説明

対象識別装置及び対象識別方法

【課題】所定の撮影エリア内に移動物体が含まれている場合に、その移動物体が人間であるか否かを正確に識別することが可能な対象識別装置を得る。
【解決手段】対象識別装置としての監視装置3は、所定の監視エリア4を撮影した撮影画像200内に移動物体が含まれている場合に、可視域及び赤外域を含む当該移動物体の拡大画像300を取得する取得部21と、拡大画像300に基づいて、赤外域における特定の複数の波長のスペクトルを検出し、当該検出の結果に基づいて移動物体の材質を分析する分析部22と、分析部22による分析の結果に基づいて、移動物体の種別を識別する識別部23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象識別装置及び対象識別方法に関し、特に、所定の撮影エリア内に含まれている移動物体が人間であるか否かを識別するための対象識別装置及び対象識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラによって所定の監視エリアを撮影することにより、監視エリアへの侵入者を検知する監視装置が広く実用化されている。このような監視装置においては、例えば、人間の外見に関する複数のテンプレート画像を予め準備し、当該テンプレート画像を用いたパターンマッチングを行うことによって、撮影画像内に人間(侵入者)が含まれているか否かが判定される。
【0003】
下記特許文献1には、屋内への侵入者を監視する監視装置が開示されている。当該監視装置は、カメラによって屋内を撮影し、フレーム間の差分画像に基づいて変化領域を抽出し、変化領域に関してパターンマッチングを行うことによって、移動物体(侵入者)を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3423861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、テンプレート画像を用いたパターンマッチングによって人間の有無を判定する手法には、以下のような問題がある。つまり、山中に設置された通信基地局等の特定施設への侵入者を監視する場合には、外見が人間に類似した動物(例えば猿)と人間とを正確に区別することが困難である。そのため、動物が特定施設の監視エリアに近付いた場合に、当該動物が侵入者として誤って検知される可能性が高い。
【0006】
また、広角の監視カメラによって上記特定施設の監視エリアの全体を撮影する場合には、撮影画像内に含まれる対象物のサイズが小さくなるため、パターンマッチングによる誤検知の可能性はさらに高まる。
【0007】
本発明はかかる問題を解決するために成されたものであり、所定の撮影エリア内に移動物体が含まれている場合に、その移動物体が人間であるか否かを正確に識別することが可能な、対象識別装置及び対象識別方法を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る対象識別装置は、所定の撮影エリアを撮影した撮影画像内に移動物体が含まれている場合に、可視域及び赤外域を含む当該移動物体の拡大画像を取得する取得手段と、前記拡大画像に基づいて、赤外域における特定の複数の波長のスペクトルを検出し、当該検出の結果に基づいて前記移動物体の材質を分析する分析手段と、前記分析手段による分析の結果に基づいて、前記移動物体の種別を識別する識別手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
第1の態様に係る対象識別装置によれば、識別手段は、分析手段による材質分析の結果に基づいて、撮影エリア内に含まれている移動物体の種別を識別する。従って、材質分析の結果、人肌や化学繊維等が含まれている場合には、その移動物体は人間であると識別することができる。しかも、取得手段は、移動物体の拡大画像を取得し、分析手段は、当該拡大画像に基づいて材質分析を行う。従って、移動物体とは無関係の背景領域の影響を排除して、移動物体の材質分析を高精度に行うことができる。その結果、所定の撮影エリア内に移動物体が含まれている場合に、その移動物体が人間であるかそれ以外の動物等であるかを正確に識別することが可能となる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る対象識別装置は、第1の態様に係る対象識別装置において特に、前記取得手段は、前記撮影エリアの全体を撮影する比較的広画角の第1のカメラと、前記第1のカメラが撮影した画像に前記移動物体が含まれている場合に、前記撮影エリア内における前記移動物体の位置を特定する特定手段と、前記特定手段が特定した位置を撮影することによって前記拡大画像を得る比較的狭画角の第2のカメラと、を有することを特徴とするものである。
【0011】
第2の態様に係る対象識別装置によれば、取得手段は、比較的広画角の第1のカメラによって撮影エリアの全体を撮影し、その撮影画像に移動物体が含まれている場合に、比較的狭画角の第2のカメラによって移動物体を撮影することにより、移動物体の拡大画像を得る。従って、第1のカメラによって撮影エリアの全体を広く撮影しつつ、第2のカメラによって移動物体の詳細な撮影を行うことが可能となる。しかも、特定手段は、第1のカメラの撮影画像に移動物体が含まれている場合に、撮影エリア内における移動物体の位置を特定し、第2のカメラは、特定手段から指定された位置を撮影する。従って、狭画角の第2のカメラによって移動物体を探索する必要がないため、第2のカメラによる移動物体の撮影動作を遅滞なく開始することができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る対象識別装置は、第2の態様に係る対象識別装置において特に、前記第2のカメラは、第1の受光素子部と、前記移動物体からの反射光を前記第1の受光素子部上に導光する第1の光学系と、を有し、前記分析手段は、第2の受光素子部と、前記第1の受光素子部と前記第1の光学系との間に配置され、前記第1の光学系から前記第1の受光素子部に向かう反射光を分岐させる分岐手段と、前記分岐手段によって分岐された反射光を前記第2の受光素子部上に導光する第2の光学系と、を有することを特徴とするものである。
【0013】
第3の態様に係る対象識別装置によれば、第1の受光素子部と第1の光学系との間に分岐手段を配置し、第1の光学系から第1の受光素子部に向かう反射光を、分岐手段によって第2の光学系に向けて分岐させる。これにより、第1の光学系によって第1の受光素子部上に導光される反射光と共通の反射光を、第2の光学系によって第2の受光素子部上に導光することができる。その結果、分析手段は、第2のカメラによって得られる拡大画像に基づく材質分析を正確に行うことが可能となる。しかも、材質分析を行うための専用カメラを第2のカメラとは別に設ける必要がないため、装置を小型化できるとともに、共通の拡大画像を得るべく専用カメラの動作と第2のカメラの動作とを同期させる制御も不要となる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る対象識別装置は、第1〜第3のいずれか一つの態様に係る対象識別装置において特に、前記分析手段は、前記拡大画像の全体領域、前記拡大画像を分割した複数の小領域、及び前記拡大画像内に含まれる円形又は楕円形の領域の少なくとも一つを対象として材質分析を行うことを特徴とするものである。
【0015】
第4の態様に係る対象識別装置によれば、分析手段は、拡大画像の全体領域、拡大画像を分割した複数の小領域、及び拡大画像内に含まれる円形又は楕円形の領域の少なくとも一つを対象として材質分析を行う。拡大画像の全体領域を分析対象とすることにより、材質分析を簡易に行うことができる。拡大画像を分割した複数の小領域を分析対象とすることにより、全体領域を分析対象とする場合と比較して高精度な分析を行うことができる。拡大画像内に含まれる円形又は楕円形の領域を分析対象とすることにより、拡大画像内に顔が含まれている場合に、その顔を対象とした材質分析を行うことができるため、移動物体が人間であるかそれ以外の動物等であるかを高精度に識別することが可能となる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る対象識別方法は、(A)所定の撮影エリアを撮影した撮影画像内に移動物体が含まれている場合に、可視域及び赤外域を含む当該移動物体の拡大画像を取得するステップと、(B)前記拡大画像に基づいて、赤外域における特定の複数の波長のスペクトルを検出し、当該検出の結果に基づいて前記移動物体の材質を分析するステップと、(C)前記ステップ(B)による分析の結果に基づいて、前記移動物体の種別を識別するステップと、を備えることを特徴とするものである。
【0017】
第5の態様に係る対象識別方法によれば、ステップ(C)では、ステップ(B)による材質分析の結果に基づいて、撮影エリア内に含まれている移動物体の種別が識別される。従って、材質分析の結果、人肌や化学繊維等が含まれている場合には、その移動物体は人間であると識別することができる。しかも、ステップ(A)では、移動物体の拡大画像が取得され、ステップ(B)では、当該拡大画像に基づいて材質分析が行われる。従って、移動物体とは無関係の背景領域の影響を排除して、移動物体の材質分析を高精度に行うことができる。その結果、所定の撮影エリア内に移動物体が含まれている場合に、その移動物体が人間であるかそれ以外の動物等であるかを正確に識別することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所定の撮影エリア内に移動物体が含まれている場合に、その移動物体が人間であるか否かを正確に識別することが可能な、対象識別装置及び対象識別方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る対象識別装置としての監視装置の使用状況の一例を示す図である。
【図2】監視装置の外観を模式的に示す図である。
【図3】監視装置の機能を概略的に示すブロック図である。
【図4】取得部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図5】監視装置の全体動作を概略的に示すフローチャートである。
【図6】監視装置によって撮影された撮影画像の一例を模式的に示す図である。
【図7】望遠カメラの内部構造を概略的に示す図である。
【図8】光学系の構成を示す図である。
【図9】受光素子部の受光面を示す平面図である。
【図10】光学系に入射された反射光の垂直方向における光路の一例を概略的に示す図である。
【図11】光学系に入射された光の水平方向における光路の一例を概略的に示す図である。
【図12】演算部の構成を示すブロック図である。
【図13】識別部による対象物の識別処理を示すフローチャートである。
【図14】識別部による対象物の識別処理を示すフローチャートである。
【図15】解析対象範囲の他の設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る対象識別装置としての監視装置3の使用状況の一例を示す図である。通信基地局1が山中に設置されており、通信基地局1の周囲はフェンス2で取り囲まれている。この例において、監視装置3は、所定の撮影エリアとして、フェンス2を含む監視エリア4を撮影することにより、フェンス2を乗り越えて通信基地局1へ侵入しようとする侵入者を監視する用途で使用される。なお、図1の例では通信基地局1に一つの監視装置3のみが設置されているが、通信基地局1の周囲を死角無く監視するために、複数の監視装置3が設置されてもよい。
【0022】
図2は、監視装置3の外観を模式的に示す図である。ステレオカメラとして機能する一対の広角カメラ11A,11Bと、望遠カメラ12と、制御装置13とが、フレーム10に取り付けられている。広角カメラ11A,11Bは、監視エリア4の全体を撮影可能なように、視野が固定されている。望遠カメラ12は、例えば、パンチルト機能及びズーム機能を搭載したPTZカメラである。広角カメラ11A,11B及び望遠カメラ12は、対象物からの太陽光の反射光を受光することによって対象物を撮影する。但し、監視装置3においては、夜間における撮影をも可能とすべく、ハロゲン光又は赤外光を監視エリア4に向けて照射する光照射器を備えてもよい。
【0023】
図3は、監視装置3の機能を概略的に示すブロック図である。監視装置3は、取得部21、分析部22、及び識別部23を備えている。取得部21は、監視エリア4を撮影した撮影画像内に移動物体が含まれている場合に、可視領域及び赤外領域を含むその移動物体の拡大画像を取得する。分析部22は、取得部21が取得した拡大画像に基づいて、赤外領域の特定の複数の波長のスペクトルを検出し、当該検出の結果に基づいて移動物体の材質を分析する。識別部23は、分析部22による分析の結果に基づいて、移動物体の種別を識別する。
【0024】
図4は、取得部21の構成を概略的に示すブロック図である。取得部21は、広角カメラ11A,11B、望遠カメラ12、及び位置特定部31を備えている。また、図5は、監視装置3の全体動作を概略的に示すフローチャートである。また、図6は、監視装置3によって撮影された撮影画像の一例を模式的に示す図である。図6の(A)には、広角カメラ11A,11Bの撮影画像200を示しており、図6の(B)には、望遠カメラ12によって撮影された拡大画像300を示している。
【0025】
図4〜6を参照して、広角カメラ11A,11Bは、監視エリア4の全体を常時撮影しており、これにより、撮影画像200が得られる(ステップP11)。広角カメラ11A,11Bの撮影画像200に基づいて監視エリア4内に何等かの移動物体が検出されると(ステップP12の判定結果が「YES」)、位置特定部31は、広角カメラ11A,11B間の距離、及び、広角カメラ11A,11Bの各撮影画像200内における移動物体の位置関係に基づいて、監視エリア4内における移動物体の位置(例えば中心位置201)を特定する(ステップP13)。なお、本実施の形態の例では、フェンス2を乗り越えて通信基地局1へ侵入しようとする侵入者を監視する用途での監視装置3の使用を想定しており、フェンス2を乗り越える際の高さ方向の移動量をも考慮する必要があるために、二つの広角カメラ11A,11Bを用いてステレオカメラを構成している。しかし、高さ方向への移動量を考慮する必要がない場合には、必ずしもステレオカメラを用いる必要はなく、一つの広角カメラのみを用いて移動物体の位置を特定することができる。
【0026】
次に、位置特定部31によって特定された移動物体の位置を視野の中心として望遠カメラ12による撮影を行うことにより、可視領域及び赤外領域を含む移動物体の拡大画像300が取得部21によって取得される(ステップP14)。次に、分析部22は、取得部21が取得した拡大画像300に対して、ハイパースペクトル解析技術を用いて移動物体の材質分析を行う(ステップP15)。次に、識別部23は、分析部22による分析の結果に基づいて、移動物体が人間であるか否かを判定する(ステップP16)。
【0027】
移動物体が人間でない場合には(ステップP16の判定結果が「NO」)、ステップP11に戻って上記と同様の動作が繰り返される。一方、移動物体が人間(つまり侵入者)である場合には(ステップP16の判定結果が「YES」)、音又は光等によって侵入者に対して警告を行うとともに、望遠カメラ12によって侵入者を追跡して撮影し、その撮影画像を記録する(ステップP17)。侵入者の追跡のための望遠カメラ12の駆動制御は、図2に示した制御部13によって行われる。但し、追跡のための所定の制御プログラムを格納したFPGA(Field Programmable Gate Array)及びDSP(Digital Signal Processor)を望遠カメラ12内に実装することにより、望遠カメラ12自らの制御によって侵入者の追跡を行ってもよい。侵入者の追跡の結果、侵入者が監視エリア4から去った場合には(ステップP18の判定結果が「YES」)、ステップP11に戻って上記と同様の動作が繰り返される。
【0028】
図7は、望遠カメラ12の内部構造を概略的に示す図である。望遠カメラ12は、ズームレンズを含む光学系41と、CCD等の受光素子部42とを備えている。移動物体からの反射光(可視光及び赤外光を含む)は、光学系41によって受光素子部42上に導光される。受光素子部42を構成する各受光素子は、可視光の波長域における反射光の受光強度に応じた大きさの電気信号を出力する。望遠カメラ12によって撮影された拡大画像300は、通信基地局1内又は遠隔地の監視センタ内に設置された液晶ディスプレイ等の表示部43に表示される。
【0029】
また、図7に示すように、分析部22は、分岐部51、光学系52、受光素子部53、及び演算部54を備えている。分岐部51は、プリズム又はハーフミラー等であり、光学系41と受光素子部42との間に配置されている。光学系41から受光素子部42に向かう反射光は、分岐部51によって光学系52に向けて分岐される。分岐された反射光は、光学系52によって受光素子部53上に導光される。受光素子部53を構成する各受光素子は、赤外光の波長域における反射光の受光強度に応じた大きさの電気信号を出力する。受光素子部53から出力された電気信号は、演算部54に入力される。演算部54から出力された信号は、識別部23に入力される。
【0030】
なお、プリズム又はハーフミラー等を用いる代わりに、挿退可能な反射鏡を光学系41と受光素子部42との間に配置してもよい。第1のタイミングにおいて、光学系41と受光素子部42との間の光路上から上記反射鏡を退避させる。これにより、移動物体からの反射光が受光素子部42上に導光される。また、第2のタイミングにおいて、光学系41と受光素子部42との間の光路上に上記反射鏡を挿入する。光学系41から受光素子部42に向かう反射光は、反射鏡によって光学系52に向けて反射される。これにより、移動物体からの反射光が受光素子部53上に導光される。上記第1及び第2のタイミングは、所定の微小時間間隔で交互に繰り返される。
【0031】
図8は、光学系52の構成を示す図である。光学系52は、拡散部61、集光部62、及び選択透過部63を有している。図中に示すX方向は水平方向を示し、Y方向は垂直方向を示し、Z方向はX方向及びY方向の双方に直交する方向を示す。拡散部61、集光部62、及び選択透過部63は、Z方向において互いに重なるように配置されている。
【0032】
拡散部61は、X方向に沿って延在する複数のシリンドリカルレンズ64がY方向に沿って並設された構造を有するレンチキュラーレンズである。拡散部61は、ガラス等の透明材料によって形成されている。拡散部61は、入射された移動物体からの反射光をY方向に拡散する。
【0033】
集光部62は、ガラス等の透明材料によって形成されたシリンドリカルレンズ65を有している。集光部62は、拡散部61によってY方向に拡散された反射光を、X方向において集光させる。
【0034】
選択透過部63は、X方向に沿って延在する複数の波長選択フィルタ661〜665がY方向に沿って並設された構造を有している。本実施の形態の例において、波長選択フィルタ661,662,663,664,665は、集光部62から入射された光のうち、それぞれ1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、及び1600nm帯の波長成分のみを透過する。
【0035】
なお、変形例として、それぞれ1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、及び1600nm帯の波長成分のみを透過する5枚の波長選択フィルタを準備し、上記第2のタイミングにおいて当該5枚の波長選択フィルタを光学系41(図6参照)内に順に挿入する構成とすることにより、選択透過部63の配設を省略することもできる。
【0036】
図8を参照して、選択透過部63の透過面に近接して受光素子部53が配置される。受光素子部53の受光面の大きさは、選択透過部63の透過面の大きさに略等しい。受光素子部53は、InGaAs等を用いた複数の受光素子が行列状に配置された構造を有している。各受光素子は、受光強度に応じた大きさの電気信号を出力する。なお、選択透過部63と受光素子部53との間に投影レンズを配置することにより、受光素子部53の受光面の大きさを、選択透過部63の透過面の大きさよりも小さくすることができる。
【0037】
図9は、受光素子部53の受光面を示す平面図である。受光素子部53の受光面は、波長選択フィルタ661,662,663,664,665の各透過面にそれぞれ対応する受光領域71,72,73,74,75を有している。
【0038】
図10は、光学系52に入射された反射光の垂直方向(Y方向)における光路の一例を概略的に示す図である。監視装置3の前方に柱状の対象物100が存在する場合、対象物100からの反射光は、分岐部51によって光学系52に向けて分岐された後、拡散部61に入射される。拡散部61に入射された反射光は、シリンドリカルレンズ64によってY方向の入射角度に応じて屈折されることにより、Y方向に分散される。分散部61によって分散された反射光は、集光部62を通過した後、波長に応じて選択透過部63を選択的に透過することにより、受光素子部53の受光面に入射される。
【0039】
ここで、拡散部61の表面におけるシリンドリカルレンズ64の形成ピッチは、拡散部61と対象物100との距離に比べて十分に小さい。従って、対象物100からの反射光は、他のシリンドリカルレンズ64にも入射されて、それぞれのシリンドリカルレンズ64において、その入射角度に応じて様々な方向に屈折される。従って、対象物100からの反射光は、拡散部61によって拡散されることにより、その波長に応じて選択透過部63の全ての波長選択フィルタ661〜665を透過する。
【0040】
図11は、光学系52に入射された光の水平方向(X方向)における光路の一例を概略的に示す図である。対象物100からの反射光は、分岐部51によって光学系52に向けて分岐された後、拡散部61を通過して集光部62に入射される。集光部62は、入射された反射光を、X方向に関する対象物100の位置に応じて、受光素子部53の受光面におけるX方向の異なる位置に集光させる。その際、集光部62から受光素子部53に向かう反射光は、上記の通り、波長に応じて選択透過部63を選択的に透過する。
【0041】
図12は、図7に示した演算部54の構成を示すブロック図である。演算部54は、反射率算出部91、正規化指標算出部92、及び二次微分値算出部93を備えている。
【0042】
上記の通り、受光素子部53を構成する各受光素子は、反射光の受光強度に応じた大きさの電気信号を出力する。当該電気信号は、各受光素子から反射率算出部91に入力される。
【0043】
反射率算出部91は、受光素子部53から入力された電気信号に基づいて、1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、及び1600nm帯の各波長成分に関する反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600を算出する。
【0044】
正規化指標算出部92は、反射率算出部91によって算出された反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600に基づいて、以下に示す式により定義される正規化指標ND1〜ND4を算出する。
ND1 : (R1500−R1300)/(R1500+R1300)
ND2 : (R1500−R1200)/(R1500+R1200)
ND3 : (R1600−R1300)/(R1600+R1300)
ND4 : (R1300−R1100)/(R1300+R1100)
【0045】
また、二次微分値算出部93は、上記反射率と波長との関数の二次微分値を算出する。本実施の形態の例では、二次微分値算出部93は、反射率算出部91によって算出された反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600に基づいて、以下に示す式により定義される近似的な二次微分値2ndder1,2ndder2を算出する。
ndder1 :
[{(R1500−R1300)/(R1500+R1300)}/200]
−[{(R1300−R1200)/(R1300+R1200)}/100]
ndder2 :
[{(R1500−R1200)/(R1500+R1200)}/300]
−[{(R1200−R1100)/(R1200+R1100)}/100]
【0046】
反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600、正規化指標ND1〜ND4、及び二次微分値2ndder1,2ndder2は、演算部54から識別部23に入力される。
【0047】
識別部23は、演算部54から入力されたこれらの情報に基づいて、対象物(つまり監視エリア4内に含まれている移動物体)の種別を識別する。
【0048】
図13,14は、識別部23による対象物の識別処理を示すフローチャートである。まずステップP21において識別部23は、各反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600の値が近似的に0であるか否かを判定する。例えば、反射率の値が所定値(例えば0.02)未満である場合にはその反射率は近似的に0であると判定し、反射率の値が当該所定値以上である場合にはその反射率は近似的に0でないと判定する。全ての反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600の値が近似的に0である場合(つまりステップP21における判定結果が「YES」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内(この例では拡大画像300の全体領域内)に窓ガラスが存在すると判定する。
【0049】
一方、いずれかの反射率R1100,R1200,R1300,R1500,R1600の値が近似的に0でない場合(つまりステップP21における判定結果が「NO」である場合)には、次にステップP22において識別部23は、二次微分値2ndder1に正規化指標ND1,ND3の和を乗じた値「2ndder1×(ND1+ND3)」が所定の閾値Th11未満であるか否かを判定する。
【0050】
「2ndder1×(ND1+ND3)」の値が閾値Th11以上である場合(つまりステップP22における判定結果が「NO」である場合)には、次にステップP23において識別部23は、正規化指標ND2の値が所定の閾値Th12より大きいか否かを判定する。
【0051】
正規化指標ND2の値が閾値Th12より大きい場合(つまりステップP23における判定結果が「YES」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内に動物又は布地が存在すると判定する。
【0052】
一方、正規化指標ND2の値が閾値Th12以下である場合(つまりステップP23における判定結果が「NO」である場合)には、次にステップP24において識別部23は、二次微分値2ndder2の値が所定の閾値Th13未満であるか否かを判定する。
【0053】
二次微分値2ndder2の値が閾値Th13未満である場合(つまりステップP24における判定結果が「YES」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内に植物が存在すると判定する。
【0054】
一方、二次微分値2ndder2の値が閾値Th13以上である場合(つまりステップP24における判定結果が「NO」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内に人肌が存在すると判定する。
【0055】
上記ステップP22の判定において、「2ndder1×(ND1+ND3)」の値が閾値Th11以上である場合(つまりステップP22における判定結果が「NO」である場合)には、次にステップP25において識別部23は、正規化指標ND3の値が所定の閾値Th14未満であるか否かを判定する。
【0056】
正規化指標ND3の値が閾値Th14未満である場合(つまりステップP25における判定結果が「YES」である場合)には、次にステップP26において識別部23は、正規化指標ND4の値が所定の閾値Th15未満であるか否かを判定する。
【0057】
正規化指標ND4の値が閾値Th15未満である場合(つまりステップP26における判定結果が「YES」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内に金属が存在すると判定する。
【0058】
一方、正規化指標ND4の値が閾値Th15以上である場合(つまりステップP26における判定結果が「NO」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内にコンクリート又は石が存在すると判定する。
【0059】
上記ステップP25の判定において、正規化指標ND3の値が閾値Th14以上である場合(つまりステップP25における判定結果が「NO」である場合)には、次にステップP27において識別部23は、正規化指標ND2の値が所定の閾値Th16未満であるか否かを判定する。
【0060】
正規化指標ND2の値が閾値Th16未満である場合(つまりステップP27における判定結果が「YES」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内にアスファルトが存在すると判定する。
【0061】
一方、正規化指標ND2の値が閾値Th16以上である場合(つまりステップP27における判定結果が「NO」である場合)には、識別部23は、解析対象範囲内にコンクリート又は石が存在すると判定する。
【0062】
なお、各閾値Th11〜Th16は、予め、金属や人肌等の既知の対象に対して測定領域を設定して識別部23による上記識別フローを実施することにより、対象を正確に識別できる適切な値に設定される。
【0063】
以上の結果、識別部23は、解析対象範囲内に人肌が存在すると判定した場合には、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別は人間であると識別する。一方、それ以外の場合には、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別は人間でないと識別する。例えば、解析対象範囲内に窓ガラス又は金属が存在すると判定した場合には、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別は車であると識別する。
【0064】
なお、監視エリア4への侵入者が覆面や手袋を着用することによって人肌が露出していない状況も想定される。そのため、人間のみが着用する化学繊維等の材質を検出可能な識別フローを設定することにより、解析対象範囲内に化学繊維が存在すると判定した場合には、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別は人間であると識別してもよい。
【0065】
また、以上の説明では材質分析を行う解析対象範囲を拡大画像300の全体領域に設定したが、これとは異なる領域を解析対象範囲として設定することもできる。図15は、解析対象範囲の他の設定例を示す図である。拡大画像300の全体領域を複数の小領域301に分割し、各小領域301を解析対象範囲として順に設定することにより、各小領域301に関する材質分析を順に実行する。そして、複数の小領域301の少なくとも一つにおいて、人肌(又は化学繊維)が存在すると判定した場合には、識別部23は、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別は人間であると識別する。他の例として、人間の頭部は円形又は楕円形であることに着目して、拡大画像300内に含まれている円形又は楕円形の領域302をパターンマッチング等によって抽出し、領域302を解析対象範囲として設定することにより、領域302に関する材質分析を実行する。そして、領域302内に人肌(又は化学繊維)が存在すると判定した場合には、識別部23は、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別は人間であると識別する。なお、拡大画像300の全体領域を解析対象範囲として設定する手法、複数の小領域301を解析対象範囲として順に設定する手法、及び、円形又は楕円形の領域302を解析対象範囲として設定する手法は、互いに組み合わせて適用することもでき、複数の手法を組み合わせることによって識別精度を向上することができる。
【0066】
このように本実施の形態に係る監視装置3によれば、識別部23は、分析部22による材質分析の結果に基づいて、監視エリア4内に含まれている移動物体の種別を識別する。従って、材質分析の結果、人肌や化学繊維等が含まれている場合には、その移動物体は人間であると識別することができる。しかも、取得部21は、移動物体の拡大画像300を取得し、分析部22は、当該拡大画像300に基づいて材質分析を行う。従って、移動物体とは無関係の背景領域の影響を排除して、移動物体の材質分析を高精度に行うことができる。その結果、所定の監視エリア4内に移動物体が含まれている場合に、その移動物体が人間であるかそれ以外の動物等であるかを正確に識別することが可能となる。
【0067】
また、本実施の形態に係る監視装置3によれば、取得部21は、広角カメラ11A,11Bによって監視エリア4の全体を撮影し、その撮影画像200に移動物体が含まれている場合に、望遠カメラ12によって移動物体を撮影することにより、移動物体の拡大画像300を得る。従って、広角カメラ11A,11Bによって監視エリア4の全体を広く撮影しつつ、望遠カメラ12によって移動物体の詳細な撮影を行うことが可能となる。しかも、位置特定部31は、広角カメラ11A,11Bの撮影画像200に移動物体が含まれている場合に、監視エリア4内における移動物体の位置を特定し、望遠カメラ12は、位置特定部31から指定された位置を撮影する。従って、望遠カメラ12によって移動物体を探索する必要がないため、望遠カメラ12による移動物体の撮影動作を遅滞なく開始することができる。
【0068】
また、本実施の形態に係る監視装置3によれば、受光素子部42と光学系41との間に分岐部51を配置し、光学系41から受光素子部42に向かう反射光を、分岐部51によって光学系52に向けて分岐させる。これにより、光学系41によって受光素子部42上に導光される反射光と共通の反射光を、光学系52によって受光素子部53上に導光することができる。その結果、分析部22は、望遠カメラ12によって得られる拡大画像300に対するスペクトル分析を正確に行うことが可能となる。しかも、スペクトル分析を行うための専用カメラ(ハイパースペクトルカメラ)を望遠カメラ12とは別に設ける必要がないため、装置を小型化できるとともに、共通の拡大画像を得るべく専用カメラの動作と望遠カメラ12の動作とを同期させる制御も不要となる。
【0069】
また、本実施の形態に係る監視装置3によれば、分析部22は、拡大画像300の全体領域、拡大画像300を分割した複数の小領域301、及び拡大画像300内に含まれる円形又は楕円形の領域302の少なくとも一つを対象としてスペクトル分析を行う。拡大画像300の全体領域を分析対象とすることにより、スペクトル分析を簡易に行うことができる。拡大画像300を分割した複数の小領域301を分析対象とすることにより、全体領域を分析対象とする場合と比較して高精度な分析を行うことができる。拡大画像300内に含まれる円形又は楕円形の領域302を分析対象とすることにより、拡大画像300内に顔が含まれている場合に、その顔を対象としたスペクトル分析を行うことができるため、移動物体が人間であるかそれ以外の動物等であるかを高精度に識別することが可能となる。
【0070】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
3 監視装置
4 監視エリア
11A,11B 広角カメラ
12 望遠カメラ
21 取得部
22 分析部
23 識別部
31 位置特定部
41,52 光学系
42,53 受光素子部
51 分岐部
54 演算部
300 拡大画像
301 小領域
302 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の撮影エリアを撮影した撮影画像内に移動物体が含まれている場合に、可視域及び赤外域を含む当該移動物体の拡大画像を取得する取得手段と、
前記拡大画像に基づいて、赤外域における特定の複数の波長のスペクトルを検出し、当該検出の結果に基づいて前記移動物体の材質を分析する分析手段と、
前記分析手段による分析の結果に基づいて、前記移動物体の種別を識別する識別手段と、
を備える、対象識別装置。
【請求項2】
前記取得手段は、
前記撮影エリアの全体を撮影する比較的広画角の第1のカメラと、
前記第1のカメラが撮影した画像に前記移動物体が含まれている場合に、前記撮影エリア内における前記移動物体の位置を特定する特定手段と、
前記特定手段が特定した位置を撮影することによって前記拡大画像を得る比較的狭画角の第2のカメラと、
を有する、請求項1に記載の対象識別装置。
【請求項3】
前記第2のカメラは、
第1の受光素子部と、
前記移動物体からの反射光を前記第1の受光素子部上に導光する第1の光学系と、
を有し、
前記分析手段は、
第2の受光素子部と、
前記第1の受光素子部と前記第1の光学系との間に配置され、前記第1の光学系から前記第1の受光素子部に向かう反射光を分岐させる分岐手段と、
前記分岐手段によって分岐された反射光を前記第2の受光素子部上に導光する第2の光学系と、
を有する、請求項2に記載の対象識別装置。
【請求項4】
前記分析手段は、
前記拡大画像の全体領域、
前記拡大画像を分割した複数の小領域、及び
前記拡大画像内に含まれる円形又は楕円形の領域
の少なくとも一つを対象として前記スペクトル分析を行う、請求項1〜3のいずれか一つに記載の対象識別装置。
【請求項5】
(A)所定の撮影エリアを撮影した撮影画像内に移動物体が含まれている場合に、可視域及び赤外域を含む当該移動物体の拡大画像を取得するステップと、
(B)前記拡大画像に基づいて、赤外域における特定の複数の波長のスペクトルを検出し、当該検出の結果に基づいて前記移動物体の材質を分析するステップと、
(C)前記ステップ(B)による分析の結果に基づいて、前記移動物体の種別を識別するステップと、
を備える、対象識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−109732(P2012−109732A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256087(P2010−256087)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】