説明

封入化細胞療法

哺乳類に投与するために、細胞をインテグリンまたは他の細胞相互作用因子と共に封入することを含む細胞療法。前記細胞は療法上の導入遺伝子を発現してもよい、又は前記細胞は再生性のものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2002年12月24日に出願され、現在係属中の米国特許出願シリアル番号60/435,858の優先権を主張する。前記出願の開示の全体が、参照によって本明細書中に援用される。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、封入化細胞(encapsulated cells)を用いた、哺乳類患者の細胞に基づく療法に関する。
【発明の背景】
【0003】
細胞療法は、身体の外側で、選択され、増加され、薬学的に処理され又は変更させた(即ち、遺伝的に修飾した)、細胞の投与を伴う(Bordignon et al, 1999)。細胞療法の目的は、傷害された組織又は器官の生物学的機能を、置換、修復、または増強することである(Bordignon et al, 1999)。移植細胞(transplanted cells)の使用は、多数の内分泌障害(例えば、貧血および小人症)、血液学的な障害、腎臓および肝臓の不全、下垂体およびCNSの欠陥および糖尿病の治療のために調査されている(Uludag et al, 2000)。
【0004】
移植細胞は、天然の生理活性化合物(例えば、成長因子、ホルモン、または神経伝達物質)を放出することにより機能し得る(これらは、影響される系において、非存在であるか又は不十分である)。例には、インスリン依存性糖尿病の治療のための膵島細胞の移植(Miyamoto, 2001)およびパーキンソン病の治療のためのドーパミン産生ニューロンの移植(Lindvall and Hagell, 2001)が含まれる。
細胞療法の療法適用は、糖尿病および神経退行性疾患(例えば、アルツハイマー病、および癲癇)の領域に提案される。加えて、細胞が、身体からの有害な物質の除去に関して、大きな療法上の潜在能力を有していることも示されている。例えば、肝細胞は、高コレステロールレベルの治療のために移植されており、これはWang等〔Wang et al., Transplantation Proceedings, 23: 894-895 (1991)〕により示されている。細胞療法により、通常の薬理学的治療に関する使用に対して、幾つかの利点が提供され、これには以下が含まれる:療法薬の局所デリバリー、連続的なデリバリー、および自然なフィードバック機構に応答する産生を調節する能力(Uludag et al, 2000)。
【0005】
細胞療法に関する別の用途は、異なるタイプのリンパ球の投与を介した、免疫応答の増強である。養子免疫療法は、特定の癌に有用であることが示されており、例えば、白血病において注入した細胞がリンホカインを分泌し、これが腫瘍特異的な細胞障害性応答を活性化する場合である(Bordignon et al, 1999)。また、ウイルス特異的なT-細胞を伴う免疫療法は、持続性のウイルス性疾患(例えば、EBウイルス)の治療に有用であり得る(Bordignon et al, 1999)。
【0006】
器官全体の移植と比較して、細胞療法は、より容易に利用可能である。
しかしながら、移植細胞のレシピエント免疫系による拒絶は、特に長期の使用が望まれる場合(例えば、糖尿病患者の膵島移植のケースにおいて)、依然として問題となる(Morris, 1996)。免疫抑制に対する代替として、封入方法が開発されている。これによって移植細胞は、レシピエントの免疫系から、膜障壁により物理的に防御される(Morris, 1996)。封入化細胞の使用が、好適である。というのも免疫抑制薬の全身的な投与が、免疫系の非特異的な抑制による有害な副作用および合併症と関連するからである(Morris, 1996)。
【0007】
封入方法は、一般的に2つのカテゴリーに分類され、それは次のものである:
(1)マイクロ封入(microencapsulation)、これは典型的には小さい球状のベシクル(0.3〜1.5mmの直径のサイズの範囲)に、個々の細胞または小細胞集団(small cell masses)を含有するものが関与する、および、
(2)マクロ封入(macroencapsulation)、これは管状またはディスク形状の中空装置(hollow devices)に、大細胞集団(the larger cell masses)を含む(Uludag et al, 2000)。
【0008】
前記膜は、封入化細胞を免疫応答から防御するが、一方で同時に細胞の生存に必要な分子の流入と、所望の生理活性化合物および老廃物の分泌とを許容するために十分に透過性であることが理想的であると信じられている。多数の物質が、細胞封入(cell encapsulation)に、最も一般的であるポリ多糖アルギナートと共に、利用されている(Rowley et al, 1999)。膜は、典型的には逆に荷電した天然の又は合成のポリマー(これらはゲル化複合体を形成する)からなり;広範に使用されている、ポリカチオン性のアルギナート(alginate)およびポリカチオン性のポリ(L-リジン)の組み合わせを伴う(Uludag et al, 2000)。それぞれのポリマーの濃度及びそれらの接触時間を変化させることにより、結果として生じるヒドロゲル膜の空隙率(porosity)を調節できる(Uludage et al, 2000)。他の一般に使用される物質には、より有毒となる傾向にある(meth)アクリメート(acrylmates)およびアガロース(中性のポリマー)が含まれる(Uludag et al, 2000)。
【0009】
細胞または細胞集団を、コンフォーマルコーティング技術(conformal coating techniques)により封入化でき、それによって前記膜は前記細胞と直接的に接触する(Uludag et al, 2000)。代替的に、前記膜は、前記細胞集団を含有しているコア(core)の周囲に形成され得る。前記コアを設計して、栄養分および栄養要素(trophic factors)などの、細胞生存または細胞機能を促進する成分を含ませ得る。
【0010】
また、膜またはコアを設計して、合成の細胞外マトリックス(ECM)として機能させ得る。ECM成分の付加により、分化した機能の発現およびカプセル内の細胞集団の組織化において、細胞を補助し得る(Uludag et al, 2000)。合成ECMの使用が、接着性細胞に関連して調査されている。というのも多くのアルギナート膜の親水性の素質により、細胞の付着(attachment)および拡散(spreading)が一般的に排除されるからである(Rowley et al, 1999)。
【0011】
アルギナート ヒドロゲルのシート(RGD含有リガンドで共有結合性に修飾された)は、筋芽細胞の成長を支持することが示されている(Rowley et al, 1999)。同封されたカプセル(enclosed capsules)とは逆に、修飾されたアルギナート ヒドロゲルとの細胞相互作用は、前記細胞が平らなシート上で成長させられる場合にのみ達成される(Rowley et al, 1999)。
【0012】
以上のように、インビトロでの従来技術は、細胞の耐久性を増加させる及び増加した細胞生存のための細胞環境を安定化させる、封入技術の使用に焦点を当てている。インビボでの従来技術は、細胞生存を促進するためレシピエントの免疫応答を減少させる手段として、封入に焦点を当てている。従来技術には、封入化細胞とそれらのカプセルとの間の相互作用を認容する、封入方法(encapsulation methods)が欠けている。更に、従来技術では、封入化細胞が、特異的な分子(彼らのカプセルに対して外側)と相互作用することを認容する、封入方法が欠けている。また、従来技術には、封入化細胞が、彼らのカプセルを選択的に別離(shed)させることを認容する、封入方法が欠けている。
【発明の概要】
【0013】
本発明の課題は、封入化哺乳類細胞を用いた、細胞療法の新規の処置(procedures)を提供することである。
【0014】
本発明の更なるより具体的な課題は、封入媒体(encapsulation medium)を提供することである。該封入媒体は、封入化細胞と相互作用する能力を有する生物学的因子を含有している(これらはインビボでの細胞生存を改善する又はこれらは所望の分化状態をコントロールする)。
【0015】
本発明の更なるより具体的な課題は、細胞に基づく療法(cell-based therapy)の新規な処置を提供することである。これによって封入化細胞は、封入媒体に含有される生物学的因子を介して、カプセルの外側の特定の分子と相互作用できる(この因子は、特異的な細胞の接触および接着を促進する)。
【0016】
本発明の更なるより具体的な課題は、新規の封入媒体を提供することである。該封入媒体は、封入化細胞への遺伝子、タンパク質、または因子の移行を促進する又は改善する能力を有するものである。
【0017】
本発明は、細胞を調製する方法を教示し、該方法は、前記細胞をインビトロで細胞封入媒体(cell encapsulation medium)に封入して、インビボの細胞療法に使用するための封入産物(encapsulation product)を形成することを含む(ここで前記封入産物は、インテグリン結合パートナーを含む)。
【0018】
様々な態様において、前記インテグリン結合パートナーは、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、X因子、C3bi、Ig様細胞接着分子(ICAM-1、2、3)、1型コラーゲン、血管性の細胞接着分子(VCAM-1)、粘膜のアドレッシン(addressin)細胞接着分子-1(MAdCAM-1)、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、LFA、Mac-1、テネイシン、ヴォン・ヴィレブランド因子、トロンボスポンジン、X因子、FXIII、FXIIIa、Arg-Gly-Asp、Leu-Asp-Val、His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Val、配列Arg-Gly-Asp、Leu-Asp-Valを含んでいるインテグリン結合パートナー、および配列His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Valを含んでいるインテグリン結合パートナーからなる群から選択される。更なる一態様において、前記封入産物は、FXIIIa、トランスグルタミナーゼ架橋因子を含む。
【0019】
別の態様において、前記封入産物は、宿主における特定の組織または細胞に対して、結合する、さもなければ、相互作用する、又は、影響する、因子を有していてもよい。係る因子の例には、DCAM、ICAM、およびVCAMが含まれる。
【0020】
前記インテグリン結合パートナーは、前記細胞と結合し得る。前記インテグリン結合パートナーは、封入に先立って、前記細胞と結合し得る。
【0021】
別の態様において、前記インテグリン結合パートナーは、前記細胞と結合しない。
【0022】
別の態様において、前記インテグリン結合パートナーは、細胞封入媒体に存在する。
【0023】
別の態様において、前記インテグリン結合パートナーは、細胞封入媒体の表面に存在する。
【0024】
一態様において、前記細胞封入媒体は、アルギナート、アガロース(前記細胞の生存と機能とに適合性の天然のポリマー)、または前記細胞の生存と機能とに適合性(compatible)の合成ポリマーである。
【0025】
別の態様において、前記封入産物は、1細胞を含有する。
【0026】
また、本発明は、インビボで使用するための細胞を調製する方法を教示し、該方法は、前記細胞をインビトロで細胞封入媒体に封入して、封入産物を形成することを含む(ここで前記封入産物はインテグリン結合パートナーを含み、ここで前記封入産物は1細胞を含有する)。
【0027】
また、本発明は、インビボで後に使用するために、保存または輸送される細胞を調製する方法を教示し、該方法は、前記細胞をインビトロで細胞封入媒体に封入して、封入産物を形成することを含む(ここで前記封入産物は、インテグリン結合パートナーを含む)。
【0028】
一態様において、前記細胞封入媒体は、導入遺伝子(transgene)を含有する。別の態様において、前記細胞は、導入遺伝子を含有する。前記導入遺伝子は、前記導入遺伝子を前記封入媒体に含ませることにより、前記細胞に取込まれてもよい。
【0029】
更に本発明は、本発明の調製細胞(a prepared cell)の、細胞療法に対する使用を含む(それを必要とする患者へ投与することによる)。前記投与は、心臓間(intercardiac)であってもよい。
【0030】
また、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットを教示する。
【好適な態様の記載】
【0031】
成体幹細胞を必要とする技術における進歩および自己細胞療法(autologous cell therapies)における進歩は、免疫拒絶の問題に帰着し、このことは細胞療法において、さほど重要ではなくなっている。こうした事情にもかかわらず、インビボ細胞生存およびインビボ細胞移植は、不十分(poor)である。以下の実施例に示されるとおり、レシピエントにおける配置(placement)に際して、細胞は(封入化されていようとなかろうと)、
(a)一般的に、彼らは予定される場所に残存しない;
(b)幹細胞または前駆体細胞(precursor cells)は、彼らが分化することが予定されない細胞へと分化する傾向がある:および
(c)細胞のアポトーシスが発生するか又は前記細胞はさもなければ生存しない。
これらの問題は、本願発明者を、当該技術において更に有利な発明へと導いた。
本発明は、本明細書中に様々な方法および療法を提供する(これらは細胞封入を使用して、細胞療法の効率を増加させる)。
【0032】
第1に、本発明は、様々な因子(例えば、インテグリンおよびマトリックス分子)の、細胞カプセルにおける使用を教示する;これは、前記細胞と相互作用し、細胞生存を及び細胞分化の選択的なコントロールを増強する。
【0033】
第2に、本発明は、様々な因子(例えば、インテグリンおよびマトリックス分子)の、細胞カプセルにおける使用を教示する;これは、前記細胞の外側の環境と相互作用し、封入化細胞の、細胞療法のレシピエントにおける選択された組織または器官に対する結合を増強する。
【0034】
第3に、本発明は、細胞カプセルの使用を教示する;これは、様々な因子(例えば、タンパク質、薬物、遺伝物質)を、封入化細胞への取込のために保持して、細胞に基づく療法を援助する。係る取込は、細胞封入媒体の一部(a portion)の食作用を介して、または、当該技術分野において既知の他の方法を介して発生し得る(このような方法は、例えば、電気穿孔法または遺伝子移入のウイルス性の方法がある)、或いは、小分子に関しては、細胞膜を通した受動拡散を介して発生し得る。
【0035】
第4に、本発明は、様々な因子(例えば、インテグリンおよびマトリックス分子)の、細胞カプセルにおける使用を教示する;これは、細胞療法のレシピエントにおける選択された組織または器官に到着前または到着時に、前記細胞と相互作用して、封入された前駆体または幹細胞の分化をコントロールする。細胞療法に使用された再生細胞(regenerative cells)の欠損は、「アノイキス(anoikis)」 ― 接着依存性細胞におけるプログラム細胞死に大きく影響され、これはインテグリン―マトリックス接触の欠損によるものである;また、細胞生存が、アガロースへのマイクロ封入を用いることにより増強され及び維持されて、移植された細胞における特異的な細胞マトリックス相互作用を促進することができる。
【0036】
第5に、本発明は、細胞カプセルの選択を教示する;これは、細胞療法のレシピエントにおける選択された組織または器官に到着時に、封入化細胞からの封入物質の別離を増強する。
【0037】
第6に、本発明は、細胞カプセルの選択を教示する;これは、機械的な利点を提供し、これによりインビボでの細胞生存が増強され、細胞遊走が増強される。例えば、封入化細胞の直径の選択により、本発明は、適切な器官または組織(例えば、肺性の微細血管または尿細管への滞在)に滞在(lodge)する前記細胞の能力を改善する。例えば、封入は、身体に注射される細胞に対する、細胞ずり応力(cell shearing)を減少させる。
【0038】
遺伝的に修飾された細胞の、遺伝子療法における運搬ビヒクルとしての使用は、ますます重要となっている。また、インビトロで操作された細胞を用いた臨床研究が近づいているので、それらの生存および機能性は、これらの細胞の利用可能性の中心的論点となっている。修飾された細胞が生存可能(viable)で且つ機能して、療法上の遺伝子を発現することを確実にするために、最適の生存条件が必要とされる。これに関して、マイクロ封入は、療法上の細胞に関する至適な生存条件を提供することにおいて、潜在能力を有している。本発明者らは、アガロース マイクロカプセルの潜在能力を次の観点に関して探求した;その観点とは、自身の生存度(viability)および機能性を維持している、個々にトランスフェクトされた細胞に、一時的な生息地を提供することである。また、これらのマイクロカプセルを、移植および運搬に適用した。前記マイクロカプセルは、生分解性および生体適合性である。また、前記アガロースマトリックスは、インビボでの選択的なターゲティングに使用できる。
【0039】
本発明者らは、マイクロ封入を用いて、単一細胞レベルでの一過性の遺伝子発現プロファイルを調査する方法を開発した。これにより、トランスフェクション効率(ここで、所望の遺伝子を発現している細胞の数として定義される)、プラスミド数/細胞、および導入遺伝子発現の持続時間に関して重要な情報が提供される。
【0040】
また、本発明者らは、封入技術を実施して、細胞療法に使用するための遺伝的に修飾された細胞に対して最適な生存条件を提供する。以上のように、本発明者らは、より長くより安定な遺伝子発現を得るための、同様に、遺伝的に修飾された細胞に対してより良い生存条件を操作および設計するための方法を見出した。全体的なゴールは、細胞に基づく遺伝子療法を至適化することである。
【0041】
遺伝的に修飾された細胞の輸送および細胞生存を実現する技術が提供される。遺伝子発現および細胞生存の双方は、細胞に基づく遺伝子療法において重要である。これら双方は、次の疾患に対する、細胞に基づく療法を改善することを目指している。その疾患は、例えば、慢性虚血(心臓または四肢)、心不全、および原発性肺高血圧症、および他の肺疾患であって、細胞に基づく遺伝子療法が大きい潜在能力を提供する、急性呼吸困難症候群(肺胞毛細管膜の崩壊)、酸化的な肺傷害、照射誘導された肺傷害(radiation-induced lung injury)、および肺炎症などの肺疾患である。これら全ての肺疾患に共通することは次の事項である。その事項とは、肺性傷害(pulmonary injury)が、上皮および他の肺の細胞タイプの構造および機能における、一過性の又は永久の変更(alterations)へと導かれ得るということである。これらの細胞タイプへの分化および傷害された肺組織の再生が含まれるであろう治療は、多くのケースにおいて理想的な療法である。細胞(肺細胞系統に分化する能力を有する)を運搬する、および、必要に応じて、傷害された組織を再生する能力は、強力な道具である。細胞に基づく療法システムの開発における要素は、運搬のためのビヒクルとしての細胞タイプの選択である。肺性微小血管系の低圧力システムおよび天然のフィルタリング機能は、次の事項において重要な利点を提供する;その事項とは、肺性循環を介して運搬される細胞が、容易に遊走し、肺に滞在することである。実際に、本発明者らは、ラットモデルにおける原発性肺高血圧症の予防および反転(reversal)を以前に示し、この際には一過性にトランスフェクションした体細胞(一酸化窒素合成酵素および血管内皮成長因子を発現している)が用いられた。ラット線維芽細胞は療法の効果を示した、一方で幹および前駆細胞(progenitor cells)の帰巣(homing)および分化の潜在能力には、治療に使用された現行の細胞タイプに欠損している重要な要素が残存している。導入遺伝子発現を制御すること及び運搬ビヒクルとして使用された細胞の生存を増強することにより、より長くより均一な遺伝子発現を細胞に基づく遺伝子療法において取得するための道具が提供される。
【0042】
細胞封入により移植細胞の保持(retention)が保証される。というのもこれらの細胞は、前記カプセルから退去するためには遊走の表現型を付与(commit)されなければならないからであり、これにより次に器官の効率的な通過(penetration)および移植が保証される。このように、封入化細胞の増強された保持および移植は、本発明のユニークな利点を表している。この事項は、脈管構造を通じた再生細胞の運搬(例えば、肺性の又は冠血管性の動脈への注射)のみならず、細胞の標的器官への直接的な注射(例えば、心臓の心筋への)にも適用される。
【0043】
Lim、米国特許4,409,331号および4,352,883号(双方は、本明細書に参照された参照文献として、参照により本明細書中に援用される)は、インビトロで細胞により産生された生物学的物質を産生するマイクロ封入方法の使用を開示しており、ここで前記カプセルは、産生される所望の生物学的物質に依存した、様々な透過度(varying permeabilities)を有している。Wuら〔Wu et al, Int. J.Pancreatology, 3: 91-100 (1988)〕は、インシュリンを産生するマイクロ封入化膵島細胞の、糖尿病性ラットへの移植を開示している。Aebischerら〔Aebischer et al., Biomaterials, 12:50-55 (1991)〕は、ドーパミン分泌細胞のマクロ封入を開示している。
【0044】
「細胞療法(cell therapy)」の用語は、療法のために細胞を哺乳類の身体へと、注射すること、移植すること、または配置すること(placing)を意味する。前記細胞は自己(autologous)であってもよい、前記細胞は特定のタンパク質を産生してもよい、前記細胞は再生性(regenerative)のものであってもよい、前記細胞は修飾されていてもよい、前記細胞は遺伝的に修飾されていてもよい、前記細胞は体細胞、前駆体細胞、または幹細胞であってもよい。
【0045】
「アルギナート(alginate)」の用語は、(1-4)連結したベータ-D-マヌロン酸(beta-D-manuronic acid)モノマーおよびx-L-グルロン酸モノマーからなる、任意の化合物を意味する。
【0046】
「封入すること(encapsulating)」の用語は、人工膜を有する個々の細胞または細胞のグループの外側をコーティングするプロセスを意味する。
【0047】
「封入する媒体(encapsulating medium)」の用語は、個々の細胞または細胞のグループを包囲する人工膜を形成する能力を有する、任意の化合物を意味する。
【0048】
マイクロ封入装置の代表的な例には、米国特許5,182,111、5,283,187、および5,389,535(全てAebischerらに発行)、米国特許4,487,758、4,673,566、4,689,293、4,806,355、および4,897,758(各々、Goosenらに発行)、米国特許4,803,168(Jarvis, Jr.に発行)、米国特許4,352,883および4,391,909(双方はLimに発行)、米国特許4,298,002(Ronelらに発行)、および米国特許4,353,888(Seftonに発行)が含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
マクロ封入装置において、多数の細胞があるタイプのチャンバーに同封される。これらの装置は、少なくとも1つの半透性膜を有することにより、細胞を安全に保持している間の液体の必要な流動を許容する。マクロ封入装置の代表的な例には、米国特許5,262,055(Baeらに発行)、米国特許4,911,717(Gaskill, IIIに発行)、米国特許4,298,002(Ronelらに発行)、米国特許5,387,237(Fournierらに発行)、PCT/AU90/00281(Baxter International, Inc.により出願)、米国特許5,413,471(Braukerらに発行)、米国特許5,344,454(Clarkeらに発行)、米国特許5,002,661(Chickらに発行)、およびPCT/US94/07190(W.L.Gore&Associates, Inc.により出願)が含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
「封入産物(encapsulating product)」の用語は、封入するプロセスの最終結果を意味し、即ち:人工膜でコートされる個々の細胞または細胞のグループである。
【0051】
「インテグリン」の用語は、細胞表面レセプターのインテグリンファミリーに属するポリペプチドを意味する。
【0052】
一般的なインテグリン及びそれらのサブユニットは、文献〔Ruoslahti and Pierschbacher, Science 238: 491 (1987)、これは参照によって本明細書中に援用される〕に詳細に記載される。
本明細書に使用される全ての専門用語は、本参照によって提供される定義および説明と一致することを意図している。これらのインテグリンは、関連する細胞表面ヘテロ二量体の糖タンパク質のファミリーを含み、これらは細胞接着性の相互作用を媒介することに関与している。
前記インテグリンには、次のものに対するレセプター、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、テネイシン、および細胞表面タンパク質IIb/IIIa(これはフィブロネクチン、フィブリノーゲン、ヴォン・ヴィレブランド因子、およびトロンボスポンジンを認識する)が含まれるが、これらに限定されない。白血球接着レセプターLFA-1、Mac-1、およびgp150/95も、インテグリンファミリーのレセプターのメンバーである。係るインテグリンの例には、αvβ1(フィブロネクチンレセプター)、αvβ3(ビトロネクチンレセプター)、およびα3β3(I型コラーゲンレセプター)が含まれる。
【0053】
インテグリンはヘテロ二量体の細胞表面レセプターである、これらは非共有結合的に相互作用するαおよびβサブユニットから構成される。分子生物学およびタンパク質化学を用いて、いくつかのαおよびβサブユニットが同定されている。インテグリンファミリーは、βサブユニットに基づくクラスに細分でき、これは1以上のαサブユニットと相互作用できる。最も広く分布しているインテグリンは、β1クラスに属するもので、最後期の抗原(VLA;very late antigens)としても知られている。第2クラスのインテグリンは、白血球特異的なレセプターである;これは、β2タンパク質と複合体形成される、3つのサブユニット(αL、αM、またはαX)の1つからなる。サイトアドヘジン(cytoadhesins) αIIbβ3およびαvβ3は、第3クラスのインテグリンを構成する。第4クラスのインテグリンには、α4β7が含まれる。
【0054】
広範なタンパク質が、インテグリンレセプターのリガンドとして作用する。通常は、インテグリンに認識されるタンパク質は、3クラスのうちの1つに分類される、それは即ち:細胞外マトリックスタンパク質、血漿タンパク質、および細胞表面分子である。細胞外マトリックスタンパク質(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、トロンボスポンジン、およびビトロネクチン)は、いくつかのインテグリンと結合する。また、多くのこれらの接着性タンパク質は、血漿中を循環し、そして活性化した血液細胞と結合する。インテグリンに対するリガンドである、血漿における付加的な成分には、フィブリノーゲンおよびX因子が含まれる。細胞に結合した補体C3biおよび幾つかの膜貫通タンパク質〔例えば、Ig-様細胞接着分子(ICAM-1,2,3)および血管性細胞接着分子(VCAM-1)であり、これらはIgスーパーファミリーのメンバーである〕は、幾つかのインテグリンの細胞表面リガンドとしても作用する。粘膜のアドレッシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)は、Igスーパーファミリーの別のメンバーであり、そしてインテグリンα4β7により結合する。
【0055】
多くのインテグリンに対する標的アミノ酸配列が、同定されている。例えば、標的配列 α5β1、αIIβ3、およびαvβ13は、Arg-Gly-Aspトリペプチドであり、これはフィブロネクチン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジン、1型コラーゲン、ビトロネクチン、およびvWFなどのタンパク質において見出されている。しかしながら、Arg-Gly-Asp配列は、接着性のリガンドにより使用される、唯一のインテグリン認識モチーフではない。別のインテグリン α4β1は、フィブロネクチンの可変領域(CS1)と、配列Leu-Asp-Valを介して結合する。また、血小板インテグリン αIIbβ3は、配列His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Valを、フィブリノーゲンのガンマー鎖のカルボキシ終端で認識する。
【0056】
「インテグリン結合パートナー(integrin binding partner)」の用語は、任意のメンバーのインテグリンファミリーの細胞表面レセプターと、高程度の特異性で相互作用する任意のポリペプチドを意味する。
【0057】
「非固定化生物学的因子(non-immobilized biological factors)」の用語は、細胞間の相互作用を発生又は増強するが、細胞表面への固定化が天然で認められるものではない、任意のポリペプチドを意味する。
【0058】
広範な封入媒体を、本発明の方法および産物において使用することができる。例には、次のものが含まれる:フィブリンを有するアガロース、フィブロネクチンを有するアグラロース(agrarose)、またはフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの組み合わせ。適切な天然由来の媒体には、植物由来のガム、例えば、アルカリ金属アルギナートおよびアガロース、および他の植物由来の物質、例えば、セルロース及びその派生物(例えば、メチルセルロース)が含まれる。動物組織由来の媒体(例えば、ゼラチンおよびキトサン)も、有用である。或いは、コアマトリックス(core matrix)は、Kleinmanら 米国特許4,829,000に記載されたように、細胞外マトリックス(ECM)成分から作出されてもよい。
適切な合成ヒドロゲルには、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコールのブロック共重合体、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ビニル―メチル―トリベンジル塩化アンモニウム、およびポリフォスファーゼン(polyphosphazene)が含まれる〔Cohen, S. et al. J. Anal. Chem. Soc., 112, pp. 7832-7833(1990)〕。
【0059】
細胞を、中空ファイバーに又はマイクロカプセル(これらはサイズにおいて数百ミクロンである)に封入できる。前者は、高度の機械的な安定性および回収可能性(retrievability)の利点を有している。一方で、マイクロカプセルは、足場依存性細胞の成長に関して、高い表面容積比(surface to volume ratio)を並びに栄養物供給および産物分泌に関して、低い物質輸送抵抗性(mass transfer resistance)を有している。2つのアプローチの長所を組み合わせることにより、マイクロ封入化細胞を更に、例えば、中空ファイバー中にマクロ封入化できる;高度に浸透性の中空ファイバーの選択によって、全体の物質輸送耐性が若干改善されるであろう。
【0060】
マイクロカプセル処方は、持続放出性製品(sustained release products)を製造する製薬会社により使用される、既知の技術である。細胞封入の領域において、アルギナートのゲル化は最も広範に研究された系である。アルギナートは、褐色海藻藻類から抽出されたグリクラナン(glycuranan)である。カルシウムまたは他の多価の対イオンは、アルファ―1,4―L―グルロナン(guluronan)残基(ポリサッカリドに存在する)の隣接するブロックをキレートする。懸濁状の生存可能細胞を含有しているアルギナート溶液が、カルシウムイオンを含有している溶液へと滴下(dropped)または押出(extruded)される際に、細胞封入は達成される。
形成されたマイクロカプセルを、ポリイオン(例えば、ポリリジン)の吸着により更にコートすることができ、これはアルギナートで再びコートすることができる。多くの細胞タイプ(膵島、肝細胞、PC l12細胞、軟骨細胞、および線維芽細胞が含まれる)が、この方法により封入されている。
【0061】
広範な非固定化生物学的因子を、本発明の方法および産物において使用することができる。例には、次のものが含まれる:ステロイド、例えば、テストステロン、アンドロゲン、ゴナドトロピン、エストラジオール、およびプロゲステロン、並びにNO放出分子、例えば、NOドナー化合物。
【0062】
広範な療法因子(therapeutic factors)をコード化している導入遺伝子を、本発明の方法および産物において使用することができる。導入遺伝子により発現され、肺の下流の他の身体器官の循環により運搬される療法因子は、本発明の範囲内である。
【0063】
本発明の方法を用いて標的細胞へと運搬される遺伝物質は、遺伝子、例えば、種々のタンパク質(抗癌性の及び抗ウイルス性の因子を含む)をコードする遺伝子であってもよい。係る遺伝子には、多様なホルモン、成長因子、酵素、サイトカイン、レセプター、MHC分子、eNOS(内皮の一酸化窒素合成酵素)、iNOS(誘導性の一酸化窒素合成酵素)、nNOS(ニューロンの一酸化窒素合成酵素)などをコード化しているものが含まれる。
【0064】
「遺伝子」の用語は、ウイルスベクター(例えば、痘瘡ウイルス、例えば、ヒトTNF遺伝子を含んでいるブタの痘瘡)が導入され得る、細胞に対して外来性(exogenous)および内在性(endogenous)の双方の核酸配列を含む。運搬する遺伝子として特に所望されるものは、遺伝病に罹患している個体において、欠損、減少した量で産生される、または突然変異型で産生されるポリペプチドをコード化している遺伝子である;それは、例えば、腫瘍抑制因子遺伝子産物(例えば、網膜芽細胞腫遺伝子産物、Wilm's腫瘍遺伝子産物、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、または免疫グロブリン)である。加えて、標的細胞からの分泌のためのポリペプチドをコード化している遺伝子を、前記遺伝子によりコード化されるタンパク質による全身性効果を提供するように、使用することが所望される。所望される特定の遺伝子には、TNF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、ヘモグロビン、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン-12など、GM-CSF、G-CSF、MCSF、SDF-1、ヒト成長因子、共刺激性因子B7(co-stimulatory factor B7)、インシュリン、VIII因子、IX因子、PDGF、EGF、NGF、IL-ira、EPO、ベーターグロビン等、同様に、これらのタンパク質の生物学的に活性なムテイン(muteins)をコード化しているものが含まれる。ウイルス性ベクターに挿入するための遺伝子は、様々な種からのものでよい;しかしながら、所望の遺伝子の好適な種供給源(preferred species sources)は、そのなかに所望の遺伝子を含んでいるウイルス性ベクターが挿入される種である。前記遺伝子は、別の遺伝子産物の発現を制御する又は生物学的経路(例えば、敗血症経路)における1以上の段階をブロックする産物を更にコード化してもよい。加えて、前記遺伝子は毒素をコード化してもよく、この毒素は、特定のポリペプチド(例えば、レセプターリガンド、または抗体)に融合されており、これにより前記毒素が標的(例えば、腫瘍細胞またはウイルス)へと方向付けられる。同様に、前記遺伝子は療法タンパク質をコード化してもよく、この療法タンパク質は、療法の効果を病気の組織または器官へと運搬するために、ターゲティングポリペプチドと融合される。
【0065】
また、前記遺伝子は、マーカーをコード化してもよく、これは例えばベーターガラクトシダーゼ、ds-RED、蛍光タンパク質、例えば、GFP、CAT、ネオマイシン、またはメトトレキセート抵抗性であり、これによって標的細胞が選択または検出され得る。係るマーカーの使用により当業者は、特定の標的宿主細胞において非溶解性(non-lytic)又は非細胞変性(non-cytopathic)であるものに関して、多様なウイルス性ベクターを選別することができる。例えば、ベーターガラクトシダーゼ(lacZ)をコード化している遺伝子を、ウイルス性ベクターに挿入することが可能であり、次に修飾されたウイルスベクターは、標的宿主細胞に導入され、そしてベーターガラクトシダーゼの産生が測定される。ベーターgalの発現により、ウイルス性の感染力の及び遺伝子発現の指標(indication)が提供される。
【0066】
他の例には、本発明者による、1999年9月24日に出願された米国出願09/404,652に記載されたものが含まれる(これは参照により本明細書中に援用される)。他の例には、次のものが含まれる:
例えば、下垂体機能不全の治療のための成長ホルモン、インシュリン、下垂体不全に引き続く甲状腺機能低下症の治療のための甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および他のホルモンなどのホルモンを発現する導入遺伝子;
Apo1および脂質代謝に関与している他のタンパク質/酵素(例えば、リポ蛋白リパーゼ)などの有益なリポタンパク質を発現する導入遺伝子;
プロスタサイクリンおよび他の血管作動性の物質を発現する導入遺伝子;
抗オキシダントおよびフリーラジカルスカヴェンジャーを発現する導入遺伝子;
免疫メディエータ(例えば、可溶性TNFレセプター)、またはサイトカインレセプターアンタゴニスト(例えば、IL1ra)の障害レベル(damaging levels)の作用を中和するための、可溶性サイトカインレセプターを発現する導入遺伝子;
病理学的な細胞接着プロセス(例えば、炎症性の疾患において発生するもの)を妨害するための、可溶性の接着分子(例えば、ICAM-1)を発現する導入遺伝子;
細胞の感染を阻害するための、ウイルスに対する可溶性レセプター(例えば、HIVに対するCD4、CXCR4、CCR5)を発現する導入遺伝子;
感染と戦う免疫応答を活性化するための、サイトカイン(例えば、IL-2)を発現する導入遺伝子;
導入遺伝子としての嚢胞性線維症遺伝子。
【0067】
本発明の、細胞に基づく療法に使用するための導入遺伝子の他の例には、以下のものをコード化している導入遺伝子が含まれる:
肺性血管疾患(例えば、肺性高血圧)または全身性の脈管性疾患(vascular disease)の治療に使用するためのエラスターゼ阻害剤;
骨形成タンパク質(BMP)およびBMPレセプター1および2、エンドグリン(endoglin)およびセロトニンレセプターまたは遺伝に基づく肺動脈性高血圧症の治療に関する摂取機構(uptake mechanisms)をコードしている遺伝子;
アテローム性動脈硬化症または動脈性動脈瘤の治療に使用するための、組織抑制性のメタロプロテアーゼ(tissue inhibiting metaloproteinases);
肺性高血圧の治療に使用するための、カリウムチャンネルまたはカリウムチャンネルモジュレーター;
肺性高血圧、ARDS、および肺線維症の治療に使用するための、抗酸化物(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ);
炎症性の血管病、例えば、アテローム性動脈硬化症または動脈性動脈瘤の治療に使用するための、抗炎症性因子(例えば、サイトカイン、IL-10、およびIL-4);
【0068】
細胞における導入遺伝子の手段、または本発明の付加的な側面の他の経路の手段による運搬のための、有用な血管新生因子の具体的な例には次のものが含まれる、全ての様々な既知の形態における、血管内皮成長因子(VEGF)、即ち、VEGF165(最も一般的で本発明の使用に関して好適である)、VEGF205、VEGF189、VEGF121、VEGFB、およびVEGFC(本明細書中では集合的にVEGFと称される);線維芽細胞成長因子(FGF、酸性および塩基性)、アンギオポエチン-1(angiopoietin-1)および他のアンギオポエチン、トランスフォーミング成長因子(TGF-)、および肝細胞成長因子(スキャッター因子)、および低酸素症誘導性因子(HIF)。VEGFは好適な血管新生因子(angiogenic factor)である、この知見は本因子での多大な経験と、その実際上の効果的な発現レベルとに基づく。細胞における導入遺伝子の手段による、または本発明の付加的な側面の他の経路の手段による運搬のための、有用な血管作用性因子(vasoactive factors)の具体的な例には、一酸化窒素合成酵素(NOS)、PGIS、およびヘモキシゲナーゼ(hemoxygenase)が含まれる。これらの因子に関する遺伝子を構成するDNA配列は既知である。それらは、組換えDNA技術の標準的な方法(例えば、酵素切断およびDNAの組換え)により調製でき、そして哺乳類細胞へと(発現可能な形態で)、標準の遺伝子工学技術、例えば、上記の方法(ウイルス性のトランスフェクション、電気穿孔法、リポフェクション、ポリカチオンタンパク質の使用など)により、導入できる。
【0069】
一態様において、本発明の細胞は、患者の肺システムへの導入に使用できる。トランスフェクションのための細胞の調製および引き続く患者の肺システムへの導入においては、本発明の、細胞に基づく遺伝子移入治療の最終的なレシピエントから取得した哺乳類体細胞で開始することが好ましい。広く多様な異なる細胞タイプを使用することが可能であり、これには線維芽細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、前駆細胞(例えば、骨髄、脂肪、または末梢血からの)、真皮性線維芽細胞(dermal fibroblasts)、EPC(内皮の前駆細胞)、または他の間充織幹細胞(mesenchymal stem cells)、髄ストローマ細胞(MSC;marrow stromal cells)、および上皮細胞、などが含まれる。真皮性線維芽細胞は、標準技術でインビトロ培養において準備された、患者の外部の皮膚層から単純且つ容易に取得される。内皮細胞は、最終的なレシピエントから、例えば、伏在静脈の除去および内皮細胞の培養により、収穫される。前駆細胞は、骨髄バイオプシーで取得できる、または循環している血液から分離できる、そしてインビトロで培養できる。前記培養方法は、再移植を意図したヒト細胞を培養するための、特別な予備的措置を伴う標準の培養技術である。
【0070】
本発明の態様に基づいて、患者からの循環している内皮前駆細胞(EPCs)または真皮性線維芽細胞を、遺伝子移入(gene transfer)のための細胞として使用し得る。当業者にとって細胞タイプの論理的な選択が、患者の肺システムに天然で見出される細胞タイプ(例えば、平滑筋細胞)であろうとの事実を仮定すれば、線維芽細胞の使用は反直観的(counter-intuitive)である。驚くことに、線維芽細胞が本試験に特に適切であることが見出され、これにより平滑筋細胞などの細胞と比較して、有意で且つ予測されない利点が提示される。彼らは、技術を適切に選択することにより、培養において成長させることが容易であること、および導入遺伝子をトランスフェクションすることが容易であることが判明した。彼らは、高い割合のトランスフェクション体を、およびインビボで血管新生因子の高程度の発現を生じる(患者の肺システムへの導入の後に)。彼らは、微小血管系の修復に、非常に有利に寄与する。平滑筋細胞と比較して、線維芽細胞で肺システムに線維症を生じる可能性に関して予期される大きなリスクは、発生(materialized)していない。循環EPCsは、微小血管系の修復に特に適切であることが見出されている。
【0071】
インビトロでのレシピエント細胞への体細胞性の遺伝子移入(即ち、遺伝子工学)を、標準および商業的に利用可能なアプローチで実施することにより、遺伝子移入が達成される(上記で要約されたように)。好ましくは、前記方法には、電気穿孔法、ポリ陽イオン性のタンパク質(例えば、SUPERFECT*)またはリポフェクション(例えば、GENEFECTORの使用による)、商業的に利用可能な遺伝子移入を増強する因子の使用が含まれる。
特に、電気穿孔法により、高度のトランスフェクションが提供される;これは如何なる外来物質(foreign material)の使用も必要としない。しかしながら、電気穿孔法、リポフェクション、およびポリカチオンのタンパク質の使用以外の他の方法(例えば、アデノおよびレトロウイルスを含む、遺伝子移入のウイルス性の方法)を、使用してもよい。これらの方法および技術は、当業者に周知であり、そして本発明の方法における使用に容易に適用可能である。電気穿孔法は、真皮性の線維芽細胞宿主細胞およびEPCsでの使用に関して、最も好適な技術である;これにより高いトランスフェクション率が、外来物質の使用を必要とすることなく提供される。ポリカチオン性のタンパク質は、平滑筋細胞での使用に有用である。別の態様において、本発明者らは良好なトランスフェクションが、前記遺伝子を又は所望の遺伝子を含有しているプラスミドを前記カプセルへと導入することにより達成し得ることを見出した。前記カプセルが分解する際に、前記細胞は前記遺伝子を取込む(おそらくエンドサイトーシスにより)。
【0072】
封入化細胞を、例えば、封入化細胞懸濁物の直接的な輸液を脈管構造へ静脈を介して実施することにより、または標的組織(例えば、心筋)への直接的な注射により、経皮的な又は外科的な投与により、患者に直接的に投与できる。また、それらを患者の肺に吸入の方法により投与できる。
【0073】
遺伝的に操作された細胞を肺循環に再導入することは、末梢静脈または中心静脈(既に記載したように、ここから彼らが循環と共に肺システムへと移動する)の何れかへの前記細胞の輸液と、肺の脈管床(vascular bed)の最小の動脈に滞在することとにより達成できる。また、肺循環への直接的な注射は、例えば、Swan Ganzカテーテルを通して適用することができる。右心室または右心房への注射は、Swan Ganzカテーテルのペーシングポート(pacing port)を用いることにより実施し得る。輸液は、ボーラス形態(a bolus form)、即ち、短時間での全細胞の注射により、または少数の細胞を長時間にわたり連続的に輸液することにより、または代替的に、限定的なサイズのボーラスを特定期間にわたり数回投与することにより達成できる。
【0074】
トランスフェクトされた細胞自身は、肺循環(および特に患者の肺の動脈)に多大に又は完全に保持されているが、その導入遺伝子の発現産物はこの様式に限定されない。
それらは、トランスフェクトされた細胞から発現及び分泌され得る、そして患者の正常な循環を通じて、他の下流の器官(ここで、それらは療法の効果を発揮する)へと移動する。従って、本発明の方法の好適な用途は肺疾患の治療におけるものであるが(というのも発現産物が、最初に患者の肺システムと接触するからである)、係る治療に限定されるものではない。
トランスフェクション体は、患者の他の身体器官の治療に関して設計された産物を発現している導入遺伝子を含有することができる。肺システムにおいて発現される係る産物は、他の既定の器官を標的とし、そして患者の天然の循環システムによってそこに運搬される。
【0075】
これまで記載された疾患を治療するために効果的な量は、通常の因子(例えば、治療される疾患の素性および重症度並びに哺乳類の重量)に依存する。しかしながら、単位用量(unit dose)は、例えば、500,000〜5億個の細胞を通常含有し、この要素はレシピエントのサイズおよび療法の性質(即ち、静脈内 対 組織への直接的な注射)に依存している。封入媒体に取込まれる療法物質の量は、特定因子(10-9〜10mgの封入化細胞療法)の又はその薬学的に許容される塩の、強度に依存して変動する。封入化療法の単位用量は、半減期および目的に依存して、一度のみ投与されてもよい、または、反復性の適用(例えば、週単位で、月単位で、またはことによると日に二回以上)で投与されてもよい;例えば、2、3、または4回/日、より一般的には1〜3回/日で、全体一日量(total daily dose)が通常0.0001〜1mg/kgの範囲であるように;従って、適切な全体一日量(70kg成体に対して)は0.01〜50mg、例えば0.01〜10mgまたは、より一般的には0.1〜10mgである。
【0076】
通常の慣行として、組成物には、関連する医学治療における用途に関して記述された又は印刷された説明書が通常添付される。
【0077】
他の態様において、本発明の細胞は、導入遺伝子を含有しなくてもよい。例えば、皮膚、脂肪、筋肉、骨髄、血液、または肝臓からの、幹細胞、前駆体細胞、前駆細胞、内皮の前駆細胞、胚性幹細胞、膵島細胞、内分泌細胞、神経細胞(ニューロンおよびグリアを含む)、上皮細胞、肺細胞、心筋細胞、成体細胞(adult cells)、または係る細胞から培養された細胞を、再生または代償療法(replacement therapies)に使用することができる。
【0078】
本発明の細胞を、患者に様々な方法により運搬することができ、これには当該技術分野において既知の方法、および本発明者らに対する米国特許6,004,295および6,482,406に記載された方法が含まれる。例えば、前記細胞を、細動脈性の又は静脈性の脈管系へと注射すること、移動および運搬(travel and delivery)に関して、任意の脈管床(例えば、肺、腎臓、または肝臓)に滞在させることにより運搬できる。注射の適切な部位は、肺であってもよく又は心臓間注射であってもよい。或いは、組織への直接的な注射により又は組織への経皮的もしくは外科的な手段での挿入により運搬することができる。
【0079】
本発明は、以下の限定されることのない実施例において、例示の目的で更に記載される。
【実施例】
【0080】
実施例1 ― 封入化細胞の行動および生存度
ラット線維芽細胞を、アガロースで個々に封入した。空のカプセルを、様々なパーセントの組成に調製し、そして細胞培養条件で21日まで維持した。前記カプセルは、多くの部分は未変化(intact)のままであった。クランピング(共に固着している2または3カプセル)は、5日目に発生し、一貫して増加した。
幾つかのケースにおいて、アガロースの「小滴(blobs)」が形成されていた。
【0081】
細胞マイクロ封入技術をラット線維芽細胞に関して至適化し、カプセルにおけるそれらの行動を研究した。
【0082】
要約すると、Weaver等により開発された方法論を、抗体産生性ハイブリドーマ細胞の選択に適用した。ゲルマイクロドロップアッセイ(gel microdrop assays)において、単一細胞から分泌された特定タンパク質を捕獲(captured)および定量した。ビオチン化タンパク質特異的捕獲抗体(Biotinylated protein specific capture antibodies)は、ビオチン誘導化ゲルマトリックス(biotin-derivatized gel matrix)にストレプトアビジンを介して結合する。封入化細胞により分泌されたタンパク質は、捕獲抗体部位に結合し、引き続いて蛍光標識されたレポーター抗体で定量される。
細胞は、Hank's緩衝化塩類溶液に懸濁され、4%アガロース(これはビオチン化されていてもよい)に添加される。混合物は、次に不活性な油(ジメチルポリシロキサン)に滴下して添加される。これは、次に即座に最高速度で1分間ボルテックスされ、そして即座にアイスバスに10分間配置される。混合物は、次に1800RPMで10分間遠心分離され、引き続いて油相および水相が封入化細胞を含有している最終相(final phase)を得るために除去される。封入化細胞は、次にHank's緩衝化塩類溶液で洗浄され、70ミクロンの細胞ストレーナー(cell strainer)を通して濾過される。
【0083】
封入化細胞は、バルク培養(bulk culture)においてプロセスされ、個々にFACSを用いて分析され、当該技術分野において既知の方法により分別される。
【0084】
特異的なレポーター抗体からの蛍光シグナルを定量することが可能であり、これにより引き続く細胞の亜集団の単離および回収が許容される。前記捕獲抗体はビオチン抱合型アガロースとアビジンブリッジを介して連結(linked)されているので、任意の分泌された分子(この分子に対して適切な抗体ペアが存在する)を捕獲および定量できる。
【0085】
封入技術は、細胞に如何なる副作用も有していなかったことが見出された。細胞の多くはカプセルに残っているが、しかし、少数のパーセンテージはアガロースゲルを突破し、フラスコの底面に接着している。この機構を、顕微鏡下で観察できた。細胞は、最初にフラスコの底面に付着し、次にアガロースコーティングを別離することによりゲルから脱出する。顕微鏡下で観察されているように、細胞は、ゲルの端に遊走し、それを開け、アガロースシェルから去る。生存可能で、健常な細胞が、ゲルから脱出するものであることが仮定される。ラット線維芽細胞は接着性なので、彼らはカプセルにおいて生存可能なままではない。事実、プロピジウムイオダイド染色により、細胞の有意なパーセンテージが培養の4日後に生存不能であることが示された。類似する観察は、トリパンブルー染色を用いること及び細胞を顕微鏡下で単純に観察することによりなされた。
【0086】
図1は、フローサイトメトリーによる細胞の生存度の分析を示し、これはアネキシンV強度(x-軸)およびプロピジウムイオダイド強度(y-軸)を用いて、封入に続いて即座に、および24時間後に行われた。ラット線維芽細胞は、封入され、アネキシンV(緑色蛍光)で染色された(0時間または24時間)。アネキシンVは、細胞表面のホスファチジルセリンに結合する(アポトーシスにおける早期イベント)。加えて、前記細胞は、プロピジウムイオダイド(赤色蛍光)で染色される(これは核染色である)。
二重染色により、アポトーシス細胞がネクローシス性のものから区別される。図1は次の事項を示している。その事項とは、封入処置は、即時型の(B)有害な(detrimental)効果を、非封入化細胞(A)と比較した際に、有していないということである。しかしながら、24時間後(C)カプセルにおいて、封入化集団のかなりのパーセンテージが、アポトーシス性であるか又はアポトーシスの結果死亡した。
【0087】
封入化細胞の連続的な生存度を、プロピジウムイオダイド染色およびフローサイトメトリーにより検査した。封入化細胞の大多数が、培養3日後に生存可能であることが見出された。
【0088】
ラット線維芽細胞は、接着細胞である。封入化細胞の生存度(viability)を、接着培養において成長させた細胞およびPolyHEMA上で成長させた細胞と比較した。PolyHEMAは、薄い合成ポリマーコーティングであり、これは組織培養フラスコへの細胞の接着を阻害する。図2に示したように、生存可能細胞(viable cell)の数の間に有意差はない(PolyHEMAコートしたウェルで成長した細胞および2.5%アガロースにマイクロ封入化された細胞)。
【0089】
封入化細胞の生存を増加させるため、フィブリノーゲン(ECMコンポーネント)を、アガロースゲルに、フィブリノーゲン(0.02ng/ゲル)およびフィブロネクチン(0.09pg/ゲル)の濃度で取込ませた。インテグリン濃度の適切な範囲は、0.01pg/ゲルおよび0.1ng/ゲルの間、または0.05pg/ゲルおよび0.05ng/ゲルの間、または0.09pg/ゲルおよび0.01ng/ゲルの間である。濃度は、インテグリン結合パートナー(integrin binding partner)の強度(potency)に依存することに注意すべきである。例えば、フィブリノーゲンは、フィブロネクチンまたはビトロネクチンよりも、細胞の接着およびインテグリン結合特性においてより強力な効果を有している。
例えば、フィブリノーゲンに関して提唱される範囲(suggested ranges)は、1.5〜5mg/400mLアガロースサンプルである。フィブロネクチンに関して提唱される範囲は、25〜200mg/400mLアガロースサンプルである。ビトロネクチンに関して提唱される範囲は、1.5〜5 mg/400mLアガロースサンプルである。封入プロセスに続いて、カプセルに残っているフィブリノーゲン量を定量するために、GeminiTMスペクトラマックスプレートリーダーを使用した。標準曲線を段階希釈を用いて準備し、サンプルにおけるオレゴングリーン(Oregon green)の蛍光強度およびフィブリノーゲンの濃度の関係を取得した。例えば、1.5mgのフィブリノーゲンをアガロースの400ml(187万のマイクロカプセル)サンプルに付加することにより、0.0055ng/マイクロカプセルの取込が生じた。
【0090】
この生存度における改善の背景にある機構を調査するために、いくつかの研究を開始して、接着分子およびインテグリン結合部位の役割を決定した。溶液におけるフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの効果を、調査した。結果は、次の事項を示していた。その事項とは、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを、封入化細胞(添加物無しでアガロースに封入された)の培養培地へと付加することは、細胞の生存度に有意に有害な効果を有していたことである(図13)。この結果は、アノイキスの文献と一致している。この文献中で、固定化されたリガンドが、細胞マトリックス接着をインテグリンを介して誘導するが、一方で可溶性リガンドは、逆の効果を有し、細胞マトリックス接着を阻害している。これにより、封入化ラット線維芽細胞の生存度における主因子として、インテグリン結合が更に関係付けられる。インテグリンに関する役割を更に評価するために、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、およびビトロネクチン、並びに3つの接着分子の組み合わせの効果を比較する接着試験を実施した。接着試験の定量は、接着を促進することにおける、添加型アガロースマトリックス(supplemented agarose matrix)に対するインテグリンα5β1およびαvβ3(図13)(上記で称されたリガンドに対するレセプター)の(に関する)役割を示している。図23は、ラット線維芽細胞の接着データの平均を示している;このラット線維芽細胞は、2.5%アガロース被覆(Ag)、またはフィブロネクチン(Fn)、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲン(Fn/Fb)、フィブロネクチン&フィブリノーゲン&ビトロネクチン(Fn/Fb/Vn)を添加された薄いコーティング上で又はコーティングなしで成長させたものである。数は、トリプシン処理および血球計数器を用いたトリパンブルー染色により得られた。
【0091】
細胞生存度を光学顕微鏡で検査した;フィブリノーゲンカプセルに封入した細胞は、フィブリノーゲン無しのカプセルにおける細胞と比較して、より健康であるように見えた。
また、フィブリノーゲンの付加により、アガロースゲルを脱出し、フラスコに接着する細胞のパーセンテージが増加することが見出された。
【0092】
実施例2 ― フィブリノーゲンは細胞生存度および放出を改善する
カプセルにおけるラット線維芽細胞の生存を増加させるため、フィブリノーゲンをアガロースゲルに取込ませた。ゲルごとの全体濃度(overall concentration per gel)は、0.0055ngフィブリノーゲンであることが見出された。フィブリノーゲンの添加は、細胞の良好な生存を生じた。前記細胞は、非常に健康であるように思われた。また、フィブリノーゲンの付加で次の事項が見出された。その事項とは、より大きなパーセンテージの細胞が、カプセルから脱出し、フラスコへと接着していたことである。
【0093】
細胞および封入化細胞の双方に関する集団特性(population characteristics)を、フローサイトメーターを用いて決定した。フローサイトメーターにより、光の前方および側方の散乱が調べられる。前方散乱は細胞のサイズにおける情報を提供し、側方散乱は細胞の粒状度における情報を提供する。結果の図は、ラット線維芽細胞集団の集団プロフィールおよび封入化細胞集団のプロフィールを示す。
【0094】
図3は、Beckton-Dickinsonフローサイトメーター上で観察される、封入化ラット線維芽細胞による、光の前方および側方散乱を示す(それぞれサイズおよび顆粒度を表す)。細胞を、4%アガロースに封入し、フローサイトメトリーにより分析した。選択された領域をソートし、そして光学顕微鏡で分析することにより、亜集団のプロフィールを確認した。前記図は次の事項を示している。その事項とは、前記集団の82%が空のアガロースビーズから構成され、一方で前記集団の8.4%が単一の封入化細胞であり、そして前記集団の6.0%が異常に大きいアガロースビーズまたは複数の封入化細胞であることである。
【0095】
実施例3 ― 遺伝子発現は封入化細胞において発生する
たとえ有意な療法の効果がトランスフェクトされた細胞の運搬に伴って観察されたにせよ、この療法が至適化される場合には、細胞に基づく発現の適切な特性決定が実施される必要がある。インビトロでの細胞集団の一過性(プラスミドに基づく)トランスフェクションは、広い範囲の療法タンパク質合成を生じ得る(個々の細胞において測定された場合)。そして、これは細胞毎に導入されている様々なプラスミドコピー数の結果であるようである。トランスフェクション効率(導入遺伝子の検出可能なレベルを発現している細胞の数として単純に測定した)は、全ての遺伝子療法実験において測定された主要エンドポイント(primary endpoint)である。理想的には全ての細胞が均等に導入遺伝子発現を有するであろう、しかしながら、実際上はインビトロトランスフェクション効率は低い可能性がある(10-20%程度に低い、だが本発明者らは95%トランスフェクション効率を現在達成している)。そしてトランスフェクトされた細胞における遺伝子発現のレベルは可変的である。単一細胞に基づく遺伝子発現プロファイルおよび発現したタンパク質の分析の理解は、改善された、細胞に基づく療法を開発することに関して重要である。
【0096】
遺伝子発現(各々はそれ自身の個々の調節性の機構を伴う)に対して、多くの障壁が存在している。遺伝子発現に対する主な障壁の1つは、トランスフェクション処置の間に各細胞に導入されるプラスミドコピー数であろう。これは、遺伝子発現に至る、プラスミドコピーの至適数が存在するということであると思われる。本実施例は、この類縁関係を調査する。遺伝子発現を、ラット線維芽細胞の初代細胞株で試験した。前記細胞を、プラスミドに基づく非ウイルス性の技術を用いてトランスフェクションした。これにより、ウイルス性のトランスフェクション方法を取巻く安全性の問題が軽減される。本実施例において選択された遺伝子は、VEGFである。トランスフェクションは、前記タンパク質の分泌を生じた(これは、前記アッセイにおけるエンドポイント測定である)。本発明者らは、VEGF導入遺伝子発現に関する、サイトカイン分泌アッセイを開発した。これはマイクロ封入を用いることと共に抗体捕獲システムが関与し、これにより、一過性にトランスフェクションされたラット線維芽細胞株化細胞からの、分泌されたVEGFの定量がなされる(単一細胞レベルにおいて)。
【0097】
別の実施例において、eNOSとのトランスフェクションは、eNOSタンパク質の細胞内発現および一酸化窒素の合成を生じる。
【0098】
結果: VEGFタンパク質分泌
発現レベルおよび発現の持続時間を検査するために、本発明者らは、ELISA'sを用いて、VEGF発現を包括的に調査するための幾つかの実験を実施した(集団に基づく)。図4は、トランスフェクトされた細胞に関する、ELISA VEGFタンパク質分泌の結果を示す。また、封入化細胞からのVEGFの分泌を、ELISAアッセイを用いて定量した。
【0099】
図5は、ラット線維芽細胞の、封入化(4%アガロースに)され、トランスフェクションされた集団からの、血管内皮成長因子(VEGF)分泌を示している、この試験は酵素結合免疫測定法(ELISA)により測定された。ラット線維芽細胞を、VEGF遺伝子をコード化しているプラスミドでトランスフェクションした。集団の半分を封入した。そして両方の集団を検出可能な量のVEGFを保証するため24時間インキュベートした。上清を、両方のグループから除去した。そして新鮮な培地において、細胞を3時間インキュベーションし、その後、サンプルを採取し、市販のELISAキットで分析した。非トランスフェクト細胞を、ネガティブコントロールとして使用した。非封入細胞(VEGF2-3h)よりもかなり低いにもかかわらず、封入化集団(VEGF1e3h)が検出可能なレベルのVEGFタンパク質を分泌していることを、図6は示している。
【0100】
捕獲抗体とタンパク質との比率
適切な捕獲抗体とタンパク質との比率は、少なくとも8:1であることが決定された。
理想的には、高度に分泌している細胞が捕獲されることを保証するために、高比率を使用することがより良いであろう。蛍光強度は、封入化細胞により分泌されたVEGFの量と相関していた。
【0101】
実施例4 ― フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンは封入化細胞の生存を促進する
本発明者らは、カプセルにおけるラット線維芽細胞の生存度と封入化細胞の生存におけるフィブリノーゲン&フィブロネクチンの効果とを調査した。
【0102】
結果: 封入化細胞の形態学
封入に際し、細胞は非常に球形に見え、様々なタイムピリオドの間そのままである。彼らは接着集団であるにもかかわらず、彼らは周囲のアガロースマトリックスに広がり接着しなかった(図7)。オーバータイム(Over time)では、彼らはアポトーシス性であるように思われる。そして膜統合性は、多くの細胞において失われる。図7において示されるように、黒矢印は、カプセル中の細胞の球形形態を示している。白矢印は、アポトーシス性および/または膜統合性を失った細胞を示している。
【0103】
封入化細胞生存度
アポトーシスおよびネクローシスに関して二重染色を用いて、本発明者らは次の事項を決定した。つまり、細胞の小パーセンテージが、封入プロセスの結果として、アポトーシス性であることを決定した。
この数は、カプセルにおいて24時間後に、細胞の約28%にまで増加する(図4)。
【0104】
また、前記発明者らは、次の事項を見出した。その事項とは、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンをアガロースマトリックスへと取込ませることにより、前記細胞の生存度が改善するように思われることである。
【0105】
封入化細胞におけるフィブリノーゲン&フィブロネクチンの効果
結果は次の事項を指摘している。その事項とは、封入媒体における、フィブロネクチン並びにフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの組み合わせが、ラット線維芽細胞の生存度を65%から約85%に増加させたことである(図9)。
【0106】
実施例5 ― フィブロネクチン フィブリノーゲンおよびビトロネクチン因子は細胞接着を促進する
本発明者らは、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ビトロネクチン、および3つの接着分子の組み合わせの効果を、添加型アガロースマトリックスに対する細胞接着を促進することにおいて調査した。
【0107】
ラット線維芽細胞を、2.5%アガロース(Ag)被覆、またはフィブロネクチン(Fn)、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲン(Fn/Fb)、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンおよびビトロネクチン(Fn/Fb/Vn)を添加された薄いコーティング上で又はコーティングなしで成長させた。細胞を、15000細胞/ウェル(24ウェルのプレート)の密度で蒔いた。
【0108】
図10のトップパネルは、アガロースに封入された細胞の形態を示している(プレーティング後30分)。図10のボトムパネルは、プレーティング後30分に、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンおよびビトロネクチンを添加されたアガロースに封入された細胞の形態を示している。
【0109】
図11は、トリプシン処理および血球計数器を用いたトリパンブルー染色により決定された、接着細胞のパーセンテージを示している。結果は次の事項を示している。その事項とは、接着細胞のパーセンテージが、フィブロネクチンおよびフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンで上方に向かい、そしてフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンおよびビトロネクチンのアガロースマトリックスへの付加により有意に増加したことである。
【0110】
実施例6 ― フィブロネクチンおよびフィブリノーゲン因子は代謝活性を促進する
本発明者らは、封入化ラット線維芽細胞の生存度を、代謝活性を検査することにより更に調査した。
【0111】
細胞の生存度を、WST-1アッセイを用いて評価した。このアッセイは、テトラゾリュウム塩(WST-1)をホルマザンに、ミトコンドリア酵素の酵素作用を介して転換する細胞能力を評価するものである。接着細胞、polyHEMA被覆ウェルで成長させた細胞、2.5%アガロースに封入された細胞、並びにフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを添加したアガロースに封入された細胞。
【0112】
結果は次の事項を指摘している。その事項とは、添加型アガロースに封入された細胞が代謝活性の増加を示していたことである(図12)。
【0113】
実施例7 ― 封入媒体中のフィブロネクチンおよびフィブリノーゲン因子は封入化細胞の生存および放出を促進する
本発明者らは、前記カプセル中の細胞の生存度を改善するための及び前記カプセルの脱出を奨励するための、成長因子および接着分子の適切な組み合わせを決定した。また、成長因子を取込ませる他の方法を調査した。修飾された細胞が生存可能で且つ機能して、療法上の遺伝子を発現することを確実にするために、最適の生存条件が重要である。
【0114】
結果:
更なるデータを、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの、封入化ラット線維芽細胞の生存度における効果について集めた。図13は、アガロースに付加された異なる添加物の結果としての平均蛍光強度とアポトーシス性およびネクローシス性の細胞のパーセンテージにおけるアガロース添加物の効果とを示す。各実験に対し、百万細胞を封入した。アポトーシス細胞(アネキシンVにより検出される)およびネクローシス細胞のパーセンテージを、プロピジウムイオダイド染色により検出した。細胞を、添加物無しの4%アガロースに又はフィブロネクチンまたはフィブリノーゲン&フィブロネクチンを添加された4%アガロースゲルに封入した。結果は次の事項を示している。その事項とは、アポトーシス細胞のパーセンテージが、フィブロネクチンで下方に向かい、そしてフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンのアガロースマトリックスへの付加により有意に減少したことである。結果は、前記細胞の生存度における改善を示す初期データを確証する。実験による生存度は、統計学的に有意であった。
【0115】
出現(coming out)細胞の数も、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの付加で有意に改善された(図14)。図14は、無添加4%アガロースマトリックスのカプセルから脱出した細胞数を、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを添加された4%アガロースマトリックスに対して比較している。フィブロネクチン&フィブリノーゲンを4%アガロースマトリックスへ付加することにより、アガロースのみで封入された細胞と比較して、カプセルから脱出している及び組織培養フラスコの底面に接着している細胞の数が有意に増加した(24時間)。この効果は、視覚的な(顕微鏡の)観察によっても確認された。
【0116】
この生存度における改善の背景に存在する機構を調査するために、いくつかの研究を開始して、接着分子およびインテグリン結合部位の役割を決定した。本発明者らは、一酸化窒素産生およびeNOSタンパク質産生を検出および定量できるシステムを開発した。特に、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの細胞培養培地における効果(封入媒体に対抗するものとして)を調査した。結果は、次の事項を示していた。その事項とは、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを、封入化細胞(添加物無しでアガロースに封入された)の培養培地へと付加することは、細胞の生存度に有意に有害な効果を有していたことである(図15および16)。これにより、封入化ラット線維芽細胞の生存度における主因子として、封入にインテグリンを使用することを介したインテグリン結合が更に関係付けられる。試験をヒト繊維芽細胞でも実施した。
生存度の増加は、添加型アガロース中に封入されたヒト繊維芽細胞において観察される。
【0117】
図15は、封入化細胞の培養培地に付加された、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの効果を示している。全ての細胞が、無添加のアガロースに封入されたことに留意。NOs1、NOs2、およびNOs3は、異なる濃度のフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを、細胞培養培地に付加したことを表している(それぞれ、0.5μgフィブロネクチン+25μgのフィブリノーゲン、2μgのフィブロネクチン+100μgフィブリノーゲン、5μgのフィブロネクチン+250μgのフィブリノーゲン)。各ケースにおいて、300000細胞を封入した。
【0118】
図16は、封入化細胞の細胞培養媒体に付加されたフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの効果並びにインテグリン―細胞外マトリックスタンパク質相互作用の役割を示している。
本実験では、細胞を4%アガロースに封入した。細胞を4グループに分け、異なる培養条件下で24時間培養して、細胞外タンパク質を細胞培養培地へ付加することへの効果を調査した。生存度結果を、非封入細胞のコントロールグループと比較した。第1グループは、DMEM+10%FBS+2%P/S(4%Ags)の正規(regular)のラット線維芽細胞培養条件で24時間インキュベーションした封入化細胞を含むものであった。第2、第3、および第4グループは、DMEM+10%FBS+2%P/Sに様々な濃度の可溶性のフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを添加したものでインキュベーションされた封入化細胞であった。
グループ4%AgsL*は、0.5μg/mLフィブロネクチンおよび25μg/mLのフィブリノーゲン中で培養された封入化細胞を表している。グループ4%AgsM*は、2μg/mLのフィブロネクチンおよび100μg/mLのフィブリノーゲン中で培養された封入化細胞を表している。最後に、グループ4%AgsH*は、5μg/mLのフィブロネクチンおよび250μg/mLのフィブリノーゲン中で培養された封入化細胞を表している。フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの溶液への添加(即ち、細胞培養培地中に、封入媒体に対抗するものとして)は、細胞の生存度に有害な効果を有しているように思われるが、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの選択された濃度での添加は、用量依存的な効果を有していなかった。
結果を、アネキシンV&プロピジウムイオダイド染色により得た。y-軸は、アネキシンVおよびPI陽性の封入化細胞のパーセンテージを表す。
【0119】
実施例8 ― FXIII因子は細胞の増殖を制御する
本発明者らは、FXIIIの封入化細胞の生存における効果を調査した。
【0120】
図17および18は、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)表現型におけるFXIIIクロスリンキングの効果を、厚いフィブリンゲル上で試験した結果を示している。FXIIIの濃度の増加は、播種の24(ソリッドバー)および48(ハッチド)時間後の双方での細胞生存において有意な効果を有していた。また、FXIIIは、細胞増殖(24時間タイムピリオドで測定された)に対する劇的な阻害性効果を有していた。これは次の事項、つまり、FXIIIの効果が、細胞を静止状態(statis)に維持すること及びカプセル中での細胞分裂を阻止することであることを示している。細胞分裂は封入化細胞中では望ましくなく、というのもそれにより、非コントロールの(早発)イベントとして、細胞のカプセルからの脱出が奨励されるからである。
【0121】
実施例9 ― 導入遺伝子 封入化細胞の調製
簡単に説明すると、40マイクログラムのベータ-ガラクトシダーゼプラスミドを200マイクロリッターの4%アガロースへと付加し、そして空のカプセルを調製した。カプセルを、次に臭化エチジウムで染色し、そしてUV光下で観察した。プラスミドの取込みを観察した(DNAのアガロース マイクロカプセル中への取込を示す)。
【0122】
本発明者らは良好なトランスフェクションを観察し、これは前記遺伝子を又は所望の遺伝子を含有しているプラスミドを前記カプセルへと導入することにより達成された。前記カプセルは分解する際に、前記細胞は前記遺伝子を取込む(おそらくエンドサイトーシスにより)。
【0123】
実施例10 ― 封入化骨髄ストローマ細胞
本発明者らは、封入化ラット骨髄ストローマ細胞(BMSC)の生存度を調査した。可塑性(plasticity)、多能性(pluripotentiality)、単離の容易性、および高いインビトロ拡大ポテンシャルの性質を有していることから、骨髄ストローマ細胞(BMSC)は細胞および遺伝子療法に関する魅力的な道具となる。係る細胞は、患部組織へと帰巣しなければならず、細胞外マトリックスへと適切に移植され、そして一度移植されたら適切な細胞系統へと分化する。非造血性細胞は、間充織幹細胞または骨髄ストローマ細胞と称され、彼らの多分化能形質に関して調査されている(Bianco et al. 2001, Theise et al. 2002, Cognet et al. 2000, Jiang et al. 2002, Krause et al. 2001)。これらの細胞は、多分化能性(多様な細胞タイプへと分化する能力を有する)であることが認められている;また、骨髄、骨、軟骨、および結合性組織に関する、持続性前駆体(long-lasting precursors)として機能する(Cognet et al. 1999)。
【0124】
封入化細胞生存度を、アポトーシスおよびネクローシスに関して二重染色を用いて評価した。接着性BMSCsの生存度を、polyHEMAコートしたウェルで成長させたBMSCs、アガロースに封入されたBMSCs、フィブロネクチンを添加したアガロースに封入されたBMSCs、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを添加したアガロースに封入されたBMSCsと比較した。
【0125】
図19に示されるように、封入化BMSCsの生存度は、フィブロネクチン(82.6%)並びにフィブロネクチンおよびフィブリノーゲン(84.1%)の取込みにより有意に増加した。
【0126】
実施例11 ― マイクロ封入は肺の微小血管系における骨髄ストローマ細胞の移植を増強する
本発明者らは、肺微小血管系中での骨髄ストローマ細胞の移植ポテンシャルを改善することにおける、封入の役割を調査した。
CMTMR標識細胞を、正常なFisher344ラットの頚静脈へと注射により運搬した。動物を、選択された時間ポイント(15分、1d、3d、&7d)で殺傷した。そして肺を摘出し、試験した。前記肺からの組織を、固定し、共焦点顕微鏡で分析した。結果は、非封入化骨髄ストローマ細胞の有意な移植物が前記肺に15分に存在していることを示している。図20に示されるように、注射後1日および3日では、CMTMR標識された非封入化細胞の証拠は存在しない。しかしながら、骨髄ストローマ細胞を富化アガロース(enriched agarose)に封入したことにより、運搬後3日で肺微小血管系に蛍光標識細胞の移植が生じた。図21のイメージのトップパネルは、封入化細胞(運搬後1日)を高拡大率で示している。封入化細胞および細胞のクラスターは、運搬後7日(下部パネル)でも観察され、長期間の移植を指摘している。
【0127】
実施例12 ― 封入化ヒト繊維芽細胞の生存度
上記の実施例において、本発明者らは、ラット線維芽細胞およびラット骨髄ストローマ細胞における封入の効果を試験した。本発明者らは、ヒト線維芽細胞における封入の効果も調査した。
【0128】
封入化細胞生存度を、アポトーシスおよびネクローシスに関して二重染色を用いて評価した。非封入化細胞の生存度を、アガロースに封入された細胞並びにフィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを添加したアガロースに封入された細胞と比較した。
【0129】
図22に示されるように、封入化ヒト繊維芽細胞の生存度は、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンをアガロースマトリックスへ取込ませることにより有意に増加した。
【0130】
好適な態様のみが示されていること、その修飾が当業者には明らかであろうことを理解すべきである。
従って、本発明の本当の範囲および精神(spirit)は、例示された例よりむしろ、本願の特許請求の範囲の請求項及びそれらの適法な均等物に包含されている。
【参照文献】
【0131】






【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、フローサイトメトリーによる細胞生存度を示しているピクトグラフである。
【図2】図2は、無処置プレートおよびpolyHEMA被覆プレートで成長させた、封入有り無しの条件での生存可能細胞のパーセンテージを示しているグラフである。
【図3】図3は、フローサイトメーターでの封入化ラット線維芽細胞の光の前方および側方散乱を示しているピクトグラフである。
【図4】図4は、トランスフェクトされた細胞に関する、ELISA VEGFタンパク質分泌の結果を示しているグラフである。
【図5】図5は、封入化および非封化細胞からのVEGF分泌を示しているグラフである。
【図6】図6は、封入化および非封化細胞からのVEGF分泌を示しているグラフである。
【図7】図7は、封入化ラット線維芽細胞の形態を示している写真である。
【図8】図8は、封入有り無しの条件でのラット線維芽細胞の生存度を示しているグラフである。
【図9】図9は、封入媒体に様々なインテグリン結合パートナーの有り無しの条件での、封入化細胞の生存度を示しているグラフである。
【図10】図10は、様々なインテグリン結合パートナーの有り無しの条件での、封入化細胞の形態を示す写真である。最上部行は、プレーティング後30分での封入化細胞を、10x拡大率(最上部左 イメージ)及び20x拡大率(最上部右 イメージ)で示す。底部行は、プレーティング後30分での、アガロース並びにフィブロネクチン、フィブリノーゲン、およびビトロネクチンで封入された細胞を、10x拡大率(底部左 イメージ)及び20x拡大率(底部右 イメージ)で示す。
【図11】図11は、封入媒体に様々なインテグリン結合パートナーの有り無しの条件での、接着細胞のパーセンテージを示しているグラフである。
【図12】図12は、封入媒体に様々なインテグリン結合パートナーの有り無しの条件での、細胞のWST-1アッセイ結果を示しているグラフである。
【図13】図13は、封入の有り無し及び封入媒体に様々な添加物を有する条件での、生存不能細胞(non-viable cells)のパーセンテージを示しているグラフである。
【図14】図14は、様々な添加物の有り無しの条件での、封入から出現してきた細胞の数を示しているグラフである。
【図15】図15は、様々なレベルのインテグリン結合パートナーが培養培地に付加された際の、アポトーシス性およびネクローシス性細胞のパーセンテージを示しているグラフである。
【図16】図16は、封入無し、および異なるレベルのインテグリン結合パートナーが培養培地に付加された条件での、生存可能細胞のパーセンテージを示しているグラフである。
【図17】図17は、細胞生存におけるFXIIIの効果を示しているグラフである。
【図18】図18は、細胞増殖(cell proliferation)におけるFXIIIの効果を示しているグラフである。
【図19】図19は、封入媒体に様々なインテグリンの有り無しの条件での、生存可能な骨髄ストローマ細胞のパーセンテージを示しているグラフである。
【図20】図20は、肺微小血管系へと注射された、CMTMR標識された骨髄ストローマ細胞(左のイメージ)および封入骨髄ストローマ細胞(右のイメージ)を、10x拡大率で写した共焦点イメージである。
【図21】図21は、CMTMR標識された骨髄ストローマ細胞の移植を示している、200μm肺切片の共焦点イメージである。最上部パネルは、封入化骨髄ストローマ細胞の移植(細胞注射後1日)を20x拡大率(最上部 左のイメージ)および40x拡大率(最上部 右のイメージ)で示す。底部パネルは、封入化骨髄ストローマ細胞の移植(細胞注射後7日)を60x拡大率で示す。
【図22】図22は、封入媒体に様々なインテグリン結合パートナーの有り無しの条件での、生存可能なヒト線維芽細胞のパーセンテージを示しているグラフである。
【図23】図23は、様々な媒体において成長させたラット線維芽細胞からの、平均接着データ(mean adhesion data)を示しているグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調製細胞を調製する方法であって、前記細胞をインビトロで細胞封入媒体に封入して、インビボの細胞療法に使用するための封入産物を形成することを含み、前記封入産物がインテグリン結合パートナーを含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーは、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、X因子、C3bi、Ig様細胞接着分子(ICAM-1、2.3、3)、1型コラーゲン、血管性の細胞接着分子(VCAM-1)、粘膜のアドレッシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、LFA、Mac-1、テネイシン、ヴォン・ヴィレブランド因子、トロンボスポンジン、X因子、FXIII、FXIIIa、Arg-Gly-Asp、Leu-Asp-Val、His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Val、配列Arg-Gly-Asp、Leu-Asp-Valを含んでいるインテグリン結合パートナー、および配列His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Valを含んでいるインテグリン結合パートナーからなる群から選択される方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーがフィブリノーゲンである方法。
【請求項4】
請求項2記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーがフィブロネクチンである方法。
【請求項5】
請求項3記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが更にフィブロネクチンを含む方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、前記封入産物が更にFXIIIを含む方法。
【請求項7】
請求項5記載の方法であって、前記封入産物が更にFXIIIを含む方法。
【請求項8】
請求項2記載の方法であって、前記封入産物が更にFXIIIaを含む方法。
【請求項9】
請求項2記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが、認識配列argine-glycine-asparate(RGD)を含有する方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが、前記調製細胞と結合する方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが、前記調製細胞と封入前に結合する方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが、前記調製細胞と結合しない方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが、前記細胞封入媒体中に存在する方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法であって、前記インテグリン結合パートナーが、前記細胞封入媒体の表面に存在する方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法であって、前記細胞封入媒体が、フィブリンを有するアガロース、フィブロネクチンを有するアグラロース、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの組み合わせ、植物由来のガム、アルカリ金属アルギナートおよびアガロース、セルロース及びその派生物、ゼラチン、キトサン、および細胞外マトリックス(ECM)成分からなる群から選択される方法。
【請求項16】
請求項1記載の方法であって、前記細胞封入媒体が、前記細胞の生存と機能とに適合性の天然のポリマーである方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法であって、前記細胞封入媒体が、前記細胞の生存と機能とに適合性の合成ポリマーである方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法であって、多くの前記封入産物が、1つの調製細胞を封入ごとに含む方法。
【請求項19】
インビボで使用するための調製細胞を調製する方法であって、前記細胞をインビトロで細胞封入媒体に封入して、封入産物を形成することを含み、前記封入産物はインテグリン結合パートナーを含み、前記封入産物は1細胞を含有する方法。
【請求項20】
インビボで後に使用するために、保存または輸送される調製細胞を調製する方法であって、前記細胞をインビトロで細胞封入媒体に封入して、封入産物を形成することを含み、前記封入産物はインテグリン結合パートナーを含む方法。
【請求項21】
請求項1記載の方法であって、前記細胞封入媒体が導入遺伝子を含有する方法。
【請求項22】
請求項1記載の方法であって、前記調製細胞が導入遺伝子を含有する方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法であって、前記導入遺伝子を前記封入媒体に含ませることに引き続いて、前記導入遺伝子が前記細胞へと取込まれる方法。
【請求項24】
請求項1記載の調製細胞の、それを必要とする患者へ投与する細胞療法のための使用。
【請求項25】
請求項24記載の使用であって、前記投与が心臓間である使用。
【請求項26】
請求項1記載の方法であって、前記封入産物が、前記封入産物に対し外部である宿主細胞に影響し得る外部因子を更に含む方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法であって、前記外部因子が、DCAM、ICAM、およびVCAMからなる群から選択される方法。
【請求項28】
請求項1〜23もしくは26の何れか1項に記載の方法または請求項24もしくは25に記載の使用であって、前記細胞が、線維芽細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、前駆/幹細胞(例えば、骨髄、脂肪、または末梢血からの)、真皮性線維芽細胞、EPC(内皮の前駆細胞)、または他の間充織幹細胞、髄ストローマ細胞(MSC)、および上皮細胞からなる群から選択される方法または使用。
【請求項29】
請求項1〜23もしくは26の何れか1項に記載の方法または請求項24もしくは25に記載の使用であって、前記細胞が、線維芽細胞および骨髄ストローマ細胞からなる群から選択される方法または使用。
【請求項30】
哺乳類における、細胞に基づく療法のためのキットであって、効果的な量のインテグリン結合パートナーと、それを使用して細胞封入媒体を調製するための説明書とを含むキット。
【請求項31】
請求項30記載のキットであって、前記説明書が、それを必要とする患者への投与を更に記載するキット。
【請求項32】
請求項31記載のキットであって、前記説明書が、細胞に基づく遺伝子療法による投与を記載するキット。
【請求項33】
請求項30記載のキットであって、封入媒体を更に含むキット。
【請求項34】
請求項32記載のキットであって、前記説明書が、生存可能な、トランスフェクトされた哺乳類細胞を用いた投与を記載し、前記トランスフェクトされた哺乳類細胞が少なくとも1つの発現可能なアポトーシス阻害因子をコード化している導入遺伝子を含有しているキット。
【請求項35】
請求項34記載のキットであって、前記哺乳類細胞が、真皮性線維芽細胞、平滑筋細胞、前駆細胞、内皮の前駆細胞、上皮性の前駆細胞、平滑筋前駆細胞、幹細胞、および内皮細胞からなる群から選択されるキット。
【請求項36】
請求項30〜35の何れか1項に記載のキットであって、前記インテグリン結合パートナーは、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、X因子、C3bi、Ig様細胞接着分子(ICAM-1、2、3)、1型コラーゲン、血管性の細胞接着分子(VCAM-1)、粘膜のアドレッシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、LFA、Mac-1、テネイシン、ヴォン・ヴィレブランド因子、トロンボスポンジン、X因子、FXIII、FXIIIa、Arg-Gly-Asp、Leu-Asp-Val、His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Val、配列Arg-Gly-Asp、Leu-Asp-Valを含んでいるインテグリン結合パートナー、および配列His-His-Leu-Gly-Gly-Ala-Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Valを含んでいるインテグリン結合パートナーからなる群から選択されるキット。
【請求項37】
請求項30〜36の何れか1項に記載のキットであって、前記細胞封入媒体が、フィブリンを有するアガロース、フィブロネクチンを有するアグラロース、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンの組み合わせ、植物由来のガム、アルカリ金属アルギナートおよびアガロース、セルロース及びその派生物、ゼラチン、キトサン、および細胞外マトリックス(ECM)成分からなる群から選択されるキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2006−516134(P2006−516134A)
【公表日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562413(P2004−562413)
【出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【国際出願番号】PCT/CA2003/002008
【国際公開番号】WO2004/058305
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505241289)アン−ゴ−ゲン・インコーポレイテッド (1)
【出願人】(305060648)
【出願人】(305060659)
【出願人】(305060671)
【Fターム(参考)】