説明

対向型ディスクブレーキ

【課題】対向型ディスクブレーキにて、ブレーキフィーリングの安定化を図ること、的確なピストン戻り量確保により各パッドの引き摺りを低減すること。
【解決手段】キャリパのインナシリンダ部21に設けたインナシール溝21bのディスクロータ側端壁に、インナピストンシール70における内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する低圧逃げ部Iaと高圧逃げ部Ibが設けられている。キャリパのアウタシリンダ部22に設けたアウタシール溝22bのディスクロータ側端壁に、アウタピストンシール80における内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する低圧逃げ部Oaと高圧逃げ部Obが設けられている。インナ側の低圧逃げ部Iaとアウタ側の低圧逃げ部Oaが同じ形状に形成され、インナ側の高圧逃げ部Ibとアウタ側の高圧逃げ部Obが異なる形状に形成されていて、インナ側の高圧逃げ部Ibがアウタ側の高圧逃げ部Obに比して所定量小容積とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において車輪を制動するために採用される対向型ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
対向型ディスクブレーキは、
車輪に固定されるディスクロータと、
このディスクロータの内側に配置されて車両の非回転部に固定されるインナシリンダ部と、前記ディスクロータの外側に配置され前記ディスクロータの外周を跨ぐようにして前記インナシリンダ部に連結されて前記インナシリンダ部に対して対向するアウタシリンダ部とを有するキャリパと、
前記ディスクロータと前記インナシリンダ部間に介装されるインナパッドと、
前記ディスクロータと前記アウタシリンダ部間に介装されるアウタパッドと、
前記インナシリンダ部に設けたシリンダ穴にロータ軸方向にて移動可能に収容されて、制動時に液圧により前記インナパッドを前記ディスクロータの外周部内側面に向けてロータ軸方向に押圧するインナピストンと、
前記アウタシリンダ部に設けたシリンダ穴にロータ軸方向にて移動可能に収容されて前記インナピストンに対して対向し、制動時に液圧により前記アウタパッドを前記ディスクロータの外周部外側面に向けてロータ軸方向に押圧するアウタピストンと、
前記インナシリンダ部に設けた環状のインナシール溝に組付けられて内周にて前記インナピストンの中間部外周に係合するインナピストンシールと、
前記アウタシリンダ部に設けた環状のアウタシール溝に組付けられて内周にて前記アウタピストンの中間部外周に係合するアウタピストンシールを備えていて、
例えば、下記特許文献1に示されている。なお、上記したインナピストンとアウタピストンは、通常、同一素材で同一形状に形成され、上記したインナピストンシールとアウタピストンシールは、通常、同一素材で同一形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平8−3722号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている対向型ディスクブレーキにおいては、インナシール溝のディスクロータ側端壁に設けられている逃げ部(制動時の液圧によるインナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容するもの)と、アウタシール溝のディスクロータ側端壁に設けられている逃げ部が、共に、各シール溝の口元部を一段面取りすることにより形成されていて、アウタ側の面取り量(ロールバック量)がインナ側の面取り量に比して所定量大きく設定されている。
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載されている対向型ディスクブレーキにおいては、制動時においてキャリパのアウタシリンダ部がインナシリンダ部に比して大きく撓んでディスクロータから大きく離れることを補正するために、上記した設定がなされているが、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときには、キャリパにおけるアウタシリンダ部とインナシリンダ部の撓み量の差は、制動時のパッドの厚み方向の圧縮量に比して無視できるほど小さく、殆ど差がない。
【0006】
このため、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときには、アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形がインナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形に比して大きくなる場合があって、制動後の除圧時において、インナピストンシールの弾性復帰によりインナピストンが的確に戻されるものの、アウタピストンシールの弾性復帰によりアウタピストンが必要以上に戻されるおそれがある。これにより、アウタ側では、アウタパッドの引き摺り(ディスクロータとの摺接)を的確に低減することが可能であるものの、その後の制動時において、アウタピストンの制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が大きくなり、ブレーキフィーリングが悪化するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、
車輪に固定されるディスクロータと、
このディスクロータの内側に配置されて車両の非回転部に固定されるインナシリンダ部と、前記ディスクロータの外側に配置され前記ディスクロータの外周を跨ぐようにして前記インナシリンダ部に連結されて前記インナシリンダ部に対して対向するアウタシリンダ部とを有するキャリパと、
前記ディスクロータと前記インナシリンダ部間に介装されるインナパッドと、
前記ディスクロータと前記アウタシリンダ部間に介装されるアウタパッドと、
前記インナシリンダ部に設けたシリンダ穴にロータ軸方向にて移動可能に収容されて、制動時に液圧により前記インナパッドを前記ディスクロータの外周部内側面に向けてロータ軸方向に押圧するインナピストンと、
前記アウタシリンダ部に設けたシリンダ穴にロータ軸方向にて移動可能に収容されて前記インナピストンに対して対向し、制動時に液圧により前記アウタパッドを前記ディスクロータの外周部外側面に向けてロータ軸方向に押圧するアウタピストンと、
前記インナシリンダ部に設けた環状のインナシール溝に組付けられて内周にて前記インナピストンの中間部外周に係合するインナピストンシールと、
前記アウタシリンダ部に設けた環状のアウタシール溝に組付けられて内周にて前記アウタピストンの中間部外周に係合するアウタピストンシールと
を備えている対向型ディスクブレーキであって、
前記インナシール溝のディスクロータ側端壁に、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときに前記インナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する低圧逃げ部と、制動時の液圧が設定値以上の高圧のときに前記インナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する高圧逃げ部が設けられるとともに、
前記アウタシール溝のディスクロータ側端壁に、制動時の液圧が設定値に至るまでの低圧のときに前記アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する低圧逃げ部と、制動時の液圧が設定値以上の高圧のときに前記アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する高圧逃げ部が設けられていて、
前記インナシール溝の低圧逃げ部と前記アウタシール溝の低圧逃げ部が同じ形状に形成され、前記インナシール溝の高圧逃げ部と前記アウタシール溝の高圧逃げ部が異なる形状に形成されていて、前記インナシール溝の高圧逃げ部が前記アウタシール溝の高圧逃げ部に比して所定量小容積とされている対向型ディスクブレーキに特徴がある。
【0008】
本発明による対向型ディスクブレーキにおいては、制動時にキャリパのインナシリンダ部とアウタシリンダ部に液圧が供給されると、インナピストンがインナパッドをディスクロータの外周部内側面に向けてロータ軸方向に押圧するとともに、アウタピストンがアウタパッドをディスクロータの外周部外側面に向けてロータ軸方向に押圧する。このため、ディスクロータがインナパッドとアウタパッドにより挟持されて制動される。また、制動解除時には、キャリパのインナシリンダ部とアウタシリンダ部から液圧が排除されて、ディスクロータがインナパッドとアウタパッドによる挟持を解かれて制動を解除される。
【0009】
ところで、本発明による対向型ディスクブレーキにおいては、インナシール溝の低圧逃げ部(制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときにインナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容するもの)と、アウタシール溝の低圧逃げ部(制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときにアウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容するもの)が、同じ形状に形成されている。
【0010】
このため、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときには、キャリパにおけるアウタシリンダ部とインナシリンダ部の撓み量に殆ど差がないことと相俟って、アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形がインナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形と略同じとなる。したがって、制動後の除圧時において、インナピストンシールの弾性復帰によりインナピストンが的確に戻されるとともに、アウタピストンシールの弾性復帰によりアウタピストンが的確に戻されて、アウタピストンシールの弾性復帰によりアウタピストンが必要以上に戻されることはない。これにより、アウタ側では、アウタパッドの引き摺りを的確に低減することが可能であるとともに、その後の制動時において、アウタピストンの制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が無用に大きくならず、ブレーキフィーリングの悪化が防止される。
【0011】
一方、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)以上の高圧のとき(最高圧が例えば、7〜10MPa程度のとき)には、アウタ側にて、キャリパにおけるアウタシリンダ部の撓み量がインナシリンダ部の撓み量に比して液圧の増大に応じて順次大きくなるとともに、アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形がインナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形に比して大きくなる。したがって、制動後の除圧時において、アウタピストンシールの弾性復帰によりアウタピストンが的確に戻される。これにより、アウタパッドの引き摺りを的確に低減することが可能であるとともに、その後の制動時において、アウタピストンの制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が無用に大きくならず、ブレーキフィーリングの悪化が防止される。
【0012】
なお、制動時の液圧が低圧から高圧の全領域において、制動後の除圧時においては、インナピストンシールの弾性復帰によりインナピストンは的確に戻される。これにより、インナ側では、インナパッドの引き摺りを的確に低減することが可能であるとともに、その後の制動時において、インナピストンの制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が無用に大きくならず、ブレーキフィーリングの悪化が防止される。
【0013】
この結果、本発明による対向型ディスクブレーキにおいては、制動時の液圧が低圧から高圧の全領域において、キャリパの撓みに応じたアウタピストンシールおよびインナピストンシールの弾性変形量を実現することが可能であり、ブレーキフィーリングの安定化を図ることが可能であるとともに、的確なピストン戻り量確保により各パッドの引き摺りを低減することが可能である。
【0014】
上記した本発明の実施に際して、前記インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部と、前記アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部は、各シール溝の口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取りすることにより形成されていることも可能である。この場合には、インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部と、アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を、シンプルな形状にて安価に製作することが可能である。
【0015】
この場合において、前記インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りは一段面取りであり、前記アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りは二段面取りであることも可能である。また、前記インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りと、前記アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りは、共に二段面取りであることも可能である。これらの場合において、前者は後者に比して、段部の個数が少ないため、製作が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による対向型ディスクブレーキの一実施形態を概略的に示した断面図である。
【図2】図1に示したキャリパにおけるインナシール溝とアウタシール溝の部分拡大断面図である。
【図3】図1に示したインナピストン、インナピストンシール、アウタピストン、アウタピストンシールの制動解除時における概略的な作動説明図である。
【図4】図1に示したインナピストン、インナピストンシール、アウタピストン、アウタピストンシールの低圧制動時における概略的な作動説明図である。
【図5】図1に示したインナピストン、インナピストンシール、アウタピストン、アウタピストンシールの高圧制動時における概略的な作動説明図である。
【図6】キャリパにおけるインナシール溝とアウタシール溝の第1変形実施形態を示した図2相当の部分拡大断面図である。
【図7】キャリパにおけるインナシール溝とアウタシール溝の第2変形実施形態を示した図2相当の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による対向型ディスクブレーキの一実施形態を概略的に示していて、この実施形態のディスクブレーキ100は、車輪(図示省略)に固定されて一体的に回転するディスクロータ10を備えるとともに、このディスクロータ10を制動するためのキャリパ20、インナパッド30、アウタパッド40、インナピストン50、アウタピストン60、インナピストンシール70、アウタピストンシール80等を備えている。
【0018】
キャリパ20は、鋳鉄、軽金属合金または軽金属で鋳造されていて、ディスクロータ10の内側(図1左側)に配置されて車両の非回転部(図示省略の車体)に固定されるインナシリンダ部21と、ディスクロータ10の外側(図1右側)に配置されディスクロータ10の外周を跨ぐようにしてインナシリンダ部21に連結されてインナシリンダ部21に対して対向するアウタシリンダ部22とを有している。
【0019】
インナシリンダ部21には、ロータ軸方向に延びディスクロータ10に向けて開口するシリンダ穴21aが設けられるとともに、環状のインナシール溝21bが設けられている。また、インナシリンダ部21には、キャリパ20を車両の非回転部(車体)に固定するための取付足部21cが設けられている。一方、アウタシリンダ部22には、ロータ軸方向に延びディスクロータ10に向けて開口するシリンダ穴22aが設けられるとともに、環状のアウタシール溝22bが設けられている。
【0020】
インナパッド30は、キャリパ20に支持ピン90を介してロータ軸方向にて移動可能に組付けられていて、ディスクロータ10とインナシリンダ部21間に介装されている。一方、アウタパッド40は、キャリパ20に支持ピン90を介してロータ軸方向にて移動可能に組付けられていて、ディスクロータ10とアウタシリンダ部22間に介装されている。
【0021】
インナピストン50は、インナシリンダ部21に設けたシリンダ穴21aにロータ軸方向にて移動可能に収容されていて、制動時に液圧によりインナパッド30をディスクロータ10の外周部内側面に向けてロータ軸方向に押圧するように構成されている。一方、アウタピストン60は、アウタシリンダ部22に設けたシリンダ穴22aにロータ軸方向にて移動可能に収容されていて、制動時に液圧によりアウタパッド40をディスクロータ10の外周部外側面に向けてロータ軸方向に押圧するように構成されている。なお、インナピストン50とアウタピストン60は、同一素材で同一の形状に形成されている。
【0022】
インナピストンシール70は、インナシリンダ部21に設けた環状のインナシール溝21bに組付けられていて、内周にてインナピストン50の中間部外周に係合しており、制動時にインナシール溝21b内にて弾性変形し、制動解除時にインナシール溝21b内にて弾性復帰するように構成されている。一方、アウタピストンシール80は、アウタシリンダ部22に設けた環状のアウタシール溝22bに組付けられていて、内周にてアウタピストン60の中間部外周に係合しており、制動時にアウタシール溝22b内にて弾性変形し、制動解除時にアウタシール溝22b内にて弾性復帰するように構成されている。なお、インナピストンシール70とアウタピストンシール80は、同一素材で同一の形状に形成されている。また、各ピストンシール70,80の各ピストン50,60との係合部(内周部)では、各パッド30,40のライニング摩耗に応じて、各ピストン50,60が各ピストンシール70,80に対してディスクロータ10側に摺動するように構成されている。
【0023】
ところで、この実施形態においては、図2(a)および図3(a)にて示したように、インナシール溝21bのディスクロータ側端壁(図示右側端壁)に、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときにインナピストンシール70における内周部のディスクロータ10側への弾性変形を許容する低圧逃げ部Ia(図4(a)参照)と、制動時の液圧が設定値以上の高圧のとき(最高圧が例えば、7〜10MPa程度のとき)にインナピストンシール70における内周部のディスクロータ10側への弾性変形を許容する高圧逃げ部Ib(図5(a)参照)が設けられている。
【0024】
また、図2(b)および図3(b)にて示したように、アウタシール溝22bのディスクロータ側端壁(図示左側端壁)に、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときにアウタピストンシール80における内周部のディスクロータ10側への弾性変形を許容する低圧逃げ部Oa(図4(b)参照)と、制動時の液圧が設定値以上の高圧のとき(最高圧が例えば、7〜10MPa程度のとき)にアウタピストンシール80における内周部のディスクロータ10側への弾性変形を許容する高圧逃げ部Ob(図5(b)参照)が設けられている。
【0025】
上記したインナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibは、インナシール溝21bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取り(一段面取り)することにより形成され、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obは、アウタシール溝22bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取り(二段面取り)することにより形成されていて、各面取りの高さHo(径方向の幅)は図2に示したように同一とされている。
【0026】
また、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibを形成している一段面取りの面取り角θoと、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaを形成している二段面取りの一段目の面取り角θoは、同一とされている。また、アウタシール溝22bの高圧逃げ部Obを形成している二段面取りの二段目の面取り角θ2は、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaを形成している二段面取りの一段目の面取り角θoより大きくされている。
【0027】
このため、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaとアウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaが同じ形状に形成され、インナシール溝21bの高圧逃げ部Ibとアウタシール溝22bの高圧逃げ部Obが異なる形状に形成されていて、インナシール溝21bの高圧逃げ部Ibがアウタシール溝22bの高圧逃げ部Obに比して所定量小容積とされている。なお、インナシール溝21bとアウタシール溝22bは、上記した各逃げ部の形状・構成以外の形状・構成が同一である。
【0028】
上記のように構成したこの実施形態においては、制動時にキャリパ20のインナシリンダ部21とアウタシリンダ部22に液圧が供給されると、インナピストン50がインナパッド30をディスクロータ10の外周部内側面に向けてロータ軸方向に押圧するとともに、アウタピストン60がアウタパッド40をディスクロータ10の外周部外側面に向けてロータ軸方向に押圧する。このため、ディスクロータ10がインナパッド30とアウタパッド40により挟持されて制動される。また、制動解除時には、キャリパ20のインナシリンダ部21とアウタシリンダ部22から液圧が排除されて、ディスクロータ10がインナパッド30とアウタパッド40による挟持を解かれて制動を解除される。
【0029】
ところで、この実施形態においては、インナシール溝21bの低圧逃げ部Ia(制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときに、例えば、図4(a)に示したように、インナピストンシール70における内周部のディスクロータ側への弾性変形(L1)を許容するもの)と、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oa(制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときに、例えば、図4(b)に示したように、アウタピストンシール80における内周部のディスクロータ側への弾性変形(L1)を許容するもの)が、同じ形状に形成されている。
【0030】
このため、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)に至るまでの低圧のときには、キャリパ20におけるアウタシリンダ部22とインナシリンダ部21の撓み量の差は、制動時のパッドの厚み方向の圧縮量に比して無視できるほど小さく、殆ど差がないことと相俟って、アウタピストンシール80における内周部のディスクロータ側への弾性変形(図4(b)のL1参照)がインナピストンシール70における内周部のディスクロータ側への弾性変形(図4(a)のL1参照)と略同じとなる。したがって、制動後の除圧時において、インナピストンシール70の弾性復帰によりインナピストン50が的確に戻されるとともに、アウタピストンシール80の弾性復帰によりアウタピストン60が的確に戻されて、アウタピストンシール80の弾性復帰(図4(b)の弾性変形状態から図3(b)の初期状態への復帰)によりアウタピストン60が必要以上に戻されることはない。これにより、アウタ側では、アウタパッド40の引き摺りを的確に低減することが可能であるとともに、その後の制動時において、アウタピストン60の制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が無用に大きくならず、ブレーキフィーリングの悪化が防止される。
【0031】
一方、制動時の液圧が設定値(例えば、1MPa程度)以上の高圧のとき(最高圧が例えば、7〜10MPa程度のとき)には、アウタ側にて、キャリパ20におけるアウタシリンダ部22の撓み量がインナシリンダ部21の撓み量に比して液圧の増大に応じて順次大きくなるとともに、アウタピストンシール80における内周部のディスクロータ側への弾性変形(図5(b)のL3参照)がインナピストンシール70における内周部のディスクロータ側への弾性変形(図5(a)のL2(L1<L2<L3)参照)に比して大きくなる。したがって、制動後の除圧時において、アウタピストンシール80の弾性復帰(図5(b)の弾性変形状態から図3(b)の初期状態への復帰)によりアウタピストン60が的確に戻される。これにより、アウタパッド40の引き摺りを的確に低減することが可能であるとともに、その後の制動時において、アウタピストン60の制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が無用に大きくならず、ブレーキフィーリングの悪化が防止される。
【0032】
なお、制動時の液圧が低圧から高圧の全領域において、制動後の除圧時においては、インナピストンシール70の弾性復帰(図4(a)または図5(a)の弾性変形状態から図3(a)の初期状態への復帰)によりインナピストン50は的確に戻される。これにより、インナ側では、インナパッド30の引き摺りを的確に低減することが可能であるとともに、その後の制動時において、インナピストン50の制動に至るまでのストローク(無効ストローク)が無用に大きくならず、ブレーキフィーリングの悪化が防止される。
【0033】
この結果、この実施形態においては、制動時の液圧が低圧から高圧の全領域において、キャリパ20の撓みに応じたアウタピストンシール80およびインナピストンシール70の弾性変形量を実現することが可能であり、ブレーキフィーリングの安定化を図ることが可能であるとともに、的確なピストン戻り量確保により各パッド30,40の引き摺りを低減することが可能である。
【0034】
また、この実施形態においては、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibと、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obが、各シール溝21b,22bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取りすることにより形成されているため、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibと、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obを、シンプルな形状にて安価に製作することが可能である。
【0035】
上記した実施形態においては、図2に示したように、インナシール溝21bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)に面取り(一段面取り)を施すことにより、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibを形成し、アウタシール溝22bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)に面取り(二段面取り)を施すことにより、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obを形成して実施したが、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibと、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obを、図6または図7に示したように形成して実施することも可能である。
【0036】
図6に示した第1変形実施形態では、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibが、インナシール溝21bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取り(二段面取り)することにより形成され、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obが、アウタシール溝22bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取り(二段面取り)することにより形成されていて、各面取りの一段目の高さHoおよび面取り角θoと二段目の高さH1はそれぞれ同一とされている。また、アウタシール溝22bの高圧逃げ部Obを形成している二段面取りの二段目の面取り角θ2は、インナシール溝21bの高圧逃げ部Ibを形成している二段面取りの二段目の面取り角θ1より大きくされている。
【0037】
一方、図7に示した第2変形実施形態では、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibが、インナシール溝21bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取り(二段面取り)することにより形成され、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obが、アウタシール溝22bの口元部(ディスクロータ側端壁の内周部)を面取り(二段面取り)することにより形成されていて、各面取りの一段目の面取り角θoと二段目の面取り角θ2はそれぞれ同一とされている。また、アウタシール溝22bの高圧逃げ部Obを形成している二段面取りの二段目の高さH3は、インナシール溝21bの高圧逃げ部Ibを形成している二段面取りの二段目の高さH2より大きくされている。
【0038】
上記した実施形態および各変形実施形態では、インナシール溝21bの低圧逃げ部Iaおよび高圧逃げ部Ibが、インナシール溝21bの口元部を面取りすることにより形成され、アウタシール溝22bの低圧逃げ部Oaおよび高圧逃げ部Obが、アウタシール溝22bの口元部を面取りすることにより形成されているが、上記した各逃げ部を面取り以外の構成(例えば、図2〜図7の断面が直線状の面取りに対して、断面を曲線状にしたアール面)にて形成して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…ディスクロータ、20…キャリパ、21…インナシリンダ部、21a…シリンダ穴、21b…インナシール溝、Ia…インナシール溝の低圧逃げ部、Ib…インナシール溝の高圧逃げ部、21c…取付足部、22…アウタシリンダ部、22a…シリンダ穴、22b…アウタシール溝、Oa…アウタシール溝の低圧逃げ部、Ob…アウタシール溝の高圧逃げ部、30…インナパッド、40…アウタパッド、50…インナピストン、60…アウタピストン、70…インナピストンシール、80…アウタピストンシール、90…支持ピン、100…対向型ディスクブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に固定されるディスクロータと、
このディスクロータの内側に配置されて車両の非回転部に固定されるインナシリンダ部と、前記ディスクロータの外側に配置され前記ディスクロータの外周を跨ぐようにして前記インナシリンダ部に連結されて前記インナシリンダ部に対して対向するアウタシリンダ部とを有するキャリパと、
前記ディスクロータと前記インナシリンダ部間に介装されるインナパッドと、
前記ディスクロータと前記アウタシリンダ部間に介装されるアウタパッドと、
前記インナシリンダ部に設けたシリンダ穴にロータ軸方向にて移動可能に収容されて、制動時に液圧により前記インナパッドを前記ディスクロータの外周部内側面に向けてロータ軸方向に押圧するインナピストンと、
前記アウタシリンダ部に設けたシリンダ穴にロータ軸方向にて移動可能に収容されて前記インナピストンに対して対向し、制動時に液圧により前記アウタパッドを前記ディスクロータの外周部外側面に向けてロータ軸方向に押圧するアウタピストンと、
前記インナシリンダ部に設けた環状のインナシール溝に組付けられて内周にて前記インナピストンの中間部外周に係合するインナピストンシールと、
前記アウタシリンダ部に設けた環状のアウタシール溝に組付けられて内周にて前記アウタピストンの中間部外周に係合するアウタピストンシールと
を備えている対向型ディスクブレーキであって、
前記インナシール溝のディスクロータ側端壁に、制動時の液圧が設定値に至るまでの低圧のときに前記インナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する低圧逃げ部と、制動時の液圧が設定値以上の高圧のときに前記インナピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する高圧逃げ部が設けられるとともに、
前記アウタシール溝のディスクロータ側端壁に、制動時の液圧が設定値に至るまでの低圧のときに前記アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する低圧逃げ部と、制動時の液圧が設定値以上の高圧のときに前記アウタピストンシールにおける内周部のディスクロータ側への弾性変形を許容する高圧逃げ部が設けられていて、
前記インナシール溝の低圧逃げ部と前記アウタシール溝の低圧逃げ部が同じ形状に形成され、前記インナシール溝の高圧逃げ部と前記アウタシール溝の高圧逃げ部が異なる形状に形成されていて、前記インナシール溝の高圧逃げ部が前記アウタシール溝の高圧逃げ部に比して所定量小容積とされている対向型ディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載の対向型ディスクブレーキにおいて、前記インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部と、前記アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部は、各シール溝の口元部を面取りすることにより形成されている対向型ディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項2に記載の対向型ディスクブレーキにおいて、前記インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りは一段面取りであり、前記アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りは二段面取りである対向型ディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項2に記載の対向型ディスクブレーキにおいて、前記インナシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りと、前記アウタシール溝の低圧逃げ部および高圧逃げ部を形成する面取りは、共に二段面取りである対向型ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−149699(P2012−149699A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8774(P2011−8774)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】