説明

封入体、これを含有する細菌細胞および組成物、ならびにこれらの使用

本発明は、封入体が粒子形態であることを特徴とする、ポリペプチドを含む単離された封入体に関する。本発明はまた、前記封入体を含む細菌細胞に関する。本発明はさらに、前記封入体および真核細胞を含む組成物に関する。本発明はまた、前記封入体および動物または植物組織を含む組成物に関する。本発明はまた、前記封入体の、細胞増殖および組織再生の医薬および刺激物質としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封入体、これを含有する細菌細胞および組成物、ならびにこれらの、細胞増殖および組織再生の医薬および刺激物質としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌封入体(IB)は、組換え細菌において産生される高度に純粋なタンパク質沈着物である。水に不溶性であり、これらは数百ナノメーター範囲の大きさの高度に水和化された多孔性非晶質粒子として観察される。IBを構成するポリペプチド鎖は、その天然構造に対応するアミロイド型分子構造に折り畳まれ、これにより封入されたポリペプチドの生物学的活性(例えば、蛍光または酵素活性)を維持する。したがって、これを適切に操作すれば、IBは、機能性および生体適合性物質として広く利用できる可能性がある。これらタンパク様粒子の生物物理学的特徴、例えば活性およびサイズなどの操作は、遺伝条件および産生条件を調節することにより理論的には可能であるにも拘わらず、いまだに行われていない。本研究においては、新規な粒子状物質としてのIBのナノスケールの特性を明らかにし、産生された粒子がシンプルな戦略によってどの程度まで設計できるかを検討する。さらに、概念の重要な証拠として、哺乳動物細胞の増殖を有意に刺激する封入体によって修飾された表面を得ており、これは、他の期待される生物医学的用途の中でも組織マニピュレーションおよび再生医学における、IBの可能性を実証するものである。
【0003】
遺伝子操作された細菌中で産生される組換えポリペプチドの多くは、IBとして凝集する。これらのタンパク質沈着物は、細菌の細胞質に、またはいくつかの場合においてはペリプラズムに見出される、高度に水和化された粒子として現れる。IBは組換えタンパク質が主要成分で、総タンパク質のおよそ95%までを占めているため、化学的に純粋である2,4,5。他の細胞分子、例えばRNA、DNAおよび脂質は、IBの形成の間に捕捉されて、少量のみが存在する。IBの形成は迅速で効果的なプロセスであり、これは、遺伝子発現の誘導の数分後には観察することができる。数時間後、これらは容易に全細胞生物量の約50%を占めることができる。過去には、IBが、折り畳みなしまたは実質的に折り畳みの少ないポリペプチド鎖により形成され、したがって生物学的に不活性であると考えられていたが、最近の観察では、これらの粒子が正確に折り畳まれたタンパク質で形成され、したがって生体機能的であると記されている。IBの分子構造は特定のアミロイド型機構に基づいており9,10、これは、正確に折り畳まれたタンパク質のドメインと共存するための、架橋βシート相互作用を許容する11
【0004】
したがって、酵素により形成されたIBは、β−ガラクトシダーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼ、シアル酸アルドラーゼおよびポリリン酸キナーゼなどのタンパク質について最近観察された種々のタイプのバイオプロセスにおいて、有用な触媒となり得る11〜15。IBのin vivoでの形成は、核生成中心近くの配列に依存したタンパク質の沈着を意味するが、これは、種々の細胞遺伝子(機能性ネットワークとして作用するプロテアーゼおよびシャペロンを主にコードし、ナノスケールレベルでのこれらの特性の操作を可能としている)によって制御される16,17。本発明は、ナノ粒子としてのIBの最も重要な特徴を決定し、IBが遺伝子操作により、および産生細菌における適切なプロセスの操作により設計可能であることを実証する。完全に生体適合性かつ機械的に安定な物質であるため、IBはまた、哺乳動物細胞増殖の刺激のために表面の粗さを改変するためのナノ粒子としても用いられている。実質的に任意のタンパク質種が細菌IBとして産生可能であり、そのナノスケールでの特性が容易に調節できるとすれば、これらの新規な物質の機能的可能性は、ここに組織マニピュレーションの文脈において示されているもの以外にも、著しい範囲の追加の生物医学的用途を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、封入体、これを含有する細菌細胞および組成物、ならびに細胞増殖および組織再生の刺激物質としてのこれらの使用に関する。
本発明の第1の目的は、封入体が粒子形態であることを特徴とする、ポリペプチドを含む単離された封入体に関する。
本発明の第2の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面を含む、細菌細胞に関する。
【0006】
本発明の第3の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面および真核細胞を含む、組成物に関する。
本発明の第4の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面および動物または植物組織を含む、組成物に関する。
本発明の第5の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的および配置的な側面の、細胞増殖および組織再生の医薬および刺激物質としての使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】IBの形態学的および機能的特徴付け。図1A:GFP融合タンパク質により形成されるIBを産生する野生型細菌細胞の共焦点顕微鏡画像。上から下へ、IB産生の誘導の1時間後、2時間後、3時間後に採取した細胞試料。
【図1B】IBの形態学的および機能的特徴付け。図1B:GFP融合タンパク質により形成される、野生型細菌細胞、IbpAB、ClpA、ClpPおよびDnaKが産生するIBの、形成2時間後のMetamorphパレットを用いた共焦点顕微鏡画像(上部)。これらの株からの精製3時間後のIBの共焦点顕微鏡画像(下部)。AおよびBにおけるバーは1μmを示す。
【図1C】IBの形態学的および機能的特徴付け。図1C:異なる細菌株から産生された形成3時間後のIBの、動的光散乱により測定した粒径の分布曲線。IbpAB欠損細胞のIBは、超粒子複合体として凝集するそれらの特定の傾向のために、この試験からは除外した(結果は示さず)。曲線は、粒子体積のパーセンテージで表す。粒子体積サイズの分布はD[v,0.5]として記載し、これは、これより下の値に全系の体積の50%が含まれる粒子直径(nm)である。D[v,0.5]は、体積での平均粒子直径(nm)である。多分散性指標(PdI)は、[D(v,0.1)/D(v,0.9)]*100として定義される。
【図1D】IBの形態学的および機能的特徴付け。図1D:D大腸菌株IbpAB、ClpA、ClpPおよびDnaKから精製した粒子について、フローサイトメトリ分析による、IBが発光した蛍光。
【0008】
【図2A−2B】GFPを有するIBの微細構造および安定性。図2A−2Bは、上の図において、GFP融合タンパク質で作製されたIBの形成3時間後の、原子間力顕微鏡法(AFM)による特徴を示す:A.表面上にランダムに沈着したIBの2.5×2.5μmの局所画像。B.A図の画像中の2つのIBを示す、600×600nmの3D画像。
【図2C】GFPを有するIBの微細構造および安定性。図2Cは、単離されたIB(Aにおいて青色の線で示す)の粒子の局所的断面図であり、内部構造の結果として、IB表面上に1.89nmの一定のRMS固有粗さの存在を示し、これは微細な表面組織をもたらしている。
【図2D】GFPを有するIBの微細構造および安定性。図Dにおいて、野生型細胞(上部)およびDnaK細胞(下部)において産生された、形成3時間後のIBのSEM画像。白色のバーは500nmを示す。
【図2E】GFPを有するIBの微細構造および安定性。図Eにおいて、37℃、25℃、および4℃の水性緩衝液中の、または、凍結乾燥(L)およびその後25℃または4℃で貯蔵された、IBの安定性を示す。
【図2F】GFPを有するIBの微細構造および安定性。図Fは、25℃、4℃、および−80℃で1ヶ月間緩衝液中に維持された精製IB、および凍結乾燥/再構築(L)後の精製IBの、共焦点顕微鏡画像。
【0009】
【図3A−3B】IBにより刺激された、哺乳動物細胞の増殖。図3A:天然細胞で産生された、GFPを有する240μgのIBで被覆された35mmポリスチレンプレートの共焦点画像。図3B:同一の視野について、細胞沈着の75時間後の0.6μmセクションによるBHK細胞の被覆、およびGFP融合タンパク質により形成されたIBのxzy投影(上部)および細胞被覆(下部)。
【図3C】IBにより刺激された、哺乳動物細胞の増殖。図3C:3連続チャネルの共焦点レーザー走査顕微鏡法により解析する直前の、Hoechst 3342で染色した細胞核およびCellMaskで染色した細胞膜。
【図3D】IBにより刺激された、哺乳動物細胞の増殖。図3D:IBで被覆したプレート上(IB)、ビトロネクチンで被覆したプレート上(V)、およびコントロールプレート上(C)での、異なるインキュベーション時間におけるBHK細胞の増殖。
【図3E】IBにより刺激された、哺乳動物細胞の増殖。図3E:ビトロネクチンで被覆したプレート(V)およびコントロールプレート(C)と比較した、IBの異なる濃度で被覆したプレート上でのBHK細胞の増殖。実験は、培養物で処理したポリスチレンプレート(黒のバー)および未処理のプレート(灰色バー)上で平行して行った。
【図3F】IBにより刺激された、哺乳動物細胞の増殖。図3F:Isosurfaceモジュールの適用によりImaris3Dソフトウェアで処理した、22のセクションのxyz共焦点スタック。
【図3G】IBにより刺激された、哺乳動物細胞の増殖。図3G:50μmのIBの被覆によりスタンプしたアミノ末端化シリコンの、従来の顕微鏡法(上部)および共焦点顕微鏡法(中部)による表面画像、および表面上での48時間の増殖後のBHK細胞の分布(下部)。
【0010】
本発明の説明
本発明は、封入体、これを含有する細菌細胞および組成物、ならびに細胞増殖および組織再生の刺激物質としてのこれらの使用に関する。
用語「封入体」は、本発明においては「IB」とも呼ぶが、これは前記発明の背景の節に示されているものとして、またはより簡潔には、細胞の細胞質に見出される、凝集タンパク質を含有する非晶質細胞内沈着物として理解される。
本発明の第1の目的は、封入体が粒子形態であることを特徴とする、ポリペプチドを含む単離された封入体に関する。
【0011】
好ましい態様において、粒子形態は、24〜1500nmの粒径を有する。
さらに好ましい態様において、粒子は、水和非晶質形態である。
本発明の第1の目的による封入体を含むポリペプチドについて、これは、レポータータンパク質に翻訳可能に融合しているウイルスタンパク質を含むキメラポリペプチドであることができる。
好ましい態様において、前記ウイルスタンパク質は、カプシドタンパク質である。
さらに、他の好ましい態様において、レポータータンパク質は蛍光タンパク質である。特に、前記蛍光タンパク質はGFP(緑色蛍光タンパク質)である。
【0012】
特定の態様において、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面は、組織培養培地で処理したプレート上に付着されている。
その他の特定の態様において、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面は、シリコン基板上に付着されている。
さらに他の特定の態様において、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面は、3次元の合成または天然フレームワーク内に組み込まれている。
【0013】
本発明の第2の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面を含む、細菌細胞に関する。
好ましい態様において、前記細菌細胞は、大腸菌(E. Coli)である。
さらに好ましい態様において、大腸菌である前記細菌細胞は、野生型株(WT)または変異株である。
本発明の第3の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面および真核細胞を含む、組成物に関する。
【0014】
好ましい態様において、前記真核細胞は哺乳動物細胞である。
本発明の第4の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的側面および動物または植物組織を含む、組成物に関する。
本発明の第5の目的は、本発明の第1の目的による封入体およびその異なる構造的および配置的な側面の使用に関する。
前記封入体の第1の使用は、真核細胞の増殖の刺激物質としてのものである。
【0015】
前記封入体の第2の使用は、組織再生物質としてのものである。
前記封入体の第3の使用は、医薬としてのものである。特に、医薬としての前記の使用は、細胞増殖および組織再生において観察される利点を考慮に入れている(実験の節を参照)。
以下の例は説明目的のために提供されており、いかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
材料および方法
細菌細胞、プラスミド、および封入体の産生
IBは、大腸菌の異なる株において、特にMC4100(タンパク質の折り畳みおよび分解についての野生株、araD139 Δ(argF-lac) U169 rpsL150 relA1 flbB5301 deoC1 ptsF25 rbsR)18およびその派生物であるJGT4(コプロテアーゼClpA欠損、clpA::kan)、JGT17(熱ショック小タンパク質IbpAB欠損、Δibp::kan)、JGT19(コプロテアーゼClpP欠損、clpP::cat)、およびJGT20(主要シャペロンDnaK欠損、dnak756 thr::Tn10)19において産生される。これらの産生株を、VP1(口蹄疫ウイルスのカプシドタンパク質の五量体形態)のアミノ末端に融合する緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする発現ベクターpTVP1GFP(Ap)を用いて、形質転換した20。このウイルスタンパク質は高度に疎水性であり、融合タンパク質をIBとして付着させる。組換え遺伝子は、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)による誘導性rtcプロモーターの制御下で発現される。
細菌細胞はLBが豊富な培地で培養され18、融合遺伝子は、前に記載した標準条件下で発現された17。IBは、IPTG添加の1時間後に明らかに検出された(図1A)。
【0017】
封入体の精製
4℃で200mlの細菌培養物の試料を5000gで5分間遠心分離し、50mlの溶解緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH8.1、100mMのNaClおよび1mMのEDTA)に再懸濁させた。氷中に維持した試料を振幅40%、周期0.5秒で超音波処理した(25〜40分間)。超音波処理の後、100mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)28μlおよび50mg/mlのリゾチーム23μlを試料に加え、これを37℃で攪拌しつつ45分間インキュベートした。次に、40μlのNonidet P40(NP−40)を加え、混合物を4℃で1時間攪拌した。120μlの1mg/mlDNAアーゼおよび120μlの1MのMgSOを用いて、37℃で45分間攪拌しつつ、DNAを除去した。最後に試料を4℃、15,000gで15分間遠心分離し、純粋なIBを含む残留物を0.5%Triton X-100を含む溶解緩衝液で洗浄し、分析まで−20℃で維持した。
【0018】
細菌およびIBの顕微鏡分析
試料を、Leica TSC SP2 AOBS(Leica Microsystems Heidelberg GMBH, Manheim, Germany)共焦点蛍光顕微鏡を用いて、488nmの波長での励起後に分析し、画像を500〜600nmの発光波長で(63×、1.4NAオイル)、Plan-Apochromat対物レンズ(ズーム8;1024×1024ピクセル)を用いて記録した。蛍光IBを産生する細菌細胞の分析には、IPTGによる誘導の1時間、2時間、および3時間後に試料を採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の0.2%ホルムアルデヒドで固定し、使用するまで4℃で維持した。単離されたIBを、20mlのPBSに再懸濁させた。走査電子顕微鏡法(SEM)については、試料をFEG(電界放出ガン)−ESEM(環境走査電子顕微鏡)を用いる従来の手順により分析した。
【0019】
フローサイトメトリ
精製したIBをPBSに再懸濁させ、0.5秒周期で4分間超音波処理し、FACS Calibur(Becton Dickinson)システム中で、空冷15mWアルゴンイオンレーザーを488nmの励起波長で用いるフローサイトメトリにより分析した。IBの蛍光発光を、FL−1チャネル(530/30nm帯域フィルター)で対数モードを用いて測定した。
【0020】
原子間力顕微鏡法による特徴付け
原子間力顕微鏡(AFM)分析を、空気中で市販の原子間力顕微鏡(PicoScan/PicoSPM:Molecular Imaging Agilent Technologies, Inc., Santa Clara, CA, USAより)により音響モードで行った。0.1Mのリン酸緩衝液、pH7.4に再懸濁させたIBを、雲母表面に付着させ、測定前に空気乾燥した。音響モードでの測定には、PPP−NHC(Nanosensors, Inc.)モノリシックシリコンプローブを、公称ばね定数42N/mおよび共振周波数330kHzで用いた。
【0021】
動的光散乱測定
IBの体積でのサイズ分布およびゼータ電位の測定を、動的光散乱(DLS)分析器を633nmの波長にて、非侵襲的後方散乱(NIBS)技法(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments Limited, Malvern, United Kingdom)と組み合わせて用いて行った。0.1Mのリン酸緩衝液、pH7.4中の3時間寿命のIBの分散物を、短時間超音波処理(室温で1分間)により調製した。得られた分散物の20℃、3mlのアリコートを、測定前のフィルタリングなしで測定した。強度データは、0.1Mのリン酸緩衝液、pH7.4を参照標準として用いて正規化した。3つの異なる測定値の平均値を、IBの平均の流体力学的径とした。
【0022】
アミノ末端化単分子層の調製
1辺を研磨した1×1cmのシリコン基板(100)を、アミノ末端化単分子層の調製に用いた。単分子層の形成前に、基板をRCA−1酸化溶液(NHOH/HO/HOを1:1:5の割合)で80℃で30分間処理し、18.2MΩより高い伝導率の超純水/MilliQ水でゆっくりすすいだ。続いて、基板をpyranha溶液(濃縮HSO(Panreac)および水溶性の33%H(Aldrich)を3:1の割合)に15分間導入し、豊富な純水ですすいで、窒素流中で乾燥した。この処理により、後の反応用にヒドロキシル基で末端化した基板の新しい表面が提供される。アミノ末端化単分子層は、制御雰囲気下で、基板を無水トルエン中の5mMのN−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(TPEDA)(97%Aldrich)溶液に3時間暴露することにより、形成した。
【0023】
単分子層の形成後、基板をトルエンおよびエタノールですすいで余分なシランを除去し、窒素流中で乾燥した。アミノ末端化基板の接触角を、CCDカメラおよび角度決定用のSCA20ソフトウェアを備えた、OCA15+(Data Physics Instruments GMBH, Germany)接触角測定装置中、3μlの超純水(18.2MΩcmのMilliQ)の滴を用いて測定した。XPSスペクトルを、350Wで動作する単色Al K−アルファX線源を備えたPHI ESCA-500(Perkin Elmer)装置により得た。スペクトルは、284.8eVで観察される主要Clsピークを参照した。
【0024】
アミノ末端化シリコン基板上でのIBのミクロ接触プリンティング(μCP)
アミノ末端化シリコン基板上のIBのμCPを、PDMSスタンピング(Sylgard 184, Dow Corning, United States)を用いて行った。スタンピングの作製は、PDMSと硬化剤(Sylgard 184, Dow Corning)の10:1(v/v)混合物をフォトリソグラフィーパターンのシリコンベースに対して溶融し、60℃で1時間硬化させて行い、これをこの硬化温度で抜き出した。PDMSスタンピングは60℃のオーブン中に少なくとも18時間置いて、確実に完全に硬化させた。μCPでプリントしたIBについて、PDMSスタンピングをPBS緩衝液(pH7.5)中のIBの懸濁物に40分間含浸させ、窒素流中で乾燥して、清浄なアミノ末端化シリコン基板の表面に置いた。1分間の接触時間の後、スタンピングを注意して取り除いた。
プリントした試料の蛍光を、Leica TSC SPE(Leica Microsystems Heidelberg GMBH, Manheim, Germany)共焦点蛍光顕微鏡を488nmの波長での励起で用い、500〜600nmの発光を測定して(×10、空気)分析した。
【0025】
安定性解析
DnaK細胞中で形成された5時間後のIBを、40mg/lのゲンタマイシンの存在下、10g/lのウシ血清アルブミン(BSA)および60g/lサッカロースを有するPBSで希釈し、100U/mlのペニシリンおよび10μg/mlのストレプトマイシンおよびアリコートを、異なる温度(37℃、25℃、または4℃)でインキュベートした。試料を、蛍光測定のために−80℃で異なる時間凍結した。蛍光は、450nmの励起波長を用いるCary Eclipse(Variant, Inc., Palo Alto, CA)蛍光分光計で、510nmにおいて記録した。結果は、完全に安定な−80℃に維持された対照試料と比較して、活性パーセンテージまたは残留蛍光により示した。試料の別の群は、Telstar Cryodos-80凍結乾燥機中で凍結乾燥し、分析まで4℃または25℃で貯蔵した。
【0026】
細胞増殖試験
上記のGFPを含む単離された封入体を、産生3時間後に、253nm波長の殺菌UVランプに4時間暴露することにより殺菌した。これらを次にPBS中に再懸濁させ、IBタンパク質の異なる量、具体的にはウェル当たり0.08μg、0.8μgおよび8μgを用いて、組織培養培地(Becton Dickinson)で処理したFalcon 3072の96ウェルポリスチレンプレート、または未処理のCostar 3370プレートを覆い、4℃で一晩インキュベートした。ビトロネクチン(Calbiochem)を、製造業者の指示に従って50ng/cmの濃度で参照として用いた。ウェルはPBS中で洗浄し、PBS中3%BSAで37℃で1時間ブロックした。新生ハムスター腎臓(BHK)細胞株の1.5×10細胞を次に各ウェルに加え、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)に非必須アミノ酸、5%ウシ胎児血清、ゲンタマイシンおよび抗カビ剤を補足したものの中で、37℃にて異なる時間インキュベートした。対照ウェルでは上記と正確に同じ処理を行ったが、ただしIBは除いた。
【0027】
インキュベーション後、細胞増殖を製造業者の指示に従ってEZ4Uキット(Biomedica, GMBH)を用いて決定し、VICTOR3 V Multilabel Counter model 1420(Perkin Elmer)で分析した。吸光度の読取りは450nmおよび620nmを参照として、得た値は、培地のみを含むウェルに対して標準化した。予備試験を行って、キット試薬による飽和の前のインキュベーション時間を選択した;最適時間は、24時間培養に対して3時間、48時間培養に対して2時間、および72時間培養に対して30分であった。全ての試験はトリプリケートで行った。データは、各条件について行った3回の実験値の平均±SEMで表し、ANOVA試験および、事後ボンフェローニ解析により統計的に評価した。有意水準はp<0.05であった。シリコン上の細胞増殖については、IBグラフトを有する表面を適切なサイズに切り、UV照射し、組織培養培地を有するFalcon24ウェルポリスチレンプレートに付着させ、ここで細胞は従来の手順で播種して培養した。
【0028】
共焦点顕微鏡法による細胞培養物の分析
細胞培養物は、Leica TCS SP5 AOBS共焦点スペクトル顕微鏡(Leica Microsystems, Manheim, Germany)で、Plan-Apochromat63×1.4NAレンズを用いて試験した。全ての画像は、ガラス底ディッシュ上(MatTek Corporation, Ashland, MA, USA)で増殖した生細胞から得た。細胞は、10%ウシ胎児アルブミンを補足したDMEM+Glutamax 1(Gibco)中での培養および収集の72時間前に、GFP含有封入体の密度4×10/ウェルで播種した。核および原形質膜の標識のために、細胞をそれぞれ5μg/mlのHoechst 33342および5μg/mlのCellMask(両者ともMolecular Probes, Inc., Eugene, OR, United Statesより)を用いて室温で5分間インキュベートし、共焦点検出の前に2回洗浄した。核は405nmのレーザーダイオード光で励起し、414〜461nm(青チャネル)で観察した;原形質膜は、633nmのヘリウムおよびネオンレーザー光による励起により検出し、蛍光を656〜789nmで観察した(赤外線チャネル);最後に、アルゴンレーザーからの488nmの線を用いて、IB画像を得た(緑チャネル、500〜537nmでの発光)。22の光学セクションのゼータ系列を、LAS AF(Leica Microsystems)ソフトウェアにより得て、3次元モデルをImarisソフトウェア(Bitplane, Zurich, Switzerland)を用いて作製した。
【0029】
結果および考察
緑色蛍光タンパク質(GFP)により形成されるIBは高度に蛍光性であるため、その生物学的産生の動態解析および機能解析のための便利なモデルである20。ラクトース類似体であるIPTGを細菌培養物に添加後、IBは、GFP遺伝子の発現誘導の1時間後に、共焦点顕微鏡法により明白に見ることができ(図1A)、組換えGFPの合成の間約3時間まで容積的に増殖するので、広いサイズ範囲のIBの収集が可能である。実験室での、最適化の試みなしの細菌増殖の標準条件下において、産生は3時間後に5mg/lより高く(結果は示さず)、実際的なスケールについて非常に期待できる収率である。さらに、シャペロンまたはプロテアーゼの欠損した異なる大腸菌株は、in vivoでのタンパク質沈着の動態が異なるため、異なるサイズのIB(図1B)を同じ収率で産生する。
【0030】
天然の細胞から精製した成熟したIBは平均直径340nmを示したが(独立した推定値と対応21)、この値は突然変異細胞の使用により、500nmを越えるまで次第に増加させることができ(DnaK欠損細胞において)(図1C)、これと共に全ての分析試料において、比較的低い多分散性指標を示す。粒子の蛍光発光もまた、精製されたIBにおいてフローサイトメトリにより決定され、低蛍光のナノ粒子(天然株)から高蛍光のナノ粒子(ClpP変異株)までの、規定の間隔が観察された(図1D)。次に、産生プロセスの間の収集時間(IBの増殖のステージを決定する)と、産生株(生物学的活性とサイズの上限を決定する)との適切な組み合わせは、異なる用途に対して最適化可能な粒子の大きさおよび具体的な蛍光を規定する。例えば、ClpAおよびClpP細胞において得られたIBで、よく似た粒径のもの(それぞれ0.435および0.459nm)は、異なる蛍光発光レベル(それぞれ、粒子当たり平均71および184FL1単位)を示した。しかし、GFPを有するIBの蛍光のマッピングは、全ての株で類似しており、共通の中心同質な蛍光パターンを示す(図1B)。
【0031】
IBのナノスケール形態の特徴をさらに明らかにするために、これらをAFMおよびSEMで調査した。図2A、B、Cに示すように、GFPを有する天然のIBのAFMは、平均して長さ300nm、直径170nmおよび高さ200nmの、球状または円筒状の単離された粒子の存在を示す。実施した断面測定により、DLS測定から得た統計データが確認された(図1C)。SEM観察は、AFM画像と一致して、IBが粗い表面を有することを示し、天然とDnaK細胞で得たIBの間の大きさの違いを強調する(図2D)。新鮮なIB懸濁液中で実施したゼータ電位の測定は−9.8mVを示し、これは、やや負に荷電された表面を示し、凝集物を形成するタンパク質の傾向と一致する。一方、生物学的試料を貯蔵するために一般に用いられる条件下での、IBの安定性も調査した。IBは、−80℃、4℃、25℃、およびまた37℃での蛍光発光および構造の両方について、長期間完全に安定であることが見出され(図2E、F)、これは、貯蔵のみでなく、生理学的試験条件下でのIBの便利な使用および操作を可能とする。興味深いことには、IBはまた、凍結乾燥(および、種々の追加の貯蔵条件下で、図2F)および超音波処理(示されず)の間も機械的および機能的に安定であり、多様な実験条件下でのその使用の可能性を拡大する。
【0032】
細菌性IBが容易に操作可能で、完全に生体適合物質であるので、これらの生物医学的目的に対する潜在的用途を簡単な演習により調査した。再生医療のための組織生成において、細胞結合および増殖は、物質の性質に依存して、プリンティング、リソグラフィおよび類似の手順による物質表面の特性の局所的改変により、刺激可能である。近年、物質による表面の機能化に基づくその他の戦略22、23、24、25、またはナノ粒子による表面の装飾もまた、細胞結合を刺激するために用いる物質の性質に依存することなく、表面組織および粗さの精密な調節を可能とする26、27。この文脈において、直径24〜1500nmのシリカナノ粒子およびセラミクスは、細胞増殖機能に影響を及ぼし、装飾された表面での細胞増殖を正に調節することができる24、26。我々は、このサイズ間隔で現れる細菌IBもまた、表面のナノ操作に有用であるかどうかを見出したいため、組織培養培地で処理したポリスチレンプレート上に沈着したGFPを有するIBの(図3A)、BHK21細胞の増殖に及ぼす効果を試験した(図3B、C)。
【0033】
0.05粒子/μmの密度において、IBは、55.9nmの二乗平均平方根(RMS)粗さを有した。前記修飾表面において、BHK21細胞はGFPを有する沈着したIBに密接に結合して増殖し、これは、細胞膜(赤)での染色が見られること、およびIBの蛍光(緑)が黄色のシグナルをもたらすことにより観察される(図3B)。驚くべきことには、細胞付着および増殖について広く最適化されているポリスチレン表面上で、従来の細胞結合剤、例えばビトロネクチンは、細胞増殖に対して検出可能な効果を示さなかった(図3D、E)。しかし、これらの有利な条件下で、IBは、用量に依存して2倍以上も(図3E)顕著に細胞増殖を刺激した(図3D)。この効果は、他のナノ粒子で観察されるわずかなまたはゼロの効果よりも、大幅に顕著で生物学的に有意であり、他のナノ粒子では、規定のサイズにおいていくつかの細胞株が、刺激効果の代わりに阻害効果を示すようであった26、28、29。興味深いことには、細胞変性または毒性症状は、IBで処理した表面での増殖後の培養細胞では観察されなかった。共焦点3D画像の解析(図3F)は、ポリスチレンに結合したIBが完全に細胞膜内に組み込まれていることを示し、細胞表面と、細胞増殖表面を修飾しているIBナノ粒子との間の密接な相互作用を示唆する。
【0034】
IBの、細胞増殖の刺激物質としての有効性をさらに実証するために、IBの微細構造化(microstructuration)を、アミノ末端化シリコン基板上で30、31、ミクロ接触プリンティング技法(μCP)を用いて行った;μCPは、エラストマースタンプをIBの懸濁液に含浸させることを含む。図3Gは、IBにより、密度0.04IB/μmおよびRMS粗さ32.4nmでスタンプされたシリコン表面、および、これによる、IBで線形に修飾された領域での細胞増殖の刺激を示す。これは、IBにより誘導された細胞増殖に対する選好および、これらナノ粒子の、もともとは細胞増殖に適切でない表面において細胞増殖を刺激する能力を示す。
【0035】
要約すると、細菌内で産生されたIBは、ナノスケールレベルでの重要な特徴について、生物学的産生の間に精密に設計することができ、IBは、生物系において経済的なプロセスにより産生される、魅力あるナノ粒子物質である。もともと生体機能的であるため、またそれらが形成されるタンパク質が選択でき、その生物学的活性を産生細胞の遺伝子改変により調節できるため、IBの操作は、異なるナノ医療分野においても広範囲で深遠な重要性を有し得る。特に、生物医学的適用性の第1の概念実証として、IBは表面を効果的に機能化して、結合した哺乳動物細胞の増殖を顕著に促進する。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
封入体が粒子形態であることを特徴とする、ポリペプチドを含む単離された封入体。
【請求項2】
粒子形態が24〜1500nmの粒径を有する、請求項1に記載の単離された封入体。
【請求項3】
粒子が水和非晶質形態である、請求項1または2に記載の単離された封入体。
【請求項4】
ポリペプチドが、レポータータンパク質に翻訳可能に融合しているウイルスタンパク質を含むキメラポリペプチドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離された封入体。
【請求項5】
ウイルスタンパク質がカプシドタンパク質である、請求項4に記載の単離された封入体。
【請求項6】
レポータータンパク質が蛍光タンパク質である、請求項4または5に記載の単離された封入体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の封入体、および真核細胞を含む、組成物。
【請求項8】
真核細胞が哺乳動物細胞である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の封入体、および動物または植物組織を含む、組成物。
【請求項10】
封入体が、組織培養培地で処理されたプレート上に付着している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離された封入体。
【請求項11】
封入体が、シリコン基板上に付着している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離された封入体。
【請求項12】
封入体が、合成または天然の3次元フレームワーク内に組み込まれている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離された封入体。
【請求項13】
請求項1〜6および10〜12のいずれか一項に記載の単離された封入体の、真核細胞増殖の刺激物質としての使用。
【請求項14】
請求項1〜6および10〜12のいずれか一項に記載の単離された封入体の、組織再生物質としての使用。
【請求項15】
医薬として使用される、請求項1〜6および10〜12のいずれか一項に記載の単離された封入体。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項に規定された封入体を含む、細菌細胞。
【請求項17】
細菌細胞が大腸菌である、請求項16に記載の細菌細胞。
【請求項18】
大腸菌が、野生株または変異株の大腸菌から選択される、請求項17に記載の細菌細胞。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A−2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A−3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【公表番号】特表2012−514025(P2012−514025A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544063(P2011−544063)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070616
【国際公開番号】WO2010/076361
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(306001703)
【出願人】(510207313)ウニベルシタット アウトノマ デ バルセロナ (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT AUTONOMA DE BARCELONA
【住所又は居所原語表記】Edifici A−Campus universitari s/n,E−08193 Bellaterra(Barcelona)Spain
【出願人】(511158568)
【Fターム(参考)】