理食塩水中でのAa/Pp交差反応性Th1細胞の移入の養子移植(i.v.)を与える。というのは、これが歯周骨損失を引き起こすことが示されているからである。そのようなTh1細胞の移入はPPAIRの二次的(再発)活性化を構成する。B群のマウスには対照の生理食塩水(i.v.)注射を与える。動物を51日目の時点(= ゲルの注射から21日後およびTh1細胞の移入から7日後)で殺処理する。30日目に殺処理される対照である非処置C57BL/6マウスは、GM-CSF/TSLPゲルによる処置なしの炎症反応および骨損失レベルに関するベースラインの情報を提供する。分析には以下を含める: (1) FOXP3+EGFP+ Treg細胞および他の炎症細胞種の検出のための蛍光免疫組織化学、歯肉組織サイトカインおよび他の化学メディエータの測定、ならびにフローサイトメトリーによる頸部リンパ節におけるFOXP3+EGFP+ Treg細胞および他のリンパ球表現型の測定; (2) 脱灰歯周組織におけるTRAP+破骨細胞、ペリオスチン+/ALP+骨芽細胞およびペリオスチン+/ALP+靭帯線維芽細胞の分析; ならびに(3) 歯周骨損失の測定。
【0090】
tDCとiTregとの関係
一連の研究により、GM-CSF/TSLP誘導性の寛容原性DC (tDC)とTreg細胞の局所発生との関係について取り組んだ。GM-CSF/TSLP誘導性のtDCによって産生されるケモカインおよび共通γ鎖(γc)受容体依存的なサイトカインがTreg細胞の胸腺外発生に及ぼす機能的役割。 Treg細胞は、肺真菌症のマウスモデルにおいて真菌に感染した病変部へとCCR5依存的に移動し、GM-CSFで刺激されたDCにより発現されることも公知のMIP-1αなどのCCR5リガンドに応答してTreg細胞は感染病変部へと移動し、TGFαおよびIL-2によるエクスビボ刺激によって全脾臓細胞からCD25+CD4+ Treg細胞が発生しうる。結果(図8)から、TGF-βおよびIL-2によるマウス全脾臓細胞のエクスビボ刺激はFOXP3+ T細胞の発生を上方制御することが実証され、FOXP3+ Treg細胞が適切な刺激に応じてエクスビボで増殖可能であることが示唆された。共通γ鎖(γc)受容体依存的なサイトカインはTreg細胞増殖に必要とされるが、これはγc遺伝子ノックアウトマウスにおけるTreg細胞の欠如によって実証される。いくつかのγc受容体依存的なサイトカイン、例えば、IL-2、IL-7およびIL-15は、Tregの発生を上方制御する。γc受容体も使うTSLPは、Treg細胞の発生を誘導しないので、ゲルから放出されたTSLPはTreg発生を直接は誘導しない。しかし、DCは主要なγc受容体依存的なサイトカインIL-2を産生しない。それゆえ、GM-CSFによる刺激後にDCによって誘導されるIL-15 (Ge et all, 2002)がγc受容体依存的なサイトカインとしてTregの増殖を促進する。tDCがnTregからFOXP3+ Treg細胞の局所発生を誘導しないなら、非Treg細胞、すなわち、FOXP3(-)CD4(+) T細胞はPD病変部へ移動し、tDCとの情報交換によりFOXP3(+) iTreg細胞へ分化しうる。かくして、これらの実験により、GM-CSF/TSLP誘導性のtDCによって産生されるインビトロのケモカインおよび共通γ鎖(γc)受容体依存的なサイトカイン、ならびにそれらがFOXP3+ Treg細胞の化学誘引および発生において担う機能的役割が調べられた。
【0091】
GM-CSF/TSLP誘導性のtDCによって産生されるサイトカインおよびケモカインの測定; TSLP (10 ng/ml)の存在下または非存在下でのGM-CSF (10 ng/ml)との骨髄細胞のインキュベーションによりCD11+ DCをインビトロで誘導する。7日間のインキュベーションの後、抗CD11c MAb結合MACSビーズ(DC単離キット、Miltenyi Biotech)を用いて、骨髄細胞培養物からCD11c+ DCを単離する。抗CD11c MAb結合MACSビーズを用いて、MNC単離の7日前に、GM-CSFゲル、GM-CSF/TSLPゲルまたは対照の空ゲル(GM-CSFおよびTSLP、それぞれ、1 ugおよび1 ug; 1.5 ulのゲル/部位)が注射されているマウスの背部皮下組織より新鮮単離した単核細胞(MNC)からCD11c+ DCを分離する。必要に応じて用量および濃度を調整する。これらのDCを細菌刺激(固定化Aa、固定化P.ジンジバリス、Aa-LPSもしくはPg-LPS)または炎症促進性因子(IL1-α)の存在下または非存在下、インビトロでインキュベートし、そのケモカインおよびサイトカインの発現レベルを、Luminex multiplexシステムを用いてMouse Cytokine/Chemokine Panel-24-Plex (Millipore; 表1参照)により定量的に測定する。DCからのATPおよびアデノシンの検出にかかわらず、炎症性化学メディエータ(PGE2、NO、ATPおよびアデノシン)の産生もモニタリングする。
【0092】
インビトロでのアッセイ法により、DCから分泌されるTreg細胞の化学誘引因子について調べた。Aa刺激またはIL-1α刺激したCD11c+ DCの培養上清を移行システムの下側の区画に入れ、一方でFOXP3(+)EGFP(+) Treg細胞または対照のFOXP3(-) CD4 T細胞を細胞分別によってFOXP3-EGFP-KIマウスから新鮮単離し、細胞培養インサート(孔径5 μm, Millipore)にアプライする。下側の区画へ移動しているFOXP3(+) Treg細胞、または対照のFOXP3(-) CD4 T細胞の動態および数をモニタリングする。Treg誘引因子の機能的役割を評価するために、DC培養物の上清を含む下側の区画にケモカインに対する中和mAbをアプライする。MIP-1αは、tDCから分泌されるTreg化学誘引物質である。組み換えサイトカインは、このTreg細胞移動アッセイ法において陽性対照の化学誘引因子として働く。フローサイトメトリーを用いて、移動性のFOXP3(+) Treg細胞または対照のFOXP3(-) CD4 T細胞上に発現されたCCR2、CCR5、および他のケモカイン受容体の発現をモニタリングする。
【0093】
インビトロでのアッセイ法により、DCから分泌されるFOXP3+ Treg発生因子について調べた。CD11c+ DCを、Aa抗原の存在下または非存在下において、FOXP3-EGFP-KIマウスの脾臓から単離されたFOXP3(+)Treg細胞およびFOXP3(-) CD4 T細胞と共培養した。インキュベーションから3、7および14日後に、フローサイトメトリーを用いてFOXP3(+)Treg細胞の比率を分析する。図13に示した、可能性のある結果のスキームから観測できるように、このアッセイ系でFOXP3-EGFP-KIマウスを用いることの利点は、(1) 生きたFOXP3(+)Treg細胞をFOXP3-EGFP-KIマウスから単離できる; および(2) FOXP3遺伝子を発現しない前駆細胞からの成熟Treg細胞の発生をEGFP発現の検出によってモニタリングできるので、DC媒介性のTreg発生がFOXP3(+)Treg細胞またはFOXP3(-) CD4 T細胞から起きたかどうかを導き出せることである。Treg増殖サイトカインの機能的役割を評価するために、サイトカインに対する中和mAbをDCとT細胞との共培養物にアプライする。IL-15は、tDCから分泌される主要なTreg増殖サイトカインでありうる。
【0094】
炎症はGM-CSF/TSLPゲルの注射後7日(37日目)までPD病変部において抑制され、かつその抑制効果は最後の試験日である58日目まで続く。
【0095】
抗炎症シグナル伝達および骨再生のための骨誘導シグナル伝達の組み合わせ
開発されかつ試験される免疫プログラミングシステムの有用性を、骨誘導のきっかけの同時送達を介して骨再生を増強するその能力について評価する。この手法では、GM-CSF/TSLPを放出するゲルと同一のゲルを用いて、BMP-2をコードするpDNAを送達することにより、炎症の阻止および骨再生の能動的促進の両方を行う。ゲルシステムの有用性は、要求に応じて外部シグナル(超音波照射)によりpDNAを放出するその能力によって増強される。超音波は、その非侵襲性、深部組織透過性、および焦点化されかつ制御される能力を含めて、この用途にいくつかの利点を提供する。この送達システムを用いて、まず炎症を消失させ、続いてpDNAを放出して歯槽骨再生を促進する。
【0096】
最初の試験では、アルギン酸塩ゲルからの超音波処理誘発性のpDNA放出を特徴付け、その後の試験では、PDモデルでのゲルからのpDNAの放出を用いて骨再生を調べる。超音波を用いて、複数日のインキュベーションの後にアルギン酸塩ゲルからのpDNAの放出を誘発することができる。PEI凝縮pDNAおよび非凝縮pDNAの双方をアルギン酸塩ゲルの中にカプセル封入し、受動的pDNA放出を定量化する。凝縮はpDNAの取り込みおよび発現を劇的に上方制御し、放出に及ぼす超音波の影響はその異なるサイズおよび電荷に起因して二つのpDNA形態で異なりうるので、PEI凝縮pDNAについて調べる。分解時間が2〜3週から6ヶ月超まで異なるゲルをpDNAカプセル封入に用いると、ゲル分解のない状態では受動的pDNA放出がほとんどまたは全く起こらない。(GM-CSF/TSLPの放出が初期に起こり、炎症の改善後にだけBMPをコードするpDNAの放出が誘発されるという意図した用途を模倣するため) 1〜3週に及ぶ時間の間、ゲルをインキュベートした後、pDNA放出に及ぼす低周波数超音波照射の各種領域(20〜50 kHzの周波数、0.1〜10ワットの強度、1〜15分の持続時間)の影響について調べる。Hoechst 33258色素および蛍光光度計(Hoefer DyNA Quant 200, Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)を用いて、放出培地中のDNAの濃度をアッセイする。ゲル電気泳動を用いて、放出されたプラスミドの構造的完全性について調べる。GM-CSFおよびTSLPの大部分が放出されるまで超音波は開始されないので、GM-CSFおよびTSLPの放出に及ぼす超音波の影響はほとんど予想されないが、照射中にGM-CSFおよびTSLPの放出をモニタリングして、ゲルの中に残っている残存GM-CSF/TSLPの放出に超音波が影響を与えるかどうかについて決定する。
【0097】
インビトロにて述べたのと同じようにしてインビボで超音波がpDNAを調節できることを確認し、かつ骨再生試験に適したpDNA用量を決定するために、pDNAを要望に応じてゲルから放出してインビボでのトランスフェクションを可能にする能力について調べる。GFPをコードするpDNAを含有するゲルを、正常マウス(歯周疾患なし)の口蓋上顎歯肉へ注射し、導入後7〜21日に及ぶ時点で超音波に供する。適切な周波数、強度および照射の持続時間のガイドとしてインビトロでの研究を用いる。例示的な超音波日程には、1〜7日に及ぶ時間枠の間、1日に1回の適用が含まれる。各照射期間の終了時から1日後に、動物を殺処理し、組織診断と、組織中での全体的なGFP発現の生化学的定量化の両方のために組織切片を得る。非凝縮pDNAおよびPEI凝縮pDNAをこれらの試験において比較したところ、カプセル封入されたpDNAの用量は1 μg〜100 μgまで違っていた。組織切片をGFPについて免疫染色し、pDNA発現について定量的に調べ、GFPレベルを組織溶解物においても定量化し、発現を定量化する。
【0098】
本発明の別の態様では、PDマウスモデルにおいて、まず炎症を改善し、続いて再生を能動的に促進するためのゲルシステムの影響を提供する。PDは、歯の周りで組織破壊および骨吸収をもたらす慢性炎症によって特徴付けられる。PDの誘導後、GM-CSFと、TSLPと、BMP-2をコードするpDNAとを含有するゲルを30日目に注射する。十分な時間を経過させて炎症を存在させた後に、超音波照射を開始して、BMP-2をコードするpDNAを放出させる。ゲル留置後2、4および8週の時点で、軟組織および硬組織を回収し、分析する。歯肉組織に存在する炎症性化学メディエータの測定によって炎症のレベルをモニタリングし、また、BMP-2レベルをELISAで定量化して遺伝子発現を調べる。マイクロCTによって骨再生を定量化し、また、組織学的分析を行って骨量の定量的組織形態検査を可能にする。対照には処置なし、pDNAだけを含有する(GM-CSF/TSLPなしの)ゲル、およびブランクのゲルを含める。6/時点/条件のサンプルサイズが骨再生について必要な試験であると予想される。
【0099】
炎症を低減させることにより、骨誘導因子のみの場合と比べて、骨誘導因子の送達から生じる骨再生が劇的に向上される。超音波は、インビトロでもインビボでも、アルギン酸塩ゲルからのpDNAの放出を制御するのに有用な誘因となり、単一のゲルによるGM-CSF/TSLPおよびプラスミドの適切な放出動態での送達を可能にする。場合によっては、分解から生じるゲル構造の変化により、ゲル分解速度と超音波誘発性の放出との間に相互作用が存在することもある。2回のゲル注射、つまりGM-CSF/TLSPを送達して炎症を改善するための1回目の注射、および炎症が低減された後でBMP-2をコードするpDNAを送達するための2回目の注射を用いることができる。
【0100】
局所的な高レベルのBMP-2は骨再生を顕著に増強する。再生に及ぼす超音波の主な効果はゲルからのpDNAの放出により誘発されるが、超音波はまた、細胞によるpDNAの取り込みを増強し、したがって、pDNAの放出に及ぼす効果に加えて、または該効果なしで、局所的に送達されたpDNAの発現を直接増強する。
【0101】
本明細書において記述される歯周試験には、以下の材料および方法を用いた。
【0102】
インビトロでのDCアッセイ法
5 μmの孔径を有する6.5 mmのトランスウェルディッシュ(Costar, Cambridge, MA)で移動アッセイ法を行う。DCの移動に及ぼすGM-CSFおよびTSLP (Invivogen, San Diego, CA)の効果を、下側ウェルの中に組み換えマウスGM-CSFおよびTSLPを入れ、上側ウェルの中に5×105個のDCを入れることによって評価する。DC活性化に及ぼすGM-CSFおよびTSLPの効果を評価するために、細胞を24時間、さまざまな濃度のTSLPおよびGM-CSFとともに細菌刺激しながら(固定化Aa、固定化P.ジンジバリス、Aa-LPSまたはPg-LPSとともに)培養し、その後、細胞を洗浄し、10%ホルマリン中で固定化する。細胞を、下記のように蛍光免疫組織化学用に調製し、蛍光顕微鏡検査(Olympus, Center Valley, PA)を用いて調べる。また、細胞をFACSによって分析し、アイソタイプ対照を用いて陽性染色にしたがいゲーティングし、各表面抗原について陽性染色の細胞の割合を記録する。DC成熟の結果として上方制御されたサイトカインの発現を下記のように定量化する。
【0103】
ゲルの作製
流体力学的特性、物理的特性および分解特性を調節するため、マンヌロン酸残基 対 グルロン酸残基、分子量分布、および酸化度が異なるアルギン酸塩からゲルを作出する。タンパク質およびプラスミドDNA配合物について既述したように、因子を含有するアルギン酸塩溶液を硫酸カルシウムスラリーと混合することによって、ヒドロゲルを調製する。必要なら、標準的な二重乳濁技法を用いて、PLGミクロスフェア中への因子のカプセル封入を最初に行う。
【0104】
GM-CSF、TSLPおよびpDNAの、インビトロ放出試験における定量化ならびにインビボにおける濃度
GM-CSF、TSLPおよびpDNAの取り込みの効率、ならびに放出の動態を決定するために、125Iで標識した因子(Perkin Elmer)を追跡子として利用し、ゲルをリン酸緩衝溶液(PBS) (37℃)の中に入れる。さまざまな時点で、PBS放出用培地を回収し、足場から放出された125I-因子の量を、各時点でγ計数器を用いて決定し、ゲルの中に取り込まれた全125I-因子に対して規準化する。GM-CSF生物活性の保持について評価するために、負荷されたゲルを、3 μmの孔径を有する6.5 mmのトランスウェルディッシュ(Costar, Cambridge, MA)の上側のウェルの中に入れ、下側のウェルの中で培養されるJAWS II細胞(DC細胞株)の増殖を、さまざまな時点で血球計数器からの細胞計数を用いて評価する。インビボでのGM-CSFおよびTSLPの濃度を決定するために、ゲル周辺の組織を切り出し、組織タンパク質抽出試薬(Pierce)で消化する。遠心分離の後、続いて上清中のGM-CSFおよびTSLPの濃度を製造元の使用説明書にしたがってELISA (R&D systems)で分析する。
【0105】
インビボでのDC移動および活性化アッセイ法
さまざまな組み合わせの因子を有するゲルをマウスの歯肉へ注射する。組織学的検査のため、ゲルおよび周辺組織を切り出し、Z-fix溶液中で固定し、パラフィン中で包埋し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色する。DC動員を分析するため、ゲルおよび周辺組織をさまざまな時点で切り出し、45分間37℃で撹拌されたコラゲナーゼ溶液(Worthingtion, 250 U/ml)を用いて組織を単一細胞懸濁液へ消化する。次に、細胞懸濁液を40 mmの濾過に流し込んでゲル粒子から細胞を単離し、細胞をペレット化し、冷PBSで洗浄し、Z2コールターカウンタ(Beckman Coulter)を用いて計数する。次いで、得られた細胞集団を蛍光マーカーに結合された一次抗体で染色して、フローサイトメトリーによる分析を可能にする。アイソタイプ対照を用いて陽性標識にしたがい細胞をゲーティングし、各表面抗原について陽性染色の細胞の割合を記録する。
【0106】
蛍光免疫組織化学
歯肉組織および頸部LNにおける特異的細胞の組織局在パターンを評価するために、共焦点顕微鏡分析を利用する。3色染色手順を用いて、鍵になるサブセット、つまりtDC (CD11cおよびCD86およびIL-10の陽性細胞)、成熟DC (CCR7、B7-2、MHCIIについて陽性)、FOXP3+ T細胞(EGFP、IL-10およびTGF-b)、FOXP3+CD25+ T細胞(EGFP、CD25、IL-10)、RANKL+CD3+ T細胞(RANKL、CD3およびTNF-a)ならびにRANKL+CD19+ B細胞を染色する。FOXP3+ T細胞、RANKL+CD3+ T細胞、DC (CD11c+)、B細胞(CD19+)、マクロファージ(F4/80+)、および好中球(CD64+)におけるCD26、CD39、およびCD73の発現もモニタリングする。ビオチン結合OPG-Fc/TR-アビジンの組み合わせによってRANKLの検出を行う。特異的モノクローナル一次抗体、続いて蛍光色素を結合させた二次抗体による従来の方法を用いて、他の分子を染色する: 1次色、FITC (発光/励起、488/515 nm); 2次色、Texas Red (595/615); および3次色、APC/Cy5.5 (595/690)。
【0107】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーによって、歯肉組織および局所頸部リンパ節中の種々の細胞の割合を分析する。細胞を(CD16/CD32に反応性の)ラットMAb 2.4G2とプレインキュベートすることによって、Fc受容体との非特異的な抗体結合をブロッキングする。3色染色法をtDC、成熟DC、EGFP+FOXP3+ T細胞およびRANKL+CD3+ T細胞の検出のために利用する。
【0108】
培地および歯肉組織ホモジネートからのサイトカインの検出
標準的な方法を用いて、培地またはマウス歯肉組織ホモジネート中のIL-10、RANKL、OPG、オステオカルシン、TNF-a、IFN-g、TGF-b1、IL-1b、IL-2、IL-4、IL-6、IL-12およびIL-17のような、サイトカインおよび他のマーカーを検出した。
【0109】
歯肉組織に存在する炎症性化学メディエータの検出
炎症促進性化学メディエータ(PGE2、酸化窒素[NO]、およびATP)も抗炎症性化学メディエータ(アデノシン)も測定する。PGE2はLuminexに基づくPGE2検出キット(Cayman Chemical)を用いて測定する。組織ホモジネートに存在する酸化窒素は、硝酸塩/亜硝酸塩比色アッセイキット(Cayman Chemical)によって測定する。ATPおよびアデノシンの濃度はSarissaprobe(登録商標)-ATPおよびSarissaprobe(登録商標)-ADOセンサー(Sarissa Biomedical, Coventry, UK)を用いて測定する。
【0110】
歯周骨における破骨細胞に対するTRAPの染色ならびに骨芽細胞および歯周靭帯線維芽細胞に対するペリオスチン/ALPの染色
33、37、44および58日目に殺処理された動物の上顎骨を脱灰し、組織切片に対するTRAPの染色によって破骨細胞を決定する。また、組織切片をペリオスチンおよびアルカリホスファターゼに対して染色し、骨芽細胞および歯周靭帯線維芽細胞の局在について決定する。
【0111】
pDNA試験
CMVプロモーターを含み、かつ緑色蛍光タンパク質(GFP) (Aldevron, Fargo ND)または骨形成タンパク質2 (BMP-2) (Aldevron)をコードするプラスミドDNAを用いる。より効率的なトランスフェクションのために、分岐ポリエチレンイミン(PEI, MW=25000, Sigma-Aldrich)を用いてプラスミドDNAを凝縮する。
【0112】
超音波の適用
Omnisound 3000はゲルからのpDNAの放出を媒介するためのものである。インビトロで超音波に供されるゲルの構造を処理後のさまざまな時点で流体力学的特性の分析により調べて、ゲル構造の永続的変化、および処理後の修復時間を決定する。標準的な方法を用いてpDNAの放出、構造および遺伝子発現を評価する。インビボでの試験の場合、組織表面のアクアソニックカップリングゲルに1-cm2のトランスデューサヘッドを用いる; 熱電対を組織部位へ挿入して局所温度を測定する。
【0113】
骨吸収の程度のモニタリング
組織を、最初にマイクロCTによって分析し、その後、組織学的に分析して骨形成の程度を決定する。デジタルマイクロCT画像を撮影し、25μm×25μm×25μmのメッシュサイズで3次元画像へ再構成する。スキャニングはBrigham and Womanのコア施設で利用可能なGE-EVS高分解能MicroCT Systemにて、手数料方式で実施することができる。骨量を測定し、較正された骨塩密度を決定する。類骨の場合はGoldner's Trichrome染色で、または石化組織の場合はvon Kossa染色で染色されたプラスチック包埋切片から、標準的な方法を用いて定量的組織形態分析を行う。
【0114】
統計的設計および分析
50%を超える実験条件間の差異の統計的有意性を確立させるために、予備的研究において決定された標準偏差を使い、InStat Software (Agoura Hills, CA)を用いて全実験のためのサンプル数を計算する。スチューデントのt検定(両側比較)を用いて統計分析を行い、InStat 2.01ソフトウェアを用いて分析する。条件間の差異は、p < 0.05なら、有意とみなす。
【0115】
本明細書において引用される全ての米国特許および公表または非公表の米国特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用される全ての公表された外国特許および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用される公表された他の全ての参考文献、文書、原稿および科学論文は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0116】
本発明をその好ましい態様に関連して詳細に示し、記述してきたが、その中で、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく形態および詳細における種々の変更を行えることが当業者によって理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原、動員組成物、および寛容原を含む足場組成物。
【請求項2】
Th1促進剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記寛容原が、胸腺間質性リンパ球新生因子、デキサメタゾン、ビタミンD、レチノイン酸、ラパマイシン、アスピリン、形質転換増殖因子β、インターロイキン-10、血管作動性腸管ペプチドまたは血管内皮増殖因子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記動員組成物が、GM-CSF、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、N-ホルミルペプチド、フラクタルキンまたは単球走化性タンパク質-1を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記Th1促進剤がtoll様受容体(TLR)アゴニストを含む、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記TLRアゴニストがCpGを含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記Th1促進剤が病原体関連分子パターン組成物またはアラルミンを含む、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
前記Th1促進剤がTLR 3、4または7のアゴニストを含む、請求項2記載の組成物。
【請求項9】
前記抗原が自己抗原を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
アレルゲン、動員組成物およびTh1促進性のアジュバントを含む足場組成物。
【請求項11】
Th1媒介性の抗原特異的免疫反応へと選択的に方向づける方法であって、該方法が、抗原、動員組成物および寛容原を含むゲル足場を対象に投与する段階を含み、樹状細胞またはTreg細胞が、該足場に動員され、該抗原に曝露され、かつ該足場から離れて該対象の組織へと移動し、Th2免疫反応と比べてTh1免疫反応が選択的に生じる、方法。
【請求項12】
前記足場がTh1促進剤をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
自己免疫障害の重症度を低減させる方法であって、該方法が、自己免疫障害を患っている対象を特定する段階、ならびに抗原、動員組成物、および寛容原を含む足場組成物を該対象に投与する段階を含み、該抗原が、該障害と関連する病的自己免疫反応が導かれる細胞に由来する、方法。
【請求項14】
前記自己免疫障害が1型糖尿病であり、かつ前記抗原が膵臓細胞抗原を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記抗原が、インスリン、プロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ-65 (GAD65)、インスリノーマ関連タンパク質2、熱ショックタンパク質60、ZnT8または膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニットを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記自己免疫障害が多発性硬化症である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
前記抗原が、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質、またはミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
慢性炎症障害またはアレルギーを患っている対象を特定する段階、ならびに該障害またはアレルギーと関連する抗原、動員組成物、およびアジュバントを含む足場組成物を該対象に投与する段階を含む、慢性炎症障害またはアレルギーの重症度を低減させる方法。
【請求項19】
前記抗原がアレルゲンを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記アレルゲンが、(Amb a 1 (ブタクサアレルゲン)、Der p2 (ヤケヒョウダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)アレルゲン、つまりイエダニの主要種かつ喘息の主な誘導因子)、Betv 1 (主要な白樺(シラカバ(Betula verrucosa)花粉抗原)、ハンノキ(Alnus glutinosa) (ハンノキ)由来のAln g I、塘蒿(Apium graveolens) (セロリ)由来のApi G I、セイヨウシデ(Carpinus betulus) (ホームビーン)由来のCar b I、セイヨウハシバミ(Corylus avellana) (西洋ハシバミ)由来のCor a I、セイヨウリンゴ(Malus domestica) (リンゴ)由来のMaI d I、ホスホリパーゼA2 (ハチ毒)、ヒアルロニダーゼ(ハチ毒)、アレルゲンC (ハチ毒)、Api m 6 (ハチ毒)、Fel d 1 (ネコ)、Fel d 4 (ネコ)、Gal d 1 (卵)、オボトランスフェリン(卵)、リゾチーム(卵)、オボアルブミン(卵)、カゼイン(乳)および乳漿タンパク質(α-ラクトアルブミンおよびβ-ラクトグロブリン、乳)、ならびにAra h 1〜Ara h 8 (ピーナッツ)を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
生体材料マトリックス、およびGM-CSFまたは胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)などの生物活性因子を含み、樹状細胞を動員してその活性化を非炎症性の表現型へと促す、インビボで用いるための生体材料システム。
【請求項22】
歯周疾患における調節性T細胞による炎症調節に影響を与える方法であって、該方法が、寛容原性樹状細胞を動員して調節性T細胞分化を促進するようプログラミングし、かつ活性化樹状細胞のリンパ節への動員、活性化、および移動を介して炎症を媒介する生体材料を提供する段階を含み、それによって調節性T細胞の形成、エフェクタT細胞の減少および歯周炎症の低減がもたらされる、方法。
【請求項23】
歯周炎において歯槽骨を再生するための、骨再生の促進と協調して炎症を低下させるインビボで用いるための生体材料システムであって、該生体材料システムが、BMP-2をコードするプラスミドDNAを含み、該プラスミドが、DCの標的化を介して炎症を抑制および低減させる生体材料システムから送達される、生体材料システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図9I】
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【図9J】
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【図9K】
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【図9L】
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【図9M】
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【図9N】
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【図9O】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2013−501005(P2013−501005A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523125(P2012−523125)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/044117
【国際公開番号】WO2011/014871
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(507244910)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (18)
【出願人】(512024026)フォーシス デンタル インファーマリー フォー チルドレン (1)
【Fターム(参考)】