説明

対物レンズユニット

【課題】生体内観察に使用する際にも観察対象の自由度を高めつつ、レンズの焦点位置の調整をも容易にすることで、エバネッセント光照明を実現すること。
【解決手段】この対物レンズユニット1は、観察対象の試料Aに近接させて試料Aの像を拡大するための対物レンズユニットであって、対物レンズ2の先端を覆い、その先端側に向けて径が小さくなるようなテーパ部11が形成された略円筒状のレンズ収容カバー4を備え、レンズ収容カバー4は、テーパ部11の先端側において対物レンズ2の光軸L1に対して略垂直な面に沿って設けられた窓部12と、対物レンズ2の基端側において対物レンズ2を光軸L1に沿った方向に移動可能に把持する駆動用リング部材6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察対象の試料に近接させて試料の像を拡大するための対物レンズユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分子生物学の発展に伴って、生きた細胞内の分子を観察するようなことが求められている。また、さらに一層の発展を望む場合は、生きた動物等の生体中で分子観察を行うことが必須となる。生体内の分子活動を一個の分子を観測することによって解析する方法としては、蛍光相関分光法(FCS:Fluorescence Correlation Spectroscopy)が知られているが、この方法で得られる情報は、直接的なものではなく多数分子の観察から得られる情報である。これは、FCSではイメージ形成が困難であり、微細な生理反応を観察できないことに起因する。
【0003】
これに対して、生体内の分子観察に対物レンズを用いることも試みられている。具体的には、超高開口数の対物レンズとカバーガラスとの間を油浸して、対物レンズの焦点をカバーガラス表面に合わせる。そして、レーザ光を対物レンズの基端側から導入することによりガラス表面にエバネッセント光を当てて、このエバネッセント光による励起によって分子の蛍光イメージを観察する。
【0004】
ここで、生物以外の非加工物の観察に用いる対物レンズの構成例は、下記特許文献1に記載されている。この画像認識装置に使用される対物レンズは、透光性のカバー材として先端面にカバーガラスが取り付けられた補助鏡筒が設けられ、対象物のステージからの輻射熱による影響を低減している。
【特許文献1】特開2005−183639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の対物レンズを用いた場合は、生体内で支障なく使用することは困難であった。すなわち、カバーガラスは観察対象物である標本の上部を覆うように配置され、対物レンズをカバーガラス上で横方向に移動させることによって視野を選ぶのが通常であるので、カバーガラスの下に配置する標本の大きさ及び形状に制限が生じてしまう。例えば、カバーガラスの表面に細胞を培養したものを観察したり、生物組織にある程度の大きさのカバーガラスを押し当てることにより観察したりしていたため、生体内の細かい組織の任意の場所に対物レンズを配置させることは困難であった。また、従来の補助鏡筒を備えるレンズを用いたとしても、観察対象物の大きさ及び形状に制限が生じるとともに、対物レンズの焦点をカバーガラスに合わせる際の調整が面倒になる傾向にあった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、生体内観察に使用する際にも観察対象の自由度を高めつつ、レンズの焦点位置の調整をも容易にする対物レンズユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の対物レンズユニットは、観察対象の試料に近接させて試料の像を拡大するための対物レンズユニットであって、対物レンズの先端を覆い、その先端側に向けて径が小さくなるようなテーパ部が形成された略円筒状のレンズ収容体を備え、レンズ収容体は、テーパ部の先端側において対物レンズの光軸に対して略垂直な面に沿って設けられた窓部と、対物レンズの基端側において対物レンズを光軸に沿った方向に移動可能に把持する駆動部とを有する。
【0008】
このような対物レンズユニットは、円筒状のレンズ収容体に対物レンズの先端が収められ、レンズ収容体の対物レンズの先端側にはテーパ部が形成され、レンズ収容体のテーパ部側の先端面にはカバーガラスとしての役割を持つ窓部が形成されている。従って、この窓部を観察対象の試料に近接配置して観察することで、生体等の様々な表面形状を有する対象物を観察する場合や、対象物の内部を観察する場合であってもレンズを容易に配置させることができる。あわせて、駆動部により対物レンズと窓部との距離が調整可能にされているので、窓部に対する対物レンズの焦点位置を容易に調整することができる。
【0009】
レンズ収容体は、対物レンズの先端と窓部との間において、イマージョンオイルを収容するための間隙が形成されていることが好ましい。この場合、対象物を高倍率で観察する必要がある場合に、対物レンズ用のイマージョンオイルを対物レンズと窓部との間に容易に配置させることができる。特に、レンズ収容体にはテーパ部が形成されているので、イマージョンオイルを間隙部に安定して配置させることができる。
【0010】
また、駆動部は、対物レンズの外径よりも大きな内径を有するようにリング状に形成された圧電素子を含むことも好ましい。かかる駆動部を備えれば、観察対象物に対する対物レンズの焦点位置の移動をスムーズにするとともに、外部からの制御による焦点位置の調整が容易に実現される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体内観察に使用する際にも観察対象の自由度を高めつつ、レンズの焦点位置の調整をも容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る対物レンズユニットの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の好適な一実施形態である対物レンズユニット1の側面図、図2は、対物レンズユニット1のレンズ収容カバー4の分解斜視図である。同図に示す対物レンズユニット1は、光学顕微鏡等に装着されて、生体内の組織のイメージを分子レベルで観察するための装置である。
【0014】
これらの図に示すように、対物レンズユニット1は、観察対象の試料Aに近接配置されて試料Aの像を拡大する対物レンズ2と、対物レンズ2の先端を覆うレンズ収容カバー(レンズ収容体)4とからなる。この観察対象の試料Aとしては、生体や被加工物等のあらゆるものを対象としうるが、対物レンズユニット1は、特に動物等の生体組織の表面又は内部を分子レベルで観察するのに適した構造を有している。
【0015】
対物レンズ2は、内部に複数のレンズが収容された略円筒状の筐体3を有し、その複数のレンズの光軸L1は、筐体3の中心軸線にほぼ平行になるように構成されている。この対物レンズ2としては、倍率及び開口数が特定の数値のものには限定されないが、例えば、倍率60x、開口数1.0のものが使用される。
【0016】
対物レンズ2の先端側は、レンズ収容カバー4によって覆われている。このレンズ収容カバー4は、対物レンズ2の先端側を覆うキャップ部材5と、対物レンズ2を把持してその焦点位置を調整するための駆動用リング部材(駆動部)6とが組み合わされた構造を有している。
【0017】
駆動用リング部材6は、対物レンズ2の基端側の外径とほぼ等しい内径を有するリング状の永久磁石7と、対物レンズ2の基端側の外径よりも大きな内径を有するリング状の圧電素子8とが、互いの中心軸線を一致させた状態で接合されて一体化された構造を有する。圧電素子8は、リード線9を介して外部から電気信号が与えられ、その電気信号に応じて中心軸線方向(図1の矢印に沿った方向)に伸縮する誘電体素子である。このような誘電体素子としては、積層型の圧電素子が好適に用いられる。この駆動用リング部材6は、対物レンズ2が永久磁石7及び圧電素子8の内側に対物レンズ2の長手方向に沿って挿入される際に、永久磁石7によって対物レンズ2の基端側の側面を把持することによって、レンズ収容カバー4内における対物レンズの位置を安定化させる。さらに、駆動用リング部材6は、リード線9に与えられた電気信号に応じて、レンズ収容カバー4に対して対物レンズ2をその長手方向に沿って移動させる機能を有する。
【0018】
キャップ部材5は、略円筒状の中空部を有する金属部材であり、その中空部の形状は対物レンズ2を収容可能なように対物レンズ2の外形に対応した形状を有する。このキャップ部材5の開口縁部には、対物レンズ2の外径よりも大きな内径を有するリング状の永久磁石10が固定されている。このようなキャップ部材5は、その開口縁部が駆動用リング部材6の圧電素子8側に近づけられると、永久磁石7,10間の引力により、駆動用リング部材6と一体化されて結合される(図2参照)。その結果、キャップ部材5の中空部内に、駆動用リング部材6によって把持された対物レンズ2が、その光軸L1がキャップ部材5の中心軸線に対して略平行になるような状態で収められる。
【0019】
キャップ部材5の形状について詳述すると、キャップ部材5には、対物レンズ2の先端側に向けて内径及び外径が小さくなるような略円錐状のテーパ部11が形成されている。そして、このテーパ部11の先端面には、対物レンズ2の光軸L1に対して略垂直な方向に沿って対物レンズ2の外径より小さい径を有する窓部12が形成され、この窓部12は円板状のガラス材によって塞がれている。なお、このテーパ部11は、対物レンズ2の先端を窓部12の近傍にまで挿入できるように、対物レンズ2の先端形状に対応した形状及び大きさに形成されている。このとき、テーパ部11の先端部の内側における対物レンズ2の先端面と窓部12との間には、間隙13が形成されている。この間隙13は、高倍率、高開口数の対物レンズ2を使用する際に対物レンズ2の先端面のトップレンズとカバーガラスとの間に満たされるイマージョンオイルを収容するためのものである。
【0020】
以上説明した対物レンズユニット1によれば、円筒状のレンズ収容カバー4に対物レンズ2の先端が収められ、レンズ収容カバー4の対物レンズ2の先端側にはテーパ部11が形成され、テーパ部11側の先端面にはカバーガラスとしての役割を持つ窓部12が形成されている。従って、この窓部12を観察対象の試料Aに近接配置して観察することで、生体等の様々な表面形状を有する対象物を観察する場合や、対象物の内部を観察する場合であってもレンズを容易に配置させることができる。具体的には、切り開いた体内組織に対物レンズユニット1の先端を挿入することで、生体内の深部にカバーガラスと一体化されたレンズを直接置くことができる。これによって、分子ごとの活動が、動物個体の中で正常な環境下に置かれている細胞内で観察できるようになる。
【0021】
一例としては、図4に示すように、超高開口数(NA>1.33)のレンズ系を用いた従来のエバネッセント光を利用した観察方法においては、対物レンズ902を試料Aの上に置いたカバーガラス903上に配置させる必要があった。また、従来の観察方法(倒立型)では、カバーガラスと同じような大きさと材質の培養ディッシュ904に対して対物レンズ902を逆さまに配置させたり(図5)、カバーガラス903の表面上に細胞を培養し、そのカバーガラス903を裏返しにした状態でその上部に対物レンズ902の先端を配置させる(図6、正立型)といったことが行われていた。しかしながら、このような従来方法ではカバーガラス越しに標本を配置しなければならないという制約がある。これに対して、対物レンズユニット1によれば、培養ディッシュ15の底面に付着した培養細胞Bの上部に窓部12を密着させることができ、これによって培養細胞Bの上部にエバネッセント光を照射することが可能なる。その結果、培養細胞Bの細胞膜近傍の蛍光分子像を得ることができる。ここでは、観察対象によっては、平面的に密着させるために対物レンズユニット1と細胞B間にある程度の圧力をかける必要はあるが、その強さを制限したり、ゆっくりと圧力をかける等の方法で細胞Bの生存を保つことができる。従って、正立型の顕微鏡での観察が容易になり、倒立型と正立型の観察方法の両方を同時に利用して、細胞の上面と底面とを同時に観察できる。
【0022】
あわせて、圧電素子を利用した駆動用リング部材6により対物レンズ2と窓部12との距離が調整可能にされているので、窓部12に対する対物レンズ2の焦点位置をスムーズに調整することができる。なお、対物レンズユニット1においては、対物レンズ2の側面側から光軸L1に沿ってレーザ光14を入射させると、油浸された対物レンズ2内の光学系の焦点が窓部12近傍に設定されている場合には窓部12に対してレーザ光14が斜めに入射するので、窓部12から外部にエバネッセント光を照射することができる(図1参照)。また、それ以外に、落射照明や共焦点照明も可能である。
【0023】
また、試料Aを高倍率で観察する必要がある場合に、対物レンズ2用のイマージョンオイルを対物レンズ2と窓部12との間の間隙13に容易に配置させることができる。特に、レンズ収容カバー4にはテーパ部11が形成されているので、イマージョンオイルを間隙13に安定して配置させることができる。
【0024】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、キャップ部材5の材料としては、金属には限定されず、プラスチック等の樹脂材料によって形成されていてもよい。ただし、変形しにくいという点から金属材料からなるものであることが好ましい。
【0025】
また、駆動用リング部材6の一部を構成する圧電素子の代わりに、モータ等の駆動手段や形状記憶合金を利用した駆動装置等によって、レンズ収容カバー4に対する対物レンズ2の位置を光軸L1方向に沿って調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の好適な一実施形態である対物レンズユニットの側面図である。
【図2】図1のレンズ収容カバーの分解斜視図である。
【図3】図1の対物レンズユニットの使用状態を示す側面図である。
【図4】従来の対物レンズユニットの使用状態を示す側面図である。
【図5】従来の対物レンズユニットの他の使用状態を示す側面図である。
【図6】従来の対物レンズユニットの他の使用状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1…対物レンズユニット、2…対物レンズ、4…レンズ収容カバー(レンズ収容体)、6…駆動用リング部材(駆動部)、8…圧電素子、11…テーパ部、12…窓部、13… 間隙部、14…レーザ光、L1…光軸、A…試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象の試料に近接させて前記試料の像を拡大するための対物レンズユニットであって、
前記対物レンズの先端を覆い、前記先端側に向けて径が小さくなるようなテーパ部が形成された略円筒状のレンズ収容体を備え、
前記レンズ収容体は、
前記テーパ部の先端側において前記対物レンズの光軸に対して略垂直な面に沿って設けられた窓部と、
前記対物レンズの基端側において前記対物レンズを前記光軸に沿った方向に移動可能に把持する駆動部とを有する、
ことを特徴とする対物レンズユニット。
【請求項2】
前記レンズ収容体は、前記対物レンズの先端と前記窓部との間において、イマージョンオイルを収容するための間隙が形成されていることを特徴とする請求項1記載の対物レンズユニット。
【請求項3】
前記駆動部は、前記対物レンズの外径よりも大きな内径を有するようにリング状に形成された圧電素子を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の対物レンズユニット。
【請求項4】
前記対物レンズの光軸に沿って入射されたレーザ光に応じて、前記窓部から外部にエバネッセント光を照射可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の対物レンズユニット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−225218(P2008−225218A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65456(P2007−65456)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】