説明

封止材シートの製造方法

【課題】モジュール化の際の熱収縮が小さく、膜厚が均一で、生産性にも優れる太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法を提供する。
【解決手段】封止材組成物を溶融成形してアニール処理されていない未処理封止材シートを得るシート化工程と、前記未処理封止材シートと剥離性支持基材とを圧着して貼り合せてラミネート体を得るラミネート工程と、前記ラミネート工程後に熱処理を行なうアニール処理工程と、前記アニール処理工程後に前記ラミネート体から前記剥離性支持基材を剥離する剥離工程と、を備える太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法に関し、更に詳しくは、モジュール化工程における真空加熱ラミネートの際の熱収縮が小さい封止材シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され、提案されている。一般に太陽電池モジュールは、透明前面保護基材と太陽電池素子とバックシートとが、封止材シートを介して積層された構成である。
【0003】
太陽電池モジュールの封止材シートとしては、透明性や流動性の面からEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)を主として、架橋剤や架橋助剤を含有する構成が知られている。この場合、上記の組成物は未架橋で成形され、モジュール化工程の際の加熱、または、別の架橋工程における加熱によって架橋される。
【0004】
しかし、EVAは架橋時の熱収縮が顕著であることから、この収縮応力によって真空加熱ラミネートの際に太陽電池素子が割れるという問題がある。特に近年は太陽電池素子の厚さが0.2mm以下と薄くなる傾向があり、この熱収縮は従来に増して顕著な問題となっている。
【0005】
このEVAの熱収縮を防止するには、応力緩和のためのアニール処理を施すことが有効なことが知られている。例えば下記の特許文献1には、EVAの成膜直後で軟化点以下となる前に、軟化点より20℃から25℃程度高い温度でアニール処理を行なうことで熱収縮率を低下できることが開示されている。
【0006】
また、下記の特許文献2では、モジュール化工程における熱収縮を防止するために、バックシート基材上に封止材を溶融押出し形成して、直ちに加圧後冷却して巻き取ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−84996号公報
【特許文献2】特開2011−20375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のアニール処理は、溶融直後にインラインで連続的にアニール処理を行なうものである。この場合、ダイ押出し時の樹脂流動の偏りから、幅方向の厚みに不均一や波打ちが生じてしまう。また、インラインではアニール処理工程が律速段階となってしまい、生産性が低下する。このため、品質の面からも、生産性の面からも更なる改善が要求されていた。
【0009】
特許文献2の低収縮性樹脂フィルムは、そもそもアニール処理を不要とするものであるため、アニール処理を行なっていない。この場合、封止材を溶融押出して基材上へ展張するのみでは応力緩和が不充分であり、熱収縮率の高い封止材では十分に収縮率を低下できない。具体的には、封止材樹脂としてEVA以外に近年ポリエチレン系樹脂などを用いる場合もある。この場合、押出し温度におけるMFRが低い場合があり、この場合には内部応力の残留が非常に高く、熱収縮率も高くなるため、特許文献2のようなアニール処理無しでは残留歪みを充分に除去できない。
【0010】
なお、封止材をバックシートと一体化した後に再度アニール処理を行なうことも考えられるが、アニール処理工程の高温が、バックシートを構成する低融点の素材等などにダメージを与える場合がある。また、熱伝導性の悪いバックシートを一体化した後の巻取りを、再度巻き返してアニール処理すると、接合界面付近の封止材がアニール不足となって物性が低下したり、これを回避するためにアニール処理に余分の時間を要したりするという問題がある。
【0011】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱収縮を十分に抑制できるとともに、膜厚が均一で、生産性にも優れる太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、封止材シートのアニール処理の方法について検討した結果、封止材シートと、封止材シートとの間で所定の剥離力以下の剥離性を有する剥離性支持基材上に貼り合せた後にアニール処理し、その後に、剥離性支持基材を剥離することで、上記の課題解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 封止材組成物を溶融成形してアニール処理されていない未処理封止材シートを得るシート化工程と、
前記未処理封止材シートと、剥離性支持基材と、を圧着して貼り合せてラミネート体を得るラミネート工程と、
前記ラミネート工程後のアニール処理工程と、
前記アニール処理工程後に前記ラミネート体から前記剥離性支持基材を剥離する剥離工程と、を備えることを特徴とする太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法。
【0014】
(2) 前記剥離性支持基材は、ポリエステル基材のアクリル系粘着テープとの間の剥離力が、180℃剥離、剥離速度50mm/分の測定条件で、1.5N/25mm以下である(1)記載の封止材シートの製造方法。
【0015】
(3) 前記剥離性支持基材は、少なくとも前記圧着する側の表面にシリコーン樹脂層又はフッ素樹脂層を備える(1)又は(2)記載の封止材シートの製造方法。
【0016】
(4) 前記封止材組成物が架橋剤を含有するエチレン−極性モノマー共重合体樹脂であり、前記封止材組成物の190℃におけるMFRが10g/10分以上40g/10分以下である(1)から(3)いずれか記載の封止材シートの製造方法。
【0017】
(5) 前記封止材組成物が架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂であり、前記封止材組成物の190℃におけるMFRが0.1g/10分以上1.0g/10分以下である(1)から(3)いずれか記載の封止材シートの製造方法。
【0018】
(6) 前記アニール処理工程における温度が、
前記ポリエチレン系樹脂の融点+90℃から融点+150℃の範囲である(5)記載の封止材シートの製造方法。
【0019】
(7) 封止材組成物を溶融成形した後にアニール処理した太陽電池モジュール用の封止材シートであって、
前記封止材組成物が架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂であり、
前記封止材組成物の190℃におけるMFRが0.1g/10分以上1.0g/10分以下であり、
前記封止材シートのTD方向の膜厚変化が平均厚さに対して5%以内であり、
150℃に加熱したタルクプレート上に、前記封止材シートにおける100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後のMD方向の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が30%以下であることを特徴とする封止材シート。
【発明の効果】
【0020】
本発明の太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法によれば、熱収縮を十分に抑制できるとともに、膜厚が均一で、生産性にも優れる太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例における剥離性支持基材有りの場合の膜厚変化の測定結果を示す図表である。
【図2】実施例における剥離性支持基材無しの場合の膜厚変化の測定結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[封止材組成物]
封止材組成物は、ベース樹脂に架橋剤を含有するものである。この系では、架橋剤の熱分解温度以下で押し出す必要性から、溶融押出時のMFRが低下するために樹脂が硬くなり、内部歪みが蓄積して熱収縮率が高くなる。アニール処理前の未処理封止材シートの熱収縮率としては40%以上70%以下が例示でき、この熱収縮率を後述するアニール処理によって30%以下とする。
【0023】
[ベース樹脂]
ベース樹脂は、例えばポリオレフィン系樹脂であり、オレフィンモノマーから構成されるものであれば特に制限されるものではない。したがって、ポリオレフィン系樹脂には、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレンとα−オレフィンとの共重合体である直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)の他、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等も含まれる。以下、好ましいベース樹脂としてポリエチレン系樹脂とエチレン−極性モノマー共重合体、さらに詳しくはEVA樹脂について説明する。
【0024】
[ポリエチレン系樹脂]
本発明においては密度が0.940以下の低密度ポリエチレン(LDPE)、好ましくは直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いる。直鎖低密度ポリエチレンはエチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、本発明においては、その密度が0.940g/cm以下の範囲内、好ましくは0.900g/cm以下の範囲内、より好ましくは0.870〜0.890g/cmの範囲である。
【0025】
本発明においてはメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり太陽電池モジュール用封止材に対して柔軟性を付与できる。また、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、シート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物からなる封止材が、透明前面基板と太陽電池素子との間に配置されても発電効率はほとんど低下しない。
【0026】
直鎖低密度ポリエチレンのα−オレフィンとしては、好ましくは分枝を有しないα−オレフィンが好ましく使用され、これらの中でも、炭素数が6〜8のα−オレフィンである1−ヘキセン、1−ヘプテン又は1−オクテンが特に好ましく使用される。α−オレフィンの炭素数が6以上8以下であることにより、太陽電池モジュール用封止材に良好な柔軟性を付与することができるとともに良好な強度を付与することができる。
【0027】
また、直鎖低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、JISK7210法190℃において0.5g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。MFRが上記の範囲であることにより、ガラス等から構成される透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性に優れる。
【0028】
本発明における「ポリエチレン系樹脂」には、エチレンを重合して得られる通常のポリエチレンのみならず、α−オレフィン等のようなエチレン性の不飽和結合を有する化合物を重合して得られた樹脂、エチレン性不飽和結合を有する複数の異なる化合物を共重合させた樹脂、及びこれらの樹脂に別の化学種をグラフトして得られる変性樹脂等が含まれる。
【0029】
なかでも、少なくともα−オレフィンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフトしてなるシラン変性樹脂を好ましく使用することができる。このような樹脂を使用することにより、透明前面基板や太陽電池素子等といった部材と封止材との接着性が得られる。
【0030】
シラン変性樹脂は、例えば、特開2003−46105号公報に記載されているものである。当該共重合体を太陽電池モジュールの充填材組成物の成分として使用することにより、強度、耐久性等に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性に優れ、更に、太陽電池モジュールを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造し得る。
【0031】
シラン変性樹脂は、少なくともα−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物をコモノマーとし、必要に応じて更にその他の不飽和モノマーをコモノマーとして共重合して得られる共重合体であり、該共重合体の変性体ないし縮合体も含むものである。
【0032】
具体的には、例えば、α−オレフィンの1種ないし2種以上と、エチレン性不飽和シラン化合物の1種ないし2種以上と、必要ならば、その他の不飽和モノマーの1種ないし2種以上とを、所望の反応容器を使用し、例えば、圧力500〜4000Kg/cm位、好ましくは、1000〜4000Kg/cm位、温度100〜400℃位、好ましくは、150〜350℃位の条件下で、ラジカル重合開始剤及び必要ならば連鎖移動剤の存在下で、同時にあるいは段階的にランダム共重合させ、更には、必要に応じて、その共重合によって生成するランダム共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させて、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体を製造することができる。
【0033】
α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含量としては、全共重合体質量に対して、例えば、0.001〜15質量%位、好ましくは、0.01〜5質量%位、特に好ましくは、0.05〜2質量%位が望ましいものである。本発明において、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成するエチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、機械的強度及び耐熱性等に優れるが、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0034】
[EVA樹脂]
EVA樹脂も本発明におけるベース樹脂として使用可能である。従来公知のものを使用でき特に限定されないが、酢酸ビニル含有量(VA含量)が20質量%以上40%質量以下、好ましくは25質量%以上35%質量以下、さらに好ましくは28質量%以上33%質量以下であることが、太陽電池作製工程の真空加熱ラミネーション工程後、高いゲル分率による高架橋度によって100℃以上150℃以下の耐熱性を得る点から好ましい。
【0035】
EVA樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JISK7210法190℃において1g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、15g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。JISK7206法のビカット軟化点では30℃から40℃の範囲が好ましい。MFRや軟化点が上記の範囲であることにより、樹脂を加熱溶融、添加剤と均一流動化させ一定形状に冷却まで変形する特性に優れる。
【0036】
[架橋剤]
架橋剤は公知のものが使用でき、特に限定されるものではなく、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、または、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジクミルパーオキサイド、といったシラノール縮合触媒等を挙げることができる。架橋剤の含有量としては、組成物中に0.01質量%〜2質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量%〜1.5質量%の範囲である。
【0037】
[架橋助剤]
上記の架橋剤に加えて、必要に応じて架橋助剤を用いてもよい。架橋助剤は、好ましくは炭素−炭素二重結合及び/またはエポキシ基を有する多官能モノマー、より好ましくは多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基である。これによって適度な架橋反応を促進させて太陽電池モジュール用封止材とガラス等の透明前面基板との密着性を向上させているとともに、本発明においては、この架橋助剤が直鎖低密度ポリエチレンの結晶性を低下させ透明性を維持する。
【0038】
具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0039】
上記架橋助剤の中でも、上記密着性を有し、低密度ポリエチレンに対する相溶性が良好で、架橋によって結晶性を低下させ透明性を維持し、低温での柔軟性を付与する観点からTAICが好ましく使用できる。
【0040】
架橋助剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度な架橋反応を促進させてガラス等から構成されるガラス等の透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性向上させることができる。
【0041】
[ラジカル吸収剤]
本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物においては、ラジカル重合開始剤となる上記の架橋助剤と、それをクエンチするラジカル吸収剤とを併用することにより、架橋の程度を調整することができる。このようなラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系などの酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化などが例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度に架橋反応を抑制し、透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性を向上させることができる。
【0042】
[その他の成分]
太陽電池モジュール用封止材組成物には、さらにその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物から作製された封止材に耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ太陽電池モジュール用封止材組成物中に0.001〜5質量%の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、太陽電池モジュール用封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0043】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等をポリエチレン等の樹脂に分散させたものであり、これを太陽電池モジュール用封止材組成物に添加することにより、太陽電池モジュール用封止材に良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いる直鎖低密度ポリエチレンでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。
【0044】
なお、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
更に、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に接着性向上剤、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0046】
<封止材シート>
[シート化工程]
本発明における未処理封止材シートは、例えば、上記の封止材組成物を、従来公知の方法で成型加工して得られるものであり、シート状又はフィルム状としたものであり、アニール処理していないシートを意味する。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0047】
封止材組成物のシート化工程は、通常の熱可塑性樹脂において用いられる成形法、すなわち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。
【0048】
本発明に用いられる封止材組成物は架橋剤が含有されており、架橋剤の分解温度以上での押出しが困難である。このため、押出し温度におけるMFRが低下して内部歪みが残留し、これが大きな熱収縮の原因となる。一例を挙げると、上記の架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂の場合、封止材組成物の190℃におけるMFRが0.1g/10分以上1.0g/10分以下である。また、封止材組成物が架橋剤を含有するエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の場合、前記封止材組成物の190℃におけるMFRが10g/10分以上40g/10分以下である。この場合、成形後の封止材シートでは40%から70%の熱収縮率となっている。
【0049】
[アニ−ル処理工程]
上記のような高い熱収縮率では、モジュール化工程における熱収縮による封止材のデラミネーションやセル間を接続する導線であるタブ線の切断などの不良が発生する。このため、アニール処理を行なう。
【0050】
ここで、本発明においては、上記の未処理封止材シートと、剥離性支持基材と、を圧着して貼り合せてラミネート体を得るラミネート工程と、ラミネート工程後のアニール処理工程と、アニール処理工程後にラミネート体から剥離性支持基材を剥離する剥離工程と、を備えることを特徴としている。
【0051】
剥離性支持基材としては、テープ剥離強度試験における180℃剥離、剥離速度50mm/分の測定条件で、1.5N/25mm以下の剥離力であることが好ましい。ここで、温度は23℃が好ましい。ここで用いるテープは、日東電工株式会社製の商品名31Bテープを用い、荷重2kgのロールを1往復して貼り合せて2時間放置後の測定値である。
【0052】
具体的な剥離性支持基材は未処理封止材シートの種類によって適宜選択されるが、アニール処理温度における耐熱性を有している必要がある。好ましくは少なくとも圧着する側の表面にシリコーン樹脂層又はフッ素樹脂層を備える剥離フィルムであり、より具体的には、表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂などで剥離処理された剥離PETフィルムや、ETFEフィルム(エチレンーテトラフルオロエチレンの共重合体フィルム)などが例示できる。なお、これに限らず、例えば、封止材組成物が架橋剤を含有するEVAの場合には通常のPETフィルムも使用することが可能である。
【0053】
上記の剥離性支持基材と未処理封止材シートを、例えばニップロールなどを通過させることで圧着して一体化させラミネート体を形成する。この段階では仮着状態になっており、その強度は充分に小さい。なお、本発明におけるラミネート工程は、シート化工程と分けてオフラインで行なってもよく、シート化工程に続いてインラインで連続的に行なってもよい。
【0054】
次に、この状態でアニール処理工程を行なう。アニール処理手段としては従来公知の熱処理手段をいずれも用いることができ特に限定されない。アニール処理温度の一例としては、封止材組成物が架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂の場合、融点+90℃から融点+150℃の範囲、更に具体的には150℃から200℃の範囲である。アニール処理時間としては、1分から5分が例示できる。封止材組成物が架橋剤を含有するEVA樹脂の場合、融点+10℃から融点+60℃の範囲、更に具体的には70℃から120℃の範囲であり、アニール処理時間としては、1分から5分が例示できる。
【0055】
本発明においては、剥離性支持基材上に未処理封止材シートが一体化されている。このため、応力緩和が剥離性支持基材上で均一に起こり膜厚の均一性を維持したままアニール処理することができる。また、このアニール工程をシート化工程とは別にオフラインで行うことにより、生産性を向上できる。
【0056】
アニール処理工程後、ラミネート体から剥離性支持基材を剥離し、封止材シートと剥離性支持基材を別々に巻き上げることで、アニール処理後の封止材シートを得ることができる。剥離性支持基材は再度使用することができる。この剥離性支持基材の剥離力は、上記の測定方法で1.5N/25mm以下であるため、アニール処理後の封止材シートの厚さや表面状態に影響を与えずに封止材シートを得ることができる。
【0057】
このようにして本発明の製造方法により得られる封止材シートは、封止材組成物が架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂の場合、150℃に加熱したタルクプレート上に、前記封止材シートにおける100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後のMD方向の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が30%以下である。なお、MD方向とはシート化工程における吐出方向となる長手方向である。一方、封止材組成物が架橋剤を含有するEVA樹脂の場合、100℃に加熱したタルクプレート上に、前記封止材シートにおける100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後のMD方向の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が30%以下である。
【0058】
また、封止材シートのTD方向の膜厚変化が平均厚さに対して5%以内である。ここで、膜厚変化とは最大厚さと最低厚さとの差である。また、TD方向とは、MD方向に直交するダイ幅方向である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<未処理封止材シートの製造例>
[製造例1:架橋剤含有ポリエチレン系樹脂]
下記のシラン変性透明樹脂20質量部、耐候性マスターバッチ5質量部、重合開始剤コンパウンド樹脂80質量部を混合し単層用のブレンドとした。上記ブレンドをφ30mm押出し機、200mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度210℃、引き取り速度1.1m/minで平均膜厚450μmの未処理封止材シートを作製した。
シラン変性透明樹脂:密度0.881g/cmであり、190℃でのMFRが2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(M−LLDPE)98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、密度0.884g/cm、190℃でのMFRが1.8g/10分であるシラン変性透明樹脂を得た。
耐候性マスターバッチ:密度0.880g/cmのチーグラー直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100質量部に対して、ベンゾフェノール系紫外線吸収剤3.8質量部とヒンダードアミン系光安定化剤5質量部と、リン系熱安定化剤0.5質量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化したマスターバッチを得た。
重合開始剤コンパウンド樹脂:密度0.880g/cm、190℃でのMFRが3.1g/10分のM−LLDPEペレット100質量部に対して、t−アミル−パーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート0.1質量部を含浸させコンパウンドペレットを得た。
【0060】
[製造例2:架橋剤含有EVA樹脂]
下記の組成の架橋剤含有EVA樹脂(VA33、MFR30)を常法Tダイ法により厚さ400μmとなるように成膜して未処理封止材シートを得た。成膜温度は95から100℃とした。
EVA樹脂:三井デュポンポリケミカル製 商品名EV150R 100重量部
架橋剤(TBEC):t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックスTBEC) 0.5重量部
架橋剤(101):2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックス101) 0.5重量部
架橋助剤A(TMPT):トリメチロールプロパントリメタクリレート(Sartomer社製、商品名SR350) 1.0重量部
架橋助剤B(TAIC):トリアリルイソシアヌレート(Sartomer社製、商品名SR533) 1.0重量部
シランカップリング剤(SC剤):信越化学工業株式会社製、商品名KBM503)0.5重量部
UV吸収剤(UV剤):ケミプロ化成社製、商品名KEMISORB12)0.3重量部
酸化防止剤A:BASF社製、商品名Irganox1076 0.01重量部
酸化防止剤B:BASF社製、商品名Irganox1330 0.01重量部
酸化防止剤C:BASF社製、商品名Irganox1010 0.01重量部
酸化防止剤D:BASF社製、商品名Irgafos168 0.03重量部
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS):BASF社製、Tinuvin770 0.1重量部
【0061】
<試験例1>
上記製造例1、2の未処理封止材シートについて、表1に示す条件で、ラミネート工程とアニール処理工程と剥離工程とを行ない封止材シートを得た。条件1から17は製造例1の架橋剤含有ポリエチレン系樹脂であり、条件18から21は製造例2の架橋剤含有EVA樹脂である。また、アニール工程前後の熱収縮率(%)と、剥離工程における剥離力を評価した。その結果を表1に示す。表中の剥離性支持基材としては下記の4種類を用いた。
PET: 東洋紡績株式会社 製、商品名 E−5001 の厚さ50μm
剥離PET(1):シリコーン塗布タイプ、株式会社パナック製、商品名SP−PET−03−75BU の厚さ75μm
剥離PET(2):ノンシリコンタイプ、株式会社パナック製、商品名PET75TP01 の厚さ75μm
剥離PET(3):ノンシリコンタイプ、株式会社パナック製、商品名PET75TP03 の厚さ75μm
【0062】
この5種類のテープ剥離力を、上記のように日東電工株式会社製の商品名31Bテープ(ポリエステル基材上にアクリル系粘着剤層が形成されている日東電工株式会社製のポリエステル粘着テープNo.31B)を用い、23℃で剥離性支持基材と貼り合せて荷重2kgのロールを1往復して2時間放置後に、180℃剥離、剥離速度50mm/分の測定条件で測定した結果(N/25mm)は以下の値であった。なお、カッコ内は150℃×3分加熱後の剥離力である。
PET:2.8(10.0)
剥離PET(1):0.21(0.29)
剥離PET(2):0.69(3.69)
剥離PET(3):0.27(1.06)
シリコンコートガラス(参考):0,40(0.82)
【0063】
なお、表1中の熱収縮率(%)とは、製造例1は150℃で10分間、製造例2は100℃で10分間、それぞれタルクバス上で加熱し、加熱前後のMD方向の寸法を測定し変化率を計算した。
【0064】
また、表1のテープ剥離力における「アニール後」とは各条件でのアニール処理後の剥離力である。表1の剥離評価の欄も同じく各条件でのアニール処理後の剥離性を評価したものであって、○:密着によるひっかかりなく連続的に剥離できる。剥離跡は確認できない、△(半密着):密着により断続的に剥離できる。断続的剥離の影響で剥離跡が確認される、×密着:封止材が変形(伸びる)、又は支持基材が切断され剥離できない、として評価した。
【0065】
【表1】

【0066】
<試験例2>
上記製造例1の未処理封止材シートをアニール条件3(150℃、3分)で処理した封止材シートについて、アニール処理前後の膜厚変化を測定した。その結果を図1に示す。図1から明らかなように平均膜厚約450mに対して膜厚変化は最大15μm以内であり、その割合が5%以下で安定した膜厚が得られることが解かる。
【0067】
<試験例3>
上記製造例1の封止材シート(膜厚600μm)について、剥離支持基材無しでアニール条件3(150℃、3分)を行った場合の、アニール処理前後の膜厚変化を測定した。その結果を図2に示す。図2から明らかなように、特許文献1のように剥離性支持基材がない場合、図2左縦軸スケールのアニール前では平均600μmで安定していたが、図2右縦軸スケールのアニール後では大幅に収縮して膜厚が増加するとともに、膜厚のバラツキも非常に大きくなっていることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止材組成物を溶融成形してアニール処理されていない未処理封止材シートを得るシート化工程と、
前記未処理封止材シートと、剥離性支持基材と、を圧着して貼り合せてラミネート体を得るラミネート工程と、
前記ラミネート工程後のアニール処理工程と、
前記アニール処理工程後に前記ラミネート体から前記剥離性支持基材を剥離する剥離工程と、を備えることを特徴とする太陽電池モジュール用の封止材シートの製造方法。
【請求項2】
前記剥離性支持基材は、ポリエステル基材のアクリル系粘着テープとの間の剥離力が、180℃剥離、剥離速度50mm/分の測定条件で、1.5N/25mm以下である請求項1記載の封止材シートの製造方法。
【請求項3】
前記剥離性支持基材は、少なくとも前記圧着する側の表面にシリコーン樹脂層又はフッ素樹脂層を備える請求項1又は2記載の封止材シートの製造方法。
【請求項4】
前記封止材組成物が架橋剤を含有するエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であり、前記封止材組成物の190℃におけるMFRが10g/10分以上40g/10分以下である請求項1から3いずれか記載の封止材シートの製造方法。
【請求項5】
前記封止材組成物が架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂であり、前記封止材組成物の190℃におけるMFRが0.1g/10分以上1.0g/10分以下である請求項1から3いずれか記載の封止材シートの製造方法。
【請求項6】
前記アニール処理工程における温度が、
前記ポリエチレン系樹脂の融点+90℃から融点+150℃の範囲である請求項5記載の封止材シートの製造方法。
【請求項7】
封止材組成物を溶融成形した後にアニール処理した太陽電池モジュール用の封止材シートであって、
前記封止材組成物が架橋剤を含有するポリエチレン系樹脂であり、
前記封止材組成物の190℃におけるMFRが0.1g/10分以上1.0g/10分以下であり、
前記封止材シートのTD方向の膜厚変化が平均厚さに対して5%以内であり、
150℃に加熱したタルクプレート上に、前記封止材シートにおける100mm×100mmの封止材フィルムの試験片を置き10分間静置した後の、加熱前後のMD方向の試験片側辺長さの収縮割合である熱収縮率が30%以下であることを特徴とする封止材シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−216688(P2012−216688A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81044(P2011−81044)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】