説明

対照核酸用一般マトリックス

【課題】異なる対照がとられた増幅方法を提供する。
【解決手段】a.液体試料に内部対照核酸を添加する。b.固相支持体材料と前記液体試料を、槽中で、標的核酸および内部対照核酸を含む核酸が固相支持体材料に固定化させる。c.分離ステーション中で、液体試料中に存在する他の物質から固相支持体材料を分離する。d.前記分離ステーション中で核酸を精製し、固相支持体材料を洗浄バッファで1回以上洗浄する。e.精製された標的核酸および内部対照核酸を第一の槽内で、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を第二の槽内で、増幅試薬と接触させる。f.反応槽内で、精製された標的核酸、内部対照核酸および水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を、前記1つ以上の増幅試薬と、標的核酸および対照核酸の存在または非存在を示す増幅反応が生じるのに充分な時間および条件下でインキュベートする工程が自動化される方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はインビトロ診断の分野に属する。この分野において、本発明は、特に、定性および/または定量の目的のための内部対照核酸ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を用いた、少なくとも1つの液体試料中に存在し得る少なくとも第1の標的核酸の単離、増幅および検出に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
分子診断の分野において、数多くの供給源からの核酸の増幅は、かなり重要である。核酸の増幅および検出の診断適用の例は、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、西ナイルウイルス(WNV)などのウイルスの検出、あるいはヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)および/またはC型肝炎ウイルス(HCV)の存在に関する献血のルーチンのスクリーニングである。さらに、前記増幅技術は、ミコバクテリアなどの細菌標的または腫瘍学マーカーの分析に適している。
【0003】
最も卓越し、かつ広く使用されている増幅技術はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。他の増幅反応は、とりわけ、リガーゼ連鎖反応、ポリメラーゼリガーゼ連鎖反応、Gap-LCR、修復連鎖反応、3SR、NASBA、鎖置換増幅(SDA)、転写媒介性増幅(TMA)、およびQβ-増幅を含む。
【0004】
PCR系分析のための自動化システムは、しばしば、同じ反応槽内でのPCRプロセス中の産物の増幅のリアルタイム検出を利用する。かかる方法の鍵は、レポーター基または標識を有する修飾オリゴヌクレオチドの使用である。
【0005】
同じ槽内で1種類より多くの標的核酸の増幅および検出が可能であることが示されている。この方法は、一般的に「マルチプレックス(multiplex)」増幅と称され、リアルタイム検出が行なわれる場合は、識別のための異なる標識を必要とする。
【0006】
ほとんどの場合、臨床的核酸診断の分野では、定性(性能対照)および/または定量(参照としての対照を用いた標的核酸量の測定)の目的のために、既知配列を有する対照核酸を用いてそれぞれの増幅を制御することが望ましいか、または必要でさえある。特に原核生物、真核生物ならびにウイルスの核酸を含む診断標的の多様性を考慮し、RNAとDNAなどの異なる型の核酸間の多様性を考慮すると、対照核酸は、通常、特定の様式で設計される。
【0007】
インビトロ-診断環境では、核酸の増幅および検出に基づいたアッセイは、典型的に外部から対照がとられ(controlled externally)、すなわち、それぞれの対照核酸は、標的核酸とは別の槽(vessel)で処理される。これは、定性的または定量的外部対照核酸としての機能を果たし得る。定性的構成では、対照は、増幅および検出反応の妥当性を評価するための陽性対照としての機能を果たす。定量的状況では、対照は、代替的または追加的に、標的核酸の量または濃度を測定するための参照としての機能を果たす。
【0008】
例えばヒト血液などの生物学的流体に由来する液体試料は、しばしば、有意な複雑さを示す。したがって、1種類以上の標的核酸をおそらく含む生物学的試料の流体マトリックスを模倣するため、インビトロ診断に使用される外部対照核酸は、通常、前記生物学的試料と本質的に同じ流体マトリックス中に提供されなければならない。例えば、ヒト血漿の核酸診断分析のためには、外部対照核酸は、特に、規制要件(非特許文献1)に従うために、一般的に、正常ヒト血漿(NHP、数名の健常ドナー由来のプールされた血漿)中に提供される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Guidance for Industry and FDA Staff - Assayed and Unassayed Quality Control Material、2007; Section IV、B、1. Matrix Effects
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、種々の利点を示す、異なるアプローチを使用する対照がとられた増幅方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕少なくとも1つの液体試料中に存在し得る少なくとも1つの標的核酸を単離、増幅および検出するための方法であって、該方法は、
a.液体試料に内部対照核酸を添加する工程
b. 固相支持体材料と前記液体試料を、槽中で、標的核酸および内部対照核酸を含む核酸が固相支持体材料に固定化されるのに充分な時間および条件下で一緒に合わせる工程
c. 分離ステーション中で、液体試料中に存在する他の物質から固相支持体材料を分離する工程
d. 前記分離ステーション中で核酸を精製し、固相支持体材料を洗浄バッファで1回以上洗浄する工程
e. 精製された標的核酸および精製された内部対照核酸を少なくとも第一の槽内で、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を少なくとも第二の槽内で、1つ以上の増幅試薬と接触させる工程、ならびに
f. 前記反応槽内で、前記精製された標的核酸、前記精製された内部対照核酸および前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を、前記1つ以上の増幅試薬と、前記標的核酸および前記対照核酸の存在または非存在を示す増幅反応が生じるのに充分な時間および条件下でインキュベートする工程
の自動化された工程を含み、工程e.〜f.における増幅の条件が、前記精製された標的核酸、前記内部対照核酸および前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸について同じである、方法、
〔2〕該水性バッファが、6〜12のpHを有し、
・Tris: 1〜100mM
・EDTA: 0.01〜1mM
・アジ化ナトリウム: 0.005〜0.5%(w/v)、および
・ポリ(rA)RNA: 1〜200mg/l
を含む、〔1〕記載の方法、
〔3〕該水性バッファが約8のpHを有し、
・Tris: 10mM
・EDTA: 0.1mM
・アジ化ナトリウム: 0.05%(w/v)、および
・ポリ(rA)RNA: 20mg/l
を含む、〔2〕記載の方法、
〔4〕工程a.の後の全ての工程に、陰性対照が供される、〔1〕記載の方法、
〔5〕工程a.の後の工程に、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が供される、〔1〕〜〔4〕いずれか記載の方法、
〔6〕少なくとも1つの液体試料が臨床試料である、〔1〕〜〔5〕いずれか記載の方法、
〔7〕以下:
g. 前記標的核酸の量を測定する工程
をさらに含む、〔1〕〜〔6〕いずれか記載の方法、
〔8〕少なくとも1つの液体試料中に存在し得る標的核酸を増幅するための分析システム(440)であって、該システムは、
・反応槽を含む増幅ステーション、前記反応槽は、増幅試薬、精製された標的核酸および精製された内部対照核酸、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を含む、
を含み、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が、前記精製された標的核酸とは異なる槽に含まれる、分析システム、
〔9〕・固相支持体材料を含む分離ステーション、該分離ステーションは、前記少なくとも1つの液体試料中に含まれる核酸を分離および精製するように構築および配列されている、
をさらに含む、〔8〕記載の分析システム、
〔10〕前記増幅ステーションに含まれる前記反応槽が、一体型配列で配列される、〔8〕または〔9〕記載の分析システム、
〔11〕前記一体型配列がマルチウェルプレートであり、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が前記精製された標的核酸とは異なるウェルに含まれる、〔10〕記載の分析システム、
〔12〕前記増幅ステーションが、前記精製された標的核酸および前記水性バッファ中の外部対照核酸とは異なる槽中に、陰性対照をさらに含む、〔8〕〜〔11〕いずれか記載の分析システム、
〔13〕前記陰性対照が、前記外部対照核酸の液体マトリックスとして機能するものと同じバッファである、〔12〕記載の分析システム、
〔14〕・分析物により引き起こされるシグナルを検出するための検出モジュール
・シーラー
・試薬および/または使い捨て品のための貯蔵モジュール、ならびに
・システム構成部分を制御するための制御ユニット
からなる群より選択される1つ以上の要素をさらに含む、〔8〕〜〔13〕いずれか記載の分析システム、
〔15〕1つより多くの外部対照核酸を使用する、〔1〕〜〔7〕いずれか記載の方法、
〔16〕1つより多くの外部対照核酸を含む、〔8〕〜〔14〕いずれか記載の分析システム
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、対照核酸用一般マトリックスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の態様に使用される試料調製作業流れの模式図である。下向きの矢印は、上記のディープウェルプレートのそれぞれのウェルへの成分または試薬の添加を示し、上向きの矢印は、それぞれ、それらの除去を示す。これらの動作は、工程2、3、4、21および22では手動で、工程10、14、16、18および24では装置のプロセスヘッド(process head)で、ならびに工程5、6、7、11、15および19では装置の試薬ヘッド(reagent head)で行なった。使用した体積は、本発明の精神の範囲内で、好ましくは少なくとも開示の値の約30%まで柔軟に調整され得ることを理解されたい。特に、当業者に公知のように、工程2の場合、適切な結果を得るために、より多くのまたはより少ない開始材料を必要とし得る種々の型の液体試料を考慮に入れるために、試料の体積は好ましくは可変的である。好ましくは、該範囲は、約100μl〜約850μlである。より好ましくは、該範囲は、約100μl、約500μlまたは約850μlである。好ましくは、それぞれの槽の体積は、工程3の希釈物と同じ総体積に調整される。好ましくは、図1の模式図に示すように、総体積は約850μlまで添加される。
【図2a】図2aは、NHP中のHIVのPCR増殖曲線である。
【図2b】図2bは、水性バッファ中のHIVのPCR増殖曲線である。
【図2c】図2cは、NHP中のHCVのPCR増殖曲線である。
【図2d】図2dは、水性バッファ中のHCVのPCR増殖曲線である。
【図2e】図2eは、NHP中のHBVのPCR増殖曲線である。
【図2f】図2fは、水性バッファ中のHBVのPCR増殖曲線である。
【図3】図3は、処理プレートの斜視図である。
【図4】図4は、反対の角度からの処理プレートの斜視図である。
【図5】図5は、処理プレートの上面図である。
【図6】図6は、処理プレートの長辺に沿った断面図である。
【図7】図7は、断面図の部分図である。
【図8】図8は、処理プレートの長辺の斜視図である。
【図9】図9 a)〜d)は、磁性分離ステーションの第二の態様の種々の図を示す。
【図10】図10 a)〜c)は、処理プレートを保持する磁性分離ステーションの第一の態様の図を示し、最上位のZ位置に第一の型の磁石があり、最下位のZ位置に第二の型の磁石がある。
【図11】図11は、種々のステーション、モジュールまたはセルを含む分析器の模式図である。
【図12】図12は、本発明の分析システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の説明
第1の局面において、本発明は、少なくとも1つの液体試料中に存在し得る標的核酸を単離し、増幅するための方法であって、該方法は、
a. 内部対照核酸を前記液体試料に添加すること
b. 固相支持体材料と前記液体試料を、標的核酸および内部対照核酸を含む核酸が固相支持体材料上に固定化されることを可能にするのに充分な期間かつ充分な条件下で、槽内で一緒に合わせること
c. 分離ステーションにおいて、該液体試料中に存在するその他の物質から該固相支持体材料を単離すること
d. 前記分離ステーション内の核酸を精製し、固相支持体材料を洗浄バッファで1回以上、洗浄すること
e. 精製された標的核酸および精製された内部対照核酸を少なくとも第1の槽内で、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を少なくとも第2の槽内で、1種類以上の増幅試薬と接触させること
f. 前記反応槽内で、前記精製された標的核酸、前記精製された内部対照核酸および前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を、前記1種類以上の増幅試薬とともに、前記標的核酸および前記対照核酸の有無を示す増幅反応が起こるのに充分な期間かつ充分な条件下でインキュベートすること
の自動化された工程を含み、
工程e.〜f.での増幅のための条件は、前記精製された標的核酸、前記内部対照核酸および前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸について同一である、方法に関する。
【0015】
上記の方法は、外部対照のための流体マトリックスとして、例えば正常ヒト血漿などの天然または複雑な媒体を含まずに、ほとんどの場合で製造、取り扱いおよび保存が有意に容易かつ安価な水性バッファを含むため、特に有利である。さらに、正常ヒト血漿は数名の個体の血液に由来しているため、その内容物は、かなりのばらつきを示す。これは、例えば、増幅インヒビター、または例えばDNase活性などのヌクレアーゼ活性の存在の可能性を含む。
【0016】
前者の場合、前記インヒビターの存在は、外部対照核酸のための流体マトリックスとしての機能を果たすための正常ヒト血漿の好適性を危うくし得る。かかる外部対照核酸の増幅および検出の結果は、前記正常ヒト血漿のロット間で、さらには試料間でさえかなり異なる可能性がある。例えば、有意なDNase活性を示す正常ヒト血漿のロットの場合、その中では核酸は安定でないため、ロット全体を廃棄しなければならない場合があり得る。
【0017】
本発明において使用される場合、外部対照核酸のための流体マトリックスとしての機能を果たす水性バッファは、これらの欠点を克服する。かかるバッファは合成的に作製されるため、増幅インヒビターまたはヌクレアーゼの非存在は比較的容易に制御され得る。かかる望ましくない分子は、夾雑事象の結果、前記バッファ中にただ入ってしまうことがあり得るが、当業者には、夾雑を回避するための適当な措置が充分認識されよう。したがって、好ましい態様において、外部対照核酸は、処理される前に、前記水性バッファ中に保存してもよいが、これは正常ヒト血漿などの複雑な媒体中では問題となり得る。これらおよび他の理由により、本発明は、液体試料が血液または血漿、特にヒト血液または血漿である場合、特に有利となる。
【0018】
以下の型の対照核酸が本発明による方法に含まれる:
・ 内部対照核酸
・ 全プロセス対照(すなわち、核酸精製、増幅、および好ましくは検出)として作用する
・ 特定の試料の組成に関連する標的反応に対して障害を生じさせる効果のモニターとして作用する:
・ 水性バッファ中の外部対照核酸
・ アッセイ特異的試薬の完全性をモニタリングする
・ 標的特異的シグナルを検出するシステムの能力をモニタリングする
・ 全プロセス対照として作用する必要はなく、したがって、試料マトリックス内で製造される必要はない。
【0019】
「水性バッファ」は、水に溶解された任意の化学的緩衝物質を意味する。本発明との関連において特に有用な水性バッファは、例えば、Tris、トリシン、HEPES、MOPS、例えばクエン酸ナトリウムなどのクエン酸バッファ、または当業者に公知の他のバッファである。好ましい態様において、水性バッファはTrisである。別の好ましい態様において、水性バッファはトリシンである。好ましくは、前記水性バッファは、例えば、EDTAもしくはEGTAなど、またはその他のキレート剤を含む。錯体結合により、これらの薬剤は、核酸を損傷し得る種々の酵素、特に、ほとんどの場合Mg2+に依存するヌクレアーゼに対する補因子としての機能を果たすカチオンに配位結合する。好ましくは、上記の水性バッファはEDTAを含む。さらに、水性バッファは、好ましくは、保存剤を含む。これらの薬剤は当業者に公知である。好ましい態様において、上記の水性バッファはアジ化ナトリウムを含む。前記水性バッファは、さらに、外部対照核酸を安定化させる薬剤、好ましくは、例えば、ポリ(rA)RNAまたはグリコーゲンなどの巨大分子を含むことが好ましく、この場合、ポリ(rA)RNAが特に好ましい。さらに好ましくは、上記の水性バッファは、中性またはアルカリ性pH、好ましくは6、6.5、7または7.5の値から8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5または12の値を有する。最も好ましくは、水性バッファは約8のpHを有する。
【0020】
本発明の好ましい態様において、上記の水性バッファは以下の構成要素を含む:
・ Tris: 好ましくは、1、2、3、4、5、6、7、8、または9mMの値から、12.5、15、17.5、20、30、40、50、60、70、80、90、または100mMの値までの濃度で。最も好ましくは、濃度は約10mMである。
・ EDTA: 好ましくは、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、または0.09mMの値から、0.125、0.15、0.175、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または1mMの値までの濃度で。最も好ましくは、濃度は約0.1mMである。
・ アジ化ナトリウム: 好ましくは、0.005、0.01、0.02、0.03、または0.04%(w/v)の値から、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、または0.5%(w/v)の値までの濃度で。最も好ましくは、濃度は約0.05%(w/v)である。
・ ポリ(rA)RNA: 好ましくは、1、2.5、5、7.5、10、12.5、15、または17.5mg/lの値から、22.5、25、27.5、30、40、50、75、100、150、175、または200mg/lの値までの濃度で。最も好ましくは、濃度は約20mg/lである。
【0021】
別の無視できない利点は、液体試料の型からの前記水性バッファの選択の独立性であり、これは、前記水性バッファ中の外部対照核酸に加えて、前記試料(1つまたは複数)中の内部対照の存在のため可能である。内部対照が試料(1つまたは複数)中に存在するという事実により、外部対照のための流体マトリックスを選択するための必要性がなくなり、前記流体マトリックスは試料(1つまたは複数)の流体マトリックスを可能な限り近く模倣する。内部対照核酸はそれ自体、分析手順をおそらく妨げる、例えば、例えばPCRインヒビターなどの試料中の阻害物質の有無の可能性を制御し得る。したがって、外部対照核酸は、分析される液体試料によく似た流体マトリックス内にある必要はなく、前記流体マトリックスは、化学的水性バッファなどの任意の水性バッファであり得る。
【0022】
この状況は、例えば、異なる体液、例えば、血漿、痰または鼻スワブ中の臨床的試料などの異なる供給源由来の一群の核酸を調製および分析する場合、特に有利である。かかる場合において、外部対照核酸は、流体マトリックス血漿、痰および鼻スワブの全ての中に提供されるのではなく、同じ水性バッファ中に提供され得る。これらの異なる試料がマルチウェルプレートなどの一体化された槽の配列(arrangement)において調製され、分析される場合、例えば、標的核酸がすべての試料中で同じである場合、または前記外部対照核酸が一般的、すなわち、種々の核酸に適当である場合、水性バッファ中に1種類の外部対照核酸を含むウェル1つでも充分であり得る。
【0023】
上記の内部および外部対照核酸に加え、方法において陰性対照を含むことも有利であり得る。「陰性対照」は外部対照でもあるが、核酸は含まれない。この対照は、前記対照における陽性結果が1種類以上のアッセイ成分の夾雑を示すため、「夾雑対照」とも称される。かかる場合では、それぞれの試験実行は有効とみなされない。したがって、陰性対照は、システムに対する夾雑事象の尺度としての機能を果たし、したがって、試料マトリックス内で製造される必要はない。
【0024】
好ましい態様において、陰性対照は、工程aの後、本発明による方法のすべての工程に供される。かかる態様において、陰性対照は、夾雑に対する全プロセス対照としての機能を果たし、すなわち、試料調製手順中に導入される潜在的夾雑をモニタリングすることにも適している。
【0025】
陰性対照は、好ましくは、本質的に水性バッファなどの流体マトリックスのみからなる。本発明の好ましい態様では、陰性対照は外部対照核酸に使用された水性バッファと同じ水性バッファである。また、本発明による方法には内部対照核酸が含まれているため、試料マトリックスと類似または同一のマトリックスを使用する必要はない。したがって、さらなる好ましい態様では、陰性対照は水、好ましくは蒸留水または脱イオン水である。
【0026】
前述の内部対照核酸は、競合的、非競合的または一部競合的であり得る。
【0027】
競合的内部対照核酸は、標的と本質的に同じプライマー結合部位を有し、したがって、同じプライマーに関して標的と競合する。この原理により、これらの類似した構造のため、それぞれの標的核酸の良好な模倣が可能になるが、標的核酸(1種類または複数種)に関して増幅効率が低下し得、したがって、アッセイの感度の低下がもたらされ得る。
【0028】
非競合的内部対照核酸は、標的と異なるプライマー結合部位を有し、したがって、異なるプライマーに結合する。かかる構成の利点は、とりわけ、反応混合物中の異なる核酸の単一の増幅事象が、全く競合効果なく、互いに独立して起こり得るという事実を含む。したがって、競合的構成の場合と同様に、アッセイの検出限界に関する有害効果は生じない。
【0029】
最後に、一部競合構成を使用した増幅において、それぞれの対照核酸および少なくとも1つの標的核酸は、同じプライマーに対して競合するが、少なくとも1つの他の標的核酸は異なるプライマーに結合する。
【0030】
非競合的構成では、内部対照核酸は、任意の標的配列のプライマーおよび/またはプローブと競合しないようにするために、任意の標的配列とは異なる配列を有する。好ましくは、内部対照核酸の配列は、液体試料中の他の核酸配列とは異なる。一例として、液体試料がヒト由来である場合、内部対照核酸は、好ましくは、ヒトの体内で内在的にも生じる配列を有さない。従って、配列の違いは、プライマーおよび/またはプローブがそれぞれの内在性核酸(1つ以上)にストリンジェントな条件下で結合せず、そのため該構成が競合的にならない程十分に少なくとも有意であるべきである。かかる障害を回避するために、本発明に使用される内部対照核酸の配列は、好ましくは、液体試料の起源とは異なる供給源由来である。好ましくは、該配列は天然に存在するゲノム由来であり、好ましくは、植物ゲノム由来であり、さらに好ましくは、ブドウゲノム由来である。非常に好ましい態様では、天然に存在するゲノム由来の核酸は、ごたまぜにされる(scrambled)。当該技術分野で公知のように、「ごたまぜにする(scrambling)」は、配列にある程度の塩基変異を導入することを意味する。好ましくは、本発明に使用される内部対照核酸の配列は、それが由来する天然に存在する遺伝子に対して実質的に改変される。
【0031】
本発明の別の好ましい局面は、少なくとも第1および第2の標的核酸が同じ反応槽内で増幅され、したがって、異なる反応槽におけるシグナルが互いに独立して検出され得るため、多数の異なる標的核酸の同時増幅が可能になる、上記の方法に関する。このマルチプレックス反応は多数の反応槽内で起こり得、それにより、外部対照核酸および好ましくは同じ陰性対照について、同じ水性バッファを用いて同時に増幅され得る標的の数が増加する。
【0032】
他の場合において、例えば問題になっている試料および/または標的核酸(1つ以上)に依存して、第1反応槽中で第2標的核酸ではなく第1標的核酸を増幅することが好ましい場合があり得る。
【0033】
そのため、本発明のさらに好ましい態様は、第1の反応槽中に第2の標的核酸が存在しない上述の方法である。
【0034】
特に、液体試料が異なる生物由来の標的核酸を含むと疑われる場合、もしくは異なる生物自体さえを含むと疑われる場合、またはどのような異なる核酸もしくは生物が前記試料中に存在し得るかが明らかでない場合、本発明の有利な、したがって好ましい態様は、少なくとも第1の標的核酸および第2の標的核酸が前記試料中に存在し得、前記標的核酸が好ましくは異なる生物由来である上述の方法である。
【0035】
上述のように、上述の方法は、1つ以上の標的核酸の増幅を定性的または定量的に調節するために有用である。
【0036】
生物学的試料中の核酸の定性的な検出は、例えば個体の感染を認識するために非常に重要である。それにより、例えば微生物感染の検出のためのアッセイについての1つの重要な要件は、偽陰性または偽陽性の結果がそれぞれの患者の治療に関して重大な結果をほとんど不可避的にもたらすので、偽陰性または偽陽性の結果を回避することである。従って、特にPCRベース法において、ほとんどの場合、アッセイに定性的な外部または内部対照核酸が添加される。前記対照は、試験結果の妥当性を確認するために特に重要である:少なくともそれぞれの標的核酸に関して陰性結果の場合、対照反応は、所定の設定において反応的に行なわれる必要があり、すなわち対照核酸が検出されなければならず、さもなくば試験自体が無効であると見なされる。しかしながら、定性的な設定において、前記対照は、陽性結果の場合には必ずしも検出される必要はない。定性的試験について、反応の感度が保証され、そのために厳密に調節されることが特に重要である。結果的に、定性的対照核酸の濃度は、例えばわずかに阻害の状況にあっても定性的対照核酸が検出されず、そのために試験が無効になるように、比較的に低くなければならない。
【0037】
内部対照核酸の使用は、反応の実行がインサイチュで制御されるという利点を有する、すなわち、例えば、試料とともに導入されたかもしれない薬剤を阻害する可能性がある。
【0038】
従って、本発明の好ましい局面は、前記標的核酸について増幅産物が非存在の場合であっても、前記内部対照核酸の増幅産物の存在が、精製された標的核酸および精製された内部対照核酸を含む槽内で増幅が起こったことを示す上述の方法である。
【0039】
他方、水性バッファ中の外部対照核酸が定性的対照として使用される場合、これは、増幅される標的の主な能力を試料と独立してモニタリングし、したがって、インキュベーションが行なわれる物理的条件を制御する手段を提供する。例えば、PCRでは、外部対照核酸は、不適切なプロフィールの場合、すなわち、不適切なインキュベーション温度および/またはインキュベーション時間では増幅されない。また、前記外部対照核酸の増幅がないことは、特異的増幅試薬(特異的プライマーなど)または非特異的増幅試薬(例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸もしくはそれぞれのDNAポリメラーゼなど)が欠如することを示し得る。
【0040】
したがって、本発明の別の好ましい局面は、前記外部対照核酸の増幅産物の存在が、前記標的核酸の増幅産物の非存在下であっても精製された外部核酸を含む槽内で増幅が起こっていることを示す、上記の方法である。
【0041】
一方で、試料中の核酸の存在または非存在の単なる検出に加えて、しばしば、前記核酸の量を測定することが重要である。例として、ウイルス疾患の病期および重症度は、ウイルス負荷に基づいて評価され得る。さらに、治療の成功を評価するためには、任意の治療のモニタリングに、個体中に存在する病原体の量の情報が必要である。定量的アッセイには、標的核酸の絶対量を測定するための参照として機能する定量標準核酸を導入することが必要である。定量化は、外部較正を参照すること、または内部定量標準を実行することのいずれかにより実施され得る。
【0042】
したがって、本発明の好ましい局面は、さらに、以下の:
g. 前記標的核酸の量を測定する工程
を含む、上記の方法である。
【0043】
外部較正の場合、量が分かっている同一の核酸または同等の核酸、例えば、上記の水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を使用して、別々の反応で標準曲線を作成する。その後、標的核酸の絶対量は、分析された試料で得られた結果と前記標準関数との比較により決定される。しかしながら、外部較正は、可能な抽出手順、その変動する効率、ならびに可能性がありかつしばしば予測できない増幅反応および/または検出反応を阻害する薬剤の存在が、対照に反映されないという欠点を有する。
【0044】
この状況は、任意の試料関連効果に適用される。そのため、不成功の抽出手順または他の試料に基づく要因のために試料が陰性と判断されるが、検出および定量対象の標的核酸は実際には試料中に存在する場合があり得る。
【0045】
これらおよび他の理由のために、試験反応自体に添加される内部対照核酸が有利である。定量標準として機能する場合、前記内部対照核酸は、定量試験において、少なくとも以下の2つの機能を有する:
i)反応の有効性をモニタリングする。
ii)力価計算において参照として機能し、そのために阻害の影響を補償し、調製および増幅手順を調節して、より正確な定量を可能にする。
そのため、標的-陰性試験においてのみ陽性でなければならない定性的試験における定性的内部対照核酸とは対照的に、定量的試験における定量対照核酸は、2つの機能:反応対照および反応較正を有する。そのため、該対照核酸は、標的-陰性反応および標的-陽性反応の両方において陽性かつ有効でなければならない。該対照核酸はさらに、高い核酸濃度の計算について信頼性の高い参照値を提供することに適している必要がある。したがって、内部定量対照核酸の濃度は比較的高くある必要がある。
【0046】
要約すると、本発明において実現されるような、内部対照核酸と水性バッファ中の外部対照核酸の組合せは非常に有利である。該組合せは、外部対照核酸単独または内部対照核酸単独に関する上記の利点を併せ持つだけでなく、いくつかの相乗効果ももたらす:
・ 実験が失敗した場合のトラブル処理が容易なこと:例えば、内部対照核酸だけ、または外部対照核酸だけしか使用されない場合、増幅の失敗は、実施が有効でないという結論に至るにすぎず、なぜこうなったかの結論には至らない。対照的に、両方の型の対照が使用され、例えば、外部対照核酸のみが増幅される場合、これは、増幅試薬が外部対照核酸に対して作用するため、試料中にインヒビターが存在している可能性がある。この相乗効果は、陰性対照を含めた好ましい態様では、さらに増強され、それ以降、存在し得る所望でない、したがって夾雑性の核酸が前記陰性対照の陽性結果によって示され得る。
・ 外部対照核酸に対して水性バッファの使用が可能なこと:上記でさらに記載のように、分析する液体試料に内部対照核酸を含めることにより、外部対照核酸に対する液体試料のマトリックスと類似または同一の流体マトリックスを使用する必要が排除される。液体試料マトリックスは、内部対照核酸が全プロセス対照として機能を果たし、液体試料中に存在し得るインヒビターをモニタリングすることができるため、模倣される必要はない。
・ 上記のような複雑な流体マトリックス中に外部対照核酸を提供することを求める臨床的分子診断における規制要件が、本発明の方法のように外部対照核酸を水性バッファ中で使用する場合であっても満たされ得る(Guidance for Industry and FDA Staff - Assayed and Unassayed Quality Control Material、2007; Section IV、B、1. Matrix Effects)。
【0047】
水性バッファ中の外部対照核酸を試料調製手順、すなわち、核酸の単離に供することはさらに有利であり得る。これらの態様において、前記外部対照における陰性増幅結果は、試料調製手順における欠陥を示し得る、例えば、核酸のロスを示し得る。
【0048】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が、工程aの後の工程に供される、上記の方法である。
【0049】
さらに、前記さらなる工程に供される外部対照核酸と、工程dの後、すなわち試料調製後の工程のみに供される別の外部対照核酸の両方を含めることが可能である。この態様では、上記の両方の利点が組み合わされ得る。
【0050】
したがって、本発明の好ましい局面は、水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が工程aの後の工程に供され、水性バッファ中の少なくとも1つの他の外部対照核酸が工程dの後の工程のみに供される上記の方法である。
【0051】
さらに、前記内部対照核酸も、工程aで、または工程dの後に前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸に添加される態様は有利である。数ある利点の中でも、これにより、内部対照核酸は、例えば、1つ以上の液体試料と水性バッファ中の1つ以上の外部対照核酸を含むマルチウェル(multiwall)プレートのすべてのウェルに単純に添加され得るため、特に自動化された構成において作業の流れが容易になる。
【0052】
したがって、本発明の好ましい局面は、さらに、
工程aにおいて、前記内部対照核酸を水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸に添加する工程
を含む上記の方法である。
【0053】
本発明の意味において、核酸の「精製」、「単離」または「抽出」は、以下のこと: 核酸が、例えば増幅による診断アッセイにおいて分析され得る前に、典型的に、異なる成分の複雑な混合物を含む生物学的試料から精製、単離または抽出されなければならないことに関する。しばしば、第1の工程では、核酸の富化(enrichment)を可能にする方法が使用される。細胞またはウイルス粒子の内容物を放出させるため、これらを酵素または化学薬品で処理して細胞壁またはウイルス粒子を溶解、分解または変性させ得る。このプロセスは、一般的に溶解と称される。かかる溶解された物質を含有する得られる溶液は溶解物と称される。溶解中にしばしば見られる問題は、目的の成分を分解する他の酵素、例えば、核酸を分解するデオキシリボヌクレアーゼまたはリボヌクレアーゼが、溶解手順中に目的の成分と接触することである。これらの分解酵素は、細胞外にも存在し得るか、または溶解前に異なる細胞区画内で空間的に分離され得る。溶解が起こるにつれて、目的の成分が前記分解酵素に曝露されるようになる。このプロセス中に放出された他の成分は、例えば、リポ多糖ファミリーに属し、細胞に毒性であり、ヒトまたは動物の治療における使用が意図される生成物に問題を引き起こし得るエンドトキシンであり得る。
【0054】
上記の問題に取り組むための手段はさまざまである。核酸を遊離させることが意図される場合、チオシアン酸グアニジニウムまたはアニオン系、カチオン系、両性イオン系もしくは非イオン系界面活性剤などのカオトロピック剤を使用することが一般的である。また、前述の酵素または不要なタンパク質を急速に分解させるプロテアーゼを使用することも有利である。しかしながら、これは、前記物質または酵素が次の工程で試薬または成分を妨げ得るという別の問題をもたらし得る。
【0055】
かかる溶解または上記の試料調製プロセスで有利に使用され得る酵素は、タンパク質基質のアミド結合を切断し、プロテアーゼまたは(互換的に)ペプチダーゼに分類される酵素である(Walsh、1979、Enzymatic Reaction Mechanisms. W. H. Freeman and Company、San Francisco、第3章参照)。先行技術で使用されているプロテアーゼは、アルカリプロテアーゼ(WO 98/04730)または酸性プロテアーゼ(US 5,386,024)を含む。先行技術における核酸の単離における試料調製に広く使用されているプロテアーゼは、中性pH付近で活性であり、ズブチリシンとして当業者に公知のプロテアーゼファミリーに属する、トリチラチウムアルバム由来のプロテイナーゼKである(例えば、Sambrook J. et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989参照)。特に、高アルカリ性および高温の両方でその活性を維持している、強力なプロテアーゼである酵素エスペラーゼは、上記の溶解または試料調製プロセスにおける使用に有利である(EP 1 201 753)。
【0056】
溶解工程後の試料調製工程では、目的の成分がさらに富化される。目的の非タンパク質成分が例えば核酸である場合、該成分は、通常、プローブ系アッセイに使用される前に、複雑な溶解混合物から抽出される。
【0057】
核酸の精製のためには、いくつかの方法がある:
- 配列依存性または生体特異的方法、例えば:
・ 親和性クロマトグラフィー
・ 固定化したプローブへのハイブリダーゼーション
- 配列非依存性または物理化学的方法、例えば:
・ 例えば、フェノール-クロロホルムでの液体-液体抽出
・ 例えば、純粋なエタノールでの沈殿
・ 濾紙での抽出
・ セチル-トリメチル-アンモニウム-ブロミドなどのミセル形成剤での抽出
・ 固定化したインターカレート色素、例えば、アクリジン誘導体への結合
・ シリカゲルまたはケイソウ土への吸着
・ カオトロピック条件下での磁性ガラス粒子(MGP)またはオルガノシラン粒子への吸着
【0058】
ガラス表面への核酸の吸着は、精製目的に特に興味深いが、他の表面が可能である。核酸のガラス表面に結合する挙動の使用によって核酸をその天然環境から単離するための多くの手順が、近年、提案されている。非修飾核酸が標的である場合、数ある理由の中でも、核酸を修飾しなくてもよく、天然の核酸でも結合し得るので、シリカ表面を有する物質への核酸の直接結合が好ましい。これらの方法は、種々の文献に詳細に記載されている。例えば、Vogelstein B. et al.,Proc. Natl. Acad. USA 76(1979)615-9には、ヨウ化ナトリウムの存在下で、核酸をアガロースゲルから粉砕フリントガラスに結合させるための手順が提案されている。過塩素酸ナトリウムの存在下で、ガラス粉末上での細菌からのプラスミドDNAの精製は、Marko M. A. et al.,Anal. Biochem. 121(1982)382-387に記載されている。DE-A 37 34 442には、酢酸を用いたファージ粒子の沈殿および過塩素酸塩を用いたファージ粒子の溶解によるガラス繊維フィルター上での一本鎖M13ファージDNAの単離が記載されている。ガラス繊維フィルターに結合した核酸を洗浄し、次いで、メタノール含有Tris/EDTAバッファで溶出させる。λファージからDNAを精製するための同様の手順は、Jakobi R. et al.,Anal. Biochem. 175(1988)196-201に記載されている。該手順は、カオトロピック塩溶液中でのガラス表面への核酸の選択的結合、およびアガロース、タンパク質または細胞残渣などの夾雑物からの核酸の分離を伴う。夾雑物からガラス粒子を分離するため、粒子は、遠心分離され得るか、または、液をガラス繊維フィルターから抜き取る(draw through)かのいずれかである。しかしながら、これは、該手順が大量の試料を処理するために使用されることを妨げる制限工程である。塩とエタノールを添加することによる沈殿後に核酸を固定化するための磁性粒子の使用は、より有利であり、例えば、Alderton R. P. et al.,S.,Anal. Biochem. 201(1992)166-169およびPCT GB 91/00212に記載されている。この手順では、核酸を磁性粒子とともに凝集させる。磁場をかけ、洗浄工程を行なうことにより、この凝集体を元の溶媒から分離する。1回の洗浄工程後、核酸をTrisバッファに溶解させる。しかしながら、この手順は沈殿が核酸に選択的でないという点で欠点を有する。それどころか、種々の固体および溶存物質も同様に凝集される。その結果、この手順は、有意な量の存在し得る特異的酵素反応の任意のインヒビターを除去するためには使用することができない。また、多孔質の特定のガラスマトリックス中に磁性粒子を含み、ストレプトアビジンを含む層で覆われた多孔質の磁性ガラスも市販されている。この製品は、生物学的材料がビオチンに共有結合するように複雑な調製工程で修飾される場合、生物学的材料、例えば、タンパク質または核酸を単離するために使用され得る。磁化性の特定の吸着体は、非常に効率的であり、自動試料調製に適当であることが証明された。フェリ磁性および強磁性ならびに超常磁性顔料が、この目的に使用される。最も好ましい磁性ガラス粒子およびその使用方法はWO 01/37291に記載のものである。R. Boom et al.(J Clin Microbiol. 28(1990)、495-503)による方法は、本発明との関連において、核酸単離に特に有用である。
【0059】
用語「固相支持体材料」は、核酸の固定化に関連して上記の任意の固体材料、例えば、磁性ガラス粒子、ガラス繊維、ガラス繊維フィルター、濾紙などを含むが、固相支持体材料はこれらの材料に限定されない。
【0060】
したがって、本発明の好ましい局面は、固相支持体材料がシリカ、金属、金属酸化物、プラスチック、ポリマーおよび核酸から選択される1種類以上の材料を含む上記の方法である。本発明の非常に好ましい態様において、固相支持体材料は磁性ガラス粒子である。
【0061】
「固定化する」は、本発明との関連において、例えば核酸などの対象物を、可逆的または不可逆的様式で捕捉することを意味する。特に、「固相支持体材料上に固定化される」は、対象物(1つまたは複数)が、任意の周囲媒体からの分離の目的で固相支持体材料と結合しており、例えば固相支持体材料からの分離によって後の時点で回収され得ることを意味する。これに関連して、「固定化」は、例えば、上記のような、ガラスへのまたは固体材料の他の適当な表面への核酸の吸着を含み得る。さらに、核酸は、捕捉プローブへの結合によって特異的に「固定化され」得、この場合、核酸は、固相支持体に結合された本質的に相補的な核酸に、塩基対形成によって結合される。後者の場合、かかる特異的固定化により、標的核酸の有力な結合がもたらされる。
【0062】
天然環境からの標的核酸を含む核酸の精製または単離後、例えば、上記の増幅によって分析が行なわれ得る。
【0063】
「第1標的核酸」と「第2標的核酸」とは異なる核酸である。
【0064】
「液体(fluid)試料」は、核酸を標的とする診断アッセイに供され得る任意の液体(fluid)材料であり、好ましくは、生物学的供給源に由来する。上記の方法の好ましい態様において、液体試料は臨床試料である。また、好ましくは、前記液体試料は、ヒトに由来し、体液である。本発明の好ましい態様において、液体試料は、ヒトの血液、尿、痰、汗、スワブ、ピペット使用可能な便、または脊髄液である。最も好ましくは、液体試料は、ヒトの血液またはヒトの血漿である。
【0065】
用語「反応槽(reaction vessel)」または「槽」は、限定されないが、例えば、逆転写またはポリメラーゼ連鎖反応などの液体試料の分析のための反応が起こるチューブ、またはマイクロウェル、ディープウェルもしくは他の型のマルチウェルプレートなどのプレートのウェルを含む。かかる槽の外側境界または壁は、内部で起こっている分析反応を妨げないように化学的に不活性である。また、好ましくは、上記の核酸の単離はマルチウェルプレート内で、より好ましくはディープウェルプレート内で行なわれる。
【0066】
これに関連して、分析系内のマルチウェルプレートでは、多数の試料の並行した分離および分析または保存が可能である。マルチウェルプレートは、最大の液体の取込みのため、または最大の熱移動のために最適化され得る。本発明との関連における使用のための好ましいマルチウェルプレートは、自動分析器で分析物をインキュベートするため、または分離するために最適化される。好ましくは、マルチウェルプレートは、磁性デバイスおよび/または加熱デバイスと接触するように構築され、かつ配置されたものである。
【0067】
本発明との関連において互換的に「処理プレート」と称する前記好ましいマルチウェルプレートは、
- 列をなして配列された頂部に開口部を有する多数の槽を含む頂部表面。槽は上部分、中央部分および底部分を含む。上部分はマルチウェルプレートの頂部表面につながっており、2つの長辺(longer side)と2つの短辺(shorter side)を含む。中央部分は、2つの長辺と2つの短辺を有する実質的に長方形の断面を有する;
- 2つの対向する短辺壁と2つの対向する長辺壁、ならびに
- ベース部、前記ベース部は、マルチウェルプレートが前記磁性デバイスおよび/または加熱デバイスと接触して配置されるように構築され、かつ配列された開口部を含む、
を含む。
【0068】
マルチウェルプレートの好ましい態様において、1つの列内の隣接する槽は、前記ほぼ長方形の形状の長辺につながっている。
【0069】
好ましくは、マルチウェルプレートは、隣接する槽の列間に配置された連続空間を含む。前記連続空間は、プレート形状の磁性デバイスを収容するように構築され、かつ配列される。好ましい態様において、槽の底部分は球面底を含む。より好ましい態様において、前記槽の底部分は、前記中央部と前記球面底の間に配置された円錐形の部分を含む。
【0070】
好ましい態様において、頂部表面はリブを含み、前記リブは槽の開口部(opening)を囲んでいる。好ましくは、前記槽の上部分の一方の短辺は凹部を含み、前記凹部はリブから槽の内部に延びる湾曲表面を含む。
【0071】
さらに、好ましい態様において、槽は丸くなっている内部形状を含む。
【0072】
処理ステーションまたはインキュベーションステーションへの固定のため、ベース部は、好ましくは凹部を含むリムを含む。分析装置のステーション上のラッチクリップ(latch clip)は前記凹部とかみ合い、ステーション上にプレートを固定し得る。
【0073】
好ましい態様において、槽は本質的に一定の壁厚を含む。
【0074】
本発明との関連における好ましい処理プレート(101)は、一成分型プレートである。その頂部表面(110)は、多数の槽(103)を含む(図5、図6)。各槽は、頂部に開口部(108)を有し、底端(112)は閉じられている。頂部表面(110)は、好ましくは、頂部表面(110)よりも高くなっており、槽(103)の開口部(108)を囲んでいるリブ(104)を含む。これにより、プレート(101)の頂部表面(110)上に落ちるかもしれない液滴による槽(103)の内容物の夾雑が防がれる。好ましい処理プレートの図を図3〜8に示す。
【0075】
処理プレート(101)の設置面(footprint)は、好ましくは、ANSI SBS設置面形式に対応するベース部の長さと幅を含む。より好ましくは、長さは127.76mm +/- 0.25mmであり、幅は85.48mm +/- 0.25mmである。したがって、プレート(101)は、2つの対向する短辺壁(109)と2つの対向する長辺壁(118)を有する。処理プレート(101)は、ハンドラー(handler)(500、図12)と相互作用するための形態ロック部材(form locking element)(106)を含む。処理プレート(101)は、正しい向きと位置を維持しながら、高速で迅速かつ安全に掴まれ、輸送され、ポジショニングされ得る。好ましくは、掴むための形態ロック部材(106)は、処理プレート(101)中央部の上側内、好ましくは中央3分の1の上側内に配置される。これは、起こり得る処理プレート(101)の歪みの形態ロック部材(106)に対する影響がわずかにすぎない、およびプレート(101)の取り扱いがより頑強になるという利点を有する。
【0076】
処理プレート(101)は、好ましくは、ハードウェア識別部(hardware-identifier)(102)および(115)を含む。ハードウェア識別部(102)および(115)は処理プレート(101)に特有であり、同じシステムに使用されている他の消耗品のハードウェア識別部と異なる。ハードウェア識別部(102、115)は好ましくは、該消耗品の側壁にリッジ(119)および/または凹部(125)を含み、前記リッジ(119)および/または凹部(125)のパターンは、特定の型の消耗品、好ましくは処理プレート(101)に特有である。この特有のパターンは、本明細書において、特有の「表面幾何構造」とも称する。ハードウェア識別部(102、115)により、ユーザーが処理プレート(101)を分析機器の適切なスタッカー位置に適正な向きで入れるだけでよいことが確実になる。処理プレート(101)の側面上には、ガイド部材(116)および(117)が含まれる(図3、図4)。これらは、処理プレート(101)が傾くのを防ぐ。ガイド部材(116、117)により、ユーザーがガイド部材(116、117)を有する処理プレート(101)をスタック(stack)として分析機器内に入れることが可能になり、次いで、これは、プレートが傾くことなく機器のスタッカー(stacker)内に垂直に運ばれる。
【0077】
槽(103)の中央部分(120)は、ほぼ長方形の断面を有する(図6、図7)。槽は、ほぼ長方形の形状の長辺(118)に沿って共通の壁(113)によって隔離されている(図3)。それにより形成された槽(103)の列は、利用可能な空間が限定されているにもかかわらず、大きな、好ましくは4mlの容積を有するという利点を有する。別の利点は、本質的に一定の壁厚のため、作製が非常に経済的であるということである。さらなる利点は、槽(103)が互いに強化され、したがって、高い形状安定性が得られ得るということである。
【0078】
槽(103)の列間には、連続空間(121)が配置されている(図6、図7)。空間(121)には、磁石(202、203)または加熱デバイス(128)が収容され得る(図11)。これらの磁石(202、203)および加熱デバイス(128)は、好ましくは固体デバイスである。したがって、槽(103)内に保持され得る液体(215)中に含まれる磁性粒子(216)は、磁石(202、203)が槽(103)に接近した場合、槽(103)に磁場がはたらくことにより液体(215)から分離され得る。または、処理プレート(101)が加熱デバイス(128)上に配置されている場合は、槽(103)の内容物を制御された高温でインキュベートしてもよい。磁石(202、203)または加熱デバイス(128)は固体であり得るため、高いエネルギー密度が達成され得る。また、槽(103)の中央部(120)のほぼ長方形の形状(図10)により、槽(103)と磁石(202)または加熱デバイス(128)間の接触表面を最適化することにより槽壁(109)と平坦な形状の磁石(202)または加熱デバイス(128)間の接触が最適化され、したがって、槽(103)内へのエネルギー転移が向上する。
【0079】
槽の円錐形の底(111)の領域では、空間(121)がさらにより明確であり、さらなる磁石(203)が収容され得る。槽の上側領域の大磁石(202)と円錐形の領域の小磁石(203)の組合せにより、大容量または小容量の液体(215)中での磁性粒子(216)の分離が可能になる。したがって、小磁石(203)により、溶出液ピペッティング中、磁性粒子(216)を隔離することがより容易になる。これによって、磁性粒子(216)ペレットの死容量(dead volume)が低減されることにより、最小限のロスで溶出液をピペッティングすることが可能になる。さらに、運ばれる溶出液中の磁性粒子(216)の存在が最小限になる。
【0080】
槽(103)の上端では、槽(103)の短辺壁(109)の一方が周囲のリブ(104)に延びる試薬供給口チャネル(105)を含む(図3、4、7)。試薬は、試薬供給口チャネル(105)にピペッティングされ、チャネル(105)から槽(103)内に排出される。したがって、ピペットニードルまたはチップ(3、4)と、槽内に含まれた液体間の接触が防がれる。さらに、ピペットニードルもしくはチップ(3、4)または隣接する槽(103)の夾雑の原因となり得る、液体が槽(103)に含まれた別の液体(215)中に直接分配されることによって起こるはね返りが防がれる。小容量の試薬、続いて最大容量の別の試薬の試薬供給口チャネル(105)への連続的なピペッティングにより、少量しか添加されない試薬が完全に槽(103)内に排液されることが確実になる。したがって、小容量試薬のピペッティングが、行なわれる試験の精度が低下することなく、可能になる。
【0081】
内部では、槽の底(111、112)において、形状が円錐形(111)になっており、末端は球面底(112)を有する(図6、図7)。長方形中央部分(120)を含む槽(114)の内部形状は丸くなっている。槽(103)の球面底(112)、丸くなっている内部形状(114)、円錐形の部分(111)および精巧な表面の組合せにより、処理プレート(101)内の分析物の有効な分離および精製が容易になる好ましい流体工学がもたらされる。球面底(112)により、分離された溶出液の本質的に完全な使用および試薬の持ち越しまたは試料の交差夾雑を低下させる、死容量の低減が可能になる。
【0082】
処理プレート(101)のベース部(129)上のリムは、処理ステーション(processing station)(201)または加熱デバイス(128)または分析機器(126)上のラッチクリップ(124)とのかみ合わせのための凹部(107)を含む(図5、図9)。ラッチクリップ(124)と凹部(107)とのかみ合わせにより、処理ステーション(201)上での処理プレート(101)のポジショニングおよび固定が可能になる。凹部(107)の存在により、ラッチの力が処理プレート(101)に、ベース部(129)に対してほぼ垂直に作用することが可能になる。したがって、側方に作用する力の発生はほんの少しになり得る。これにより、歪みの発生が低減され、したがって、処理プレート(101)の変形が低減される。また、垂直方向のラッチの力により、処理プレート(101)の任意の変形が中和され得、処理ステーション(201)内で球面底(111)のより正確なポジショニングがもたらされる。一般に、分析装置において、処理プレート(101)と処理ステーション(201)または加熱デバイス(128)との正確な界面により、死容量が低減され、また試料の交差夾雑のリスクが低減される。
【0083】
「分離ステーション(separation station)」は、液体試料中に存在する他の物質からの固相支持体材料の単離を可能にする、分析システムのデバイスまたは構成要素である。かかる分離ステーションは、例えば、限定されないが、遠心分離機、フィルターチューブを有するラック、磁石、または他の適切な構成要素を含み得る。本発明の好ましい態様において、該分離ステーションは、1つ以上の磁石を含む。好ましくは、1つ以上の磁石は、固相支持体としての磁性粒子、好ましくは磁性ガラス粒子の分離のために使用される。例えば、液体試料と固相支持体材料をマルチウェルプレートのウェル中で一緒に合わせた場合、磁性粒子を引き付け、続いて周囲の液体から分離するために、分離ステーションに含まれる1つ以上の磁石は、例えば磁石をウェルに導入することにより液体試料自体と接触され得るか、または前記1つ以上の磁石は、ウェルの外壁に接近し得る。
【0084】
好ましい態様において、分離ステーションは、マルチウェルプレートの頂部表面に開口を有し、底が閉鎖された槽を含むマルチウェルプレートを含むデバイスである。該槽は、上部、中央部および底部を含み、上部は、マルチウェルプレートの頂部表面につながり、好ましくは2つの長辺(longer side)および2つの短辺(shorter side)を含む。中央部は、2つの長辺を有する実質的に長方形の断面を有し、前記槽は、一列に配列される。固定具上にマウントされた少なくとも1つの磁石と少なくとも2つのZ位置中の辺を選択的に接触させるために、2つの隣接した列の間に連続した空間が配置される。該デバイスは、少なくとも1つの固定具を含む磁性分離ステーションをさらに含む。固定具は、磁場を発生させる少なくとも1つの磁石を含む。前記少なくとも1つの磁石を含む少なくとも1つの固定具を、マルチウェルプレートの槽に対して少なくとも第一および第二の位置の間で垂直に移動させる移動機構が存在する。好ましくは、槽の前記少なくとも2つのZ位置は、前記槽の側壁および底部を含む。前記少なくとも1つの磁石の磁場は、前記少なくとも1つの磁石が前記第一の位置にある場合、好ましくは磁性粒子を、前記少なくとも1つの磁石に隣接する槽の内表面に引き付ける。前記磁場の効果は、前記少なくとも1つの磁石が前記第二の位置にある場合は、前記少なくとも1つの磁石が前記第一の位置にある場合よりも小さい。好ましくは、前記少なくとも1つの磁石を含む固定具は、フレームを含む。槽は、マルチウェルプレート/処理プレートとの関連における上記の好ましい特徴を有する。かかる好ましい特徴の1つは、前記槽の少なくとも一部分が、前記槽の軸に直交する実質的に長方形の断面を有することである。
【0085】
前記第1の位置において、前記少なくとも1つの磁石は前記槽の前記部分に隣接している。隣接しているとは、槽の内容物に磁場がかかるように近接しているか、または槽と物理的に接触しているかのいずれかを意味すると理解されたい。
【0086】
分離ステーションは、マルチウェルプレート、およびマルチウェルプレートを取り付けるラッチクリップを受けるフレームを含む。好ましくは、分離ステーションは2つの型の磁石を含む。この好ましい態様を以下にさらに記載する。
【0087】
磁石がマルチウェルプレートの槽に押し付けられるように磁石を含むフレームに対して圧力をかけるスプリングを含む第2の好ましい態様を以下に記載する。
【0088】
第1磁石は好ましくは、前記槽内に保持された磁性粒子を含む大容量の液体に磁場をかけるために、マルチウェルプレートの槽と相互作用するように構築され、かつ配列される。前記第2磁石は、好ましくは、前記槽内に保持された磁性粒子を含む小容量の液体に磁場をかけるために、マルチウェルプレートの槽と相互作用するように構築され、かつ配列される。前記第1および第2の磁石は、異なるZ位置に移動され得る。
【0089】
核酸を単離および精製するさらなる方法は、本発明に関連して有用であり、前記分離ステーションである。該方法は、核酸をマルチウェルプレートの槽中の磁性粒子に結合させる工程を含む。該槽は、上部開口部、中央部および底部を含む。その後、液体の大部分が、槽の円錐形部が長方形形状を有する中央部で置き換わる区画よりも上に位置する場合、磁石を第2の位置から第1の位置に移動させ、第1の位置において、中央部に磁場を印加し、任意に、さらに前記槽の底部に磁場を印加することにより、結合した物質は、液体に含まれる結合していない物質から分離される。磁性粒子は、任意に洗浄溶液で洗浄され得る。液体の大部分が、槽の円錐形部が長方形形状を有する中央部で置き換わる区画よりも下に位置する場合は、前記槽の底部に選択的に磁場を印加することにより、少量の液体が前記磁性粒子から分離される。
【0090】
また、磁性粒子に結合された核酸を分離するための磁性分離ステーションも本発明に関連して有用であり、該分離ステーションは、前記槽中に保持された磁性粒子を含む大容量の液体に磁場をかけるために、マルチウェルプレートの槽と相互作用するように構築され、かつ配置される第一の磁石と、前記槽中に保持された磁性粒子を含む小容量の液体に磁場をかけるために、マルチウェルプレートの槽と相互作用するように構築され、かつ配置される第二の磁石を含み、前記第一および第二の磁石は、異なるZ位置に移動され得る。磁性分離ステーションの好ましい態様を本明細書において記載する。
【0091】
本発明に有用な分離ステーション(201)の第1の好ましい態様を以下に記載する。前記分離ステーション(201)の第1の好ましい態様は、少なくとも2つの型の磁石(202、203)を含む。第1の長い型の磁石(202)は、処理プレート(101)の空間(121)内に嵌め込まれるように構築され、かつ配列される。したがって、磁石(202)は槽(103)内の液体(215)に磁場をかけ、磁性粒子(216)を槽の内部壁上に隔離する。これにより、大容量の液体(215)が存在する場合、槽(103)内部で磁性粒子(216)およびこれに結合している任意の物質と液体(215)の分離が可能になる。磁石(202)は細長い構造を有し、槽の本質的に長方形の中央部(120)と相互作用するように構築され、かつ配列される。したがって、磁石(202)は、液体(215)の大部分が槽(103)の円錐形の部分(111)が長方形の形状を有する中央部(120)で置き換えられたセクションよりも上に位置する場合に使用される。図10に示すように、磁石(202)の好ましい構成は、処理プレート(101)内の槽(103)の列間の空間(121)内に嵌め込まれる磁石(202)を含む固定具(204、204a)を含む。磁石(202)の別の好ましい態様は、固定具(204、204a)上に配列された磁石(202)を含む。好ましい分離ステーション(201)の磁石(203)は小さく、槽(103)の円錐形の部分(111)と相互作用し得る。これを図10に示す。磁石(203)は、好ましくは処理プレート(101)の空間(121)内に移動され得るベース部(205)上に配列される。各磁石(202、203)は、好ましくは、2つの隣接する列の2つの槽(103)と相互作用するように構築される。好ましい態様において、処理プレート(101)は、8つの槽(103)の6つの列を有する。好ましい処理プレート(101)と相互作用し得る分離ステーション(201)は、磁石(202)を含む3つの固定具(204、204a)と、磁石(203)を含む4つのベース部(205)を有する。分離ステーションが、磁石(202)を含む4つの磁性固定具(204、204a)および磁石(203)を含む3つの磁性ベース部(205)を有する態様も含まれる。
【0092】
磁石(202、203)は可動性である。分離ステーション(201)は、固定具(204、204a)とベース部(205)を移動させる機構を含む。すべての固定具(204、204a)は、ベース部(217)によって相互連結されており、したがって協調的に移動される。すべての磁石(203)は、1つのベース部(218)につながっており、したがって協調的に移動される。磁性プレート(202)および(203)を移動させるための機構は、2つの型の磁性プレート(202、203)が合計4つの末端位置に移動するように構築され、かつ配列される。
【0093】
図10a〜cにおいて、磁石(203)は、処理プレート(101)の槽(103)の円錐形の部分の近傍に配置される。これは、磁石(203)の最上位であり、分離位置である。この図では、磁石(202)は最下位に配置されている。磁石は、この位置にある場合、分離に関与しない。
【0094】
図10に示した好ましい態様では、磁石(202)のベース部(217)は、ポジショニングホイール(206)に連結されている。ベース部(217)は、移動部材(209)によってフレキシブルに連結部材(208)と接触している底端(207)を含む。前記移動部材は、連結部材(208)をレール(212)にそって一方から他方に移動させるように構築され、かつ配列される。前記移動部材(209)は、連結部材(208)にピン(220)で固定されている。前記連結部材(208)は、スクリュー(210)によってポジショニングホイール(206)に固定されている。また、連結部材(208)は軸(211)に連結されている。前記連結部材(208)は好ましくは長方形プレートである。スクリュー(210)が偏心軸より上の点から偏心軸よりの下の点に移動するように、ポジショニングホイール(206)が軸(211)周りに偏心的に移動するにつれて、磁石(202)が付着したベース部(204)の移動部材(209)および底端(207)は、最上位から最下位に移動される。ベース部(218)は、底部分(219)上に備え付けられており、下端でピン(213)により、好ましくはホイールであり、ポジショニングホイール(206)と相互作用する移動部材(214)に連結されている。ポジショニングホイール(206)が軸(211)周りに回転すると、ホイール(214)は、ポジショニングホイール(206)に沿って移動する。ホイール(214)が、軸(211)からの距離が短いポジショニングホイール(206)のセクション上に配置されている場合、磁石(203)はその最下位にある。ホイール(214)が、軸(211)からの距離が最大であるポジショニングホイール(206)のセクション上に配置されている場合、磁石(203)はその最上位にある。したがって、分離ステーションの第1の態様の好ましい態様において、磁石(203)の位置は、ポジショニングホイール(206)の形状によって制御される。移動部材(209)がレール(212)の中央の丸くなっている頂部または下側部分(212a)に沿って移動する場合、小型の磁石(203)が上下に移動する。移動部材(209)が底端(207)の側面(212b)上に配置され、上下に移動する場合、磁石(202)は上方または下方に移動する。ポジショニングホイールは、任意のモーター(224)によって回転させることができる。
【0095】
好ましい態様において、スプリング(225)は、分離ステーションのベース部(222)と磁石(203)のベース部(218)に取り付けられ、磁石(203)が下方に移動するとき最下位まで移動することが確実になる。
【0096】
用語「ピン」は、本明細書で用いる場合、スクリューまたはピンを含む任意の固定部材に関する。
【0097】
第2の好ましい態様において、分離ステーション(230)は、少なくとも1つの磁石(232)、好ましくは、列(123)の槽(103)の数に等しい数の磁石を含む少なくとも1つの固定具(231)を含む。好ましくは、分離ステーション(230)は、本明細書において前述されるマルチウェルプレート(101)の列(123)の数に等しい数の固定具(231)を含む。より好ましくは、6つの固定具(231)が分離ステーション(230)上に備え付けられる。少なくとも1つの磁石(232)が1つの固定具(231)上に備え付けられる。好ましくは、磁石(232)の数は1つの列(123)の槽(103)の数に等しい。最も好ましくは、8個の磁石(232)が1つの固定具(231)上に備え付けられる。好ましくは、1つの型の磁石(232)が前記固定具(231)上に含まれる。より好ましくは、磁石(232)は、磁石が相互作用する槽に向いた一つの面上に備え付けられている。
【0098】
固定具(231)は、ベース部(233)上に備え付けられる。好ましくは、前記備え付けはフレキシブルである。ベース部(233)は、これに備え付けられたスプリング(234)を含む。スプリング(234)の数は、前記ベース部(233)に備え付けられた固定具(231)あたり少なくとも1つのスプリングである。ベース部は、さらに、スプリングの移動を制限し、その結果、磁石(232)を含む固定具(231)の移動を制限する面取り面(236)を含む。好ましくは、前記スプリング(234)の任意の1つは、固定具(231)と相互作用するように構築され、かつ配列される。より好ましくは、前記スプリング(234)はヨークスプリングである。前記相互作用により固定具(231)の水平移動が制御される。さらに、分離ステーション(230)はフレーム(235)を含む。固定具(231)を有するベース部(233)は、第1の態様の磁石(232)について本明細書において前述した移動機構によってフレーム(235)に連結されている。
【0099】
好ましくは、前記ベース部(233)および固定具(231)は、垂直に(Z-方向に)移動するように構築され、かつ配列される。
【0100】
本明細書において前述したマルチウェルプレート(101)は分離ステーション(230)内に挿入される。磁石(232)を含む固定具(231)は垂直に移動される。したがって、任意の1つの固定具(232)は、槽(103)の2つの列(123)の間の空間(121)中で移動される。該垂直移動により、固定具(231)上に備え付けられた磁石(232)が槽(103)と接触する。Z位置は、槽(103)内部の液体(215)の容量に応じて選択される。大容量では、磁石(232)は、槽(103)がほぼ長方形の形状である中央位置(120)で槽(103)と接触する。液体(215)の大部分が槽(103)の中央部分(120)より下に位置する小容量液体(215)では、磁石(232)は、好ましくは槽(103)の円錐形の部分(111)と接触する。
【0101】
スプリングは、任意の1つのフレーム(231)のベース部(233)に取り付けられる(図9a)、b))。スプリングは磁石(232)を槽(103)に押し付ける。これにより、磁性分離時の磁石(232)と槽(103)の間の接触が確実になる。好ましくは、磁石(232)は槽(103)と、供給口(105)の下に配置された側壁(109)で接触する。これは、ピペッティングによって添加された液体が、隔離された磁性粒子の上を流れるという利点を有し、粒子が懸濁されること、およびすべての槽内のすべての試料が同一に処理されることが確実になる。
【0102】
この態様は、異なるレベルの液体(215)が前記マルチウェルプレート(101)の槽(103)内に含まれている場合、本明細書において前述したマルチウェルプレート(101)内に含まれた液体(215)を磁性粒子(216)から分離するのに特に適している。
【0103】
「洗浄バッファ」は、特に、精製手順において望ましくない成分が除去されるように設計された液である。かかるバッファは当該技術分野で周知である。核酸の精製との関連において、洗浄バッファは、固定化された核酸を任意の望ましくない成分から分離するために固相支持体材料を洗浄するのに適している。洗浄バッファは、上記したように、例えば、エタノールおよび/またはカオトロピック剤を有さない酸性pHを有する緩衝化溶液(1つまたは複数)中にエタノールおよび/またはカオトロピック剤を含み得る。しばしば、洗浄溶液または他の溶液は、使用前に希釈されなければならないストック溶液として提供される。
【0104】
本発明による方法における洗浄は、多かれ少なかれ、固相支持体材料およびその上面に固定化された核酸と洗浄バッファとの激しい(intensive)接触を必要とする。これを達成するために、異なる方法、例えば、それぞれの槽(1つまたは複数)内で、または槽と一緒に洗浄バッファを固相支持体材料とともに振ることが可能である。別の有利な方法は、洗浄バッファおよび固相支持体材料を含む懸濁液を、1回以上、吸引および分注することである。この方法は、好ましくは、ピペットを用いて行なわれ、前記ピペットは、好ましくは、その内に前記懸濁液が吸引され、そこから懸濁液が再度分注される使い捨てピペットチップを含む。かかるピペットチップは、廃棄され、交換される前に数回使用され得る。本発明に有用な使い捨てピペットチップは、好ましくは少なくとも10μl、より好ましくは少なくとも15μl、より好ましくは少なくとも100μl、より好ましくは少なくとも500μl、より好ましくは少なくとも1ml、さらにより好ましくは約1mlの容積を有する。また、本発明に関連して使用されるピペットは、ピペッティングニードル(needle)であってもよい。
【0105】
したがって、本発明の好ましい局面は、工程d.の前記洗浄が、固相支持体材料を含む洗浄バッファを吸引および分注する工程を含む上記の方法である。
【0106】
単離された核酸の下流処理では、増幅に供する前に固相支持体材料から核酸を分離することが有利であり得る。
【0107】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記方法が、さらに、工程d.において、前記固相支持体材料を洗浄した後、溶出バッファを用いて固相支持体材料から精製された核酸を溶出する工程を含む上記の方法である。
【0108】
「溶出バッファ」は、本発明との関連において、固相支持体から核酸を分離するのに適当な液体である。かかる液体は例えば、蒸留水または例えば、Tris HClなどのTrisバッファもしくはHEPESなどの水性塩溶液、または当業者に公知の他の適当なバッファであり得る。かかる溶出バッファのpH値は好ましくはアルカリ性または中性である。前記溶出バッファは、例えば、EDTAなどのキレート剤などの、単離された核酸を、分解酵素の不安定化によって安定化させるさらなる成分を含み得る。
【0109】
溶出は好ましくは高温で行なわれ、本発明の好ましい態様は、工程d.が70℃〜90℃の温度で、より好ましくは80℃の温度で行なわれる上記の方法である。
【0110】
「増幅試薬」は、本発明との関連において、核酸の増幅を可能にする化学的または生化学的成分である。かかる試薬は、限定されないが、核酸ポリメラーゼ、バッファ、ヌクレオシド三リン酸などのモノヌクレオチド、例えば、オリゴヌクレオチドプライマーとしてのオリゴヌクレオチド、塩およびそのそれぞれの溶液、検出プローブ、色素などを含む。
【0111】
当該技術分野において公知のように、「ヌクレオシド」は塩基-糖の組合せである。ヌクレオシドの塩基部分は、通常、複素環式塩基である。かかる複素環式塩基の2つの最も一般的な種類はプリンおよびピリミジンである。
【0112】
「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドの糖部分に共有結合されたリン酸基をさらに含むヌクレオシドである。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドでは、リン酸基は、糖の2'-、3'-または5'-ヒドロキシル部分のいずれかに連結され得る。ヌクレオチドは、「オリゴヌクレオチド」(より一般的には「オリゴマー化合物」と示され得る)、または「ポリヌクレオチド」(より一般的には「ポリマー化合物」と示され得る)のモノマー単位である。上記のものの別の一般的な表現は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)である。
【0113】
本発明によれば、「オリゴマー化合物」は、ヌクレオチド単独または非天然化合物(下記参照)、より詳しくは、改変ヌクレオチド(もしくはヌクレオチドアナログ)または非ヌクレオチド化合物の単独またはその組合せであり得る「モノマー単位」からなる化合物である。
【0114】
「オリゴヌクレオチド」および「改変オリゴヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチドアナログ」)は、オリゴマー化合物の亜群である。本発明との関連において、用語「オリゴヌクレオチド」は、モノマー単位として複数のヌクレオチドから形成された成分をいう。リン酸基は、一般に、オリゴヌクレオチドのヌクレオシド間主鎖(backbone)を形成しているといわれる。RNAおよびDNAの通常の結合または主鎖は、3'-5'ホスホジエステル結合である。本発明に有用なオリゴヌクレオチドおよび改変オリゴヌクレオチド(下記参照)は、主に、当該技術分野で記載され、かつ当業者に公知のようにして合成され得る。特定配列のオリゴマー化合物の調製方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、適切な配列のクローニングおよび制限ならびに直接化学的合成が挙げられる。化学合成法としては、例えば、Narang S. A. et al.,Methods in Enzymology 68(1979)90-98に記載のリン酸トリエステル法、Brown E. L.,et al.,Methods in Enzymology 68(1979)109-151に開示されたホスホジエステル法、Beaucage et al.,Tetrahedron Letters 22(1981)1859に開示されたホスホロアミダイト法、Garegg et al.,Chem. Scr. 25(1985)280-282に開示されたH-ホスホネート法、およびUS 4,458,066に開示された固相法が挙げられ得る。
【0115】
上記の方法において、オリゴヌクレオチドは化学的改変されていてもよい、すなわち、プライマーおよび/またはプローブは改変ヌクレオチドまたは非ヌクレオチド化合物を含む。その場合、プローブまたはプライマーは改変オリゴヌクレオチドである。
【0116】
「改変(modified)ヌクレオチド」(または「ヌクレオチドアナログ」)は、天然ヌクレオチドからいくつかの改変により異なるが、それでも、塩基、ペントフラノシル糖、リン酸部分、塩基様、ペントフラノシル糖様およびリン酸様部分またはその組合せからなる。例えば、標識は、ヌクレオチドの塩基部分に結合され得、それにより改変ヌクレオチドは得られる。ヌクレオチドの天然塩基は、例えば、7-デアザプリンでも置き換えられ得、それにより、同様に改変ヌクレオチドが得られる。
【0117】
「改変オリゴヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチドアナログ」)は、
オリゴマー化合物の別の特定の亜群に属し、モノマー単位として1つ以上のヌクレオチドと1つ以上の改変ヌクレオチドを有する。したがって、用語「改変オリゴヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチドアナログ」)は、オリゴヌクレオチドと実質的に類似した様式で機能を果たす構造物をいい、本発明との関連において互換的に使用され得る。合成の観点から、改変オリゴヌクレオチド(またはオリゴヌクレオチドアナログ)は、例えば、リン酸主鎖、リボース単位またはヌクレオチド塩基の適切な改変によってオリゴヌクレオチドの化学的改変によって作製され得る(Uhlmann and Peyman、Chemical Reviews 90(1990)543; Verma S.,and Eckstein F.,Annu. Rev. Biochem. 67(1998)99-134)。代表的な改変としては、ホスホジエステルヌクレオシド間結合の代わりに、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、メチルホスホネート、ホスホトリエステルまたはホスホロアミデートヌクレオシド間結合; 天然プリンおよびピリミジン塩基の代わりに、デアザ-またはアザプリンおよび-ピリミジン、5位または6位に置換基を有するピリミジン塩基; 2位、6位もしくは8位または7-デアザプリンなどの7位に改変された置換基を有するプリン塩基; アルキル-、アルケニル-、アルキニルまたはアリール-部分、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの低級アルキル基、またはフェニル、ベンジル、ナフチルなどのアリール基を有する塩基; 例えば、2’位に置換基を有する糖; あるいは炭素環式または非環式の糖アナログが挙げられる。本発明の精神に一致する他の改変は当業者に公知である。かかる改変オリゴヌクレオチド(またはオリゴヌクレオチドアナログ)は、天然オリゴヌクレオチドと機能的に互換的であるが、構造的に異なるとして最もよく記載されている。より詳細には、例示的な改変は、Verma S.,and Eckstein F.,Annu. Rev. Biochem. 67(1998)99-134またはWO 02/12263に開示されている。また、ヌクレオシド単位が、ヌクレオシド間リン酸結合または糖リン酸結合の代わりになる基によってつながっている改変が行なわれ得る。かかる結合としては、Verma S.,and Eckstein F.,Annu. Rev. Biochem. 67(1998)99-134に開示されたものが挙げられる。ヌクレオシド単位を連結するためにリン酸結合以外が使用される場合、かかる構造は「オリゴヌクレオシド」とも記載されている。
【0118】
「核酸」ならびに「標的核酸」は、当業者に公知のヌクレオチドのポリマー化合物である。「標的核酸」は、本明細書において、分析すべき試料中の、すなわち、試料中のその存在、非存在および/または量を測定すべき核酸を表すために使用される。
【0119】
用語「プライマー」は、本明細書において当業者に公知であるとおりに使用され、オリゴマー化合物、主にオリゴヌクレオチドをいうが、鋳型依存性DNAポリメラーゼによってDNA 合成を引き起こし得る改変オリゴヌクレオチド、すなわち、例えば、プライマーの3’末端が遊離3’-OH基を提供し、これにさらなるヌクレオチドが鋳型依存性DNAポリメラーゼによって結合され、3'から5'へのホスホジエステル結合が確立され得、その場合、デオキシヌクレオシド三リン酸が使用され、ピロリン酸が放出される、改変オリゴヌクレオチドもいう。
【0120】
「プローブ」もまた、天然または改変オリゴヌクレオチドを表す。当該技術分野で公知のように、プローブは、分析物または増幅物を検出する目的を果たす。上記の方法の場合、プローブは、標的核酸の増幅物を検出するために使用され得る。この目的のため、プローブは、典型的に標識を有する。
【0121】
「標識」は、しばしば「レポーター基」と称され、一般的に、これに結合された核酸、特に、オリゴヌクレオチドまたは改変オリゴヌクレオチドならびに任意の核酸を試料の残りのものと識別可能にする基である(標識が結合された核酸はまた、標識核酸結合化合物、標識プローブまたは単にプローブと称され得る)。本発明による好ましい標識は、例えば、フルオレセイン色素、ローダミン色素、シアニン色素、およびクマリン色素などの蛍光色素である蛍光標識である。本発明による好ましい蛍光色素は、FAM、HEX、JA270、CAL635、Coumarin343、Quasar705、Cyan500、CY5.5、LC-Red 640、LC-Red 705である。
【0122】
本発明との関連において、任意のプライマーおよび/またはプローブは化学的に改変され得る、すなわち、プライマーおよび/またはプローブは、改変ヌクレオチドまたは非ヌクレオチド化合物を含む。その場合、プローブまたはプライマーは改変オリゴヌクレオチドである。
【0123】
核酸増幅の好ましい方法は、数ある参考文献の中で、米国特許第4,683,202号、同第4,683,195号、同第4,800,159号、および同第4,965,188号に開示されたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。PCRでは、典型的に、選択された核酸鋳型(例えば、DNAまたはRNA)に結合する2種類以上のオリゴヌクレオチドプライマーが使用される。核酸分析に有用なプライマーとしては、標的核酸の核酸配列内での核酸合成の開始点として作用し得るオリゴヌクレオチドが挙げられる。プライマーは、従来の方法による制限消化によって精製され得るか、または合成により作製され得る。プライマーは、好ましくは、増幅における最大効率のために一本鎖であるが、プライマーは二本鎖であってもよい。二本鎖プライマーを、まず、変性、すなわち、鎖を分離するための処理をする。二本鎖核酸を変性させる方法の1つは加熱によるものである。「熱安定性ポリメラーゼ」は、熱安定性であるポリメラーゼ酵素である、すなわち、鋳型に相補的なプライマー伸長産物の形成を触媒するが、二本鎖鋳型核酸の変性が行なわれるのに必要な時間、高温に供された場合、不可逆的に変性しない酵素である。一般的に、合成は、各プライマーの3’末端において開始され、5’から3’の方向に鋳型鎖に沿って進行する。熱安定性ポリメラーゼは、例えば、サーマス・フラバス、T.ルベール(ruber)、T.サーモフィラス、T.アクアチカス、T.ラクテウス、T.ルーベンス、バチルス・ステアロサーモフィラス、およびメタノサーマス・フェルビダスから単離されている。それでもなお、熱安定性でないポリメラーゼも、該酵素が補給されるのであれば、PCRアッセイにおいて使用され得る。
【0124】
鋳型核酸が二本鎖である場合、PCRにおいて鋳型として使用され得る前に、2つの鎖を分離することが必要である。鎖の分離は、物理的、化学的または酵素的手段を含む任意の適当な変性方法によってなされ得る。核酸鎖を分離する方法の1つは、大部分が変性される(例えば、50%、60%、70%、80%、90%または95%より多くが変性される)まで核酸を加熱することを伴う。鋳型核酸を変性させるために必要な加熱条件は、例えば、バッファ塩濃度ならびに変性させる核酸の長さおよびヌクレオチド組成に依存するが、温度および核酸の長さなどの反応の特徴に応じた時間の間で、典型的に、約90℃〜約105℃の範囲である。変性は、典型的に、約5秒〜9分間行なわれる。例えば、Z05 DNAポリメラーゼなどのそれぞれのポリメラーゼを、かかる高温に長すぎる時間、曝露させず、したがって、機能性酵素の損失のリスクを負わないようにするため、短い変性工程を使用することが好ましい。
【0125】
本発明の好ましい態様において、変性工程は30秒まで、さらに好ましくは20秒まで、さらに好ましくは10秒まで、さらに好ましくは5秒まで、最も好ましくは約5秒である。
【0126】
二本鎖鋳型核酸を熱によって変性させる場合、反応混合物を、各プライマーのその標的核酸上の標的配列へのアニーリングが促進される温度まで冷却させる。
【0127】
アニーリングの温度は、好ましくは約35℃〜約70℃、さらに好ましくは約45℃〜約65℃;さらに好ましくは約50℃〜約60℃、さらに好ましくは約55℃〜約58℃である。アニーリング時間は、約10秒〜約1分(例えば、約20秒〜約50秒;約30秒〜約40秒)であり得る。これに関連して、それぞれのアッセイの包括性(inclusivity)を増大させるために種々のアニーリング温度を使用することが有利であり得る。簡単には、これは、比較的低いアニーリング温度で、プライマーは、単一のミスマッチを有する標的にも結合し得、そのため、特定の配列のバリアントも増幅され得ることを意味する。これは、例えば、特定の生物が、同じく検出されるべき既知または未知の遺伝子バリアントを有する場合、望ましいものであり得る。他方、比較的高いアニーリング温度は、高温になるほど、プライマーが、正確にマッチしていない標的配列に結合しない可能性が連続的に減少するため、高い特異性をもたらすという利点を有する。両方の現象の利益を受けるため、本発明のいくつかの態様では、上記の方法が、異なる温度での、好ましくは最初は低温、次いで高温でのアニーリングを含むことが好ましい。例えば、第1のインキュベーションが55℃で約5サイクル行なわれる場合、正確にマッチしていない標的配列は(予備)増幅され得る。この後、例えば、58℃で約45サイクルが行なわれ得、実験の大部分の間において、より高い特異性がもたらされる。このように、潜在的に重要な遺伝子バリアントは失われずに、特異性は比較的高いままである。
【0128】
次いで、反応混合物は、ポリメラーゼの活性が促進または最適化される温度に、すなわち、アニーリングされたプライマーから伸長が起こり、分析される核酸に相補的な産物が生成されるのに充分な温度に調整される。温度は、核酸鋳型にアニーリングされる各プライマーから伸長産物が合成されるのに充分であるべきだが、その相補的な鋳型から伸長産物が変性するほど高くあるべきでない(例えば、伸長の温度は、一般的に、約40〜80℃の範囲(例えば、約50℃〜約70℃;約60℃)。伸長時間は、約10秒〜約5分、好ましくは約15秒〜2分、さらに好ましくは約20秒〜約1分、さらに好ましくは約25秒〜約35秒であり得る。新たに合成された鎖は二本鎖分子を形成し、これは、その後の反応工程で使用され得る。鎖分離、アニーリングおよび伸長の工程は、標的核酸に対応する所望の量の増幅産物が生成されるのに必要なだけ多く繰り返され得る。反応における制限因子は、反応中に存在するプライマー、熱安定性酵素およびヌクレオシド三リン酸の量である。サイクル工程(すなわち、変性、アニーリング、および伸長)は、好ましくは少なくとも1回繰り返される。検出における使用では、サイクル工程の回数は、例えば、試料の性質に依存する。試料が核酸の複雑な混合物である場合、検出に充分な標的配列を増幅するのに、より多くのサイクル工程が必要とされる。一般的に、サイクル工程は、少なくとも約20回繰り返されるが、40回、60回、さらには100回さえ程多く繰り返してもよい。
【0129】
本発明の範囲内で、アニーリング工程と伸長工程が同じ工程で行なわれるPCR(一工程PCR)を行なってもよく、上記のように、別々の工程(二工程PCR)で行なってもよい。アニーリングと伸長を一緒に、したがって、同じ物理的および化学的条件下で、例えば、Z05 DNAポリメラーゼなどの適当な酵素を用いて行なうことは、各サイクルにおいてさらなる工程のための時間が節約され、また、アニーリングと伸長の間のさらなる温度調整の必要性が排除されるという利点を有する。したがって、一工程PCRにより、それぞれのアッセイの全体的な複雑さが低減される。
【0130】
一般に、結果までの時間が短くなり、早期診断の可能性がもたらされるため、増幅全体の時間が短い方が好ましい。
【0131】
本発明に関連して使用される他の好ましい核酸増幅方法は、リガーゼ連鎖反応(LCR;Wu D. Y. and Wallace R. B.,Genomics 4(1989)560-69;およびBarany F.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88(1991)189-193);ポリメラーゼリガーゼ連鎖反応(Barany F.,PCR Methods and Applic. 1(1991)5-16);Gap-LCR(WO 90/01069);修復連鎖反応(EP 0439182 A2)、3SR(Kwoh D.Y. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989)1173-1177;Guatelli J.C.,et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87(1990)1874-1878;WO 92/08808)、およびNASBA(US 5,130,238)を含む。さらに、鎖置換増幅(SDA)、転写媒介性増幅(TMA)、およびQβ-増幅(総説については、例えば、Whelen A. C. and Persing D. H.,Annu. Rev. Microbiol. 50(1996)349-373;Abramson R. D. and Myers T. W.,Curr Opin Biotechnol 4(1993)41-47を参照のこと)がある。
【0132】
本発明において使用される内部対照核酸は、好ましくは、その配列に関して以下の性質を示す。
- 融解温度が55℃〜90℃、より好ましくは65℃〜85℃、より好ましくは70℃〜80℃、最も好ましくは約75℃
- 長さが500までの塩基または塩基対、より好ましくは50〜300塩基または塩基対、より好ましくは100〜200塩基または塩基対、最も好ましくは約180塩基または塩基対
- GC含有量が30%〜70%、より好ましくは40%〜60%、最も好ましくは約50%
【0133】
本発明との関連において、「配列」は、核酸の一次構造、すなわち、それぞれの核酸が構成する単一の核酸塩基の特定の配列である。用語「配列」は、RNAまたはDNAなどの特定の型の核酸を表すのではなく、両方ならびに例えば、PNAなど、またはその他の他の型の核酸に適用されることを理解されたい。核酸塩基が互いに対応する場合、特に、ウラシル(RNAに存在)およびチミジン(DNAに存在)の場合、これらの塩基は、関連技術分野において周知のように、RNA配列とDNA配列の間で同等とみなされ得る。
【0134】
臨床的に関連する核酸は、しばしば、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)、サイトメガロウイルス(CMV)およびその他などの例えばDNAウイルス、または例えば、トラコーマクラミジア(CT)、淋菌(NG)およびその他などの細菌に由来し得るDNAである。かかる場合において、標的核酸特性を反映させるため、DNAからなる内部対照核酸および/または外部対照核酸を使用することが有利であり得る。
【0135】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記内部対照核酸および/または前記水性バッファ中の外部対照核酸がDNAである上記の方法である。
【0136】
他方において、臨床的診断に関連する数多くの核酸は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、西ナイルウイルス(WNV)、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、セントルイス脳炎ウイルス(SLEV)およびその他などの例えばRNAウイルス由来の核酸などのリボ核酸である。本発明はかかる核酸に容易に適用され得る。この場合、標的核酸特性を反映させるため、RNAからなる内部対照核酸および/または外部対照核酸を使用することが有利であり得る。RNAとDNAの両方が上記の方法において分析される場合、対照核酸は、好ましくは多数の標的が関与するアッセイの最も感受性の標的を模倣し、RNA標的は、通常、より厳密に制御されなければならないため、内部および/または外部対照核酸はRNAであることが好ましい。
【0137】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記内部対照核酸および/または前記水性バッファ中の外部対照核酸がRNAである上記の方法である。
【0138】
RNAは、例えばアルカリ性pH、リボヌクレアーゼなどの影響によってDNAよりも分解され易いため、RNAで作製された内部対照核酸は、好ましくは外装(armored)粒子として提供される。特別外装RNAなどの外装粒子は、例えば、EP910643に記載されている。簡単には、化学的に、または好ましくは、例えば、例えば大腸菌などの細菌によって異種的に作製され得るRNAは、少なくとも一部がウイルスコートタンパク質に封入されている。後者により、外部影響、特に、リボヌクレアーゼに対するRNAの抵抗性が付与される。内部対照DNAもまた外装粒子として提供され得ることを理解されたい。典型的に、外装RNAおよび/またはDNAは、バクテリオファージを使用することにより得られる。DNAの場合、当業者に公知のように、この文脈ではλファージが有用である。外装RNAおよびDNAはともに、本発明との関連における内部および/または外部対照核酸として有用である。
【0139】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記内部対照核酸および/または前記外部対照核酸が外装核酸である、上記の方法である。
【0140】
本発明の他の態様において、内部および/または外部対照核酸としてプラスミドが使用されることが好ましい。プラスミドは環状の核酸であり、ほとんどの場合、ゲノム外細菌DNAに由来する。対照核酸としての被覆がない形態におけるその使用は当業者に公知である。かかる態様は、水性バッファ中では、外部対照核酸はヌクレアーゼなどの有害な影響に対して、例えばNHP(これは、有意なヌクレアーゼ活性を示し得るため)の場合ほど注意して保護される必要がないため、本発明において使用される水性バッファ中の外部核酸に関して特に有用である。
【0141】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記外部対照核酸がプラスミドである上記の方法である。好ましくは、前記プラスミドは被覆がない。さらに好ましくは、前記プラスミドはDNAである。
【0142】
典型的に、増幅系核酸診断では、増幅および検出の前にRNA鋳型をDNAに転写する。
【0143】
したがって、本発明の好ましい局面は、前記増幅試薬が逆転写酵素活性を有するポリメラーゼを含む上記の方法であって、工程e.と工程f.の間に、前記反応槽内で、前記精製された核酸を前記1種類以上の増幅試薬とともに前記逆転写酵素活性を有するポリメラーゼによるRNAの転写が起こるのに適当な期間かつ条件でインキュベートする工程をさらに含む方法である。
【0144】
「逆転写酵素活性を有するポリメラーゼ」は、RNA鋳型に基づいてDNAを合成することができる核酸ポリメラーゼである。また、これは、RNAが一本鎖cDNAに逆転写されたら、二本鎖DNAを形成することもできる。本発明の好ましい態様において、逆転写酵素活性を有するポリメラーゼは熱安定性である。
【0145】
好ましい態様において、本発明による方法は、RNA鋳型を含む試料を、前記RNA鋳型にハイブリダイズするのに充分相補的なオリゴヌクレオチドプライマーとともに、および好ましくは熱安定性DNAポリメラーゼとともに、少なくとも4種類すべての天然または改変デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下、好ましい態様においてpHと金属イオン濃度の両方を緩衝する金属イオンバッファを含む適切なバッファ中でインキュベートする工程を含む。このインキュベーションは、前記プライマーが前記RNA鋳型にハイブリダイズし、前記DNAポリメラーゼが前記デオキシリボヌクレオシド三リン酸の重合を触媒して前記RNA鋳型の配列に相補的なcDNA配列を形成するのに充分な温度で行なわれる。
【0146】
本明細書で使用される場合、用語「cDNA」は、鋳型としてリボ核酸鎖(RNA)を用いて合成される相補的なDNA分子をいう。RNAは、例えば、mRNA、tRNA、rRNA、またはウイルスRNAなどの別の形態のRNAであり得る。cDNAは、一本鎖、二本鎖であり得るか、またはRNA/cDNAハイブリッドのように相補的なRNA分子に水素結合され得る。
【0147】
RNA鋳型へのアニーリングに適当なプライマーはまた、PCRによる増幅にも適当であり得る。PCRでは、逆転写されたcDNA鎖に相補的な第2プライマーが伸長産物の合成の開始部位を提供する。
【0148】
DNAポリメラーゼによるRNA分子の増幅において、第1伸長反応はRNA鋳型を用いた逆転写であり、DNA鎖が生成される。DNA鋳型を使用する第2伸長反応では二本鎖DNA分子が生成される。したがって、DNAポリメラーゼによるRNA鋳型からの相補的なDNA鎖の合成は増幅のための出発材料を提供する。
【0149】
熱安定性DNAポリメラーゼは、カップリングされた一酵素逆転写/増幅反応において使用され得る。これに関連して、用語「均一な(homogeneous)」は、RNA標的の逆転写および増幅のための二工程の単一付加反応をいう。均一な、により、逆転写(RT)工程後、反応槽を開けたり、あるいは増幅工程前に反応成分を調整したりする必要がないことが意図される。非均一(non-homogeneous)RT/PCR反応において、逆転写後および増幅前、増幅試薬などの1種類以上の反応成分が、例えば、調整、添加または希釈され、そのために反応槽を開放しなければならないか、または少なくともその内容物を操作しなければならない。均一態様および非均一態様の両方とも本発明の範囲に含まれるが、RT/PCRには均一形式が好ましい。
【0150】
逆転写はRT/PCRにおいて重要な工程である。例えば、RNA鋳型は、プライマー結合および/またはそれぞれの逆転写酵素によるcDNA鎖の伸長を障害し得る二次構造を形成する傾向を示すことが当該技術分野で公知である。したがって、転写の効率に関してRT反応には比較的高温が有利である。他方、インキュベーション温度を上げると、特異性も高くなることが意味される、すなわち、RTプライマーは、予測される配列(1つまたは複数)にミスマッチを示す配列にアニーリングしない。特に、多数の異なる標的RNAの場合、例えば、液体試料中に未知または稀な亜系統または亜種の生物が存在する可能性がある場合、単一のミスマッチを有する配列を転写し、続いて増幅および検出することも望ましくあり得る。
【0151】
上記の両方の利点すなわち、二次構造の低減およびミスマッチを有する鋳型の逆転写から利益を受けるため、1つより多くの異なる温度でRTインキュベーションを行なうことが好ましい。
【0152】
したがって、本発明の好ましい局面は、逆転写酵素活性を有するポリメラーゼの前記インキュベーションが、30℃〜75℃、好ましくは45℃〜70℃、さらに好ましくは55℃〜65℃の異なる温度で行なわれる上記の方法である。
【0153】
逆転写のさらなる重要な局面として、長いRT工程は、液体試料中に存在し得るDNA鋳型を損傷し得る。したがって、液体試料がRNA種およびDNA種の両方を含む場合、RT工程の持続期間ができるだけ短く維持されることが好ましいが、それと同時に、その後の増幅および増幅物の任意の検出のためにcDNAの充分な量の合成が確保されることが好ましい。
【0154】
したがって、本発明の好ましい局面は、逆転写酵素活性を有するポリメラーゼのインキュベーションのための期間が、30分まで、20分まで、15分まで、12.5分まで、10分まで、5分まで、または1分までである上記の方法である。
【0155】
本発明のさらなる好ましい局面は、逆転写酵素活性を有し、かつ変異を含むポリメラーゼが、
a. CS5 DNAポリメラーゼ
b. CS6 DNAポリメラーゼ
c. サーモトガ・マリチマDNAポリメラーゼ
d. サーマス・アクアチカスDNAポリメラーゼ
e. サーマス・サーモフィラス DNAポリメラーゼ
f. サーマス・フラバスDNAポリメラーゼ
g. サーマス・フィリホルミスDNAポリメラーゼ
h. サーマス種sps17 DNAポリメラーゼ
i. サーマス種Z05 DNAポリメラーゼ
j. サーモトガ・ネアポリタナDNAポリメラーゼ
k. サーモシホ・アフリカヌスDNAポリメラーゼ
l. サーマス・カルドフィラスDNAポリメラーゼ
からなる群より選択される上記の方法である。
【0156】
これらの要件に特に適当であるのは、伸長速度が速くなることに関して、その逆転写効率が向上するポリメラーゼドメイン内の変異を有する酵素である。
【0157】
したがって、本発明の好ましい局面は、逆転写酵素活性を有するポリメラーゼが、それぞれの野生型ポリメラーゼと比べて、改善された核酸伸長速度および/または改善された逆転写酵素活性を付与する変異を含むポリメラーゼである上記の方法である。
【0158】
より好ましい態様において、上記の方法において、逆転写酵素活性を有するポリメラーゼは、それぞれの野生型ポリメラーゼと比べて、改善された逆転写酵素活性を付与する変異を含むポリメラーゼである。
【0159】
本発明に関連して特に有用となる点変異を有するポリメラーゼはWO 2008/046612に開示されている。特に、本発明との関連において使用される好ましいポリメラーゼは、ポリメラーゼドメイン内に少なくとも以下のモチーフ:
T-G-R-L-S-S-Xb7-Xb8-P-N-L-Q-Nを含む変異DNAポリメラーゼであり;式中、Xb7は、SまたはTから選択されるアミノ酸であり、Xb8は、G、T、R、K、またはLから選択されるアミノ酸であり、ポリメラーゼは、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を含み、野生型DNAポリメラーゼと比べて改善された核酸伸長速度および/または改善された逆転写効率を有し、前記野生型DNAポリメラーゼにおいて、Xb8は、D、EまたはNから選択されるアミノ酸である。
【0160】
特に好ましい一例は、サーマス種Z05由来の熱安定性DNAポリメラーゼの変異体(例えば、US 5,455,170に記載)であり、前記変異体は、それぞれの野生型酵素Z05と比べて、ポリメラーゼドメインに変異を含む。変異体Z05 DNAポリメラーゼは本発明の方法に特に好ましく、580位のアミノ酸は、G、T、R、KおよびLからなる群より選択される。
【0161】
熱安定性ポリメラーゼを使用する逆転写には、2価のカチオンとしてMn2+が好ましく、典型的に、塩としては、例えば塩化マンガン(MnCl2)、酢酸マンガン(Mn(OAc)2)、または硫酸マンガン(MnSO4)が挙げられる。50mMトリシンバッファを含む反応にMnCl2が含まれる場合、例えば、一般的には、MnCl2は、0.5〜7.0mMの濃度で存在し;それぞれ200mMのdGTP、dATP、dUTPおよびdCTPが使用される場合は0.8〜1.4mMが好ましく;2.5〜3.5mMのMnCl2が最も好ましい。さらに、逆転写のための2価のカチオンとしてのMg2+の使用もまた、本発明の状況においては好ましい。
【0162】
DNA標的核酸を保存しつつ、RNA標的核酸をcDNAに逆転写し、cDNAおよびDNAの両方をその後の増幅に使用し得ることは本発明の範囲内であるため、上記の内部対照および外部対照を取られた方法は、RNAゲノムを有する生物またはDNAゲノムを有する生物の両方に由来する標的核酸の同時増幅に特に有用である。この利点により、同一の物理的条件下で分析され得る異なる生物、特に病原体の範囲がかなり増大する。
【0163】
したがって、本発明の好ましい局面は、少なくとも2種類の標的核酸がRNAおよびDNAを含む上記の方法である。
【0164】
「同時に」または「同時」は、本発明の意味において、第1および第2またはそれ以上の核酸の増幅などの2つの作用が同時に同じ物理的条件下で行なわれることを意味する。一態様において、少なくとも第1および第2の標的核酸の同時増幅は、1つの槽内で行なわれる。別の態様において、同時増幅は、少なくとも1つの核酸は1つの槽内で、少なくとも第2の核酸は第2槽内で、同時に、特に温度およびインキュベーション時間に関して同じ物理的条件下で行なわれ、ここで上記の内部対照核酸は、前記槽のそれぞれに存在するが、外部対照核酸(1つまたは複数)は、異なる槽(1つまたは複数)中にのみ存在する。
【0165】
本明細書で使用する場合、「生物」は、任意の生存している単細胞または多細胞の生命体を意味する。本発明に関して、ウイルスは生物である。
【0166】
特に、適切な温度最適度(optimum)のため、Tthポリメラーゼなどの酵素、または好ましくは上記の変異体Z05 DNAポリメラーゼは、標的核酸のその後の増幅工程を行なうことに適する。逆転写および増幅の両方に同じ酵素を利用することは、液体試料をRT工程と増幅工程の間で操作しなくてもよいため、方法の実施の容易さに寄与し、自動化を容易にする。
【0167】
したがって、好ましい態様において、上記の方法において、逆転写酵素活性を有する同じポリメラーゼが工程f.の逆転写および増幅に使用される。好ましくは、酵素は上記の変異体Z05 DNAポリメラーゼである。
【0168】
ポリメラーゼまたは本発明に関連する反応混合物の他の成分を曝露しないようにするため、好ましい態様において、90℃より高い工程は20秒まで、好ましくは15秒まで、より好ましくは10秒まで、より好ましくは5秒まで、最も好ましくは5秒長である。また、これにより、結果までの時間が短くなり、必要とされる全体的なアッセイ時間が削減される。
【0169】
かかる均一な構成において、RTおよび増幅を開始する前に反応槽を密閉し、それにより汚染のリスクを低減することは、かなり有利であり得る。密閉は、例えば、好ましくは透明なホイル、キャップを適用することにより、または反応槽に添加され、液の上部に密閉層として親油相を形成する油によりなされ得る。
【0170】
したがって、本発明の好ましい局面は、工程e.の後に、少なくとも2つの反応槽を密閉する工程をさらに含む上記の方法である。
【0171】
取り扱いの容易さのため、および自動化を容易にするために、少なくとも2つの反応槽を一体型配列に組み合わせて、そのために該槽が一緒に操作され得ることが好ましい。
【0172】
したがって、本発明の好ましい局面は、少なくとも2つの反応槽が同じ一体型配列に組み合わされた、上記の方法である。
【0173】
一体型配列は、例えば互いに可逆的もしくは不可逆的に結合されるかまたはラック中に配置されるバイアルまたはチューブであり得る。好ましくは、一体型配列はマルチウェルプレートである。
【0174】
増幅工程の標的は、RNA/DNAハイブリッド分子であり得る。標的は、一本鎖標的核酸でも二本鎖標的核酸でもよい。最も広く使用されているPCR手順では二本鎖標的が使用されるが、これは必要事項ではない。一本鎖のDNA標的の第1増幅サイクル後、反応混合物は、一本鎖標的および新たに合成された相補鎖からなる二本鎖DNA分子を含む。同様に、RNA/cDNA標的の第1増幅サイクル後、反応混合物は二本鎖cDNA分子を含む。この点で、連続増幅サイクルは上記のように進行する。
【0175】
核酸増幅は、特に、PCRの場合だけではないが、サイクル反応として行なわれる場合、非常に効率的であるため、本発明の好ましい局面は、工程f.の増幅反応が、多数のサイクル工程からなる上記の方法である。
【0176】
適当な核酸検出方法は、当業者に公知であり、Sambrook J. et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989およびAusubel F. et al.:Current Protocols in Molecular Biology 1987、J. Wiley and Sons、NYなどの標準的な教科書に記載されている。また、核酸検出工程を行なう前に、例えば、沈殿工程などのさらなる精製工程があってもよい。検出方法としては、限定されないが、二本鎖DNA内にインターカレートし、その後、その蛍光を変化させるエチジウムブロミドなどの特異的色素の結合またはインターカレーションが挙げられ得る。また、精製された核酸を、制限消化後、任意に電気泳動法によって分離し、その後、可視化してもよい。また、特定の配列に対するオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションおよびその後のハイブリッドの検出を利用するプローブ系アッセイもある。
【0177】
分析の結果を評価するために、増幅反応中または後に、増幅された標的核酸を検出することが好ましい。特にリアルタイムでの検出では、核酸プローブを使用することが有利である。
【0178】
従って、本発明の好ましい局面は、サイクル工程が増幅工程およびハイブリダイゼーション工程を含み、前記ハイブリダイゼーション工程が増幅された核酸とプローブをハイブリダイズすることを含む、上記の方法である。
【0179】
増幅反応をリアルタイムでモニタリングすること、すなわち標的核酸および/またはその増幅産物をそれ自体の増幅中に検出することが好ましくあり得る。
【0180】
従って、本発明の好ましい局面は、該プローブがドナー蛍光部分および対応するアクセプター蛍光部分で標識される、上記の方法である。
【0181】
上記の方法は、好ましくはドナー蛍光部分とアクセプター蛍光部分の間の蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)に基づく。例示的なドナー蛍光部分はフルオレセインであり、例示的な対応するアクセプター蛍光部分としては、LC-Red 640、LC-Red 705、Cy5およびCy5.5が挙げられる。典型的に、検出は、ドナー蛍光部分により吸収される波長で試料を励起すること、ならびに対応するアクセプター蛍光部分により放出される波長を可視化および/または測定することを含む。本発明による方法において、好ましくは検出後に、FRETの定量が行なわれる。好ましくは、検出は、それぞれのサイクル工程後に実施される。最も好ましくは、検出は、リアルタイムで行なわれる。市販のリアルタイムPCR装置(例えば、LightCyclerTMまたはTaqMan(登録商標))を使用することにより、PCR増幅と増幅産物の検出を単一の密閉キュベット内で合わせることができ、サイクル時間が劇的に減少する。検出が増幅と同時に起こるために、リアルタイムPCR法では、増幅産物の操作の必要性が省かれ、増幅産物間の交差汚染のリスクが低減される。リアルタイムPCRにより、所要時間が大きく低減され、リアルタイムPCRは、臨床検査室における従来のPCR技術の魅力的な代替法である。
【0182】
以下の特許出願WO 97/46707、WO 97/46714およびWO 97/46712には、LightCyclerTM技術に使用されるリアルタイムPCRが記載される。LightCyclerTM装置は、高品質光学機器を利用した微量蛍光測定器と組み合わされた迅速サーマルサイクラーである。この迅速熱サイクル技術には、反応槽として薄いガラスキュベットが使用される。反応チャンバーの加熱および冷却は、加熱された空気と周囲の空気を交換することにより制御される。低質量の空気およびキュベットの容量に対して高い割合の表面積のために、非常に迅速な温度交換速度が熱チャンバー中で達成され得る。
【0183】
TaqMan(登録商標)技術には、2つの蛍光部分で標識された一本鎖ハイブリダイゼーションプローブが利用される。第一の蛍光部分が適当な波長の光で励起されると、吸収されたエネルギーは、FRETの原理に従って第二の蛍光部分に移行される。一般的に、第二の蛍光部分はクエンチャー分子である。この形式に使用される典型的な蛍光色素は、例えば、とりわけFAM、HEX、CY5、JA270、CyanおよびCY5.5である。PCR反応のアニーリング工程の間に、標識されたハイブリダイゼーションプローブは、標的核酸(すなわち増幅産物)に結合し、その後の伸長期に、Taqまたは好ましい変異型Z05ポリメラーゼなどの当業者に公知の別の適切なポリメラーゼの5'から3'のエキソヌクレアーゼ活性により分解される。結果的に、励起された蛍光部分およびクエンチャー部分は、空間的に互いに分離される。その結果、クエンチャーの非存在下での第一の蛍光部分の励起の際に、第一の蛍光部分からの蛍光放出が検出され得る。
【0184】
上記の両方の検出形式において、放出されたシグナルの強度は、元の標的核酸分子の数と相関され得る。
【0185】
FRETの代替法として、増幅産物は、蛍光DNA結合色素(例えば、SYBRGREEN I(登録商標)またはSYBRGOLD(登録商標) (Molecular Probes))などの二本鎖DNA結合色素を使用して検出され得る。二本鎖核酸との相互作用の際に、かかる蛍光DNA結合色素は、適当な波長の光での励起後に、蛍光シグナルを放出する。核酸インターカレート色素などの二本鎖DNA結合色素も使用され得る。二本鎖DNA結合色素を使用する場合、通常、増幅産物の存在の確認のために融解曲線分析が実施される。
【0186】
FRETと関連した分子ビーコンも、本発明のリアルタイムPCR法を使用した増幅産物の存在の検出に使用され得る。分子ビーコン技術には、第一の蛍光部分および第二の蛍光部分で標識されたハイブリダイゼーションプローブが使用される。一般的に第二の蛍光部分はクエンチャーであり、典型的に蛍光標識はプローブの両末端に配置される。分子ビーコン技術には、二次構造形成(例えばヘアピン)を可能にする配列を有するプローブオリゴヌクレオチドが使用される。プローブ内での二次構造形成の結果として、プローブが溶液中にある場合は、両方の蛍光部分は空間的に近位にある。増幅産物へのハイブリダイゼーション後、プローブの二次構造は壊され、蛍光部分は互いに分離され、適切な波長の光での励起後に、第一の蛍光部分の放出が検出され得る。
【0187】
従って、本発明による好ましい方法は、FRETを使用した上記の方法であり、前記プローブは、二次構造形成を可能にする核酸配列を含み、前記二次構造形成により、前記第一および第二の蛍光部分の間が空間的に近位になる。
【0188】
効率的なFRETは、蛍光部分が直接近位にある場合で、かつドナー蛍光部分の放出スペクトルがアクセプター蛍光部分の吸収スペクトルと重複する場合にのみ起こり得る。
【0189】
従って、好ましい態様において、前記ドナー蛍光部分およびアクセプター蛍光部分は、前記プローブ上で互いに5ヌクレオチド以内に存在する。
【0190】
さらに好ましい態様において、前記アクセプター蛍光部分はクエンチャーである。
【0191】
上記のように、TaqMan形式では、PCR反応のアニーリング工程中に、標識されたハイブリダイゼーションプローブが標的核酸(すなわち増幅産物)に結合し、その後の伸長期中に、Taqまたは好ましくは変異体Z05ポリメラーゼなどの当業者に公知の別の適切なポリメラーゼの5'側から3'側へのエキソヌクレアーゼ活性により分解される。
【0192】
従って、好ましい態様において、上記の方法において、増幅には、5'側から3'側へのエキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ酵素が使用される。
【0193】
上記の方法の結果として生成されるアンプリコンの長さを慎重に選択することがさらに有利である。一般的に、比較的短いアンプリコンは、増幅反応の効率を高める。従って、本発明の好ましい局面は、該増幅断片が450塩基まで、好ましくは300塩基まで、さらに好ましくは200塩基まで、さらに好ましくは150塩基までを含む、上記の方法である。
【0194】
本発明に使用される内部対照核酸および/または外部対照核酸は、定量、すなわち標的核酸の量を決定するために、参照に適しており、参照として使用される「定量標準核酸」として機能し得る。この目的のために、1つ以上の定量標準核酸は、標的核酸と共に、可能性のある全ての試料調製工程に供される。さらに、定量標準核酸は、同一の反応混合物中で、該方法の間ずっと処理される。該定量標準核酸は、直接または間接的に、標的核酸の存在下または非存在下の両方で、検出可能なシグナルを生成しなければならない。
【0195】
「生成すること」は、直接または間接的に生じることを意味する。従って「検出可能なシグナル」の文脈において、「生成すること」は、例えば蛍光シグナルを放出する蛍光色素の場合には「直接生じること」を意味し得るか、または「蛍光色素」などの「標識」を介してもしくは「蛍光色素」などの「標識」を保有する核酸プローブを介して、「微生物核酸」が「検出可能なシグナル」を「生成すること」などの「誘起すること」もしくは「誘導すること」の意味において「間接的に生じること」を意味し得る。
【0196】
定量標準核酸の濃度は、感度を妨害せずに、例えば非常に高い標的濃度で検出可能なシグナルも生成するために、それぞれの試験において慎重に最適化される必要がある。それぞれのアッセイの検出限界(LOD、下記参照)に関して、「定量標準核酸」の濃度範囲は、好ましくは20〜5000x LOD、より好ましくは20〜1000x LOD、最も好ましくは20〜5000x LODである。反応混合物中の定量標準核酸の最終濃度は、達成される定量的測定範囲に依存する。
【0197】
「検出限界」または「LOD」は、試料中の核酸の検出可能な最低の量または濃度を意味する。低い「LOD」は高い感度に対応し、高い「LOD」は低い感度に対応する。「LOD」は、通常、単位「cp/ml」、または特に核酸がウイルス核酸である場合はIU/mlのいずれかによって示される。「cp/ml」は「コピー/ミリリットル」を意味し、この場合、「コピー」は、それぞれの核酸のコピーである。IU/mlは「国際単位/ml」を表し、WHO標準を参照されたい。
【0198】
LODを計算するために広く使用されている方法は、「プロビット(Probit)分析」であり、これは、刺激(用量)と量子的(quantal)(全か無か)応答の間の関係の分析方法である。典型的な量子的応答実験において、動物群に種々の用量の薬物を与える。各用量レベルでの死亡パーセントを記録する。次いで、これらのデータはプロビット分析を用いて分析され得る。プロビットモデルでは、応答パーセントが累積正規分布として用量の対数と関連していると仮定する。すなわち、用量の対数は、累積正規分布から死亡パーセントを読み取るための変数として使用され得る。他の確率分布ではなく、この正規分布を使用すると、可能性のある用量の高値側の端および低値側の端では、予測される応答率は影響を受けるが、中央付近では、ほとんど影響を受けない。
【0199】
プロビット分析は、異なる「ヒット率」で適用され得る。当該技術分野で公知のように、「ヒット率(hitrate)」は、一般に、パーセント[%]で示され、分析物の特定の濃度での陽性結果の割合を示す。したがって、例えば、LODが95%ヒット率で測定され得る場合、これは、LODが、有効な結果の95%が陽性である状況(setting)で計算されることを意味する。
【0200】
好ましい態様において、上記の方法は、1〜100cp/mlまたは0.5〜50IU/ml、より好ましくは1〜75cp/mlまたは0.5〜30IU/ml、より好ましくは1〜25cp/mlまたは1〜20IU/mlのLODを提供する。
【0201】
特定のウイルス由来の可能性のある標的核酸のいくつかの例に関して、上記の方法は、好ましくは以下のLOD:
・HIV:60cp/mlまで、より好ましくは50cp/mlまで、より好ましくは40cp/mlまで、より好ましくは30cp/mlまで、より好ましくは20cp/mlまで、より好ましくは15cp/mlまで
・HBV:10IU/mlまで、より好ましくは7.5IU/mlまで、より好ましくは5IU/mlまで
・HCV:10IU/mlまで、より好ましくは7.5IU/mlまで、より好ましくは5IU/mlまで
・WNV I:20cp/mlまで、より好ましくは15cp/mlまで、より好ましくは10cp/mlまで
・WNV II:20cp/mlまで、より好ましくは15cp/mlまで、より好ましくは10cp/mlまで、より好ましくは5cp/mlまで
・JEV:100cp/mlまで、より好ましくは75cp/mlまで、より好ましくは50cp/mlまで、より好ましくは30cp/mlまで
・SLEV:100cp/mlまで、より好ましくは75cp/mlまで、より好ましくは50cp/mlまで、より好ましくは25cp/mlまで、より好ましくは10cp/mlまで
を提供する。
【0202】
定量標準核酸として機能する内部対照核酸に基づいたTaqMan形式の定量結果の計算をどのようにして行うかの例を以下に記載する:全PCR操作(run)由来の装置補正蛍光値の入力データから力価を計算する。標的核酸、および定量標準核酸として機能する内部対照核酸を含む試料の組を、特定の温度プロフィールを使用したサーマルサイクラーでPCRにかける。PCRプロフィール中の選択された温度および時間で、フィルタリングされた光を試料に照射し、標的核酸および内部対照核酸について、それぞれの試料についてのフィルタリングされた蛍光データを収集する。PCR操作を完了した後、蛍光読み取り値を処理して、内部対照核酸についての一組の色素濃度データおよび標的核酸についての一組の色素濃度データを得る。それぞれの組の色素濃度データは同じ様式で処理する。いくつかの妥当性(plausibility)チェックの後、内部対照核酸および標的核酸についてエルボー(elbow)値(CT)を計算する。該エルボー値は、標的核酸または内部対照核酸の蛍光が所定の閾値(蛍光濃度)と交差する点として定義される。力価の測定は、標的核酸ならびに内部および/または外部対照核酸が同じ効率で増幅されるという仮定、ならびに計算されたエルボー値で、標的核酸および内部対照核酸のアンプリコンの等量のコピーが増幅され、検出されるという仮定に基づく。従って、(CTQS-CT標的)は、log(標的濃度/QS濃度)に対して直線である。この文脈において、QSは、定量標準核酸のことを示す。次いで、例えば、多項較正形式を使用して、以下の式:
T'=10(a(CTQS-CT標的)2+b(CTQS-CT標的)+c)
のように、力価Tを計算することができる。
【0203】
多項式定数および定量標準核酸の濃度は既知であるので、唯一の等式中の変数は差(CTQS-CT標的)である。
【0204】
さらに、本発明の意味において、内部対照核酸または外部対照核酸は、「定性的対照核酸」として機能し得る。「定性的対照核酸」は、特に、定性的検出アッセイの試験結果の有効性を確認するために有用である。陰性結果の場合であっても、定性的対照を検出しなければならず、さもなければ試験自体が無効と見なされる。しかしながら、定性的設定において、陽性結果の場合には必ずしも定性的対照を検出する必要はない。結果的に、定性的対照の濃度は比較的低くなるはずである。定性的対照は、それぞれのアッセイおよびその感度について慎重に適合される必要がある。好ましくは、定性的対照核酸の濃度範囲は、1反応あたり1コピーから1反応あたり1000コピーまでの範囲を含む。それぞれのアッセイの検出限界(LOD)に関連して、定性的対照核酸の濃度は、好ましくは、アッセイのLOD〜LODの25倍の値、より好ましくはLOD〜10x LODである。より好ましくは、該濃度は、2x〜10x LODである。さらにより好ましくは、該濃度は、5x〜10x LODである。最も好ましくは、該濃度は、5xまたは10x LODである。
【0205】
上記の結果は質の悪いものであり得、例えば液体試料以外の供給源由来の核酸との交差汚染の場合は、偽陽性を含み得る。特に、以前の実験の増幅物(amplificate)は、このような望ましくない影響をもたらし得る。核酸増幅の交差汚染の影響を最小化するためのある特定の方法は、米国特許第5,035,996号に記載される。該方法には、dUTPなどの通常にはないヌクレオチド塩基を増幅産物に導入すること、および持ち越された産物を酵素および/または物理化学処理に曝露し、産物DNAがその後の増幅の鋳型となり得ないようにすることが含まれる。かかる処理のための酵素は当該技術分野において公知である。例えば、ウラシル-N-グリコシラーゼ、即ち、UNGとしても知られるウラシル-DNAグリコシラーゼは、ウラシル塩基を含むPCR産物からウラシル残基を除去する。該酵素処理は、汚染持ち越しPCR産物を分解し、増幅反応を「除夾雑(decontaminate)」するように機能する。
【0206】
従って、本発明の好ましい局面は、工程d.と工程e.の間に、
・他の試料由来の交差汚染核酸の増幅由来の産物が酵素により分解される条件下で、液体試料を酵素で処理する工程;
・前記酵素を不活性化する工程
をさらに含む、上記の方法である。
【0207】
好ましくは、該酵素はウラシル-N-グリコシラーゼである。
【0208】
本発明による方法において、全ての工程が自動化されることが好ましい。「自動化される」は、方法の工程が、外部制御をほとんどもしくは全く有さずに、またはヒトによる影響をほとんどもしくは全く受けることなく、稼動し得る装置または機械を用いて実行されることに適していることを意味する。該方法のための調製工程だけは手動で行う必要があり得、例えば貯蔵容器は、充填および設置される必要があり、試料の選択および当業者に公知のさらなる工程、例えば制御コンピューターの操作は、ヒトによって実施される必要がある。装置または機械により、例えば自動的に液体が添加されるか、試料が混合されるか、または特定の温度でのインキュベーションが実行され得る。典型的に、かかる機械または装置は、単一の工程およびコマンドが特定されたプログラムを実行するコンピューターにより制御されるロボットである。
【0209】
本発明のさらなる局面は、少なくとも1つの液体試料中に存在し得る標的核酸を増幅するための分析システム(440)であり、前記システムは、
・反応層を含む増幅ステーション(405)、前記反応槽は、増幅試薬、精製された標的核酸および精製された内部対照核酸、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を含む、
を含み、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸は、前記精製された標的核酸とは異なる槽に含まれる。
【0210】
「分析システム」は、所定の試料を分析することを最終目的とした、互いに相互作用する装置などの構成部分の配置(arrangement)である。
【0211】
前記分析システムの利点は、本発明の方法に関して上記のものと同一である。
【0212】
本発明の分析システム(440、図11)は、分析物を単離および/または精製するためのモジュール(401)を含むシステム(440)である。さらに、該システム(440)は、前記分析物を分析して検出可能なシグナルを得るためのモジュール(403)をさらに含む。検出可能なシグナルは、同一のモジュール(401、402、403)で検出され得るか、代替的には別のモジュールで検出され得る。用語「モジュール」は、本明細書で使用する場合、該分析器(400)中の空間的に画定された任意の位置に関する。2つのモジュール(401、403)は、壁により分離され得るか、または開放関係にあり得る。任意の1つのモジュール(401、402、403)は、自律的に制御され得るか、または該モジュール(401、402、403)の制御は、他のモジュールと共有され得るかのいずれかである。好ましくは、全てのモジュールは、中心で制御される。モジュール(401、402、403)間の移送は手動であってもよいが、好ましくは自動化される。従って、自動化分析器(400)の多くの種々の態様は、本発明に包含される。
【0213】
本発明の好ましい局面は、
・前記少なくとも1つの液体試料中に含まれる核酸を分離および精製するように構築および配列された、固相支持体材料を含む分離ステーション
をさらに含む、上記の分析システムである。
【0214】
「分離ステーション」は上記される。
【0215】
「増幅ステーション(amplification station)」は、少なくとも2つの反応槽の内容物をインキュベートするための温度制御されたインキュベーターを含む。増幅ステーションは、PCRなどの試料の分析のための反応が起こるチューブまたはプレートなどの種々の反応槽をさらに含む。かかる槽の外側境界または壁は、その中で起こる増幅反応を妨害しないように化学的に不活性である。取り扱いの容易さのためおよび自動化を容易にするために、少なくとも2つの反応層を一体型配列に組み合わせて、一緒に操作できるようにすることが好ましい。
【0216】
結果的に、本発明の好ましい局面は、少なくとも2つの反応槽が一体型配列(integral arrangement)に組み合わされた、上記の分析システムである。
【0217】
一体型配列は、例えば互いに可逆的もしくは不可逆的に結合されるかまたはラック中に配列されるバイアルまたはチューブであり得る。好ましくは、一体型配列はマルチウェルプレートである。
【0218】
従って、本発明の好ましい局面は、前記一体型配列がマルチウェルプレートであり、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が前記精製された標的核酸とは異なるウェルに含まれる、上記の分析システムである。
【0219】
本発明による方法との関連において記載されるように、いくつかの態様において、先に定義された陰性対照を含むことが好ましい。
【0220】
従って、本発明の好ましい局面は、前記増幅ステーションが前記精製された標的核酸および前記水性バッファ中の外部対照核酸とは異なる槽に陰性対照をさらに含む、上記の分析システムである。
【0221】
本発明のさらに好ましい局面において、前記陰性対照は、前記外部対照核酸についての液体マトリックスとして機能するものと同じバッファである。
【0222】
別の好ましい態様において、前記陰性対照は水である。
【0223】
好ましくは、前記マルチウェルプレートは保持ステーションに保持される。より好ましい態様において、1つのハンドラー(handler)は、マルチウェル槽を、保持ステーションからからエアーロック(460)に移送し、第二のハンドラーは、前記マルチウェルプレートを、前記エアーロックから前記増幅ステーションに移送し、ここで両方のハンドラーは、形態ロッキング(form-locking)相互作用により前記マルチウェルプレートと相互作用する。
【0224】
好ましい態様において、該分析システムは完全に自動化される。
【0225】
一態様において、一体型配列中で組み合わされた少なくとも2つの反応槽は、該システムのステーション間で移送される。
【0226】
第二の態様において、精製された標的核酸は、前記分離ステーションから前記増幅ステーションに移送される。好ましくは、ピペットチップが取り付けられたピペットを含むピペッターで、精製された核酸を含む液体を移送する。
【0227】
第三の態様において、精製された核酸は、前記分離ステーションから、保持ステーションに保持された一体型配列中の反応槽に移送される。好ましくは、上記一体型配列中の反応槽は、その後、前記保持ステーションから前記増幅ステーションに移送される。
【0228】
本発明による分析システムは、好ましくは、ピペッティングユニットをさらに含む。前記ピペッティングユニットは、少なくとも1つのピペット、好ましくは多数のピペットを含む。好ましい態様において、前記多数のピペットは、ピペットが好ましくは個々に操作され得る1つ以上の一体型配列中で組み合わされる。本発明の文脈において使用されるピペットは、好ましくは上記のピペットチップを含むピペットである。別の好ましい態様において、ピペットはピペッティングニードルである。
【0229】
代替的に、分離ステーションにおける試料調製に使用され、精製された標的核酸を含む液体を含む反応槽または反応槽の配置(arrangement)は、分離ステーションから増幅ステーションに移送され得る。
【0230】
この目的のために、本発明による分析システムは、好ましくは移送ユニットをさらに含み、前記移送ユニットは、好ましくはロボットデバイスを含み、前記デバイスは、好ましくはハンドラーを含む。
【0231】
本発明の方法に関して上記の理由のために、以下が本発明のさらに好ましい局面である:
・少なくとも1つの反応槽がRNA標的核酸およびDNA標的核酸を含む、上記の分析システム(440)。
・少なくとも1つの反応槽がRNA標的核酸を含み、少なくとも1つの他の反応槽がDNA標的核酸を含む、上記の分析システム(440)。
【0232】
好ましくは、上記の分析システム(440)はさらに:
・分析物により引き起こされたシグナルを検出するための検出モジュール(403)
・シーラー(410)
・試薬および/または使い捨て品のための貯蔵モジュール(1008)
・システム構成部分を制御するための制御ユニット(1006)
からなる群より選択される、1つ以上の要素を含む。
【0233】
「検出モジュール」(403)は、例えば増幅手順の結果または効果を検出するための光学検出ユニットであり得る。光学検出ユニットは、光源、例えばキセノンランプ、ミラー、レンズ、光学フィルター、光ファイバーなどの光を誘導およびフィルタリングするための光学機器、1つ以上の参照チャンネル、またはCCDカメラもしくは異なるカメラを含み得る。
【0234】
「シーラー」(410)は、本発明の分析システムに関連して使用される任意の槽を密封するために構築され、かつ配置される。かかるシーラーは、例えばチューブを適切なキャップで、またはマルチウェルプレートをホイルもしくは他の適切なシーリング材で密封し得る。
【0235】
「貯蔵モジュール」(1008)は、液体試料の分析に重要な化学的反応または生物学的反応を引き起こすために必要な試薬を保存する。貯蔵モジュールはまた、本発明の方法に有用なさらなる構成部分、例えばピペットチップあるいは分離ステーションおよび/または増幅ステーション中で反応槽として使用される槽などの使い捨て品を含み得る。
【0236】
好ましくは、本発明の分析システムはさらに、システム構成部分を制御するための制御ユニットを含む。
【0237】
かかる「制御ユニット」(1006)は、前記分析システムの異なる構成部分が、正確に働き、相互作用してかつ正確なタイミングで働き、相互作用する、例えばピペットなどの構成部分を協調した様式で移動させ、操作することを確実にするためのソフトウェアを含み得る。該制御ユニットはまた、リアルタイムアプリケーションを意図するマルチタスキングオペレーティングシステムであるリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)を稼動させるプロセッサを含み得る。換言すると、該システムプロセッサは、リアルタイムな制約、すなわちシステム負荷に関係のない、事象からシステム応答への操作上の期限を管理し得る。制御ユニットは、システム中の異なるユニットが所定の命令に従って正確に作動し応答することをリアルタイムに制御する。
【0238】
好ましい態様において、本発明は、
a. 液体試料(1010)を直線配列中に含む第一のレセプタクル(receptacle)(1001)、液体試料(1011)を保持するためのnxm配列中にレセプタクル(103)を含む処理プレート(101)、直線配列中に少なくとも2つのピペッティングユニット(702)を含む第一のピペッティングデバイス(700)(ここで前記ピペッティングユニット(702)は、ピペットチップ(3、4)と連結される)、およびax(nxm)配列中にピペットチップ(3、4)を含むチップラック(70)を含む第一の位置;
b. 前記処理プレート(101)のためのホルダー(201、128)、マルチウェルプレートのためのホルダー(330)、前記チップラック(70)のためのホルダー(470)および第二のピペッティングデバイス(35)を含む第二の位置、ここで前記第二のピペッティングデバイス(35)は、nxm配列中にピペットチップ(3、4)を連結するためのピペッティングユニット(702)を含む、
を含む、分析物を処理するための分析システム(440)に関する(図12)。用語「ホルダー」は、本明細書で使用される場合、ラックまたは処理プレートを受けることができる任意の配列に関する。
【0239】
本発明の分析システム(440)の利点は、本発明の方法について上記されるとおりである。
【0240】
好ましくは、前記第一のピペッティングデバイス(700)のピペッティングユニット(702)の位置は可変的である。前記第一のピペッティングデバイス(700)の好ましい態様は以下に記載される。
【0241】
一態様において、チップラック(70)は、ax(nxm)配列中にピペットチップ(3、4)を含む。好ましくは、第一の型(4)および第二の型(3)のピペットチップは、チップラック(70)に含まれる。この態様において、第一の型のピペットチップ(4)は、nxm配列に配列され、第二の型のピペットチップ(3)は、nxm配列に配列される。この文脈において、「n」は行の数を示し、mは列の数を示し、nは好ましくは6であり、mは好ましくは8である。より好ましくは、第一の型のピペットチップ(4)は、第二の型のピペットチップとは異なる容積を有し、最も好ましくは、第一の型のピペットチップ(4)の容積は500μlより大きく、第二の型のピペットチップ(3)の容積は500μl未満である。この態様において、a=2である。しかしながら、2つより多くの型のピペットチップを有する本発明の態様、従ってa>2の態様も、本発明に含まれる。
【0242】
一局面において、本発明の分析システム(440)は、試料型および個々の試験を前記処理プレート(101)の個々の位置に指定する制御ユニット(1006)を含む。好ましくは、前記位置は、別々のセル(401、402)である。
【0243】
本発明の一局面において、該システムはさらに、第一(402)と第二(401)の位置の間に前記処理プレート(101)を移送するための移送システム(480)および前記ラック(70)を含む。前記移送システム(480)の好ましい態様は、コンベアベルトであり、またはより好ましくは1つ以上のハンドラーである。
【0244】
さらに、好ましくは、前記第二のピペッティングデバイス(35)の前記ピペットユニットは、第一の位置(402)で使用されたピペットチップ(3、4)に連結される。
【0245】
本発明のシステム(440)の好ましい態様は、さらに、前記分析物を、検出可能なシグナルを得るために必要な試薬とインキュベートするための温度制御されたインキュベーターを含む第三のステーション(403)を含む。このシステムのさらに好ましい態様を以下に記載する。
【0246】
試料および試験のnxm配列への指定のより最適な制御は、前記制御ユニット(1006)が試料の型および個々の試験を処理プレート(101)の槽(103)のnxm配列における特定の位置に指定するための命令を伝達する、前記第一の位置(402)に含まれる第一のプロセッサ(1004)、ならびに前記制御ユニット(1006)が試料の型および個々の試験を処理プレートの槽(103)のnxm配列における特定の位置に指定するための命令を伝達する、前記第二の位置(401)に含まれる第二のプロセッサ(1005)により達成される。
【0247】
好ましくは、前記システムはさらに、前記第一の位置に配列された第一のプロセッサおよび前記第二の位置に配列された第二のプロセッサを含む。
【0248】
より好ましくは、前記第一のプロセッサ(1004)は、前記第一のピペッティングデバイス(700)を制御し、前記第二のプロセッサ(1005)は、前記第二のピペッティングデバイス(35)を制御する。
【0249】
本発明のさらに好ましい局面は、1つより多くの外部対照核酸を含む上記の方法または分析システムである。
【0250】
かかる態様において、単一の液体試料または複数の異なる液体試料におそらく含まれる複数の異なる標的核酸が、有利に分析され得る。例えば、前記外部対照核酸は、それぞれの標的核酸と同様または同一の配列を有する標的特異的対照核酸として設計され得る。標的特異的外部対照核酸を設計する方法は、当業者に公知である。
【0251】
本発明による分析システムの全ての他の好ましい態様および本発明による分析システムの態様の具体的な説明は、本発明による方法について記載されたものである。
【実施例】
【0252】
実施例
以下の実施例には、本発明を実施し得る態様が記載される。これらの実施例は限定的ではなく、本発明の精神を逸脱することなく改変され得ることが当業者には明白であろう。
【0253】
実施例1
この実施例には、標的核酸を単離、増幅および検出する方法が記載され、前記方法は、水性バッファ中に外部対照核酸を含む。
【0254】
簡潔に、記載される態様において、3種類の異なるウイルス標的核酸HIV、HBVおよびHCVに対して同一の条件下でリアルタイムPCRを行なった。全ての標的について、標準的な材料を使用した、適切な標準または他の型の標的は当業者に利用可能である。
【0255】
以下の表に列挙される装置を、それぞれの製造業者の指示書に従って使用した:
【0256】

【0257】
HIV、HBVおよびHCVの組み合わせたパネルを、表1に列挙される濃度で表2に従ってNHPマトリックスおよび水性バッファマトリックス中で作製した。NHPに基づくパネルおよびバッファに基づくパネルを、Hamilton Star Proc. 1.6.1を用いて28の複製物で操作(run)した。NHPは、SeraCare Life Science (Milford, MA, USA)から得た。
【0258】

【0259】

【0260】
全てのアッセイについて、一般的内部対照核酸として機能するRNA分子を添加した(100外装粒子/試料)。前記一般的対照核酸の配列は、全ての場合で同一であり、配列番号86〜89の群から選択した。
【0261】
図1に示すスキームによる作業流れに従って、Hamilton Star (Hamilton, Bonaduz, CH)で試料調製を行なった。
【0262】
最終工程の後、Hamilton Star装置のプロセスヘッドから、増幅試薬を含むそれぞれのマスターミックス(Mmx)を各ウェルに添加し、単離された核酸を含む液体とMmxを混合し、それぞれの得られた混合物を、増幅が行なわれるマイクロウェルプレートの対応するウェルに移した。
【0263】
以下の(2種類の試薬R1およびR2からなる)PCR Mmxを全ての試験核酸に使用した:
【0264】

【0265】
PCRについて、Mmx試薬を以下のように組み合わせ、1回のPCR当たり総量50μlまで添加した:
【0266】

【0267】
増幅および検出のため、マイクロウェルプレートを自動プレートシーラー(上記参照)で密封し、プレートをLightCycler 480(上記参照)に移した。
【0268】
以下のPCRプロフィールを使用した:
【0269】

【0270】
上記のマイクロウェルプレートに含まれた全ての試料のアッセイの結果として、図2に示されるように、全ての試料で増幅および検出を達成した。これは、増幅前の試料調製も成功裡に行われたことを示す。
【0271】
さらに、水性バッファ(ICバッファ)中に核酸を含むPCRは、正常ヒト血漿(NHP)中に核酸を含むPCRと同等の効率を示した。詳細に、以下の結果が得られた(対応するPCR曲線を図2a〜fに示す):
【0272】

【0273】

【0274】

【0275】
実施例2
実施例1と同じ標的材料のパネルを、前述のものと同等の条件下でアッセイした。
【0276】
標的核酸は液体試料中で以下の濃度を有した:
【0277】

【0278】
このパネルに加えて、陰性対照(核酸を含まない試料マトリックス)をアッセイした。
【0279】
以下の結果が得られた:
【0280】

【0281】
実施例3
LOD(検出限界)値を測定するために、同等の条件下で実施例2のパネルをさらに、以下の表に記載の種々の希釈物で分析した:
【0282】

【0283】

【0284】

【0285】

【0286】

【0287】

【0288】

【0289】
実施例4
上記のHIV標準物質は、先に記載のものと同等の条件下で定量的にアッセイした。NHPおよび記載の水性バッファ(ICバッファ)中でHIV物質の力価を測定した。
【0290】
HIVは以下の濃度で使用した(HPC=高陽性対照;LPC=低陽性対照):
【0291】

【0292】
これは、NHPに基づくHIV試料とICバッファに基づくHIV試料の間の正確さ試験を示し、2種類のマトリックス間の平均log10力価の差で明らかなように、両方の陽性対照について陽性の同等性が示された。LPCおよびHPCについての2種類のマトリックス(NHP-バッファ)間の平均log10力価(cp/mL)の差は:
LPC: -0.03
HPC: -0.08
であった。
【0293】
1試料マトリックス当たり、42の複製で標的陽性コントロールを試験した。
【0294】
全ての平均log10力価の差は、±0.5 log10力価以内であった。従って、該実験は、ICバッファとNHPマトリックスについてのマトリックス同等性を示す。
【0295】
実施例5
定量的なHIVアッセイの感度を示すLOD値を、実施例2に記載の核酸パネルと類似の様式で測定した。結果は、HIVアッセイの感度は、両方の試料マトリックスについての95%信頼区間の重複で明らかなように、両方の試料マトリックスで同等であることを示す(表19および表20参照)。
【0296】

【0297】

【0298】
実施例6
NHPに基づくHCV試料およびICバッファに基づくHCV試料についての長期安定性試験により、RMCの安定性は、6ヶ月貯蔵後の安定なヒット率、CT値およびRFI(相対蛍光強度)値で明らかなように両方の対照マトリックスで同等であることが示された(表22参照)。
【0299】
以下の高陽性対照(HPC)および低陽性対照(LPC)を使用した:
【0300】

【0301】
以下の結果が得られた:
【0302】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの液体試料中に存在し得る少なくとも1つの標的核酸を単離、増幅および検出するための方法であって、該方法は、
a.液体試料に内部対照核酸を添加する工程
b. 固相支持体材料と前記液体試料を、槽中で、標的核酸および内部対照核酸を含む核酸が固相支持体材料に固定化されるのに充分な時間および条件下で一緒に合わせる工程
c. 分離ステーション中で、液体試料中に存在する他の物質から固相支持体材料を分離する工程
d. 前記分離ステーション中で核酸を精製し、固相支持体材料を洗浄バッファで1回以上洗浄する工程
e. 精製された標的核酸および精製された内部対照核酸を少なくとも第一の槽内で、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を少なくとも第二の槽内で、1つ以上の増幅試薬と接触させる工程、ならびに
f. 前記反応槽内で、前記精製された標的核酸、前記精製された内部対照核酸および前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を、前記1つ以上の増幅試薬と、前記標的核酸および前記対照核酸の存在または非存在を示す増幅反応が生じるのに充分な時間および条件下でインキュベートする工程
の自動化された工程を含み、工程e.〜f.における増幅の条件が、前記精製された標的核酸、前記内部対照核酸および前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸について同じである、方法。
【請求項2】
該水性バッファが、6〜12のpHを有し、
・Tris: 1〜100mM
・EDTA: 0.01〜1mM
・アジ化ナトリウム: 0.005〜0.5%(w/v)、および
・ポリ(rA)RNA: 1〜200mg/l
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該水性バッファが約8のpHを有し、
・Tris: 10mM
・EDTA: 0.1mM
・アジ化ナトリウム: 0.05%(w/v)、および
・ポリ(rA)RNA: 20mg/l
を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程a.の後の全ての工程に、陰性対照が供される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程a.の後の工程に、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が供される、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの液体試料が臨床試料である、請求項1〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
以下:
g. 前記標的核酸の量を測定する工程
をさらに含む、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの液体試料中に存在し得る標的核酸を増幅するための分析システム(440)であって、該システムは、
・反応槽を含む増幅ステーション、前記反応槽は、増幅試薬、精製された標的核酸および精製された内部対照核酸、ならびに水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸を含む、
を含み、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が、前記精製された標的核酸とは異なる槽に含まれる、分析システム。
【請求項9】
・固相支持体材料を含む分離ステーション、該分離ステーションは、前記少なくとも1つの液体試料中に含まれる核酸を分離および精製するように構築および配列されている、
をさらに含む、請求項8記載の分析システム。
【請求項10】
前記増幅ステーションに含まれる前記反応槽が、一体型配列で配列される、請求項8または9記載の分析システム。
【請求項11】
前記一体型配列がマルチウェルプレートであり、前記水性バッファ中の少なくとも1つの外部対照核酸が前記精製された標的核酸とは異なるウェルに含まれる、請求項10記載の分析システム。
【請求項12】
前記増幅ステーションが、前記精製された標的核酸および前記水性バッファ中の外部対照核酸とは異なる槽中に、陰性対照をさらに含む、請求項8〜11いずれか記載の分析システム。
【請求項13】
前記陰性対照が、前記外部対照核酸の液体マトリックスとして機能するものと同じバッファである、請求項12記載の分析システム。
【請求項14】
・分析物により引き起こされるシグナルを検出するための検出モジュール
・シーラー
・試薬および/または使い捨て品のための貯蔵モジュール、ならびに
・システム構成部分を制御するための制御ユニット
からなる群より選択される1つ以上の要素をさらに含む、請求項8〜13いずれか記載の分析システム。
【請求項15】
1つより多くの外部対照核酸を使用する、請求項1〜7いずれか記載の方法。
【請求項16】
1つより多くの外部対照核酸を含む、請求項8〜14いずれか記載の分析システム。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−135306(P2012−135306A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−274559(P2011−274559)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】