説明

封入複合体の製造法

【課題】密封されていない容器中で行うことができる、シクロプロペン複合体を製造するバッチ法を提供する。
【解決手段】(i)1以上の分子カプセル化剤および(ii)溶媒を含む混合物を含むシクロプロペン複合体を調製するバッチ法を提供する。ここで、前記(i)の量の、前記(ii)の量に対する比は、前記溶媒中の前記分子カプセル化剤の溶解度よりも高い。また、シクロプロペン複合体を調製する連続法を提供する。ここで、分子カプセル化剤の添加速度の、溶媒の添加速度に対する比は、前記溶媒中の前記分子カプセル化剤の溶解度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シクロプロペンおよび分子カプセル化剤を含有するシクロプロペン複合体を製造することがしばしば望まれる。
【背景技術】
【0002】
過去において、かかる複合体を製造する一つの方法はバッチ法を含み、この方法では、シクロプロペンを一定量の分子カプセル化剤と溶媒の混合物に添加した。例えば、米国特許第6,313,068号は、アルファ−シクロデキストリン、緩衝液、および1−メチルシクロプロペンを混合容器中に入れ、混合容器を密封し(即ち、混合容器への全ての接続部を閉鎖し)、混合容器をシェーカー上に置き、混合容器から内容物を取り出し、次いで濾過により、混合容器の他の内容物からシクロプロペンを分離することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,313,068号明細書
【特許文献2】米国特許第6,953,540号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密封されていない容器中で行うことができる、シクロプロペン複合体を製造するバッチ法を提供することが求められる。高濃度の分子カプセル化剤を使用すること;高収率のシクロプロペン複合体を製造すること;廃水を最小限に抑えること;分子カプセル化剤の廃棄物を最小限に抑えること;および/またはシクロプロペン複合体の廃棄物を最小限に抑えることというさらなる特性の1以上も有するこのようなバッチ法を提供することも望まれる。
【0005】
シクロプロペン複合体を製造するために、過去において用いられた別の方法は、連続法の使用であった。例えば、米国特許第6,953,540号は、1−メチルシクロプロペンガスを、アルファ−シクロデキストリンの溶液を含む攪拌容器中に発泡させること(bubbling)を記載している。米国特許第6,953,540号により記載されている手順では、アルファ−シクロデキストリンの新鮮な溶液を連続して添加し、その際に1−メチルシクロプロペン複合体も連続して添加し、シクロプロペン複合体を連続して除去した。さらに高濃度の分子カプセル化剤を連続して添加することを含む、シクロプロペン複合体を製造するための連続法を提供することが望まれる。改善された効率で機能すること;高濃度の分子カプセル化剤を使用すること;高収率のシクロプロペン複合体を製造すること;廃水を最小限に抑えること;分子カプセル化剤の廃棄物を最小限に抑えること;および/またはシクロプロペン複合体の廃棄物を最小限に抑えることというさらなる特性の1以上を有する連続法も望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様において、シクロプロペン複合体を製造するバッチ法であって
(a)容器中で混合物を形成する工程
(前記混合物は
(i)1以上の分子カプセル化剤および
(ii)溶媒を含み、
前記(i)の量の前記(ii)の量に対する比は、前記溶媒中の前記分子カプセル化剤の溶解度よりも高い)
(b)1以上のシクロプロペンを前記混合物中に導入して、前記シクロプロペン複合体を形成する工程、ならびに
(c)前記工程(a)および前記工程(b)の後に、前記シクロプロペン複合体の一部または全部を前記容器から除去する工程を含み、前記方法を行っている間、前記容器を密封しない方法が提供される。
【0007】
本発明の第二の態様において、シクロプロペン複合体を製造する連続法であって、
(a)1以上の分子カプセル化剤を容器に添加し、同時に溶媒を前記容器に添加し(ここで、前記分子カプセル化剤の添加速度の、前記溶媒の添加速度に対する比は、前記分子カプセル化剤の前記溶媒中の溶解度よりも高い)、
(b)1以上のシクロプロペンを前記容器に導入する工程、ならびに
(c)前記シクロプロペン複合体を前記容器から除去する(ここで、前記工程(c)は、前記工程(a)もしくは前記工程(b)と同時、または前記工程(a)および前記工程(b)の両方と同時に行われる)ことを含む方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施は、1以上のシクロプロペンの使用を含む。本明細書において用いられる場合、「シクロプロペン」は式:
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、各R、R、R、およびRは独立して、Hおよび式:
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、nは0〜12の整数である)
で表される化学基からなる群から独立して選択される)を有する任意の化合物である。各Lは二価ラジカルである。好適なL基は、例えば、H、B、C、N、O、P、S、Si、またはそれらの混合物から選択される1以上の原子を含有するラジカルを含む。L基内の原子は、単結合、二重結合、三重結合、またはそれらの混合物により互いに結合することができる。各L基は直鎖、分岐、環状、またはその組み合わせである。いずれか1つのR基(すなわち、R、R、R、およびRのいずれか1つ)において、ヘテロ原子(すなわち、HでもCでもない原子)の合計数は0〜6である。独立して、いずれか1つのR基において、非水素原子の合計数は50以下である。各Zは一価ラジカルである。各Zは独立して、水素、ハロ、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロレート、ブロメート、イオデート、イソシアナート、イソシアニド、イソチオシアナート、ペンタフルオロチオ、および化学基G(Gは3〜14員環系である)からなる群から選択される。
【0013】
、R、R、およびR基は独立して好適な基から選択される。R、R、R、およびR基は、互いに同じであっても、あるいはこれらのうちのいくつでも他と異なっていてもよい。R、R、R、およびRの1以上としての使用に好適な基には、例えば、脂肪族基、脂肪族オキシ基、アルキルホスホナート基、脂環式基、シクロアルキルスルホニル基、シクロアルキルアミノ基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シリル基、他の基、ならびにそれらの混合物および組み合わせが含まれる。1以上のR、R、R、およびRとしての使用に好適な基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。独立して、1以上のR、R、R、およびRとしての使用に好適な基は、シクロプロペン環に直接結合することができるか、または介在基、例えば、ヘテロ原子含有基を介してシクロプロペン環に結合することができる。
【0014】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、脂肪族基が含まれる。いくつかの好適な脂肪族基は、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニル基を包含する。好適な脂肪族基は、直鎖、分岐、環状、またはそれらの組み合わせであってよい。独立して、好適な脂肪族基は置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0015】
本明細書において用いられる場合、興味のある化学基は、興味のある化学基の1以上の水素原子が置換基で置換されているならば、「置換されている」と呼ばれる。このような置換基は任意の方法、例えば、これに限定されないが、興味のある化学基の非置換形態を形成し、次いで置換を行うことを含む任意の方法により形成することが想定される。好適な置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アセチルアミノ、アルコキシ、アルコキシアルコキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシイミノ、カルボキシ、ハロ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、アルキルスルホニル、アルキルチオ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、およびそれらの組み合わせが挙げられる。存在するならば、単独または別の好適な置換基との組み合わせにおいて存在し得る、さらなる好適な置換基は、
【0016】
【化3】

【0017】
であり、式中、mは0〜8であり、LおよびZは前記定義の通りである。1より多い置換基が興味のある1つの化学基上に存在するならば、各置換基は異なる水素原子と置換することができるか、または1つの置換基を別の置換基と結合させ、これを次に興味のある化学基と結合させるか、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0018】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換脂肪族オキシ基、例えば、アルケノキシ、アルコキシ、アルキノキシ、およびアルコキシカルボニルオキシが含まれる。
【0019】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換アルキルホスホナート、置換および非置換アルキルホスフェート、置換および非置換アルキルアミノ、置換および非置換アルキルスルホニル、置換および非置換アルキルカルボニル、ならびに置換および非置換アルキルアミノスルホニル、例えば、アルキルホスホナート、ジアルキルホスフェート、ジアルキルチオホスフェート、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニル、およびジアルキルアミノスルホニルも含まれる。
【0020】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換シクロアルキルスルホニル基およびシクロアルキルアミノ基、たとえば、ジシクロアルキルアミノスルホニルおよびジシクロアルキルアミノも含まれる。
【0021】
好適なR、R、R、およびR基には、たとえば、置換および非置換の複素環基(すなわち、環中に少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族または非芳香族環状基)も含まれる。
【0022】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、オキシ基、アミノ基、カルボニル基、またはスルホニル基の介在によりシクロプロペン化合物と結合した置換および非置換の複素環基も含まれ;かかるR、R、R、およびR基の例は、複素環オキシ、複素環カルボニル、ジ複素環アミノ、およびジ複素環アミノスルホニルである。
【0023】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換アリール基も含まれる。好適な置換基は、本明細書において前述のものである。いくつかの実施態様において、少なくとも1つの置換基が、アルケニル、アルキル、アルキニル、アセチルアミノ、アルコキシアルコキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、カルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、アリールアミノ、ハロアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、アルキルスルホニル、スルホニルアルキル、アルキルチオ、チオアルキル、アリールアミノスルホニル、およびハロアルキルチオの1以上である、1以上の置換アリール基が使用される。
【0024】
好適なR、R、R、およびR基には、たとえば、オキシ基、アミノ基、カルボニル基、スルホニル基、チオアルキル基、またはアミノスルホニル基の介在によりシクロプロペン化合物に結合した置換および非置換複素環基が含まれ;このようなR、R、R、およびR基の例は、ジヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールチオアルキル、およびジヘテロアリールアミノスルホニルである。
【0025】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、水素、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロレート、ブロメート、イオデート、イソシアナート、イソシアニド、イソチオシアナート、ペンタフルオロチオ;アセトキシ、カルボエトキシ、シアナート、ニトラート、ニトリト、パークロラート、アレニル;ブチルメルカプト、ジエチルホスホナート、ジメチルフェニルシリル、イソキノリル、メルカプト、ナフチル、フェノキシ、フェニル、ピペリジノ、ピリジル、キノリル、トリエチルシリル、トリメチルシリル;およびそれらの置換類似体が含まれる。
【0026】
本明細書において用いられる場合、化学基Gは3〜14員環系である。化学基Gとして好適な環系は、置換されていても、または置換されていなくてもよく;これらは芳香族(たとえば、フェニルおよびナフチルを包含する)または脂肪族(不飽和脂肪族、部分飽和脂肪族、または飽和脂肪族を包含する)であり;これらは炭素環または複素環であってよい。複素環G基において、いくつかの好適なヘテロ原子は、たとえば、窒素、硫黄、酸素、およびその組み合わせである。化学基Gとして好適な環系は、単環式、二環式、三環式、多環式、スピロ、または縮合環であってよく;二環式、三環式、または縮合環である好適な化学基G環系においては、1つの化学基G中の様々な環は全て同じ種類であっても、2種以上であってもよい(例えば、芳香族環は脂肪族環と縮合してもよい)。
【0027】
いくつかの実施態様において、Gは飽和または不飽和3員環を含有する環系、例えば、置換または非置換シクロプロパン、シクロプロペン、エポキシド、またはアジリジン環を含有する環系である。
【0028】
いくつかの実施態様において、Gは4員複素環を含有する環系であり;かかる実施態様のいくつかにおいて、複素環はちょうど1個のヘテロ原子を含有する。独立して、いくつかの実施態様において、Gは5員環以上の複素環を含有する環系であり;かかる実施態様のいくつかにおいて、複素環は1〜4個のヘテロ原子を含有する。独立して、いくつかの実施態様において、G中の環は非置換であり;他の態様において、環系は1〜5個の置換基を有し;Gが置換基を含有する実施態様のいくつかにおいて、各置換基は独立して、前記置換基から選択される。Gが炭素環系である実施態様も好適である。
【0029】
いくつかの実施態様において、各Gは独立して、置換または非置換フェニル、ピリジル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘプチル、ピロリル、フリル、チオフェニル、トリアゾリル、ピラゾリル、1,3−ジオキソラニル、またはモルホリニルである。これらの実施態様には、例えば、Gが非置換または置換フェニル、シクロペンチル、シクロヘプチル、またはシクロヘキシルである実施態様が含まれる。これらの実施態様のいくつかにおいて、Gは、シクロペンチル、シクロヘプチル、シクロヘキシル、フェニル、または置換フェニルである。Gが置換フェニルである実施態様には、例えば、1、2、または3個の置換基がある実施態様が含まれる。独立して、Gが置換フェニルである実施態様には、例えば、置換基が独立して、メチル、メトキシ、およびハロから選択される実施態様も含まれる。
【0030】
およびRが組み合わされて、1つの基になり、この基がシクロプロペン環の第3番の炭素原子に二重結合により結合する実施態様も想定される。このような化合物のいくつかは、米国特許公開第2005/0288189号に記載されている。
【0031】
いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上が水素である1以上のシクロプロペンが用いられる。いくつかの実施態様において、RもしくはRまたはRおよびRはどちらも水素である。独立して、いくつかの実施形態において、RもしくはRまたはRおよびRはどちらも水素である。いくつかの実施態様において、R、R、およびRは水素である。
【0032】
いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は二重結合を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は三重結合を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上はハロゲン原子置換基を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上はイオン性である置換基を有さない構造である。
【0033】
いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は水素または(C−C10)アルキルである。いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRのそれぞれは水素または(C−C)アルキルである。いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRのそれぞれは水素または(C−C)アルキルである。いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRのそれぞれは水素またはメチルである。いくつかの実施態様において、Rは(C−C)アルキルであり、R、R、およびRのそれぞれは水素である。いくつかの実施態様において、Rはメチルであり、R、R、およびRのそれぞれは水素であり、このシクロプロペンは本明細書において1−メチルシクロプロペン「1−MCP」と呼ばれる。
【0034】
いくつかの実施態様において、1気圧で50℃以下;または25℃以下;または15℃以下の沸点を有するシクロプロペンを使用する。独立して、いくつかの実施態様において、1気圧で−100℃以上;−50℃以上;または−25℃以上;または0℃以上の沸点を有するシクロプロペンを使用する。
【0035】
本発明の実施は、1以上の分子カプセル化剤の使用を含む。好適な分子カプセル化剤としては、たとえば、有機および無機分子カプセル化剤が挙げられる。好適な有機分子カプセル化剤としては、たとえば、置換シクロデキストリン、非置換シクロデキストリン、およびクラウンエーテルが挙げられる。好適な無機分子カプセル化剤としては、たとえばゼオライトが挙げられる。好ましい分子カプセル化剤はシクロプロペンの構造または使用されるシクロプロペンに応じて変化する。
【0036】
いくつかの実施形態において、分子カプセル化剤は、1以上のシクロデキストリンを含有する。いくつかの実施形態において、使用される全ての分子カプセル化剤はシクロデキストリンである。
【0037】
シクロデキストリンは、その分子が、6以上のグルコース単位からなる構造を有する円錐形構造の化合物である。本明細書において用いられる場合、シクロデキストリンがあるグルコース単位からなるという記載は、シクロデキストリン分子の構造の説明として理解すべきであり、これは実際にはあるグルコース分子を反応させることにより形成してもよいし、または形成しなくてもよい。シクロデキストリンは32ものグルコース単位から形成することができる。6、7および8個のグルコース単位から形成されるシクロデキストリンはそれぞれ、アルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリン、およびガンマ−シクロデキストリンとして知られる。いくつかのシクロデキストリンは、例えば、ミシガン州エードリアンのWacker Biochem Inc.、ならびに他の製造業者から入手可能である。
【0038】
シクロデキストリン中のグルコース単位の数と関係なく、「シクロデキストリン」と呼ばれる種類の化合物は、本発明においては、シクロデキストリン分子の誘導体も包含すると考えられる。即ち、「シクロデキストリン」なる用語は、本明細書においては、6以上のグルコース単位から形成される構造を有する円錐形構造である分子に適用され、かかる分子の誘導体が分子カプセル化剤として機能できる場合には、かかる誘導体にも適用される。いくつかの好適な誘導体は、例えば、アルキル基(例えば、メチル基)をシクロデキストリンに付加することにより形成される(または、され得る)構造を有する分子である。いくつかの他の誘導体は、例えば、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシプロピル基)をシクロデキストリンに付加することにより形成される(または、され得る)構造を有する分子である。「シクロデキストリン」であると考えられるいくつかの誘導体は、例えば、メチル−ベータ−シクロデキストリンおよびヒドロキシプロピル−アルファ−シクロデキストリンである。
【0039】
いくつかの実施形態において、ちょうど1個のアルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリン、またはガンマ−シクロデキストリンが使用される。いくつかの実施形態において、2以上のアルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリン、およびガンマ−シクロデキストリンの混合物が使用される。いくつかの実施形態において、アルファ−シクロデキストリンが使用される。いくつかの実施形態において、アルファ−シクロデキストリン以外の分子カプセル化剤は使用されない。好適な分子カプセル化剤の混合物も好ましい。
【0040】
本発明は、1以上のシクロプロペン複合体を含む。シクロプロペン複合体は、1以上の分子カプセル化剤が、1以上のシクロプロペンまたは1以上のシクロプロペンの一部を封入する組成物である。
【0041】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのシクロプロペン複合体は封入複合体である。かかる封入複合体において、分子カプセル化剤は空洞を形成し、シクロプロペンまたはシクロプロペンの一部はこの空洞の内部に位置する。かかる封入複合体のいくつかにおいて、シクロプロペンと分子カプセル化剤の間に共有結合はない。独立して、かかる封入複合体のいくつかにおいて、シクロプロペン中の1以上の極性部分と分子カプセル化剤中の1以上の極性部分の間の静電気引力の有無にかかわらず、シクロプロペンと分子カプセル化複合体の間にはイオン性結合はない。
【0042】
独立して、かかる封入複合体のいくつかにおいて、分子カプセル化剤の空洞の内部は、実質的に非極性もしくは疎水性またはその両方であり、シクロプロペン(または空洞内に位置するシクロプロペンの一部)も、実質的に非極性もしくは疎水性またはその両方である。本発明は特定の理論またはメカニズムに限定されないが、かかる非極性シクロプロペン複合体において、ファンデアワールス力、もしくは疎水性相互作用、またはその両方が、シクロプロペンまたはその一部を分子カプセル化剤の空洞中に残留させる原因になると想定される。
【0043】
シクロプロペン複合体は、分子カプセル化剤のモル数のシクロプロペンのモル数に対する比により有用に特徴づけることができる。いくつかの実施形態において、分子カプセル化剤のモル数の、シクロプロペンのモル数に対する比は、0.1以上;または0.2以上;または0.5以上;または0.9以上である。独立して、かかる実施形態のいくつかにおいて、分子カプセル化剤のモル数の、シクロプロペンのモル数に対する比は、2以下;または1.5以下である。
【0044】
本発明は、溶媒の使用を含む。カプセル化剤のいくらかを溶解させることができる溶媒が適している。いくつかの実施形態において、溶媒中に可溶性であるカプセル化剤の量は、溶媒の重量基準で、0.1重量%以上;または0.3重量%以上;または1重量%以上;または3重量%以上である。独立して、いくつかの実施形態において、溶媒中に可溶性であるカプセル化剤の量は、溶媒の重量基準で、50重量%以下;または25重量%以下である。
【0045】
いくつかの好適な溶媒は非極性である。いくつかの好適な溶媒は極性である(即ち、1.0Debye単位以上の双極子モーメントを有する)。独立して、いくつかの好適な溶媒は水性である。水性溶媒は、溶媒の重量基準で50重量%以上の水を含有する溶媒である。いくつかの実施形態において、溶媒の重量基準で75重量%以上;または85重量%以上;または95重量%以上の量の水性溶媒を使用する。独立して、いくつかの実施形態において、水性でない溶媒を使用する。
【0046】
分子カプセル化剤の一つの特徴は、所定の温度における、特定の溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度である。本明細書において用いられる場合、「溶解度」は、所定の温度で、その溶媒中に溶解できる分子カプセル化剤の最大量である。本明細書において用いられる場合、「溶解度」とは、特に記載しない限り、20℃での溶解度を意味する。特定の溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度は、本発明の方法の実施とは別に測定し;この溶解度は純粋(または工業的プロセスにおいて通常用いられるのとほぼ同程度に純粋)な分子カプセル化剤および溶媒の実験的混合物を、実験的混合物中の他の成分の非存在下で調べることにより測定する。溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度は、シクロプロペンまたはおそらくは溶媒以外の他の物質との封入複合体に関与しない分子カプセル化剤を用いて測定する。
【0047】
本明細書において、特定の実施形態における分子カプセル化剤の溶解度は、この実施形態において使用される溶媒中、この実施形態が行われる温度での、分子カプセル化剤の溶解度を意味する。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態は、1以上のシクロデキストリンの使用および水性溶媒の使用を含む。かかる実施形態において、溶媒中のシクロデキストリンの濃度を測定する一つの有用な方法は、ブリックス(Brix)法である。ブリックス法は、通常、溶液の屈折率を測定することにより行われる。糖濃度に対する屈折率の関係はよく知られており、例えば、糖分析の統一法に関する国際委員会(ICUMSA)により公表されている表に記載されている。Brix法の結果は、「ブリックス(Brix)度」として記載され、Xブリックス度はX重量%の糖と同じである。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態において、溶媒中で低い溶解度を有する1以上のシクロプロペン複合体を形成する。いくつかの実施形態において、本発明の方法により形成される1以上のシクロプロペン複合体の溶解度は、溶媒の重量基準のシクロプロペン複合体の重量として、1重量%以下;または0.5重量%以下;または0.2重量%以下;または0.1重量%以下である。
【0050】
シクロプロペン複合体の形成が起こる容器を、本発明においては「リアクター」と呼ぶ。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態は、バッチ法を用いたシクロプロペン複合体の調製を含む。バッチ法は、この方法のある時点で、リアクターへの成分の添加が完了し、生成物をその後リアクターから除去する方法である。バッチ法において、成分を個々にリアクターに添加することができるか、または2以上の成分の混合物をリアクターに添加することができる。バッチ法において、各成分は、他の成分と独立して、リアクターに一度に、または徐々に、または間欠的に、またはそれらの組み合わせで添加することができる。バッチ法において、適切な操作、例えば、攪拌、温度の調節、他の操作、およびそれらの組み合わせは、成分の添加前、添加中、もしくは添加後、またはそれらの任意の組み合わせで行うことができる。
【0052】
本発明のバッチ法を行う際、溶媒、1以上の分子カプセル化剤、1以上のシクロプロペン、および任意に1以上の他の成分をリアクターに添加し;ある時点で、成分の添加が完了し、その後シクロプロペン複合体を除去する。かかる実施形態において、分子カプセル化剤の収率(シクロプロペン複合体の一部としてリアクターから除去される分子カプセル化剤の重量の、シクロプロペン複合体の除去前にリアクターに添加される分子カプセル化剤の合計重量に対する比)により、方法の結果を特徴づけることが有用である。いくつかの実施形態において、分子カプセル化剤収率は、50%以上;または70%以上;または90%以上;または95%以上である。
【0053】
本発明のバッチ法において、分子カプセル化剤の合計重量(すなわち、シクロプロペン複合体の除去前にリアクターに添加される、リアクター中の全ての分子カプセル化剤の合計重量)である、リアクター中の分子カプセル化剤の濃度を、分子カプセル化剤の合計重量およびシクロプロペン複合体の除去前にリアクターに添加される溶媒の合計重量の合計に基づくパーセンテージとして特徴づけることも有用である。
【0054】
本発明の各バッチ実施形態において、分子カプセル化剤濃度は、この実施形態における分子カプセル化剤の、リアクター温度での溶解度よりも高い。1より多い温度で行われる(例えば、温度が段階的に上昇または下降するか、あるいは徐々に上昇または下降する)バッチ実施形態も想定され;かかる実施形態において、分子カプセル化剤の濃度は、この実施形態における分子カプセル化剤の、この実施形態において使用される1以上の温度での溶解度よりも高い。1以上の温度を使用するいくつかのバッチ実施形態において、分子カプセル化剤の濃度は、この実施形態において使用される全ての温度において、この実施形態における分子カプセル化剤の溶解度よりも高い。
【0055】
いくつかの実施形態において、分子カプセル化剤の濃度の、分子カプセル化剤の溶解度に対する比は、1.1以上;または1.5以上;または2以上;または3以上;または4以上である。1より多い分子カプセル化剤が使用される場合、1以上の分子カプセル化剤を、この実施形態におけるこの分子カプセル化剤の溶解度よりも高い濃度で使用すると想定される。
【0056】
本発明のいくつかのバッチ実施形態において(本明細書において「その後のシクロプロペン」実施形態と称する)、全ての溶媒および全ての分子カプセル化剤を、シクロプロペンの導入前にリアクターに添加する。かかる実施形態のいくつかにおいて、溶媒および分子カプセル化剤の混合物は、いくらかの溶解した分子カプセル化剤を含み、スラリーもしくは過飽和溶液の形態またはそれらの組み合わせの形態の分子カプセル化剤も含む。かかる実施形態のいくつかにおいて、溶媒および分子カプセル化剤の混合物は、溶解した分子カプセル化剤を含み、スラリーの形態の分子カプセル化剤も含む。スラリーの形態の分子カプセル化剤を含むいくつかの実施形態において、リアクターの内容物を、例えば、機械的攪拌によりかき混ぜることが想定される。
【0057】
その後のシクロプロペン実施形態において、シクロプロペンを分子カプセル化剤および溶媒の混合物に任意の方法で導入することができる。いくつかのその後のシクロプロペン実施形態において、1以上のシクロプロペンは、シクロプロペン複合体の製造法が行われる温度で気体であり、気体状シクロプロペンは、溶媒と分子カプセル化剤の混合物の表面上またはこの混合物の表面下で、気体状シクロプロペンを過剰圧力によりリアクター中に直接押し込むプロセスにより導入される。かかる実施形態のいくつかにおいて、気体状シクロプロペンを、溶媒と分子カプセル化剤の混合物の表面下でリアクター中に導入する。気体状シクロプロペンの、溶媒と分子カプセル化剤の混合物の表面下への導入は、本明細書においては「発泡(bubbling)」と称する。
【0058】
発泡を含むいくつかの実施形態において、シクロプロペンをまず導入する場合、気泡は混合物の表面に到達しない。シクロプロペンをまず導入する場合、分子カプセル化剤は、シクロプロペンを用いてシクロプロペン複合体を形成するのに利用可能であり、このシクロプロペンは、気泡の形態で混合物の表面に向かう代わりに、シクロプロペン複合体を形成することが予想される。利用可能な分子カプセル化剤の全てがシクロプロペン複合体中に組み入れられる場合、シクロプロペンは混合物中で気泡を形成し、これは表面へと上昇し、表面で明らかに壊れることがさらに予想される。発泡を含むいくつかのその後のシクロプロペン実施形態において、シクロプロペンの導入は、気泡が混合物の表面上に現れ始めるときに停止する。かかる実施形態において、ある量の分子カプセル化剤は、様々な成分間の平衡により決定されるように、シクロプロペン複合体に関与しないで溶媒中に溶解したままである。
【0059】
本発明のバッチ法を、密封されていないリアクター中で行う。本明細書において理解されるように、密封されていないリアクターは、リアクター内の圧力が1気圧の周囲圧力よりも高い場合、リアクターから物質を逃がすリアクターである。いくつかの実施形態において、本発明のバッチ法は、底部に液体および上部に気体(本明細書において「ヘッドスペース」と呼ばれる)を有するリアクター中で行われ、リアクターは、リアクター内部圧力が周囲よりも大きい場合はいつでも、ヘッドスペースからの気体をリアクターから逃がすような構造にされる。かかる実施形態のいくつかにおいて、リアクターは、バルブ、キャップ、または他の障害物により妨げられない気体の自由な通過が、ヘッドスペースと周囲圧力間で可能であるような構造にされる。
【0060】
本発明のバッチ実施形態の実施は、いくつかの利点をもたらす。密封されていないリアクターの使用は、密封された容器を使用する方法よりも簡単である(例えば、シールを維持する必要はない)。分子カプセル化剤の溶媒に対する比は、溶媒中のこの分子カプセル化剤の溶解度よりも高く、この比を使用することは、以下の1以上をもたらし得る:廃水量の減少、廃シクロプロペン量の減少、廃分子カプセル化剤量の減少、および/または廃シクロプロペン複合体量の減少。
【0061】
これらの利点は、仮説例により説明することができる。以下の特性を有する選択された成分を用いて、一定温度でのバッチプロセスを考慮することが一例である:分子カプセル化剤の溶解度は、900gの水(溶媒)中100gの分子カプセル化剤である;シクロプロペン複合体の溶解度は、994gの水中6グラムのシクロプロペン複合体である;シクロプロペン、溶解した分子カプセル化剤、およびシクロプロペン複合体間で平衡が確立される場合、溶解した分子カプセル化剤の量は999gの水あたり1グラムであり、溶解したシクロプロペンの量は999gの水あたり1グラムである。
【0062】
比較バッチプロセス(即ち、本発明の実施形態でないバッチプロセス)を行うことができ、このプロセスでは、比較バッチプロセスの開始時に、分子カプセル化剤の溶媒に対する比は、バッチプロセスの温度での溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度と同じである。比較バッチプロセスは、10kgの分子カプセル化剤および90gの溶媒を用いて行うことができる。シクロプロペンの量は、分子カプセル化剤の量と1:1のモル比を有するように選択することができる。比較バッチプロセスの最後で、分子カプセル化剤のほとんどはシクロプロペン複合体に変換され、複合体のほとんどは溶媒中に不溶性であり、濾過により除去される。以下のものは溶媒中に溶解したままである:90gのシクロプロペンおよび540gのシクロプロペン複合体および90gの分子カプセル化剤。溶媒(全90kg)を、溶媒中に溶解した物質とともに、廃棄するか、または廃棄物として処理する。
【0063】
同じ成分を本発明のバッチプロセスにおいて使用できる。例えば、10kgの分子カプセル化剤を15kgの溶媒とともに使用できる。シクロプロペンの量は、分子カプセル化剤の量と1:1のモル比を有するように選択できる。このプロセスの最後で、溶媒(15kgのみ)は15gのシクロプロペンおよび90gの溶解したシクロプロペン複合体を含有する。従って、本発明のバッチプロセスでは、溶媒、シクロプロペン、分子カプセル化剤、およびシクロプロペン複合体の廃棄物が減少する。さらに、シクロプロペン複合体の単離収率は、比較バッチプロセスにおけるよりも若干高い。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態は、連続法を用いてシクロプロペン複合体を製造することを含む。連続法において、少なくとも1つの成分をリアクターに、リアクターから生成物を除去するのと同時に添加する。各成分の添加は、独立して、連続であるか、または時折中断することもある。生成物の除去は、連続しているか、または時折中断することもある。連続実施形態において、成分をリアクターに1以上の流れで添加する。各流れは、1つの成分または2以上の成分の混合物を含有し得る。
【0065】
本発明の連続実施形態において、分子カプセル化剤および溶媒をリアクターに同時に添加する。いくつかの連続実施形態において、流れ(おそらくは他の1つまたは複数の流れに加えて)を、分子カプセル化剤および溶媒の混合物を含むリアクターに添加する。いくつかの連続実施形態において、分子カプセル化剤および溶媒はリアクターに別個の流れにおいて同時に添加される。ある分子カプセル化剤を溶媒との混合物の一部として添加し、ある分子カプセル化剤を溶媒と別の1以上の流れで添加する実施形態も想定される。
【0066】
連続実施形態において、分子カプセル化剤の添加速度を、例えば、単位時間あたりの重量単位で特徴づけることが有用である。分子カプセル化剤の添加速度を特徴づけるために使用したものと同じ測定単位を用いて溶媒の添加速度を特徴づけることも有用である。次に、実施態様の有用な特性は、分子カプセル化剤の添加速度の、溶媒の添加速度に対する割合として本明細書において定義される「添加率」である。本発明の連続実施形態において、添加率は、リアクターの温度での溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度よりも高い。
【0067】
1より多い分子カプセル化剤が使用される任意の連続実施形態において、リアクターの温度でこの実施形態において使用される溶媒中の特定の分子カプセル化剤の溶解度よりも高い特定の分子カプセル化剤の添加率で使用される、少なくとも1つの分子カプセル化剤が存在する。
【0068】
いくつかの連続実施形態(本明細書において「過剰濃度混合物実施形態」と呼ぶ)において、成分の少なくとも1つの流れを、分子カプセル化剤および溶媒の混合物を含有するリアクターに添加し、ここで、この流れ中の分子カプセル化剤の濃度は、リアクター中の温度で、溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度よりも高い。かかる流れは、溶解した分子カプセル化剤を、リアクターの温度での溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度に対応する量で含有し、さらなる分子カプセル化剤も含有する。
【0069】
いくつかの過剰濃度混合物実施形態において、追加の分子カプセル化剤は、分散した粒子の形態である。かかる実施形態において、分散した粒子を含有する流れはスラリーと呼ばれる。
【0070】
いくつかの過剰濃度混合物実施形態において、追加の分子カプセル化剤を溶媒中に溶解させる。かかる実施形態のいくつかにおいて、分子カプセル化剤および溶媒の混合物を含有する流れの温度はリアクターの温度であり、この流れは過飽和溶液と呼ばれる。追加の分子カプセル化剤を溶媒中に溶解させるいくつかの過剰濃度混合物実施形態において、分子カプセル化剤および溶媒の混合物を含有する流れの温度は、リアクターの温度よりも高く、流れは通常の溶液または過飽和溶液であり得る。
【0071】
成分の1以上の流れの温度がリアクターの温度よりも高い、いくつかの実施形態において、リアクターを、例えば外部冷却により冷却することが想定される。
【0072】
追加の分子カプセル化剤の一部を分散させ、追加の分子カプセル化剤の一部を溶解させる過剰濃度混合物実施形態も想定される。
【0073】
いくつかの過剰混合物実施形態において、分子カプセル化剤および溶媒の混合物を含有する流れを1つだけ添加し、溶媒を含有する他の流れは添加しない。
【0074】
いくつかの連続実施形態(本明細書において、「独立添加」実施形態と呼ぶ)において、分子カプセル化剤を含有し、溶媒を含有しない少なくとも1つの流れをリアクターに添加し、溶媒を含有し、分子カプセル化剤を含有しない少なくとも1つの流れをリアクターに添加する。いくつかの独立添加実施形態においては、分子カプセル化剤および溶媒の両方を含有する流れを添加しない。
【0075】
連続実施形態において、シクロプロペンを任意の方法により添加できる。いくつかの連続実施形態において、シクロプロペンはリアクター温度で気体状である。いくつかの連続実施形態において、リアクターは若干の液体を含有し、気体状シクロプロペンをリアクターに添加する一つの好適な方法は、過剰圧力を用いて気体状シクロプロペンを、リアクター中の液体の表面下の位置でリアクター中に押し込むことである。
【0076】
連続実施形態において、シクロプロペン複合体および溶媒を、連続して、任意に時折中断しながら除去する。他の物質、例えば、シクロプロペン複合体中に入らないシクロプロペン、シクロプロペン複合体中に入らない分子カプセル化剤、不純物(もし存在するならば)、副生成物(もし形成されるならば)、他の物質、およびその混合物を連続して除去することも想定される。
【0077】
分子カプセル化剤収率(連続法に関しては、シクロプロペン複合体の一部である分子カプセル化剤の除去速度として定義され、分子カプセル化剤の添加速度のパーセンテージとして表す)により連続法の結果を特徴づけることが有用である。いくつかの連続実施形態において、分子カプセル化剤収率は、80%以上;または90%以上;または95%以上である。
【0078】
独立して、シクロプロペン収率により連続法の結果を特徴づけることも有用であり、この収率は、連続法について、シクロプロペン複合体の一部であるシクロプロペンの除去率として定義され、シクロプロペンの添加速度のパーセンテージとして表される。いくつかの連続実施形態において、シクロプロペン収率は80%以上;または90%以上;または95%以上である。
【0079】
本発明の連続実施形態の実践は、いくつかの利点をもたらす。溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度よりも高い、分子カプセル化剤の溶媒に対する比の使用は、次の1以上をもたらし得る:廃水量の減少、廃シクロプロペン量の減少、廃分子カプセル化剤量の減少、および/または廃シクロプロペン複合体量の減少。
【0080】
これらの利点は、仮説例により説明することができる。以下の特性に関して選択された成分を用いて、一定温度での連続プロセスを考慮することが一例である:分子カプセル化剤の溶解度は、900gの水(溶媒)中100gの分子カプセル化剤である;シクロプロペン複合体の溶解度は、994gの水中6グラムのシクロプロペンである;シクロプロペン、溶解した分子カプセル化剤、およびシクロプロペン複合体間で平衡が確立される場合、溶解した分子カプセル化剤の量は999gの水あたり1グラムであり、溶解したシクロプロペンの量は999gの水あたり1グラムである。
【0081】
比較連続プロセス(即ち、本発明の実施形態でない連続プロセス)を行うことができ、このプロセスでは、分子カプセル化剤の添加速度の、溶媒の添加速度に対する比は、リアクター温度での溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度と同じである。比較連続プロセスは、1時間あたり10kgの分子カプセル化剤および1時間あたり90kgの水(溶媒)の添加速度で行うことができる。シクロプロペンの添加速度は、シクロプロペンの1時間あたりのモル数が、分子カプセル化剤の1時間あたりのモル数と同じになるように選択できる。溶媒およびシクロプロペン複合体がリアクターから除去されるテークオフ流れにおいて、分子カプセル化剤のほとんどはシクロプロペン複合体に変換され、複合体のほとんどは溶媒中で不溶性であり、その後の濾過により除去される。以下のものはテークオフ流れ中に溶解したままである:1時間あたり90gのシクロプロペン、1時間あたり540gのシクロプロペン複合体および1時間あたり90gの分子カプセル化剤。溶媒(1時間あたり全90kg)を、溶媒中に溶解した物質とともに、廃棄するか、または廃棄物として処理する。
【0082】
同じ成分を本発明の連続プロセスにおいて使用できる。例えば、1時間あたり10kgの分子カプセル化剤を、1時間あたり15kgの溶媒とともに使用できる。シクロプロペンの添加速度は、シクロプロペンの1時間あたりのモル数が、分子カプセル化剤の1時間あたりのモル数と同じになるように選択できる。テークオフ流れにおいて、溶媒(1時間あたり15kgのみ)は、1時間あたり15gの溶解したシクロプロペン、1時間あたり90gの溶解したシクロプロペン複合体、および1時間あたり15gの溶解した分子カプセル化剤を含有する。従って、本発明の連続プロセスの生成物は、溶媒、シクロプロペン、分子カプセル化剤、およびシクロプロペン複合体の廃棄物が減少する。さらに、シクロプロペン複合体の単離収率は、比較連続プロセスにおけるよりも若干高い。
【0083】
いくつかの連続実施形態(本明細書において「完全連続」と呼ばれる)においては、各成分を連続して、それぞれ一定速度で添加し、生成物および溶媒を連続して、それぞれ一定速度で除去する。完全連続実施形態は、一時的または定常状態であり得る。いくつかの完全連続実施形態は定常状態である。定常状態実施形態において、リアクター内部の状態(例えば、各成分の濃度、生成物の濃度、温度などを包含する)は、連続定常状態プロセスにおいて通常予想される若干の偏向以外は一定である。一時的実施形態は定常状態でないものである。
【0084】
本発明の定常状態連続実施形態は、任意の組の初期状態で開始することにより行うことができる。定常状態実施形態において、成分の添加速度は一定であり、リアクター中の成分および生成物の濃度は、初期状態がこれらの自然な定常状態に近いかどうかにかかわらず、あるスタートアップ時間の後にその自然な定常状態に到達する。例えば、本発明のある定常状態プロセスは、分子カプセル化剤および溶媒がリアクター中、所定の温度であり、分子カプセル化剤の溶媒に対する比が、所定の温度での溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度以下である初期状態を用いる。別の例として、本発明のある定常状態プロセスは、分子カプセル化剤および溶媒がリアクター中、所定の温度であり、分子カプセル化剤の溶媒に対する比が、所定の温度での溶媒中の分子カプセル化剤の溶解度よりも高い初期条件を用いる(このような分子カプセル化剤と溶媒の混合物は、例えば、スラリーの形態であってよい)。
【0085】
いくつかの連続実施形態において、リアクターを、例えば、攪拌によりかき混ぜることが想定される。
【0086】
連続実施形態において、他の適切な操作、例えば、温度の調節、他の操作、およびそれらの組み合わせを、連続的または間欠的に行うことができる。
【0087】
本明細書および特許請求の範囲に関して、ここで言及されている範囲および比の限度は組み合わせることができることを理解すべきである。例えば、ある特定のパラメーターに対して60から120まで、および80から110までの範囲が言及されている場合には、60から110まで、および80から120までの範囲も想定されている。さらに別の独立した例として、ある特定のパラメーターが好適な最小値1、2および3を有することが開示され、また、このパラメーターが好適な最大値9および10を有することが開示されているならば、以下の範囲もすべて想定されているものと理解される:1から9まで、1から10まで、2から9まで、2から10まで、3から9まで、および3から10まで。
【0088】
本明細書および請求の範囲に関して、ここで開示されている各操作は、特に定めのない限り、20℃で行う。
【実施例】
【0089】
実施例1
シクロプロペン複合体を調製するためのバッチ法
シクロプロペン複合体を調製するためのバッチ法は次のようにして行った:
室温(約23℃)で、600gの市販のアルファ−シクロデキストリンを水中に懸濁させて、2400mlのスラリーを調製した。懸濁液を機械的に攪拌しながら維持しつつ、1−メチルシクロプロペンを250ml/分で、リアクターに表面下で供給した。70分後、反応が完了したと判断した。約500mlのアリコートを濾過し、アセトンで洗浄し、空気乾燥して、120.4gの1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を得、これは578gの回収量に相当した。
【0090】
実施例2
シクロプロペン複合体を調製するためのバッチ法
シクロプロペン複合体を調製するためのバッチ法は次のようにして行った:
室温(約23℃)で、1000gの商業的アルファ−シクロデキストリンを水中に懸濁させて、2400mlのスラリーを調製した。懸濁液を機械的に攪拌しながら維持しつつ、250ml/分の1−メチルシクロプロペンをリアクターに表面下で供給した。90分後、反応が完了したと判断した。約300mlのアリコートを濾過し、アセトンで洗浄し、空気乾燥して、132gの1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を得、これは1056gの回収量に相当した。
【0091】
実施例3
スラリーフィードを用いてシクロプロペン複合体を調製するための連続法
シクロプロペン複合体を調製するための連続法は次のようにして行うことができる:
1000mlのオーバーフロー容積を有する連続撹拌槽リアクター(CSTR)に、389グラム/リットル(0.40モル)の水中アルファ−シクロデキストリンからなるスラリーを充填する。室温リアクターを連続して攪拌し、1−メチルシクロプロペンガスを250ml/分(0.0104モル/分)の速度で表面下に供給する。40分後、リアクターはほとんど完全に複合体形成され、0.40モルのアルファ−シクロデキストリンスラリーの供給を25ml/分(0.010モル/分)の速度で開始する。このCSTRからのオーバーフローを連続してサージタンク中に集め、1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を、時々、サージタンクから除去し、濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させる。
【0092】
実施例4
高温溶液フィードを用い、外部冷却を用いて、シクロプロペン複合体を調製する連続法
シクロプロペン複合体を調製するための連続法は次のようにして行うことができる:
1000mlのオーバーフロー容積を有する連続撹拌槽リアクター(CSTR)に、195グラム/リットルの水中アルファ−シクロデキストリンからなるスラリーを充填する。室温(20℃)リアクターを連続して攪拌し、1−メチルシクロプロペンガスを250ml/分(0.0104モル/分)の速度で表面下に供給する。10分後、リアクターはほぼ完全に複合体形成され、0.40モルのアルファ−シクロデキストリンスラリーの供給を25ml/分(0.010モル/分)の速度で開始する。389gのアルファ−シクロデキストリンを水中に溶解させて、1リットルの溶液を約65℃より高い温度で調製することにより、フィード溶液を調製する。フィード溶液は、20℃でのアルファ−シクロデキストリンの水中溶解度よりも高いアルファ−シクロデキストリン濃度を有する。フィード溶液をリアクターに高温で供給する。リアクター温度を外部冷却により20℃に維持する。このCSTRからのオーバーフローを連続してサージタンク中に集め、時折、サージタンクから除去し、濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させて、1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を得る。オーバーフロー中の固形分(%)は定常状態に近づくにつれ上昇する。
【0093】
実施例5
高温溶液フィードを用い、外部冷却を用いて、シクロプロペン複合体を調製する連続法
シクロプロペン複合体を調製するための連続法は次のようにして行うことができる:
1000mlのオーバーフロー容積を有する連続撹拌槽リアクターに、389グラム/リットル(0.40モル)の水中アルファ−シクロデキストリンからなるスラリーを充填する。室温(20℃)リアクターを連続して攪拌し、1−メチルシクロプロペンガスを250ml/分(0.0104モル/分)の速度で表面下に供給する。40分後、リアクターはほぼ完全に複合体形成され、0.40モルのアルファ−シクロデキストリン溶液の供給を25ml/分(0.010モル/分)の速度で開始する。389gのアルファ−シクロデキストリンを水中に溶解させて、1リットルの溶液を約65℃より高い温度で調製することにより、フィード溶液を調製する。フィード溶液は、20℃における水中アルファ−シクロデキストリンの溶解度よりも高いアルファ−シクロデキストリン濃度を有する。フィード溶液をリアクターに高温で供給する。リアクター温度を外部冷却により20℃に維持する。このCSTRからのオーバーフローを連続してサージタンク中に集め、時折、サージタンクから除去し、濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させて、1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を得る。
【0094】
実施例6
過飽和溶液フィードを用い、フィード冷却を用いて、シクロプロペン複合体を調製する連続法
シクロプロペン複合体を調製するための連続法は次のようにして行うことができる:
1000mlのオーバーフロー容積を有する連続撹拌槽リアクターに、389グラム/リットル(0.40モル)の水中アルファ−シクロデキストリンからなるスラリーを充填する。室温リアクターを連続して攪拌し、1−メチルシクロプロペンガスを250ml/分(0.0104モル/分)の速度で表面下に供給する。40分後、リアクターはほぼ完全に複合体形成され、0.40モルのアルファ−シクロデキストリン溶液の供給を25ml/分(0.010モル/分)の速度で開始する。389gのアルファ−シクロデキストリンを水中に溶解させて、1リットルの溶液を約65℃より高い温度で調製することにより、過飽和溶液を調製する。フィード溶液の温度を、熱交換により、CSTRに到達する直前に、20℃に低下させる。このCSTRからのオーバーフローを連続してサージタンク中に集め、時折、濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させて、1−メチルシクロプロペン/α−シクロデキストリン複合体を得る。
【0095】
実施例7
独立フィードを用い、シクロプロペン複合体を調製する連続法
シクロプロペン複合体を調製するための連続法は次のようにして行うことができる:
1000mlのオーバーフロー容積を有する連続撹拌槽リアクター(CSTR)に、389グラム/リットル(0.40モル)の水中アルファ−シクロデキストリンからなるスラリーを充填する。室温リアクター(約23℃)を連続して攪拌し、1−メチルシクロプロペンガスを250ml/分(0.0104モル/分)の速度で表面下に供給する。40分後、リアクターはほぼ完全に複合体形成され、2つのフィードを開始する。1つのフィードは0.01モル/分の速度の固体アルファ−シクロデキストリンであり、他のフィードは15ml/分の水である。このCSTRからのオーバーフローを連続してサージタンク中に集め、1−メチルシクロプロペン/アルファ−シクロデキストリン複合体を、時折、サージタンクから除去し、濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロプロペン複合体を製造する連続的な方法であって、
(a)1以上の分子カプセル化剤を容器に添加し、同時に溶媒を前記容器に添加する工程(ここで、前記分子カプセル化剤の添加速度の、前記溶媒の添加速度に対する比は、前記分子カプセル化剤の前記溶媒中の溶解度よりも高い)、
(b)1以上のシクロプロペンを前記容器に導入する工程、ならびに
(c)前記シクロプロペン複合体を前記容器から除去する(ここで、前記工程(c)は、前記工程(a)もしくは前記工程(b)と同時、または前記工程(a)および前記工程(b)の両方と同時に行われる)工程を含む方法。
【請求項2】
前記工程(a)および前記工程(b)を同時に行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒が水性である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記分子カプセル化剤が1以上のシクロデキストリンを含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記シクロプロペンが1−メチルシクロプロペンを含み、前記分子カプセル化剤がアルファ−シクロデキストリンを含む請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2012−25781(P2012−25781A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−238594(P2011−238594)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2008−242401(P2008−242401)の分割
【原出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】