説明

対話型アルコール検出

本発明は呼気中のアルコール濃度の判定に関する。進行中の測定において、現在のまたは蓄積された測定値および誤差をリアルタイムに視覚化することによって、精度および時間経過に関してアルコール判定の対話的な制御が可能となる。好ましくは、測定は接触することなく呼気の希釈を補償しつつ行われ、温度と水蒸気又は二酸化炭素の濃度との同時測定によって行われる。当該方法は、テスト対象者またはオペレータによって左右され得る呼気の希釈への測定誤差の依存と蓄積された時間とに基づいて、段階的な手順に分割される。濃度限界を基準とする測定において、特別な利点が得られる。アルコール判定は、赤外線波長範囲内において吸収分光法によって行われることが好ましい。本発明に係る装置は、上記の実体のためのセンサと、信号およびデータ処理のための電子ユニットと、表示ユニットとを含み、手持ち使用または一体化のために小型の筺体に組込まれる。リアルタイムな動作の要件を満たすために、センサの応答時間は0.5秒を超えてはならない。筺体は、測定時に制御可能に開閉可能であり、平行化された赤外線放射によって照射される測定セルと能動的な空気流のための手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呼気中のアルコール濃度の判定に関し、測定精度、応答時間、および測定対象またはオペレータと測定装置との間の対話に関する主要な局面について論じる。
【背景技術】
【0002】
アルコール検出、たとえば呼気中のアルコール濃度の判定のための多くの方法および装置が文献に記載されている。これらのいくつかは、測定機器としても制御装置としても広く使用されている。アルコール連動装置は後者の一例であり、呼気試料が承認されななければ車両ドライバに車両を発進させないようにするものである。すなわち、アルコール濃度は現行の濃度限界を超えない。
【0003】
アルコール検出においては、アルコールの物理的特性および化学的特性を利用する2つの測定原理が優勢である。後者の部類は、本質的に、触媒によって媒介される燃焼に基づく。アルコール濃度は、発生した燃焼エネルギをたとえば燃料電池または半導体センサで測定することによって判定することができる。このセンサ型は、設計の簡易性および電子回路などの周辺装置に関して有利である。また、半導体センサは物理的寸法が小さく、低コストで製造することができる。
【0004】
触媒の特徴および実際の燃焼温度によって、触媒センサの選択度が決まる。他の有機物も同様に燃焼されるため、絶対的な特異性を得ることは困難である。他の困難な問題は、触媒の長期的特性に関連する。ある物質の影響によって反復的な較正が必要となり、改ざんの危険性が生じる。このような物質、たとえば硫黄含有ガスは、呼気中においても空気汚染物質としても優勢である。残念ながら、触媒センサは、十分に解決されていない信頼性の問題を抱えている。これらの特性は、飲酒運転の証拠とする目的で警察によって使用されている。しかし、精度の点で低濃度の測定が求められているが、市販の赤外線による証拠機器は高価である。
【0005】
赤外線(IR)分光法は、上記の問題を抱えていない物理的な測定方法である。この方法は、赤外線によって照射されると気相アルコールが生成する固有の「指紋」を利用する。吸収スペクトルは、分子中の原子結合に固有の共振分子振動によるものである。このことから、吸収スペクトルの固有の特性、それに関連付けられた他の物質に対する高い選択性、および改ざんに対する防護策を推論することができる。さらに、赤外線による機器の使用には専門的な知識が必要とされる。
【0006】
アルコール検出器の性能は、ある測定範囲内の精度に関して注目されることが多い。証拠のための機器については±5%の精度が必要であるが、スクリーニングおよび同様の目的については±20%が適当であると考えられている。民生用アルコール検出器の精度はより低い。これらおよびスクリーニング機器においては、触媒の不良制御状態によって引起こされる系統誤差が目立つ。赤外線による機器については、系統誤差は較正処理によって最小化することができる。残りの誤差は、情報伝達センサ信号からの確率的なノイズの性質を有する。この誤差およびノイズレベルは、統計的な実体、たとえば指定された帯域幅にわたる不規則な変動の平均平方として表すことができる。
【0007】
アルコール検出の重要な局面は、たとえば車両の運転に関して推奨されているまたは制定されている濃度範囲についてのアルコール判定に関する。スウェーデンでは、血中アルコール濃度0.02%が車両ドライバの上限値として主流であり、これは呼気試料の約0.1mg/Lに相当する。欧州連合の大部分では、相当する限界はそれぞれ0.05%お
よび0.25mg/Lである。
【0008】
ある濃度限界を基準とする測定では、偽の正の出力および負の出力の比率は、性能に関連する値である。高精度すなわち小さい誤差は、偽の出力の確率を下げることになり、逆もまた同様である。一方、この目的では、精度は濃度付近の区間でのみ注目され、この区間外では注目されない。
【0009】
警察の管理下の検問所において、飲酒検査がますます行なわれている。スウェーデン警察軍は車両ドライバに対して年間200万回に近い飲酒検査を行なっており、これにより約1万5千人の飲酒ドライバが検挙されている。負の出力は、検査時の99%を上回って見られる。単位時間あたりに行なわれる検査数、酩酊したドライバの割合、および単位時間あたりのアルコール関連事故数の間には関連性があると考えられる。ある国では飲酒ドライバの割合はスウェーデンよりも高いが、多くの国では非飲酒運転のための支援が拡大している。飲酒運転の有罪判決後の条件付き運転免許取消しだけでなく、輸送サービスの品質保証についても、アルコール連動装置の使用が成功している。
【0010】
交通安全分野以外でも、飲酒検査が動機付けられる状況および状態は多い。精度、良好な判断、特定の個人への依存を必要とする職業の業務は、飲酒検査の正当な理由となり得る。また、異なる種類の状況において、たとえば通過確認地点において飲酒検査を行なう理由が存在し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
残念ながら、アルコール判定の多くの利用分野は、現在の技術および工学的解決法の実用的および経済的な制限によって妨げられている。上記に加え、実際のサンプリング技術に関する実用上の問題が存在する。先行技術の解決法では、衛生上の理由から交換可能かつ使い捨て可能なマウスピースが必要である。測定ごとにマウスピースを交換することは時間を要し、かつ費用を増大させる。1回の検査の合計時間は、寒冷時には数分となる場合があり、これは、たとえば通過確認において、または車両一体型アルコール連動装置において、容認しがたいことである。
【0012】
要約すると、先行技術のアルコール検出は、精度、時間経過、利用しやすさ、信頼性および費用に関する中心的な問題点に関連する複数の問題を抱えていると結論付け得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、上記の問題および関連する問題を解決することである。呼気中のアルコール濃度を判定するための新規な方法および装置である本発明は、先行技術と比較して著しい利点を示す。第1に、精度および時間経過を各測定時における具体的な要件に適合させることができる。第2に、各測定のための材料費および時間経過を大幅に削減することができるため、大幅な費用節減が達成される。第3に、たとえば触媒センサの老化現象を回避することによって、非常に高い信頼性が得られる。第4に、反復的な較正を必要としないため、装置の保守の必要性が低下する。これにより保守費用も低下する。第5に、大きなユーザグループについて、技術の利用しやすさが向上する。第6に、低い製造費用で装置を実現することにより、より大きなグループのユーザにとって入手しやすい価格となる。
【0014】
本発明に係る方法および装置の特徴を添付の請求項に記載する。当該方法および装置の基本的な要素について以下に広範に説明する。
【0015】
呼気試料のアルコール濃度判定は、本発明によれば、主に衛生上の理由から、装置と検
査対象の呼吸器とが物理的に接触することなくサンプリングすることによって行なわれることが好ましい。検査対象または人は一般に意識のある人物であることが多く、結果として生じる酩酊状態が調査の目的である。しかし本発明は、検査対象についても検出される物質についても限定されない。高度な動物種および無意識の人間にも、アルコール以外の揮発性物質にも適用可能である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、呼気試料は、検査対象者が口および鼻から10〜30cmの距離に位置するセンサ装置に向かって吹き込むことによって供給される。その結果、呼気試料は大気によって希釈され、呼気のアルコール濃度判定を可能にするためには、この希釈を補償することが必要である。外部で測定されたアルコール濃度Cextと肺胞Calvとの関係は、式(1)によって簡単に表される。
【0017】
ext=D・Calv…(1)
変数Dは希釈度を表す。希釈されていない呼気についてはD=1であり、非常に高い希釈度ではD→0である。
【0018】
式(2)は、対応するアルコール濃度測定が本質的に同じ点において同時に行なわれている状態で希釈度Dをリアルタイムで判定することを可能にする関係に関する。CextおよびCalvと同じ希釈処理を受ける測定実体Xが存在するものとする。Dは以下のように表される。
【0019】
【数1】

【0020】
ambは検査対象の周囲において実体Xによって得られる測定値を意味し、Xalvは対応する測定値である。この想定条件を満たすと考えることができる実体の例は、温度と、水蒸気および二酸化炭素それぞれの濃度とである。
【0021】
室内環境におけるこれらの実体について、測定値の典型的な値を以下の表に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
extおよびXambの測定と一定と考えられるXalvの挿入とによって、値Dを決定することができる。表は、CO2濃度が他と比べて2つの重要な利点を有することを示す。1つは、周囲濃度が肺胞に比べて非常に小さい点である。これによって、周囲からの影響は最小である。別の利点は、検出されたCO2濃度差は肺胞に由来する可能性が高いと考えられることである。一方、肺胞のCO2濃度は、温度および水蒸気濃度よりも若干大きな変動性を示す。温度および湿気の測定は、簡易性、速度および費用の点で利点を有する。最大の安全性を実現するには、2つ以上の測定実体の組合せを使用することがもちろん可能である。
【0024】
なお、解剖学上および生理学上の死腔も、呼気の希釈を引き起こす可能性がある。解剖
学上の死腔は上気道を含み、通常の成人では約150mlである。解剖学上の死腔からの呼気は、肺胞の空気とはほとんど混合されない。生理学上の死腔は関係する物質に依存し、たとえば当該物質の粘膜への溶解度によって影響される。これらの違いを考慮して、上記の理論をマウスピースによるサンプリングに適用することもできる。
【0025】
温度と、水蒸気および二酸化炭素の濃度との測定は、各実体に特有のセンサによって行なわれることが好ましい。温度は、適切な精度をもたらす抵抗性センサまたは熱電素子で測定することができる。0.5秒以下の必要な応答速度を得るためには、物理的な寸法が小さいこと、したがって熱量が小さいことが必要である。適切な応答時間を有する小型化された温度センサが市販されている。水蒸気濃度および二酸化炭素の測定についても同じことが当てはまる。第1のケースは、水の高誘電率を利用する容量性測定法である。CO2判定については、赤外線吸収を用いて上記のアルコール判定と一体化させることができる。CO2は4.26μmあたりの狭い波長帯において固有の吸収を示し、アルコールは3.4および9.5μmにおいて吸収ピークを有する。水蒸気は、2.6〜2.8μmにおいて比較的広い吸収帯を示す。
【0026】
式(1)および(2)の条件を満たすためには、アルコールおよび実体Xのためのセンサが同じ点で測定されることが必要とされ、センサの寸法および位置決めに関する要求を定める。代替的に、実際のサンプリング点からセンサの物理的位置まで呼気試料を搬送するための配管ラインとポンプ装置とが、装置のエアサンプリング部に設けられる。
【0027】
DおよびCambの現在の値を挿入することによって、式(1)からCalvを決定することは容易である。実験によれば、検査対象者の口/鼻とサンプリング点とが30cmまでの距離にあって物理的に接触することなくアルコール濃度を判定することが可能なことがわかっている。しかし、これは検査対象者がセンサに向かって能動的に呼気を吹き込むことを前提とする。検査対象者の協力のない受動的な測定では、静止呼吸のみが想定されるため、10cmまでのより短い測定距離が必要である。
【0028】
当該方法の不正確さIAは、現在の測定値Calvと関連する測定誤差Cerrorによって決定され、これらの間の比率によって適切に説明することができる。Cerrorは、比較的一定の要因に区分することができ、機会ごとに、かつ進行中の測定中でさえも左右され得る。このような区分の結果は式(3)に示される。
【0029】
【数2】

【0030】
resolutionは、制御が困難で、かつ基本的な根源であるノイズ源または他の不規則な要因によって制限される機器の残りの分解能を指す。系統誤差源は、十分に正確な較正手順によって解消されるものと想定される。Cresolutionは、測定値、この場合は現在の帯域幅Δfの平方根√(Hz)-1によって除算されたアルコール濃度の次元に内包される。
【0031】
式(3)の実体CalvおよびDは、ある測定時間Δt中に蓄積された測定値であると想定される。したがってこの時間を延長することは、帯域幅の減少に等しいと考えられる。
【0032】
式(3)は、希釈度Dまたは測定時間Δtのいずれかによって不正確さを左右する可能性を示す。所与の開始点からのある要因の精度を向上させるためには、対応する要因によって、もしくは測定時間をこの要因の二乗に延ばすことによって、またはこれらの測定法の組合せによって、Dを増大させることが必要とされる。
【0033】
本発明に係る方法では、式(3)の関係は1回のアルコール濃度判定ごとに用いられ、測定時間および精度を対象またはその状況の要件に適合させる。この適合化は、測定装置とユーザ/検査対象者またはオペレータとの間で対話的に行なわれる。より具体的には、装置は、リアルタイムにすなわち制限的な時間遅延なしに、現在のもしくは累積的な測定値および誤差またはそれに関する実体を表示させる。係数Dは、このような実体であり得る。
【0034】
ユーザ、検査対象者またはオペレータは、判定を終了するか、または精度を向上させるために継続させるかをどの時点においても選択することができる。このような向上は、式(3)に従って、測定時間を延長することによって、または装置に対する検査対象者の呼気を変化させることによって可能であり、希釈係数Dの増大と対応する精度の向上とがもたらされる。Dは、検査対象者に関するセンサの位置によっても左右される。オペレータは、表示された精度によって誘導され、許容可能なレベルが得られるまで検査対象者の呼吸器に対してサンプリング点を移動させることができる。リアルタイムな測定とは、検査対象者の通常の呼吸活動において当人の能動的な協力なしに処理が可能なことを意味する。したがって、意識不明の人間や動物においても測定を行なうことが可能である。
【0035】
したがって本発明に係る方法は、アルコール判定の精度および時間経過の対話的な制御を可能にする。通常生じる不規則な変動以外に著しい差Xext-Xambが生じるとすぐに、進行中の測定中にCalvおよびDの瞬間値をリアルタイムに計算するために関係式(1)、(2)および(3)が採用される。CalvおよびCerrorの計算の開始条件は、Dがある最小値Dminを上回ることである。しきい値Dminに達したあとの最初の判定の精度は本質的に低いが、より高い値のDが得られると急速に向上させることができる。
【0036】
現在の課題が、アルコール濃度がある濃度限界Climitを超えているか否かを判定することに限定されているならば、本発明に係る方法は特別な利点を提供する。誤差Cerrorを加えた現在の測定値CalvがClimitよりも低ければ、すなわち
alv<Climit−Cerror…(4)
であれば、測定時間の延長またはセンサ位置の調整等によって精度を向上させようと試みることなく判定を直接終了させることができる。それに応じて、アルコール濃度の瞬間測定値が、誤差に加えられた限界値を超えると、同じ処理が採用され得る。
【0037】
alv>Climit+Cerror…(5)
しかし、
limit−Cerror≦Calv≦Climit+Cerror…(6)
であれば、誤差を減少させるために瞬間値の蓄積が続行しなければならない。真の知識の対象は、濃度限界が超過されているか否かである。
【0038】
(4)の場合は、上記によれば、ランダムに選択されたスウェーデンの車両ドライバの99%を超えるものについて有効である。本発明に係る方法は、このグループに関して、測定時間の大幅な短縮としたがって試料ごとの費用削減とをもたらす。
【0039】
添付の図1から図4に関連して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る方法のフローチャートを示す図である。
【図2】本発明に係るアルコール判定中の事象のタイミングを概略的に示す図である。
【図3】異なる用途についての精度の例を示す図である。
【図4】本発明に係る装置の一実施形態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1のフローチャートは、装置の状態に対応するいくつかのステップを含む。まず、装置の起動時において、開始位置1が生じ、待機モード2に直接移る。起動はオン/オフボタンによって手動で、または装置に接続される何らかの他の機器から自動的に行なうことができる。待機モード2中、アルコール濃度および希釈度にそれぞれ対応するセンサ信号について安定性検査が行なわれる。センサ信号がいずれかの方法で干渉されていれば、安定性が得られるまで待機処理が続行する。
【0042】
上記信号の時間変動があるしきい値Sを超えないという条件が満たされると、装置は測定モード3に移る。このモードでは、検査対象者は装置のセンサに向かって息を吐き出すように指示され得る。代替的に、これらのセンサが、検査対象者の能動的な協力なしに検査対象者の呼吸器付近に配置される。希釈に対応するセンサ信号の分析が連続的に行なわれ、希釈係数D>Dminという条件に達すると、装置は計算モード4に移る。このモードでは、実体D、CalvおよびIAの測定と計算とが同時にリアルタイムに行なわれ、少なくとも後者の現在の値が、同様にオペレータ、ユーザまたは検査対象者にリアルタイムに伝えられる。
【0043】
測定および計算4の状態中、オペレータ、ユーザまたは検査対象者は、十分な精度がすでに得られていれば測定の終了を選択することができる。終了は、検査対象者が装置のセンサに向けて呼気を吹き込むのを終了させることによって、またはセンサを呼吸器付近から後退させることによって行なわれる。オペレータ、ユーザまたは検査対象者は、さらなる測定点を蓄積するためにセンサに向けて呼気を吹き込み続けること、または精度を向上させるために希釈係数Dを最終的に増大させることを選択することもできる。
【0044】
同時にリアルタイムに測定および計算を実行するタスクは、本発明に係る装置に特別な要求を課す。一方、センサからの信号をサンプリングして、バッファメモリに入力し、そこから式(1)、(2)および(3)または対応する式が実行される演算論理計算ユニットに伝達しなければならない。計算の結果および最終的な暫定結果は、バッファメモリに保存して、検査対象者またはオペレータによって知覚されるようにそこから視覚化しなければならない。
【0045】
検査対象者またはオペレータが表示された情報を瞬間的に知覚するためには、各表示間の時間間隔は0.5秒を超えてはならない。バッファメモリおよび演算論理ユニットの両方を含む市販のマイクロプロセッサであれば、この要件を満たすことが可能である。マイクロプロセッサは、計算およびデータ通信を制御するプログラムを格納するための永久メモリも含むことが好ましい。
【0046】
測定誤差の経時変化はリアルタイムに計算および表示され、次の段階5において検査対象者またはオペレータに対して明確に視覚化される。蓄積された不正確さIAが下限値に達すると、最終状態6への自動的な移動が生じ、それによって、蓄積されたCalvおよびCerrorの値それぞれが現在の判定について最終的に有効となり得る。しかし、測定の最終的な続行またはその終了に関するオペレータ、ユーザまたは検査対象者の命令はこの自動化を無効にし、この人物によって制御されるスイッチ位置7によって制御され得る。たとえば、次の1回または数回の呼気中に測定を続行することが可能である。
【0047】
視聴覚的または触覚的な仕組みによる本発明に係る装置によって、さまざまな状態1から6が表示される。たとえば、測定値および不正確さは、測定目盛り8aおよび8b上の位置および幅として表示され得る。8aは比較的大きな測定誤差を示し、8bは本質的に
同じ測定値であるが、より小さい誤差を示す。
【0048】
状態の表示の代替的な実施形態は、交通信号の記号を用いてシーケンス9a〜9eにおいて表示される。開始状態1および待機状態2は、9aにおいて赤、黄および緑のランプからの照射によって示される。測定状態3は、注意を喚起するために最終的に点滅する黄のランプ9bからの照射によって表示される。測定および計算4の状態は、9cにおいて赤および緑のランプ両方からの照射によって表示される。緑および赤のランプは、関係式(4)、(5)および(6)を用いて、濃度限界と比較した測定値の現在の大きさに依存して、異なる輝度を発する。最終状態6において、不正確さは大抵の場合小さいため、濃度限界を超過しているか否かについて明確な応答が与えられる。超過していれば赤の停止信号9dが点灯し、超過していなければ緑のライト9eが点灯する。
【0049】
図2は、センサ信号Xの典型的な時間シーケンス、式(2)から推定された希釈度D、式(1)および(3)から計算された肺胞のアルコール濃度を概略的に示す。蓄積された測定誤差が測定値の下限値および上限値として図に挿入される。時間の関数である変動は、変数X(上のグラフ)、D(中央のグラフ)、およびCalv、Cerror(下のグラフ)に関して、飲酒していない検査対象者(タイムスケール0〜3秒)と、アルコール濃度が濃度限界Climitを若干下回る人物(タイムスケール100〜105秒)とについて示される。
【0050】
検査対象者がセンサ装置に向かって息を吹き込んでいる間、Xは、環境に有効な値に対応する安定した初期値Xambからより高い値に連続的に上昇する。検査対象者の呼気がセンサ装置に当たると、気流が維持されている間、すなわち呼気の継続期間において信号が平坦域に達し、持続される。その後、レベルが低下し、初期値Xambを維持する。
【0051】
変数Dは、式(2)から明白であるが、変数Xと同じように経時変化する。これは、図2の中央の曲線に示される。実験によれば、D=0.3〜0.5が、10〜30cmの距離にあるセンサ装置に向けた強制的な呼気によって得られる現実的なレベルであり得ることがわかっている。しかしこのレベルは、吹き込みの1秒後または数秒後に得られる。より早い時点で上記のレベルDminに達し、装置は測定および計算状態に切り替わる。適切な値はDmin=0.1…0.2であり得る。Dminを超えた時点で初めて、アルコール濃度の測定値が表示される。これらは測定誤差とともに下側の曲線に示される。左側の一連の曲線において、飲酒していない検査対象者では、レベルが濃度限界未満であるという迅速な応答が得られ、したがって検査対象者は、判定の終了を選択することができる。
【0052】
右側の一連の曲線では、濃度限界を超えるか否かが当初からは明確ではない。この限界が測定値の許容差に収まるためである。したがって検査対象者は判定の続行を選択し、それによって測定誤差が減少する。蓄積された測定誤差は、呼気の終わりには最小値に近づく。
【0053】
図2に示すように、本発明に係る方法は、非飲酒者が所与の濃度限界に関する飲酒検査を受ける際の測定および計算に要する時間を大幅に削減することを可能にする。
【0054】
図3は2つの図を示し、上の図は先行技術に係る測定機器に関し、下の図は本発明の一例を示す。両方の図において、出力信号(実線)および測定誤差(破線)がアルコール濃度の関数として示される。さらに、濃度限界Lがアルコール濃度の軸に示され、トリガレベルTが出力信号の軸に示される。これにより、4つの象限11、12、13および14が区画される。象限12および14は装置の真の負の出力および正の出力をそれぞれ表し、象限11および13は偽の正の出力および負の出力をそれぞれ表す。
【0055】
従来の装置では、測定誤差はユーザによって左右され得ない。つまり、上側の図によれば、偽の出力の危険性を含む。しかし本発明によれば、濃度限界LおよびトリガレベルT付近において最小となるように測定誤差を適合させることが可能である。既に述べたように、この適合化は、ユーザ、オペレータまたは検査対象者と装置との間で行なわれる。
【0056】
図4は、好ましい実施形態に係る本発明の装置の構造を概略的に示す。当該装置は、好ましくは装置ボックスまたは筐体31に組み込まれ、その寸法は、手持ちで使用するように、または車両のハンドルなどの車両装置に一体化されるように適合化される。筐体31の物理的な寸法は、120×120×30mmを超えてはならない。筐体31には、呼気試料の流入および流出のための開口部32および33が設けられる。これにより測定セル41が規定され、光源34からの平行化された赤外線によって透照される。赤外線38は、検出器35および36に当たる前に、測定セル41内の反射面39および40で数回反射される。検出器35および36は、一方でアルコールが、他方で水蒸気、二酸化炭素が物質固有の吸収を示す波長帯における照射を選択的に検出するように適合化されている。
【0057】
応答時間が0.5秒以下である温度センサまたは流量センサ37が、測定セル41の入口32付近に配置される。センサ37は、流入する呼気試料を熱するために電気加熱装置と組合せることもできる。その目的は、一つには熱線式風速計の原理に従って流速を測定することであり、一つには呼気の水分による凝結を防ぐことである。さらに、測定セル41を流れる能動的な空気流のための装置42が設けられる。この装置は、たとえば小型ファンまたはポンプであり得る。
【0058】
測定セル41の開口部32および33は、2つの理由から、図4において二重格子として概略的に描かれている。一つには、測定セル41内の感光性の光学素子が汚れることを格子自体が防ぐためであり、特に厳しい環境で使用するためにさまざまな種類のフィルタを設けることができる。一つには、測定中に短期間のみ開かれる二重の偏向可能な格子が測定機会同士の間を効果的に保護するためである。
【0059】
センサ35,36および37によって生成される電気信号は、電子ユニット43において増幅、フィルタリングおよび他の信号処理を受ける。電子ユニット43は、赤外線源34、センサ37内の加熱装置およびフロー装置42の制御および駆動も実行する。電子ユニット43は、上記の計算および状態表示を含めたメモリに格納されたプログラムの実行のために、マイクロプロセッサまたは相当物を含むことが好ましい。
【0060】
赤外線源34は、好ましくは2Hz以上の周波数で変調される。これによって、適切な応答時間が得られつつ、赤外線検出器および入力増幅器のオフセットドリフトによる問題が解消される。応答時間についての要求は、主に測定値のリアルタイムな視覚化によって規定され、オペレータまたは検査対象者によって瞬間的に知覚される。実際には、これは0.5秒以下の応答時間に相当する。
【0061】
電子ユニット43は、測定値を表示するための一体型表示ユニット44と他のユニットとに対するデジタル信号通信のための回路を含むことが好ましい。表示ユニット44は、最も単純なケースでは、図1と併せて説明したように少数のランプまたは発光ダイオードであるが、センサ信号の経時変化をより詳細に表示するために、図4に例示されるような図式および/または文字数字式ディスプレイでもあり得る。ユーザまたはオペレータによる電子ユニット43の制御は、手動制御装置45によって行なわれる。供給電圧は、内蔵バッテリまたは外部電圧源のいずれかから得ることができる。
【0062】
本発明に係る装置は、少なくとも15年間または3万回の測定にわたって保守不要な動作のための材料および構成要素の選択に関して設計される。
【0063】
本発明に係る装置は、通常の能力のある人物が問題なく使用することができるように設計される。判定の終了点の選択を含む上記の対話は直観的な性質を有し、したがって、最小限の事前の命令を要求する。
【0064】
なお、図4の概略的に例示された装置は、低費用で連続的に製造することができる材料および構成要素を内蔵する。また、装置の構造は自動的な組立てに適合化される。つまり、手動製造手順数が最小である。較正、検査および品質保証を自動的な手段で効果的に行なうこともできる。最終的に、これは、本発明に係る装置が魅力的な価格で提供され、それによって大きなグループのユーザに行き渡ることを意味する。製品の寿命中の定期的な較正をなくすことは、本発明に係る方法および装置に低ドリフト費用および高い利用しやすさをもたらすことにも貢献する。
【0065】
図1から図4の実施形態は上記したとおりではなく、本発明の適用範囲について限定するものではない。その特徴は添付の請求項によって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気中のアルコール濃度を判定するための方法であって、
装置とテスト対象者またはオペレータとの間の対話を特徴とし、
前記対話は、前記判定の精度および時間経過を現在の目標または要件に適合化させることであり、
前記対話は、進行中の測定において、前記判定の測定値および誤差またはそれに関連する実体が前記テスト対象者またはオペレータに対してリアルタイムに視覚化されることを意味し、前記精度を向上させる目的で、測定時間の延長および前記呼気の起こり得る希釈の補償を選択することが可能であり、
前記視覚化は、前記装置内の表示ユニットからの視聴覚的または触覚的表示によって行なわれる、方法。
【請求項2】
前記視覚化は記号または数値的な性質を有し、前記テスト対象者またはオペレータに向けられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定誤差は、前記呼気の希釈と、前記判定の蓄積時間と、前記測定値のノイズ、干渉または他の不規則な変動とに依存することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
温度、水蒸気もしくは二酸化炭素の濃度またはこれらの実体の組合せを測定することによって試料の希釈が補償される前記呼気の非接触的なサンプリングを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記装置が起動される開始状態と、前記測定値および他の値に対応するセンサ信号が安定性に関して制御される待機状態と、リアルタイムな死腔のアルコール濃度および測定誤差の測定および計算が実行され視覚化される状態と、最小値に到達した蓄積された不正確さに引き続く最終的な状態とを含む段階的な手順を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アルコール判定は紫外線吸収などの物理的特性に基づき、最小化後の前記測定誤差は本質的に確率的な性質を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載のアルコール濃度を判定するための装置であって、少なくとも、
1つの第1のセンサを備え、その出力信号は前記アルコール濃度の単調関数であり、さらに、
1つの第2のセンサを備え、その出力信号は前記呼気の希釈またはそれに関連する実体の単調関数であり、それによって前記第1および第2のセンサの応答時間は0.5秒を超えず、さらに、
メモリユニットに格納されたプログラムからの前記信号を処理するための1つの電子ユニットを備え、前記プログラムは前記判定の制御および計算を意図しており、さらに、
前記判定、測定値または他の関連する情報を視聴覚的または触覚的に視覚化するための1つの表示ユニットを備えることを特徴とする、装置。
【請求項8】
前記装置は、外形寸法が120×120×30mmを超えない筐体に組み込まれ、前記呼気を受けるために前記筐体の開閉を制御するための装置を含むことを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記呼気の前記温度または流速を測定するための少なくとも1つのセンサを特徴とし、前記センサの応答時間は0.5秒を超えない、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記呼気を受けるための開口部を有する測定セルを備え、前記測定セルは平行化された
赤外線照射によって透照され、さらに、その中を能動的に流すための手段を備えることを特徴とする、請求項7に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−518375(P2010−518375A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548201(P2009−548201)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/SE2008/050124
【国際公開番号】WO2008/108714
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(509215617)ホエーク・インスツルメント・アクチボラゲット (2)
【Fターム(参考)】