説明

寝床看護システム

【課題】 寝返りの有無の検知、ベッドからの落下検知、又は無呼吸若しくは過呼吸の検知を、従来と比較して簡素なシステム構成で、従来よりも正確になし得る寝床看護システムの提供。
【解決手段】 照射波と反射波の位相差を検知するドップラーセンサー1と、タイマー2と、照射波と反射波の位相差及び時間から看護対象の動作時間、動作速度、及び看護対象の動作方向を導く検波部3と、看護対象の動作速度、及び看護対象の動作方向から看護対象の動作周期、及び動作量を導く演算手段4と、ドップラーセンサー1、検波部3、及び演算手段4から与えられた情報から看護対象の異常を検知して報知指令を出力する信号処理部5と、報知指令を受けてアラームを発する報知手段6を備え、信号処理部5は、呼吸検知手段7と、寝返り検知手段8と、落下検知手段9を備える寝床看護システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝床における存否、体動、及び体位変化(以下体位変化等と記す)を監視するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、寝床看護システムは、褥創の予防、ベッドからの落下検知、又は呼吸の検知を目的として行われる。
寝たきり高齢者が褥創を発症すると、組織の壊死、感染症などにより、高度な治療が必要となる場合があり、これが悪化すると死に至る場合もある。
【0003】
また、施設では、ベッドからの落下事故が多く、骨折などの重篤な状態ともなる場合も発生し、骨折部位によっては、救急対応が必要な場合があるにも関らず、落下状態のまま、発見されるまで放置される場合もある。寝たきり高齢者や無呼吸症候群患者などにあっても、呼吸停止を長時間放置されることにより死に至ることから、落下や呼吸停止の早期発見は、人の命を護る上で極めて重要な問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−276443号公報
【特許文献2】特開2004−201758号公報
【特許文献3】特開2007−155490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
褥創予防には、体位変化(寝返りを含む)が重要である。
一般的には、寝たきり高齢者の寝床上における体位変化等を検知して一定間隔以内に体位変化等が無い場合にアラームを発し、看護・介護者が寝返り介助を行なうことで褥創を予防する。
【0006】
しかしながら、施設では人手不足から、在宅では介護者の負担軽減のため、自律的に寝返りができた場合には定期的な寝返り介助を行なわず、一定時間以上寝返りがない場合などのみアラームを発し、寝返り介助を行なう方法が望ましい。
高齢者が就寝中の場合には、寝返り介助により高齢者を頻繁に起こすことになりQOLが低下するとの見方もある。従って、どの程度の頻度で寝返り介助を行なうかと同様に、誤報又は誤検知の発生が、寝返り介助を増加させ、又は怠らせる点で、介護者と被介護者双方にとって大きな問題となる。
【0007】
寝返りを検知する従来の手法として、枕、マットに設置された圧力センサー、赤外線センサー、加速度センサー、又はジャイロセンサーによる動作検知などが用いられてきたが(例えば下記特許文献2参照)、これらでは、頭や手を動かしたのみでも反応する場合があり、寝返り(褥創の予防となるような大きな体位変化)を正確に検知できない。
【0008】
ベッドからの落下を検知する従来の手法として、ベッド上、或いはベッド下に設置したマットセンサー(感圧センサー)あるいは、ベッド柵に設置した赤外線センサーなどが用いられていたが、立ち上がりなどの場合の誤検知や、マットセンサーが無い位置への落下による無検知が生じる場合がある。また、マットセンサーでは体位の推定ができないと言う問題もある。
【0009】
呼吸を検知する従来の手法としては、ベッド上に設置したマットセンサーにより呼吸による微細な圧力変化を検知する手法、バイタルセンサーを胸に貼付し、又はシールに電極を埋め込み、心拍と共に呼吸を検知する手法(例えば下記特許文献1参照)、或いはドップラーセンサーにより呼吸の周期を監視するなどの方法が採用されていた。
【0010】
バイタルセンサーではメンテナンスが難しいという問題や、身体に装着する必要があるという問題があり、ドップラーセンサー(10GHzシングル出力)で、動作速度のみ検知する従来の看護システムでは、動作方向がわからないため、周期的検知がなされても、それが呼吸に伴う往復運動であるか否かを正確にとらえることすらできず、看護として極めて不正確なものにならざるを得ないという問題があった。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、直行検波により位相から動作速度及び動作方向を導くと共に、その情報から導かれる種々の情報及びその組み合わせから、呼吸の検知、寝返りの有無の検知、又はベッドからの落下検知を、従来と比較して簡素なシステム構成で、従来よりも正確に判定し得る寝床看護システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明による寝床看護システムは、照射波と反射波の位相差を検知するドップラーセンサーと、時間を計るタイマーと、照射波と反射波の位相差及び時間から看護対象の動作時間、動作速度、及び看護対象の動作方向を導く検波部と、看護対象の動作速度、及び看護対象の動作方向から看護対象の動作周期、及び動作量を導く演算手段と、ドップラーセンサー、検波部、及び演算手段から与えられた情報から看護対象の異常を検知して報知指令を出力する信号処理部と、報知指令を受けてアラームを発する報知手段を備えたものである。
【0013】
看護対象の動作速度及び動作方向は、直交検波により単位時間における位相差及びその進み又は遅れから導く。
看護対象の動作速度は、ドップラーセンサーの照射波と反射波の位相差を受け、単位時間当たりの位相差が被計測物体の速度に比例することを利用して導く。
直交検波による動作方向の検出は、例えば上記特許文献3に示す如く、照射波をfs1、反射波をfo、送信波を90度遅らせたものをfs2とし、そこから、検波出力として、2系統IF1,IF2(IF1=|fs1−fo|、IF2=|fs2−fo|)を導きIF1と、IF2の位相関係を比較することで移動方向を判断するものである。
ここで、動作方向とは、ドップラーセンサーに対しその指向線に沿って遠近に相当する方向(以下遠近方向と記す)である。
動作周期とは、動作方向が変化する周期であり、動作量とは、検波部で導いた看護対象の動作速度をその動作時間で積分した値である。従って、その方向は動作速度の方向に等しいものとなり、動作方向が変化すれば、その変化時点から新たに動作量が計測される。
異常とは、報知指令を発する要件を全て満たした状態を指す。
【0014】
信号処理部は、呼吸検知手段と、寝返り検知手段と、必要に応じて落下検知手段を備える。
呼吸検知手段は、安静呼吸状態を含む人の呼吸を反映した動作周期、動作量、規定時間、及び動作欠落時間を含む呼吸に関する基準情報を有し、前記基準情報に照らして、看護対象の動作の動作周期に基づき人の呼吸を反映した動作周期の範囲内であり、且つ当該動作周期がその動作周期の範囲で規定時間以上継続している看護対象の動作を呼吸候補として選択する手段と、看護対象の呼吸数を表す看護対象の呼吸候補の動作周期が安静呼吸状態の呼吸を反映した動作周期の範囲であることと、看護対象の動作量が安静呼吸状態の呼吸を反映した動作量の範囲にあることを満たすことを以って安静呼吸状態と判断する手段と、安静呼吸状態が検出されない時間を計測し安静呼吸状態が動作欠落時間以上検出されなかった時に報知手段に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段とを備える。
【0015】
呼吸に関する基準情報の動作欠落時間には、看護対象の命が危険とならない程度の時間を設定することが望ましい。
呼吸候補の選択要件は、安静呼吸状態では、他の動作が混在する場合が少なく、周期は略一定であることに基づく。
安静呼吸状態の判断は、呼吸数(動作周期)とそれに伴う胸又は腹の振幅で行なう。
【0016】
寝返り検知手段は、寝返りを反映した動作速度、動作周期、及び動作量、並びに動作欠落時間、及び動作継続時間(動作断続時間を含む。以下同じ。)を含む寝返り時の基準情報を有し、看護対象の動作時間内に、複数の動作速度、複数の動作周期、又は複数の動作量が混在していることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を呼吸以外の体動又は体位変化と判断する手段を備える。
呼吸以外の体動又は体位変化には、頭部、胴体、及び四肢の動きが関連することから、遠近異なる動きの混在、鈍敏異なる速さの混在、又は異なる動作周期の混在が見られる場合が多いことによる。
【0017】
また、看護対象の動作が呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件の全てを満たすことと、看護対象の動作速度が寝返りを反映した動作速度の範囲にあることと、看護対象の動作周期が寝返りを反映した動作周期の範囲にあることと、看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量の範囲にあることと、看護対象の動作時間が寝返りを反映した動作継続時間の範囲にあることの要件の全てをみたすことを以って看護対象の動作を寝返りと判断する手段を備える。
【0018】
更に、異常を検出する手段として、寝返りが動作欠落時間以上検出されなかった時に報知手段に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段とを備える。
寝返り時の基準情報の動作欠落時間には、看護対象が褥創とならない程度の時間を設定することが望ましい。
【0019】
落下検知手段は、寝床からの落下を反映した動作速度、動作方向、及び動作量、並びに動作継続時間を含む落下時の基準情報を有し、看護対象の動作が上記呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件の全てを満たすことと、看護対象の動作方向が一方向へ継続する時期を含むことと、その際の看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量を超えることの要件の全てを満たすことを以って看護対象の動作を落下と判断する手段を備える。
【0020】
呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件を求めるのは、落下は、それらの延長線上にあるからである。また、落下の際には、遠方へ寝床上の動きを超えた動作量の動きが生じるので、当該動きを検知して落下の判断を行うものである。
【0021】
更に、落下の態様を判別する手段として、看護対象の動作が落下と判断する要件の全てを満たすことと、看護対象の動作速度が寝床からの落下を反映した動作速度の範囲であることと、看護対象の動作時間が寝床からの落下を反映した動作継続時間の範囲にあることの要件の全てを満たすことを以って看護対象の動作を急落下と判断する手段を備える。落下判断の要件に加えて、落下速度と、落下所要時間に照らして急激な落下を判断するものである。
落下と判断された時に報知手段に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段とを備える。
【0022】
上記基準情報の例を挙げると、以下の通りである。
呼吸候補を選択されるに要する動作周期の継続が求められる規定時間は、約5回から約10回分の呼吸に要する時間から定めることが望ましいが、それ以上でも良い。
安静呼吸状態の呼吸を反映した動作周期の範囲は、約3秒から約5秒であり、
安静呼吸状態の呼吸を反映した動作量の範囲は、約5mmから約20mmであり、
安静呼吸状態の動作欠落時間は、約30秒であり、
安静呼吸状態の動作速度と判断する範囲は、約5mm/秒から約20mm/秒である。
【0023】
寝返りを反映した継続時間は約2秒以上であり、
寝返りを反映した動作欠落時間、即ち、寝返りの未検出により報知手段に対しアラームの発生を要求するまでの規定時間は、約180分である。
【0024】
寝床からの落下を反映した動作速度の範囲は、約50mm/秒以上であり、
寝床からの落下を反映した動作継続時間は、滑り落ちについては約10秒以上であり、
寝床からの落下を反映した動作継続時間の範囲は、急落下については約0.5秒以上約10秒未満である。
【0025】
尚、ここで、呼吸、寝返り、又は落下を反映した動作速度、動作方向、若しくは動作時間、又は動作周期、若しくは動作量とは、呼吸、寝返り、又は落下の各々について、それらの動作に伴う動作速度、動作方向、若しくは動作時間、又は動作周期、若しくは動作量又はそれに相当する情報であり、人の呼吸を反映した規定時間とは、呼吸候補などを選択する際に呼吸の動作周期の継続状態の適切な判定に要する時間として定めた時間又はそれに相当する情報であり、呼吸、又は寝返りを反映した動作欠落時間とは、それらの動作が欠落することにより問題が生じる時間又はそれに相当する情報であり、寝返り、又は落下を反映した動作継続時間とは、それらの動作に要する時間又はそれに相当する情報である。上記いずれの処理においても、人体で生じ得ない動作速度や動作周期はノイズとして取り扱う。
【発明の効果】
【0026】
本発明に依る寝床看護システムによれば、照射波と反射波の位相差と時間から、ドップラーセンサーに対する遠近方向への動作速度と時間を検知すればよく、設置すべき設備も比較的簡素なものとなる。また、それらの設備から得た動作速度と時間のみから、比較的簡単な演算を以って的確な判断を導くことが可能となり、寝たきり高齢者、無呼吸症候群患者などの呼吸をモニタすることが可能となる。それによって、生命の安全を確保することができることはもとより、褥創防止し、ベッドからの落下を早期に検知して救助することにより、決め細やかな看護が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明による寝床看護システムの実施の形態をベッドに寝床を設けた例に基づき図面を示しつつ説明する。
本発明による寝床看護システムは、照射波と反射波の位相差を検知するドップラーセンサー1と、時間情報を出力するタイマー2と、検波部3と、看護対象の動作速度、及び看護対象の動作方向から看護対象の動作周期、及び動作量を導く演算手段4と、検波部3、演算手段4、及びタイマー2から与えられた情報から看護対象の異常を検知して報知指令を出力する信号処理部5と、報知指令を受けてアラームを発するスピーカーや電話端末等の報知手段6から構成する(図1参照)。
【0028】
本実施の形態では24GHz帯直交検波のドップラーセンサーを使用する。
本実施の形態におけるドップラーセンサー1は、送信部及び受信部を備える。
送信部は、正弦波(以下照射波と記す)を照射し、受信部は、それらの反射波を受信する。
【0029】
ドップラーセンサー1は、寝床の高さより上位、例えば、天井や壁面(斜め下向き)の上位等に設置し、ベッドを使用する場合にあっては、それに加えて、寝床の高さと床面との間、例えば、壁面(斜め下向き)の下位に設置すればよい。
本実施の形態では、天井における寝床中央の真上に、寝床及びその周囲を検知範囲としたドップラーセンサー1を下向きに設置する(図2参照)。
【0030】
本実施の形態における検波部3は、ドップラーセンサー1の照射波と反射波との位相差及びタイマーから得た時間から、寝床を使用する看護対象の動作時間、動作速度、及び動作方向を導き出力する。
【0031】
本実施の形態における演算手段4は、検波器3から得た看護対象の動作速度、動作方向、及び動作時間から看護対象の動作周期、及び動作量を導く。
また、本実施の形態における信号処理部5は、これら看護対象の動作速度、動作方向、及び動作時間、並びに、動作周期、及び動作量からなる実測情報を受けてメモリーに記録保持すると共に、人の呼吸、体動、若しくは体位変化等を判断する為に組み合わせ保持する基準情報と実測情報を比較して看護対象の状態を判定する。
【0032】
本実施の形態における信号処理部5は、これらの情報を処理する手段として、呼吸検知手段と、寝返り検知手段と、落下検知手段とを備える。尚、床に直接寝床を取る場合には、落下検知手段を持たない構成としても良く、落下検知手段の有無に関わらず、呼吸検知手段の処理と、寝返り検知手段の処理は、いずれを先に行なっても良い。
【0033】
〔呼吸検知手段〕
本実施の形態における呼吸検知手段は、安静呼吸状態を含む人の呼吸を反映した動作周期、動作量、規定時間、及び動作欠落時間からなる呼吸に関する基準情報が設定されており、これらの基準情報と実測情報との比較から安静呼吸状態、過呼吸状態、又は無呼吸状態(それ以外)に分別して判断する。
本実施の形態における呼吸検知手段には、呼吸候補選択手段、呼吸数算出手段、安静判定手段、過呼吸判定手段、及び呼吸警告手段を備え、人の呼吸を反映した動作周期、及び動作量として、安静呼吸状態の動作周期及び動作量と、過呼吸状態の動作周期及び動作量からなる呼吸に関する基準情報が設定されている。
【0034】
本実施の形態における呼吸候補選択手段は、前記基準情報に照らして、演算手段4で算出した看護対象の動作の動作周期が、基準情報に含まれた人の呼吸を反映した動作周期の範囲内であり、且つ当該動作周期が当該基準情報の規定時間以上継続している動作を呼吸候補として選択する(図3参照)。人の呼吸の動作は、相反する方向への動作が交互に行なわれ、且つ継続的に行なわれることによる。
【0035】
本実施の形態における呼吸数算出手段は、演算手段4で算出した看護対象の動作周期から看護対象の呼吸数を導くものである(図4参照)。
本実施の形態における安静判定手段は、呼吸数算出手段で導いた呼吸数を安静呼吸状態における基準情報から導かれる呼吸数と比較して、検知した看護対象の呼吸数が基準情報から導かれる呼吸数の範囲にあることと、検知した看護対象の動作量が、安静呼吸状態の呼吸を反映した動作量の範囲にあることを満たすことを持って安静呼吸状態と判断する(図4参照)。
【0036】
本実施の形態における過呼吸判定手段は、呼吸数算出手段で導いた呼吸数を過呼吸状態における基準情報から導かれる呼吸数と比較して、検知した看護対象の呼吸数が過呼吸状態における基準情報から導かれる呼吸数の範囲にあることを満たすことを以って過呼吸状態と判断する(図5参照)。
【0037】
尚、本実施の形態における呼吸候補となる看護対象の動作は、安静呼吸状態の呼吸を反映した基準情報の動作周期が3秒から5秒に設定されており、過呼吸状態の呼吸を反映した動作周期が3秒未満に設定されている。一方、安静呼吸状態の動作量にあっては、ドップラーセンサー1と看護対象の身体が正対した場合を重視して5mmから20mmに設定されており、過呼吸状態の呼吸を反映した動作周期が15mmから30mmに設定されている。看護対象が横向きに寝る場合に配慮して、その下限を1mmから4mmに設定することも可能である。また、本実施の形態では、動作周期から呼吸数を導く処理を経たが、動作周期を呼吸数に見立て、動作周期のままで判定処理を行っても実質的には同じである。
【0038】
本実施の形態における呼吸警告手段は、安静呼吸状態が検出されない時間をタイマー2で計測し、安静呼吸状態が動作欠落時間以上検出されなかった時に、報知手段6に対し、アラームの発生を要求する報知指令を出力するものである(図5参照)。尚、呼吸に関する基準情報の動作欠落時間は、看護対象の生命に危険の無い範囲、即ち、30秒に設定されている。
【0039】
〔寝返り検知手段〕
本実施の形態における寝返り検知手段は、寝返り候補選択手段、寝返り判定手段、及び褥創警告手段を備え、人の寝返りを反映した動作速度、動作周期、及び動作量、並びに、動作欠落時間、及び動作継続時間からなる寝返り時の基準情報が設定されている。
これらの基準情報と実測情報との比較から呼吸以外の体動、体位変化、又は寝返りに分別して判断する。
そして、寝返りが検出されない時間をタイマー2で計測し、寝返りが一定時間検出されなかった時に報知手段6に対しアラームの発生を促す報知指令を発する(図8参照)。
【0040】
本実施の形態における寝返り候補選択手段は、看護対象の動作時間内に複数の動作速度、複数の動作周期、又は複数の動作量が混在していることの要件を満たすことを以って、検知した看護対象の動作を呼吸以外の体動又は体位変化(寝返り候補)と判断する(図6参照)。
呼吸以外の体動又は体位変化は、手の可動量や頭部の可動量等、動作方向が不連続に変化し、その体動又は体位変化に応じて比較的広い範囲の動作速度、動作周期の範囲、及び動作量が看護対象の動作期間に分布し得ることによる。
【0041】
また、本実施の形態における寝返り判定手段は、検知した看護対象の動作が呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件を満たす寝返り候補の中から、検知した看護対象の動作速度が寝返りを反映した動作速度の範囲にあることと、検知した看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量の範囲にあることと、検知した看護対象の動作時間が寝返りを反映した動作継続時間の範囲にあることの要件の全てをみたすことを以って看護対象の動作を寝返りと判断する(図7参照)。
【0042】
呼吸以外の体動又は体位変化と判断され、更に寝返りと判断するに要件の設定根拠は以下の通りである。
寝返りは、相応の時間を要する非継続的な動作であり、上記呼吸以外の体動又は体位変化の要件の全てを満たすことに加えて、その動作速度が一般的に呼吸の動作速度よりも速い範囲であり、且つ、寝返りは平坦な寝床上での回転を伴う動作であって、寝床上で人体の最も薄い姿勢と厚い姿勢を体現するものであるから、その動作量が手の可動量や頭部の可動量等の体動時における動作量(約25から約100mm)を超えるものの落下を伴うまでには至らない範囲であることの要件を満たすことが必要である。また、落下と判断する基準情報としての動作量は、ドップラーセンサーの設置状況によっても異なり、例えば、ドップラーセンサーの取付位置が、側壁面など寝床の真上に無い場合には、取付角度から落下距離を算出し基準情報として用いればよい。
【0043】
また、寝返りは寝床上での回転を伴う動作であることから、その進行方向は少なくとも一回変化することに鑑み、寝返りと判断する要件として、看護対象の動作周期が寝返りを反映した動作周期の範囲にあることを加重した構成としても良いし、又は検知した看護対象の動作速度が寝返りを反映した動作速度の範囲にあることとする要件と入れ替えた構成としても良い。
【0044】
更に、本実施の形態における褥創警告手段は、寝返りが検出されない時間をタイマー2で計測し、寝返りが動作欠落時間以上検出されなかった時に報知手段6に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力するものである。
【0045】
尚、本実施の形態において寝返りを反映した動作継続時間は2秒以上であり、寝返りを反映した動作欠落時間、即ち、寝返りの未検出により報知手段6に対しアラームの発生を要求するまでの猶予時間は、180分以上である。
【0046】
〔落下検知手段〕
本実施の形態における落下検知手段は、落下判定手段、急落下判定手段、及び落下警告手段を備え、寝床からの落下を反映した動作速度、動作方向、及び動作量、並びに動作継続時間からなる落下時の基準情報が設定されている。
これらの基準情報と実測情報との比較から寝床からの看護対象の落下、及びその落下態様の判断を滑り落ち、急落下、又は検知範囲以外の落下に分別して行う。
落下と判断した場合には、報知手段6に対しアラームの発生を促す報知指令を発する。
【0047】
本実施の形態における落下判定手段は、検知した看護対象の動作が呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件を満たす寝返り候補の中から(図6参照)、その際の看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量を超えることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を落下と判断する(図9参照)。動作量の要件の根拠は、看護対象の動作方向がドップラーセンサーから遠方へ寝床までの距離を超えて継続して遠ざかる落下時期を含むことによる。
【0048】
また、本実施の形態における急落下判定手段は、看護対象の動作が落下と判断する要件の全てを満たすことと、看護対象の動作速度が寝床からの落下を反映した動作速度の範囲であることと、看護対象の動作時間が寝床からの落下を反映した動作継続時間の範囲にあることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を急落下と判断するものである(図9参照)。
【0049】
更に、本実施の形態における落下警告手段は、落下と判断された時に報知手段に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力するものである(図9参照)。
落下と判断した場合において、更に、急落下の判断を伴う場合と伴わない場合とで、異なる報知指令を出力する様に構成してもよい。
更に、落下と判断した場合において、以後照射波と反射波の位相差の検知が成されなくなった場合には、落下した位置が寝床から離れた箇所であるとして、その判断結果に則した報知指令を報知手段へ出力する構成としても良い。
【0050】
尚、本実施の形態における寝床からの落下を反映した動作速度の範囲は、50mm/秒以上であり、
寝床からの落下を反映した動作継続時間は、滑り落ちについては10秒以上であり、
寝床からの落下を反映した動作継続時間の範囲は、急落下については0.5秒以上10秒未満である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による寝床看護システムの一例を示すブロック図である。
【図2】本発明による寝床看護システムの実施態様例を示す(A):正面図、(B):側面図、及び(C):平面図である。
【図3】本発明による呼吸検知手段(呼吸候補選択手段)の処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明による呼吸検知手段(呼吸算出手段及び安静呼吸手段)の処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明による呼吸検知手段(過呼吸判定手段)の処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明による寝返り検知手段(寝返り候補選択手段)の処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明による寝返り検知手段(寝返り判定手段)の処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明による寝返り検知手段(褥創警告手段)の処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】本発明による落下検知手段の処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1 ドップラーセンサー,2 タイマー,3 検波部,4 演算手段,
5 信号処理部,6 報知手段,
7 呼吸検知手段,8 寝返り検知手段,9 落下検知手段,


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射波と反射波の位相差を検知するドップラーセンサー(1)と、時間を計るタイマー(2)と、照射波と反射波の位相差及び時間から看護対象の動作時間、動作速度、及び看護対象の動作方向を導く検波部(3)と、看護対象の動作速度及び動作方向から看護対象の動作周期及び動作量を導く演算手段(4)と、ドップラーセンサー(1)、検波部(3)、及び演算手段(4)から得た情報から看護対象の異常を検知して報知指令を出力する信号処理部(5)と、報知指令を受けてアラームを発する報知手段(6)を備え、
信号処理部(5)は、呼吸検知手段(7)と、寝返り検知手段(8)を備え、
呼吸検知手段(7)は、安静呼吸状態を含む人の呼吸を反映した動作周期、動作量、規定時間、及び動作欠落時間を含む呼吸に関する基準情報を有すると共に、
看護対象の動作周期に基づき、基準情報に含まれた人の呼吸を反映した動作周期の範囲内であり、且つ当該動作周期がその動作周期の範囲で規定時間以上継続している看護対象の動作を呼吸候補として選択する手段と、
看護対象の呼吸候補の動作周期が安静呼吸状態の呼吸を反映した動作周期の範囲であることと、看護対象の動作量が安静呼吸状態の呼吸を反映した動作量の範囲にあることを満たすことを以って安静呼吸状態と判断する手段と、
安静呼吸状態が検出されない時間を計測し安静呼吸状態が動作欠落時間以上検出されなかった時に報知手段(6)に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段を備え、
寝返り検知手段(8)は、
寝返りを反映した動作速度、動作周期、及び動作量、並びに、動作欠落時間、及び動作継続時間を含む寝返り時の基準情報を有すると共に、
看護対象の動作時間内に複数の動作速度、複数の動作周期、又は複数の動作量が混在していることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を呼吸以外の体動又は体位変化と判断する手段と、
看護対象の動作が前記呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件を満たすことと、看護対象の動作速度又は動作周期が寝返りを反映した動作速度又は動作周期の範囲にあることと、看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量の範囲にあることと、看護対象の動作時間が寝返りを反映した動作継続時間の範囲にあることの要件をみたすことを以って看護対象の動作を寝返りと判断する手段と、
寝返りが動作欠落時間以上検出されなかった時に報知手段(6)に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段を備えることを特徴とする寝床看護システム。
【請求項2】
信号処理部(5)は、呼吸検知手段(7)と、寝返り検知手段(8)と、落下検知手段(9)を備え、
前記落下検知手段(9)は、
寝床からの落下を反映した動作方向、及び動作量を含む落下時の基準情報を有すると共に、
看護対象の動作が前記呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件を満たすことと、看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量を超えることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を落下と判断する手段と、
落下と判断された時に報知手段(6)に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段とを備えることを特徴とする前記請求項1に記載の寝床看護システム。
【請求項3】
信号処理部(5)は、呼吸検知手段(7)と、寝返り検知手段(8)と、落下検知手段(9)を備え、
前記落下検知手段(9)は、
寝床からの落下を反映した動作速度、動作方向、及び動作量、並びに動作継続時間を含む落下時の基準情報を有すると共に、
看護対象の動作が前記呼吸以外の体動又は体位変化と判断する要件を満たすことと、看護対象の動作量が寝返りを反映した動作量を超えることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を落下と判断する手段と、
看護対象の動作が上記落下と判断する要件を満たすことと、看護対象の動作速度が寝床からの落下を反映した動作速度の範囲であることと、看護対象の動作時間が寝床からの落下を反映した動作継続時間の範囲にあることの要件を満たすことを以って看護対象の動作を急落下と判断する手段と、
落下と判断された時に報知手段(6)に対しアラームの発生を要求する報知指令を出力する手段とを備えることを特徴とする前記請求項1又は請求項2のいずれかに記載の寝床看護システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−5745(P2012−5745A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146045(P2010−146045)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(591082915)株式会社立山システム研究所 (8)
【出願人】(593062175)株式会社タウ技研 (4)
【Fターム(参考)】